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千葉地方裁判所 昭和60年(ワ)1382号 判決 1987年1月22日

原告

日本火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役

品川正治

右訴訟代理人弁護士

飯沼春樹

被告

右代表者法務大臣

遠藤要

右指定代理人

川野辺充子

外七名

主文

一  千葉地方裁判所が同庁昭和五九年(ケ)第五六一号不動産競売事件につき作成した昭和六〇年一〇月四日付別紙配当表のうち、被告に関する記載を削除し、原告の昭和五八年六月七日付保険代位による求償債権に係る配当の順位を二とし、原告に対する右債権に係る配当額を金一一二二万八九九一円と変更する。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

主文同旨。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  千葉地方裁判所は、原告の申立てにより、当時訴外慶相哲の所有であつた別紙物件目録一ないし五記載の各不動産につき、同庁昭和五九年(ケ)第五六一号不動産競売事件(以下、本件競売事件という。)として不動産競売手続を開始し、昭和六〇年一〇月四日の配当期日において、別紙配当表を作成した。同配当表によれば、原告の別紙担保権・被担保債権・請求債権目録記載の債権に対する配当額が0とされ、被告の国税徴収法(以下徴収法という。)二二条に基づく昭和六〇年五月一三日付交付要求(以下、本件交付要求という。)に対する配当額が金一一二二万八九九一円とされている。

2  本件交付要求は、本件競売事件の配当要求の終期である昭和六〇年四月二一日より後にされたものである。

3  徴収法二二条の交付要求には民事執行法八七条一項二号が準用されるから、右配当要求の終期に遅れる本件交付要求によつては被告は配当を受けることができない。

4  そこで、原告は、前記配当期日において、被告の本件交付要求に対する配当額全額につき、異議を申し立てたが、被告はこれを承認しなかつた。

5  よつて、原告は、請求の趣旨記載のとおり前記配当表の記載の変更を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2及び4の各事実は認める。

2  請求原因3は争う。

三  被告の主張

民事執行法上の配当要求に準ずる国税の交付要求とは、徴収法八二条の交付要求であつて、徴収法二二条五項の交付要求は含まれない。すなわち、国税債権の徴収権者が、滞納者の財産につき開始されている強制換価手続において執行機関に対し、その換価代金のうちから滞納税額に相当する金銭の配当を求めるために行う交付要求については民事執行法の規定が準用されるのであるが、徴収法二二条五項に基づく交付要求は、次に述べるとおり、同法八二条に基づく交付要求とはその趣旨等を異にし、民事執行法に定められる配当要求に関する手続は準用されない。

1  徴収法二二条は、国税の法定納期限後に質権又は抵当権の設定の登記(又は登録)がある財産が譲渡された場合には、それらの担保権が譲受人の国税に優先する結果(徴収法一七条)、財産の譲渡がなければ譲渡人の国税に劣後して被担保債権の全額の弁済を受けられなかつたはずの担保権者が、この財産の譲渡によつて全額の弁済を受けられる、というような事例が生じ、この結果は公平ではないので、このような場合に担保権者が受けた利益を、譲渡人の国税に充てようとする趣旨のもとに設けられた規定である。

徴収法二二条五項の交付要求は、滞納者の担保権付財産から同人の国税を徴収するためのものではなく、同条一項が、「……その質権又は抵当権によつて担保される債権につき配当を受けるべき金額のうちから……」と規定しているところから明らかなように、担保権者が民事執行法八七条一項四号により配当を受けるべき金額のなかから徴収するために行うものであり、その配当に際しては、その担保権者を除く配当権者に対する配当には何らの影響を及ぼすものではないのである。

本来交付要求は、滞納者の財産につき強制換価手続が行われた場合に限り認められるものである(徴収法八二条一項)が、徴収法二二条は、担保権付財産が譲渡され滞納者の財産でなくなつた場合でも、一定の要件の下に担保権者が配当を受けるべき金額のうちから国税を徴収することができるとし、同条三項は、税務署長は質権又は抵当権を代位実行できる地位にあるとし、同条五項はこの地位に基づいて、交付要求ができる旨を規定しているのである。

