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千葉地方裁判所松戸支部 昭和54年(ワ)252号 判決 1983年3月29日

原告 甲野花子

<ほか二名>

右甲野一郎、甲野春子両名法定代理人(以下単に「原告ら法定代理人」という。)親権者父 甲野太郎

<ほか一名>

右原告ら三名訴訟代理人弁護士 小池金市

同 林哲郎

同 地田良彦

被告 沼南タクシー有限会社

右代表者代表取締役 石戸道弘

<ほか一名>

右被告ら両名訴訟代理人弁護士 國本明

右訴訟復代理人弁護士 斎藤雅弘

主文

一  被告らは各自、原告甲野花子に対して金六六万一〇〇〇円と内金六〇万〇九一〇円に対する昭和五二年七月二七日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を、原告甲野一郎に対して金一八万二五一〇円と内金一六万五九二〇円に対する昭和五二年七月二七日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を、原告甲野春子に対して金五一二万三〇三六円と内金四六五万七三〇六円に対する昭和五二年七月二七日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を、各支払え。

二  原告ら三名のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告甲野花子と被告らとの間に生じたもの及び原告甲野一郎と被告らとの間に生じたものはいずれもこれを四分しその一を同各原告のその余を被告らの各負担とし、原告甲野春子と被告らとの間に生じたものはこれを四分しその三を同原告のその余を被告らの各負担とする。

四  この判決第一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自、原告甲野花子に対して金九〇万四六七三円と内金八二万二四三〇円に対する昭和五二年七月二七日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告らは各自、原告甲野一郎に対して金二四万三三四二円と内金二二万一二二〇円に対する昭和五二年七月二七日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  被告らは各自、原告甲野春子に対して金二四八一万三〇四六円と内金二二五五万七三一五円に対する昭和五二年七月二七日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は被告らの負担とする。

5  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件事故の発生

(一) 日時 昭和五二年七月二七日 午後三時三〇分頃

(二) 場所 千葉県柏市東台本町二丁目二〇番先 国道一六号線

(三) 加害車は、被告沼南タクシー有限会社(以下「被告会社」という。)所有の普通乗用自動車(習志野五五い四〇二七)であり、右加害車の運転手である被告浅野利弘(以下「被告浅野」という。)は被告会社に雇用されているタクシー運転手である。

(四) 態様

被告浅野は、乗客である原告ら三名外四名を加害車に乗せて国鉄常磐線柏駅方面から国道一六号線に入り千葉方面に進むため交差点に差しかかった際、同被告は自車前面の信号が赤であるのに右交差点に進入したため、折から千葉方面から野田方面へ向って国道一六号線上を青信号に従い前進していた普通貨物自動車(習志野いす七五四七、運転手、秋谷義信)が加害車の右側面に衝突し、因って、原告甲野花子、同甲野一郎、同甲野春子が傷害及び物的損害を受けた。

