千葉地方裁判所松戸支部 平成12年(ワ)421号 判決 2001年8月31日
原告
佐藤哲司
同訴訟代理人弁護士
菅野泰
同
永嶋久美子
被告
沼南町
同代表者町長
藤川清
同訴訟代理人弁護士
田口邦雄
同
出口尚明
同
安國忠彦
主文
一 原告の確認請求に係る訴えをいずれも却下する。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 昭和五七年八月二六日及び同年九月一三日付け道路境界査定承諾書の原告作成名義部分が真正に成立したものでないことを確認する。
二 昭和五七年一〇月一三日付け道路工事施工承認申請書添付の協力同意書の原告作成名義部分が真正に成立したものでないことを確認する。
三 被告は、原告に対し、金一五〇万五三八〇円を支払え。
第二事案の概要
本件は、原告が、原告所有地と被告の管理に係る道路に関する道路境界査定承諾書ほか一通の書面の原告作成部分が偽造されたものであるとして、これらの真否確認を求めるとともに、原告が立ち会っていないにもかかわらず本件道路境界査定を行ったことなどの被告の過失により、原告所有地の所有権が不当に制限され精神的損害等を被った旨主張し、被告に対し、国家賠償法一条一項に基づき、損害賠償を請求した事案である。
一 前提となる事実
(一) 原告は、千葉県東葛飾郡沼南町《番地省略》の土地(以下「本件土地」という。)につき、昭和四六年九月一七日売買を原因とする所有権移転登記を経由した。
(二) 被告は、本件土地に隣接する国有地である町道四一六〇号線(以下「本件道路」という。)の道路管理者としてこれを管理している。
(三) 千葉県東葛飾郡沼南町《番地省略》の土地を所有する株式会社三井洋行は、被告に対し、昭和五七年八月一二日、隣接する本件道路との道路境界査定の申請をした(《証拠省略》)。
(四) 昭和五七年八月二六日及び同年九月一三日付け道路境界査定承諾書(以下「本件第一証書」という。)には、原告名義の署名押印があり、同承諾書は被告に提出された。
(五) 原告主張に係る昭和五七年一〇月一三日付け道路工事施工承諾申請書添付の協力同意書は、宗教法人我孫子バプテスト教会が墓地の経営に関し、昭和五八年一月都市計画法四三条一項に基づき建築物の新築の許可申請をしたが、その後同建築に関し本件道路の幅員が問題となったことから、同宗教法人が同年六月二〇日付けで被告に対し本件道路の整備工事を目的として提出した本件道路の使用願に添付した「町道整備工事にともなう隣接地主の承諾書」と題する書面(以下、この書面を「本件第二証書」という。)であり、同宗教法人に対し、原告がその一部を私有道路として提供し、同宗教法人が整備することについて協力するという内容の書面である(《証拠省略》)。
二 争点
(一) 本件確認請求に係る訴えに訴えの利益があるか否か。
(原告の主張)
原告は、本件第一証書及び本件第二証書の各原告署名押印欄に署名押印しておらず、同部分は偽造されたものである。
境界査定は、隣接する土地の所有権の範囲についての合意を定める契約であるが、本件においては、このような原告・被告間の合意を定める契約が本件第一証書によってなされた。したがって、本件第一証書の真否の確定をすることが、原告の所有権の不安を除去するのに必要であり、また一番直接的かつ適切である。
また、本件第二証書は、本件道路についての被告の所有権の範囲を拡張し、それに応じて原告の本件土地の所有権の範囲を縮小する旨の契約を定めた証書である。したがって、このような原告の所有権の範囲の不安を生ぜしめているのはほかならぬ本件第二証書によってなされた所有権の範囲に関する契約なのであり、これを除去するには、本件第二証書の真否を確定することが、一番直接的かつ適切である。
よって、原告は、本件第一証書及び本件第二証書の真否を確認する訴えを提起する利益を有する。
(被告の主張)
証書真否確認の訴えについては、当該証書が法律関係を証する書面であることが必要であり、法律関係を証する書面とは、その内容から直接一定の法律関係の成立、存否が証明できるものをいうが、本件第一証書及び本件第二証書とも、その記載内容から直接一定の法律関係の成立及び存否が証明できるものではない。
