千葉地方裁判所 昭和62年(モ)371号 決定 1987年4月14日
申立人 土津川嚴幹
右訴訟代理人弁護士 石口俊一
主文
当庁昭和六二年(ワ)第一四九号損害賠償請求事件について、原告の被告土津川嚴幹に対する請求を分離し、これを広島地方裁判所に移送する。
理由
第一申立の趣旨及び理由
別紙(一)及び(二)のとおり
第二当裁判所の判断
一 当庁昭和六二年(ワ)第一四九号損害賠償請求事件(以下「本訴請求事件」という)において、原告から被告土津川嚴幹(本件移送の申立人。以下「申立人」という)に対する請求についての土地管轄は、右請求が、相被告土津川辰彦(以下「辰彦」という)に対する請求に併合して提起された結果、民事訴訟法二一条により、右辰彦の普通裁判籍所在地である当裁判所がいわゆる併合請求の裁判籍としてこれを有するに至ったものであることは、一件記録により明らかである。
二 ところで、数人の被告に対する訴の併合、いわゆる主観的併合の場合にも、民事訴訟法二一条の適用があるか否かは、併合されることによって生ずる被告の不利益が大きくなるおそれがあるため、つとに争いのあるところであるが、数人の被告に対する請求の間に実質的な関連性がある限り原則的にこれを肯定し、その代り、併合されることによって生ずる被告の不利益が著しい場合には、適宜当該被告に対する請求を分離して、これを民事訴訟法三一条に基づき移送する措置をとることにより具体的妥当性を図るようにするのが相当である。
三 そこで、これを本件についてみるに、一件記録によれば次の事実が認められる。すなわち、原告の申立人に対する本訴請求は、辰彦が原告の広島支店に在職中に行った背任行為を理由とする辰彦の原告に対する損害賠償義務について、申立人が昭和五九年五月一八日原告に対し連帯して支払う旨保証した、というものであるところ、主たる債務の発生地は不法行為である広島県であり、右債務についての保証契約が締結されたとされる地も広島県であること、したがって、本訴請求の審理に当たっては当然広島県在住の人証の取調べが予定されること、申立人の住所地も広島県であり、申立人の訴訟代理人も同県在住の弁護士であること、辰彦は現在広島地方裁判所において前記背任事件の被告人として刑事事件の審理を受けているが保釈中であり、たまたま保釈中の現住所が千葉県稲毛市にあるというだけであり、申立人が当庁において本訴請求の審理を受けなければならない理由は本来全くないこと、辰彦は殆ど無資力に近く、同人に対する損害賠償請求は経済的・実質的には価値のないものであり、経済的・実質的には申立人に対する請求こそが主眼であると考えられること、その意味では当庁への辰彦に対する訴提起は、原告訴訟代理人の主観的な意図はともかく、客観的には申立人に対する請求につき当庁に管轄を生ぜしめるため、という機能を主としてもたされているものであること、原告は昭和六二年一月一四日広島地方裁判所において申立人の俸給・退職金及びその所有不動産につき仮差押決定を取得しており(広島地裁昭和六二年(ヨ)第一一号、同第一二号)、したがって、申立人が自己の妨禦のため、すでに広島県在住の弁護士に事件の処理を依頼したのはやむを得ないことというべく、申立人に対し当庁で本訴請求の審理をしても千葉県在住の弁護士を訴訟代理人に選任すれば損害が少くなるではないかというのは酷であること、
以上の事実が認められる。
右の事実によれば、たまたま辰彦に対する訴に併合されることにより当庁での審理を強いられ、そのことによって生ずるべき申立人の損害は著しく大きいものといわざるを得ず、原告訴訟代理人と、原告側の人証として予定されている原告会社の総務部長金守がともに東京都在住であることを十分考慮しても、なお、申立人に対する請求はこれを分離して、民事訴訟法三一条に基づき、広島地方裁判所に移送するのが相当であると思料する。
四 よって、本件移送の申立は理由があるから、主文のとおり決定する。
(裁判官 増山宏)
<以下省略>