2  責任原因

(一) 被告浅野は前方注意義務違反の過失によって本件事故を惹起させたものであるから、民法七〇九条に基づく責任がある。

(二) 被告会社は被告浅野の使用者であり加害車の運行供用者であるから民法七一五条及び自賠法三条に基づく責任がある。

3  原告甲野花子関係の損害

(一) 損害の内容

(1) 傷病名

頭部挫傷、脳震盪症、顔面挫傷兼擦過症、頸椎捻挫、右肩部上腕部挫傷兼切創、腰部挫傷、外傷性頸部症候群

(2) 入通院の内容

(イ) 柏整形外科病院

昭和五二年七月二七日から同年八月二五日迄三〇日間入院

同年八月二六日から同年一〇月六日迄四二日間のうち実治療日数一四日間通院

(ロ) 東京外科内科病院

昭和五二年九月八日から同月三〇日迄二三日間のうち実治療日数四日間通院

(ハ) 昭和大学病院

昭和五三年三月六日に一日間通院

(二) 損害額

(1) 治療費

(イ) 柏整形外科病院

入院期間中の分 金四九万〇六〇〇円

通院期間中の分 金四万五六〇〇円

(ロ) 東京外科内科病院 金九万六六二〇円

(ハ) 昭和大学病院 金二万二六八〇円

以上計 金六五万五五〇〇円

(2) 付添費

柏整形外科病院入院中

(イ) 付添人 親族 甲野松子 金六万六〇〇〇円

三〇〇〇円×二二日間=六万六〇〇〇円

(ロ) 付添人 親族 乙山竹子 金二万七〇〇〇円

三〇〇〇円×九日間=二万七〇〇〇円

以上計 金九万三〇〇〇円

(3) 諸雑費

(イ) 日用雑貨品

パジャマ 一着 金五三〇〇円

(ロ) 通信費

ハガキ 二〇枚 金四〇〇円

電話料 金四二七〇円

(ハ) 医師・看護婦への謝礼(柏整形外科病院関係)

医師謝礼 金一万円

看護婦謝礼 金五〇〇〇円

以上計 金二万四九七〇円

(4) 通院費

(イ) 柏整形外科病院

タクシー 三九回 金三万二三九〇円

沼南タクシー 金一万七〇九〇円

バス 一〇回 金二五五〇円

(ロ) 東京外科内科病院

バス 三回 金五〇〇円

電車 四回 金七二〇円

以上計 金五万三二五〇円

(5) 慰謝料(入通院慰謝料) 金六〇万円

(6) 物的損害

サングラス 金一万六九〇〇円

洋服 金三万二〇〇〇円

イヤリング 金七四〇〇円

靴 金一万二〇〇〇円

以上計 金六万八三〇〇円

(7) 右(1)乃至(6)の合計 金一四九万五〇二〇円

(8) 被告らの弁済額 金六七万二五九〇円

(9) (7)から(8)を差引いた額 金八二万二四三〇円

(10) 弁護士手数料((9)の一割) 金八万二二四三円

(11) (9)と(10)の合計額(請求額) 金九〇万四六七三円

4  原告甲野一郎関係の損害

(一) 損害の内容

(1) 傷病名

腰仙部挫傷、頸椎捻挫の疑

(2) 通院の内容

(イ) 柏整形外科病院

昭和五二年七月二七日から同年八月三一日迄三六日間のうち実治療日数一五日間通院

(ロ) 東京外科内科病院

昭和五二年九月八日から同月一二日迄五日間のうち実治療日数二日間通院

(二) 損害額

(1) 治療費

(イ) 柏整形外科病院 金四万四七〇〇円

(ロ) 東京外科内科病院 金七五四〇円

以上計 金五万二二四〇円

(2) 通院交通費

(イ) 柏整形外科病院

バス 七回 金一三五〇円

タクシー(沼南タクシー) 金二万〇七〇〇円

(ロ) 東京外科内科病院

バス 三回 金二五〇円

電車 四回 金三二〇円

以上計 金二万二六二〇円

(3) 慰謝料(通院慰謝料) 金二〇万円

(4) 物的損害

上衣 金三八〇〇円

時計 金一万一〇〇〇円

ズボン 金一八〇〇円

帽子 金二七〇〇円

以上計 金一万九三〇〇円

(5) 右(1)乃至(4)の合計 金二九万四一六〇円

(6) 被告らの弁済額 金七万二九四〇円

(7) 右(5)から(6)を差引いた額 金二二万一二二〇円

(8) 弁護士手数料((7)の一割) 金二万二一二二円

(9) 右(7)と(8)の合計額(請求額) 金二四万三三四二円

5  原告甲野春子関係の損害

(一) 損害の内容

(1) 傷病名

頭部挫傷兼頭部挫滅剥離創、骨膜損傷、顔面挫傷兼切創、頸椎捻挫、前胸部挫傷、顔面瘢痕、頭部打撲、顔面外傷、顔面瘢痕拘縮(多発性)

