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千葉地方裁判所八日市場支部 平成4年(ワ)24号 判決 1993年3月05日

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自、原告鈴木隆夫に対して金五七一万九四二九円、原告鈴木英子に対して金五七一万九四二九円及びこれら各金員に対する平成二年四月一五日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故

左記交通事故が発生した(以下この事故を「本件事故」という。)

(一) 日時 平成二年四月一五日午前八時二〇分頃

(二) 場所 八日市場市平木一二七〇番地一先県道(以下「本件道路」という。)上

(三) 加害車 普通貨物自動車(千葉四五な八五五)

運転者 被告渡辺甲子郎(以下「被告渡辺」という。)

(四) 被害車 自動二輪車(千葉け五三九一)

運転者 訴外鈴木衛(以下「衛」という。)

(五) 事故態様

衛が右県道上を被害車に乗つて八日市場市上谷中方面から旭市方面に向けて進行中、反対側車線沿道の被告有限会社石毛石油(以下「被告会社」という。)のガソリンスタンド敷地内から加害車が突然被害車の走行車線上に進出、進行してきたため、衛はこれを回避できず、被害車が加害車に追突、転倒した。

(六) 事故の結果

衛は、本件事故によつて、左膝開放骨折、右第五中手骨骨折の傷害を受けたが、結局この傷害は完治せず、左膝痛、右小指関節部痛、右第五中手骨変形等の後遺障害を残して症状を固定するに至つた。

2  被告らの責任

(一) 被告渡辺の責任

右被告は、本件事故当時、加害車を所有し、自己の用に供していたもので、加害車の運行供用者であり、且つ、本件事故当時、道路左方の安全を確認せずに漫然と本件道路上に進行した過失によつて本件事故を発生させたものであるから、第一次的には自動車損害賠償保障法三条に基づき、第二次的には民法七〇九条に基づき本件事故による衛の損害を賠償すべき責任がある。

(二) 被告会社の責任

(1) 被告会社の代表取締役石毛弘の妻である訴外石毛のぶ子(以下「のぶ子」という。)は、本件事故当時、同会社のガソリンスタンドで給油を終えた加害車を本件道路上に誘導したが、その際、同道路上の走行車両の有無に注意し、適切に加害車を誘導して、同道路上の走行車両との衝突事故の発生を未然に防ぐべき注意義務があつたにもかかわらず、それを怠り、漫然と加害車を誘導した過失によつて本件事故を惹起させた。

(2) のぶ子は、被告会社の取締役の地位にあるが、実質は同被告の指揮の下に同被告の従業員としての業務に従事していた。

(3) したがつて、被告会社は、のぶ子の実質的な使用者として、民法七一五条一項に基づき本件事故による衛の損害を賠償すべき責任がある。

3  損害

(一) 本件事故による衛の損害 一一四四万四四七一円

(1) 治療関係費 四九六万一三四六円

衛は、本件事故による傷害の治療のため、平成二年四月一五日から平成三年九月一九日まで旭中央病院において、入院日数にして通算九一日、通院日数にして通算一九四日の治療を受け、その間次の支出を要した。

ア 治療費のうち患者負担分 八八万〇〇六〇円(治療費の総額は二六九万五五七六円

イ 看護料 三三七万五三六〇円

<1> 入院期間中の看護料 四五万五〇〇〇円

衛の入院期間中、傷害が極めて重く、しかも未成年者であつたので、母である原告英子を初めとして家族が付きつきりで看護にあたつた。右金額は一日当たり五〇〇〇円、入院期間九一日分の計算

<2> 退院後自宅療養中の看護料 二九二万〇三六〇円

衛は、退院後の自宅療養中、家の中にあつてすべての日常の介護を原告英子等に頼み、この状態は平成三年三月の再手術後の症状が落ち着き、症状が固定した同年九月一九日まで続いた。

右期間中の職業的看護補助者の一日当たりの付添基本給は、平成二年度(平成二年四月一日から平成三年三月三一日まで)は六六八〇円、平成三年度(平成三年四月一日から平成四年三月三〇日まで)は六九二〇円であるから、これを前提とする付添看護料相当額は次のとおりとなる。

ⅰ 六六八〇円×二五九日(平成二年度の自宅療養日数)=一七三万〇一二〇円

ⅱ 六九二〇円×一七二日(平成三年度の自宅療養日数)=一一九万〇二四〇円

(ⅰとⅱの合計 二九二万〇三六〇円)

ウ 通院費 五一万二二一〇円

エ 入院雑費 一一万八三〇〇円

一日当たり一三〇〇円として入院日数九一日分

オ 諸経費 七万五四一六円

(内訳)

文書料他 八〇〇円

下肢装具代 七万四六一六円

(アからオまでの合計 四九六万一三四六円)

