千葉地方裁判所 昭和63年(行ウ)13号 判決 1991年2月28日
千葉県市川市北方二丁目一番一三号
原告
島村好子
東京都江戸川区平井四丁目七番一三号
原告
島村康雄
同所
原告
島村克之
同所
原告
島村孝之
右四名訴訟代理人弁護士
岩﨑精孝
千葉県市川市北方一丁目一一番一〇号
被告
市川税務署長 鹿野一郎
右訴訟代理人弁護士
高田敏明
右指定代理人
合田かつ子
同
小野雅也
同
飯塚実
同
鈴木秀良
同
砂川功
同
酒井敏夫
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が昭和六二年三月四日付で島村延壽の昭和五九年分の所得税についてした更正及び過少申告加算税の賦課決定処分のうち、納付すべき税額五七一三万三四〇〇円過少申告加算税五六八万八〇〇〇円を超える部分を取消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求の原因
1 原告らの父島村延壽の昭和五九年度所得税について、同人のした確定申告、これに対し被告が昭和六二年三月四日付でした更正(以下「本件更正」という。)及び過少申告加算税の賦課決定(以下「本件決定」という。)並びに国税不服審判所長がした審査裁定の経緯は別表(一)のとおりである。
2 しかし、本件更正は、島村延壽の昭和五九年度における所得を過大に認定したものであるから、違法であり、従って、また、本件更正を前提としてされた本件決定も違法である。
3 島村延壽は、昭和六三年五月一一日に死亡し、原告らは、いずれも同人の子である。
4 よって、原告らは、請求の趣旨一に記載の範囲で本件更正及び本件決定の取消を求める。
二 請求の原因に対する答弁
請求の原因1、3は認め、その余は争う。
三 抗弁
(本件更正の根拠及び適法性について)
1 総所得金額について
島村延壽は、その給与所得九七万二〇〇〇円を昭和五九年分の総所得金額として、確定申告書に記載して申告した。
2 分離課税の長期譲渡所得金額について
(一) 株式会社秀倫に対する譲渡収入金額について
(1) 島村延壽は、株式会社秀倫に対し、昭和五九年八月二八日、別紙物件目録(一)記載のアないしキの土地(以下「本件土地(一)アないしキ」という。)を、代金総額五二万二一五三円で売り渡した。
(2) しかし、右売買代金は、本件土地(一)アないしキの所在地である東京都江戸川区平井の宅地の売買代金としては極めて低額であったので、被告は、以下に述べる方法により、本件土地(一)アないしキの時価を一億四七六五万五五四六円と算定した。
すなわち江戸川区平井に存する地価公示法の規定に基づく標準地(以下「標準地」という。)は別表(二)に記載されたaないしbの四か所であるところ、右標準地の公示価格と右標準地における相続財産評価基準の路線価とを対比して比準倍率の平均値を一・六七倍とした。なお、各標準地の所在地及び公示価格と路線価との対比の一覧は別表(二)のとおりである。
次に、右公示価格及び路線価は、昭和五九年一月一日を基準日としているところ、本件土地(一)アないしキは、前述のように同年八月二八日に取引されているので、昭和五九年一月一日の公示価格と昭和六〇年一月一日の公示価格を対比して対前年比を求め、その平均値一〇一・七パーセントを算出し、それを基に取引時点である八月までの時点修正率を一・〇一一倍とした。
さらに、昭和五九年度分の路線価を基に、相続税財産評価に関する基本通達(昭和三九年四月二五日付直資五六号外)に定める方法で、別表(三)のとおり一平方メートル当たりの相続税評価額を算定した。
以上の数値を前提に、被告は、右相続税評価額に前記の公示価格比準倍率一・六七倍及び時点修正率一・〇一一倍を乗じ、本件土地(一)アないしキの土地の時価を別表(三)のとおり算定した。
(3) 被告は、本件土地(一)アないしキの譲渡に係る譲渡所得の金額の計算について、本件土地(一)アないしキの譲渡が所得税法五九条一項二号及び同法施行令一六九条に該当するので、右算定した時価一億四七六五万五五四六円で譲渡されたものとみなしたものである。
(二) 有限会社進円商会に対する譲渡収入金額について