以上のとおり、本件交付要求は抵当権者である原告が民事執行法八七条一項四号により配当を受ける金額から徴収する(いわば配当表上は、原告の配当額に内書されるべき配当額)ための特別の手続であり、徴収法二二条五項の交付要求権者は、民事執行法八七条一項二号ではなく同条一項四号により配当を受ける者に該当する(徴収法二二条の交付要求権者は、例えば抵当権者の配当金支払請求権について、差押え、転付命令を得た者と同様の地位にある。)のであるから、配当要求の終期に拘束されず、現実の配当が終了するときまで(執行機関が配当すべき金銭を担保権者に交付するときまで)交付要求をすることができるものである。

2  不動産競売事件において、配当要求ができる終期は、旧法では競落期日の終りまで、すなわち、債務者の財産が競落人に移転する競落期日の終りまで配当要求が許されるとされていた(旧民事訴訟法六四六条)。

ところが、そうすると、競売期日において最高価競買申出人が出た後、競落期日前に、一般先取特権者の配当要求又は国税の交付要求があると、その要求額によつては無剰余となつて競売手続が取り消されてしまうことになり(旧民事訴訟法六五六条)、買受申出人の地位は不安定となり、差押債権者に不利益であるばかりでなく、裁判所としてもそれまでの手続が全く無駄になつてしまうので、民事執行法はこのような不合理な事態を避けるために、執行裁判所があらかじめ配当要求の終期を定めてこれを公告し(民事執行法四九条一項、二項)その配当要求の終期までに配当要求をしなかつた債権者は配当等にあずかれないこと(民事執行法八七条一項二号)にしたのである。

右のような不合理な事態を惹起する原因は、国税についていえば国税優先の原則(徴収法八条)が働くからにほかならない。したがつて、右にいう交付要求とは、国税、地方税等の租税債権の徴収権者が「滞納者の財産」につき開始されている強制換価手続において、執行機関に対し、換価代金のうちから滞納租税額に相当する金銭の配当を求めるために行うもの、つまり、一般の私債権に対し優先権を有する(徴収法八条、九条、地方税法一四条)租税を徴収するための、徴収法八二条の交付要求をいうものと解せられるのである。

ところで、徴収法二二条五項は、一般の私債権に対し租税が優先権を有する場合ではなく、その交付要求は、①同条一項が、「……質権又は抵当権によつて担保される債権につき配当を受けるべき金額から……」と規定しているように、その配当に際しては、その担保権者を除く他の配当権者に対する配当には何らの影響を及ぼすものではないし、②本件のように、たまたまその担保権者が競売の申立権者で、配当要求の終期後の同条の交付要求を許すと配当を受けられない場合が生じるとしても、それは申立権者と交付要求権者の分捕り合いの結果ではなく、本条に基づき担保権者に代位する地位を得たことによつて強制換価手続における担保権者の配当額から徴収することとなつた結果である。かりに、担保権者がその執行手続から配当を受けない場合には、本条による徴収はできず、また、被担保債権額が、同条による交付要求金額以上であれば、担保権者はその超過分については配当を受けることができ、さらに、本件のような場合に担保権者が競売の取下げをしたとしても、国は同条三項の規定により、その担保権者に代位して同一の担保権に基づいて競売を申し立て、配当を受けることができるのである。

以上に述べたとおり、徴収法二二条五項の交付要求が配当要求の終期の制限に服さなければならないとする民事執行手続上の合理的な理由はない。

3  民事執行法四九条二項は、配当要求終期までの届出を実効あらしめる方法として、裁判所書記官は配当要求終期を公告し、かつ、租税その他の公課を所管する官庁又は公署に対し、債権の存否並びにその原因及び額を配当要求の終期までに執行裁判所に届け出るべき旨を催告しなければならないと規定している。

ところで、右にいう催告しなければならない「官庁又は公署」に税務署が含まれていることは勿論であるが、その税務署はどこを管轄する税務署なのかが問題である。

裁判所の実務では、債務者(担保権の実行としての競売では所有者)に対して、一般的に租税債権を有している蓋然性が相当に大きいという観点から、債務者の住所地あるいは物件所在地を管轄する税務署に対し催告する取扱いが多いようであり、このことは、裁判所書記官が催告する場合に、別紙書式の債権届出の催告書を用いていることからもうかがえる。右催告書には、「……所有の別紙物件目録記載の不動産について競売の開始決定がされ、配当要求の終期が昭和 年 月 日と定められたので、同人に対する債権の存否並びにその原因及び額を上記配当要求の終期までに届け出るように催告します。」との記載がなされ、要は、物件の現在の所有者に対して債権を有する「官庁又は公署」だけを対象にしていることは明らかである。右のような実務の取扱いは、配当要求終期に拘束される交付要求は徴収法八二条に基づく交付要求だけであるとの被告の主張を裏付けるものである。