(2) 入通院の内容

(イ) 柏整形外科病院

昭和五二年七月二七日から同年九月三日迄三九日間入院

同年九月四日から同年一〇月二九日迄五六日間のうち実治療日数一〇日間通院

(ロ) 東京外科内科病院

昭和五二年九月八日から同月二二日迄一五日間のうち実治療日数四日間通院

(ハ) 昭和大学病院

昭和五三年三月三日から同月一三日迄一一日間入院。

昭和五二年一二月一九日から昭和五三年四月二四日迄一二六日間のうち実治療日数四日間通院

昭和五三年八月二二日から昭和五四年五月一四日迄二六七日間のうち実治療日数七〇日間通院

昭和五五年三月一七日から同年八月一八日迄二〇五日間のうち実治療日数一二日間通院、なお同年四月一四日及び同年七月二一日には、いずれも外来にて手術(入院せず)。

(3) 原告甲野春子の受けた後遺症の内容

(イ) 現状

原告春子の顔面醜状痕は、概括的にいえば多発性の瘢痕拘縮であり、個別的にいえば以下のとおりである。

① 前額部やや左側傷痕

長さ四センチメートルの褐色瘢痕、平坦、無痛

② 前額部右側傷痕

長さ二センチメートルの白色瘢痕、やや隆起、無痛

③ 左上眼瞼部傷痕

長さ一センチメートルの赤色瘢痕、平坦、無痛

④ 左頬部傷痕

長さ〇・八センチメートルの赤色瘢痕、平坦、無痛

⑤ 左頬部(④より左)傷痕

長さ〇・六センチメートルの赤色瘢痕、平坦、無痛

⑥ 右頬部外側傷痕

長さ三センチメートルの赤色瘢痕、やや陥没、無痛

⑦ 右頬部傷痕(⑥より下部)

長さ三・五センチメートルの赤色瘢痕、やや陥没、無痛

⑧ 左眉毛縦断傷痕

長さ一センチメートルの白色瘢痕、平坦、無痛

⑨ 前額右側・前髪の生え際に沿った横傷痕

長さ五センチメートルの褐色瘢痕、陥没及び隆起不整、無痛

右の①の中央部に一センチメートル×〇・五センチメートルの褐色平坦な瘢痕があり、⑨の最大巾は〇・五センチメートルであるが、その余の②ないし⑧の最大巾はいずれも〇・一センチメートルである。