(1) 島村延壽は、有限会社進円商会に対し、昭和五九年三月二八日、別紙物件目録(二)記載の土地(以下「本件土地(二)アないしウ」という。)を代金総額六五万三九〇八円で売渡した。
(2) しかし、右売買代金は、前記(一)の株式会社秀倫に対する売却同様、極めて低額であったので、被告は前記(一)記載同様の方法により、公示価格の路線価に対する比準倍率の平均値を一・六七倍、時点修正率を一・〇〇四倍とし、本件土地(二)アないしウの利用状況を勘案して前記基本通達に則って本件土地(二)アないしウの一平方メートル当たりの相続税評価額を算定したうえ、これに、前記比準倍率の平均値及び時点修正率を乗じ、その時価を別表(四)のとおり一億五九五六万八三一〇円と算定した。
(3) 被告は、本件土地(二)アないしウの譲渡に係る譲渡所得の金額の計算については、本件土地(二)アないしウの譲渡が所得税法五九条一項二号及び同法施行令一六九条に該当するので、右時価一億五九五六万八三一〇円で譲渡されたものとみなしたものである。
(三) よって、これらの時価を基準とした分離課税の長期譲渡取得金額は以下のとおりである。
すなわち、前述した株式会社秀倫及び有限会社進円商会への土地譲渡に関する譲渡収入金額の合計三億七二二万三八五六円から、租税特別措置法(以下「措置法」という。)三一条の四第一項本文(昭和六三年法律第四号による改正前のもの。以下同様である。)に基づいて右数値に一〇〇分の五を乗じた取得費一五三六万一一九二円を控除し、更に措置法三一条三項(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの。以下同様である。)の規定に基づく特別控除額一〇〇万円を控除すると、本件の分離課税の長期譲渡取得金額は、二億九〇八六万二六六四円となる。
3 所得控除額について
島村延壽の所得控除の合計は九九万五〇〇〇円でその内訳は次のとおりである。
(一) 社会保険料控除額 二八万円
(二) 損害保険料控除額 一万五〇〇〇円
(三) 寄付金控除額 四万円
(四) 扶養控除額 三三万円
(五) 基礎控除額 三三万円
なお、前記(一)、(二)、(四)、(五)の各控除額は、島村延壽が昭和五九年度分の所得税確定申告書に記載した金額であり、(三)の寄付金控除額は、所得税法七八条一項二号に基づき、島村延壽が支出した寄付金額五万円のうち一万円を越える金額四万円を控除の対象として計算したものである。
4 そこで、納付すべき税額を計算すると、前記1の総所得金額九七万二〇〇〇円と前記2の分離課税の長期譲渡所得金額二億九〇八六万二六六四円との合計額から、前記3の所得控除額九九万五〇〇〇円を控除した二億九〇八三万九〇〇〇円(但し、国税通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数は切捨てる。)が課税分離長期譲渡所得金額となり、これに税率を乗じた九〇七九万三三〇〇円(但し、国税通則法一一九条一項の規定により一〇〇円未満の端数は切捨てる。)が、納付すべき税額となる。
5 島村延壽が昭和五九年度分の納付すべき税額は、前記のとおり、九〇七九万三三〇〇円であり、本件更正における金額はいずれも右金額の範囲内であるから本件更正は適法である。
(本件決定の根拠及び適法性について)
被告は、国税通則法六五条一項及び二項に基づき島村延壽が本件更正により納付すべきであるとされた八〇三三万円(国税通則法一一八条三項の規定により一万円未満の端数を切捨てる。)に一〇〇分の五の割合を乗じて算出した四〇一万六五〇〇円及び右税額のうち五〇万円を超える部分の七九八三万円の一〇〇分の五の割合を乗じて計算した三九九万一五〇〇円の合計金額八〇〇万八〇〇〇円を過少申告加算税として賦課決定したものであるから本件決定は、適法である。
四 抗弁に対する認否
(本件更正の根拠及び適法性について)
1 抗弁1は認める。
