千葉地方裁判所 昭和63年(行ウ)12号 判決 1991年2月25日
千葉県千葉市末広四丁目一八番一八号
原告
花島武宣
右訴訟代理人弁護士
平岩正史
同
服部弘
千葉県千葉市新宿二丁目六番一号
被告
千葉東税務署長 池田弘
右控訴代理人弁護士
古屋紘昭
右指定代理人
田口紀子
同
小野雅也
同
飯塚実
同
五島清
同
田中偉嘉
同
吉田良一
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が昭和六一年七月三〇日付けで原告の昭和五九年分所得税についてした更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(昭和六二年二月一七日付けでされた更正処分及び過少申告加算税の決定処分により変更され、審査裁決により一部取り消された後のもの)をいずれも取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第二当事者の主張
一 請求の原因
1 原告は、昭和六〇年三月一五日、被告に対し、別表1の1及び1の2のとおり昭和五九年分の所得税の申告をした。
2 被告は、昭和六一年七月三〇日付けで、原告の昭和五九年分の所得税について別表2のとおり更正処分及び過少申告加算税の割賦決定処分をした。
3 原告は、昭和六一年九月二七日、被告に対し、右更正処分及び過少申告加算税の割賦決定処分の取消しを求めて異議申立てをしたが、被告は、同年一二月二五日付けで異議申立てを棄却する旨決定した。
4 原告は、昭和六二年一月二〇日、国税不服審判所長に対し、右更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分の取消しを求めて審査請求をした。
5 被告は、右審査請求申立後、昭和六二年二月一七日付けで、右更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分につき別表3のとおりとする減額の更正処分(以下、右更正処分により変更された昭和六一年七月三〇日付けの更正処分を「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の額を変更する決定(以下、右決定により変更された昭和六一年七月三〇日付けの過少申告加算税の賦課決定処分を「本件過少申告加算税の賦課決定処分」といい、これと本件更正処分を併せて「本件更正等処分」という。)をした。
6 国税不服審判所長は、昭和六三年五月二七日付けで、右更正等処分につき、別表4のとおり一部を取り消す旨裁決(以下「本件裁決」という。)をし、右裁決書は、昭和六三年六月四日、原告に送達された。
7 本件更正等処分(本件裁決により一部取り消された後のもの)は、租税特別措置法(以下「措置法」という。)三五条一項及び三七条一項の解釈適用を誤ったものであり、違法である。
よって、原告は、被告の本件更正等処分の取消しを求めるものである。
二 請求の原因に対する認否
1 請求の原因1ないし6の事実は認める。
2 請求の原因7は争う。
三 抗弁
1 所得金額について
原告の昭和五九年分の所得金額は、別表5のとおりである(その内訳は以下のとおり)。
(一) 農業所得の金額 〇円
(二) 営業所得の金額 〇円
(損益通算前 △二一五万五四八二円)
右金額は、旅館経営にかかる所得であり、原告が確定申告書に記載した金額である。
(三) 不動産所得の金額 〇円
(損益通算前 一〇二万二八二五円)
右金額は、不動産賃貸にかかる所得であり、原告が確定申告書に記載した金額である。
(四) 長期譲渡所得の金額(分離課税分) 一億〇六八二万五四六三円
