千葉地方裁判所 昭和63年(わ)568号 判決 1989年11月17日
本店所在地
千葉県市川市市川南三丁目一四番一六号
株式会社丸東工務店
(右代表者代表取締役 永橋英世)
本籍
千葉県市川市中国分五丁目三九番
住居
千葉県松戸市秋山三三五番地
無職(元会社役員)
永橋良夫
昭和一五年九月二三日生
本籍
茨城県西茨城郡岩瀬町大字犬田四八〇番地
住居
神奈川県川崎市多摩区菅五丁目一四番三一号
会計事務所事務員(元税理士)
榎戸進平
昭和四年七月一七日生
右三名に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官井内顕策出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人株式会社丸東工務店を罰金一億円に、被告人永橋良夫を懲役一年六月に、被告人榎戸進平を懲役一年にそれぞれ処する。
被告人榎戸進平に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人株式会社丸東工務店(以下、被告会社という。)は、千葉県市川市市川南三丁目一四番一六号に本店を置く建売住宅の販売等を目的とする株式会社であり、被告人永橋良夫は、被告会社の代表取締役として、その業務全般を統括していたもの(昭和六三年一月七日代表取締役辞任)、被告人榎戸進平は、会計事務所事務員若しくは税理士として、被告会社の経理、税務処理等を行っていたものであるが、被告人永橋良夫及び被告人榎戸進平は、被告会社経理担当者両角栄太と共謀の上、被告会社の業務に関して法人税を免れようと企て、期末商品たな卸高の一部や雑収入を除外する等の方法により所得を秘匿した上、
第一 別表1記載のとおり、昭和五七年五月一日から昭和五八年四月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が四五三九万一三六六円、課税土地譲渡利益金額が一億八四六七万円あったにもかかわらず、昭和五八年六月三〇日、千葉県市川市内の所轄市川税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が九五二万六七八二円で、これに対する法人税額が三〇四万〇九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額五五〇三万八二〇〇円と右申告税額との差額五一九九万七三〇〇円を免れ、
第二 別表2記載のとおり、昭和五八年五月一日から昭和五九年四月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二億一九七五万八七〇七円、課税土地譲渡利益金額が三億一七七六万六〇〇〇円あったにもかかわらず、昭和五九年六月三〇日、前記市川税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一三九〇万八二二三円でこれに対する法人税額が四三八万五八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額一億五七〇七万二〇〇〇円と右申告税額との差額一億五二六八万六二〇〇円を免れ、
第三 別表3記載のとおり、昭和五九年五月一日から昭和六〇年四月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が三億五〇〇五万三一八四円、課税土地譲渡利益金額が四億〇七二九万円あったにもかかわらず、昭和六〇年七月一日、前記市川税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二〇五二万一一一七円でこれに対する法人税額が七六二万八八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額二億三一七七万四一〇〇円と右申告税額との差額二億二四一四万五三〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示事実全部について
一 被告会社代表者永橋英世、被告人永橋良夫及び被告人榎戸進平の当公判廷における各供述
一 第一回公判調書中の被告会社代表者永橋英世の供述部分
一 第一回及び第四回公判調書中の被告人永橋良夫及び被告人榎戸進平の各供述部分
一 被告会社代表者永橋英世(二通)、被告人永橋良夫(昭和六三年五月一八日付け、同年六月一二日付け、同月一七日付け、同月一八日付け)及び被告人榎戸進平(同月一一日付け、同月一七日付け)の検察官に対する各供述調書
一 第二回及び第三回公判調書中の証人両角栄太の各供述部分
一 両角栄太(八通。ただし、被告人榎戸進平については、昭和六三年六月一六日付け八枚綴りのものを除き、その余の七通の同意部分に限る。)、坂下静夫及び池上栄味子の検察官に対する各供述調書
一 千葉地方法務局市川支局登記官作成の昭和六三年六月二日付け商業登記簿謄本
判示第一ないし第三の各事実について
一 大蔵事務官作成の「商品総売上高調査書」「商品総売上高調査書(その他所得)」「期首商品たな卸高調査書」「期首商品たな卸高調査書(その他所得)」「期首未成工事支出金調査書(その他所得)」「商品総仕入高調査書」「外注加工費調査書」「外注加工費調査書(その他所得)」「期末商品たな卸高調査書」「期末商品たな卸高調査書(その他所得)」「期末未成工事支出金調査書(その他所得)」「役員報酬調査書」「外務員給料調査書」「外務員給料調査書(その他所得)」「福利厚生費調査書(その他所得)」「消耗品費調査書(その他所得)」「事務用品費調査書」「事務用品費調査書(その他所得)」「地代家賃調査書(その他所得)」「保険料調査書」「保険料調査書(その他所得)」「修繕費調査書(その他所得)」「減価償却費調査書」「旅費交通費調査書(その他所得)」「通信費調査書(その他所得)」「水道光熱費調査書(その他所得)」「車両費調査書」「車両費調査書(その他所得)」「広告宣伝費調査書」「広告宣伝費調査書(その他所得)」「租税公課調査書」「租税公課調査書(その他所得)」「交際接待費調査書」「新聞図書費調査書(その他所得)」「諸会