大判例

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千葉地方裁判所 昭和62年(わ)43号・昭62年(わ)34号 判決

Ⅰ 被告人の表示

(一) 氏名

中島文男

生年月日

昭和一七年八月二三日生

職業

会社役員

住居

千葉県松戸市大橋七二八番地の二

(保釈中の制限住居)

東京都新宿区西新宿五丁目一〇番七号菊池原千代子方

本籍

東京都新宿区西新宿五丁目三五三番地

(二) 氏名

宮原一

生年月日

昭和一五年六月一日生

職業

会社役員

住居

東京都新宿区揚場町一五番地セントラルコーポラス五〇三号

本籍

東京都新宿区揚場町一五番地

Ⅱ 主文

被告人中島文男を懲役一〇月に、同宮原一を懲役八月に各処する。

被告人両名に対し、未決勾留日数中各二〇日を、それぞれの右刑に算入する。

Ⅲ 理由

(罪となるべき事実)

被告人中島文男は、もと甲府市内で兄の営む精肉店の店員をしていたが、昭和四九年ころ東日本同和会を設立して以後これに専従することとなり、同五一年ないし五二年ころ副会長(本件後の同六一年に会長)となつていたほか、これと並行して同五一年ころから健康食品関係の仕事に手を出したり、産業廃棄物処理会社を経営したりし、さらに、同五六年ころからは東日本同和会理事が中心となつて設立した金融業「誠商」の会長に就任していたもの、

被告人宮原一は、昭和三八年立教大学卒業後、運輸会社へ勤務したり、ゴルフ会員権や大理石販売その他の仕事をし、同四八年ないし四九年ころ東日本同和会に入会して間もなく同会東海地区総務部長になつたが、その後一時同会を脱会してこれとは別の全日本同和会の活動を手伝つたりしていたところ、被告人中島からの誘いを受け、同五七年暮れころ再び東日本同和会に復帰し、同時に同会中央本部相談役に就任し、あわせて誠商観光株式会社その他の役員に名を連ねそこから収入を受けている者である。

ところで、被告人中島文男は、人を介して、千葉県東葛飾郡沼南町岩井四六八番地に居住して農業を営み養父勝矢久雄の死亡により同人の財産を他の相続人と共同相続した分離前の相被告人勝矢孝雄から、同人らが納付すべき相続税を一部免れることについて相談を受け、その件を右の趣旨に沿つて処理することを被告人宮原一及び同本部理事で同じく分離前の相被告人であつた鈴木洋樹に指示した。この指示を受けた右両名は、前記勝矢孝雄及び被告人中島の知り合いで、同被告人の税務事務を処理してした税理士で分離前の相被告人綿引爽五らと連絡をとつて会合し、税額をひそかに減少させてすませるための具体的方策について色々相談した末、被相続人について一億五〇〇〇万円見当の架空の連帯保証債務を計上して課税価額を減少させる方法をとる相談をととのえ、この計画を被告人中島に説明して同人の最終判断を求め、最終的には、同被告人らが中心となつて右架空の連帯保証債務額を一億四五〇〇万円とすることに決め、これによつて前記勝矢孝雄の相続税のうち約六〇〇〇万円前後を免れようとの相談がまとまつた。こうして、被告人両名は、前記勝矢、鈴木、綿引らと共謀のうえ、昭和五九年八月二八日、千葉県柏市柏一丁目二番一八号所在の所轄柏税務署において、同税務署長に対し、被相続人勝矢久雄の死亡により同人の財産を相続した相続人全員分の正規の相続税課税価格は、三億八三九七万三〇〇〇円で、このうち右勝矢孝雄分の正規の課税価格は、三億二九〇四万円であつたのにかかわらず、右勝矢久雄には、高木一夫、小松賢郎及び許勇に対する合計一億四五〇〇万円の連帯保証債務があり、右勝矢久雄の相続人である右勝矢孝雄においてこれを負担すべきこととなつたので、所得財産の価額からこれらを控除すると相続人全員分の課税価格は、二億三八九七万三〇〇〇円で、右勝矢孝雄分の課税価格は、一億八四〇四万円となり、これに対する右勝矢孝雄の相続税額は、三九七七万六五〇〇円である旨の虚偽の相続税申告書を提出し、もつて、不正の行為により右勝矢孝雄の正規の相続税額九六一五万一六〇〇円と右申告税額との差額五六三七万五一〇〇円を免れたものである。

(証拠の標目)

一 被告人宮原一の

(1) 当公判廷における供述

(2) 検察官に対する供述調書四通

一 被告人中島文男の

(1) 当公判廷における供述

(2) 検察官に対する供述調書三通

一 分離前の相被告人である勝矢孝雄、同鈴木洋樹及び同綿引爽五の当公判廷(第一回公判期日)における各供述(ただし、綿引の供述については申告書作成に関する部分。)