原告が、昭和五九年一〇月二五日に伊和商事株式会社(以下「伊和商事」という。)に対して千葉県千葉市千種町三番の土地一四八七・六〇平方メートル(以下「甲土地」という。)及び同土地上にある家屋番号同町同番地三番の家屋一二三・二七平方メートル(以下「本件家屋」という。)を、同月三日に下田重次(以下「下田」という。)に対して同町四番一の土地一〇〇一平方メートル及び同番二の土地四九五平方メートル(以下、右二筆の土地を併せて「乙土地」という。)をそれぞれ売却したことに基づくものであるが、その計算根拠は、別表6のとおりである(以下、甲土地と乙土地を併せて「本件土地」、本件土地と本件家屋を併せて「本件譲渡資産」という。)。
なお、被告は、別表6中の譲渡収入金額、取得費及び譲渡費用等の算出に当たって、甲土地の三〇パーセント(別紙本件土地略図1の甲土地のうちのA地部分。以下「A地部分」という。)及びその上に存する本件家屋については、原告が右の伊和商事との譲渡契約締結の時まで居住の用に供していたので、措置法三五条一項に規定する居住用財産の特別控除の特例を適用し、また、乙土地のうち五〇〇平方メートル(別紙本件土地略図1の乙土地のうちのE地部分。以下「E地部分」という。)については、原告が右の下田との譲渡契約締結の時まで有限会社エコーズ(以下「エコーズ」という。)に対して賃貸の用に供していたので、措置法三七条一項に規定する特定の事業用資産の買換えの特例を適用した。しかし、その余の本件譲渡資産は、事業用資産に該当しない。すなわち、(ア)原告とエコーズとの間の昭和五五年一二月一日付け土地建物一時賃貸借契約書には、その対象の土地として同市千種町四番地の内五〇〇m2と記載されていて、E地部分にエコーズが右契約に反して事実上使用していた部分は存在しない。また、原告がエコーズとの間で別紙本件土地略図1の乙土地のうちのD地部分(以下「D地部分」という。)の一部につき新たな賃貸借契約を締結したこともないのであるから、原告が単にエコーズの使用状態を黙認していただけで該部がエコーズに有償で貸与されたことになるわけではなく、したがって該地が原告の事業用資産でないことはいうまでもない。加えて、(イ)本件土地略図1の甲土地のうちのC地部分(以下「C地部分」という。)とD地部分は、前記譲渡の時まで農業用の土地としては耕作されていなかった。また、原告がC地部分の一部において家庭用としてとうもろこしを作っていたとしても、措置法三七条一項にいう「事業の用に供するもの」とは営利を目的として自らの危険と計算において継続的に行う業務のために使用することをいうのであるから、右のごとき家庭用菜園は事業用資産とはいえない。
(1) 譲渡収入金額
原告の伊和商事に対する甲土地と本件家屋の売買代金は、七八九六万六六〇〇円と一五〇〇万円(合計九三九六万六六〇〇円)であり、下田に対する乙土地の売買代金は九五〇三万三四〇〇円であって、本件譲渡資産の譲渡収入総額は一億八九〇〇万円である。
被告は、本件譲渡資産につき、それぞれ居住用財産の特別控除の特例及び買換えの特例を適用し、その余の資産と区別し、別表7のとおり収入金額をそれぞれ区分した。
(2) 取得費
イ 本件土地の取得費
本件土地は、原告が昭和二七年一二月三一日以前に取得した土地であるので、右土地の取得費の額は、措置法三一条の四(昭和六三年法律第四号による改正前のもの)第一項(長期譲渡所得の概算取得費控除)の規定を適用して別表8のとおり算出した。
ロ 本件家屋の取得費
原告は、昭和四二年六月三〇日に同市千種町五〇所在の原告所有の畑二反一畝二歩を八一九万円で譲渡して昭和四三年一月一〇日に本件家屋を取得したが、昭和四二年分所得税の確定申告に当たって、措置法三五条(昭和四四年法律第一五号による改正前のもの)の規定による居住用財産の買換えの特例を選択適用した。そのため、本件家屋は従前の取得費の額を引き継ぐことになる(同法三七条(昭和四四年法律第一五号による改正前のもの))ので本件譲渡時の本件家屋の取得費の額は別表9のとおり算出した。
ハ したがって、本件譲渡資産の取得費は、別表10のとおりとなる。
(3) 譲渡費用の額