原告の主張は、要するに、本件土地の所有権が不当に制限されているという点にあるが、本件第一証書及び本件第二証書の真否確認をしても、それで直ちに本件土地と本件道路との境界が原告の考えるところとなり、同制限がなくなるというものではないから、同真否確認は、原告の権利又は法的地位の危険又は不安を除去するのに必要かつ適切な手段とはいえない。
(二) 被告に過失があったか否か。
(原告の主張)
ア 原告が立ち会っていないにもかかわらず本件道路境界査定を行ったこと、又は原告であると名乗り署名押印した者に対する本人確認を怠ったことが被告の過失に当たる。
イ また、被告が、原告の問い合わせに対し、本件第一証書及び本件第二証書の原告署名部分が偽造であるか否かにつき十分調査を行わず、これにつき原告に十分説明を行わなかったことも過失に当たる。本件第一証書は町道と私有地との道路境界査定のための承諾書であり、本件第二証書は被告町長宛の覚書と一体をなす書面であり、いずれも被告が道路境界を査定するあるいは町道の使用を許可するといった行為をする際の前提をなす書面である。したがって、被告は、本件第一証書及び本件第二証書の成立の真偽につき調査する義務を負っていることは明らかであり、また原告に対し、これらについて説明する義務を負うことも明らかである。
(被告の主張)
ア 境界査定においては、原告が立ち会うか、代理人が立ち会うか、あるいは立ち会わないか、いずれもあり得ることであるが、いずれの場合であっても、境界査定承諾書に関係者の署名押印がないと査定ができたことにはならない。したがって、原告本人が立ち会わないまま査定がされたこと自体について、被告の過失があるとされるいわれはない。
私人からの申し出による道路境界査定については、申請者が関係地権者に査定立会の連絡等をすることになっている。このような道路境界査定においては、被告としては、立ち会っている者がそれぞれ真実の権利者であるか否かについて確認する義務を負うと解するのは相当でない。すなわち、実体法上真実の権利者であるか否かは、容易に判断できない場合も少なくなく、申請者が関係者に連絡をして立ち会わせることになっている以上、被告としては、立会の場で何らかの異議が出、関係者でない者が立ち会っているとの疑念が生じない以上、それ以上立会人の確認をする義務はないというべきである。
イ 本件道路境界査定について、当時その適法性を疑わせるものはなく、その後も一七年間何ら異議が出なかったのであって、このような場合、その後に原告が署名が偽造であると申し出たとしても、被告は、その真偽について十分調査し、説明する義務はないというべきである。また、仮にそれらの義務があるとしても、その調査の範囲・程度は、残存している関係書類の形式的審査にとどまるべきである。すなわち、それらの書類上何らかの疑義が存在しない限り、それを超えて実体的に調査すべきことはないのである。そして、本件においては、被告担当職員は、その調査をし、原告にその調査に基づいた対応をしている。
(三) 原告の被った損害
(原告の主張)
原告は、上記(二)(原告の主張)ア記載の被告の過失行為により、①内容証明郵便の費用(被告に対し、平成一一年一月二九日、同年三月一七日、同年一〇月一八日及び平成一二年三月二一日に内容証明郵便をもって、本件証書の真正な成立につき問い合わせ等を行った。)、②弁護士費用、③所有権が不当に制限されたことによる精神的損害、④一年二か月間も再三にわたり被告に対し問い合わせをしなければならなかったことによる精神的損害、⑤原告のあずかり知らないところで、被告において原告の署名押印が真正なものとして扱われたことによる精神的損害を被った。また、原告は、上記(二)(原告の主張)イ記載の被告の過失行為により、①内容証明郵便の費用、②弁護士費用、③一年二か月間も再三にわたり被告に対し問い合わせをしなければならなかったことによる精神的損害を被った。
(被告の主張)
原告の主張する損害については争う。原告が主張する損害は、その主張する過失と相当因果関係がない。
第三争点に対する判断
一 争点(一)について
