千葉地方裁判所 昭和63年(行ウ)2号 判決 1998年10月14日
原告 三里塚芝山連合空港反対同盟 ほか二名
被告 国、運輸大臣、新東京国際空港公団 ほか一名
右三名代理人 小暮輝信 佐藤陽比古 古川敞 宮崎芳久
主文
一 原告らの被告運輸大臣に対する訴えをいずれも却下する。
二 原告らの被告国、被告千葉県及び被告新東京国際空港公団に対する請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 被告運輸大臣が昭和六二年一一月二七日付けで別紙物件目録記載一の土地(以下「本件土地」という。)上所在の同目録記載二及び三の各建物(以下それぞれを「第一工作物」、「第二工作物」という。)並びにその他一切の工作物を含むところの通称「木の根団結砦」に対してした除去処分(以下「本件除去処分」という。)は、これを取り消す。
二 被告運輸大臣は、被告新東京国際空港公団(以下「被告公団」という。)に対して、本件土地の占有を原告らに回復させるための命令、勧告等適切な措置を講ぜよ(以下「命令・勧告等措置請求」という。)。
三 被告国、被告千葉県(以下「被告県」という。)及び被告公団は、原告三里塚芝山連合空港反対同盟(以下「原告同盟」という。)に対し、連帯して、二〇〇万円及びこれに対する昭和六二年一一月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告国、被告県及び被告公団は、原告同盟に対し、連帯して、昭和六二年一一月二七日から被告公団の本件土地明渡済みまで一か月六三〇〇円の割合による金員を支払え。
五 被告国、被告県及び被告公団は、原告石丸修三(以下「原告石丸」という。)及び原告篠恵子(以下「原告篠」という。)各自に対し、連帯して、五〇万円及びこれに対する昭和六二年一一月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 争いのない事実等
1 当事者
(一) 原告同盟は、新東京国際空港(以下「新空港」ともいう。)建設に反対する三里塚、芝山両地区及び周辺地域の農民その他の住民により昭和四一年七月一〇日に結成され(<証拠略>)、その後新東京国際空港の建設に対する反対運動を行っている(原告らと被告国、被告運輸大臣及び被告公団との間では争いがない。)法人格なき社団である。
(二) 原告石丸及び原告篠(以下「原告両名」という。)は、本件除去処分以前、第一工作物の管理を原告同盟から委託され、これに居住し、原告同盟の行う活動を支援してきた〔<証拠略>〕。
(三) 被告運輸大臣は、新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法(以下「緊急措置法」という。なお、同法は、昭和五九年法律第八七号、昭和六二年法律第五二号、平成五年法律第八九号及び平成七年法律第九一号による各改正が行われているが、各改正箇所は、本件における争点と直接関係がないので、以下においては、後記本件各処分が決定又は執行された当時施行されていた同法がいずれのものであるかの摘示は省略する。)三条八項所定の除去処分をする権限を有するとともに、同法六条一項に基づき、右除去措置事務を被告公団をして実施させる権限を有する。
(四) 被告国は、国家賠償法(以下「国賠法」という。)一条一項により、被告運輸大臣が公権力の行使により故意又は過失によって違法に他人に加えた損害について、賠償責任を負う。
(五) 被告県は、国賠法一条一項により、千葉県警察本部(以下「千葉県警察」ともいう。)所属の警察官が公権力の行使により故意又は過失によって違法に他人に加えた損害について、賠償責任を負う。
(六) 被告公団は、新東京国際空港公団に基づき設立された法人である。
2 原告同盟は、本件土地上に、昭和五二年七月ころ第一工作物を、更に同年秋ころ木造の櫓一基を建築し、昭和五八年三月に櫓の建て替えがされ、昭和六二年一月一七日ころには二期工事監視小屋として第二工作物を、同年二月には櫓三基(高さ約一五メートル、一二メートル、七メートルのもの。)をそれぞれ建築し、同年一一月二三日当時、本件土地上には、第一、第二工作物のほか、第一工作物上の櫓(本件工作物の中央に位置する櫓。以下「五番櫓」という。)を含めて六基の櫓があった〔右各櫓の位置関係は、概ね別紙「木の根団結砦配置図」のとおりである。以下、この「木の根団結砦」の南東角に一番近い櫓を「一番櫓」といい、同砦の南側出入口付近に存する櫓を「二番櫓」といい、五番櫓と渡り廊下で結ばれた北側にある櫓を「三番櫓」といい、一番櫓の西側、五番櫓の南側にある櫓を「四番櫓」といい、五番櫓の西側、二番櫓の北側にある櫓を「六番櫓」という。<証拠略>。以下、昭和五二年七月ころから昭和六二年一一月二七日の本件除去処分までの間に本件土地上に存在した通称「木の根団結砦」といわれる工作物を総称して「本件工作物」という。なお、昭和五二年七月ころ、プレハブ造亜鉛メッキ鋼板葺二階建建物及び櫓一基が本件土地上に建築されていたこと及び昭和六二年一月ころ、プレハブ造亜鉛メッキ鋼板葺平屋建建物及び櫓三基が本件土地上に建築されていたことについては、原告らと被告県を除くその余の被告らとの間では争いがない。〕。
3 被告運輸大臣は、緊急措置法三条一項の規定に基づき、同法二条三項により定められた新空港の範囲の外側三千メートルの線までの規制区域に存在し、滑走路Cの着陸帯予定地として空港建設に必要な本件土地上に存する本件工作物が〔<証拠略>。なお、本件工作物が右規制区域内に存在することは、原告らと被告国及び被告運輸大臣との間で争いがなく、本件土地が滑走路Cの着陸帯予定地として空港建設に必要な土地であることは、原告らと被告県を除くその余の被告らとの間で争いがない。〕、暴力主義的破壊活動者の集合の用に供されるおそれがあると認め、昭和五三年五月一六日付けで本件工作物の所有者、管理者及び占有者に対して、同日から昭和五四年五月一五日までの一年間、本件工作物を緊急措置法三条一項一号の「多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用」に供することを禁止する旨の処分を行い(原告らと被告国及び被告運輸大臣との間では争いがない。)、昭和五四年以降、被告運輸大臣は、毎年一年間の期間による期限を付して、本件工作物を「多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用」又は「暴力主義的破壊活動等に使用され、又は使用されるおそれがあると認められる爆発物、火炎びん等の物の製造又は保管の場所の用」に供することを禁止する命令を本件工作物の所有者、管理者及び占有者に対して継続して発出し、昭和六二年五月一二日付けで、同月一六日から昭和六三年五月一五日までの間、右の用に供することを禁止する使用禁止命令(以下「本件使用禁止命令」という。)を発出した〔<証拠略>。なお、被告運輸大臣が、昭和五三年五月一六日から同六三年五月一五日までの間、緊急措置法三条一項一号又は二号に基づく使用禁止命令を発出したことについては、当事者間に争いがない。)。
4(一) 昭和六二年一一月一六日、被告公団により、木の根地区管理柵設置工事が行われた(<証拠略>。同日、被告公団により一定の工事が行われたことは、原告らと被告国及び被告運輸大臣との間で争いがない。)。
(二) 同月二四日、千葉県警察は本件工作物に対する捜索差押許可状の執行に赴き(原告らと被告県との間では争いがない。)、同日から二六日までの間、千葉県警察は捜索及び犯人逮捕のため本件土地内に入った(<証拠略>)。
(三) 千葉県警察は、右捜索に際し、同年一一月二五日に二名、同月二六日に五名、計七名を逮捕した。
5(一) 被告運輸大臣は、昭和六二年一一月二六日、本件工作物について、緊急措置法三条八項の除去措置を講ずる旨決定し、同日、緊急措置法六条一項に基づき、右の除去措置事務を被告公団に実施させることとした(<証拠略>)。
被告公団は、これに基づいて、同月二七日、本件工作物の除去作業を行い、本件除去処分は終了した。
右除去措置事務遂行の間、千葉県警察本部機動隊(以下「千葉県警察機動隊」又は「機動隊」ともいう。)による警備が行われた。
(<証拠略>。原告らと被告国及び被告運輸大臣との間では争いがない。)
(二) 被告公団は、被告運輸大臣から命令があった、(一)記載の除去措置事務を昭和六二年一一月二七日中に完了し、同日、本件土地の周囲(被告公団所有地)に柵を設け、出入扉を設けるとともに、本件土地は被告公団管理地につき無断立入りを禁ずること及び共有者で立ち入りたい人は被告公団に連絡されたい旨を記載した立看板を設置した(<証拠略>。原告らと被告国、被告運輸大臣及び被告公団との間では争いがない。)。
二 原告らの主張
1 本案前の申立てについて
(一) 本件除去処分取消請求の訴えの利益の存在
被告公団は、緊急措置法三条一〇項等の適用により、本件土地につき、従前より占有してきた者が立ち退かされていた状況及び事実上本件除去処分の実施者として被告公団の職員が立ち入っていた状況の存在を奇貨として、有刺鉄線等で囲い込んで実力で支配し、本件土地が自己の排他的占有物である旨対世的に宣言するに至った。そして、本件除去処分は、後記のように単なる本件工作物の除去のみならず、被告らによって、被告公団が除去措置の事実上の実施者たり得るという緊急措置法の特殊な構造を活用し、民事法上の占有承継あるいは行政代執行等の手続を一切経ることなく、空港建設用地の占有を被告公団に得させるという政治的目的のためにその一環として行われたものである。したがって、本件除去処分の実施に基づく被告公団の占有が継続している限り、本件除去処分は終了していないというべきである。
また、後記(二)のように、被告運輸大臣が、被告公団に対して、本件土地の占有を原告らに回復せしめる命令、勧告等適切な措置を講じ、緊急措置法三条九項、一〇項所定の土地の使用、現場にいる者の退去など、除去措置に際しての一種の付随的処分とみなし得る処分の解除が完了した時、初めて緊急措置法三条八項の処分が完了するというべきである。
原告同盟の構成員は、後記のように、昭和四一年高橋七郎(以下「高橋」という。)から本件土地の贈与を受け、以後本件土地を総有するのであって、被告公団の所有は表見的なものにすぎない(以下、原告同盟の構成員が贈与を受けることを原告同盟が贈与を受けると、右構成員が本件土地を総有することを原告同盟が所有すると表す。)。しかも、表見的には被告公団は多数の持分を有しているものの、当該土地の占有が実力で一時的に排除されたからといって、原告らの占有権が失われるものではなく、仮に被告公団が本件土地に対する所有権又は占有権を有していたとしても、被告公団が行った本件土地の管理行為の現状変更のごとき自救行為は許されない。
そして、被告公団の本件土地占有を許容することは、政治的目的のための土地占有を認めることになるのであって、原告同盟が本訴で求めている損害賠償請求は二次的なものにすぎず、一次的には本件土地の回復を請求するものであり、また、原告両名は、損害賠償によっては回復されない損害を被っており、原告らには、損害賠償では補えない本件土地の占有を回復する必要性が存する。
よって、原告同盟には、本件土地の占有回復、原告両名は、奪われた生活利益の回復という訴えの利益がある。
(二) 被告運輸大臣に対する命令・勧告措置請求について
緊急措置法三条八項による当該工作物の除去処分は、土地上に存在する工作物に対する処分であって、土地に対する権利行使について制約するものではない。したがって、被告運輸大臣は、本件除去処分の執行に当たっても、工作物除去行為以外に被処分者の土地に対する権利行使を妨げることは一切できないのであるから、除去処分執行後は、被処分者が右権利行使につき一切支障がない状態を自ら回復又は現出する責務がある。
緊急措置法六条は、被告運輸大臣はその責務を被告公団に執行せしめることができると規定するが、この規定は、被告運輸大臣が、民間の解体業者に委託するに等しい性質を有し、事柄の性質上被告公団に行わせるのがふさわしいことから右のように規定されたにすぎない。したがって、この場合の被告公団及びその職員は、行政機関としての独立性を有さず、被告運輸大臣の手足となって、現実の撤去作業に従事すべき者であるにすぎない。
よって、この事務代行者が権限を濫用、逸脱して国民の正当な権利行使を妨げているのであるから、被告運輸大臣は、かかる被告公団による職権濫用、逸脱行為を早急に解消せしめるべく、然るべき指導を行う責務を負っているというべきである。
2 緊急措置法の違憲無効による本件除去処分の違法
(一) 緊急措置法は提出から成立まで一六日間、実質審議日数は衆参両議院合わせて三日、時にして一〇数時間という驚くべきもので、法制定の経緯・態様に照らして拙速のそしりを免れず、法全体として違憲無効である。また、以下のとおり、緊急措置法三条一項は憲法二九条一項、二項、三一条に、緊急措置法三条一項一号は憲法二一条一項に、緊急措置法三条一項一号、三号は憲法二二条一項に、緊急措置法三条三項、六項は憲法三五条に、緊急措置法三条八項は憲法二五条、二九条一項、二項に、緊急措置法三条六項、八項は憲法三一条に各違反しており、本件除去処分は違法である。
(1) 憲法二一条一項違反
緊急措置法三条一項一号は、「多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用」に供され、又は供されるおそれがあると認められるときを、当該工作物の使用禁止命令発動の一つの要件としている。これは集会の自由を保障した憲法二一条一項の規定に反する。
(2) 憲法二二条一項違反
緊急措置法三条一項一号は「多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用」と定め、同項三号は「暴力主義的破壊活動者による妨害の用」と定めている。
これらは、現に各建物に居住している者の居住をも制限する適用を可能にするので、そうだとすればこれは居住の自由を定めた憲法二二条一項の規定に反する。
(3) 憲法二五条違反
緊急措置法三条八項は、一定の工作物の除去措置の権限を被告運輸大臣に与えている。
しかし、右工作物がその占有者らの必須の生活生存の手段として使用されていた場合、これらを除去することは直ちにそれら占有者の生活そのものを危殆ならしめることになり、憲法二五条に定める生存権を侵害する。
第一工作物は、原告両名がこれに居住し、生活の必須の手段として使用してきていた。したがって、本件除去処分は現実に原告両名の生存権を侵害した。
(4) 憲法二九条一項、二項違反
ア 憲法二九条一項は、所有者が所有物件を自由に使用することができ、公権力による制限は許されないという原則を定め、同条二項は右原則が制限される例外は、公共の福祉及び法律による定めがあることという二要件を満たす場合であると規定している。
しかるに、緊急措置法三条一項は、所有者が所有物件を使用することを制限するものであるが、立法目的と手段との間に何ら合理性がなく、公共の福祉による制限の範囲に含まれず、かつ、「暴力主義的破壊活動(者)」(一~三号)、「妨害の用」(三号)、「供されるおそれ」(本文)といった不明確な要件の認定を被告運輸大臣に包括的に委任するもので、法律による定めとはいえない。
したがって、右条項は、憲法二九条二項に適合せず、同条一項に違反する。
イ また、緊急措置法三条八項は、一定の工作物の除去について、被処分者に対して全く何らの告知・聴聞の手続を保障していない。さらに、被処分者が当該処分について事後的にも争い得る手続が一切与えられていない。このように、全く一方的に一定の工作物が除去されることは、国民の財産の全く不当な処分であり、国民の財産権を侵害するものである。
そして、原告らは、現実に本件除去処分により、本件土地に対する占有権、本件土地上の第一、第二工作物その他の工作物に対する所有権ないし占有権を奪われ、財産権を侵害された。
(5) 憲法三一条違反
憲法三一条の適正手続の保障は、刑事手続に限らず、行政手続にも要請される。
ア 緊急措置法三条一項による使用禁止命令、同条六項による封鎖、同条八項による除去は、告知、弁解及び防御の機会を与える規定を欠き、かつ、本件除去処分においても、そのような機会を与えられた事実もなく、また、存在そのものを消滅させる除去処分は、没収(いわゆる第三者没収事件についての最高裁昭和三七年一一月二八日判決参照)以上に手続的保障が必要であり、本件除去処分は、個人タクシー事件に関する東京地裁昭和三八年九月一八日判決及びその上告審である最高裁昭和四六年一〇月二八日判決からしても、憲法三一条に違反し無効である。
イ 緊急措置法三条一項、六項、八項は、いずれも、その要件充足判断者を被告運輸大臣として第三者機関を置かず、また、被告運輸大臣の認定基準が著しく恣意的となる一般条項であって、明確性を欠き、憲法三一条に違反する。
ウ そして、最高裁平成四年七月一日判決・民集四六巻五号四三七頁(以下「平成四年最高裁判決」という。)は、それ自体に誤謬があるのみならず、所有する工作物そのものが消滅してしまう除去処分について規定する緊急措置法三条八項に関して論じたものでなく、本件には適用できない。また、右最高裁判決の利益衡量論を本件除去処分に用いた場合、その結論は異なって違憲となると解される。
(6) 憲法三五条違反
緊急措置法三条三項、六項は、被告運輸大臣に対し、運輸省職員をして工作物に立ち入らせ、又は工作物に対する封鎖その他の同条一項各号に掲げる用に供させないために必要な措置を講ずる権限を与えているが、右立入りは憲法三五条にいう捜索であり、封鎖その他の措置はその実質において同条一項にいう押収である。憲法三五条は、およそ国民は、権限を有する司法官憲が対象を明示して発する令状によらずしては捜索・差押えを受けることのない権利を有する旨を規定しているのであり、緊急措置法三条三項、六項は憲法三五条に反する。
(二) 予備的主張―右(一)に対して
また、本件使用禁止命令及び本件除去処分(以下「本件各処分」という。)について、仮に合憲限定解釈により本件各処分の運用の合憲性を判断するとしても、その場合「空港設備破壊・航空機の航行の安全に対する現実の具体的危険の存在」が必要であるが、本件各処分の適用に当たり、右危険は存在せず、本件各処分は前記のとおり違憲である。
3 本件除去処分の緊急措置法の要件不充足による違法
緊急措置法一条にいう「新東京国際空港及びその機能に関連する施設」とは、現に空港として開設され航空機の航行に供用されている飛行場施設及びレーダー誘導施設等、現に航行に供用されているものをいうと解すべきであり、その他の飛行場施設からは画然と分離され、現実に何ら航空機の航行に供用されておらず、そもそも施設の体をなさないものは含まないと解され、また、同条にいう目的とは、現に開設されている空港の防衛・安全確保であると解されるところ、被告らが緊急措置法の要件充足の判断資料の一つとする昭和六二年一一月一六日の事件や同月二四日の事件は緊急措置法の要件充足の判断資料とはならない。
右のことを含め本件除去処分は、仮に緊急措置法の規定自体又は右規定の本件各処分に対する適用が違憲ではないとしても、緊急措置法の要件を満たさず違法である。
さらに、本件除去処分は、第二工作物(監視小屋)についても行われたものであるが、これは昭和六二年一月に原告同盟が新たに築造したものであり、本件使用禁止命令の対象とされておらず、第二工作物についてされた本件除去処分は違法である。
4 被告らの責任
(一) 被告運輸大臣、被告県及び被告公団の共同不法行為
(1) 本件除去処分は、被告らが共謀の上、共同作業として、緊急措置法を濫用し、原告同盟の所有する建物を破壊撤去したものであり、原告同盟関係者を実力排除した上で、被告公団の現実占有を確立強行するために共同不法行為による土地強奪の一環として行われたものである。
そして、被告運輸大臣、被告公団及び被告県は、<1>本件工作物への侵入、<2>本件工作物の破壊、<3>原告同盟関係者の防衛行動制圧、排除、<4>最初から最後まで原告同盟関係者の本件工作物からの隔離(<1>~<4>千葉県警察)、<5>除去命令の発出(被告運輸大臣)、<6>撤去作業、<7>本件土地囲い込み(<6>及び<7>被告公団)といった重要な部分を担当実行し、これらは一連の手続として進行し、相当部分は時間的・空間的にも併行して進行した。
(2) ア 被告県
千葉県警察は、その指揮下の県職員である警察官を動員して、本件土地占有権奪取行為の発端たるべき、強制捜索を昭和六二年一一月二四日から行い、第一、第二工作物等を捜索上必要な程度を遥かに逸脱して破壊し去った。
しかし、一一月二四日の強制捜索は、本件土地の占有移転のため殊更仮構され実体を欠いた同月一六日の公務執行妨害事件を理由とするものであり、違法である。仮に一定の嫌疑が存在するとしても、それは、<1>捜索着手に至るまで一週間以上も空費している、<2>右事件については立件されておらず、送検されたかも不明である、<3>単なる捜索又は逮捕の必要というには余りに大規模・徹底した本件工作物の破壊である、<4>本件土地内に存在していた本件工作物(木の根団結砦)本来の建物・櫓とは別に独立して存在していた第二工作物(監視小屋)も警察部隊による破壊の対象とされたことなどから分かるように、一一月二四日以降の千葉県警察機動隊の警察活動は、当初より本件工作物への侵入それ自体を目的とし、本件工作物を破壊するためにされたものであることが明白であって、明らかに警察活動の権限を濫用した違法なものである。
また、千葉県警察は、捜索開始とともに原告同盟の構成員らが本件土地に接近することを実力で妨害し、これを被告公団が本件土地に対する無権限の違法な囲い込み行為を完了するまで継続し、その後も一貫して本件囲い込み施設の看守に当たり、被告公団の不法占有継続に加担している。
そして、被告県は、被告県所属の警察官が加えた不法行為について、国賠法一条一項により賠償責任を負う地位にある。
イ 被告公団
