大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

千葉地方裁判所 昭和61年(行ウ)1号 判決 1988年10月31日

原告

下村勇(X)

被告

八街町長 原口行光(Y1)

川嶋静雄(Y2)

山田弘(Y3)

緑川潤太郎(Y4)

右四名訴訟代理人弁護士

堀合悟

理由

一  本件支出行為等がなされるに至つた経緯

1  請求原因1の事実及び同2の事実のうち、昭和五九年一一月三日町の元町長山本が死去し、葬儀委員会が設置され、同月一六日公民館において右葬儀委員会により町民葬が執り行われたこと、同年一二月一〇日元町長池田が死去し、同月二四日右同様に葬儀委員会により公民館において町民葬が執り行われたこと、右二回の町民葬において、町から葬儀委員会に対し、それぞれ補助金一〇〇万円ずつが交付されたこと、町の職員が町民葬に関連するさまざまな準備、執行等を手伝い、町から右職員に対して、時間外手当として計二四万九六一六円が支払われたこと、町は公民館の使用料を徴収しなかつたこと、ならびに同3のうち葬儀委員会設置に至る経緯については当事者間に争いがない。

2  〔証拠略〕によると、次の事実を認めることができ、これに反する証拠はない。

(一)  昭和五九年一一月三日午前、元町長の山本が死去し、町会議員等から町の対応を求める声が出たため、同日午後、町役場特別会議室に、町長の被告原口、助役の被告川嶋、収入役の被告山田、総務課長の被告緑川と町議会議長、副議長、議会事務局長、および議長経験者三名が集まり、葬儀委員会を設置して町民葬を行うこと、葬儀の日時は同月一六日午後一時、場所は公民館とすること、葬儀委員会の構成員は町長、助役、収入役、町教育長、議長、副議長、町教育委員会委員長、町農業委員会会長、八街商工会議所会頭、町農業協同組合組合長、区長会長、町消防団長、町連合婦人会長、民生委員総務の一四名とすること、を決めた。

(二)  そして同月七日、右特別会議室において、右構成員全員が集合して葬儀委員会々議が開かれ、委員長に町長の被告原口、副委員長に助役の被告川嶋と町議会議長が選出された後、葬儀の執行のために町から補助金の交付を受けて、これを葬儀委員会の予算として執行すること、式場の準備等は町職員が手伝うこと、香典は全額遺族側へ渡すこと、等を決定し、また遺族側と協議した上、その希望を容れて、葬儀は遺族側で依頼した僧侶七名により仏式で行うこと、祭壇は花祭壇とし、葬儀社も遺族側の希望する葬儀社に依頼すること、香典返しは遺族側で用意すること、葬儀の通知、会葬礼状は葬儀委員長、同副委員長と遺族側の喪主らの共同で行うこと等を了承した。

(三)  右葬儀委員会は、同月一二日に町教育委員会教育長に対し公民館使用申請書を提出し、同日、同公民館長から使用料無料による公民館使用許可通知がなされた。許可された公民館の使用時間は、大会議室、和室三部屋及び青年団体室が同月一五、一六日合計一二時間三〇分、中会議室、視聴覚室が八時間三〇分、小会議室が四時間であり、これに相当する使用料金は二万八四〇〇円であつた。

また、右葬儀委員会は、同月一九日に町長宛一〇〇万円の補助金交付申請書を提出し、同日町長の被告原口から補助金交付決定通知(八街町指令第一八四号)が出された。

(四)  同月一六日、公民館において山本の町民葬が執り行われたが、同葬儀は祭壇を設け、開会の辞に続いて僧侶により読経、引導が行われ、追悼の言葉、弔辞、弔電奉読をはさんで焼香、唱題、回向が行われ、その後葬儀委員長挨拶、親族代表謝辞が行われて、閉会となった。

(五)  同年一二月一〇日に元町長の池田が死去し、翌一一日前記特別会議室において葬儀委員会々議が開催されたが、構成員は町農業委員会長に代つて同代理、新たに町農業協同組合専務が加わつた以外は山本の葬儀における構成員と同じであり、委員長には前回同様に町長の被告原口、副委員長には町議会議長と町農業協同組合組合長が選出された。

(六)  そして右葬儀委員会々議において、同月二四日午後一時に公民館において町民葬を行うこと、山本の場合と同じく町から補助金を出してもらうこと、町の職員に準備等を手伝つてもらうこと等が決定されたほか、葬儀方法については遺族とも相談の上、山本の町民葬の場合と概ね同様の方法で行うこととなつた。