すなわち、徴収法二二条を用いて滞納国税を徴収する税務署、言いかえれば、前所有者の納税地を管轄する税務署は、右の催告しなければならない「官庁又は公署」に含まれておらず、債権届出の催告書の送達がされないため、配当要求終期も知り得ないのである。

民事執行法四九条二項の「官庁又は公署」に対する催告には、すでに述べた剰余の有無の判定という目的のほかに、租税債権等の確保という国家的ないしは地方財政上の公益的見地から、交付要求の機会を与えるという趣旨も含まれている。被告の徴収実務においても、滞納者の財産が他署管内、他局管内に散逸している場合等には、この催告によつて滞納者の財産の存在を知り、徴収法八二条の交付要求をし、国税債権を確保できることも多々あり、その機能は十分に果たされている。しかし、徴収法二二条により滞納国税を徴収しようとする税務署には、右催告がされないため、右のような観点からの機能は期待できない。

以上述べたとおり、民事執行法四九条二項の催告は、徴収法二二条によつて滞納国税を徴収しようとする税務署にはなされず、その税務署長は、そのような財産を滞納者が以前に有していたこと、その財産について競売手続が開始されていること、そしてその配当要求の終期がいつであるかを知り得る機会は極めて少ないのである。

かりに、税務署長が、滞納者が過去に不動産を有していたこと、その不動産につき競売手続が開始されていること、そして配当要求の終期がいつかを知り得たとしても、その知り得る時期自体がすでに相当の時日を経過した後である上に、徴収法二二条による徴収をするためには、滞納者が無資力であること、担保権者の債権及び配当見込みについての調査を要することから、結果的に配当要求の終期までに交付要求をすることができない場合もあり得るのである。

以上述べたことから明らかなように、徴収法二二条の交付要求の追求が可能であることが判明する時期は配当要求の終期後である場合もままあり、民事執行法の配当要求の終期に限定されるとすれば、同条の規定は空文化してしまい、国は担保権者が受くべき配当の中からの滞納国税の徴収を期待できなくなるという不利益を受けることとなる。

4  被告は、昭和三四年四月二〇日法律第一四七号として新国税徴収法が公布されたことに伴う昭和三五年一月二七日付け国税庁長官通達の発遣以来現在に至るまで、徴収法二二条五項の交付要求は、執行機関が配当すべき金銭を同条一項の質権者又は抵当権者に交付する時までできると解しており、また、徴収実務上においてもこのように取扱つてきたものである。

四  原告の反論

徴収法八二条の交付要求も同法二二条五項の交付要求もいずれも左の理由により配当要求の終期に拘束される。

1  徴収法二二条の立法趣旨は、公平の見地から、担保付き財産が譲渡人の名義のままで競売がされても譲受人に名義が変更になつた後競売がされても、担保権者がこの名義変更という偶然の事実により予定外の利益を得ることがないようにすることにある。

しかし、本条は公平の見地から立法されたものであり、当然のことながら、担保権者が、譲渡前の競売と比して、譲渡後の競売において不利益を受けることがないようにも手当されている。すなわち、徴収法二二条二項がその一例で、国税が徴収できる限度は、譲渡後の競売において配当を受ける金額から譲渡前の競売において交付要求があつたものとみなして配当を受けたであろう金額を控除した額を超えることはできないのである。

これは、つまり、徴収法二二条の立法趣旨は、公平の見地から、譲渡前の競売に比して、譲渡後の競売において、担保権者が予定外の利益を得たり予定外の不利益を受けたりすることがないようにする点にあるとも言えるものである。逆に言うと、国税の徴収においても、国が予定外の利益を得ることも否定する趣旨である。

そして、この利益、不利益の中には金額的なことだけではなく手続的なことも含まれるべきである。つまり、国は譲渡前の競売の場合は交付要求をするのに配当要求の終期に拘束されていながら、譲渡後の競売においてなら交付要求をするのにこれに拘束されないと解することは、公平をその根拠とする徴収法二二条の立法趣旨に合致しないものである。なぜなら、譲渡後の競売において交付要求は配当要求の終期に拘束されないと解することは、財産の譲渡という偶然の事実により、交付要求という手続面において、担保権者に予定外の不利益を与え、国に予定外の利益を与える結果を招来するからである。