本件土地は、昭和四一年八月二七日、新空港建設反対闘争初期に原告同盟より提起された一坪共有化運動(所有名義を多数化し、被告公団の土地取得を困難ならしむ。)の方針に賛同した木の根部落の高橋から、原告同盟に対し、反対闘争が勝利した暁には返還するとの条件で贈与されたものであり、一坪共有化運動の趣旨に則り、社会党代議士小川国彦外三八名の人達が形式的に共有名義人になった。この際、土地の対価は一切支払われておらず、登記費用も実質上原告同盟持ち出しの状況であった。その後、一坪共有者における承継、被告公団による形式上の共有名義の買収の動きが出てきたので、原告同盟としてその整理作業を行ったが、相続などで関係者が多数化、偏在化などの状況も発生しており、完全に整理しきれない部分が出てきた。一方、被告公団は、こうした形式上の名義人の共有名義を通常の土地価格より甚だしく低い対価物の交付をもって譲り受けた。高橋は、原告同盟を離脱し、部落から出ていったが、その際自己の提供した土地を被告公団に売ることはなく、また、原告同盟共有者に返還を求めるといったことはしなかった。このような事実からすれば、本件土地は、空港反対闘争が勝利し、一坪共有化運動の必要性がなくなるまでは、原告同盟が所有しているものである。
しかるに、被告公団は、本件土地の占有を開始すべき法律手続上の何らの権原がないにもかかわらず、緊急措置法六条一項所定の「除去措置」事務実施者としての立場を濫用して、本件土地に対する不法占有を開始し、現在もこれを継続している。すなわち、千葉県警察による強制捜索及び本件除去処分発令による原告ら占有者の強制排除及び本件土地からの警察力による隔離(本件土地に対する事実上の支配力の剥奪)という事態を背景に、一方で被告公団は、緊急措置法六条一項による除去措置の実施者という本件土地を事実上支配し得る立場を付与され、かつ、その権限を行使し、この事実上の支配力をフルに活用し、本件除去処分後直ちに本件土地の周囲に鉄パイプを張り巡らせて、自己が占有する旨の公示をし、本件土地囲い込み行為を行った。
ウ 被告国
被告国は、被告運輸大臣のした不法行為について損害賠償責任を負う地位にあるところ、被告運輸大臣は、緊急措置法三条一項、八項の解釈を誤り、又は権限を濫用して、原告らが所有又は占有していた本件工作物には緊急措置法三条一項、八項所定の要件が存在しないにもかかわらず、あるいは濫用の意図のみをもって右各条項を適用し、本件除去処分を行い、被告公団の不法な本件土地占有開始を可能とする意図をもって、緊急措置法六条一項の権限を行使し、又は実施の命令あるいは委託について、それが適正にされるよう運輸大臣として尽くすべき注意義務を尽くさなかった。また、被告公団が、緊急措置法六条一項所定の「実施」者としての地位を利用して本件土地の違法占有を開始した後も、被告公団のそのような不適正な「実施」についてこれを是正し得る地位にあり、かつ、その責務を負っているにもかかわらず、これを行うことを敢えて怠り、又は懈怠し、被告公団の本件土地の不法占有に加担している。
(3) このような被告運輸大臣、被告県及び被告公団の共同不法行為は、本件除去処分の後、江藤運輸大臣が、被告公団の土地取得促進のために、緊急措置法を積極的に活用する旨の宣言をしたこと、平成二年一月一五日から一六日に運輸省及び被告公団職員が緊急措置法により天神峰現地闘争本部を封鎖した際、千葉県警察は必要性・合理性のない夜間の連続的な現場検証を行ったこと、原告同盟の構成員らを排除して被告公団が土地を占拠した事件は、昭和五二年五月六日の岩山鉄塔破壊事件があったほか、本件除去処分後も天神峰現地闘争本部が封鎖され、平成元年一二月四日には東峰団結会館が破壊された事実があること、また、本件除去処分後の平成元年九月一九日には天神峰現地闘争本部、三里塚闘争会館、木の根団結会館(「育苗ハウス」)、大清水団結小屋及び東峰団結会館に対して使用禁止命令が一斉にされたこと、そして本件除去処分に関しては、右処分後、千葉県警察が原告らの現場への接近・立入りを阻止する行動を継続した上、本件除去処分の行われた昭和六二年一一月二七日の段階で、被告公団が柵資材を手際良く準備し、除去措置実施と併行した柵設置作業を行い、かつ、除去処分終了後も易々と柵の設置ができたことからも認められる。
(4) また、遅くとも、被告運輸大臣は、被告公団による本件土地に対する不法な占有を当時の運輸大臣であった石原慎太郎が知ったときから、被告公団の不法占有に加功したものである。
(二) そして被告運輸大臣、被告県及び被告公団の不法行為により、原告らは、以下の損害を受けた。
(1) 原告同盟
ア 第一、第二工作物等の破壊による損害 一〇〇万円
第一、第二工作物の再建築に要する費用六〇万円と櫓四基(原告らは、前示櫓六基のうちの四基分について請求している。)再建築のための費用四〇万円の合計額
イ 本件土地占有喪失による損害 月額六三〇〇円
ウ 本件除去処分による慰謝料 一〇〇万円
(2) 原告両名が本件除去処分の実施等により生活の本拠・主たる手段を奪われたことにより被った精神的苦痛に対する慰謝料として、各五〇万円が相当である。
5 以上のとおり、本件除去処分は違憲無効又は少なくとも違法なものであるので、原告らは、被告運輸大臣に対し、本件除去処分の取消し及び被告公団による本件土地の占有を原告らに回復させる命令、勧告等適切な措置を被告公団に対して講じることを求めるとともに、被告国、被告県及び被告公団に対し、国賠法一条一項、民法七〇九条一項、七一〇条に基づく損害賠償として、連帯して、原告同盟は二〇〇万円、原告石丸は五〇万円、原告篠は五〇万円及び右各金員に対する本件除去処分のあった日である昭和六二年一一月二七日から支払済みまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、加えて原告同盟は、右被告らに対し、連帯して、右同日から被告公団の本件土地明渡済みまで一か月六三〇〇円の割合による損害金の支払をそれぞれ求める。
三 被告国及び被告運輸大臣の主張
1 本案前の申立て
(一) 本件除去処分取消請求について
原告らの本件除去処分取消請求は、訴えの利益がなく、不適法である。
すなわち、緊急措置法三条八項所定の除去は、目的の工作物を物理的に除去する事実行為であるから、除去行為の終了によって、除去処分の取消しを求める訴えの利益は失われるものと解される。
本件除去処分取消しの訴えは、本件工作物の除去行為が終了しており、訴えの利益がないものというべきである。
(二) 命令・勧告等措置請求について
右命令・勧告等措置請求で原告らが主張する「被告公団による本件土地の占有を原告らに回復させるための命令、勧告等」被告運輸大臣が被告公団に対して講じるべき適切な措置なるものは、行政処分に当たらず、無名抗告訴訟の対象とならないというべきであるから、右訴えは不適法なものとして却下されるべきである。
また、原告らの右訴えは、無名抗告訴訟のうちの義務付け訴訟と解されるところ、右義務付け訴訟が許容されるには、(1)被告とされる行政庁が当該処分をすべきこと又はすべからざることについて法律上覊束されており、行政庁に自由裁量の余地が全く残されていないために、第一次的な判断権を行政庁に留保することが必ずしも重要でないと認められること、(2)事前審査を認めないことによる損害が大きく、事前救済の必要が顕著であること、(3)他に適切な救済方法がないことの各要件を満たすことが必要である。しかしながら、被告運輸大臣が被告公団に対して本件土地の占有を原告らに回復させる命令、勧告等適切な措置を講ずべきことは、右(1)、(3)の要件を満たさず、原告らの右訴えは不適法である。
2 緊急措置法の合憲性について
(一) 原告らは、緊急措置法は、その制定の経緯・態様に照らして拙速のそしりを免れず、法全体として違憲の法規である旨主張する。
しかしながら、法案の審議にどの程度の時間をかけるかは専ら各議院の判断によるものであり、法律の合憲性は右時間の長短に左右されるものでないから、原告らの主張は失当である。
(二) 緊急措置法三条一項三号は憲法二二条一項、二九条一項、二項、三一条に、緊急措置法三条三項、六項は憲法三五条に各違反するものではないが、そもそも緊急措置法三条一項三号、三項、六項は、本件各処分とは無関係であり、緊急措置法三条一項三号、三項、六項が違憲であるとの原告らの主張は失当である。
また、緊急措置法三条一項一号、二号は憲法二九条一項、二項、三一条に、緊急措置法三条一項一号は憲法二一条一項、二二条一項に、緊急措置法三条八項は憲法二五条、二九条一項、二項、三一条に各違反しない。
3 本件使用禁止命令の適法性
本件使用禁止命令は、以下のとおり、緊急措置法三条一項一号、二号の要件を満たす適法なものであり、したがって、右命令を前提に行われた本件除去処分は適法である。
(一) 本件使用禁止命令を発出するに至った経緯
(1) 緊急措置法は、昭和五三年五月一三日、新空港及びその周辺において暴力主義的破壊活動が行われている異常な事態にかんがみ、当分の間、新空港若しくはその機能に関連する施設の設置若しくは管理を阻害し、又は新空港若しくはその周辺における航空機の航行を妨害する暴力主義的破壊活動を防止するため、その活動の用に供される工作物の使用の禁止等の措置を定め、もって新空港及びその機能に関連する施設の設置及び管理の安全の確保を図るとともに、航空の安全に資することを目的(同法一条)として、同年法律第四二号として公布された。
これを受けて被告運輸大臣は、同年五月二〇日の新空港の供用開始を控えていた同月一六日、革命的労働者協会(以下「革労協」という。)が「開港阻止へ向けた不抜の前進基地」〔革労協機関紙「解放」(以下「『解放』」という。)昭和五二年八月一日号。<証拠略>〕として、新空港供用予定区域からわずか三〇〇メートルほどしか離れていない本件土地上に昭和五二年七月に建設していた本件工作物を、緊急措置法三条一項一号の「多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用」に供されるおそれがある工作物と認め、本件工作物の所有者、管理者及び占有者に対して、昭和五三年五月一六日から昭和五四年五月一五日までの間、本件工作物を右の用に供することを禁止する命令を発出した。
(2) ところが、右使用禁止命令の発出後、革労協は、昭和五三年九月一六日、千葉県成田市荒海に所在する新空港計器着陸施設の一部であるアウターマーカーを火炎びん等を用いて襲撃する暴力主義的破壊活動等を行い(以下「アウターマーカー事件」という。)、その際、同派に所属し、本件工作物の常駐者である原告石丸らが火炎びんの使用等の処罰に関する法律(以下「火炎びん法」という。)違反で逮捕され、さらに、同月二六日、本件工作物に対して行われた千葉県警察による右事件の捜索の際、本件工作物の櫓内からガソリン入りの一升びん三八本が発見された(以下「木の根団結砦火炎びん法違反事件」という。)ため、革労協に所属し本件工作物の常駐者である原告篠ら五名が火炎びん法違反で現行犯逮捕される事件が発生した。また、同年五月一二日に行われた千葉県警察の警察官による捜索の際には、本件工作物内には革労協所属の団体(反帝労評、社青同解放派)の名等を記したヘルメット着用者を含む一一名が会合しており、同種のヘルメットが散乱し、多数の竹竿が保管されていた。このため、被告運輸大臣は、本件工作物が「暴力主義的破壊活動等に使用されるおそれがあると認められる爆発物、火炎びん等の物の製造又は保管の場所の用」に供されるおそれがあると認め、昭和五四年五月一六日付けで、本件工作物の所有者、管理者及び占有者に対し、同日から昭和五五年五月一五日までの間、本件工作物を緊急措置法三条一項一号の「多数の暴力主義的破壊活動の集合の用」に供することを禁止することに加え、同項二号の「暴力主義的破壊活動等に使用され、又は使用されるおそれがあると認められる爆発物、火炎びん等の物の製造又は保管の場所の用」に供することを禁止する命令を発出し、前記一3のとおり昭和五四年以降、被告運輸大臣は、毎年一年間の期間による期限を付して、本件工作物を「多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用」又は「暴力主義的破壊活動等に使用され、又は使用されるおそれがあると認められる爆発物、火炎びん等の物の製造又は保管の場所の用」に供することを禁止する命令を本件工作物の所有者、管理者及び占有者に対して継続して発出し、昭和六二年五月一二日付けで本件使用禁止命令が発出された。
(3) 右期間中、革労協は、「解放」において、「木の根砦死守し、二期工事実力粉砕せよ!」(昭和五四年三月一日号。<証拠略>)等と呼号し、本件工作物を新空港反対闘争の拠点として使用し続け、さらに、実際に数多くの暴力主義的破壊活動等を敢行してきた。
(二) 緊急措置法三条一項一号の規定する各要件について
(1) 「暴力主義的破壊活動者」の要件充足
ア 緊急措置法二条二項に定める暴力主義的破壊活動等を行う者とは、現に暴力主義的破壊活動等を行っている者をいい、暴力主義的破壊活動等を行うおそれがある者とは、暴力主義的破壊活動等を行う蓋然性が高い者をいうところ、ある者が暴力主義的破壊活動等を行う蓋然性が高いか否かは、その者及びその者が所属している団体ないし組織集団(以下「セクト」ともいう。)の、平素の活動状況及び過去の活動状況等から総合的に判断する必要があり、具体的には、<1>暴力主義的破壊活動等の検挙歴を有する者か否か、<2>暴力主義的破壊活動等を主張し、これを行うセクトに所属する者か否か、<3>暴力主義的破壊活動等を主張し、これを行うセクトに所属する者と行動を共にする者か否かなどが、右蓋然性を判断する上で重要な判断材料となる。
また、「暴力主義的破壊活動等」の定義は、緊急措置法二条一項において定められているところ、右行為の類型で分類すると、本件使用禁止命令発出においては、新東京国際空港の設置又は管理を阻害する緊急措置法二条一項各号に該等する行為として、<1>滑走路、エプロン、管制塔、ターミナルビル、空港管理ビル等の新空港告示区域(航空法四〇条)内の施設に対する右各号該当行為(第一類型)、<2>パイプライン施設、鉄道、道路等の輸送施設、上下水道施設、用水路等新空港を設置又は管理する上で必要不可欠な施設及びこれらの管理者、同職員等に対する右各号該当行為(第二類型)、<3>運輸省、被告公団、被告県及び警察機関等の施設並びにこれらの施設等の管理者、同職員等に対する右各号該当行為(第三類型)、<4>新空港及び新空港に密接に関連する施設の設置に関係する業務を行う建設会社等の施設等並びにこれらの施設等の管理者、同職員等に対する右各号該当行為(第四類型)の四類型が考えられ、これに新空港又はその周辺における航空機の航行を妨害する緊急措置法二条一項各号に該当する行為(第五類型)を加えた五つの類型に分類して考えることができる。
イ 本件工作物においては、昭和六二年四月二四日付け警察資料において、本件工作物に出入りしていた者のうち、原告両名、松尾時春(以下「松尾」という。)、西村哲史(以下「西村」という。)及び塚本正治(以下「塚本」という。)の五名の常駐者の氏名が判明しており、原告両名は本件工作物所在地に住民登録を行っている。
そして、右五名のうち、<1>原告石丸は、前記昭和五三年九月一六日のアウターマーカー事件(ア記載の第五類型に該当)において火炎びん法違反の、<2>原告篠は、前記同月二六日の木の根団結砦火炎びん法違反事件において火炎びん法違反の、<3>松尾、<4>西村及び<5>塚本の三名は、新空港の建設に伴い整備されることとなった成田用水の第三駐車場警備部隊が昭和六二年一月一四日に襲撃された事件(以下「成田用水第三駐車場警備部隊襲撃事件」という。ア記載の第二及び第三類型に該当)において、公務執行妨害罪の各検挙歴を有している。そして、右各事件は、革労協が「解放」において、これらを行ったことを認めている。すなわち、革労協は、アウターマーカー事件については「…九・一六荒海アウターマーカー破壊戦のように…革命的大衆の武闘の発展をも媒介的ではあるが推進するのである」(昭和五四年三月一日号。<証拠略>)と、木の根団結砦火炎びん法違反事件については「…九・二六木の根団結砦捜索を第一歩とした、二期工区工事着工の攻撃、成田治安法の執行に対決し、…これを粉砕していくことである」(昭和五三年一〇月一五日号。<証拠略>)と、成田用水第三駐車場警備部隊襲撃事件については「1・14機動隊をせん滅」、「わが革命的部隊は、成田用水警備用駐車場に強襲戦闘を敢行し、敵権力機動隊一個小隊を完全に粉砕し、うち三名をせん滅し、権力車輛、工事用車輛計四台を破壊しつくす大戦果を闘いとった」(昭和六二年二月一日号。<証拠略>。なお、革労協は右事件の犯行声明を行っている。)との意思表明を行っている。以上の革労協の意思表明に照らせば、右各事件において検挙された原告石丸ら五名の者が革労協に所属していたことは疑いがないところ、同派は、本件使用禁止命令発出前に、「解放」において、暴力主義的破壊活動等を行う旨主張し、かつ、その主張に沿って実際に暴力主義的破壊活動等を行っていることが認められる。
したがって、本件工作物の常駐者である原告石丸ら五名は、その検挙歴及び所属セクトからして、いずれも暴力主義的破壊活動等を行う蓋然性が高いと認めることができ、暴力主義的破壊活動者であると認められる。
ウ 原告らは、緊急措置法二条一項にいう新空港の設置又は管理の対象となる施設は既に航行に供用されている施設であるとして、ア記載の第一類型及び第五類型に該当する行為のみが暴力主義的破壊活動等に該当する行為であると制限的に解するようであるが、仮に前記第二~第四類型該当行為そのものが暴力主義的破壊活動等には該当しないとしても、右行為が行われたことを暴力主義的破壊活動等を行う蓋然性が高いか否かの判断材料とし、本件使用禁止命令において、右の蓋然性が高い者、すなわち暴力主義的破壊活動等を行うおそれのある者と認定することは適法であり、本件使用禁止命令は適法である。
(2) 本件工作物が「多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用に供されるおそれ」の要件充足
ア 緊急措置法三条一項にいう「多数」とは二名以上を、「集合」とは、密接した時間内に多数の暴力主義的破壊活動者が存在する状態をいう。また、同項にいう「その工作物が次の各号に掲げる用に供され、又は供されるおそれがあると認めるとき」とは、その工作物が同項各号に掲げる用に現に供され、又は供される蓋然性が高いと認めるときの意味に解すべきであり、当該工作物が多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用に供される蓋然性が高いと認められるか否かを判断するに当たっては、当該工作物における集合の目的・内容等は直接的な要件ではなく、客観的に当該工作物が右集合の用に供される蓋然性が高いと認められれば足りると解される。そして、被告運輸大臣は、<1>当該工作物における多数の暴力主義的破壊活動者の集合状況、<2>当該工作物の建設経緯、構造及び外形、<3>当該工作物に出入りする暴力主義的破壊活動者の所属するセクトの当該工作物に関連する暴力主義的破壊活動等の意思の表明状況等を総合考慮して、当該工作物が客観的に多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用に供される蓋然性が高いか否かを判断した。
イ 本件工作物における本件使用禁止命令発出前の暴力主義的破壊活動者の集合状況について検討すると、原告両名及び革労協に所属し、又はこれらの者と行動を共にしていると認められる多数の者らは、警察により確認されただけでも、次のとおり、本件工作物に集合している事実が認められる。
<1> 昭和六一年一二月七日、本件工作物において原告同盟主催による「木の根現地集会」が開催されたが、同集会に際しては、原告両名の常駐者を含めて集会前夜から四九名が本件工作物に宿泊し、当日の同集会には、原告両名の外七九名が参加した。
同集会は「二期工事粉砕・木の根警備用道路粉砕・成田用水粉砕」を掲げ開催されたが、革労協は、右集会終了後、「解放」において、「敵の木の根団結砦破壊が、それが成田治安法の適用によるものであろうと、他の卑劣な奇襲的手段によるものであろうと、『用地』内農民の土地収奪の第一歩である以上、二期の決定的な決戦としてたたかう。…もしも敵が木の根団結砦に手をかけようとするならば、昨年十・二〇を上回る空港包囲・突入・解体の武装進撃戦をたたかいとる。一二・七はその闘いの開始である。」(昭和六一年一二月一五日号。<証拠略>)として、暴力主義的破壊活動等に関する意思を表明した。
<2> 昭和六二年一月一五日、千葉県警察が成田用水第三駐車場警備部隊襲撃事件で本件工作物の捜索を実施した際、原告篠外一三名が集合していた。また、同捜索の結果、本件工作物内にあった革労協発行の「一・一八木の根集会に総力決起しよう」と書かれたビラ等四点が押収された。
<3> 同月一八日、本件工作物において前記<1>同様の集会が開催されたが、同集会に際しては、原告両名の常駐者を含めて集会前夜から四二名が本件工作物に宿泊し、当日の集会には一五〇名が参加した。
同集会に先立ち革労協は、「解放」において、「1・18木の根大集会を突破口に 木の根―二期決戦に勝利せよ」、「一・一八木の根決戦集会の意義と課題は、第一に、敵日帝中曽根の二期攻撃の切迫にたいして、正面からの闘いを挑むということである。…いま、七一年二~三月―九月の第一次、第二次強制代執行、七八年の開港阻止決戦にひきつづく決戦に突入し、実力闘争・武装闘争こそが勝利をきりひらく時をむかえたのだ。…実力闘争・武装闘争の嵐のなかで一・一八を闘いとろう。」(昭和六二年一月一五日号。<証拠略>)として、暴力主義的破壊活動等に関する意思を表明していた。
<4> 同年二月二二日、本件工作物において前記<1>同様の集会が開催されたが、同集会に際しては、原告両名の常駐者を含めて集会前夜から二五名が宿泊し、当日の集会には六一名が参加した。
同集会において、革労協の代表として発言した全日本学生自治会総連合(全学連)の者は、「ついに木の根の地に決戦のやぐらが立った。砦死守攻防戦を闘い、機動隊をせん滅し、空港へ突入する闘いに総決起する。…一・一四戦闘の白兵戦と獄中非転向の闘いにつづき、空前の武装闘争を闘う。」(「解放」昭和六二年三月一日号。<証拠略>)との暴力主義的破壊活動等を実行する意思を表明した。
