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千葉地方裁判所 昭和61年(わ)924号 判決 1987年4月09日

被告人の表示

(一)氏名

佐藤久直

生年月日

昭和六年三月二一生

職業

会社役員

住居

千葉県船橋市芝山七丁目一九番二五号

本籍

山形県西置賜郡小国町大字泉岡四九番地

(二)法人の名称

株式会社泉商事

本店所在地

千葉県印旛郡白井町富士六八番地一二

代表者氏名

佐藤久直

代表者の住居

千葉県船橋市芝山七丁目一九番二五号

主文

(一)  被告人佐藤久直を懲役六月に処する。

同被告人に対し、この裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。

(二)  被告人株式会社泉商事を罰金二〇万円に処する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社泉商事は、千葉県印旛郡白井町富士六八番地一二に本店を置き、宅地建物の売買等を目的とする資本金五〇〇万円の株式会社であり、被告人佐藤久直は、右被告人会社の代表取締役として右会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人佐藤久直は、被告人会社の業務に関し、正当な理由がないのに、昭和五七年一〇月一日から昭和五八年九月三〇日までの事業年度における法人税確定申告書を、その法定の提出期限である昭和五八年一一月三〇日までに、所轄成田税務署長に対し提出しなかったものである。

(証拠の標目)

一  被告人の

(1)  当公判廷における供述

(2)  検察官に対する供述調書二通(昭和六一年一一月一六日付、同一一月一七日付)

一  証人上野修の当公判廷における供述

一  国税査察官作成の査察官報告書(昭和五九年六月一一日付)

一  大蔵事務官作成の査察官報告書(昭和六二年二月一七日付)

一  登記官作成の捜査関係事項照会回答書

(法令の適用)

一  罰条

被告人佐藤久直につき 法人税法一六八条(懲役刑選択)

被告人会社につき 同法一六四条一項、一六〇条

一  執行猶予(被告人佐藤久直につき)

同法二五条一項

(量刑理由)

本件訴因は、法人税の単純無申告を内容とするものであって、逋脱行為を内容とするものではない。従って、無申告罪がもうけられるに至った経過、趣旨等に照らし、これに応じた処罰をなしうるにとどまり、実質上逋脱犯としての刑を盛りこむことはできない。ただ、被告人佐藤のした無申告は、単純な動機によって短期間申告手続が履行されなかっただけという性質のものではない。実質的には、定められた時期に、定められた額の課税をされるのを免れるため、意識的に申告期限を徒過、放置していたと認められるものである。しかも、今回起訴された昭和五八年九月期の確定申告を放置していただけでなく、それ以前にすでに同五四年九月期分から同五六年九月期分について大幅に遅延し、同五七年九月期分についても無申告を重ね、同五九年五月東京国税局による査察調査を受けたあと同年一二月ようやく同五八年九月期分等の申告がなされたのである。こうしてみると、被告人は、その経営にかかる不動産業の面では利にさといのに、納税義務の履行に関する意識は極めてルーズで、全体として狡猾にすぎると考えざるを得ず、単純無申告罪にかかるとはいうもののその中ではかなり犯情の悪い部類の犯行と考えられる。

ただ、被告人の立場に立ってみれば、同五八年九月期分については、営業上数年にまたがる取引分をどの年度分として計上すべきかとの点にからんで疑問をもちつつその処理につき最終判断を得られなかったことが申告を遅延し、無申告となった事情の一つとしてあったこと、現在は正規の課税処分を受け納税中であること等の斟酌できる事情もなくはないので、双方の事情を総合考慮し、それぞれ主文のとおり量刑する。

公判出席検察官 太田修

同 弁護人 土屋英夫

(裁判官 秋山規雄)

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