2  徴収法二二条一項が、「……その質権又は抵当権によつて担保される債権につき配当を受けるべき金額のうちから……。」と規定しているのは、滞納者の財産でなくなつた後も、公平の見地から、国に交付要求を認めるためにやむを得ずこういう形で規定されたものである。つまり、もはや滞納者の財産ではなくなつている以上、この財産から徴収することは不可能であるので、「その質権又は抵当権によつて担保される債権につき配当を受けるべき金額のうちから」という形で規定されたものである。

よつて、右文言は、徴収法第二二条の公平という立法趣旨を貫徹するための法技術的手段として存在するものである。そうであるならば、この解釈においても、徴収法二二条の本来の立法趣旨を損なうようになされては本末転倒というべきである。右文言は、確かに被告主張のごとく、徴収法二二条五項の交付要求を、同法八二条の交付要求と区別し、配当要求の終期に拘束されないという誤つた解釈を招いてしまいやすいが、徴収法二二条の公平という立法趣旨と合せ考えるならば、こう規定した趣旨は、①交付要求に対して配当される金額の限度は担保権者に配当されるべき金額を限度とする(他の配当権者に何らの影響も与えてはいけないため)。②交付要求に対して配当された金額だけ担保権者に配当される金額が減じられる。の二点にのみあると解釈すべきである。

つまり右文言は、金額的なことのみを定めたもので、ここから配当要求の終期に拘束されないという手続的な解釈を導き出してはいけないのである。

また、徴収法二二条三項で国の代位権が認められているが、このような場合は、当初から国が自己の名で競売申立てを行うものであり、申立の段階で交付要求を行つたと同視できるから、配当要求の終期までに交付要求があつた場合以上のものであり、競売を申し立てない担保権者が配当を受けられなくとも民事執行法上何らの不利益もなく、また執行裁判所はこの場合は代位権者のために競売手続を行つたものであり、手続も無駄にはならない。よつて、この場合は国が配当を受けられるのは当然である。しかし、逆に代位権が認められているからと言つて、徴収法二二条五項の交付要求が配当要求の終期に拘束されないという根拠にはならない。

3  民事執行法で配当要求の終期を定めた理由は、a買受申出人の地位の安定、b差押債権者の保護、c競売手続の無駄を省く、にある。このことは、競売手続において、配当要求の終期を定めて、最低売却価格との関係で申立債権者に配当が出来るか否かを確認するということである。そして、申立債権者に無益なことが明確になれば、民事執行法六三条の手続となつていくものである。つまり、民事執行法の手続は、申立債権者の利益のために進められるもので、他の債権者が配当を受けることがあるのはその付随的効果に過ぎず、結果的に申立人が配当を受けられなくなる手続は進めるべきではない。

ところで、徴収法二二条五項の交付要求の場合でも、担保権者でかつ申立権者である者が配当を受けられなくなることがあることは、同法八二条の交付要求の場合と異ならない。徴収法二二条五項の交付要求が配当要求の終期に拘束されないとすると、買受申出人の地位の安定は害さないが、差押債権者たる担保権者の保護ということについては配当を受けられない競売手続を最後まで続行してしまうという大きな難点が生じるものである。また、競売手続の無駄を省くという点についても、確かに取消しにはならないが、競売手続というのは本来差押債権者の利益のために進めているもので(配当を受けられない差押債権者のためには競売手続を進めない。)、差押債権者に何の利益にもならない競売手続が取り消されずに終つたとしてもそれは全くの無駄以外の何ものでもないのである。よつて、この交付要求が配当要求の終期に拘束されないとすると、差押債権者たる担保権者に大きな不利益を与え、かつ競売手続を全く無駄にしてしまうことになる。

そうであるならば、徴収法二二条五項の交付要求も、配当要求の終期に服さしむべきである。国は徴収法二二条五項の場合も配当要求の終期までに交付要求をすれば徴収はできるものであつて不利益はなく、担保権者にとつては、無駄な競売手続を進める必要がなくなり、また、配当期日に突然配当を受けられないことによる経済活動のマイナスも避けられるものである(担保権者は通常配当期日の配当を当てにして経済活動をしている。)。