(2) 労働能力の喪失による逸失利益 三四八万三一二五円

衛の前記後遺障害による労働能力喪失率は、控えめにみても自賠責認定の後遺障害等級一二級の一四パーセントを下らないところ、衛は、平成三年三月に高等学校を卒業して、同年四月から就職した後の少なくとも一〇年間、右割合での労働能力を喪失し続けたと考えられ、この間、高等学校卒業の男子一般の収入があるはずであつたから、平成三年四月から平成一三年三月まで平成元年賃金センサス第一巻第一表、産業計、企業規模計、旧中・新高卒の各年齢別の男子労働者平均賃金を基礎として年五分の割合による中間利息をホフマン方式により控除して、後遺障害による逸失利益の事故当時の原価を求めると、次のようになる(年収×労働能力喪失率×ホフマン係数)。

ア 平成三年四月から平成四年三月まで 二八万九七九〇円

(二一七万四三〇〇円×〇・一四×〇・九五二)

イ 平成四年四月から平成九年三月まで 一七四万一八〇三円

(二九七万五〇〇〇円×〇・一四×(五・一三四-〇・九五二))

ウ 平成九年四月から平成一三年三月まで 一四五万一五三二円

(三六八万八四〇〇円×〇・一四×(七・九四五-五・一三四))

(合計 三四八万三一二五円)

(3) 慰謝料 三〇〇万円

衛は、本件事故後、受傷による身体の激痛に苦しんだほか、長期にわたる入院・治療生活を余儀なくされた上、症状固定後も、膝の関節痛や、右手小指の関節痛、更には物がよく握れないなどの後遺障害に苦しみ続け、果ては自分が身体障害者としての一生を過ごさざるを得ないことを自覚するに至り、人生そのものにまで絶望した状況のうちに日々を送らざるを得なくなつた。

また、衛は、被告らが事故以来一度も見舞いに来ようとはせず、自分らには一切責任がないとの態度をとり続けるに及んで、さらなる絶望感とともに、断じて被告らを許すことができないという心境に至つた。

このような衛自身の精神的苦痛に対する慰謝料としては少なくとも三〇〇万円が相当である。

(二) 本件事故による原告らの固有の損害 各一〇〇万円(合計二〇〇万円)

原告らは、衛の父母であるところ、本件事故によつて、手塩にかけて育ててきた長男の衛が障害者として一生を送らざるを得なくなつたことによつて、衛の将来にこのうえもない不安を背負う結果となつたのであり、それによつて被つた原告らの精神的苦痛は極めて甚大である。

原告らの右苦痛に対する慰謝料としては各一〇〇万円(合計二〇〇万円)が相当である。

(三) 衛の死亡と相続

(1) 衛は、平成三年一二月一〇日、本件とは別の交通事故によつて死亡した。

(2) 衛の法定相続人は、父の原告鈴木隆夫と母の原告鈴木英子の二名であり、原告らは、各二分の一の割合で、それぞれ衛の被告らに対する前記(一)の損害賠償請求権を相続した。

(四) 損害の填補 一二〇万円

原告らは、治療関係費として、自賠責保険から一二〇万円の支払いを受けた。

(五) 弁護士費用 合計一〇〇万円

原告らは、本訴の提起、追行を原告らの訴訟代理人に委任し、その報酬として請求金額の一割を下らない金額を支払うことを約した。その合計額は、一〇〇万円を下らない。

(六) 以上差引総損害額(一(+)二(-)四(+)五) 一三二四万四四七一円

したがつて、各原告分は、二分の一の六六二万二二三五・五円

4  結論

よつて、原告らは、被告らに対し、本件事故の損害賠償金として、前記損害額の範囲内で、各自、原告隆夫に対して金五七一万九四二九円、原告英子に対して金五七一万九四二九円及びこれら各金員に対する本件事故の日である平成二年四月一五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  被告渡辺

(一) 請求原因1の事実中、(五)のうちの被告渡辺の車が突然進出、進行して、衛の車がこれに追突転倒したとの部分は否認、その余は認める。

事故態様についての反論は、後記被告渡辺の抗弁1に記載のとおりである。

(二) 同2(一)のうち被告渡辺が自賠法上の運行供用者であることは認めるが、その余の主張は争う。

過失の主張に対する反論は、後記被告渡辺の抗弁1に記載のとおりである。

(三) 同3のうち、(一)(1)ウ、エ、オ、(三)のうちの(1)の事実、(2)のうちの身分関係、(四)の事実は認めるが、その余は否認ないし争う。

(反論等)