(七)  右葬儀委員会は、同月二〇日、前記教育長に対し、公民館使用申請書を出し、同日、同公民館長から使用料無料による公民館使用許可通知がなされた。更に、同月二〇日町長に対し、一〇〇万円の補助金交付申請書を提出し、同月二四日町長から補助金決定通知(八街町指令第一九三号)が出された。

(八)  同月二四日池田の町民葬が執り行われ、山本の場合と同様に僧侶により読経、焼香及び回向などが行われ、仏式で進められた。

(九)  なお、町においては、昭和五四年に元商工会議所会頭で、名誉町民になつていた者が死去した際、初めて町民葬と称する葬儀が行われたが、その際も時の町長を委員長とする葬儀委員会が構成され、町から補助金が交付され、町中学校において、仏式で行われた。

二  〔略〕

三  憲法違反の主張について

原告は、本件葬儀委員会は町の附属機関であり、町民葬は町が行う宗教的儀式、行事に該当するから、これに対する本件支出行為等は憲法一四条、一五条、二〇条、八九条、九九条に違反し、無効である旨主張するので、まず、この点について検討する。

1  憲法二〇条、八九条違反の主張について

(一)  憲法は、二〇条一項において「いかなる宗教団体も、国から特権を受け・・・てはならない」、同条三項において「国及びその機関は、・・・いかなる宗教活動もしてはならない」、八九条において「公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、・・・これを支出し、又はその利用に供してはならない」と規定し、いわゆる政教分離の原則を明らかにしている。

しかしながら、宗教も信仰という個人の内心的な事象にとどまらず、教育、文化、民俗、風習等広汎な面において社会事象と接触するのであり、一方国又は地方公共団体も社会的に存在する団体として様々な社会事象を通じて宗教と何らかのかかわり合いを生ずることを免れ得ない。

このような点に鑑みると、憲法が定めた右のような規定の趣旨は、国又は地方公共団体が宗教とかかわり合いをもつことを全く許さないとするものではなく、宗教とのかかわり合いの程度がわが国の社会的、文化的諸条件に照らし、国民の宗教の自由を保障することを確保するという制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超えるものと認められる場合に限り、これを許さないとするものであると解するのが相当である。

したがつて、同法二〇条三項により禁止される「宗教的活動」とは国、地方公共団体及びその機関の活動で宗教とのかかわり合いをもつすべての行為を指すものではなく、そのかかわり合いが右にいう相当とされる限度を超えるものに限られるというべきであつて、当該行為の目的が宗教的意義をもち、その効果が宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉などになるような行為をいうものと解すべきである。よつて、ある行為が右にいう「宗教的活動」に該当するか否かを検討するにあたつては、当該行為の主催者が宗教家であるかどうか、その順序作法(式次第)が宗教の定める方式に則つたものであるかどうかなど、当該行為の外形的側面のみにとらわれることなく、当該行為の行われる場所、当該行為に対する一般人の宗教的評価、当該行為者が当該行為を行うについての意図、目的及び宗教的意識の有無、程度、当該行為の一般人に与える効果、影響等、諸般の事情を考慮し、社会通念に従つて、客観的に判断されなければならない(最高裁判所昭和五二年七月一三日大法廷判決民集三一巻四号五三三頁参照)。

また、同法二〇条一項後段の「宗教団体」、同法八九条の「宗教上の組織若しくは団体」(以下これを一括して「宗教団体等」という)も宗教的活動を本来の目的とした組織、団体をいうものと解すべきであるからこのような目的を有しない団体が、その運営上たまたま宗教に関わりのある行為を企画実行したからといつて、これが直ちに右の「宗教団体等」に該当すると解すべきではない。

(二)  以上のような見地から、本件支出行為等が憲法二〇条、八九条に違反するものであるかどうかについて検討する。

(1) 本件町民葬の性格

原告は、山本、池田の各町民葬(以下これを一括して単に「本件町民葬」という)は宗教的儀式、行事に該当すると主張する。

(イ) 葬儀は、通常何らかの宗教の方式に則つて行われることが多いけれども、本来、葬儀それ自体は死者を葬るための儀式に過ぎず、宗教の布教や伝道を目的としたものでも、宗教に特有の儀式、行事でもなく、また必ず宗教の方式に則つて行われるべきものとも解されない。その方式は、国、地方、民族等によつて異なる場合があり、また確立された普遍の方式がある訳のものでもないから、独自の方式によつて行うことも妨げないであろうし、宗教色を一切払拭して行うことも可能である。