また、配当要求の終期までに徴収法二二条五項の交付要求があつて、申立人たる担保権者が配当を受けられない場合、競売実務の取扱いは無剰余としているのであり、そうであるならば、徴収法二二条五項の交付要求も配当要求の終期に拘束されると解釈すべきである。

4  民事執行法の手続に乗つかつて配当を受けようとするのであれば、それらは全て手続においても民事執行法に従うべきであつて、同法の手続を利用しながら自己に都合が良い点はこの手続に拘束されないというような同法にとつて超法規的な交付要求は認められるべきではない。

5  徴収法八二条の交付要求は、同法第五章滞納処分第二節交付要求の一連の条文の中にあり、交付要求は、「交付要求書」によりなし、その旨を滞納者等に通知しなければならない等の交付要求についての細かな手続が定められている。そして、徴収法にはこのほかに交付要求についてまとめて規定した条文はない。

そうだとすると、徴収法二二条五項の交付要求も、当然同法八二条の手続により進められるべきである(同法二二条五項には手続の定めはない)。徴収法二二条五項は滞納者の財産から徴収する場合ではないので、本来は同法八二条の交付要求による徴収は不可能であるが、同法二二条五項はこの場合も特別に同法八二条により徴収することを認めた趣旨である。

被告の考え方では徴収法二二条五項の交付要求は同法八二条の交付要求とは全く異なるものとなり、いかなる手続で進めるのか根拠条文がなくなつてしまうことになる。

そもそも徴収法八二条は、交付要求と民間の手続との調整をはかつているが同法二二条五項にはそのような定めは全くない。

以上のとおり、徴収法二二条五項の交付要求も同法八二条の交付要求と同一のものと解すべきである。

6  徴収法二二条五項の交付要求が配当要求の終期に拘束されるとしても国に不利益はない。

まず、配当要求の終期は公告されるものであり、公告があつた以上、徴収法二二条五項の交付要求をする税務署もこれができることを知るべきである(公告というのは現実には情報伝達の力は弱いかもしれないが、法の建て前ではこれでこの交付要求をする税務署にも情報を伝えたことになる。)。

次に、国においては、国税滞納者であつてその財産を第三者に譲渡した者で、他に滞納処分を執行すべき財産がない者については、この譲渡した財産を中央の税務署でコンピューターにあらかじめインプットしておき、次にこの中央の税務署が全国の税務署からいずれの不動産について民事執行法四九条二項三号の催告があつたかの情報を受け、コンピューターに徴収法二二条五項の対象となるものかを問い合わせれば容易に判明するものである(コンピューターを使わなくとも、徴収法二二条五項の対象不動産を帳簿に整理しておくだけでもこのチェックは可能である)。

国は、徴収法二二条五項の交付要求は配当要求の終期に拘束されないとの前提にたつているから、このような努力を怠つているものであり、その結果、この交付要求は配当要求の終期を遵守しにくい状態になつているに過ぎない。

7  徴収法二二条五項の交付要求が配当要求の終期に拘束されないとすると、国が配当要求の終期までにこの交付要求をすると無剰余で競売手続が取り消されてしまうことになるので、故意に遅れて交付要求を出し、最後まで競売手続を進めさせて配当を受けるという弊害も考えられる。

また、逆に拘束されるとすると、この交付要求の対象不動産について情報管理が厳しくなり、現状ではこの交付要求を出すことを最後まで怠つてしまつているような場合でも、かえつて確実に配当要求の終期までに交付要求をすることになり、国税の徴収忘れが発生しないですむのである。

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因1、2及び4の各事実は当事者間に争いがない。

二徴収法二二条五項の交付要求には、民事執行法八七条一項二号が準用され、その終期は配当要求の終期に限定されると解する。その理由は次のとおりである。

1  徴収法八二条の交付要求は、執行裁判所の配当手続に参加するものであるから、民事執行法八七条一項二号が準用され、その終期は配当要求の終期に限定されると解される。

2  徴収法二二条は、国税の法定納期限等後に質権又は抵当権の設定の登記(又は登録)がある財産が譲渡された場合には、それらの担保権が譲受人の国税に優先する結果(徴収法一七条)、財産の譲渡がなければ譲渡人の国税に劣後して被担保債権の全額の弁済を受けられなかつたはずの担保権者が、この財産の譲渡によつて全額の弁済を受けられる、というような事例が生じ、この結果は公平ではないので、このような場合に担保権者が受ける利益を、譲渡人の国税に充てようとする趣旨のもとに設けられた規定である。