2 同2(一)の事実のうち、(1)は認める。(2)のうち、東京都江戸川区平井に存する四か所の標準地の公示価格と右標準地における相続税財産評価基準の路線価とを対比して比準倍率の平均値を一・六七倍としたこと、各標準地の所在地及び公示価格と路線価、それらの価格を対比した数値が別表(二)記載のとおりであること、取引時点である八月までの時点修正率が一・〇一一倍であること、本件土地(一)アないしキの昭和五九年度の路線価は別表(三)の<1>の欄に記載された金額であること、右金額を基に相続税財産評価に関する基本通達(昭和三九年四月二五日付直資五六号ほか)に定める方法で、一平方メートル当たりの相続税評価額を算定したこと、算定の結果その価額が別表目(三)の<2>の欄に記載された金額になること、以上の金額を前提に、右相続税評価額に前記の公示価格比準倍率一・六七倍及び時点修正率一・〇一一倍を乗じる方法で本件土地(一)アないしキの土地の時価を算定したこと、算定の結果その価額が別表(三)の<7>の金額になることは認めるが、公示価格比準倍率の妥当性及びこれを基に算出した本件土地(一)アないしキの土地の時価の妥当性は争い、その余は否認する。(3)は争う。
同2(二)の事実のうち、(1)は認める。(2)のうち、被告が抗弁(一)記載同様の方法により、公示価格の路線価に対する比準倍率の平均値を一・六七倍、時点修正率を一・〇〇四倍としたこと、本件土地(二)アないしウの路線価が別表(四)の<2>の欄に記載された金額になること、本件土地(二)アないしウの利用状況を勘案して前記基本通達に則って本件土地(二)アないしウの一平方メートル当たりの相続税評価額を算定したこと、その算定の結果その価額が別表(四)の<4>の欄に記載された金額になること、この金額に、前記比準倍率の平均値及び時点修正率を乗じ、その時価を算定し、その算定の結果その価額が別表(四)の<9>記載の金額になることは認めるが、本件土地(二)アないしウの利用状況、公示価格比準倍率の妥当性及び時価の妥当性は争い、その余を否認する。(3)は争う。
同2(三)の事実のうち、措置法三一条の四第一項本文に基づいて譲渡収入金額に一〇〇分の五を乗じたものが取得費であること、措置法三一条三項の規定に基づく特別控除額が一〇〇万円であることは認め、その余は否認する。
3 同3は認め、同4、5は争う。
(本件決定の根拠及び適法性について)
過少申告加算税額の算定方法は認め、その余は否認する。
五 原告の反論
1 本件土地(一)アないしキの時価算定方法について
(一) 被告が、比較対象地として選定した四か所の標準地は、地理的環境がそれぞれ全く異なっており、また、いずれも本件土地(一)アないしキよりもJR平井駅や駅前通り、蔵前橋通りに近く、地理的環境が良好であるのに、本件土地(一)アないしキは、いずれも荒川放水路の近くに位置し、その地理的環境は非常に悪いものであるから、本件土地(一)アないしキの時価評価をするに当たって、右標準地の公示価格と路線価との比準倍率の平均値を算定の根拠にするのは不当である。
(二) 本件土地(一)アないしキについての路線価との倍率を考える場合は、四か所の標準地のうち、最も本件土地(一)アないしキに地理的環境が類似している平井四丁目八五六番三の土地(別表(二)d)の比準倍率の一・四九を基本にし、さらにこれより本件土地(一)アないしキの地理的環境が悪い点を考慮してその倍率を減ずることが必要である。そして、その減額率は、被告が選定した標準地のうちもっとも高い比準倍率である一・九一倍(別表(二)a)と、前記の倍率一・四九倍との差が〇・四二であり、その加算割合の差が二倍弱であることを考慮すると、被告が主張する公示価格比準倍率の平均値一・六七のうちの加算割合〇・六七を半減した倍率である一・三三五倍とするのが相当である。
2 本件土地(二)アないしウの時価算定方法について
本件土地(二)アのうち、別表(四)アの7の土地(以下「本件土地(二)ア7」という。)については、有限会社進円商会との間の前記売買契約当時、以下のとおり島村妙子名義の借地権が設定されていたので、その時価評価にあたっては、借地割合七〇パーセントを控除して算定すべきである。
すなわち、島村延壽は、昭和二〇年頃、その所有に係る本件土地(二)ア7の土地のうち六一・九二平方メートルの部分を林冨士雄に建物所有目的で貸し渡し、昭和四〇年四月三日、本件土地(二)ア7の土地のうちのその余の部分である一二四・〇八平方メートルを鳥井市太郎(その後借地人名義は鳥井市太郎の子である鳥井實の名義に変更された。)に、賃料一か月二八二〇円、建物所有目的で貸し渡した。