ウ また、警察資料以外においても、革労協は、「解放」において、以下のとおり、本件工作物においてしばしば集合していた事実を自ら認めている。
<1> 昭和六二年四月一日号(<証拠略>)は、「3・28木の根砦集会かちとる」として、「三月二八日、三里塚―木の根全国共闘は、強固に要塞化された木の根団結砦に結集し集会をかちとった。…いよいよ木の根砦死守隊の戦士が発言に立つ。」、「『七七年八月にこの木の根砦を建設して以来、治安法を粉砕し今日まで闘いぬいてきた。それはこの決戦を闘うためだ。われわれは壮絶な木の根死守戦を実現し勝利し、三里塚闘争と反対同盟の勝利へむけた飛躍をおしひらく。すでにわれわれは戦闘態勢を確立した。闘う仲間はともに手に武器を持ち、機動隊をなぎ倒し空港へ進撃せよ』と断固訴えた。」と報じるとともに、同紙にヘルメットを着用した者が多数本件工作物に集合し、シュプレヒコールを上げている写真を掲載している。右内容に照らせば、昭和六二年三月二八日に、本件工作物に多数の暴力主義的破壊活動者が集合していたことは明らかである。
<2> 昭和六二年五月一五日号(<証拠略>)は、「木の根団結砦で成田治安法粉砕集会開く5・10」として、「はじめに現地行動隊の同志が発言にたち、『七七年七月に反対同盟とともに構築した木の根団結砦そして岩山団結小屋に対し、七八年開港阻止決戦の過程で成田治安法を適用し、団結小屋破壊―三里塚闘争破壊を策してきた。われわれは、成田治安法を粉砕し、二期工事強行着工、『用地』内きり崩しに対決して断固として決起し、…一・一四機動隊せん滅戦闘により成田用水工事を粉砕し、砦要塞化と三・二九死守宣言をもって決戦に勝利する。…』と決意を明らかにする。」と報じるとともに、同紙にヘルメットを着用した者が多数本件工作物に集合し、シュプレヒコールを上げている写真を掲載している。右内容に照らせば、昭和六二年五月一〇日に、本件工作物に多数の暴力主義的破壊活動者が集合していたことは明らかである。
以上のとおり、本件使用禁止命令発出前に、原告両名ら多数の暴力主義的破壊活動者が、本件工作物において、しばしば集合していたことは明らかである。
エ 本件工作物の建設経緯、構造及び外形
<1> 本件工作物は、前記一3のとおり、緊急措置法二条三項の規制区域内である本件土地上に存在した。
革労協は、かねてから新空港反対闘争を展開してきたものであるが、新空港の開港が間近に迫った昭和五二年七月、新たな反対闘争の拠点として、同空港の供用区域からわずか三〇〇メートルほどしか離れておらず、同空港二期工事予定区域(新空港C滑走路着陸帯予定地、同滑走路自体から約一〇〇メートル地点)にある本件土地上にプレハブ二階建ての建物一棟(第一工作物)及び木造の高さ約一二メートルの櫓一基を建設した。
そして、革労協は、本件工作物の建設に際し、「解放」において、「わが解放派は第二期工区内に、二階建ての第二団結小屋=木の根団結砦を建設した。この木の根団結砦は、大清水の第一団結小屋とともに、三里塚におけるわが解放派の一大拠点であると同時に、開港阻止へ向けた不抜の前進基地として打ち固められるであろう。」(昭和五二年八月一日号。<証拠略>)と、本件工作物を同派の新空港反対闘争の拠点としていく旨の意思を表明しているところであり、本件工作物は右目的のために建設され、以来革労協の拠点として使用されてきたものである。
<2> 構造及び外形
本件工作物は、第一工作物が約一〇〇平方メートルの床面積を有し、現に昭和六一年一二月六日には四九名が宿泊する等、相当数の人員が収用できる構造を有するとともに、周囲を高さ約三メートルの鉄板等で囲い、その上に有刺鉄線を張り巡らせ、入口には鉄門扉を設け、さらに、右入口付近には直径二メートル、深さ一メートルほどの二つの穴を設けるとともに、鉄門扉の内側には二台の廃車を並べ、これを容易に開放できないようにする等、およそ革労協等の過激派集団に所属する者やこれに関係する者以外の者が容易には立ち入ることすらできない構造となっている。
さらに、本件工作物には、プレハブ二階建ての建築物に「木の根砦死守攻防戦に勝利せよ」、「解放派」等の横断幕様のものが設置され、数基の櫓が建設されている上、周囲の鉄板塀には、「空港粉砕!成田治安法粉砕!木の根・二期決戦勝利」との看板を掲げるなど、その外形は、およそ通常の家屋とは著しく異なっており、革労協が少なくとも新たに三基の櫓を建設するに至っては、同派が自認するとおり、まさしく要塞というべき様相を呈していた。
(3) 本件工作物に出入りする暴力主義的破壊活動者の所属するセクトの本件工作物に関連する暴力主義的破壊活動等の意思の表明状況等
ア 革労協は、「解放」において、本件工作物に関連する暴力主義的破壊活動等の意思を表明してきた。
イ 本件工作物の要塞化の実施状況
そして、革労協は、昭和六一年ころから、二期工事の着工に危機感を強め、「解放」において、「二期着工―現空港を粉々にうちくだく決戦を切り拓いていかなければならないのだ」(昭和六一年六月一日号。<証拠略>)等と、これを実力で粉砕する旨の意思を度々標ぼうしていたが、同派は、その中で「…木の根団結砦の要塞化、木の根を出撃拠点とし、死守戦を準備し、労農水『障』学の砦としてますます強化する」(昭和六一年一〇月一五日・一一月一日号<証拠略>)との意思を表明していた。右意思の表明に沿って、昭和六二年二月中旬から、本件工作物に少なくとも新たに三基の櫓が建設され、さらに、革労協は、「死守隊」と称する選抜された者を立てこもらせ、これを要塞化するに至った。
なお、右要塞化後、革労協は、「解放」において、「要塞化完成し、決戦に身構える木の根砦」、「要塞化された木の根団結砦の勇姿を見よ!砦の要所要所には、敵破壊部隊を攻撃しうちのめす強固なヤグラが、そびえ立っている。ヤグラから見おろせば、眼下三百メートルに現空港が横たわり、空港内の監視塔で戦々恐々とする空警、ガードマンの一挙手一投足も見すえることができる。」、「敵が木の根団結砦に手をかけようとした時、われわれはわが戦闘態勢を発動し、第二、第三の一・一四が実現するのだ」(昭和六二年三月一五日号。<証拠略>)、「3・29全国集会で発せられた木の根団結砦死守宣言」、「解放派は、不退転の決意をこめて、本日ここに重大な宣言を発する。…本日以降、敵権力機動隊の木の根砦への立ち入りをわれわれは一切認めない。それがたとえ家宅捜索であろうとも、…機動隊が立ち入ろうとするならば、ただちにそれを砦破壊の攻撃とみなす。ただちに機動隊をせん滅し、…空港破壊戦を敢行する。」(昭和六二年四月一日号。<証拠略>)との意思を表明し、本件工作物を要塞化し、これを拠点として暴力主義的破壊活動等を行う旨を明らかにしている。
(4) 以上のとおり、<1>本件工作物には、本件使用禁止命令発出前に、原告両名ら多数の暴力主義的破壊活動者がしばしば集合していた事実が認められること、<2>本件工作物は、新空港供用区域の直近に革労協に所属する者らによって新空港反対闘争の拠点として建設され、多数の者を収用できる構造を有する上、その敷地には数基の櫓が建設されているとともに、周囲を高さ約三メートルの鉄板等で囲い、その上に有刺鉄線を張り巡らせ、入口には鉄門扉を設け、これを容易に開放できないようにするなど、一見して要塞というべき様相を呈していること、<2>革労協は、本件工作物を要塞化して死守するとともにこれを拠点として暴力主義的破壊活動等を行う旨の意思を表明し、さらに、これに沿って実際に少なくとも新たに三基の櫓を建設し、「死守隊」と称する者らを選抜し立てこもらせたことなどの事実を認めることができ、これらを総合して判断すると、本件工作物が、将来にわたって引き続き多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用に供される蓋然性が極めて高いことは明白である。
(三) 緊急措置法三条一項二号の規定する各要件について
緊急措置法三条一項二号に規定する「暴力主義的破壊活動等に使用され、又は使用されるおそれがあると認められる爆発物、火炎びん等の物の製造又は保管の場所の用」に供されるおそれがある場合とは、当該工作物が暴力主義的破壊活動等に使用され、又は使用される蓋然性が高い爆発物、火炎びん等の物の製造又は保管の場所の用に供される蓋然性が高い場合をいい、これは、当該工作物において爆発物、火炎びん等が製造又は保管される蓋然性が高いことに加え、右製造又は保管に係る爆発物、火炎びん等が暴力主義的破壊活動等に使用され、又は使用される蓋然性が高いことを要求している。例えば、<1>当該工作物を拠点として、過去に爆発物、火炎びん等を使用した暴力主義的破壊活動等が行われた事実がある場合、<2>暴力主義的破壊活動者が出入りしていることが確認されている当該工作物において、過去に暴力主義的破壊活動等に使用され、又は使用されるおそれがあると認められる爆発物、火炎びん等が製造又は保管されていた事実がある場合、あるいは<3>当該工作物に出入りする者が、新空港反対闘争に関連した火炎びん法違反の検挙歴を有している場合などには、当該工作物が暴力主義的破壊活動等に使用され、又は使用されるおそれがあると認められる爆発物、火炎びん等の物の製造又は保管の場所の用に供される蓋然性が高いと判断される。
本件では、前記のとおり、昭和五三年九月一六日、本件工作物の常駐者である原告石丸らが、アウターマーカー事件を敢行し、その後同月二六日には、木の根団結砦火炎びん法違反事件により原告篠ら五名が現行犯逮捕された。
さらに、昭和六二年一月一四日に発生した成田用水第三駐車場警備部隊襲撃事件においては、前記のとおり、本件工作物に常駐している松尾、西村及び塚本の三名が公務執行妨害等被疑事件で現行犯逮捕されたが、右事件において、火炎びん、火炎放射器等が使用されている。
右事実に照らせば、本件使用禁止命令発出前において、本件工作物には、<1>多数の暴力主義的破壊活動者の出入りが確認され、過去に暴力主義的破壊活動等に使用されるおそれがあると認められる火炎びんが保管されていた事実があること、<2>出入りしている者に新空港反対闘争に関連した火炎びん法違反の検挙歴を有する者が含まれていることを認めることができ、これらの事実から判断すれば、本件工作物が将来にわたって暴力主義的破壊活動等に使用され、又は使用されるおそれがあると認められる爆発物、火炎びん等の製造又は保管の場所の用に供される蓋然性が高いと認められる。
(四) 本件使用禁止命令の発出方法の適法性
(1) 所有者、管理者又は占有者の確知について
被告運輸大臣は、本件工作物に対する本件使用禁止命令の発出に当たり、本件工作物の所有者、管理者又は占有者が確知できなかった。
すなわち、緊急措置法三条一項に基づく使用禁止命令の名宛人たる所有者、管理者又は占有者は、右規定で制限される利益にかんがみ、正当な権限を有する所有者、管理者又は占有者を予定しているものと解される。したがって、右の者以外の者に対して発したとしても、当該命令は当然に無効となる上、当該規定が保護しようとする利益との関係からも、正当な権限を有する所有者、管理者又は占有者に対して、右命令を発しない限り、その遵守は全く期待できないところであるから、右規定により保護しようとする利益が保護できなくなると解される。
したがって、管理者又は占有者についていえば、単に、当該工作物にいるだけでなく、正当な所有者から委託又は貸借を受けている者などと考えられる。
そして、当該工作物の所有者、管理者又は占有者の確知は、前記趣旨から、厳密に行われなければならないと解せられる。したがって、所有者、管理者又は占有者の確知は、記載内容に十分な信頼を置くことができる登記簿、建築確認申請等の確実な資料によって判断すべきことになる。右登記簿、建築確認申請等の確実な資料の調査によって、当該工作物の所有者が不明である場合には、もはや客観的に正当な所有者を確知することは不可能であり、さらに、その管理者及び占有者についても、その管理又は占有が所有者との関係において正当な権限に基づくものである客観的な証拠が必要であるところ、所有者が右調査によっても確知できない以上、その管理者又は占有者も確知することができない。
本件使用禁止命令についていうと、被告運輸大臣は、登記簿及び建築確認申請を確認したところ、本件工作物は、未登記で、かつ、建築確認申請もされていなかったため、所有者、管理者又は占有者をいずれも確知することができず、そのため緊急措置法三条二項の規定に基づき官報公告により本件使用禁止命令を発出したものである。加えて、被告運輸大臣は、本件使用禁止命令の発出に際し、その内容を記載した立て看板を本件工作物付近に建植するとともに、運輸省職員を本件工作物の前に赴かせ、右命令の内容をマイクで通告し、本件工作物に出入りする者及び内部にいる者らに対し、その遵守を期待して最大限の努力を行った。
ちなみに、被告運輸大臣は、本件除去処分の終了後、緊急措置法六条一項に基づき、被告公団をして、本件除去処分によって生じた物件を保管させるとともに、新空港近くの国道に面する場所に右保管物件を公示させ、さらに、右公示後、一四日を経過しても返還を受けるべき考が確知できなかったため、昭和六三年一月に右公示した事項の要旨を官報に掲載させた。しかしながら、右公示後、六箇月を経過しても右保管物件の所有者等からの返還の申し出がなかったため、同年一二月、被告運輸大臣は、被告公団をして、これらを廃棄処分したものであり、結局、本件除去処分後においても、本件工作物の所有者等は確知することができなかった。
なお、原告両名は、本件工作物所在地に住民登録を行っているものの、住民登録は占有の正当な権限を証するものとはいえず、したがって、住民登録をしていることで直ちに正当な管理者又は占有者と認められるものではなく、同人らが正当な管理者又は占有者と認められる前提となる正当な所有者が確知できない以上、本件禁止命令発出の名宛人となる緊急措置法の予定する管理者又は占有者とはいい難い。
また、行政訴訟の当事者適格が認められたとしても、それによって、当該工作物の所有者として認められたことになるものではない。
(2) 本件使用禁止命令の対象工作物に第二工作物が含まれていること
第二工作物は、本件使用禁止命令の対象たる「千葉県成田市木の根字東台二一五番に所在するプレハブ二階建の建築物(これと一体となっている物を含む。)一棟、木造平屋建の建築物一棟及びこれらに付属する工作物(通称「木の根団結砦」)」の「付属する工作物」に該当する。
4 本件除去処分の適法性
(1) 本件除去処分の経緯
被告運輸大臣は、本件工作物に本件使用禁止命令を発出したが、本件工作物は、右使用禁止命令発出後においても、度々暴力主義的破壊活動等を標ぼうする集会等が開催されるなど、引き続き暴力主義的破壊活動者である革労協に所属する者又はこれらの者と行動を共にする多数の者らにより集合の用に供されている事実が認められた。
また、革労協は、本件使用禁止命令発出前において、新空港二期工事着工に危機感を強め、これを実力で粉砕するとして、前記のとおり、既に本件工作物の敷地内に新たに少なくとも三基の櫓を構築するとともに、「死守隊」と称する選抜された者らを立てこもらせてこれを要塞化し、本件使用禁止命令発出後も、本件工作物を暴力主義的破壊活動等の拠点として使用していく旨の意思を再三にわたって表明し続けた。
そして、本件工作物に立てこもっていた「死守隊」と称する者らは、後記のとおり、昭和六二年一一月一六日には、被告公団が本件工作物周辺の被告公団用地において行っていた木の根地区管理柵設置工事に対し、本件工作物の櫓上から大型パチンコでボルト、石塊等を投てきして、千葉県警察官による右工事の警備活動を妨害し、さらには、同月二四日早朝、右公務執行妨害等被疑事件の捜索・差押えを行うべく、本件工作物に赴いた千葉県警察官に対して、かねてからの革労協の意思表明に沿って、同警察官に対して大量の火炎びん、石塊等を投てきしてこれを妨害し、さらに、逮捕活動を行おうとして本件工作物に立ち入り、近づいた同警察官に対して火炎放射器等を用いて激しく抵抗し、その結果、警察官一三名、報道関係者一名の計一四名が火傷、打撲等を負うという最悪の事態を生ぜしめた。
被告運輸大臣は、右事実にかんがみ、同月二五日、同法三条一六項に基づき、警察庁長官に意見の提出及び資料の提供を求め、翌二六日、右意見の提出及び資料の提供を受けた上で、本件工作物が緊急措置法三条八項の除去の要件を充足していると判断し、本件除去処分を行うことを決定し、翌二七日、同法六条一項に基づき被告公団に除去作業を実施させ、被告公団は、同日中にこれを終了したものである。
(二) 緊急措置法三条一項一号に基づく本件使用禁止命令に係る本件工作物が右命令に違反して多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用に供されている場合であるという要件の充足
使用禁止命令が発出された後も引き続き多数の暴力主義的破壊活動者が当該工作物に出入りし、集合していると認められる状況において、当該工作物を拠点として暴力主義的破壊活動等が行われるに至った場合には、もはや当該工作物が多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用に供されていることは明白である。
そして、当該工作物が使用禁止命令に違反して多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用に供されたか否かを判断するに当たっては、当該集合が暴力主義的破壊活動等に関連して行われたか否か、すなわち、集合の目的・内容等は要件とされず、客観的に、当該工作物が使用禁止命令発出後、右集合の用に供されていると認められれば足りると解される。
また、当該工作物が暴力主義的破壊活動者の集合の用に供されているか否かは、除去処分時点において、当該工作物に暴力主義的破壊活動者による事実としての集合が認められるか否かによって判断するのではなく、当該工作物が暴力主義的破壊活動者の集合の用に供するものとして使用されている状態が継続しているか否かによって判断されるべきである。例えば、暴力主義的破壊活動者が何らかの理由によって、除去処分実施時に当該工作物内に現在していなくても、当該工作物の既往の使用状況等から、当該工作物が依然として暴力主義的破壊活動者の集合の用に供されていると認められる状態であれば、除去処分について何ら違法はないというべきである。
本件においては、次のとおり、暴力主義的破壊活動者の集合状況が見られるのみならず、特に、かねてから本件工作物に立てこもっていた「死守隊」と称する過激派集団に所属する者らが、昭和六二年一一月一六日及び同月二四日から二六日までの間において、本件工作物及びその周辺に赴いた警察官に対して、現に暴力主義的破壊活動等(前記3(二)(1)アの暴力主義的破壊活動等の第三類型)を行い、本件工作物を多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用に供していた事実が認められ、除去処分実施時に本件工作物が暴力主義的破壊活動者の集合の用に供されていると認められた。
(1) 本件工作物における昭和六二年一一月一六日前の多数の暴力主義的破壊活動者の集合状況
ア 暴力主義的破壊活動者の認定
本件除去処分以前、原告両名に加え、田中省三(以下「田中」という。)、矢田部宏(以下「矢田部」という。)、太郎良陽一(以下「太郎良」という。)及び坂田博文(以下「坂田」という。)の計六名が本件工作物に出入りしていた。
右六名のうち、原告両名については、前記3(二)(1)のとおり、暴力主義的破壊活動等を行う蓋然性が高いことは明らかであり、田中は、昭和四六年七月二六日、被告公団による新空港一期工事区域内の土地明渡請求事件に係る仮処分の際の「七・二六仮処分阻止闘争」(以下「七・二六仮処分阻止闘争事件」という。)における公務執行妨害罪の検挙歴を有している。
また、その余の三名については、原告石丸と同様に革労協に所属しており、同派は、暴力主義的破壊活動等を標ぼうするのみならず、これを実際に繰り返し敢行している上、本件使用禁止命令発出後も、引き続き暴力主義的破壊活動等を行う旨を積極的に主張し続けていた。
したがって、本件工作物に出入りが確認されている原告石丸ら六名は、その検挙歴及びその所属セクトからして、いずれも暴力主義的破壊活動等を行う蓋然性が高いということができ、これらの者が暴力主義的破壊活動者であることは明らかである。
イ 暴力主義的破壊活動者による集合状況
本件使用禁止命令発出後において、前記アのとおり、暴力主義的破壊活動者と認められる原告阿名及び革労協に所属し又はこれらの者と行動を共にしていると認められる多数の者らは、以下のとおり、本件工作物に集合していた。
<1> 昭和六二年七月五日、本件工作物において「三里塚二期阻止・木の根団結砦死守闘争」集会が開催されたが、同集会には前記田中、矢田部外八四名の革労協に所属する者を始め、計九八名が参加した。
同集会に先立ち、革労協は、「解放」において、「いまわれわれは、七・五をもっていっそう攻撃的に、いっそう暴力的に、そして、いっそう反対同盟農民―『用地』内農氏と固く連帯し、強行されている二期工事を粉砕する闘いに決起する」、「七・五は、この敵の悪らつな攻撃に対する、木の根団結砦死守四ヵ月めの新たな戦闘宣言集会である」(昭和六二年六月一五日号。<証拠略>)として、暴力主義的破壊活動等に関する意思を表明していた。
<2> 同年九月一三日、本件工作物において「木の根―二期決戦勝利・『障害者』解放現地総決起集会』が開催されたが、同集会には、原告両名外四〇名の革労協に所属する者を始め、計一〇一名が参加した。
同集会に先立ち、革労協は、「解放」において、「全ての仲間たちが、九・一三木の根に総結集されることを心から訴えます。決戦陣形を整え、武装し、木の根団結砦を死守し、空港へ進撃せん!」
(昭和六二年九月一日号。<証拠略>)として、暴力主義的破壊活動等に関する意思を表明していた。
<3> 同月一五日、本件工作物において、「二期工事実力阻止、C滑走路建設粉砕、不法収用弾劾、敷地内攻撃粉砕九・一五現地総決起集会」が開催されたが、同集会には、原告両名、矢田部外一四三名が参加した。