笑った時に⑦の瘢痕の陥没が著明になる外は、その余の各瘢痕の表情による変化はない。

(ロ) 改善の可能性

将来の形成外科手術により〇・一センチメートル以下の瘢痕にすることは困難であるが瘢痕の方向を変えて目立たなくしたり、陥没、隆起の改善は望める。

(二) 損害額

(1) 治療費

(イ) 柏整形外科病院 金七八万八四〇〇円

(ロ) 東京外科内科病院 金八万六二〇〇円

(ハ) 昭和大学病院 金四九万八五二〇円

以上計 金一三七万三一二〇円

(2) 付添費

(イ) 柏整形外科病院入院中

付添人報酬 金二六万八〇〇〇円

(ロ) 昭和大学病院入院中

付添人報酬 金七万九七五〇円

付添人紹介料 金七四八〇円

以上計 金三五万五二三〇円

(3) 諸雑費

(イ) 柏整形外科病院関係

日用雑貨品 金一万九四二一円

栄養補給費 金二万四七八二円

文化費 金六九〇〇円

体温計等 金二二八〇円

付添人への謝礼 金二万五八〇〇円

以上小計 金七万九一八三円

(ロ) 昭和大学病院関係

文化費 金四一〇〇円

通信費 金九〇円

日用雑貨品 金九五〇円

栄養補給費 金八一七〇円

医師、看護婦への謝礼 金九万一五〇〇円

付添人への謝礼 金二三〇〇円

以上小計 金一〇万七一六〇円

以上両病院関係諸雑費計 金一八万六三四三円

(4) 通院交通費

(イ) 柏整形外科病院

タクシー 四回 金三六六〇円

バス 七回 金一六五〇円

(ロ) 東京外科内科病院

タクシー 一回 金八一〇円

バス 五回 金六〇〇円

電車 六回 金八〇〇円

(ハ) 昭和大学病院

タクシー 一五回 金二万一五六〇円

バス 二三回 金五二五〇円

電車 二七回 金四万〇四四〇円

以上計 金七万四七七〇円

(5) 逸失利益

(イ) 原告甲野春子の受けた後遺障害は、前記のとおり顔面の目立つ部分に合計で二〇・九センチメートルに及ぶ瘢痕が残ったもので、右瘢痕の表情への影響として、著明なひきつれ、神経麻痺はないが、笑うと右頬部の前記⑦の瘢痕は陥没する。即ち、外見上特に目立つのは右頬の瘢痕⑥、⑦であり、前髪の生え際の⑨は、通常は前髪を下げて隠すようにしている。

学校生活(本人は現在中学二年生)について見ると、本件事故後、友達との交際関係が狭くなっているし、集団的な生活を嫌うような傾向があり、親友も一人しかいない。友達にヤクザと言われてからかわれたことがあり、母親である原告甲野花子が学校の先生に悪質なからかいをしないよう指導を求めに行ったこともある。

以上のとおり、前記外貌醜状の存在によって原告春子の身体的機能そのものに支障はないとしても、女子である同原告が将来就職する場合においては、その選択できる職業、職場の範囲が著しく制限される蓋然性が高いことは経験則上明らかである。このことは単に女優や歌手、ホステス等の容貌が重視される特殊な職業のみならず、一般的に接客に携わる職業もしくは人の面前や人目に触れる場所において働くことが要求される職業、更には右のような職業でなくとも、一般に多数の応募者が集まる労働条件の良い企業等において顕著であることに加えて、我が国においては、企業等の大部分が終身雇用、年功序列の賃金制度を採っている関係上、特に原告のように外貌醜状のある女子が転職や再就職の機会を得ることは勿論のこと、仮にその機会が与えられたとしても、従来以上の労働条件の職業に就くことは事実上きわめて困難なことは公知の事実である。賃金センサスによれば、女子労働者の企業規模による賃金格差はむしろ中高年において顕著な拡大をみる。従って、原告春子は前記外貌の醜状によって、その労働能力の一部を喪失したものというべきであり、かつそれによって稼働収入の喪失が生ずることが十分予測できる以上、これを一定の基準によって算定することが相当である。

被告らは顔面醜状を持つ人が就労転職等の機会が減少するのは、単に雇用者側の好悪の問題にすぎないから、労働能力喪失と関係ないというが、職場が得られなければ収入を上げることが出来ないのは当然のことなので、雇用者側の好悪は収入稼得に影響を与えるものであって、広い意味で労働能力の喪失といって差支えない。

(ロ) 逸失利益の計算

金一五三七万〇一五二円

生年月日 昭和四三年八月二三日

事故日 昭和五二年七月二七日

原告春子の事故時年令 八才

就労可能年数 四九年

係数(新ホフマン係数―「一八才未満のものに適用する表」による)一九・一六〇

年収 二〇〇万五五〇〇円

症状固定時である昭和五六年の賃金センサスによる女子高卒者(パートを除く)の年間給与額

一三万二九〇〇円×一二か月+四一万〇七〇〇円=二〇〇万五五〇〇円

労働能力喪失率 四〇パーセント

女子の外貌に著しい醜状を残す後遺障害は労災では第七級に該当して労働能力喪失率は五六パーセントであるが、同種事案の判決例(浦和地方裁判所昭和五六年(ワ)第一一一二号事件昭和五七年九月二七日判決言渡)によって四〇パーセントの喪失率とした。