一 勝矢孝雄の検察官に対する供述調書四通

一 鈴木洋樹の検察官に対する供述調書五通

一 綿引爽五の検察官に対する供述調書二通

一 次の者のいずれも検察官に対する各供述調書

木田喜春、永瀬満、小林明、勝矢きみ子、勝矢て以、勝矢一久、石井清子、落合静子、川津政子、川津久雄、森井いつ子、落合敏夫(二通)、渡沼欣也(二通)、安井一昭、安井マキ、大井一雄、菊池原吉雄(二通)、小松賢郎(三通)、高橋一夫(五通)、許勇

一 大蔵事務官作成の

(1) 脱税額計算書

(2) 相続税額計算書

(3) 脱税額計算書説明資料

(4) 債務調査書

(5) 土地建物調査書

(法令の適用)

一 罰条 相続税法六八条一項、刑法六〇条、六五条一項(懲役刑選択)

一 未決勾留日数の本刑算入

刑法二一条

(量刑理由)

本件は、ほ脱税額が五六〇〇万円を超える高額の脱税事犯である。納税者の多くの者が、所得に応じてガラス張りの徴税をされ、あるいは正確に申告して納税し、社会の財政基盤を支えている陰で、一部の者が、高額の所得がありながら不正手段を弄してひそかにこれを免れ私利を図つているという事態は、世上たびたび指摘されているとおり、極めて重大である。この種事犯は、社会の財政的構造に直結しているとともに、放置すると容易に蔓延しやすい契機を含んでいるだけにその弊害は大きい。脱税事犯は、現代社会においては特に重大な犯罪だという点を今一度考え直す必要がある。尤も、右のほ脱行為が納税義務者本人によつてなされることに対しては、通常納税のため他の財産を売却するなどして現金を調達する負担をともなう事情があるだけに、その苦労を考えると、まだいくらかでも斟酌できるところがなくはない。しかし、被告人らの場合には、そうではなく、納税義務者にかわつて納税額を減少させうるようとり運ぶことによつて、自らが、ばく大な利益にありつこうとしたものである。いわば他人の納税事務に介入することによつて利益を得ようとするこのような性質の行為が、社会的にとりわけ強い非難を受けるのは明らかというべきである。

ところで、本件では、ほ脱の手段として、被相続人について架空の連帯保証債務を計上した。そして、これを真実らしく装うために架空の手形を振り出し、裏書し、架空の抵当権を設定し、架空の領収書を作成する等々その手口は手がこんでおり巧妙である。また、本件で、同和会という組織の力を利用して、税務署職員らに対して、どのような威圧的交渉をしたかしなかつたかの点はしばらく別とするが、そもそも勝矢の税額減少の相談が東日本同和会へ持ちこまれ、これを被告人らが引き受けると、その際の約束として、仮りに約六〇〇〇万円税額が減少すればその半分にあたる三〇〇〇万円という高額をその報酬として受けとるというような法外な約束が交わされ、現実にそれだけの報酬が交付されているということは、やはり同和会と名付けた組織が関係者に与える社会的影響を基盤として初めて成り立つていると考えざるを得ず、この点には大きな問題が含まれていると考えられる。報酬として受けとつた三〇〇〇万円の中から、被告人中島は六〇〇万円を若干超える金額を受けとり、また同宮原は六〇〇万円を受け取つているが、判示のとおり勝矢の脱税を企てた税務申告に協力し、綿引に申告書等を作成・提出させたというだけでこれだけの高額の報酬を得て当然とする感覚は、通常ではない。

反面、本件後、報酬として受け取つた三〇〇〇万円はともかくも全額被告人中島から勝矢に返還された(実際には、右三〇〇〇万円中から被告人中島が許に分配していた金員を、許が勝矢に先に返還し、その後で、被告人らから勝矢に三〇〇〇万円が返還されたため、許から勝矢に返還された二二〇万円については二重払いになるとして勝矢から被告人中島に返戻されたが、同被告人らはそれを社会福祉団体等に寄付した。)。その結果、被告人中島が他の関係者に配分するなどしてした分は実質的は被告人らにとつて欠損となつていること、被告人らには前科・前歴等はなく、本件を除けばとくに非難されるべきところはなかつたこと、本件についても法廷では事実を認め、反省の態度を示していること、それぞれの家庭事情、これまでの生活経歴と今後の生活方針等々有利に斟酌できる点もあるので、それらのうち、酌むべきは酌んで考慮する。

しかし、先に述べたとおりの本件犯行の性質、ほ脱額の規模等を考えると、到底刑の執行を猶予できる事犯とは考えられない。両被告人、とくに被告人宮原は、十分な分別判断力を備えていると法廷での言動からも窺えるのに、何故このような犯行に手を染めたのか惜しまれるところである。しかし、被告人中島は、本件を当初引き受け、これを同宮原らに処理させた最高責任者であること、同宮原はその指示を受け、直接の推進役をはたしたことからみて、それぞれ主文のとおりの刑はやむを得ないものと考える。

Ⅳ 公判出席検察官 川野武昭

同 弁護人 萩原健二、平川敏夫、藤森洋(以上被告人両名につき)

(裁判官 秋山規雄)

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