同集会に先立ち、革労協は、「解放」において、「九月十五日、木の根団結砦を拠点に、木の根―『用地』内をつらぬき闘いの炎をあげよう。」、「二期に対する猛然たる闘いの中で、敵の反対同盟破壊攻撃をうち枠き、反対同盟―『用地』内を守りぬき、十・一一に進撃しよう。」(昭和六二年九月一五日号。<証拠略>)として、暴力主義的破壊活動等に関する意思を表明していた。
(2) 昭和六二年一一月一六日における暴力主義的破壊活動者の集合状況
昭和六二年一一月一六日に、被告公団が、本件工作物付近において、被告公団用地を囲い込む管理柵設置及び道路の付替工事を行うについて、千葉県警察本部警備部第二機動隊所属の警察官がこれらに対する違法行為の規制、検挙などの任務に従事していた際、本件工作物内の櫓上にいた、青色ヘルメットを被った三、四名の者が、午前八時三〇分ころから午前一〇時一分ころまでの間、同警察官に対して投てき用パチンコ器具を用いるなどして多数の石塊、ボルトなどを投てきするなどの暴行を加えて、右警察官の職務の執行を妨害した。
右行為は、警察官に対し、直接的な身体的・精神的苦痛を与え、これにより新空港の設置を阻害するものであり、前記の暴力主義的破壊活動等の第三類型に該当するものであるから、これを行った者らは、当然、暴力主義的破壊活動者と認定することができ、右暴力主義的破壊活動者が、本件工作物に立てこもって、右各行為を行っていたものであるから、本件工作物が多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用に供されたことは明らかである。
(3) 同月二四日から二六日までの間における暴力主義的破壊活動者の集合状況
ア 一一月二四日
千葉県警察本部では、右一一月一六日の事犯を凶器準備集合・公務執行妨害被疑事件として捜査することとし、同月二四日午前七時ころ、同警備部第二機動隊ほか多数の警察官が本件工作物周辺に到着し、本件工作物において、捜索・差押えを実施する旨の通告を行った。
しかしながら、本件工作物の鉄門扉は開放されず、かえって櫓上から警察官に対して投石がされたので、警察官は、エンジンカッターを用いて門扉を切断する作業に取りかかったところ、間もなく、右櫓の上から火炎びんの投てきが開始され、右作業中の機動隊員二名が負傷した。このため、千集県警察は、右投てき行為を行っている者らを凶器準備集合罪、公務執行妨害罪及び火炎びん法違反等で逮捕することとし、逮捕活動に着手した。
これに対して、本件工作物に立てこもっていた「死守隊」と称する七名の過激派集団に所属する者らは、本件工作物の各櫓上に分散し、逮捕活動を行おうとして本件工作物に立ち入り、右の者らに近づいた警察官に対して大量の石塊、火炎びん等を投てきするとともに、消火器を改造した火炎放射器を使用して激しく抵抗し、結局、同日の負傷者は警察官一三名、報道関係者一名の一四名に及び、うち二名は、加療一箇月を要する傷害を負った。そして、同日中に投てきされた火炎びんは、確認されただけでも約一四〇本にも及び、さらに、本件工作物の櫓からは、新空港方面に向けて飛翔弾も発射された。
イ 一一月二五日
同月二五日、千集県警察は、前日から引き続く凶器準備集合、公務執行妨害、火炎びん法違反等の現行犯逮捕活動を行ったが、本件工作物内に立てこもっていた七名の暴力主義的破壊活動者は、前日同様、石塊、火炎びん等の投てきにより激しく抵抗した。同警察本部は、同日中に本件工作物に立てこもっていた七名のうち二名を逮捕したが、残る五名は依然として抵抗を続けた。ちなみに、同日中に投てきされた火炎びんは、確認されただけでも約一〇本に及んだ。
ウ 一一月二六日
同月二六日、本件工作物に立てこもっていた五名の暴力主義的破壊活動者は、引き続き火炎びんや石塊の投てきなどを繰り返していたが、千集県警察が逮捕活動のため、本件工作物の櫓外周に盛土をするなどして、これを倒すべく作業を実施していたところ、午後二時ころまでに全員が逮捕された。
以上の三日間にわたる、本件工作物に立てこもった七名による行為は、警察官に対し、直接的な身体的・精神的苦痛を与え、これにより新空港の設置又は管理を阻害するもので、前記暴力主義的破壊活動等の第三類型に該当するものであるから、右行為を行った七名は、当然、暴力主義的破壊活動者と認定することができ、右暴力主義的破壊活動者が本件工作物に立てこもって右行為を行っていたのであるから、本件工作物が多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用に供されたことは明らかである。
(4) 以上のとおり、本件使用禁止命令発出後に、原告両名ら多数の暴力主義的破壊活動者が本件工作物において、しばしば集合し、本件工作物が多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用に供されていた。
(三) 緊急措置法三条一項二号に基づく本件使用禁止命令に係る本件工作物が右命令に違反して「暴力主義的破壊活動等に使用され、又は使用されるおそれがあると認められる爆発物、火炎びん等の物の製造又は保管の場所の用」に供されている場合であるという要件の充足
緊急措置法三条一項二号に基づく使用禁止命令が発出されている工作物において、爆発物、火炎びん等が製造又は保管されていることが判明した場合には、当該工作物が暴力主義的破壊活動等に使用されるおそれがあると認められる爆発物、火炎びん等の物の製造又は保管の場所の用に供されていることが明らかである。
前記のとおり、本件工作物からは、昭和六二年一一月二四日から同月二六日までの間、捜索・差押え及び逮捕活動を行った警察官に対して大量の火炎びんが投てきされた上、消火器を改造した火炎放射器までも使用されたところであり、右行為は前記暴力主義的破壊活動等の第三類型に該当し、火炎びん等が本件工作物に保管され、暴力主義的破壊活動等に使用されたことはいうまでもない。
さらに、本件工作物に立てこもった七名の暴力主義的破壊活動者が逮捕された後、本件工作物からは、大量の火炎びん及び火炎放射器が押収されており、右火炎放射器の威力は、その火炎が七メートルにも及ぶ強力なものであった。右事実に照らせば、本件工作物が暴力主義的破壊活動等に使用され、又は使用されるおそれがあると認められる爆発物、火炎びん等の物の製造又は保管の場所の用に供されていたことは疑う余地がない。
(四) 本件除去処分時の要件充足性について
昭和六二年一一月二六日午後二時ころまでに、本件工作物に立てこもり、激しく抵抗した七名が逮捕されていたため、被告運輸大臣が本件除去処分の執行に着手した同月二七日には、本件工作物は無人であった。しかし、前記のとおり、当該工作物が使用禁止命令に違反して多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用に供されているか否かを判断するに当たっては、除去処分時にも使用禁止命令発出時における要件充足性の判断と同様、客観的に当該工作物が使用禁止命令発出後、右集合の用に供されていると認められれば足りると解すべきである。そして、当該工作物自体が暴力主義的破壊活動者の集合の用に供されているか否かは、当該工作物において暴力主義的破壊活動者の事実としての集合が現にされているか否かによって判断するのではなく、当該工作物が暴力主義的破壊活動者の集合の用に供するものとして使用されている状態が継続しているか否かによって判断されるべきである。
これを本件工作物についてみれば、本件工作物には、前記のとおり、本件使用禁止命令発出後も、原告両名ほか多数の暴力主義的破壊活動者が、確認されているだけでも昭和六二年七月五日、九月一三日、同月一五日の三回にわたり集合しており、右使用禁止命令発出後も、本件工作物が、引き続き多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用に供されている状態が継続していた。
そして、同年一一月二四日午前七時ころから同月二六日午後二時ころまでの間、本件工作物からは、立てこもった七名の者らにより、捜索・差押え及び逮捕活動を行った警察官に対して大量の火炎びん、石塊などの投てき、火炎放射器の噴射等の暴力主義的破壊活動等が行われ、被告運輸大臣が、右事態の発生を受けて本件除去処分を行うことを決定した同月二六日夕方の時点においては、右七名はすべて逮捕されていたが、これは、たまたま本件除去処分直前に、本件工作物に立てこもっていた者らの犯罪抑圧のため、千葉県警察が逮捕活動を行った結果にすぎないのであって、右逮捕活動と本件除去処分の要件充足性とは関係がなく、本件工作物が右逮捕活動終了後、無人であり得たのは、前記逮捕活動及びその後の本件除去処分のため、本件工作物周辺の警備により、右敷地内への出入りを制限していたことによるものであり、そうでなければ、本件工作物を従前同様革労協に所属する者らが占拠することが明らかであった。
また、右逮捕活動によって本件工作物から排除されたのは、「死守隊」と称する過激派集団から選抜された者七名のみであって、逮捕された右七名の「死守隊」の中には、本件使用禁止命令発出前及び本件除去処分決定時の警察資料により氏名が確認されている本件工作物の出入り者は含まれていないのであり、革労協の本件工作物に関する挑戦的な意思の表明状況、本件除去処分前における暴力主義的破壊活動等の実施状況及び本件除去処分までの間、本件工作物の周辺に、一一月二五日の最盛時には革労協及び革命的共産主義者同盟全国委員会(以下「中核派」という。)等に所属する者が確認されただけで六〇名も集結していたことにかんがみれば、右七名が逮捕されたのみで、本件工作物が革労協に所属する多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用に供される状態でなくなったと判断することはできない。
したがって、本件工作物が緊急措置法三条一項一号、二号の使用禁止命令に違反して、「多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用」及び「暴力主義的破壊活動等に使用されるおそれがあると認められる爆発物、火炎びん等の物の製造又は保管の場所の用」に供されている場合に該当するとの被告運輸大臣の判断は合理的であり、何ら違法はない。
(五) 当該工作物が暴力主義的破壊活動等にかかわるおそれが著しいと認められることの要件充足
当該工作物が将来的に暴力主義的破壊活動等にかかわるおそれの有無は、「当該工作物の現在又は既往の使用状況、周辺の状況その他諸般の状況から判断」する必要がある。そして、当該工作物が暴力主義的破壊活動等にかかわるおそれが著しいと判断される諸般の状況については、<1>当該工作物に出入りする者が所属する過激派集団が、当該工作物を要塞化し死守するとか、使用禁止命令等に対して報復行為を行うなどの挑戦的な意思を表明していることに加えて、<2>右意思表明のとおり、実際に当該工作物を要塞化・砦化したか、実際に当該工作物から火炎びんなどを投てきしたかなどの暴力主義的破壊活動等に該当する行為を実行したと認められるような場合が想定される。そして、本件工作物については、次のように右要件を満たしている。
(1) 本件工作物の現在及び既往の使用状況
革労協は、本件工作物を昭和五二年に建設した際に前記3(二)(2)エ<1>に記載の「解放」同年八月一日号(<証拠略>)で表明したとおり、右建設以降、本件工作物を一貫して同派の新空港反対闘争の拠点として使用してきた。
さらに、同派は、昭和六二年に至って、新空港二期工事の着工に危機感を強め、前記のとおり、同工事を実力で粉砕するとして、本件工作物の敷地内に新たに少なくとも三基の櫓を建設するとともに、「死守隊」と称する選抜された者らを立てこもらせ、本件工作物を拠点として暴力主義的破壊活動等を行う旨の挑戦的な意思を再三にわたって表明し続け、同年一一月一六日には、被告公団の管理柵設置工事を警備中の警察官に対して、本件工作物から石塊、ボルト等を投てきする暴力主義的破壊活動等を行ったほか、ついに同月二四日に至って、右意思表明のとおり、本件工作物に右事件の捜索・差押えに赴いた警察官に対して大量の火炎びん、石塊等の投てき、火炎放射器の噴射などによる暴力主義的破壊活動等を行うに至り、警察官一三名ほかが負傷するという最悪の事態を惹起せしめた。
また、本件工作物は、右事件の以前においても、前記のとおり、しばしば暴力主義的破壊活動等に関連した意思表明が行われた各種集会に使用されるなど、本件使用禁止命令に違反して多数の暴力主義的破壊活動等の集合の用に供されていたところである。
(2) 本件工作物に関する挑戦的な意思の表明及びその実行状況
そして、本件工作物を新空港反対闘争の拠点としている革労協は、本件使用禁止命令発出以降、「解放」において、本件工作物に関する挑戦的な意思の表明を繰り返し行い、それを実行に移している。
(3) その他、革労協には、過去に火炎ロケット弾、偽装消防車等を用いるなど、様々な意表を突く手段によって、新空港の設置又は管理を阻害し、加えて昭和六二年一一月二四日には、本件工作物の櫓上から新空港に向け飛翔弾を発射した事実などが認められるところからすれば、同派が、新空港からわずか三〇〇メートルの本件工作物を拠点として、今後も意表を突く過激な手段を用いた暴力主義的破壊活動等を行う蓋然性が高いと認められる。
右革労協の本件工作物の使用状況、本件工作物に関する挑戦的な意思の表明状況及び右意思の表明に基づく暴力主義的破壊活動等の実行状況などにかんがみると、革労協は、新空港二期工事を実力で粉砕し、さらに、新空港を武装闘争により廃港に追い込むことを最大の活動目標としており、緊急措置法三条一項一号、二号に基づく使用禁止命令を遵守する意思はなく、かえってこれに反発し、前記のとおり、本件工作物を拠点に暴力主義的破壊活動等を行う旨の挑戦的な意思を表明したにとどまらず、現に右意思表明に沿って、本件工作物を拠点として暴力主義的破壊活動等を行ったことが認められ、現在及び既往の使用状況、周辺の状況その他諸般の状況から判断して、本件工作物が暴力主義的破壊活動等にかかわるおそれが著しいと認められる。
(六) 他の手段によっては使用禁止命令の履行を確保することができないこと
他の手段によっては使用禁止命令の履行を確保することができない場合とは、当該工作物が存在する限り、暴力主義的破壊活動者において、緊急措置法に基づく使用禁止命令やその他の措置を遵守せず、これを無視して、当該工作物を実力で従前どおり集合の用等に供するという強固な意思が外形的にも明確に認められる場合などである。例えば、暴力主義的破壊活動者が、封鎖措置の対象となった工作物をこじ開けるなどして同工作物内に立ち入り、これを集合の用に供している場合が考えられるが、いまだ封鎖措置が講じられていなくとも、本件のように、捜索・差押えに赴いた警察官らに対して、大量の火炎びん、石塊などを投てきし、火炎放射器を噴射する等の激しい抵抗を行った場合なども含まれると解される。
本件工作物は、革労協が本件使用禁止命令発出後も、これを無視して本件工作物に集合し、多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用に供し続け、同使用禁止命令の履行が確保されたことは一度としてなかった。また、革労協の本件工作物に関する挑戦的な意思の表明状況からして、本件工作物が存在する限り、革労協が今後も使用禁止命令を無視し、本件工作物を暴力主義的破壊活動者の集合の拠点として使用を続けることも明らかであった。しかも、本件工作物を活動の拠点としていた革労協は、前記のとおり、千集県警察による本件工作物に対する捜索・差押えに激しく抵抗し、大量の火炎びん、石塊等を投てきし、火炎放射器を噴射するに及んでおり、これは、当該工作物を闘争拠点とする過激派集団が単なる捜索・差押えすらも当該工作物の破壊とみなして激しく抵抗し、当該工作物を死守し抜くことによって、当該工作物が存する限りこれを実力で従前どおり集合の用に供するという強固な意思を表明したものにほかならず、当該工作物に対する並々ならぬ執着と徹底的な抗戦の意思も併せて表明したものと理解することができる。
右事情に照らせば、仮に本件工作物に対する封鎖措置等を講じようとした場合、革労協の本件工作物に対する並々ならぬ執着と徹底的な抗戦の意思表明からして、たとえ、一時は封鎖等の措置を講じることで本件工作物が多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用に供されることを防ぎ、使用禁止命令の履行を確保することができたとしても、革労協に所属する者及びこれらの者と行動を共にする者は、あらゆる手段を用いて封鎖破り等の実力行使に及び、本件工作物の奪還を敢行するおそれが極めて高く、結局、本件工作物に対する使用禁止命令の履行を確保することは不可能であるといわざるを得ない。すなわち、本件工作物に対して封鎖措置等を講じるとしても、その方法は、本件工作物の周囲を鉄板等で囲繞し、かつ、警備の人員を配置する等の方法によらざるを得ないところ、革労協が前記のとおり、過去、成田用水を警備中の機動隊を襲撃する暴力主義的破壊活動等を敢行している事実にかんがみれば、同派が鉄板等で囲繞されて封鎖され、警備員が配置されるなどされた本件工作物に対して、封鎖破り等の実力行使を行うことは容易であると認められる。
なお、本件除去処分の終了後、革労協は、「解放」(昭和六二年一二月一日号外。<証拠略>)において、「木の根に再進撃し、砦奪還せよ」と本件工作物が除去されたにもかかわらず、これを奪還する旨の意思を表明したところであり、この点からも、革労協が封鎖破りを敢行するおそれが極めて高かったことは明白である。
したがって、前記のとおり、当該工作物が存在する限り、暴力主義的破壊活動者において、緊急措置法に基づく使用禁止命令やその他の措置を遵守せず、これを無視して当該工作物を実力で集合の用等に供するという強固な意思が外形的にも明確に認められるときは、他の手段によって使用禁止命令の履行を確保することができない場合に当たるところ、本件のように、革労協が、かねてから本件工作物に関して挑戦的な意思を表明し、右意思表明に沿って捜索・差押えに赴いた警察官に対して、火炎びんなどの投てき、火炎放射器の噴射等により激しく抵抗したときなども右の場合に含まれると解される。仮に本件工作物に封鎖措置を講じた場合でも、革労協は、すぐさま封鎖破り等の実力行使に及び、本件工作物の奪還を敢行するおそれが高く、このような状況において、本件工作物は、除去以外の措置によっては、使用禁止命令の履行を確保することがおよそ不可能であった。
また、原告らは、工作物に立てこもった者の抵抗が排除された後は、除去処分ではなく、封鎖措置を行い得ると考えているようであるが、そもそも抵抗する者が逮捕されていれば封鎖措置にとどめるというのは本末転倒であって、抵抗する者を逮捕するのは当該抵抗者の犯罪行為の有無を検討して警察が独自に決定すべきことであるから、右逮捕行為と除去処分の要件充足性とは関係がない。除去処分執行の際、既に警察による逮捕活動により抵抗していた者が逮捕され、排除されていたとしても、除去処分を行い得ることは当然である。そもそも、緊急措置法三条一〇項自体が、除去処分を講じようとする場合に退去処分ができる旨規定しており、当該工作物を無人化した後に工作物を撤去することが除去処分においては法律上当然に予定されているのである。
(七) 緊急措置法一条の目的を達成するため特に必要があると認められるときとの要件充足
緊急措置法は、昭和五三年の凶悪な管制塔襲撃事件を契機として、不法な暴力から新空港を完全に防護するための抜本的な対策として、新空港の設置、管理の安全の確保という、極めて人道的、国家的要請を受けて制定されたものである。そのような高度かつ緊急の公益的要請に応えるものであるゆえに、同法は、暴力主義的破壊活動者以外の第三者の権利を侵害する可能性もある除去処分を行う権限を被告運輸大臣に与えている。
緊急措置法がこのような趣旨、目的で制定されたものであることからすると、特に必要があるという要件は、新空港及びその機能に関連する施設の設置及び管理の安全の確保を図るとともに、航空の安全に資することの目的を達成するために、当該工作物の除去が必要不可欠であることをその要件とするものである。そして前記各要件を具備している場合には、当該工作物を除去する必要性も通常十分に認められるところであるが、緊急措置法が同法一条の目的を達成するため特に必要があると認められることを要件としたのは、このように右各要件を充足した場合であっても、直ちに除去処分を実行することなく、除去処分を現実に実施することの必要性について、同法の趣旨に照らして慎重に確認し、同法一条の目的を達成するため特に必要があると判断できる場合に限り除去処分を行えるものとして規定したものである。
これを本件工作物について検討すれば、本件工作物に出入りする過激派集団は、前記のとおり、武装闘争など暴力主義的破壊活動等に関する意思を数多く表明し、現実に新空港に対し火炎ロケット弾を発射し、航空機の運行に支障を与える等の暴力主義的破壊活動等を繰り返し敢行しているところである。このような中、現に右過激派集団により本件工作物から大量の火炎びん、石塊などを投てきし、火炎放射器を噴射する等の暴力主義的破壊活動等が行われ、さらに、相当量の火炎びん等が備蓄されていることがほぼ確実に推認される状況においては、本件工作物が現に暴力主義的破壊活動等の拠点とされており、これを除去し、新空港の安全を確保しなければ、今後、新空港の利用者の身体、生命の安全を守るという人道的要請に応えることができず、また、国家的、社会経済的利益も維持できなくなることは明白である。
すなわち、新空港は、昭和五三年五月に開港して以来、その利用者は一貫して増加を続け、本件除去処分が実施された昭和六二年度において我が国の航空需要の約七割を担うなど、我が国の国際交流の拠点として基幹的機能を果たしている。したがって、本件除去処分により保護される利益は、当時においても年間一四〇〇万人以上に上る内外の新空港利用者の安全のほか、我が国の基幹的国際交流機能など我が国の経済的社会的発展を支える上で不可欠な国家的利益である。
右事実に照らせば、被告運輸大臣において、本件除去処分の実施が同法一条の目的を達成するために特に必要があると判断したことは、適正かつ合理的なものである。