従つて、葬儀それ自体が本来的に宗教上もしくは宗教的な儀式または行事であるとは考えられない。

(ロ) ところで、本件町民葬は、前示のとおり、山本、池田の死亡に際し、町議会議員らから町の対応を求める声が出たことから、町長の被告原口や町議会議長らの町、町議会幹部や町議会経験者らが会して、葬儀委員会を組織して町民葬を行うことの基本方針を決め、これに基づいて結成された葬儀委員会が主催者となつて、これを行つたものであるが、右葬儀委員会は独自の立場で本件町民葬を行つたのではなく、遺族らと協議した上、主催者は右葬儀委員会とすること、しかしながら案内状や会葬礼状は喪主らと共同で行い、葬儀の方式、祭壇の設置等は遺族側の要望を容れて、遺族側で依頼した僧侶、その希望する葬儀社によつて行うこと、香典返しは遺族側で準備することなどを了解して行われたのであり、その方式も、仏式による一般的な方式で行われたものであるから、本件町民葬は、世上、人の死に際して行われる一般的な葬儀と実質的に異るものでないことは疑いなく、ただそれは町内各界各層の代表者らによつて組織された葬儀委員会が主催者となつたこと、町公民館において行われたことの点において特色があつたものである。

もつとも本件町民葬は仏教の方式により行われたのであるから、宗教的色彩を有していたことは明らかである。

(ハ) 以上のような点に鑑みると、本件町民葬は、本来遺族が行うべき葬儀を、山本、池田の功績を讃えるために、町の総括代表者である町長を始めとして、広く町内各種団体、委員会等の代表者が構成員となつて結成された葬儀委員会が主催者となつて行う形式をとることによつて、格式を高め、規模を拡大するとともに、これに全町的な意義、性格をもたせようとしたものと理解される。

(2) 本件葬儀委員会の性格

原告は山本、池田の本件町民葬を主催した各葬儀委員会(以下これを一括して単に「本件葬儀委員会」という)は町の附属機関であると主張する。

(イ) しかしながら、前示のとおり、山本の町民葬を主催した葬儀委員会は、町長や町議会議長、議長経験者らが参集した会合において、これを結成することおよびその構成員となるべき者の範囲が決定され、これに基づき構成員となるべき者が集合して結成されたものであるが、右町長らの会合は、それが開かれるに至つた契機、会合の目的、内容、出席者の顔ぶれ等に照らし、私的な会合とみるべきであるし、また町には町民葬や葬儀委員会の施行、設置等に関する条例や規則もないから、右葬儀委員会は町の機関に属せず、更に附属機関ともいえない、私的、独立の存在とみるほかはない。

また池田の町民葬を主催した葬儀委員会は、池田の町民葬を行う目的で結成されたものであるから、山本の町民葬を主催した葬儀委員会と構成員が二名異るほかは同一であり、委員長も同じく町長の被告原口が選任され、町民葬の日時も近接していたとしても、団体としては別個の存在であるといわざるを得ない。そしてその性格は山本の町民葬における葬儀委員会と同じく、町とは関係のない私的かつ独立の団体とみるべきである。

(ロ) ところで、前示の事実関係から明らかなとおり、本件葬儀委員会は常設されていたのではなく、山本、池田の町民葬を行うことのみの目的で、その都度結成され、またその限りで存続した団体であり、仏教その他の特定の宗教の方式による葬儀の執行を目的としたものでもない。本件町民葬が仏式で行われたのは、遺族の希望に従つた結果であつて、本件葬儀委員会が殊更にその方式で行うことを求めたものでもなかつた。そして、本来、葬儀それ自体に宗教性はないと解されることは前示のとおりである。

以上のような点からすると、本件葬儀委員会が、仏教その他の特定の宗教の布教伝道等の宗教的活動を本来の目的とした団体に該当しないことは明らかである。

したがつて、本件葬儀委員会が、憲法二〇条一項後段、八九条に定める宗教団体等に該当するものでないことも明らかである。そして本件葬儀委員会が主催者として行つた本件町民葬がたまたま仏教の方式で行われたからといつて、そのことから本件葬儀委員会が右憲法に定める宗教団体等に該当すると解すべきものでもない。

(3) 町と本件町民葬とのかかわり合いについて

(イ) 原告は、本件町民葬は町が行つたと主張するけれども、既に認定説示したとおり、本件町民葬を主催者として行つたのは、町ではなく、本件葬儀委員会である。町は本件葬儀委員会に対して、補助金を交付し、町公民館の使用を許可するとともにその使用料を免除し、また本件町民葬の準備、執行のために、町職員を従事させただけであつて、町自らが本件町民葬を行つた訳ではない。