昭和四九年三月二一日、島村妙子(当時の姓は中西)は、島村延壽の承諾を得て、前記の林冨士雄の借地権及びその土地上の建物を、一〇年間同人に右土地建物を無償で使用させることを対価として買い受け、更に、昭和四九年七月二〇日、前記の鳥井實の借地権及びその土地上の建物二棟を代金五〇〇万円で買い受けた。
よって、本件土地(二)ア7には、島村延壽より有限会社進円商会に売却された昭和五九年三月二八日当時、島村妙子の借地権が存在していたから、この点を考慮しない時価評価は誤りである。
六 原告の反論に対する認否
1 原告の反論1(一)のうち本件土地(一)ア、ウ、エ、オ、カが、荒川放水路の近くに位置していること、被告が選定した標準地の一つ(別表(二)a)が蔵前橋通りに近いことは認め、その余は争う。
同1(二)のうち、四箇所の標準地のうちもっとも高い比準倍率である一・九一倍ともっとも低い比準倍率一・四九倍との差が〇・四二であり、その加算割合の差が二倍弱であることは認め、その余は争う。
2 同2のうち、島村延壽が昭和二〇年頃、その所有に係る本件土地(二)ア7の一部を林冨士雄に建物所有の目的で貸し渡したこと、昭和四〇年四月三日本件土地(二)ア7のうちの一二四・〇八平方メートルを鳥井市太郎に賃料一か月二八二〇円、建物所有目的で貸し渡したこと、その後借地人の名義が鳥井市太郎の子である鳥井實の名義に変更されたことは認め、その余は否認する。
(1) 林冨士雄は、島村延壽から原告主張の六一・九二平方メートルの土地を含む一二三・七五平方メートルの土地を賃借して、その土地上に二棟の建物を所有し、内一棟を自宅とし、他の一棟を賃貸用建物として使用していたところ、昭和四九年四月二五日、島村延壽との間で、土地賃貸契約期間が満了する昭和五七年一二月三一日以降の賃貸用建物の敷地六一・九二平方メートルを島村延壽に返還すること、代金六五万八〇〇〇円をもって、自宅敷地部分を島村延壽から買い受ける旨を合意し、昭和五八年一二月、右合意に基づき、林冨士雄は、島村延壽に対し、島村好子が林冨士雄から買い受けたいと主張する前記賃貸用建物敷地部分六一・九二平方メートルを返還した。
従って、林冨士雄が、借地権を含むその地上建物を売却した相手は、島村好子ではなく、島村延壽である。
(3) 鳥井實は、借地上に二棟の建物を所有していた。昭和四九年、これらの建物を第三者に代金約一五〇〇万円で売り渡す契約を締結し、その際地主である島村延壽の承諾を得ようとしたところ、島村延壽のために地代の収受等の管理をしていた島村好子から勝手に売る権利はなく、土地を地主に返すように言われたため、右売買契約を解除し、島村延壽に対し、右建物を借地権とともに代金五〇〇万円で売り渡した。
従って、鳥井實が借地権を含む地上建物を売却した相手は、島村好子ではなく、島村延壽である。
よって、いずれの土地についても、島村好子の借地権は設定されていない。
第3証拠
本件記録中の証書目録に記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 請求の原因1、3の事実は当事者間に争いがない。
二 本件更正の適法性について
1 抗弁1の事実は当事者間に争いがない。
2 株式会社秀倫に対する譲渡収入金額について
抗弁2(一)(1)及び同(2)のうち、被告が江戸川区平井に存する地価公示法の規定に基づく四か所の標準地の公示価格と右標準地における相続税財産評価基準の路線価とを対比して比準倍率の平均値を一・六七倍としたこと、取引時点である八月までの時点修正率を一・〇一一倍としたこと、昭和五九年度分の路線価を基に、相続税財産評価に関する基本通達に定める方法で、別表(三)のとおり一平方メートル当たりの相続税評価額を算定したこと、以上の数額を前提に、被告は、右相続税評価額に前記の公示価格比準倍率一・六七倍及び時点修正率一・〇一一倍を乗じ、本件土地(一)アないしキの時価を別表(三)のとおり算定したことは当事者間に争いがない。
原告らは、本件土地(一)アないしキの時価の点を否認し、その税額を争うので、被告の行った時価評価算定方法の合理性の有無について検討する。