(1) 逸失利益について

逸失利益は、将来の損害として見込まれる観念的な損害であるから、衛が別件事故で死亡した時点で損害の発生は中断する。

したがつて、衛が生存していると擬制して逸失利益を請求するのは失当であり、症状固定時の平成三年九月一九日から同年一二月一一日までの間を検討すべきである。

(2) 慰謝料について

原告らの慰謝料は発生の余地がない。

後遺障害についての慰謝料は、死亡が症状固定後間もないことから特別考慮する必要がない。

2  被告会社

(一) 請求原因1の事実中、(五)のうちの被告渡辺の車が突然進出、進行して、衛の車がこれに追突転倒したとの部分は否認、その余は認める。

(反論)

本件事故の状況は次のとおりであつた。

(1) 被告渡辺の車が本件道路の旭方面へ進行する車線とは反対側の車線沿いにある被告会社のガソリンスタンドで給油後、のぶ子の誘導に従つて右道路を横断、右折して旭方面へ進行する車線に入つて走行を始めようとした。

(2) その時、衛の車が被告渡辺の車の後方三〇〇メートル位の所からライトをつけて時速八〇キロメートル以上の猛スピードで接近してきて、被告渡辺の車の後方三〇ないし四〇メートル位の所で急ブレーキをかけた。

(3) 当時、雨が上がつたばかりで、路面が濡れていたため、衛の車は、スリツプし、二、三回回転して、衛は投げ出され、同車は歩道の縁石に当たり、転倒した。衛の車は被告渡辺の車には衝突していない。

(二) 同2(二)のうち、のぶ子が被告会社代表者の妻で、同会社の取締役の地位にあり、本件事故当時、給油を終えた被告渡辺車を本件道路上に誘導したとの点は認めるが、その余は否認ないし争う。

(三) 同3の事実は知らない。

三  被告渡辺の抗弁

1  自賠法三条の責任の主張に対する免責の主張

被告渡辺は、被告会社で給油した後、旭市方面に右折すべく、のぶ子の誘導によつて本件道路の手前で停止して左右を確認したところ、はるか左方数百メートル先にオートバイが走行して来るのが確認されたが、まだ遠方であつたので充分右折して進行できると考えたところ、のぶ子も同様にオートバイを確認しながら被告渡辺車が本件道路に出るよう指示してくれたので、通常どおりの発進をしてやや進行していた時、後方で音がして衛の車が転倒していることを知つたのであつて、被告渡辺の車に衛の車が追突したなどということはない。

本件事故は、衛が高速で、かつ被告渡辺車が右ガソリンスタンドから出て前方を走つていることに気付かず、前方不確認のまま進行し、距離が接近して初めてこれを見て、急制動したため転倒したものであつて、本件事故は衛の一方的過失によつて発生したものであり、被告渡辺に過失はない。

被告渡辺が右ガソリンスタンドから本件道路に出る際には、衛の車は数百メートル先にあつたもので、衛が前方注意義務を怠らなかつたら、当然被告渡辺の車の動静を充分把握できていたはずである。衛は、本件事故後、本件類似の事故を発生させて死亡したとのことであるが、本件についても高速と前方不確認という二重の過失から、通常であれば何ら事故とならない状況下で事故を発生させたもので、被告渡辺の右折、本件道路への進行に不適切なものはなく、免責とされるべきである。

2  予備的主張

(1) 過失相殺

仮に被告渡辺に何らかの過失があつたと認められるとしても、その過失は、衛の過失と比較すると一〇パーセント程度も出ない微々たるものである。

したがつて、損害賠償額の算定に際しては、衛の過失について相当の過失相殺がされるべきである。

(2) 被告渡辺による損害の填補

被告渡辺は本件事故による衛の損害の填補として次の金額を支払つた。

ア 被告渡辺加入の自賠責保険から 一二〇万円

イ 旭中央病院の総治療費、診断書料合計二六九万五五七六円のうち一四五万〇六七四円

したがつて、被告渡辺は、前記過失相殺の結果同被告が負担すべき損害額をはるかに超える金員を支払つていることになるので、更に賠償すべき損害はない。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の主張は否認ないし争う。

2  同2のうち、(1)の主張は否認ないし争う、(2)のうちアは認めるが、イは不知、その余の主張は争う。

(2)のイの支払金は国民健康保険法六四条に基づく損害賠償請求権の代位による支払金ではないかと考えられる。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  請求原因のうち、1の事実中(五)のうちの被告渡辺の車が突然進出、進行して衛の車がこれに追突転倒したとの部分を除くその余の部分、3(三)のうち(1)の事実及び(2)のうちの身分関係については、いずれも当事者間に争いがなく、2(一)のうち被告渡辺が同被告の車の運行供用者であること及び3のうち(一)(1)ウ、エ、オ、(四)の事実については被告渡辺との関係では争いがなく、2(二)のうちのぶ子が被告会社代表者の妻で、同会社の取締役の地位にあり、本件事故当時、給油を終えた被告渡辺車を本件道路上に誘導したとの点については被告会社との関係では争いがない。