5 本件工作物の一体性について
以上1~4に加え、「木の根団結砦」と称される本件工作物は、高さ約三メートルの鉄板塀で固まれ、入口に鉄門扉を設けた同砦内に、本件使用禁止命令の発出時点において、新空港反対闘争の拠点とするため、多数の者が使用できる第一工作物及びこれと一体となっている物、木造平家建ての建築物一棟並びにこれらに付属する工作物(櫓六基及び第二工作物)を有していたところ、右第二工作物は、革労協に所属する本件工作物の常駐者らが参加して建設された上、右第二工作物には施錠もされておらず、本件工作物に立てこもった久保らが自由に出入りしていたものである。さらに、本件工作物を拠点とする革労協は、「解放」において、「木の根団結砦と反対同盟監視小屋を破壊せんとするもくろみなど、絶対に許さない」(昭和六二年二月一五日号。<証拠略>)と、右第二工作物を既設の工作物とともに断固死守する意思を表明していたところであり、右意思表明にかんがみれば、同派による「本日以降、敵権力機勤隊の木の根砦への立ち入りをわれわれは一切認めない」(「解放」昭和六二年四月一日号。<証拠略>)等の本件工作物に関する挑戦的な意思表明は、当然右第二工作物にも及ぶものと解するほかはない。
したがって、右第二工作物が既設の工作物と一体として使用されていたことは、前記の建設経緯、外形及び使用の態様等から明らかであり、被告運輸大臣が、右第二工作物を含む通称「木の根団結砦」敷地内のすべての工作物を本件各処分の対象としたことは、何ら違法がない。
6 被告運輸大臣の権限行使の適法性について
本件除去処分が緊急措置法三条八項の要件を充足していたことは、前記のとおりであり、被告運輸大臣は、暴力主義的破壊活動等を防止し、新空港の安全を確保するためには、本件工作物を除去し、これを多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用に供させないほかなしと判断したものである。したがって、昭和六二年一一月二七日に行われた本件除去処分は、同月二四日から二六日までの間の千葉県警察による捜索・差押え及び逮捕活動に対する激しい抵抗行為が契機となった点は事実であるとしても、被告運輸大臣の判断による本件除去処分と千葉県警察による右捜査活動との間には全く関連性はない。また、本件除去処分の後に行われた被告公団による本件土地占有は、民法二五二条の規定に基づく管理権の行使にすぎず、本件除去処分とは無関係である。
したがって、被告運輸大臣の除去処分の権限行使は適法である。
四 被告県の主張
1 昭和六二年当時の革労協の活動状況
革労協は、北原事務局長を代表とする原告同盟を支援するとして、昭和六二年当時は、千葉県成田市大清水一五八番地一所在の通称「大清水団結小屋」及び通称「木の根団結砦」と呼ばれる本件工作物のいわゆる「団結小屋」に活動家らを常駐させるなどして、新空港建設反対闘争を行っていた。
革労協は、空港建設反対に関連する集会・デモに参加し、あるいはこれを主催するとともに、新空港及びその関連施設又は警察施設等に対して、時限式発火装置を使用したテロ・ゲリラ事件を起こすなど過激な闘争を展開しており、昭和六二年一月一四日には、千葉県山武郡芝山町菱田地先において、成田用水工事の警戒警備に従事中の千集県警察本部警備部第二機動隊所属の警察官一五名に対し、火炎びん、鉄パイプ、バール、火炎放射器等を準備して襲撃し、警察官三名を負傷させるという凶悪な事件(成田用水第三駐車場警備部隊襲撃事件)を引き起こした。
また、革労協は、昭和六一年一〇月二七日、被告公団が京成成田空港駅に隣接する駐車場建設工事に着工したことに対し、「解放」において「木の根―二期決戦」との見出しで、「開始された二期工事を粉砕し、さし迫る木の根決戦に総決起せよ」、「反対同盟と連帯し、権力闘争の飛躍かちとれ」等と強く反発し、昭和六二年二月中旬から三月初旬にかけて、本件工作物敷地内に新たに櫓を建設するなどして、その要塞化を図った。そして、同年三月二九日に開催された原告同盟主催の全国集会で、革労協を代表して境武明全学連委員長は、「本日以降、敵権力機動隊の木の根団結砦への立入りをわれわれは一切認めない。それがたとえ家宅捜索であろうとも、機動隊が立ち入ろうとするならば、ただちに砦破壊の攻撃とみなす、ただちに機動隊をせん滅し、先制的な死守戦に突入し、空港破壊戦を敢行する。」、「死守隊の戦士たちは、ただいま武器を手に死守体制に突入した」と宣言し、、本件工作物に死守隊と称する者を常駐させたことを明らかにした(<証拠略>)。
なお、昭和六二年一一月当時の本件工作物の外観・形状は、三〇数メートル四方の四角形の敷地に、外周は高さ約三メートルのトタン塀及び鋼板塀で固まれ、敷地内にはプレハブ二階建て建物、プレハブ平家建て建物及び高さ約三メートルから約一六メートルの櫓が六基(一番櫓~六番櫓)設けられていた。
2 昭和六二年一一月中旬ころ、被告公団は、新空港の外周に位置する横堀地区や木の根地区に所在する被告公団用地に対し、管理柵の設置、立木の伐採、道路の付替工事を行った。
このような被告公団の動きに対し、革労協、中核派、共産主義者同盟戦旗派(戦旗両川派)等の過激派集団に所属する活動家らは、新空港二期工事本格着工の前段ととらえて強く反発し、連日、工事現場周辺で反対行動に出た。このため、千業県警察は、過激派集団の直接行動による不測の事態に備えて、機動隊を派遣して被告公団の右工事に係る警戒警備を実施した。
3 同年一一月一六日午前八時三〇分ころ、被告公団によって、木の根地区における管理柵設置及び道路の付替工事が開始されたが、それと同時に、本件工作物の櫓上にいた者らが作業員や警戒警備に当たっていた警察官らに対し、大型のパチンコや素手で石、ボルト、乾電池等を発射あるいは投てきした。このため、千葉県警察は、指揮官車の拡声器で右行為を止めるよう警告したが、これを無視して石やボルト等の投てきが続けられたので、周辺に配備中の機動隊を転進させて増強し、作業員を投石等から防護しながら作業を続行させた。
この投石等は、午前八時三〇分ころから午前一〇時ころまで続けられ、約四〇から五〇個の石塊等が投てきされた。千業県警察は、この投石等の事案を凶器準備集合及び公務執行妨害被疑事件として捜査することとし、翌一七日、千葉地方裁判所裁判官に捜索差押許可状を請求し、右許可状の発付を得て、同月二四日に右捜索差押許可状を執行することとした。また、右一一月一六日の投石等の事案は、同日午後一時ころから同二時三〇分ころまでの間、午前中と同様に約四〇から五〇個の石塊等が投てきされた。
4 同月二四日午前七時ころ、千集県警察の捜索班約二〇名及び千集県警察本部警備部第二機動隊長以下二個中隊約一〇〇名の警察官は、前記捜索差押許可状を執行するため、本件工作物の南側約二五〇メートルの通称「木の根入口」(以下「木の根入口」という。)に到着した。右第二機動隊長は、同所から機動隊の指揮官車の拡声器を使用し、本件工作物内にいる者たちに向けて「千業県警察は、一一月一六日発生の凶器準備集合、公務執行妨害事件で、これから捜索差押令状に基づき砦内を捜索する。門扉を開放しなさい。」等の広報を繰り返し実施させながら本件工作物に接近し、本件工作物西側約三〇~四〇メートルの地点に指揮官車を停止させた際も同様の広報を繰り返し実施させた。
同日午前七時三分ころ、捜索班及びそれを支援する機動隊員が本件工作物出入口門扉前に到着した。このころ既に散発的に本件工作物内の櫓上にいる者が投石を開始していた。右捜索班は、同所においてトランジスタメガフォンで、「千葉県警察だ。捜索に来た。門扉を開けなさい。」と三、四回繰り返し本件工作物に向かって呼び掛けたところ、本件工作物内の者らは、櫓上からの投石を止めないどころか、かえって本件工作物出入口門扉付近にいた右警察官らに対し、更に激しく石塊等を投げつけた。
このようなことから、同日午前七時一〇分ころ、右警察官らは、右捜索差押許可状を執行するためには、本件工作物出入口門扉の一部を切断するしかないと判断し、エンジンカッターを始動させたところ、門扉の直近にいた警察官らに火炎びんが投げられ、警察官二名が負傷した。
このため、千葉県警察は、やむを得ず捜索・差押えを一時中止して、まず本件工作物の櫓に立てこもり火炎びん、石塊等を投てきしている者らを凶器準備集合、公務執行妨害及び火炎びん法違反の被疑者として現行犯逮捕することとし、同日午前七時一四分ころ、その旨を櫓上に立てこもる者らに通告し、逮捕行為に着手した。
なお、この時点で、櫓に立てこもる者は、二番櫓に赤ヘルメットを被った者二名、その他の櫓に青色ヘルメットを被った者五名の合計七名であった。
5 千葉県警察は、右逮捕活動に着手したものの、本件工作物の櫓に立てこもる被疑者らが火炎びん、石塊等を激しく投てきしており、加えて、本件工作物の外周は高さ約三メートルの塀で囲まれていたため、本件工作物内に容易に立ち入ることができず、逮捕活動は困難を極めた。
そこで、千葉県警察は、警察官を本件工作物内に送り込むためには、まず本件工作物北西側の塀の一部を撤去する必要があると判断し、同日午前七時三〇分ころ、捜索班が捜索のためにあらかじめ準備していたクレーン車を使用して右撤去行為に着手し、同日午前八時三〇分ころ塀の一部を撤去した。
しかし、被疑者らは櫓上から火炎びん、石塊等を激しく投てきしていたため、地上から警察官を送り込む方法だけでは被疑者らの逮捕は困難な状況にあった。このため、千葉県警察は、櫓上に直接警察官を送り込む方法をも検討し、それに必要な大型クレーン車とゴンドラの準備をした。
右準備を終了した同日午後零時ころ、千葉県警察は、地上から警察官百数十名を本件工作物内に送り込み、ほぼ同時に、大型クレーン車に吊ったゴンドラに数名の警察官を乗り込ませて三番櫓上に直接送り込んだものの、被疑者らが火炎放射器による火炎放射や大量の火炎びん、石塊等を激しく投てきし、これにより多数の警察官が負傷したため、これ以上の逮捕活動は困難と判断し、送り込んだ警察官をやむなく撤去させた。
千葉県警察は、このままでは本件工作物に立てこもる被疑者らを逮捕できないと判断し、本件工作物周辺の立木の伐採や整地等の作業をした上で、バックホウを利用して凶器等の逮捕活動に障害となる物を払い落とし、その後に警察官を本件工作物内に送り込んで被疑者らを逮捕することとした。そして、同日午後二時ころから右整地作業等を開始し、同日午後四時一三分ころからは、バックホウを使用して火炎びん等の凶器が多数準備されていると認められた五番櫓の手摺及び凶器の払い落とし作業を開始したが、同日午後五時ころ、日没のため同櫓の手摺の一部を払い落としたのみで、いったん作業を中断した。
以上のような状況のために、千葉県警察は、一一月二四日には捜索・差押えも被疑者の逮捕もできなかったが、逮捕活動は機動隊を配置して継続し、本件工作物内の被疑者が逃走しないよう監視活動を行った。
6 翌一一月二五日は、前日と同様にバックホウで五番櫓の火炎びん等の凶器を払い落とし、警察官をクレーン車で櫓上に直接送り込んで被疑者らを逮捕する方針で、午前八時三〇分ころからバックホウやクレーン車が十分活動できるように、整地や鉄板敷設等の作業を開始した。しかし、右作業に対して、被疑者らが櫓上から火炎びん、石塊等を激しく投てきしたため、警察官が大楯で防護するとともに、放水、ガス筒発射器を使用して右行為を制止するなどして右作業を行ったが、そのような中で、午前一〇時ころには、火炎びんによりブルドーザーが炎上させられるという事態も発生した。
右鉄板敷設作業等の終了を待って、バックホウやクレーン車を使用して五番櫓の凶器の払い落としを行ったものの、同櫓に立てこもる被疑者らが火炎びん等を激しく投てきしていたため、警察官を本件工作物内に送り込んで逮捕活動を行うまでには至らなかった。このため、千葉県警察は、被疑者らを逮捕するには櫓を倒すしかないと判断し、同日午後零時ころ、比較的高さが低く、かつ、抵抗の激しい二番櫓をクレーン車を使用して倒すこととした。なお、このとき、同権には前日と同様に赤色ヘルメットを被った二名が立てこもっていた。
千葉県警察は、同櫓に立てこもる被疑者らに、火炎びん等を投げるのを止めて自ら降りてくるよう繰り返し説得を行ったが、同人らはこれを無視して投石等を繰り返した。このため、千葉県警察は、これ以上説得を続けても被疑者らが説得に応じる見込みはないと判断し、同日午後零時三〇分ころ、クレーン車を使用して櫓を倒す作業に着手し、その途中で再度自ら降りるよう説得したが、それにも応じる様子がなかったので、同人らが怪我をしないようゆっくり櫓を倒した。これにより、地上に滑り落ちた被疑者らの内一名を逮捕したが、他の一名は逮捕を逃れ、五番櫓へと逃げ込んだ。
二番櫓での逮捕活動を終えた千葉県警察は、再度五番櫓での逮捕活動を行うこととし(この時、同櫓には青色ヘルメットを被った三名、赤色ヘルメットを被った一名の被疑者が立てこもっていた。)クレーン車のアームの先に錨のような金具を付け、同櫓の踊り場にある凶器の払い落としを行った。しかし、クレーン車では思うように凶器の払い落としができなかったため、バックホウを使用することとし、これを同櫓近くまで入れるための整地作業を行った。右作業が終了した同日午後四時ころ、同櫓に立てこもる被疑者らに対し、再三にわたり自ら降りるよう説得をしたが、同人らは、これに応じる様子を示さなかったので、バックホウによる凶器払い落とし作業を開始した。右作業が進むと、青色ヘルメットを被った被疑者三名は、四番櫓から投げられた縄梯子を渡って同櫓に逃走したが、赤色ヘルメットを被った被疑者一名は警察官によって逮捕された。
千葉県警察は、同日も日没が近づいたためいったん作業を中止した。しかし、逮捕活動は前日と同様に機動隊を配置して継続し、被疑者らが逃走しないよう監視活動を行った。この時点で本件工作物に立てこもる被疑者は、四番権に青色ヘルメットを被った四名、六番櫓に青色ヘルメットを被った一名の合計五名であった。
7 翌一一月二六日、千葉県警察は、残る被疑者五名を櫓を倒して逮捕することとし、櫓を倒す際の危険性を軽減するために、櫓の倒壊予定地点に土盛りをした。右土盛り作業を終了した同日午後一時三七分ころ、六番櫓から被疑者一名が盛土に飛び降りたので逮捕した。その後午後一時五九分ころまでに、四番櫓に立てこもっていた四名も次々と降りてきたので逮捕した。
8 千集県警察は、右逮捕活動終了時から翌一一月二七日午後二時過ぎころまで、同月二四日以降本件工作物において発生した凶器準備集合、公務執行妨害、火炎びん法違反等の被疑事件捜査のため、同月二五日付けで千集地方裁判所裁判官が発付した捜索差押許可状及び検証許可状により本件工作物に対する検証等を行った。
9 被告運輸大臣は、同月二七日に緊急措置法に基づき、被告公団をして本件工作物の除去事務等を行わせたが、その際、千葉県警察は、右事務遂行に対する妨害行為等の不法事案の発生が懸念されたことから、警戒警備を実施した。
10 このように、千業県警察は、一一月二四日から二五日までの間に、本件工作物の塀の一部を倒し、三番櫓を傾け、二番櫓、五番櫓及び同櫓と一体をなす二階建てプレハブ小屋を倒したが、これらの実力行使は、逮捕の目的を達するために、やむなく採った措置である。
そして、千葉県警察は、警察官による櫓を倒す前の投降の説得、警察官がクレーン車で乗り移るなどの手段を尽くしたが、被疑者らから火炎びん等による激しい攻撃を受けたため、到底逮捕することができなかったため、また、倒す方法も事前に被疑者らに警告を繰り返した上、櫓をゆっくり倒し、被疑者らに怪我を生じないよう配慮して行ったものである。
警察官の右実力行使は、現行犯逮捕のために必要かつ相当なものであり、何ら違法はない。
また、千葉県警察は、一一月二四日の現行犯逮捕する旨通告したころから二七日午後二時過ぎの検証等の終了時まで、原告同盟の構成員のみならず、一般人が本件工作物の敷地に立ち入ることを規制した。これは、立ち入る者の生命・身体に危険が及ぶことを回避するとともに、現行犯逮捕及び検証等の活動に妨害となることを避けるために採られた措置である。
さらに、千葉県警察は、一一月二七日午後二時過ぎから午後七時三〇分過ぎまで、被告公団が行う本件工作物の除去作業等に対する違法行為の防止のため警戒警備に当たったが、この行為に何ら違法はない。
五 被告公団の主張
本件土地は、被告公団において三九分の三七の持分権を有する共有地であるが、原告同盟は、その共有者でもないし、また、被告公団との間で本件土地の使用につき合意をした事実もなく、原告同盟が本件土地上に存した本件工作物等を所有し、本件土地を占有していたとしても、その占有は何らの権原に基づくものではなく、単なる事実上の占有にすぎない。
原告両名は、仮に原告らの主張が事実であるとしても、原告同盟の委託による本件工作物の単なる管理人にすぎないから、何ら本件土地に対する占有権原を有するものではない。
そして、本件工作物は、被告運輸大臣が緊急措置法三条八項の規定に基づき、同大臣に付与された工作物除去権限を行使したことにより、昭和六二年一一月二七日に適法に除去され、本件土地上に存在しないこととなったのであり、仮に原告らが本件土地を占有していたと解する余地があったとしても、元々本件土地に対する何らの占有権原もなく、単に本件工作物を所有・管理することによってのみ本件土地を占有していた原告らの占有は、その時点で消滅したものである。また、原告らは元々本件土地に対する占有権原がなく、また、本件工作物は、本件除去処分により適法に消滅したのであるから、民法二〇〇条にいう「占有ヲ奪ハレタ」場合に当たらず、原告らには占有回収の訴えは認められない。
他方、被告公団は、本件工作物の除去後、特定の者の占有下にない更地状態の本件土地について、再び不法に反対運動のため拠点化されることを防止するため、本件土地の約九四パーセントの共有持分権を有する被告公団の正当な権原の行使として、本件土地に隣接する被告公団所有地に柵を設置して本件土地を囲い、管理を開始した。すなわち、被告公団は、原告らの占有を奪ったり、承継したものではなく、被告運輸大臣のした行政処分によって、第三者の占有が消滅した本件土地に対し、被告公団の正当な権原に基づく事実支配を開始し、もって占有を原始取得したものである。
したがって、被告公団による本件土地の管理開始時には、原告らは本件土地について法的に保護されるべき占有を失っていたのであり、被告公団による本件土地の占有管理の開始をもって、原告らの本件土地占有権に対する侵害であるとの主張は失当である。
そして、被告運輸大臣による本件除去処分並びに被告県による本件工作物に対する捜索・差押え及び逮捕活動は、被告公団による本件土地の占有管理の開始とは無関係である。
第三判断
一 本案前の申立てについて
1 本件除去処分取消請求について
前示第二の一5(一)のとおり、被告運輸大臣が命じた本件除去処分は、被告公団において除去措置事務を実施し、昭和六二年一一月二七日中に本件工作物を完全に除去し、終了したものと認められる。そして、除去が終了した以上、本件除去処分が取り消されたとしても、それによって、被告運輸大臣に対し本件工作物の再築等原状回復を義務付ける法律上の規定はない上、除去の適法性を前提とする後続手続が規定されているものでもない。したがって、原告らには、本件除去処分を取り消す法律上の利益は認められず、本件除去処分取消請求については、訴えの利益がなく、不適法というべきである。
2 命令・勧告等措置請求について
原告らは、被告運輸大臣に対し、被告運輸大臣が被告公団に対して本件土地の占有を原告らに回復させるための命令、勧告等の適切な措置を講じることを求めている。
原告らの右命令・勧告等措置請求の訴えは、行政事件訴訟法上明文としては規定されていないいわゆる無名抗告訴訟と理解される。
(一) ところで、原告らが主張するところの、被告運輸大臣が被告公団に対して行う本件土地の占有を原告らに回復させるための命令、勧告等の措置は、緊急措置法六条により被告運輸大臣の委嘱を受けて除去措置を実施した被告公団に対し、工作物を除去する作業手続の一環として、撤去された工作物の敷地の占有者に対し、その占有を回復させるための措置を講ずることをいうものと解され、したがって、右措置は、いわば上位行政機関としての被告運輸大臣が下級行政機関としての被告公団に対して行う行政機関相互の行為と同視すべきもので、行政行為として外部に対する効力を有するものではなく、これによって直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定する効果を伴うものではないから、無名抗告訴訟の対象となり得る行政処分には当たらないというべきである(なお、原告ら主張の右措置の内容として、権利主体としての被告公団に対し、実体的権利としての占有権(本件土地の占有)を移転させるための命令・勧告が含まれると解したとしても、行政機関である被告運輸大臣が権利主体たる被告公団に対して実体的権利関係につき命令・勧告等の措置を講ずることができる旨の法律上の根拠を欠き、この点においても、原告らの右請求は失当である。)。
(二) また、行政事件訴訟法は、行政庁により行政行為がされるのを待たずに、その前に、訴訟手続で行政処分をすべきこと又はすべからざることを義務付けることを求めることは、権力分立、行政庁の策一次的な判断権の尊重という観点から原則的にこれを許さず、行政庁の処分権限の存否に争いがある場合は、行政行為がされた後に取消訴訟という形式で行政庁の判断(認定)を争わせ、また、作為義務の存否に争いがある場合は、国民が行政庁に対しある行政行為をすべきことを求めているのにかかわらず何らの処分もされないままになっている場合に、不作為の違法確認の訴えにより、何らかの処分すなわち申請に対する許否の決定を得させ、この処分に対して不服があればその取消しを求めさせるというのが建前であり、いわゆる義務付け訴訟が認められるのは、右行政庁の第一次的な判断権の尊重という観点から、行政庁が一定の行為をすべきこと又はすべからざることが法律上覊束されていて、作為・不作為義務についての行政庁の第一次的な判断を重視する必要がない程度に明白で、かつ、事前の司法審査によらなければ国民の権利救済が得られず回復し難い損害が生ずるというような緊急の必要性があると認められる場合に限られるというべきである。