(一) 時価とは、正常な取引価格を指すもので、時価評価算定方法は、類似物件の取引事例との比較等によってするものであるところ、本件では、前述のように江戸川区平井の四か所の標準地の公示価格とその路線価の比準倍率を求めてこの平均を出し、これを基に時価を算出する方法をとっている。地価公示法に基づいた公示価格は、客観的な取引価格に近いものであるが、通常は時価をある程度下回るものであることは公知の事実である。また、右標準地及び本件土地(一)アないしキに沿接する街路の昭和五十九年度の各相続税路線価については当事者間に争いがなく、この相続税路線価によって標準地と本件土地(一)アないしキを直接比較することができるから、標準地が本件土地(一)アないしキと取引上類似の物件であれば、合理性のある方法といえる。
(二) そこで、標準地が、本件土地(一)アないしキと類似の物件か否かを見るに、標準地はいずれも本件土地(一)アないしキと同様の江戸川区平井の地域内に位置しており、標準地の選定にあたっては、平井地区の全ての標準地四か所を対象にして、その比準倍率の平均値を算出していることは当事者間に争いがないから、これに基づいて本件土地(一)アないしキの時価を算定する方法は一応合理性を有するものというべきであり、これに基づいて算定された価格は特段の事情がない限り本件土地(一)アないしキの本来の時価を上回ることはないものということができる。
そして、本件土地(一)アないしキの相続税評価額に、この比準倍率の平均値を乗じた数値が別表(三)記載の数値になることは当事者間に争いがなく、これに、取引時を考慮して時点修正をすることは、時間の経過とともに地価が変動することを考慮すれば、より正常な取引価格を算定する上で適切であると考えられる。
従って、被告の時価算定方法及びこれに基づいて算定した本件土地(一)アないしキの時価は、合理性を有するものである。
(三) ところで、原告らは、標準地は本件土地(一)アないしキよりも地理的環境がよいので、両者を比較する方法で本件土地(一)アないしキの時価を算定するのは相当ではないとしたうえ、本件土地(一)アないしキの公示価格比準倍率を一・三三五倍とすべきであると主張し、その根拠を標準地のうち最も比準倍率の低い一・四九を基本にして、これよりも本件土地(一)アないしキは地理的環境が悪いことに求める。本件土地(一)ア、ウ、エ、オ、カが荒川放水路の近くに位置していること、標準地の一つが蔵前橋通りに近いことは、当事者間に争いがないが、前述したように、四か所の標準地は、本件土地(一)アないしキの所在する江戸川区平井の地域内にある公示価格を示す標準地のすべてであり、その比準倍率の平均値は、右地域内の標準的な比準倍率と考えることができる。そうすると、この標準地と本件土地(一)アないしキとが、地理的環境においてさほどの差異があるとは考えられず、他に右標準地と本件土地(一)アないしキを比較するのが不当であるとする格別の証拠もない。また、それぞれの地理的環境等の違いによってその公示価格、相続税路線価に違いが生ずることになっても、公示価格及び相続税路線価は、それを決定するに当たって地理的環境等をも考慮して決定しているものであることは公知の事実であるから、標準地及び本件土地(一)アないしキのそれぞれの相続税路線価に対する公示価格の比準倍率の数値には、大幅な相違はないと解される。
(四) よって被告が、本件土地(一)アないしキの譲渡に係る譲渡所得を計算するに際し、右土地が一億四七六五万五五四六円で譲渡されたものとみなしたことは正当であるといえる。
3 有限会社進円商会に対する譲渡収入金額について
(一) 抗弁2(二)(1)及び同(2)のうち、被告が抗弁(一)記載の同様の方法により、公示価格の路線価に対する比準倍率の平均値を一・六倍、時点修正率を一・〇〇四倍とし、本件土地(二)アないしウの利用状況を勘案して前記基本通達に則って本件土地(二)アないしウの一平方メートルあたりの相続税評価額を算定したうえ、これに、前記比準倍率の平均値及び時点修正率を乗じ、その時価を別表(四)のとおり一億五九五六万八三一〇円と算定したことは当事者間に争いがない。