立退関連費用一五五〇万円及び建物除去損失一八九万四三四〇円の合計金額一七三九万四三四〇円は事業用資産であるE地部分にかかるものであり、販売企画料三二三万二九〇〇円は甲土地及び乙土地の譲渡費用である(以上はいずれも原告が確定申告に当たり譲渡費用に計上した金額と同額である。)ので、居住用財産、事業用資産及びその他の資産に対応する収入金額の譲渡収入総額に占める割合をもって別表11のように算出した。
なお、右費用の資産の用途別、種目区別内訳は、別表12のとおりである。
(4) 買換資産の取得価格
原告が昭和五九年六月二六日に事業用資産を一億四三一九万三〇七二円で取得したとして、本件譲渡資産の申告に当たり確定申告書に計上したものである。
(5) 損失金額及び純損失の繰越控除
原告の昭和五九年分の損失金額(総所得金額の赤字)一一三万二六五七円と昭和五八年分の純損失金額九四四万六三七四円の合計一〇五七万九〇三一円である。
(6) 居住用財産の特別控除
措置法三五条一項一号に基づく特別控除額である。
2 本件更正処分の適法性について
原告の昭和五九年分の所得金額(分離課税に係る長期譲渡所得)は、別表6の譲渡所得合計欄のとおり一億〇六八二万五四六三円であるところ、本件更正処分が本件裁決により一部取り消された後の所得金額一億〇五六五万八〇一一円は、これの範囲内であるから、本件更正処分は適法である。
3 本件過少申告加算税の賦課決定処分の根拠及び適法性について
被告は、原告が本件更正処分により納付すべきこととなる税額二七一六万円(本件裁決により一部取り消された後のもの。国税通則法(以下「通則法」という。)一一八条三項の規定により一万円未満の端数切捨て。以下同じ。)を基礎として同法六五条一項に基づき右金額に一〇〇分の五の割合を乗じて算出した金額一三五万八〇〇〇円と同条二項に基づき右納付すべきこととなる税額二七一六万円のうち五〇万円を超える部分の金額二六六六万円に一〇〇分の五の割合を乗じて算出した金額一三三万三〇〇〇円を合計した金額二六九万一〇〇〇円(本件裁決により一部取り消された後のもの)を過少申告加算税として賦課決定したものであるから、本件過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。
四 抗弁に対する認否
1(一) 抗弁1の(一)の事実は否認する。原告には、農業所得として一五万七五〇〇円があった。
(二) 同1の(二)及び(三)の事実は認める。
(三) 同1の(四)のうち、原告が昭和五九年一〇月二五日に伊和商事に対して甲土地と本件家屋を代金七八九六万六六〇〇円と一五〇〇万円(合計九三九六万六六〇〇円)で、同月三日に下田に対して乙土地を代金九五〇三万三四〇〇円でそれぞれ売却したこと、本件譲渡資産のうち、A地部分及び本件家屋が措置法三五条一項の居住用財産であり、E地部分が同法三七条一項の事業用資産であること、本件土地が原告において昭和二七年一二月三一日以前に取得した土地であること、本件譲渡費用の総額が二〇六二万七二四〇円であること、うち、立退関連費用一五五〇万円及び建物除却損失一八九万四三四〇円の合計一七三九万四三四〇円がE地部分に関するものであること、その余の譲渡費用が三二三万二九〇〇円であること、(4)ないし(6)の事実は認め、その余は否認する。
本件譲渡資産のうち、A地部分、本件家屋及びE地部分を除く部分(別紙本件土地略図2の地部分(以下「地部分」という。)、
(1)ア 地部分について
地部分には納屋が置かれ、その中には、
イ
原告は、次に述べるとおり、本件土地を譲渡するころまで、
(ア)原告は、昭和二二年ごろ、本件土地を含む付近一帯を耕作する目的で入植し、いも、麦、大根等穀物、野菜を栽培する農業を営んでいた。
(イ)そして、原告は、国から、昭和二七年二月一九日付けで自作農創設特別措置法四一条の規定により本件土地の売渡しを受け、以後、本件土地を自己所有の農地として耕作を行ってきた。
(ウ)その後、
ウ
エコーズは、昭和五五年一二月に賃貸した物件のみならず
(2) したがって、譲渡収入金額の区分は別表13のとおりとなり、本件譲渡資産の取得費は別表14のとおりとなり、本件譲渡資産の譲渡費用の区分は別表15のとおりとなる。
