千葉地方裁判所一宮支部 昭和27年(ワ)53号 判決 1953年7月13日
千葉市本町二丁目一番地
原告
株式会社千葉相互銀行
右代表者代表取締役
関澄龍尾
右訴訟代理人弁護士
羽生長七郎
佐々野虎一
被告
国
右代表者法務大臣
犬養健
指定代理人
法務省訟務局第五課
真船孝允
望月伝次郎
右当事者間の昭和二十七年(ワ)第五三号配当異議事件に付、当裁判所は左の通り判決する。
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は、「千葉地方裁判所一宮支部昭和二十五年(ヌ)第四号不動産強制競売事件について、同裁判所の作成した配当表の被告名下の交付額中金十六万五千九百五十七円とあるを取消し、原告の債権に交付すべき配当額に変更する。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、其の請求の原因として、
一、原告会社は訴外柳沢益夫に対して同訴外人元所有の別紙目録記載の家屋に、昭和二十三年五月二十七日根抵当権を設定し、同月三十一日元本十一万円の無尽掛金債権及び同月一日から昭和二十六年十月二十五日迄日歩七銭の割合に依る損害金九万六千三百二十七円九十銭合計金二十万六千三百二十七円九十銭の債権を有している。
二、然るに訴外西野電機工業株式会社は、右訴外柳沢益夫に対し、別紙目録記載の家屋につき強制競売の申立を為し(千葉地方裁判所一宮支部昭和二十五年(ヌ)第四号事件)、昭和二十六年十月二十五日金十七万八千四百六十円で競落となつた。
三、被告国の機関である千葉県茂原税務署長は、前記訴外柳沢益夫に対し滞納税額二十一万五千五百九十四円の租税債権を有し、且此の債権は原告の前記債権に優先するものとして交付要求をしたところ、千葉地方裁判所一宮支部は之を容れ、原告の請求趣旨記載の金額たる十六万五千九百五十七円を被告に配当すべき旨の配当表を作成した。
四、然れども被告の右租税債権は、原告の前記債権に優先出来ないものである。即ち
(1) 被告の租税債権は昭和二十六年三月三十一日改正同年四月一日施行前の国税徴収法第三十一条に依り、昭和二十五年十一月頃滞納処分を結了し、既に消滅したものである。
(2) 被告は前記強制競売事件に於て、千葉地方裁判所一宮支部より租税債権の交付請求を為すべき旨催告を受けながら、右競売期日の結了迄に同裁判所にその債権の申出をしなかつたから、国税徴収法に基く優先弁済を受くべき権利を失つたものである。
依つて原告は前記の如く配当表の変更を求める為本訴に及んだと述べ、証拠として、甲第一号証の一乃至五を提出した。被告指定代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として、原告主張の請求原因事実中
一、の事実は知らない。
二、及三、の事実は何れも争う。
被告国は訴外柳沢益夫に対する租税債権の滞納処分を結了した事実はないから、右租税債権は消滅せず尚存続している。被告は又昭和二十六年十月二十五日の競落期日終了前、千葉地方裁判所一宮支部に対し、原告主張の訴外柳沢益夫に対する滞納国税の交付を要求している。従つて原告の請求は何れの点よりするも失当であると述べ甲第一号証の一乃至五の成立を認めると述べた。
理由
原告主張の二、及三、の事実は、被告に於て何れも之を認めるところであるが、原告主張の一、の事実に付ては之を認め得べき証拠がないから、原告が訴外柳沢益夫に対し、其の主張の債権を有することを前提とする原告の本訴請求は既に此の点に於て失当であるから棄却を免れない。仮に右債権の存在が証明されたとしても、被告の訴外柳沢益夫に対する滞納租税債権が、昭和二十六年三月三十一日改正同年四月一日施行前の国税徴収法第三十一条に依り、昭和二十五年十一月頃滞納処分を結了し、既に消滅したという原告主張の事実は之を認め得べき証拠がなく、他に右消滅の事由の存したことは認められないから右租税債権は依然存続(原告が同租税債権が在つたことを否定するものでないことは原告の主張自体に依り明かである)しているものと謂わなければならない。従つて此の点に付ての原告の主張は採用出来ない。次に被告が原告主張の強制競売事件に於て、千葉地方裁判所一宮支部より租税債権の交付請求を為すべき旨催告を受けながら、右競売期日の結了迄にその債権の申出をしなかつたとの原告主張の事実に付ては、成立に争なき甲第一号証の三及同四の各記載に依れば、右競売期日及前記裁判所が被告の交付要求を受理した日が何れも昭和二十六年十月十五日であることを認めることが出来るから未だ競売期日が結了したものとは謂い難いのみならず、債権者は競売期日後七日を過ぎない日に定められた競売期日迄に配当の要求を為し且其の債権の計算書を差出せば足るものであることは、民事訴訟法第六四六条第六六〇条第六九二条に徴し明かであるから、原告の被告の債権申出が競売期日結了後に為され、優先弁済を受ける権利を失つたとなす右主張も採用することが出来ない。されば原告の請求は何れの点よりするも失当であるから之を棄却すべきものとし、訴訟費用の負担に付民事訴訟法第九十五条、第八十九条を適用し主文の如く判決する。
(裁判官 秋葉雄治)
目録
茂原市茂原字渋沢六百弍拾八番の壱
家屋番号同所参弐壱番
一、木造亞鉛葺二階建店舖
建坪 拾九坪七合五勺
外二階坪 拾壱坪七合五勺 以上