原告らの右訴えについてこれをみるに、被告運輸大臣が被告公団に対して、本件土地の占有を原告らに回復させるように命令等の措置を行わなければならないという法律上の覊束を受けているものとする根拠はなく、また、右措置を行わなければならないことについて、被告運輸大臣の第一次的判断を尊重する必要がない程度に明白であるということもできない。加えて、被告公団によって本件土地の占有を奪われたとする者は、通常、占有回収の訴えにより、また、同人が所有者である場合には所有権に基づく妨害排除請求権として、民事訴訟手続により本件土地の返還及び損害賠償を請求することによって、土地の占有や損害を回復することができるのであり、事前の行政訴訟による司法審査によらなければ国民の権利救済が得られず回復し難い損害が生ずるというような緊急の必要性が認められるものではない〔なお、<証拠略>によれば、原告らは被告公団を相手方として占有回収の訴えを提起し(当庁昭和六三年(ワ)第四八号、差戻後平成二年(ワ)第一七二八号)、現在東京高等裁判所平成五年(ネ)第四五八四号事件として係争中であることが認められる。〕。
(三) したがって、いずれにしても原告らの右訴えは不適法である。
二 緊急措置法の合憲性の有無について
1 緊急措置法は、制定の経緯、態様に照らして拙速のそしりを免れず、法全体として違憲無効であるという点について
同法の法案が衆議院及び参議院でそれぞれ可決されたものであることは公知の事実であるところ、法案の審議にどの程度の時間をかけるかは専ら各議院の判断によるものであって、その時間の長短によって公布された法律の合憲性や効力が左右されるものではなく、原告らの主張は採用できない。
2 緊急措置法三条一項一号の憲法二一条違反の有無について
緊急措置法の成立経緯についてみるに、<証拠略>によれば、新空港の供用開始日は、当初昭和五三年三月三〇日とされていたが、これに対し、新空港の建設に反対する過激派が実力闘争を展開し、同年三月二六日には、火炎車を新空港内へ突入させたり、新空港管制塔内に乱入して航空管制機器類を破壊したりする等の暴力主義的破壊活動が行われ、右供用開始を同年五月二〇日に延期せざるを得なくなったこと、緊急措置法は、新空港及びその周辺において、暴力主義的破壊活動が行われている異常な事態の中、新空港若しくはその機能に関連する施設の設置若しくは管理を阻害し、又は新空港若しくはその周辺における航空機の航行を妨害する暴力主義的破壊活動を防止するため、その活動の用に供される工作物の使用の禁止等の措置を定め、もって新空港及びその機能に関連する施設の設置及び管理の安全の確保を図るとともに、航空の安全に資することを目的(同法一条参照)として、同年五月一二日に成立し、翌一三日公布、施行されたことが認められる。
ところで、緊急措置法三条一項一号に基づく工作物使用禁止命令により保護される利益は、新空港又は航空保安施設等の設置、管理の安全の確保並びに新空港及びその周辺における航空機の航行の安全の確保であり、それに伴い新空港を利用する乗客等の生命、身体の安全の確保も図られるのであって、これらの安全の確保は、国家的、社会経済的、公益的、人道的見地から極めて強く要請されるところであり、他方、右工作物使用禁止命令により制限される利益は、多数の暴力主義的破壊活動者が当該工作物を集合の用に供する利益にすぎない。しかも、緊急措置法制定当時、過激派による暴力主義的破壊活動が繰り返されるという異常事態の中で同法が制定されるに至った経緯に照らせば、暴力主義的破壊活動等を防止し、前記新空港等の設置、管理等の安全を確保することには高度かつ緊急の必要性があったものといい得るところ、後記のように、その後においても革労協等により暴力主義的破壊活動等が繰り返し行われている状況下においては、右必要性は何ら異ならないものというべきである。以上を総合して較量すれば、規制区域内において暴力主義的破壊活動者による工作物の使用を禁止する措置を採り得るとすることは、集会の自由に対する公共の福祉による必要かつ合理的な制限であるということができる。また、同法二条二項にいう「暴力主義的破壊活動等を行い、又は行うおそれがあると認められる者」とは、同法一条に規定する目的や同法三条一項の規定の仕方、さらには、同項の使用禁止命令を前提として、同条六項の封鎮等の措置や同条八項の除去の措置が規定されていることなどに照らし、「暴力主義的破壊活動を現に行っている者又はこれを行う蓋然性の高い者」の意味と解される。そして、同条一項にいう「その工作物が次の各号に掲げる用に供され、又は供されるおそれがあると認めるとき」とは、「その工作物が次の各号に掲げる用に現に供され、又は供される蓋然性が高いと認めるとき」の意味に解すべきである。したがって、同項一号が過度に広範な規制を行うものとはいえず、その規定する要件も不明確なものであるとはいえない。
したがって、緊急措置法三条一項一号は、憲法二一条一項に違反するものではない(最高裁平成四年判決参照)。
3 緊急措置法三条一項一号、三号の憲法二二条一項違反の有無について
緊急措置法三条一項一号に基づく工作物使用禁止命令により多数の暴力主義的破壊活動者が当該工作物に居住することができなくなるとしても、右工作物使用禁止命令は、新空港等の設置、管理等の安全を確保するという国家的、社会経済的、公益的、人道的見地からの極めて強い要請に基づき、高度かつ緊急の必要性の下に発せられるものであるから、右工作物使用禁止命令によってもたらされる居住の制限は、公共の福祉による必要かつ合理的なものであるといわなければならない。
したがって、緊急措置法三条一項一号は、憲法二二条一項に違反するものではない(平成四年最高裁判決参照)。
また、原告らは、緊急措置法三条一項三号についても憲法二二条一項違反を主張するが、右三号は、本件各処分のいずれにも関係がない。
4 緊急措置法三条八項の憲法二五条違反の有無について
憲法二五条は、すべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営み得るように国政を運営すべきことを国の責務として宣言したにとどまり、直接個々の国民に対して健康で文化的な最低限度の生活に関する具体的権利を付与したものとは解されない。したがって、他に実体法上の根拠を示さずに憲法二五条違反をいう原告らの主張は理由がない。
5 緊急措置法三条一項、八項の憲法二九条一項、二項違反の有無について
(一) 緊急措置法三条一項について
緊急措置法三条一項に基づく工作物使用禁止命令は、当該工作物を、(1)多数の暴力主義的破壊活動の集合の用に供すること、(2)暴力主義的破壊活動等に使用され、又は使用されるおそれがあると認められる爆発物、火炎びん等の物の製造又は保管の場所の用に供すること、(3)新空港又はその周辺における航空機の航行に対する暴力主義的破壊活動者による妨害の用に供すること、以上の三態様の使用を禁止することを目的とするものである。そして、右三態様の使用のうち、多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用に供することを禁止することが、新空港等の設置、管理等の安全を確保するという国家的、社会経済的、公益的、人道的見地からの極めて強い要請に基づくものであり、高度かつ緊急の必要性を有するものであることは前記のとおりである。この点は他の二態様の使用禁止についても同様であり、右三態様の使用禁止は財産の使用に対する公共の福祉による必要かつ合理的な制限であると解される。また、緊急措置法三条一項にいう「その工作物が次の各号に掲げる用に供され、又は供されるおそれがあると認めるとき」とは、「その工作物が次の各号に掲げる用に現に供され、又は供される蓋然性が高いと認めるとき」の意味に解すべきであって、緊急措置法三条一項一号の規定する要件が不明確なものであるといえないことは前記のとおりであり、同項二号の規定する要件も不明確なものであるとはいえない。
したがって、緊急措置法三条一項一号、二号は憲法二九条一項、二項に各違反しない(平成四年最高裁判決参照)。
また、緊急措置法三条一項三号が本件各処分のいずれとも関係がないことは前記のとおりである。
(二) 緊急措置法三条八項について
財産権に対して加えられる規制が憲法二九条二項にいう公共の福祉に適合するものとして是認されるべきものであるかどうかは、規制の目的、必要性、内容、その規制によって制限される財産権の種類、性質及び制限の程度等を比較考慮して決すべきものであるが、裁判所としては、立法府がした右比較考慮に基づく判断を尊重すべきものであるから、立法の規制目的が財産権に対して規制を要求する社会的理由ないし目的に出たとはいえないものとして公共の福祉に合致しないことが明らかであるか、又は規制目的が公共の福祉に合致するものであっても規制手段が右目的を達成するための手段として必要性若しくは合理性に欠けていることが明らかであって、そのため立法府の判断が合理的裁量の範囲を超えるものとなる場合に限り、当該規制立法が憲法二九条二項に違背するものとして、その効力を否定することができるものと解される(最高裁昭和六二年四月二二日判決・民集四一巻三号四〇八頁参照)。
緊急措置法三条八項については、同条項が財産権に対して規制を行う目的は、新空港等の設置、管理等の安全の確保及び新空港を利用する乗客等の生命、身体の安全の確保であるところ、同条項の要件を満たす場合には、新空港等の設置、管理等の安全及び新空港を利用する乗客等の生命、身体の安全につき高度かつ緊急にその保護の必要性が認められ、右法益に対する危険が同条一項所定の禁止命令が想定している場合に比してより一層高まっている場合である。そして、右危険が現実のものとなるときは、新空港等の設置、管理等の安全が損なわれ、新空港を利用する乗客等の生命、身体に回復することのできない重大な被害が及ぶことになるのであるから、右の要件を満たす場合には、かかる被害を未然に防止するため、当該工作物を除去することによって右危険を排除し、新空港等の設置、管理等の安全の確保を図るとともに新空港を利用する乗客等の生命、身体の安全を確保する必要性が十分に認められる。その上、同条八項は、封鎖などの代替措置によっては同条一項の禁止命令の履行を確保することができず、かつ、前記緊急措置法の立法目的を達成するために特に必要な場合に限り当該工作物の除去を認めているのであるから、このような場合に当該工作物を除去することは、たとえ当該工作物に対する所有権等を失わせる結果になるとしても、前記のような法益を保護するための必要やむを得ない合理的な手段であると認められる。加えて、被処分者は、同法四条の規定に基づき損失の補償を受けることができ、財産上の損失について回復を図る手続が規定されている。
このような規制の目的、必要性、内容、その規制によって制限される財産権の種類、性質及び制限の程度を併せ考慮すると、緊急措置法三条八項の規制目的は公共の福祉に合致し、同項の規制手段は規制目的を達成するための手段として必要かつ合理的なものということができる。
また、当該工作物の除去は、緊急措置法三条八項により認められているのであって、法律上の定めによるものである。
したがって、緊急措置法三条八項は、憲法二九条一項、二項に違反しない。
6 緊急措置法三条一項、六項、八項の憲法三一条違反の有無について
(一) 憲法三一条の定める法定手続の保障は、直接には刑事手続に関するものであり、行政手続については、それが刑事手続ではないとの理由のみで、そのすべてが当然に同条による保障の枠外にあると判断することは相当ではない。しかしながら、同条による保障が及ぶと解すべき場合であっても、一般に、行政手続は、刑事手続とその性質においておのずから差異があり、また、行政目的に応じて多種多様であるから、行政処分の相手方に事前の告知、弁解、防御の機会を与えるかどうかは、行政処分により制限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度、行政処分により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等を総合較量して決定されるべきものであって、常に必ずそのような機会を与えることを必要とするものではないと解するのが相当である。
(二) 緊急措置法三条一項に基づく工作物使用禁止命令により制限される権利利益の内容、性質は、前記のとおり当該工作物における三態様の使用であり、右命令により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等は、前記のとおり、新空港等の設置、管理等の安全という国家的、社会経済的、公益的、人道的見地からその確保が極めて強く要請されているものであって、高度かつ緊急の必要性を有するものであることなどを総合較量すれば、右命令を発するに当たり、その相手方に対し事前に告知、弁解、防御の機会を与える旨の規定がなくても、緊急措置法三条一項が憲法三一条の法意に反するものということはできない。また、緊急措置法三条一項一、二号の規定する要件が不明確なものであるといえないこと、同項三号が本件各処分と関係がないことは前記のとおりである。
したがって、緊急措置法三条一項は、憲法三一条の法意に反するものではなく(平成四年最高裁判決参照)、原告らの違憲の主張は理由がない。
(三) また、緊急措置法三条八項が規定する工作物の除去は、新空港等の設置、管理等の安全及び新空港を利用する乗客等の生命、身体の安全という、国家的、社会経済的、公益的、人道的見地からその確保が極めて強く要請され、その保護につき高度かつ緊急の必要性が認められ、さらに、同条一項に基づく使用禁止命令にもかかわらず、これに反して右法益に重大な危険が高まっており、他に有効な規制方法がなく、特に当該工作物の除去が必要な場合に行われるものであって、右法益保護の必要性がより高度かつ緊急な場合であること、工作物の除去は右使用禁止命令を前提にした措置であり、使用禁止命令によって除去に対する予測可能な警告があったといえること、使用禁止命令段階における訴訟等によって被処分者の行政庁に対する弁解等を主張することも可能であること、同条八項の規定に基づく除去によって侵害される権利利益の内容は、工作物に対する財産権であり、除去が行われると、当該工作物の所有権はその所有権を失うこととなるが、当該工作物の所有者等は、事後的にせよ同法四条の規定に基づき通常生ずべき損失の補償を受けられることを併せ考慮すれば、工作物の除去をするに当たって、その相手方に対し事前に告知、弁解、防御の機会を与える旨の規定がなくても、緊急措置法三条八項が憲法三一条の法意に反するものとはいえない。
したがって、緊急措置法三条八項の憲法三一条違反をいう原告らの主張は理由がない。
(四) 原告らは、緊急措置法三条一項、八項は、その要件充足性につき第三者機関を置かず、被告運輸大臣の恣意性が働く一般条項であって、憲法三一条に違反すると主張する。
しかしながら、右各条項の要件は不明確なものといえず、航空に関する国の行政事務を一体的に遂行する責任を負う運輸省の長として、運輸省の所掌事務を統括し、職員の服務について統督する運輸大臣(国家行政組織法五条一項、一〇条、運輸省設置法二条、三条、三条の二)に右要件充足の判断を行わせたとしても、それ自体違憲ということはできず、また、事後的には裁判所による要件充足の判断が可能であることからすれば、原告らの主張は理由がない。
(五) 緊急措置法三条六項は、本件各処分とは関係がないので、同項の違憲をいう原告らの主張は理由がない。
7 憲法三五条違反の有無について
原告らは、緊急措置法三条三項、六項が憲法三五条に違反する旨主張する。
しかしながら、本件工作物に関しては、被告運輸大臣が、本件使用禁止命令の履行確保のために職員を本件工作物内に立ち入らせ、又は関係者に質問させた事実、さらには、本件工作物について封鎖その他必要な措置を講じた事実を認める証拠はない。
したがって、緊急措置法三条三項、六項は、本件各処分のいずれとも関係がなく、右各条項の違憲をいう原告らの主張は理由がない。
8 また、原告らは、予備的に、緊急措置法を合憲限定解釈したとしても本件各処分においては適用違憲であると主張する。
しかし、前記説示のように、緊急措置法は合憲であると解されるのみならず、後記説示のように、革労協等によって緊急措置法二条一項の定める暴力主義的破壊活動等が本件各処分当時においても行われていたことが認められ、被告運輸大臣が緊急措置法を適用して本件使用禁止命令及び本件除去処分をしたことに憲法に違反する点は認められない。
三 本件除去処分の適法性について
1 本件除去処分の前提たる本件使用禁止命令の適法性について
(一) 本件工作物の建設経緯は、前示第二の一2のとおりであるが、<証拠略>によれば、以下の事実が認められる。
(1) 本件工作物の本件各処分当時の現況及び使用状況
第一工作物は、原告同盟が建築材料を調達し、反戦全学連現地行動隊(以下「現地行動隊」という。)に所属する者や反戦青年委員会に所属する者らによって作られ、その床面積は一、二階部分合計で約一〇〇平方メートルある。そして、本件工作物は、新空港の供用区域からわずか三〇〇メートルの位置(同空港二期工事予定区域内)に存し、本件使用禁止命令が発出された昭和六二年五月当時の本件工作物の状況は、高さ約三メートルの鉄板塀に囲まれ、右塀の上には有刺鉄線が張られ、本件工作物の南側には、本件工作物の唯一の出入口である鉄製の扉があり、さらに、本件工作物の入口付近外側に、直径二メートル、深さ一メートルほどの二つの穴があり、鉄門扉の内側には、機動隊等が入るのを警戒して鉄門扉が容易に開放されないように二台の車が並べられ、鉄製の扉は施錠されており、中に入るには扉をたたいて声を掛け、本件工作物内にいる人物が確認してから入るようになっており、本件使用禁止命令当時、櫓の上には解放派、革労協、プロレタリア統一戦線と書かれた幕が掲げられ、鉄板塀には「空港粉砕!成田法粉砕!木の根・二期決戦勝利」と書かれた看板が設置されていた。
そして、革労協は、昭和六二年二月前においては、本件工作物を新空港反対の拠点として、死守する意思を表明するとともに、本件工作物をその砦として使用していたが、同年二月中旬以降、三基の櫓を新たに建設し、本件工作物を要塞化し、本件工作物内に「死守隊」と称する者らを立てこもらせ、機関紙「解放」で本件工作物を暴力主義的破壊活動等の拠点とする意思を表明していた。
すなわち、革労協は、「解放」において、「わが解放派は第二期工区内に、二階建ての第二団結小屋=木の根団結砦を建設した。この木の根団結砦は、大清水の第一団結小屋とともに、三里塚におけるわが解放派の一大拠点であると同時に、開港阻止へ向けた不抜の前進基地として打ち固められるであろう。」(昭和五二年八月一日号。<証拠略>)、「木の根砦死守し、二期工事実力粉砕せよ!」(昭和五四年三月一日号。<証拠略>)、「我々は、二期―廃港決戦の尖端的戦場、木の根砦死守戦に実力決起する」(昭和五六年一〇月一五日号、<証拠略>)、「決戦の機は熟した!木の根団結砦をおし立て82年二期着工阻止の一大決戦へ進撃せよ!」(昭和五七年一月一日号。<証拠略>)、「木の根砦おしたて二期着工を実力阻止せよ」、「この大やぐらの建設の意義は絶大である。大やぐらは木の根の地でさらに十五メートルの勇姿を完成させ、そびえたたんとしている。」、「なによりも、第一に、二期『用地』内の木の根のどまん中に、権力と闘う大やぐらの建てかえをやりぬき、二期―廃港決戦を実力闘争で闘いぬく解放派の決意をさし示したことである」(昭和五八年四月一日号。<証拠略>)、「成田治安法粉砕し、木の根決戦へ」(昭和五九年一一月一五日号。<証拠略>)、「われわれが何よりも築きあげるのは、木の根決戦の布陣である」、「木の根こそは、二期着工をめぐる最初の、そして最大の戦場である」、「木の根団結砦は反対同盟の財産であり、それを守り抜く闘いはわが解放派の誇りである。敵の攻撃を正面からうけてたち、二期・廃港決戦の勝利へ進撃しよう。」(昭和六〇年二月一五日・三月一日号。<証拠略>)、として、本件工作物を新空港反対の拠点とし、これを堅守する意思表明を度々していたが、昭和六一年ころから二期工事の着工に危機感を強め、「二期着工―現空港を粉々うちくだく決戦を切り拓いていかなければならないのだ」(同年六月一日号。<証拠略>)、「…木の根団結砦の要塞化、木の根を出撃拠点とし、死守戦を準備し、老農水『障』学の砦としてますます強化する」(同年一〇月一五日・一一月一日号。<証拠略>)と要塞化の意向を表明していた。そして、昭和六二年二月に砦の要塞化に着手してからは、「砦死守戦先頭に武装進撃せよ」(昭和六二年二月一五日号。<証拠略>。同号には「要塞化進む木の根砦」との記事及び本件工作物の写真が掲載されている。)、「要塞化完成し、決戦に身構える木の根砦」、「要塞化された木の根団結砦の勇姿を見よ!砦の要所要所には、敵破壊部隊を攻撃しうちのめす強固なヤグラが、そびえ立っている。ヤグラから見おろせば、眼下三百メートルに現空港が横たわり、空港内の監視塔で戦々恐々とする空警、ガードマンの一挙手一投足も見すえることができる。」、「敵が木の根団結砦に手をかけようとした時、われわれはわが戦闘態勢を発動し、第二、第三の一・一四が実現するのだ」(昭和六二年三月一五日号。<証拠略>)と要塞化の状況を報じていた。
さらに、革労協は、昭和六二年三月二九日、本件工作物の塀に「宣言一 如何なることがあろうとも、今後一切権力機動隊・公団の立ち入りを拒否する。 二 家宅捜索と言えども同様であり、その場合には第二の一、一四となるであろう。 三 以上三、二九をもって宣言する。 死守隊」と書かれたものを張り出し、「解放」において、「3・29全国集会で発せられた木の根団結砦死守宣言」、「解放派は、不退転の決意をこめて、本日ここに重大な宣言を発する。…本日以降、敵権力機動隊の木の根砦への立ち入りをわれわれは一切認めない。それがたとえ家宅捜索であろうとも、…機動隊が立ち入ろうとするならば、ただちにそれを砦破壊の攻撃とみなす。ただちに機動隊をせん滅し、…空港破壊戦を敢行する。」(昭和六二年四月一日号。<証拠略>)と本件工作物死守宣言を報じていた。
(2) 本件工作物の常駐者