(二) 原告らは、本件土地(二)アないしウの時価の点を否認し、時価について争うが、被告の行った時価評価の算定方法が合理性を有するものであることは、前項で認定したとおりである。
(三) 原告らは本件土地(二)ア7については、有限会社進円商会との間の売買契約当時、島村好子の借地権が設定されていたと主張するので、この点について検討する。
(1) 島村延壽が昭和二〇年頃、その所有に係る本件土地(二)ア7の一部を林冨士雄に建物所有の目的で貸し渡したこと、昭和四〇年四月三日、本件土地(二)ア7のうち一二四・〇八平方メートルを鳥井市太郎(その後借地人名義は鳥井市太郎の子である鳥井實の名義に変更された。)に賃料一か月二八二〇円、建物所有目的で貸し渡したことは当事者間に争いがない。
(2) 林冨士雄に対して賃貸していた土地について
島村延壽が林冨士雄に賃貸していた土地につき検討するに、原告らは、島村好子が島村延壽の承諾を得て、林冨士雄の借地権及びその土地上の建物を、一〇年間同人に無償で使用させることを対価として買い取ったと主張し、この趣旨に副う甲第三号証(覚書)、第六号証(土地賃貸借契約書)、第七号証(別件東京地方裁判所昭和六三年(行ウ)一二二号事件での島村好子代表者尋問調書)、第九号証(前記別件における証人萩原俊岳の尋問調書)があるが、右証拠は、以下に述べるとおり、たやすく信用することができず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
<1> 原本の存在とその成立に争いのない乙第一二号により真正に成立したと認められる乙第一一号証によれば、甲第三号証の覚書の「林冨士雄名義の家屋一棟を中西好子が本日買い受ける」旨の記載は、林冨士雄が島村好子から書いてくれと頼まれたから書いたにすぎないことが認められ、また右覚書には、売買の対象物件や代金の記載もない。
<2> 甲第六号証の島村延壽と島村好子との間の土地賃貸借契約書についても、成立に争いのない乙第七号証によれば、右契約書に貼付された収入印紙は昭和五〇年四月以降になって発行された図柄であるから、右契約書が作成されたとする昭和四九年七月当時に作成されたものでないことは明らかである。
<3> 成立に争いのない乙第三号証、第四号証、前掲乙第一二号証により真正に成立したと認められる乙第一〇号証によれば、昭和六一年頃、島村好子が買い取ったと主張する建物を林冨士雄自らが取り壊していること、右建物は取り壊されるまで、登記簿上林冨土雄名義のままであったことが認められ、前記各証拠及び当事者間に争いがない事実によれば、林冨士雄は、島村延壽から賃借していた本件土地(2)ア7のうちの一二三・七五平方メートルの土地上に自宅一棟と貸店舗兼共同住宅一棟を所有していたところ、昭和四九年頃、右土地の賃貸借契約が終了する昭和五七年に、貸店舗兼共同住宅の敷地部分を無償で島村延壽に返還する代わりに、同人より自宅敷地部分を六五万八〇〇〇円で買い取る旨の合意をし、昭和五八年一二月、右合意に基づいて、林冨士雄は、島村延壽に対し、前記賃貸用建物敷地部分を返還したことが認められる。
そうすると、原告らの前記主張は採用できない。
(3) 鳥井市太郎に対して賃貸していた土地について
島村延壽が鳥井市太郎に賃貸した土地につき、検討するに、原告らは、島村好子が昭和四九年七月二〇日に鳥井市太郎の子で後に右賃借人たる地位を承継した鳥井實から、借地権及びその土地上の建物二棟を代金五〇〇万円で買い受けたと主張し、この趣旨に副う甲第四号証の一、二(いずれも建物登記簿謄本)、第五号証の一(建物売買契約書)、二(念書)、第六、第七号証、第九号証があるが、これらは以下述べるとおりたやすく信用することができず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
<1> 甲第四号証の一、二によれば、確かに右建物二棟の最終の登記名義人は西村好子(その後島村に改姓)名義となっているが、一方同各証拠によれば、右建物二棟は鳥井から直接中西好子に移転されたのではなく、鳥井から島村延壽に昭和四九年七月頃の売買を原因とする所有権移転登記がされていることが認められから、これをもって、鳥井實から島村好子への建物譲渡を認めるには足りない。