2 抗弁2及び3は争う。
第三証拠
本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の各記載を引用する。
理由
一 請求の原因1ないし6の事実は、当事者間に争いがない。
二 本件更正処分について
1 所得金額について
(一) 抗弁1(二)及び(三)の事実は、当事者間に争いがなく、原告の昭和五九年分の農業所得が〇円であったことは、次の(二)(1)イに判示するとおりである。
したがって、原告の々年分の所得の区分及び額は、別表5のとおりである。
(二) 長期譲渡所得の金額について
(1)ア原告が昭和五九年一〇月二五日に伊和商事に対して甲土地と本件家屋を代金七八九六万六六〇〇円と一五〇〇万円(合計九三九六万六六〇〇円)で、同月三日に下田に対して乙土地を代金九五〇三万三四〇〇円でそれぞれ売却したこと、本件譲渡資産のうち、甲土地の三〇パーセントを占めるA地部分及び本件家屋が措置法三五条一項の居住用財産であり、E地部分五〇〇平方メートルが同法三七条一項の事業用資産であることは、当事者間に争いがない。
イ そこで、次に、本件譲渡資産のうち、B地部分、C地部分及びD地部分が措置法三七条一項の事業用資産に該当しないかについて検討する。
(ア)C地部分及びD地部分について
いずれも成立(乙第八ないし第一〇号証の各一ないし三については、原本の存在・成立共)に争いのない甲第六号証の二、乙第二号証、第三号証の一、第六、第七号証、第八ないし第一〇、第一二、第一三号証の各一ないし三、第一五号証の二、第一八号証(ただし、一部)、建設省国土地理院の昭和五六年一〇月四日千葉地区撮影の空中写真撮影記録であることに争いのない甲第六号証の一、同院の昭和五四年六月二二日同地区撮影の空中写真撮影記録であることに争いのない乙第一五号証の一、弁論の全趣旨により真正に成立(乙第一、第五号証については、原本の存在・成立共)したものと認められる甲第五号証(ただし、一部)、乙第一、第五号証、証人高倉英俊の証言により吉田哲夫が昭和五九年九月二二日に本件土地を撮影した写真であることが認められる乙第三号証の二、右証言、原告本人尋問の結果(ただし、一部)並びに弁論の全趣旨を総合すると、本件土地は、市街化区域で工業地域であること、C地部分を含む甲土地の登録簿上の地目は、宅地であること、昭和五四年六月二二日の時点で、C地部分の北側には樹木が帯状に植栽されており、その南の東側の約半分とD地部分の北東のある程度の広さを持つ一画は、二、三年間農地として利用されていない耕作放棄地(荒地)であり、E地部分には建物が二棟建っていて、その東側すなわちD地部分の南側部分は、空地になっていたこと、原告は、昭和五五年一二月一日、エコーズに対し、E地部分五〇〇平方メートル及びその地上の右建物二棟を賃貸したが、その当時既にD地部分の東側部分は、砂利の置場になっており、西側部分は、空地になっていたこと、D地部分の東側部分は、その後、重機械の置場にもなっていたこと、原告は、昭和五六年三月、乙土地(ただし、地積は一四・八五アール)からの農業所得四万四三四六円を含む昭和五五年分の所得税の確定申告をしたが、昭和五六年ないし昭和五八年分の各所得税の確定申告は農業所得を全く計上していないこと、昭和五九年九月当時D地部分には砂利が敷かれていて、駐車場及びE地部分の通路として使用されており、C地部分の三〇坪ないし五〇坪程度のところに家庭用と思われる野菜類、とうもろこしが栽培されていたこと、中央信託銀行株式会社船橋支店不動産課長馬場某は、同月二二日、本件土地を実地調査し、乙土地を空地、甲土地を空地、宅地と判断していることを認めることができ、撮影者、撮影日時不明の本件土地及びその周辺を撮影した写真である甲第七号証及び乙第一八号証中の前記昭和五六年一〇月九日撮影の空中写真撮影記録中のC地部分及びD地部分の西側部分に当たる部分に縦に平行な線が認められるので畑とも判読できるが畑とは断定できないとの記載部分は、いまだ右認定を左右するに足りるものとはいえないし、右認定に反する甲第一ないし第五号証、乙第一三号証の一の各記載部分及び原告本人の供述部分はいずれも採用できないし、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。右の事実によれば、C地部分及びD地部分は、本件土地の譲渡よりもかなり以前、少なくとも譲渡の準備をするのに要する相当の期間より前から、原告の事業としての農業の用に供されていなかったものといわなければならない。