しかしながら、前示の本件葬儀委員会結成に至る経緯、ことにそれは元町長等の要職にあつた山本、池田の葬儀を全町的な意義、目的で行うため、町長、助役ら町幹部職員が中心となつて推進し、結成されたものであること、および町は、本件町民葬が宗教である仏教の方式により行われるものであることが明らかであつたのに、本件町民葬の執行を積極的に支持し、援助する意図で本件支出行為等を行つたものであること、ならびに本件町民葬は、町長が本件葬儀委員会の委員長となり、町公民舘を使用し、町職員がその準備、執行に従事する等町自身がこれに深く関与しているような外観を呈していたこと等からすると、町は宗教的な色彩を有する本件町民葬の執行を支持し援助する意図で本件支出行為等の行為を行つた点において宗教とのかかわり合いを持つに至つたことは否定しえない。

(ロ) そこで次に、そのかかわり合いの程度について考察する。

前記認定説示のとおり、本件町民葬が仏式で行われたのは遺族の希望に従つた結果であつて、これを主催した本件葬儀委員会は「宗教団体等」に属するものではなく、これが行われた場所も宗教上の施設でない町公民館であり、またその対象も特定の宗教人や宗教の信仰者ではなく、広く町内外の一般人であつたのである。そして本件町民葬の意義、目的も、それが宗教色を有することや宗教の方式で行われることにあつたのではなく、遺族が行うべき葬儀に全町的な性格を持たせて行うことにあつたのである。

町がこのような町民葬の執行のために本件支出行為等を行つた意図、目的も、右のような意義、性格を有する本件町民葬を支持し、援助することにあつたのであり、それが宗教色を有することあるいは宗教の方式で行われることに着目し、これを支持し、援助することにあつたとは認め難い。また町の右行為が宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉などの効果、影響を及ぼし、あるいは一般人をしてそのように評価せしめるものとも考えられない。

以上のような点に鑑みると、町の行つた本件支出行為等は、前示の憲法解釈の基準に照らし、宗教とのかかわり合いの程度が相当とされる限度を超えるものではなく、したがつて憲法が禁止する宗教活動には該当しないと解するのが相当である。

そうすると、町が宗教色を有する本件町民葬とかかわり合いを持つたことの当否は別論として、これが憲法二〇条、八九条に違反するものとはいえない。

四  法令違反の主張について

1  本件補助金交付の違法性について

原告は、本件補助金交付は法二三二条の二に適合せず、また、八街町補助金交付規則に即した手続きがなされておらず、法二三二条の三にも違反している旨主張するので、この点について検討する。

(一)  まず、本件補助金交付手続に違法があつたか否かについてみるに、八街町補助金交付規則によると、補助金の交付の申請をしようとするものは、補助金等交付申請書に所定の事項を記載して町長に提出し(同規則三条一項)、町長は、補助金等の交付の申請があつたときは、書類の審査等をして補助金を交付するかどうかを決定すること(同規則四条一項)と定められている。

〔証拠略〕によると、山本の葬儀に関する補助金については昭和五九年一一月一〇日補助金支出に関する補正予算につき町長である被告原口が法一七九条一項の専決処分を行い(これについては同年一二月一四日町議会において報告、承認された)、その後、葬儀委員会から町長に対し補助金交付申請書が提出され、これに対して町長が補助金交付決定をしてその交付がなされ、また池田の葬儀に関する補助金については、同年一二月一四日補助金支出に関する補正予算につき町議会の議決がなされた後、同じく葬儀委員会から町長に対し補助金交付申請書が提出され、これに対して町長が補助金交付決定をしてその交付がなされた事実が認められるから、右事実によれば本件補助金交付は予算に基づき、かつ町補助金交付規則に則した手続によつてその支出がなされたと認めることができる。

したがつて、本件補助金交付手続に違法があるという原告の主張は採用することができない。

(二)  次に、本件補助金交付に法二三二条の二に定める公益性があつたかどうかについて検討する。

(1) 〔証拠略〕によると、次の事実を認めることができ、これに反する証拠はない。

(イ) 山本は、昭和二七年から昭和二九年まで合併前の川上村の村長を勤め、町と川上村の合併のために尽力し、同年から昭和三三年まで町の助役、翌三四年から昭和三七年までは町議会議員、同年から昭和五七年までのうち三期一二年間は町長を勤め、その間、母子健康センターの設置、町中央公民館の完成、八街東小学校の新設など福祉の増進、教育文化の向上などに貢献し、昭和五八年には勲四等瑞宝章を授与され、更に、昭和五九年には町特別功労表彰を受けた。