昭和六二年四月二四日ころ、革労協に属する、原告両名、松尾、西村及び塚本の五名が本件工作物に常駐しており、原告両名は、本件工作物の存在する本件土地に住民登録を行っていた。
原告石丸を含めた五名は、昭和五三年九月一六日に起きた革労協によるアウターマーカー事件において、火炎びん法違反等で逮捕され(<証拠略>)、原告篠を含めた五名は、同月二六日に起きた革労協による木の根団結砦火炎びん法違反事件において、火炎びん法違反等で逮捕された(<証拠略>)。また、松尾、西村及び塚本の三名は、革労協による昭和六二年一月一四日に起きた成田用水第三駐車場警備部隊襲撃事件において公務執行妨害罪等で現行犯逮捕されたが、同事件は、千葉県山武郡芝山町菱田で、成田用水工事を警備していた同県警察機動隊の約二〇人に対し、ほろ付きのトラック四台で乗りつけた約三〇人により、火炎びんを投げたり、鉄パイプやバールで殴りかかるなどして、機動隊員一名の胸を刺して三週間の傷害、二人にやけどや打撲傷を負わせ、消化器を改造した火炎放射器が使用されて警備車の前部を焦がすなどの事態が発生したという事件であった(<証拠略>)。
(3) 革労協の活動状況及び意思表明
ア 原告両名の属する革労協の活動状況
革労協は、本件使用禁止命令以前において、前記昭和五三年九月一六日のアウターマーカー事件、同月二六日の木の根団結砦火炎びん法違反事件のほか、昭和五七年三月一六日には、千葉県成田市に所在する新空港用航空燃料輸送中継基地である土屋石油ターミナルの南側路上に火炎放射装置を仕掛けた普通乗用自動車を乗りつけ、同ターミナルに向けて同装置を作動させ、火炎放射した事件(<証拠略>)、昭和五八年七月四日には、新空港旅客ターミナルビルのコインロッカー二箇所に時限式発火装置を仕掛けて発火させた事件(<証拠略>)、昭和五九年一一月一三日には、千葉県佐倉市の埋設されている新空港ジェット燃料輸送パイプラインに穴を開け、ジェット燃料を流出させた事件(<証拠略>)、昭和六〇年九月二四日には、千葉県成田市の新空港西側にある千葉県警察合同庁舎近くの空き地に停車させたトラックから同空港に向けて火炎弾四発を発射した事件(<証拠略>)、同年一〇月二〇日にには、新空港管理棟ビルに向けて、同ビル前路上の駐車した偽装消防車に仕掛けた装置からパチンコ玉を発射させて同ビルの窓ガラスを破損し、同車に仕掛けた時限式発火装置により同車を焼いた事件(<証拠略>)、昭和六一年七月一七日には、新空港管制塔から東へ約五〇〇メートル離れた同空港二期用地内の草むらから時限式発射装置を使用して手製弾三発を千葉県警察新東京国際空港警備隊(以下「空港警備隊」という。)の宿舎に向けて発射した事件(<証拠略>)、昭和六二年一月一四日には、前記成田用水第三駐車場警備部隊襲撃事件、同年一月一五日には、右同月一四日に発生したゲリラ事件の警戒に千葉県香取郡多古町で従事していた警察官の職務質問を受けた二名の者が警察官に対してそれぞれ顔面殴打、体当たりなどの暴行を加え、傷害を負わせる等した公務執行妨害事件(<証拠略>)、等多数の事件を起こしていた。
イ また、革労協は、本件使用禁止命令以前において、「解放」において、前示(1)のほか、「二期本格着工を阻止せよ」、「六―七月からただちに二期阻止の激闘に突入し十・二〇を上まわる武装闘争と大爆発で、二期着工―現空港を粉々にうちくだく決戦を切り拓いていかねばならないのだ」、「木の根自主耕作を強化し、全国労農水『障』学の不抜の拠点として木の根団結砦をうちかため、二期攻撃と正面からたたかい、七月二期本格着工を粉砕していく最大の拠点として木の根決戦をたたかいぬこう」、「集会宣言 三里塚芝山連合空港反対同盟」、「わが三里塚芝山連合空港反対同盟は、敷地内を先頭に厳として決意をうちかため、本集会(五月二五日)の名において二期決戦の実力闘争を宣言する」(昭和六一年六月一日号。<証拠略>)、六月二二日、今夏二期着工実力阻止の決戦に突入する闘いがかちとられた」、「反対同盟は、五・二五全国集会において、<警備道路・木の根貯水池・駐車場建設>を要とする二期着工を実力で粉砕する闘いに突入することを宣言した。そして、六・二二―七・一三の現地闘争と九・一四―十・二六の全国闘争を設定し、夏期決戦に突入することを呼びかけた。」、「この日の闘いはその突破口である」、「二期本格着工の支柱=機動隊を徹底的にせん滅せよ! 『用地』内外を縦横無尽にかけめぐり、九・一六をひきつぎ乗りこえよ!木の根団結砦を死守せよ!空港に突入し解体せよ!」(昭和六一年七月一日号。<証拠略>)、「この地域内の最大の拠点こそ、C滑走路のど真中に立ちはだかり、成田治安法による『使用禁止』決定を八年以上にわたって突破してきた木の根団結砦だ。…ゲリラ戦パルチザン戦の爆発を先端とし、木の根団結砦をおしたて二期を阻み、現空港突入・解体へつきすすめ!」(昭和六一年九月一五日号。<証拠略>)、「開始された二期工事を粉砕し、さし迫る木の根決戦に総決起せよ」、「『用地』内への攻撃と成田用水(第三期)工事の強行がひとつとなり十・二六に向けて煮つまり、その臨界点・沸騰点で十・二六はたたかい取られた。われわれは直ちに臨戦体制に突入し、木の根団結砦への破壊攻撃に対する闘いを八六年度内に設定し、攻勢的に決戦を挑むことを決意した。三・二九全国集会にいたる一―三月の八七年初頭を、われわれの持てる力のすべてを投入し、二期の阻止と空港廃港にむけた決戦の勝利のために、武器をとり、敵におびただしい流血を強制し、破防法攻撃をうち破り、権力闘争の新たな飛躍をもぎとる歴史的な決戦の時である。」、「ただちに部署につき、…第三に木の根団結砦の要塞化、木の根を出撃拠点とし、死守戦を準備し、労農水『障』学の砦としてますます強化すること。…これらを任務とし、二期の緒戦を木の根決戦の大爆発で勝利的に切り開く。壮大な闘いに突入しようではないか。」、「10・26闘争12550で大爆発」(昭和六一年一〇月一五日・一一月一日号。<証拠略>)、「木の根―二期武装決戦の爆発で11・26二期本格着工を粉砕せよ」、「十一月二十六日、敵権力は香取の二期予定地に重機をもちこみ、ついに二期本体着工に突入した」、「十一月二十二日、空港公団は、十一月中に二期本体工事=エプロン(駐機場)建設に突入することを宣言した。そして来年早々にも木の根―横堀工事用道路、木の根共同溝工事に着手するとしているのだ。」、「これは文字どおりの二期本格着工にほかならない。十・二七現空港内二期予定地での駐車場建設をもってはじまった二期工事は、いよいよ本格化・全面化しようとしているのだ。」、「いよいよ渾身の力をこめて武装決起する時がきた!木の根は、いまや、彼我双方が敵をうち伏せてつき進もうとする決戦場だ!」、「武器をとり、木の根―二期決戦に決然と起て!勝利を求め、現空港に殺到せよ!機動隊をせん滅せよ!木の根砦を拠点とし、壮大な死闘戦をきりひらけ!二期工事を爆砕せよ!」、「われわれはさらに大胆に、敵の二期着工―『用地』内への乱入・破壊に対して、現空港への攻撃を強化し、空港中枢直撃のゲリラ戦、包囲・突入―解体の戦闘の嵐を築きあげていくのだ」(昭和六一年一一月一五日号。<証拠略>)、「わが革労協は、木の根団結砦の破壊を党派をあげて阻止する。敵の砦破壊―『用地』内への攻撃に対しては、先制的・攻勢的、二期工事に対して、機動隊に対して、そして現空港に対して、武器をとり断固たる攻撃を敢行する。空港包囲・突入・解体の一大武装闘争をたたかいぬく。木の根=二期決戦に勝利する。」、「敵の木の根団結砦破壊が、それが成田治安法の適用によるものであろうと、他の卑劣な奇襲的手段によるものであろうと、『用地』内農民の土地収奪の第一歩である以上、二期の決定的な決戦としてたたかう」、「われわれは、敵の攻撃を待つことはしない。先制的・攻勢的に二期工事そのものに、機動隊に、そして現空港本体に、断固たる武装闘争を敢行する。」、「もしも敵が木の根団結砦に手をかけようとするならば、昨年十・二〇を上回る空港包囲・突入・解体の武装進撃戦をたたかいとる」、「十二・七はその闘いの開始である」(昭和六一年一二月一五日号。<証拠略>)、「木の根―二期・廃港決戦の大爆発をかちとれ」、「敵支配者階級は、三里塚勢力に対する大弾圧を集中しつつ、八六年十一・二六をもって二期工事の本格着工に突撃してきたのだ。…このような局面においては、革命的プロレタリア人民の任務は明白である。巨万の大衆決起をかちとり、職場、地域、学園実力決起を背景に二期爆砕、空港解体の実力闘争、武装闘争の嵐をたたきつけること―これ以外ないのだ。…第一に重要なことは…二期工事、木の根、天神峰、東峰等に対する攻撃をズタズタにうち砕き、同時に八五年十・二〇の地平をひきつぎ現空港包囲・突入―解体の闘争を攻勢的に打ちぬくということである。」、「三里塚二期決戦に総力決起し、プロレタリア権力闘争の新たな歴史切り拓け」(昭和六二年一月一日号。<証拠略>)、「一・一四の勝利をわが力とし、かさにかかって木の根砦死守戦の勝利へつき進め。空港包囲・突入―解体の武装闘争へ進撃せよ。二~三月の激闘に総力決起せよ。」、「中曽根の木の根破壊攻撃を決戦的死闘で粉砕せよ」(昭和六二年二月一五日号。<証拠略>)、「われわれは、九・一六東峰戦闘をひきつぎ越える機動隊せん滅戦の炸裂で、木の根砦を死守し、空港への進撃―突入・解体戦を打ちぬいていくのだ」(昭和六二年四月一日号。<証拠略>)、と暴力主義的破壊活動等を行う意思表明をしていた。
(4) そして、本件使用禁止命令以前において、新空港反対について原告反対同盟を支援する中核派等の過激派が暴力主義的破壊活動等を繰り返し行っていたところ(<証拠略>、)前記第二の三被告国及び被告運輸大臣の主張の3(二)(2)イの<1>~<4>のとおり、原告両名及び革労協に所属し、又はこれらの者と行動を共にしていると認められる多数の者らが、<1>昭和六一年一二月七日、<2>昭和六二年一月一五日、<3>同月一八日、<4>同年二月二二日、いずれも本件工作物に集合し、暴力主義的破壊活動等を行う意思を表明していた(<証拠略>)。
また、前記第二の三被告国及び被告運輸大臣の主張の3(二)(2)ウの<1>、<2>のとおり、革労協は、「解放」で、本件工作物において集合していた事実を写真を掲載して報道しており、昭和六二年三月二八日及び同年五月一〇日にも、本件工作物において、多数の暴力主義的破壊活動者が集合した(<証拠略>)。
(二) 以上の認定事実及び前示第二の一1(一)、(二)、2、3の事実からすれば、新空港建設が、滑走路・誘導路等の基本施設にとどまらず、新空港及びその周辺の用排水整備を伴うものであり、成田用水が、新空港の建設に伴い整備すべき用水路の一部であることからすると、革労協の活動は、緊急措置法二条一項に定める暴力主義的破壊活動等に該当すると認められ、本件工作物に出入りしていた、原告両名、松尾、西村及び塚本ら革労協に所属する者は、暴力主義的破壊活動者であると認められる。また、前示本件工作物における集合状況、昭和六二年二月以降の櫓の増強及び死守隊なる者らによる立てこもりにより、本件工作物が要塞化したこと並びに革労協が本件工作物を拠点として暴力主義的破壊活動等を行う旨の意思表明をしていたこと等からすれば、本件使用禁止命令発出当時、本件工作物が多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用に供される蓋然性が高い、すなわち暴力主義的破壊活動者の集合の用に供されるおそれがあったものと認められる。
さらに、前記認定の事実によれば、本件工作物において多数の暴力主義的破壊活動者の出入りがあり、過去に暴力主義的破壊活動等に使用されるおそれがあると認められる火炎びんが保管されていた事実、本件工作物に出入りしていた者の中には、火炎びん法違反で逮捕される等の検挙歴を有する者が含まれている事実、原告同盟支持者以外の者は本件工作物に入れない状況にあり、昭和六二年三月下旬には死守宣言をし、家宅捜索等も一切拒否するなど、革労協が要塞化された本件工作物を拠点に暴力主義的破壊活動等を行う意思を表明していた事実に加えて、革労協による成田用水第三駐車場警備部隊襲撃事件は、本件使用禁止命令の四か月前の昭和六二年一月一四日に起こされたもので、その際、火炎びんや火炎放射器が使用されるなど暴力主義的破壊活動等が行われたことにかんがみれば、本件使用禁止命令が発出された当時、本件工作物は、将来にわたって暴力主義的破壊活動等に使用され、又は使用されるおそれがあると認められる爆発物、火炎びん等の物の製造又は保管の場所の用に供される蓋然性が高かったものと認められる。
(三) 第二工作物が本件使用禁止命令の対象であるか
(1) <証拠略>によれば、以下の事実が認められる。
ア 被告運輸大臣は、昭和五三年五月一六日付け官報公告によって通称「木の根団結砦」に対する一年間の使用禁止命令を発出したが、その際の対象は「千葉県成田市木の根字東台二一五番に所在するプレハブ二階建の建築物(これと一体となっている物を含む。)一棟及び木造、平家建の建築物一棟並びに木造、高さ約十二メートルのやぐら一基(通称「木の根団結砦」)」であった(<証拠略>)。
イ 被告運輸大臣は、本件使用禁止命令につき昭和六二年五月一二日付け官報をもって公告したが、その際の対象の表示は「千葉県成田市木の根字東台二一五番に所在するプレハブ二階建の建築物(これと一体となっている物を含む。)一棟、木造平屋建の建築物一棟及びこれらに付属する工作物(通称「木の根団結砦」)」であり(<証拠略>)、これは昭和六一年五月一三日付け官報で公告された使用禁止命令の対象の表示(<証拠略>)と同様の表示であった(ただし、昭和六一年のときは、「木造平屋建」ではなく「木造平家建」とされていた。)。
ウ そして、昭和五三年五月一六日付け、昭和六一年五月一三日付け及び昭和六二年五月一二日付け各公告に記載されている「木造平家建」又は「木造平屋建」の建築物一棟は、昭和五二年ころに本件土地の南西側に建築された建物で、昭和六二年夏に取り壊された。第二工作物は、昭和六二年一月ころに第一工作物の東側に作られたプレハブ造りの建物である。
エ 第二工作物は、床面積が約二〇平方メートルにすぎない小規模の仮設建物であり、新空港の第二期工事の監視小屋として建てられ、第一工作物と別に電話線を引いているものの、第一工作物と同じ所から水道、電気を引いている。
オ 本件使用禁止命令の対象とされた櫓の中には第二工作物よりも大きい物が存在し、右櫓については「付属する工作物」に含めて公告されている。
(2) 右(1)で認定の事実によれば、第二工作物は、本件使用禁止命令について公告された昭和六二年五月一二日付け官報にいう「付属する工作物」に当たるものと認められる。
(3) なお、前記認定のとおり、本件工作物は、高さ約三メートルの鉄板塀に囲まれ、入口に鉄門扉を有し、右扉からしか立ち入ることができない構造になっており、また、革労協が第二工作物を既設の工作物とともに死守する旨の意思を表明していたものであり、第二工作物の位置、建設の目的、本件工作物の構造からすれば、第二工作物についても、原告両名を含む革労協の構成員によって使用されていたと推認することができ、第二工作物についても、前記本件工作物の一部として、使用禁止命令発出の要件を備えているものと認めることができる。
(四) 以上によれば、被告運輸大臣が、緊急措置法三条一項一号、二号に該当するとして発出した本件使用禁止命令は適法であると認められる。
2 本件除去処分の適法性
(一) <証拠略>によれば、以下の事実が認められる。
(1) 昭和六二年五月一二日の本件使用禁止命令後の状況について
ア 昭和六二年五月一二日の本件使用禁止命令後本件除去処分以前において、原告両名、田中、矢田部、太郎良及び坂田の六名が本件工作物に出入りしていた。そして、右六名のうち、田中は、昭和四六年七月二六日の七・二六仮処分阻止闘争事件において公務執行妨害の検挙歴を有し、田中、矢田部、太郎良及び坂田は、革労協及び革労協に所属する者と行動を共にしている。
イ 革労協は、本件使用禁止命令後も、「解放」において、「木の根砦先頭に、二期工事実力阻止せよ」、「木の根団結砦死守隊を先頭に木の根決戦の爆発をかちとろう!」(昭和六二年五月一五日号。<証拠略>)、「すでに木の根団結砦の死守隊は、敵を真正面にひきうけて日々闘いぬいている。この死守隊の闘いをおしたてて木の根―二期決戦に勝利しよう。渾身の力をふりしぼり、空前絶後の武装闘争で、開始された二期工事を粉砕しよう。木の根決戦の大爆発から、敵機動隊を一兵残らずなぎ倒し、空港中枢へ進撃せよ!木の根―二期決戦勝利!」(昭和六二年六月一五日号。<証拠略>)、「断固たるゲリラ戦を敢行し、空港包囲・突入―解体の武装闘争を実現し、二期阻止に絶対勝利しなければならない。一・一四機動隊せん滅闘争につづき、木の根砦死守攻防戦に勝利し、日帝政府・公団のもくろみを粉々にうち砕いてやろうではないか。」(昭和六二年八月一五日号。<証拠略>)、「B滑走路、木の根共同溝着工に報復し、空前の武装闘争―実力闘争で闘いぬけ」、「木の根―二期決戦の大爆発を」、「ついに日帝中曽根は、その任期の最後に、三里塚闘争破壊―二期強行攻撃に突進してきた。…木の根団結砦の死守戦を先頭にその闘いの拡大と強化を推進してきたわれわれは、木の根を突破口としさらに東峰―天神峰に直結する二期決戦―代執行阻止決戦の爆発を、わが革労協―解放派の総力でかちとる。」「現空港―関連施設、そして二期工事そのものへの決定的な破壊戦闘―ゲリラ的パルチザン的戦闘をたたきこむ。一・一四戦闘を上まわる機動隊せん滅戦闘と敢行する。」、「反対同盟―『用地』内を守りぬき、全国労農水『障』学の巨大な実力決起をかちとる」(昭和六二年一〇月一日号。<証拠略>)と暴力主義的破壊活動等を行う意思表明をしていた。
ウ また、本件使用禁止命令発出後本件除去処分までの間、要塞化された本件工作物内において前記第二の三被告国及び被告運輸大臣の主張の4(二)(1)イの<1>~<3>のとおり、暴力主義的破壊活動者と認められる原告両名及び革労協に所属し、又はこれらの者と行動を共にしていると認められる多数の者らが、<1>昭和六二年七月五日、<2>同年九月一三日、<3>同月一五日に集合した上(<証拠略>)、死守隊と呼ばれる者が多数集合していた。その間、新空港の建設に反対して革労協を支援する過激派が暴力主義的破壊活動等を繰り返し行っていた。
(2) 昭和六二年一一月一六日から二〇日について
昭和六二年一一月一六日、被告公団が木の根地区における管理柵の設置及び道路の付替工事を行うに当たり、当時千葉県警察本部警備部第二機動隊長であった池田茂警視(以下「池田隊長」という。)総指揮の下、第二機動隊のほか、警備部第一機動隊及び空港警備隊の一部が警戒警備に当たった。
右工事作業は、午前八時三〇分ころから開始されたが、作業開始直後から、本件工作物内櫓上から、青色ヘルメットを被った三、四名の者により、作業員及び警察官に対し、大型パチンコや素手で、石塊、ボルト、電池等を投てきし、作業等の妨害が行われ、右投石等は、午前八時三〇分ころから午前一〇時ころまで行われ、午後も同様の行為があり、投げられた石等は機動隊員の楯あるいは放水車に当たるなどして、作業が一時的に中断した。
翌一七日、千葉県警察本部警備部警備第二課課長宮崎正警部(以下「宮崎警部」という。)が、千葉地方裁判所に前日の公務執行妨害罪、凶器準備集合罪に関して捜索差押許可状を請求し、同令状(有効期間は一一月二四日まで)が発付され、一一月二〇日には、千葉県警察による右令状に基づく捜索・差押えを同月二四日午前七時に行い、それに対する支援を第二機動隊が行うことが決定された。
(3) 昭和六二年一一月二四日から同月二六日について
ア 昭和六二年一一月二四日午前六時二〇分ころから、新空港南側の前線指揮所において、池田隊長以下の千葉県警察本部警備部隊幹部と宮崎警部を責任者とする捜索班との打合せが行われ、打合せ終了後、捜索班約二〇名、第二機動隊二個中隊約一〇〇名、部隊輸送車、指揮官車一台及び放水車一台が本件工作物に向かい、午前七時少し前、本件工作物の南約二五〇メートルに位置する、中村らが木の根入口と呼んでいた場所に到着し、捜索班と指揮官車に乗った池田隊長率いる一個中隊は本件工作物に向かい、他の一個中隊は木の根入口と本件工作物の北西側十字路付近に分散して配置された。
そして、指揮官車が木の根入口から本件工作物に向かう道に入るとすぐ、指揮官車から広報係の羽野巡査長が拡声器で「千葉県警は、一一月一六日の凶器準備集合、公務執行妨害事件で、これから捜索差押令状に基づき砦内を捜索する。門扉を開放しなさい。」という趣旨の広報を繰り返した。さらに、指揮官車が本件工作物の西側約三〇~四〇メートルの場所に停止してからも、同様の内容の広報が行われた。
午前七時三分ころ、先頭の当時第二機動隊副隊長の職にあった中村らが、本件工作物出入り口に到着するとすぐに、宮崎警部がトランジスターメガフォンで「千葉県警だ。捜索に来た。門扉を開けなさい。」と三、四回、扉に向かって呼び掛けたが、中から門扉を開ける様子はなく、右呼び掛けの途中に、本件工作物から中村らに対して投石が行われた。
右投石等に対し宮崎警部がトランジスターメガフォンで「石を投げるのはやめなさい。」と二、三回警告したが、本件工作物内からは、余計に投石が行われるようになった。また、この時発火はしなかったものの、火炎びんのようなビンが一本投げられた。右投石等に対しても、宮崎警部が従前同様に警告するとともに指揮官車からも、「投石して捜索・差押えを妨害するのはやめなさい。君たちの行為は公務執行妨害罪になる。いつまでも門扉を開放しなければ、やむなく門扉を破壊することになる。直ちに門扉を開放しなさい。」という内容の警告を何回も行ったが、この警告を無視して、投石等は断続的に行われた。