二  まず、本件事故の態様について検討するに、原告らは、「本件は、事故直後、警察が現場に到着するまでの間に直ちに現場に散乱していた破片等がその場に居合わせた者たちによつて片付けられてしまつたために、当初は事実の事故態様が何ら明らかにされないまま警察において衛の一方的な自爆・転倒事故であると決め付けられ、その線に沿つて被告渡辺に対する刑事事件も処理されそうになつたところ、その後、衛のヘルメツトに加害車のタイヤ痕が付着していたとの原告らの訴えを捜査官憲が受け入れ、衛と加害車の衝突の事実を前提とした刑事処分がようやく被告渡辺に科せられたとの経緯が存する。」と主張するが、事故直後警察官が現場に到着するまでの間に現場に散乱していた破片等がその場に居合わせた者達によつて片付けられたとの事実を認めるに足りる証拠はなく、また、加害車のタイヤ痕付着との点は、成立について争いのない甲第七号証の六の平成二年七月二三日付け「交通事故捜査報告書」によれば、同報告書には、「被疑者乙の父親は乙から交通事故状況の説明を受けたのみで交通事故の相手や目撃者から事故状況の説明を受けようとはしていないその理由についてはこの二人は「うそつきである」との認識からで子供が事故を起した旨通報されたときに事故発生場所を間違つて通報してきたことなどからである。またこの傷害程度が大きく着装していたヘルメツトに他車両との接触痕らしいものが付着している、二輪車の損害が大きく不自然であるから車両相互の衝突があつたのではないか捜査してほしい旨の要望があつた。しかし車両相互の見分を行つた結果被疑者甲運転車両には損傷がないことと、甲及び目撃者の供述どおり車両及び人との衝突がないとのことから車両相互及び人との衝突はなかつた旨を告げた。捜査経過中同父親は保険会社では車両相互又は人が衝突した場合の保険金が異なることから暗に衝突をしているとの警察の捜査を要望し再三に亘る警察への連絡をしてきた。以上のとおり車両の損害(甲)が認められないこと目撃者が転倒前からその動静に注視し転倒から停止までの間連続して視認しておりその間両当事者間の衝突がなかつたと供述しているなど車両の衝突がないと判断する。」との記載がされていることが認められ、また、成立について争いのない甲第八号証の起訴状によれば、公訴事実は、「路外施設から旭市方面に向かい右折進行するに当たり」「左方道路から進行してくる前記鈴木運転の車両を左方七〇から八〇メートルの地点に認めたのであるから、その通過を待つて発進すべき注意義務があるのに、同車よりも先に右折進行できるものと軽信し、安全確認不十分のまま時速約二〇ないし三〇キロメートルで同車両の前方へ右折進行した」「業務上の過失により、自車を同市東谷方面から進行してきた鈴木衛……運転の自動二輪車に衝突の危険を生じさせ、急制動を余儀なくさせて、路上に転倒させ、その衝撃により同人に……傷害を負わせた」と記載されていることが認められ、いずれにおいても被告渡辺の車と衛の車の衝突の事実は認定されていないことが認められるのであつて、ほかに原告ら主張の衛のヘルメツトに被告渡辺の車のタイヤ痕が付着していたとか、警察が原告らのその主張を受け入れた上で被告渡辺の車と衛の車の衝突の事実を認定したと認めるべき証拠はない。そして、いずれも成立について争いのない甲第七号証の三ないし一四、二三ないし二五号証、第九号証、乙第四号証、丙第二号証、証人石毛のぶ子の証言、被告渡辺本人尋問の結果を総合すると、本件事故は、ほぼ被告ら主張のとおりの態様で発生したもので、被告渡辺の車と衛の車とは衝突していないこと、被告渡辺の車がガソリンスタンド前から反対側車線に入るべく本件道路内への進行を開始する直前、被告渡辺ものぶ子も道路の左側から自動二輪車(衛の車)が走つてくるのを認めたが、同車の位置から被告渡辺の車までの距離は相当離れていたので、同車が来る前に被告渡辺の車が道路内で右折して進行できるはずと考えて道路内に進行したが、衛の車が被告渡辺やのぶ子の予想をはかるに超える時速八〇キロメートル以上の猛スピード(制限速度は四〇キロメートル)で進行してきたため、そのままでは衛の車が被告渡辺の車に衝突すると感じた衛が急制動の措置を講じたが、その際、スリツプして縁石に衝突し、衛はその衝撃で投げ出され、車は転倒したことが認められ、他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。

三  右認定の事実によれば、本件事故は専ら衛の制限速度違反及び前方の安全確認義務違反の過失によつて発生したというべきで、被告らにはこのような暴走車両のあることまで予想して自車の運行をしたり、客の車を誘導すべき注意義務はなく、過失はないと判断するのが相当である。

四  よつて、その他の点について検討するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 遠藤きみ)

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