費調査書(その他所得)」「顧問料調査書(その他所得)」「支払手数料調査書」「支払手数料調査書(その他所得)」「管理料調査書(その他所得)」「販売促進費調査書」「販売促進費調査書(その他所得)」「営業費調査書」「営業費調査書(その他所得)」「割賦手数料調査書」「燃料費調査書(その他所得)」「雑費調査書」「雑費調査書(その他所得)」「受取利息調査書」「受取利息調査書(その他所得)」「雑収入調査書」「雑収入調査書(その他所得)」「受取家賃調査書」「支払利息調査書」「支払利息調査書(その他所得)」「貸倒損失調査書」「車両除却損調査書」「車両売却調査書」「雑損失調査書」「事業税認定損調査書」「事業税認定損調査書(その他所得)」「減価償却費超過額調査書(その他所得)」「交際費限度超過額調査書」「損金算入地方税調査書(その他所得)」「納税充当金から支出した事業税調査書(その他所得)」「過年度事業税加算もれ調査書(その他所得)」「損金算入法人税調査書(その他所得)」「損金算入附帯税調査書(その他所得)」「計算誤びゅう法人税額調査書(その他所得)」「課税土地譲渡利益金調査書」及び「課税土地譲渡利益金調査書(その他所得)」と題する各書面
判示第一の事実について
一 被告人榎戸進平の検察官に対する昭和六三年六月一四日付け供述調書
一 大蔵事務官作成の被告会社昭和五八年四月期分脱税額計算書
一 押収してある被告会社同期分法人税確定申告書一綴り(昭和六三年押第二四六号の1)
判示第二の事実について
一 被告人榎戸進平の検察官に対する昭和六三年六月一五日付け供述調書
一 大蔵事務官作成の被告会社昭和五九年四月期分脱税額計算書
一 押収してある被告会社同期分法人税確定申告書一綴り(同押号の2、4)
判示第三の事実について
一 被告人榎戸進平の検察官に対する昭和六三年六月一五日付け供述調書―前掲
一 大蔵事務官作成の被告会社昭和六〇年四月期分脱税額計算書
一 押収してある被告会社同期分法人税確定申告書一綴り(同押号の3)
(法令の適用)
被告人永橋良夫及び被告人榎戸進平の判示各所為はいずれも刑法六〇条、法人税法一五九条一項に該当するところ、所定刑中各懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条によりいずれも犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をし、その各刑期の範囲内で被告人永橋良夫を懲役一年六月に、被告人榎戸進平を懲役一年にそれぞれ処し、被告人榎戸進平に対し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。
次に、被告会社は、法人税法一六四条一項により判示各罪につきいずれも同法一五九条一項の罰金刑を科せられるところ、情状により同法一五九条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪の罰金額を合算し、その金額の範囲内で被告会社を罰金一億円に処することとする。
(量刑の理由)
本件は、被告人永橋良夫及び被告人榎戸進平が、ほか一名と共謀の上、三事業年度にわたり、被告会社の業務に関して合計四億二〇〇〇万円余の巨額の法人税をほ脱した重大事案であり、その犯行態様も、あらかじめ正規の法人税額よりも少額の申告税額を設定し、それに見合うように所得金額の数字を操作するいわゆるつまみ申告の方法をとり、かつ、高額の課税土地譲渡利益金を完全に除外して秘匿し、脱税を図ったものであって、大胆にして悪質であり、これによる正規の税額に対するほ脱率は三事業年度を平均して約九六・六パーセントの高率に及んでいる。したがって、被告会社が、本件犯行後に修正申告をし、重加算税を含む税金の全額を完納していること、現在では、その経理体制を改善して誠実に納税義務を果していること、交通安全協会に約金五〇〇万円を寄付していること等の情状を考慮しても、被告会社を罰金一億円に処するのが相当である。被告人永橋良夫及び被告人榎戸進平については、更に、以下の諸事情を付加してそれぞれの刑責を検討する。
被告人永橋良夫は、被告会社の代表取締役として、会社運営資金を確保するために本件脱税を企てたというのであるが、かかる犯行の動機に同情の余地はない(かえって、被告会社の所得の一部を私的な女性との交際費に使うなどしており、本件脱税により私的利益を得たと評価し得る一面がある。)。そして、同被告人は、具体的な計数操作等の脱税工作には殆ど関与しなかったとはいえ、これを共犯者に指示して実行させ、最終的に判示のような申告額を決定したのであって、首謀者と目され、以上によれば、同被告人の刑責は特に重いというべきである。したがって、同被告人は、本件発覚後、国税局の査察に協力し、被告会社の経理体制を改善した上、被告会社代表取締役を辞任するなどして、反省の態度を示していること、これまで二個の罰金以外に前科がないこと等の有利な諸情状を十分斟酌しても、同被告人を懲役一年六月の実刑に処するのが相当である。
被告人榎戸進平は、会計事務所事務員若しくは税理士の立場にあったもので、かりそめにも脱税工作に加担するようなことをすべきでないのに、本件において、脱税のための具体的な計数操作を行うなど重要な役割を果しており、同被告人の刑責も重いというべきである。しかしながら、一方に、同被告人は、指示されて脱税工作に関与したという意味で本件犯行の首謀者ではなく、定期的な顧問料以外に格別の報酬など得ていないこと、その後、税理士の登録を抹消するなどして反省の態度を示していること、前科がないこと等の有利な諸情状があり、彼此勘案すれば、同被告人を懲役一年に処し、三年間その刑の執行を猶予するのが相当である。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 神田忠治 裁判官 林敏彦 裁判官 田邊浩典)
別表1
<省略>
別表2
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別表3
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