民訴法一三四条は、法律関係を証する書面の成立の真否を確定するためにも確認の訴えを提起することができる旨を規定するが、法律関係を証する書面とは、その内容から直接一定の法律関係の存在・不存在が証明できるものを指すと解される。すなわち、法律関係の存否について争いがある場合に、その存否を証明できる書面の真否を確定することによって紛争自体が解決することもあり、またその紛争の解決が容易になるということから、法律関係を証する書面に限りその真否の確認を求めることができるというのが、同条の趣旨である。
これを本件についてみるに、前記第二の一の(四)及び(五)記載のとおり、原告が真否の確認を求める書面は、本件第一証書が道路境界査定承諾書であり、本件第二証書が本件道路の整備工事を目的として提出した本件道路の使用願に添付された「町道整備工事にともなう隣接地主の承諾書」であって、その内容から直接一定の法律関係の存在・不存在が証明できるものには当たらないというべきである。
原告は、境界査定が隣接する土地の所有権の範囲についての合意を定める契約であることを前提に、本件土地の所有権の範囲について原告・被告間の契約を定めた証書が本件第一証書であり、また本件第二証書は本件道路についての被告の所有権の範囲を拡張し、それに応じて原告の本件土地の所有権の範囲を縮小する旨の契約を定めた証書である旨主張する。しかしながら、道路境界査定は、道路管理者として管理すべき道路の範囲を確定するものであり、道路と隣接土地の所有権の範囲を確定するものではない(そもそも、本件道路は国有地であり、被告は本件道路につき所有権を有するものではない。)。また、本件第二証書は、前記第二の一の(五)記載のとおり、原告が宗教法人我孫子バプテスト教会に対し、本件土地の一部を私有道路として提供し、同宗教法人が整備することについて協力するという内容の書面であり、本件道路についての被告の所有権の範囲を拡張し、原告の本件土地の所有権の範囲を縮小する旨の契約を定めた証書ではないから、上記原告の主張はその前提において正しくないというべきである。
なお、付言するに、証書真否確認の訴えにおいても確認の利益を必要とすることはいうまでもないが、確認の利益があるというためには、原告の権利又は法的地位の危険又は不安を除去するのに、文書の真否の確定が必要かつ適切な手段であることを要する。しかるに、本件において、仮に本件第一証書及び本件第二証書の原告作成部分が原告の意思に基づかないで作成されたと判断されても、それで直ちに本件土地と本件道路の境界が原告の考えるところに確定されるというものではないから、同真否確認は、原告の権利又は法的地位の危険又は不安を除去するのに必要かつ適切な手段であるとは認められない。すなわち、原告が本件土地の所有権の範囲が縮小せしめられたというのなら、直截に土地所有者を相手として、縮小されたとする部分についての所有権確認等の訴訟を提起すべきものである。
よって、いずれにしても、原告の確認請求に係る訴えは、不適法である。
二 争点(二)について
(一) 《証拠省略》によれば、一般的に被告が実施している道路境界査定の手続は以下のとおりであることが認められる。
ア 道路境界査定手続は、大別して、私人の申請による場合と、被告の道路管理を担当する部署以外の部署の申請による場合とに分けられる。
イ 道路境界の査定が必要な場合、道路境界査定申請人又はその代理人は、道路境界査定申請書を被告道路管理者に提出する。この申請書には、案内図、道路境界査定に関係する土地の公図の写し、関係する土地の地権者の住所・氏名を記載したものを添付する。
ウ 被告道路管理者は、上記申請書を受理した後、申請人に査定実施の日時を口頭で通知する。
エ 申請人は、上記通知を受けた後、関係するすべての地権者に対し、査定の日時を通知し、立会を依頼する。
オ 査定当日、申請人の依頼により集まった地権者と被告道路管理者(担当職員)が現場で立ち会い、公図等により道路境界点又は道路境界線を現地に標して査定を実施するが、地権者本人が立ち会う場合、地権者の代理人が立ち会う場合、地権者もその代理人も立ち会わない場合の三つのケースがある。
カ 地権者本人が立ち会う場合、境界に関する地権者(道路を挟んだ境界反対側の地権者を含む。)と被告道路管理者(担当職員)は、該当部分の境界を確認し、異議がなければ、その場で道路境界査定承諾書に地権者本人が署名押印し、これによって道路境界は確定することになる。道路境界査定は、道路両側の地権者が主張する道路境界と被告道路管理者が主張する道路境界が一致してはじめてその道路境界が確定するため、関係者の一人でも異議を述べた場合には不調となる。