(イ)B地部分について
前掲乙第八号証の一、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第二号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は、昭和二七年ごろに国から自作農創設特別措置法により宅地を含めて約二町歩の土地の売渡しを受けたが、その後何回かに分けてその一部を売却し、昭和五六年二月に千葉県千葉市千種町一六の一ほか六筆の畑を売却した後に所有していた登記簿上の地目が農地である土地は、乙土地のみであったことを認めることができるところ、右事実に(ア)に判示した、本件土地の譲渡よりもかなり以前からC地部分及びD地部分は原告の事業としての農業の用に供されていなかった事実を併せ考えると、B地部分も農業耕作用の農機具の納屋の敷地等に使用されていなかったことを推認することができ、右推認に反する甲第一、第五号証の各記載部分及び原告本人の供述部分はいずれも採用することができず、他に右推認を動かすに足りる証拠はない。したがって、B地部分が農業用作業地として原告の事業としての農業としての農業の用に供されていた土地ということはできない。
(ウ)そうすると、本件土地のうちB地部分、C地部分及びD地部分は、措置法三七条一項の事業用資産に当たらないというべきである。
(2)以上の事実を前提にして、原告の長期譲渡所得の金額について検討する。
ア 譲渡収入金額
原告の伊和商事に対する甲土地の売買代金額が七八九六万六六〇〇円であり、原告の下田に対する乙土地の売買代金額が九五〇三万三四〇〇円であり、居住用財産であるA地部分の甲土地に占める割合が三〇パーセントであり、乙土地とE地部分の各地積が一四九六平方メートルと五〇〇平方メートルであり、本件譲渡資産の売買代金の総額が一億八九〇〇万円であることは前に判示したとおりであり、これを前に判示した居住用財産、事業用財産、その他の資産に区分すると、別表7のとおりになる。
イ 取得費
(ア)本件土地の取得費
原告・伊和商事間の甲土地の売買代金額及び原告・下田間の乙土地の売買代金額は前に判示したとおりであり、本件土地が原告において昭和二七年一二月三一日以前に取得した土地であることは、当事者間に争いがない。したがって、本件土地の取得費の額は、措置法三一条の四(昭和六三年法律第九号による改正前のもの)第一項の規定により別表8のとおりになる。
(イ)本件家屋の取得費
成立に争いのない乙第一一号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は、昭和四二年六月三〇日に同市千種町五〇所在の原告所有の畑二反一畝二歩を八一九万円で譲渡して、昭和四三年一月一〇日に本件家屋を取得したが、昭和四二年分の所得税の確定申告に当たって措置法三五条(昭和四四年法律第一五号による改正前のもの)の規定による居住用財産の買換えの特例の適用を選択したこと、こうして、本件家屋については同法三七条(昭和四四年法律第一五号による改正前のもの)により従前の資産の取得費の額を引き継ぐことになったので、当時の千葉税務署資産税係橋本仁也は、昭和四三年一二月二五日、原告の昭和四二年分の所得税の確定申告書譲渡所得調査書を基に、同条により算出した従前の資産の取得の額を三万八六二九円としたことを認めることができる。したがって、本件家屋の譲渡時におけるその取得の額は、同条の規定を適用して別表9のとおりになる。