<2> 甲第五号証の一の建物売買契約書及び甲第五号証の二の念書の買主欄には中西好子と記載されているが、原本の存在と成立に争いのない乙第九号証によれば、鳥井實は、従来から高齢の島村延壽に代わって土地の管理をしていた島村好子から、契約書及び念書の買主欄は中西好子の名にしてくれと頼まれ、売買契約はあくまでも土地所有者である島村延壽との間に締結していることを前提に、今まで賃料も島村好子を通じて島村延壽に支払ってきており、さらに同女が島村延壽と親子関係にあるので買主欄を中西好子と記載しても特に支障はないと判断し、その旨記載したことが認められる。
<3> 前掲乙第九号証によれば、そもそも鳥井實が島村延壽への売買契約を締結したのは、右土地上の建物二棟を第三者に売却しようと島村好子に相談したところ、同女から右建物は地主以外に売却できないといわれたからであることが認められ、また甲第五号証の二の念書のうち鳥井實が記載した冒頭部分の買主欄には島村延壽とされていることなどからしても、鳥井實は右建物の買主は島村延壽と考えていたことが認められるから、前記甲第五証の一、二も原告らの主張を認めるに足りない。
そうすると、原告らの前記主張は採用できない。
4 従って被告が、本件土地(二)アないしウの譲渡に係る譲渡所得の金額の計算について右時価を一億五九五六万八三一〇円とし、右時価で譲渡されたものとみなしたのは正当である。
5 分離課税の長期譲渡所得金額について
抗弁2(三)のうち、措置法三一条の四第一項本文に基づいて譲渡収入金額に一〇〇分の五を乗じたものが取得費であること、措置法三一条三項の規定に基づく特別控除が一〇〇万円であることは当事者間に争いがなく、前記認定したとおり、株式会社秀倫及び有限会社進円商会への土地譲渡に関する譲渡収入金額の計算方法及びその数値は合理性を有するものであるから、本件の分離課税の長期譲渡取得金額は被告主張のとおりの金額となることが認められる。
6 抗弁3(所得控除額について)は当事者間に争いがない。
7 納付すべき税額について
当事者間に争いのない総所得金額九七万二〇〇〇円と所得控除額九九万五〇〇〇円、同2で認定した二億九〇八六万二六六四円の金額を基に、各法に基づいて納付すべき税額を計算すると、島村延壽が昭和五九年度分の納付すべき税額は、九〇七九万三三〇〇円となり、本件更正における金額は右金額の範囲内であるから本件更正は適法である。
三 本件決定の根拠及び適法性について
前記一及び右二によれば、原告らが、納付すべき税額は九〇七九万三三〇〇円であるのに、原告らは、昭和五九年度分の所得税を過少に申告したところ、本件更正により新たに納付すべきであるとされた税額は八〇三三万円であり、これは右納付すべき税額の範囲内であるから、これにつき国税通則法六五条一項及び二項により過少申告加算税の額を算出すると、被告主張のとおり八〇〇万八〇〇〇円となる。従って、これと同額の本件決定は適法である。
四 よって、原告らの本件請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟八九条、九三条一項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 清野寛甫 裁判官 丸山昌一 裁判官 平岩紀子)
物件目録(一)
ア 東京都江戸川区平井一丁目一六八番二
宅地 一三九・四〇平方メートル
イ 同所 一六八番四
宅地 一九四・五一平方メートル
ウ 同所 二〇二番
宅地 三五三・七一平方メートル
エ 同所 二〇六番一
宅地 二九四・五〇平方メートル
オ 同所 二〇六番四
宅地 三四七・九七平方メートル
カ 同所 二〇六番五
宅地 一〇八・六二平方メートル
キ 東京都江戸川区平井二丁目九五一番
宅地 九三・五五平方メートル
物件目録(二)
ア 東京都江戸川区平井三丁目九八三番一
宅地 一一四四・四四平方メートル
イ 同所 九九七番二
宅地 五〇・八七平方メートル
ウ 同所 一〇七一番二
宅地 九九・三八平方メートル
別表(一) 本件課税処分の経緯
<省略>
別表(二) 「比較対象地」
<省略>
別表(三)
<省略>
別表(四)
<省略>