このような状況から、警察官らは、捜索に着手するには門扉を壊して中に入るしかないと判断し、準備していたエンジンカッターで、門扉の一部に人の通れる位の穴を開けることになり、午前七時一〇分ころ、警察官がエンジンカッターを門扉に当てようとした瞬間、二番櫓から、火炎びんが投げられ、右火炎びんの発火により警察官二名が負傷した。その後、右投石等による妨害行為について公務執行妨害、凶器準備集合及び火炎びん法違反等で、本件工作物内の被疑者らを現行犯逮捕すること及び捜索・差押えが可能な状態になれば捜索差押許可状の執行をすることが決定され、午前七時一四分ころ、その旨の通告が行われた。このとき、二番櫓に赤ヘルメットを被った田村博章(以下「田村」という。)及び黒瀬貴浩(以下「黒瀬」という。)が、三番櫓及びこれと渡り廊下でつながっている五番櫓に青ヘルメットを被った宮園淳(以下「宮園」という。)、佐藤好久(以下「佐藤」という。)及び中田純一郎(以下「中田」という。)が、四番櫓に青ヘルメットを被った古賀惠介(以下「古賀」という。)が、六番櫓に青ヘルメットを被った久保がいた。午前七時三〇分過ぎころ、警備第二課が用意したクレーン車が本件工作物北側に到着し、本件工作物北側のトタン塀の一部撤去作業が開始され、作業は午前八時三〇分ころ終了した。右作業中、本件工作物内から七名の者により、大量の石や一〇〇本以上の火炎びんが投げられた。これに対し、機動隊員が楯で投石を防いだり、放水が行われ、午前八時過ぎころからは、池田隊長の指示の下にガス筒(催涙弾)発射器が使用された。
千葉県警察は、当初、本件工作物の塀の一部を撤去して、そこから部隊を投入して逮捕活動を行う予定であったが、被疑者らが高い櫓上にいることや激しい投石や火炎びんの投下から、逮捕に当たる警察官及び被疑者らの安全を確保した上で、被疑者らを逮捕する方法を検討した。そしてその結果、地上から本件工作物に突入するのと同時に、クレーン車に人が乗れるようなゴンドラを吊り、これに警察官を乗せて櫓上に降ろし、上下方向から逮捕活動を行う方法を採ることになった。さらに、北側の塀を取り外すのに使ったクレーン車はアームの部分が短く、ゴンドラが櫓の上に届かないことから、池田隊長の指示で長いアームを備えた大型クレーン車の手配を新空港内の警備本部に依頼し、併せて、右大型クレーン車の重さに耐えられるような強固な足場の手配も行われた。
そして、大型クレーン車が到着した午前一一時ころまでの間に、本件工作物北側を中心に土砂がダンプカーで運び込まれ、さらに、撤去したトタン塀の内側は溝が掘られていて本件工作物内に警察官が入る際の障害になるため、右箇所にも土砂が入れられた。右作業中も、断続的に石や火炎びんが投げられ、投石により、報道関係者一名が負傷した。そして、午後零時ころ、大型クレーン車が本件工作物北側に配置された。
宮園、佐藤及び中田が、三番櫓と五番櫓との間の連絡通路を使って移動しながら、火炎びんを投げたりしていたところ、地上から、トタン塀を撤去した本件工作物北側から機動隊員約九〇名が、本件工作物出入口から機動隊員約五〇名が、それぞれ本件工作物内に突入した。このとき、突入する警察官を目掛けて各櫓から火炎びん等の激しい投てきが予想されたことから、突入する警察官の生命、身体の安全を守るため、放水車から一斉に放水を行った。しかし、右放水にもかかわらず、火炎びん等が投げられ、突入する警察官が危険な状態であったため、中村の指揮によりガス筒が発射された。このとき、警察官七、八名が火炎びんのために負傷した。
クレーン車の使用による逮捕活動は、地上からの逮捕活動に三、四分遅れて開始され、クレーン車に吊られたゴンドラが三番櫓に近づくと、三番櫓にいた二名が、石や火炎びんを投げた。その後、三番櫓にいた二名が五番櫓に移動したため、ゴンドラに乗った第二機動隊第二中隊の大嶋第二小隊長ら六名は三番櫓に乗り移った。そして、右大嶋小隊長が被疑者二名を追って五番櫓に向かおうとした時、五番櫓にいた一名が、炎が六、七メートル届く、消化器を改造した火炎放射器により火炎を放射した。これに対して放水車による放水が行われ、右大嶋小隊長は、火炎放射器の炎が消えると連絡通路を五番櫓に向かったが、五番櫓の手前で連絡通路の一部が落下したため、落下し、負傷した。
また、地上から本件工作物に突入した部隊の一部が、五番櫓の下のプレハブ小屋(第一工作物)の二階から櫓上に上がろうとしたが、これに対しても、火炎びんの投てきや投石等が行われ、放水車による一斉放水が行われている間に、本件工作物内の部隊は撤収した。
その後、千葉県警察は、ヘリコプターからの情報で、五番櫓には、鉄板で作られた高さ一メートルくらいの手摺部分の内側や櫓の北西側の角の所に建てられてある小屋の中に火炎びん等の凶器があるらしいことが判明したため、クレーン車などを使用して五番櫓の手摺部分を取り払い、更に櫓上の小屋を撤去し、火炎びん等の凶器を下に落としてから、ゴンドラを使用して機動隊員を櫓に降ろし、逮捕活動を行うことにした。五番櫓の手摺部分や小屋の取り払い作業は、当初クレーン車に吊したゴンドラで行ったがうまくいかなかったため、バックホウやブルドーザー及び砂利等を手配し、整地作業を行った後、バックホウで五番櫓の手摺部分や五番櫓上の小屋を取り払うこととし、手配した重機が到着した後、整地作業や立木の伐採などが行われた。この間、各櫓からは、作業が本件工作物に近づくと重機や作業員、あるいはこの作業の警戒に当たる機動隊員に対し、火炎びんや石等が投げられた。
午後四時過ぎころ、バックホウによって、五番櫓の手摺部分を取り払う作業が始まり、被疑者三名は、バックホウと反対側の五番櫓の踊り場の南側部分に移動しながら、バックホウやこれを防護している機動隊員に向けて火炎びんや石等を投げ、激しく抵抗した。その後北側の手摺部分の一部が取り払われ、午後五時ころ、日没のため千葉県警察による逮捕活動及びこれに伴う作業を終了した。
作業終了後も、被疑者らが本件工作物から出てくればいつでも逮捕できるように、本件工作物の周辺に第一機動隊及び空港警備隊を配備して、翌二五日の朝まで本件工作物の監視が行われた。
なお、二四日に本件工作物から投てきされた火炎びんは、確認されたものだけで約一四〇本にも及び、櫓からは飛翔弾も発射された。右投石等により、二四日には、第一機動隊に五名、第二機動隊に一〇名の負傷者が出た。
イ 一一月二五日午前七時三〇分ころ、前日から監視警戒していた第一機動隊及び空港警備隊に代わって、第二機動隊が本件工作物周囲に配備された。
午前八時三〇分過ぎから、整地及び立木の伐採作業などの環境整備を徹底するための重機が到着し、本件工作物北側では砂利の搬入、整地及びクレーン車による鉄板の敷設作業などが、本件工作物西側では竹や立木の伐採、整地作業が行われた。右作業に対し、各櫓から、石、火炎びん、鉄パイプ及び乾電池などが投げられ、ときにはパチンコ器具を使って石等が発射された。被疑者らの火炎びん等の投てきに対し、機動隊員らは、盾を使用したり、放水車で放水したり、ガス筒発射器を使って、これを防いだ。
本件工作物北側の鉄板敷設作業が一応終わると、バックホウによる作業が開始されたが、バックホウが五番櫓に近づくと、前日同様に櫓上の被疑者三名は、踊り場部分をバックホウとは反対側に移動したりしながら、火炎びんや石等をバックホウやこれを防護する機動隊員に向けて投げた。その後、千葉県警察により、五番櫓北側手摺部分が取り払われ、櫓上の小屋がバックホウのバケット部分でなぎ払われた。
その後、池田隊長が指揮官車の拡声器で、「今からでもこれに乗って櫓から降りてきなさい。」と呼び掛けるとともに、ゴンドラを五番櫓の被疑者らの近くに下ろしたが、被疑者らはこれに乗ろうとせず、鉄パイプでゴンドラをたたいて抵抗していた。この間、櫓周辺では、ブルドーザー等により、整地作業が行われていたが、午前一〇時ころ櫓から投げられた火炎びんが、本件工作物西側で作業していたブルドーザーに当たって炎上し、走行不可能となった。
午後零時過ぎころから二番櫓の田村及び黒瀬の逮捕活動が開始されたが、クレーン車に吊したゴンドラを二番櫓に近づけただけで、二番櫓だけでなく、他の櫓からも火炎びんや石が投げられた。そこで、指揮官車の拡声器で二番櫓上にいる田村らに対し、「火炎びんを投げるのを止めて、櫓から降りなさい。」と説得したが、火炎びんや投石は止まなかった。しばらくして、池田隊長が、指揮官車の拡声器で「赤ヘルの諸君、櫓を降りる意思があれば合図しなさい。今から五分待つ。」と数回説得した。五分経っても投石などの抵抗が行われたので、千葉県警察は、午後零時三〇分ころ、クレーン車のオペレーターに指示しながら、ゴンドラをゆっくり櫓に当てる作業を行い、右作業中、池田隊長が、二番櫓の被疑者に対し、「今からでもゴンドラに乗って降りてきなさい。」という説得を行ったが、田村らがこれに応じる様子はなかった。再びゴンドラを櫓に当て、傾けて倒す作業によって、櫓は傾斜し、田村及び黒瀬が地上に滑り落ち、田村が逮捕され、黒瀬は五番櫓に逃げた。
そして、五番櫓の被疑者の逮捕活動を行うことになり、千葉県警察は、五番櫓を始め、各櫓上には火炎びんや火炎放射器があることが上空のヘリコプターからの視察で分かっていたが、逮捕活動を行うために、クレーン車に吊したゴンドラに警察官を乗せて櫓上の視察を行わせ、その結果、五番櫓の踊り場部分には、ヘリコプターからの情報どおり、火炎放射器、火炎びん等の凶器が相当あるという報告を得た。そこで、クレーン車のアーム先のフックに、船の錨のような金具を取り付け、これを踊り場部分に這わせて、障害物や火炎放射器、火炎びん等を引っ掛けて取り払おうとしたが、うまくいかず、その後、バックホウで、五番櫓の北側から火炎放射器や火炎びん等の凶器等を掻き落とすことにし、バックホウを五番櫓近くまで入れるための整地作業をブルドーザーで行ったが、このブルドーザーに対しても、火炎びんや石が投げられた。
午後四時過ぎころに整地作業が終了し、バックホウを本件工作物の北側から五番櫓に近づけた。右バックホウに対しても、投石等があったので、放水車から放水が行われ、バックホウのバケット部分で櫓の北側踊り場部分から火炎放射器等の凶器を掻き落としながら作業が進められた。右作業のさなかに、四番櫓から五番櫓に縄梯子が掛けられ、五番櫓上にいた四名の被疑者のうち青ヘルメットの三名が縄梯子を使って四番櫓に逃げ、残った赤ヘルメットを被っていた黒瀬が逮捕された。
そして、他の被疑者の逮捕活動は、日没のため翌日に持ち越すこととなった。
ウ 一一月二六日には、千葉県警察は、四番櫓と六番櫓の被疑者五名の逮捕を行うこととし、櫓を倒すための土盛作業やその前提となる整地作業が朝から昼まで行われ、ダンプカーで土砂を運び、これをブルドーザーで整地する作業が行われた。右作業に対し、櫓からは石や火炎びんが投げられた。午後一時ころには、二番櫓があった付近から四番櫓方向に向かって、約三~四メートルの高さに土が盛られ、午後一時半ころ、第一機動隊の指揮官車の拡声器で、一一月二四日からの公務執行妨害、凶器準備集合、傷害、火炎びん法違反事件に関する捜索差押許可状の執行を行うという趣旨の通告がされ、そのすぐ後に、六番櫓上にいた青ヘルメットを被っていた久保が、いきなり盛土の上に飛び降り、四番櫓方向に逃げたが逮捕され、四番櫓上に残っていた古賀、宮園、佐藤及び中田の四名も、順次櫓から降りてそれぞれ現行犯逮捕され、午後一時五〇分ころ逮捕活動が終了した。その後、本件工作物の捜索・差押え及び検証が行われ(二六日午後三時四分から翌二七日午後二時五分まで)、本件工作物内から大量の火炎びん及び火炎放射器が押収され、右火炎放射器の威力は、火炎が七メートルに及ぶものであった。
(4)ア 右昭和六二年一一月二四日の事件に関して、「反戦・全学連」、「11・24早朝 木の根砦破壊に死守隊火炎ビンで徹底抗戦」、「解放派 ただちに報復―反撃戦に起て!決戦」、「三里塚現地へ!!」等と本件工作物で暴力主義的破壊活動等を行う意思が表明されたビラ(<証拠略>)が配布された。
イ 革労協は、本件除去処分終了後、「解放」において、「木の根死守戦に勝利」、「火炎ビン、火炎放射器、投石戦の55時間の死闘戦の爆発」、「機動隊をたたきふせ、火だるまにし、13名をせん滅す!」、「成田治安法適用―砦破壊弾劾」、「木の根に再進撃し、砦奪還せよ」、「敵権力は二十七日、成田治安法を発動し砦を破壊した。だが、この攻撃に絶対に反撃し、木の根に再進撃し奪還する。死守戦戦士の闘いに応えこれに続く闘いをうちぬき、木の根砦破壊につづく二期への総攻撃を粉砕する。」(昭和六二年一二月一日号外。<証拠略>)との意思表明をしていた。
(二) 右(一)で認定の事実に、前示第二の一1(一)、4の事実及び先に1(一)で認定した事実を総合すれば、本件工作物に出入りしていた原告両名、田中、矢田部、太郎良及び坂田の六名及び昭和六二年一一月二四日から同月二六日にかけて革労協に賛同して本件工作物に集合し機動隊に抵抗して現行犯逮捕された七名は、暴力主義的破壊活動者であると認められ、また、昭和六二年一一月一六日から同月二六日までの間、本件工作物内から警察官らに対して大量の火炎びんや火炎放射器さらには飛翔弾が使用されたことからしても、本件工作物が、本件使用禁止命令後、右命令に違反して、暴力主義的破壊活動者の集合の用に供され、かつ、暴力主義的破壊活動等に使用され、又は使用されるおそれがあると認められる爆発物、火炎びん等の物の製造又は保管の場所の用に供されていたと認めることができる。
また、右一一月一六日から同月二七日までの間を含めた本件除去処分実施以前の、革労協の徹底した、機動隊等に抵抗して暴力主義的破壊活動等を行う旨の意思表明、その実行、本件工作物の建設目的及び使用状況等前記認定の事実からすれば、本件工作物は、一一月二六日までの七名の逮捕後であっても、暴力主義的破壊活動等にかかわるおそれが著しく、暴力主義的破壊活動者による本件工作物の奪回行為が十分に予想され、封鎖処分など他の措置によっては、本件使用禁止命令の履行を確保することができなかったと認められる。
さらに、革労協は、前示1(一)(3)アのとおり、本件使用禁止命令以前から、新空港に向けて火炎弾を発射する等の暴力主義的破壊活動等を繰り返し行ってきた上、前記認定のとおり、現実に本件工作物から大量の火炎びんを投げ、火炎放射器を使用し、新空港から三〇〇メートル以内にある本件工作物を要塞化し、暴力主義的破壊活動等の拠点として使用していたものであり〔なお、新空港に反対する過激派が昭和六〇年四月一二日には飛距離一キロメートルを超えるロケット弾を新空港等に対して使用していた事実(<証拠略>)もあった。〕、他方、<証拠略>によれば、昭和六二年度の国際線航空輸送における新空港の航空機着陸回数は日本全国の約七割に及び、また、旅客数で六六%(年間一四〇〇万人以上)であることが認められるのであって、以上の状況の下においては、被告運輸大臣が、新空港等の設置、管理等の安全の確保を図り、新空港利用者の生命、身体の安全を守るという極めて高度かつ緊急の要請に基づき、国家的、社会経済的、公益的、人道的見地から同法一条の目的を達成するために、本件除去処分が特に必要であると判断したことは、適切かつ合理的なものであったと認められる。
(三) 保管及び公示
<証拠略>によれば、被告運輸大臣は、本件除去処分の後、緊急措置法六条一項に基づき、被告公団をして本件除去処分によって生じた物件を保管させるとともに、新空港近くの国道に面する場所に右保管物件を公示させ、さらに、右公示後一四日を経過しても返還を受けるべき者が確知できなかったことから、右公示事項を官報に掲載したが、その後六箇月を経過しても右保管物件の所有者からの返還の申し出がなかったため(緊急措置法三条一五項の規定により右保管物件の所有権は国庫に帰属した。)、同年一二月、被告公団をして保管物件を廃棄させたことが認められる。
(四) 本件除去処分が第二工作物についても行われたことについて
<証拠略>によれば、昭和六二年一一月二六日付けで、被告運輸大臣が、被告公団総裁に対して、緊急措置法三条八項の除去の措置の実施を行わせることを命じた対象の表示は、「千葉県成田市木の根字東台二一五番に所在するプレハブ二階建の建築物(これと一体となっている物を含む。)一棟、木造平屋建の建築物一棟及びこれらに付属する工作物(通称「木の根団結砦」)」とされ、本件使用禁止命令の対象の表示(前示1(三)(1)イ)と同一であり、そこで対象とされる「木造平屋建の建築物一棟」は、本件除去処分時には存在せず、第二工作物が右にいう「付属する工作物」に含まれるものと認められることは、前示本件使用禁止命令についての説示と同様である。
したがって、第二工作物に対する本件除去処分も、緊急措置法三条八項の要件を満たし、適法であると認められる。
(五) よって、本件除去処分は、その余の点を判断するまでもなく、緊急措置法三条八項の要件を満たす適法なものであって、本件除去処分が違法であるとの原告らの主張は採用できない。
3 以上の説示のとおり、被告運輸大臣のした本件使用禁止命令及び本件除去処分は、いずれも緊急措置法の要件を満たす適法なものであり、本件各処分に際し、被告運輸大臣がその権限を濫用したことを認めるに足りる証拠はない。
四 千葉県警察の逮捕活動等の適法性
千葉県警察による昭和六二年一一月一六日から同月二七日までの警備・捜査活動は、前示のとおりであるところ、右警備・捜査活動は、同警察本部の捜索・差押え及び逮捕活動等に対し、本件工作物内の者から大量の火炎びんや火炎放射器による抵抗が行われ、昭和六二年一一月二四日には機動隊員一五名の負傷者を出すなどの激しい抵抗が行われたこと等に基づくやむを得ない警察活動であったと認められ、これを覆すに足る証拠はない。
五 被告公団の本件土地占有の適法性
1(一) 被告公団が、被告運輸大臣から命令があった、本件工作物の除去措置事務を昭和六二年一一月二七日完了し、同日、本件土地の周囲(公団所有地)に柵を設け、出入扉を設けるとともに、本件土地は被告公団管理地につき無断立入りを禁ずること及び共有者で立ち入りたい人は被告公団に連絡されたい旨を記載した立看板を設置したことは、前示第二の一5のとおりである。
(二) そして、<証拠略>によれば、次の事実が認められる。
(1) 高橋は、自作農創設特別措置法四一条の規定による売渡しにより本件土地を取得し(昭和三〇年六月一六日保存登記)、本件土地上に住居等を所有して生活していた。昭和四一年八月二七日、本件土地につき、いわゆる一坪共有運動の一環として、高橋から小川国彦外三八名に対し、同日売買を原因とする持分各三九分の一の移転登記がされた。
(2) 昭和五六年二月から同年五月までの間に、右登記簿上の権利者のほとんどは、被告公団に対し、売買を原因とする本件土地の共有持分移転登記手続をした。
高橋は、昭和六一年二月三日、小川国彦から本件土地の共有持分三九分の一につき、同年一月二八日贈与を原因とする持分移転登記を経由し、同月二一日、被告公団に対し、右持分三九分の一を売買により譲渡した(同月二四日登記)。
(3) 現在の本件土地の登記簿上の共有者及びその持分は、被告公団が三九分の三七、木内照雄が三九分の一、木内順が七八〇分の三、小川源外一六名が各七八〇分の一である。
(4) そして、昭和六二年一一月二七日午前から、被告公団により、本件土地の周囲の被告公団所有地に有刺鉄線の設置作業が開始され、同日本件除去処分が終了した後、同日午後七時三〇分ころ右有刺鉄線による本件土地の囲い込みは終了し、現在、被告公団が本件土地を占有している。
2 ところで、緊急措置法三条八項は、そこで示される異常な事態に対処するため、厳格な要件の下に、禁止命令違反の状態が生じた場合に直接強制として当該工作物の除去ができることを認めたものにすぎず、被告運輸大臣に対して工作物の除去のみならず、工作物の所在する土地の占有を解く権限まで与えたものではない。
しかしながら、前記認定の事実によれば、原告らは、本件土地の共有者ではなく、本件土地に対する原告らの占有は、原告同盟が本件工作物を所有することにより事実上行われていたにすぎないから、本件除去処分により本件工作物が本件土地から除去されたことの結果として、本件土地に対する原告らの占有は消失したものと認められる。他方、被告公団は、本件土地の持分三九分の三七を有しているものであり、本件土地上の本件工作物に、多数の暴力主義的破壊活動者が集合し、本件工作物を拠点にして暴力主義的破壊活動者による前記犯罪行為が行われたことからすれば、被告公団が、原告らによって再び暴力主義的破壊活動等の拠点として使用されないように、本件土地を占有し、有刺鉄線により本件土地を囲むことは、本件土地に対する管理行為(民法二五二条)として許容されるものであり、右管理行為は適法なものと認められる。
原告らは、本件土地は、高橋から原告同盟に贈与されたものであり、その所有権は原告同盟が有すると主張する。しかしながら、高橋自身は、本件土地に係る自己の持分を被告公団に譲渡しており、原告らの主張を認めるに足りる証拠はない。のみならず、仮に高橋から原告同盟に対して贈与があったとしても、原告同盟は、右所有権の取得を、昭和六一年に高橋自身から譲り受けた持分を含め本件土地についてその過半数を超える持分につき登記を経ている被告公団に、対抗できるものではない。したがって、原告らの主張は失当である。
六 さらに、以上の一~五の事実関係の下においては、千葉県警察は、独自の警察活動として、昭和六二年一一月一六日から同月二七日までの間、警備・捜査活動を行ったものであり、また、被告運輸大臣は、本件工作物に関して、緊急措置法三条一項一号、二号、八項の規定を適用するための要件が満たされ、かつ、その責務があると判断して、同年五月一二日付けで本件使用禁止命令を発し、同年一一月二六日に本件除去処分の決定を行ったものであって、千葉県警察、被告運輸大臣及び被告公団の三者による不法な共謀があったと認めることはできない。
なお、原告らの主張する昭和五二年五月六日の千葉県山武郡芝山町における岩山鉄塔の除去の事実(<証拠略>)等によって原告ら主張の共謀の事実を推認することはできず、他に本件全証拠によるも原告ら主張の共謀の事実を認めることはできない。
七 以上のとおり、原告らの被告運輸大臣に対する訴えは、いずれも不適法であるからこれを却下し、原告らの被告国、被告公団及び被告県に対する請求は、いずれも理由がないのでこれを棄却する。
(裁判官 石川善則 桐ヶ谷敬三 三上孝浩)
別紙
物件目録
一 所在 千葉県成田市木の根字東台
地番 二一五番
地目 宅地
地積 九九一・七一平方メートル
二 所在 千葉県成田市木の根字東台二一五番地
種類 居宅
構造 木・プレハブ造亜鉛メッキ鋼板葦二階建
床面積 一階 四九・五平方メートル
二階 四九・五平方メートル
三 所在 千葉県成田市木の根字東台二一五番地
種類 居宅
構造 木・プレハブ造亜鉛メッキ鋼板葦平家建
床面積 約一九・八平方メートル
別紙 木の根団結砦配置図<省略>