(ロ) 池田は、昭和一二年以来、合併前および合併後の町議会議員二期、町長五期、千葉県議会議員二期、町農業協同組合長などを勤め、教育施設の充実に努力して町立八街高等女学校の設立、県立高等学校への昇格に尽力したり、上水道事業を開始したりしたほか、落花生の生産性向上と流通の安定を通じて畑作経営の改善向上に寄与し、農業協同組合の合併、農業共済事業の発展に貢献し、昭和四七年には勲四等瑞宝章を授与され、昭和四八年には町名誉町民となつた。

(ハ) 山本の町民葬においては国会議員、県知事代理、県内各市町村の長、遺族など町内外から約七〇〇人が参列し、池田の町民葬においても同様に約一〇〇〇人が参列して盛大に行われた。

(2) 以上の事実及び前記認定した事実を総合すると、山本及び池田は元町長であつたというだけでなく、町の教育文化の向上、福祉の増進、産業の発展などに多大に貢献し、広く町民に慕われていたことが認められるから、このような山本や池田の功績を讃えるとともに、死者を追悼する目的で広く町内各界各層の代表者らが一体となつて結成された本件葬儀委員会が主催者となり、いわば全町的な意義、目的、規模で、広く町内外の一般人の参加、出席を求めて行われた本件町民葬を、町が財政面からこれを援助し、これに協力することは、普通地方公共団体に属する町の性格、存在に照らしても公益上有益であるということができる。

そうだとすると、本件町民葬の挙行費用の一部に充てられる目的で、葬儀委員会に対してなされた本件補助金交付は公益性が認められ、またその金額も山本、池田の功績、本件町民葬の規模等に照らし、相当なものであつたと認められる。

したがつて、本件各補助金交付は法二三二条の二に違反するものではないから、この点に関する原告の主張も採用しえない。

2  本件時間外手当支給の違法性について

原告は、本件町民葬への職員の参加は時間外勤務に該当せず、職員に対する時間外手当の支給は違法である旨主張するので、この点について検討する。

(一)  原告主張のとおり、町が本件町民葬の準備、執行のために町職員を従事させ、時間外手当を支給したことは前記認定のとおりである。

(二)  ところで、町も社会的に実在する団体として、社会的な儀礼行為や行事を行い、またはそのような儀礼行為や行事に参加し、協力をすることは許されるのであり、その場合にはそうした行為を遂行することは町の事務に属するものということになる。

(三)  これを本件についてみるに、本件町民葬の前示のような意義、目的等に照らすと、町がこれを援助し、これに協力する意図で、町職員をその準備、執行の役務に従事させることは、普通地方公共団体に属する町においても許されるべき範囲内の行為であり、したがつて右の役務は町の事務に属するものと解するのが相当である。

そうだとすると、町職員を右役務に従事させることは適法であり、これに従事した町職員に対して所定の時間外手当を支給することも適法である。

ただ、前示のとおり、本件町民葬は宗教性を帯びていたから、これに職員をその意に反し、職務命令をもつて参加を強制し、特定の宗教に対する礼を尽くさせるようなことは許されないものといわねばならないけれども、本件の場合そのような事実は認められないから、この点に違法はないというべきである。

よつてこの点に関する原告の主張も採用できない。

3  本件公民館使用料免除の違法性について

原告は、公民館の使用料については、町公民館使用料徴収条例に基づく免除には該当しない旨主張するので、この点について検討する。

右条例五条一項によると、公民館の使用料の減額(五割)基準として、町の機関以外の官公署が使用する場合および教育又は社会福祉に関する団体が、その目的を達成するために使用する場合が、またその免除基準として、町(町の機関を含む)、国又は公共団体が公務上使用するときが、それぞれ例示されており、同条二項において、「前項に規定する場合のほか、特に町長が認めたときは、使用料を減免することができる。」とされている。

右規定の趣旨に照らすと、同条二項により町長が使用料を免除することができる場合には、町や国その他の公共団体が自らその事務を執行するために使用する場合に準ずるような公益性の高い場合を含むものと解するのが相当である。

本件の場合、前示の事実によると、本件葬儀委員会から使用料を無料とする公民館使用申請書が提出され、これに対して、公民館長から右申請のとおり使用料を無料としてその使用を許可することの通知書が交付されたのであるから、その許可の手続において欠けるところはなく、また前示のような本件町民葬の意義、目的、これに対する町の援助、協力の意図、程度等に照らすと町が自ら公務上使用する場合に準ずべき公益牲があつたものということができるから、本件公民館使用料免除に、原告主張のような違法があつたということはできない。

よつて右主張も失当である。

(裁判長裁判官 村田長生 裁判官 池本壽美子 八木貴美子)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例