右の目的を達するため、徴収法二二条一項は、「納税者が他に国税に充てるべき十分な財産がない場合において、その者が国税の法定納期限等後に登記した質権又は抵当権を設定した財産を譲渡したときは、納税者の財産につき滞納処分を執行してもなおその国税に不足すると認められるときに限り、その国税は、その質権者又は抵当権者から、これらの者がその譲渡に係る財産の強制換価手続において、その質権又は抵当権によつて担保される債権につき配当を受けるべき金額のうちから徴収することができる。」と定め、国に対し、一定の条件のもとで、担保権者の受ける配当から譲渡人の国税を徴収する権限を付与し、右徴収の方法として、同条五項は、「税務署長は、第一項の譲渡に係る財産につき強制換価手続が行われた場合には、同項の規定により徴収することができる金額の国税につき、執行機関に対し、交付要求をすることができる。」と定め、国に対し、本来滞納者の財産につき強制換価手続が行われた場合に限り認められる交付要求の権限を付与したものである。

右のとおり、徴収法二二条五項の交付要求は、担保権者の受ける配当から譲渡人(滞納者)の国税を徴収しようとするものであつて、滞納者の財産から同人の国税を徴収しようとする徴収法八二条の交付要求とは徴収の対象を異にするが(その結果、徴収法二二条五項の交付要求はその対象となる担保権者を除く配当権者に対する配当には影響を及ぼさないという相違も生ずる。)、執行機関に対する交付要求であることには変わりはなく、手続は徴収法八二条の交付要求に準ずるものであることが予定されているというべきで(徴収法二二条五項の交付要求についての特別な手続規定はない。)、徴収法二二条五項の交付要求は、同法八二条の交付要求と別個の特別な取扱いを受けるべきものとは解されない。すなわち、徴収法二二条五項の交付要求も同法八二条の交付要求と等しく執行裁判所の配当手続に参加することが求められていると解すべきであり、徴収法八二条の交付要求の終期が配当要求の終期に限定されると解される以上、徴収法二二条五項の交付要求の終期についても同様に解すべきである(同条三項の規定は、譲渡された財産の強制換価手続が行われない場合に備えたものであつて、同条五項の交付要求を徴収法八二条の交付要求とは別個の特別な取扱いを受けるものと解する根拠にはできない。)。

3  徴収法二二条の趣旨は前記のとおりであり、公平の見地に基づくものである。すなわち、同条は、財産の譲渡後における担保権者の地位を、財産の譲渡前よりも不利なものにしようとしたものではない。ところが、同条五項の交付要求の終期が配当要求の終期に限定されないとすると、担保権者は、財産の譲渡前においては、配当要求の終期後の国税の交付要求に対してはこれに優先されることなく配当を受けることができたのに、たまたま財産が譲渡されたことによつて、配当要求の終期後の国税の交付要求に優先されて配当を受けることができなくなるという不均衡が生ずる。このような不公平は、徴収法二二条の前記趣旨に合致しない。従つて、同条五項の交付要求の終期も配当要求の終期に限定されると解するのが相当である。

4  徴収法二二条五項の交付要求は、担保権者が配当を受けるべき金額のなかから徴収するもので、他の配当権者に対する配当には影響を及ぼさない。しかし、そうだからといつて、右交付要求の終期を配当要求の終期に限定する合理的理由がないということはできない。すなわち、右交付要求の終期を配当要求の終期に限定することによつて、配当手続が明確となり、担保権者も配当要求の終期の時点で配当が受けられるかどうかを判断できるし、担保権者が競売申立権者である場合には、右の時点で競売手続が無益かどうかを判断して無益な手続の追行を避けることができるからである。

なお、被告の主張三3、4のような事情があるとしても、前記結論を左右するには足りない。

三以上のとおり、国税徴収法二二条五項の交付要求の終期は配当要求の終期に限定されると解すべきところ、前記のとおり本件交付要求は本件競売事件の配当要求の終期に遅れたものであるから、被告は本件交付要求によつて配当を受けることができない。

四よつて、原告の本訴請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官小川正持)

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