キ 地権者の代理人が立ち会う場合、基本的な手続は上記で記載した地権者本人が立ち会う場合と同様であるが、地権者の代わりに代理人が地権者の名前を署名して押印し、これによって道路境界が確定することになる。代理人として地権者の親族が立ち会う場合もあるが、その場合にはその親族が自分の氏名を署名することもある。しかし、親族であるということで、この場合も地権者の承諾があったものと扱われている。
ク 地権者もその代理人も立ち会わない場合には、立ち会わなかった地権者の道路境界に関係する地権者(道路を挟んだ境界反対側の地権者を含む。)と被告道路管理者(担当職員)とが仮の道路境界を決めて仮杭(木杭)を設置し、後日、申請人が立ち会わなかった地権者に道路境界の確認をとり、異議がなければ、申請人は、立ち会わなかった地権者から道路境界査定承諾書に署名押印してもらい、これを被告道路管理者に提出し、これにより道路境界は確定することになる。
(二) 次に、《証拠省略》によれば、本件についての原告と被告とのやりとりの経過は、概ね以下のとおりであったことが認められる。
ア 原告は、平成一〇年一二月ころ、宗教法人我孫子バプテスト教会代表者の天利信司から、本件土地と千葉県東葛飾郡沼南町《番地省略》の間に存在する本件道路の拡張のための立会を求められ、平成一一年一月二三日、これに応じて立会をした。その際、原告は、同人から原告名義の署名押印がある本件第一証書を見せられた。
イ 原告は、被告に対し、平成一一年一月二九日付け内容証明郵便をもって、本件第一証書中の原告名義の署名押印が自分のものではないと述べるとともに、その調査を依頼した。
ウ これに対し、被告は、原告に対し、平成一一年二月二二日付け文書をもって、①昭和五七年八月二六日、同年九月一三日付けの道路境界査定は有効と判断している、②申し入れ事項(立会・署名押印について)を正式に受理するには、原告からの道路境界査定の申請が必要である、立会にて境界位置が決定できない場合は保留扱いになる旨を通知した。
エ 原告は、被告に対し、平成一一年三月一七日付け内容証明郵便をもって、被告が道路境界査定を有効と判断する根拠を示すよう求めた。
オ これに対し、被告は、原告に対し、平成一一年一〇月一日付け文書をもって、「当時、原告の立会の有無について事実関係を調査すべく、当時の町担当者や立ち会った地権者に調査したところ、町担当者は、年間数十件の道路査定を扱っており、また年数も経過していることから、この件についての記憶は定かでなかった。しかし、立ち会った地権者で現存している人から当時の記憶をたどり聞いたところ、『原告に立会の通知は出したようだが、原告は来なかったと思う』との証言もあったため、原告が主張するよう、昭和五七年八月二六日、同年九月一三日の道路境界査定には、立ち会わなかったことも考えられる。原告名義の署名押印のある承諾書については、現在町で保存されている書類から判断して、当時の承諾書としての不備はないため、無効であるという確証がない限り、現段階においては有効であると考えている。しかしながら、今回の調査で、査定当日原告が立ち会ったという確証がなく、また原告の照会文の中で『道路境界査定書に記載されている私の署名押印は、私・私の代理人又は私の親族と一切関係がありません』と主張していることから、原告所有地と官民境界を再度立会の上確認し、異議があれば、再査定に関係する地権者の了承を得た場合には、再査定を行いたいと考える。」旨回答した。
カ 原告は、被告に対し、平成一一年一〇月一八日付け内容証明郵便をもって、本件第一証書の有効性について再度尋ねた。
キ これに対し、被告は、原告に面会を求め、平成一一年一〇月二九日、被告役場において原告と面談した。この際、被告は、原告に対し、本件第二証書を提示し、「仮に道路拡幅に協力するという承諾をしているなら、道路境界については承諾していたのではないか。」と尋ねるとともに、本件第一証書につき、再度「当時の承諾書としての不備はないため、無効であるとの確証がない限り、現段階においては有効であると考えている。」旨の見解を示した。