(ウ)そして、(ア)及び(イ)の取得費を前に判示した居住用財産、事業用資産及びその他の資産の各金額に応じて区分すると、別表10のとおりになる。
ウ 譲渡費用の額
譲渡費用の総額が二〇六二万七二四〇円であること、うち立退関連費用一五五〇万円及び建物除却損失一八九万四三四〇円の合計一七三九万四三四〇円がE地部分に関するものであること、その余の譲渡費用が三二三万二九〇〇円であることは当事者間に争いがないから、これを前に判示した居住用財産とその額、事業用資産とその額及びその他の資産とその額に対応する収入金額の譲渡収入総額に占める割合により区分すると、別表11のとおりになる。
エ 抗弁1(四)(4)ないし(6)の事実は、当事者間に争いがない。
(3)長期譲渡所得の金額
右の(2)に判示したところにより、長期譲渡所得の金額は、別表6のとおり一億〇六八二万五四六三円になる。
2 本件更正処分の適法性について
以上から、原告の昭和五九年分の所得金額は別表5のとおりとなり、本件長期譲渡所得の金額の計算において、B地部分、C地部分及びD地部分について措置法三七条一項の適用を否定して、原告の昭和五九年分の所得金額を一億〇六八二万五四六三円の範囲内である一億〇五六五万八〇一一円とした本件裁決により一部取り消された後の本件更正処分は、結局適法であるといわなければならない。
三 本件過少申告加算税の賦課決定処分について
原告が昭和六〇年三月一五日に被告に対して別表1の1及び1の2のとおり昭和五九年分の所得税の期限内申告書を提出したこと、被告が昭和六一年七月三〇日付け及び昭和六二年二月二七日付けで別表2及び3のとおり本件更正処分をしたこと、国税不服審判所長が昭和六三年五月二七日付けで本件更正等処分について別表4のとおり本件裁決をしたこと、本件更正処分が適法であることは、前に判示したとおりである。したがって、被告が通則法六五条一項に基づいて本件裁決により一部取り消された後の本件更正処分により納付すべきこととなった所得税額二七一六万円に一〇〇分の五の割合を乗じて算出した一三五万八〇〇〇円と、同条二項に基づいて右の二七一六万円のうち五〇万円を越える部分の二六六六万円に一〇〇分の五の割合を乗じて算出した一三三万三〇〇〇円を合計した二六九万一〇〇〇円を過少申告加算税として賦課した処分は適法である。
以上のとおりであって、被告が昭和六一年七月三〇日付けで原告の昭和五九年分の所得税についてした更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(昭和六二年二月一七日付け更正処分により所得税額等を減額され決定により過少申告加算税の額を変更され、本件裁決により一部取り消された後のもの)は結局適法であり、原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 並木茂 裁判官 春日通良 裁判官 石原寿記)
別表一の一
確定申告額
<省略>
別表一の二
譲渡所得の明細
<省略>
別表二
昭和六一年七月三〇日付け更正処分及び 過少申告加算税賦課決定
<省略>
別表三
昭和六二年二月一七日付け更正処分及び 過少申告加算税賦課決定
<省略>
別表四
昭和六三年五月二七日付け 国税不服審判所長の裁決
<省略>
別表五
原告の昭和五九年分所得金額
<省略>
別表六
長期譲渡所得の金額(分離課税分)の計算根拠
<省略>
別表七
譲渡収入金額
<省略>
別表八
本件土地の所得費
<省略>
別表九
本件家屋が引き継ぐ従前の資産の取得費
<省略>
別表一〇
本件譲渡資産の取得費
<省略>
別表一一
本件譲渡資産の譲渡費用の額
<省略>
別表一二
本件譲渡資産の譲渡費用の用途別、費目別内訳
<省略>
別表一三
譲渡収入金額の区分(原告主張分)
<省略>
別表一四
本件譲渡資産の取得費(原告主張分)
<省略>
別紙一五
本件譲渡資産の譲渡費用の区分(原告主張分)
<省略>
別紙本件土地略図 1
<省略>
別紙本件土地略図 2
<省略>