ク 原告は、被告に対し、平成一二年三月二一日付け内容証明郵便をもって、本件第二証書中の原告作成の署名押印は原告のものではないことを通知するとともに、本件第二証書の有効性についての被告の判断を示すよう求めた。
ケ これに対し、被告は、原告に対し、平成一二年四月五日付け文書をもって、「この承諾書は昭和五七年当時、宗教法人バプテスト教会が管理棟を建てる上で、現況四メートル以下の道路を四メートルに拡幅する必要があるため、宗教法人バプテスト教会代表役員天利信司が関係地権者から同意を得た承諾書であり、この承諾書が偽造かどうかの件については、宗教法人バプテスト教会代表役員天利信司との問題であるため、町は関与できない。」旨回答した。
(三) ところで、本件道路境界査定において、原告が審査に立ち会ったことを認めるに足りる証拠はなく、また原告が本件第一証書の原告作成部分の署名押印をしたと断定すべき的確な証拠もない。
そこで、上記(一)及び(二)記載の認定事実を前提に、原告の主張する過失が被告にあったか否かを検討するに、本件は、前記第二の一の(三)記載のとおり、私人の申請に基づいてなされた道路境界査定であるところ、上記(一)で認定したとおり、道路境界査定においては、隣接地権者本人が立ち会う場合、隣接地権者の代理人が立ち会う場合、そのいずれもが立ち会わない場合があり、ただ最後の場合に道路境界が確定するためには、後日、申請人が立ち会わなかった隣接地権者に道路境界の確認をとり署名押印を徴してくることが求められるのであるから、いずれにしても本件において原告本人が立ち会わないまま査定がなされたこと自体について、被告に過失があったということはできない。
また、上記(一)で認定したとおり、私人が道路境界査定の申請をした場合には、道路管理者から査定実施の日時の通知を受けた申請人は、その責任において、すべての隣接地権者に対し、査定の日時を通知し、立会を依頼することになっているのであり、特段の事情がない限り、道路管理者たる被告において、立ち会っている者が本人であるか否かの確認をすべきであると解するのは相当でないというべきである。そして、本件においては、道路境界査定手続は特別な問題もなく終了しており(《証拠省略》)、被告において承諾した隣地地権者が本人であることを確認すべき特段の事情があったとは認められない。
さらに、原告は、被告が原告の問い合わせに対し、本件第一証書及び本件第二証書の原告作成部分が偽造であるか否かにつき十分調査を行わず、これにつき原告に十分説明を行わなかったことも過失に当たると主張する。しかしながら、先に判示した道路境界査定の法的意義及び上記(一)で認定した道路境界査定手続等にかんがみると、被告にそもそも道路境界査定承諾書中の承諾者作成部分が偽造されたものであるか否かを調査すべき義務があると解することには疑問があるし、仮に一定の調査義務があるとしても、上記(二)で認定したとおり、被告は、本件道路境界査定後約一七年間、何ら問題なく経過していたのであり、これにより道路境界が確定したとの認識でいたところ、原告から本件第一証書の原告作成部分の真否の問い合わせを受けた後には、原告が本件道路境界査定に立ち会ったか否かなどについて、当時の被告担当職員及び立ち会った隣接地権者にも当時の事情を聴取し、その結果を原告に通知しているのであって、被告に原告が主張するような過失があったとは到底認められない。また、本件第二証書は、宗教法人我孫子バプテスト教会が被告に対し提出した本件道路の使用願に添付した「町道整備工事にともなう隣接地主の承諾書」と題する書面であることに照らすと、原告が署名押印が偽造であると申し出たとしても、被告には、その真偽について十分調査し、説明する義務はないというべきである。
したがって、被告には原告が主張するいずれの過失行為も存在しないというべきである。
三 結論
以上によれば、その余の点を判断するまでもなく、原告の請求のうち、本件各証書の真否確認請求に係る訴えはいずれも不適法であるからこれを却下し、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 飯塚宏)