逸失利益の計算式

二〇〇万五五〇〇円×一九・一六〇×〇・四=一五三七万〇一五二円

(6) 慰謝料

(イ) 入通院慰謝料 金三〇〇万円

入院日数計五〇日間、通院実日数計一〇〇日間、通院経過日数六六九日間

(ロ) 後遺症慰謝料 金一〇〇〇万円

以上慰謝料計 金一三〇〇万円

(7) 物的損害

洋服 金三九〇〇円

帽子 金一八〇〇円

靴 金三九〇〇円

以上計 金九六〇〇円

(8) 右(1)乃至(7)の合計 金三〇三六万九二一五円

(9) 被告らの弁済額 金七八一万一九〇〇円

(10) 右(8)から(9)を差引いた額 金二二五五万七三一五円

(11) 弁護士手数料((10)の一割) 金二二五万五七三一円

(12) 右(10)と(11)との合計額(請求額) 金二四八一万三〇四六円

6  よって被告らに対し、原告甲野花子は請求の趣旨1項記載のとおり、原告甲野一郎は同2項記載のとおり、原告甲野春子は同3項記載のとおり、各残損害金合計の支払を求め、かつ右各損害金のうち弁護士手数料を除く各金員に対する本件事故発生日である昭和五二年七月二七日から各支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因事実1項(一)ないし(四)は認める。なお同(四)につき、被告浅野運転の車の進行方向の信号は客観的には赤であったが、同被告は赤信号であることを認識して、交差点に進入したものではなく、交差点の構造に起因して、交差方向の青信号を自己進行方向の信号と見誤ったため交差点内に進入したものである。

2  同2項は認める。

3  同3項のうち、(二)(8)の被告らの弁済額は認め、その余は不知ないし争う。

4  同4項のうち、(二)(6)の被告らの弁済額は認め、その余は不知ないし争う。

5  同5項のうち、(二)(9)の被告らの弁済額は認め、その余は不知ないし争う。

労働能力とは、労働を行って収入を上げうる知的・肉体的可能性を抽象的に捉えたものであるところ、顔面醜状は直接人の生活機能・生存機能とは関係のない後遺障害であるから、女児の顔面醜状についても労働能力そのものの喪失・減少をきたすものではない。

顔面醜状を持つ人が就労の機会の減少する場合があるとしても、それは単に雇用者側の好悪の問題によりそうなったに過ぎず、知的・肉体的能力を発揮する可能性がないか又は減少しているがために就労を拒否され、その機会が減少したのではない。従って単に就労の機会が減少することをもって直ちに労働能力を喪失しているとはいえない。

また仮りに就労の機会の減少をもって労働能力が喪失されるという立場に立っても、原告春子の瘢痕は確かに単純合計すれば二〇・九センチメートルの長さになるが、それぞれ五ミリメートルないし五センチメートルの瘢痕が散在しているものであって、右頬部の瘢痕を除いてはほとんど目立たないものであり、表情への影響もなく、右頬部の瘢痕は赤みがあって目立つとはいってもそれぞれ長さ三センチメートルのものが二条あるだけでとりたてて醜いという印象を受けるものではない。従って、原告春子には右頬部に長さ三センチメートルの多少目立つが醜くはない二条の瘢痕がある以外はほとんど目立たない瘢痕しかないから、かかる程度の顔面醜状によって同女の就労の機会が減少する蓋然性が高いとはいえず、また同原告の瘢痕は今後さらに手術により改善される見込みがある。

6  同6項は争う。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1項(一)ないし(四)、同2項の各事実は当事者間に争いがない。そして、《証拠省略》によると、昭和五二年七月二七日、原告ら親子は訴外土田雪江親子らと東京へ映画見物へ行った後、柏駅前で、被告浅野が運転する、被告会社所有のタクシーに乗車して帰宅することにしたこと、その際、タクシー運転席横の前部座席には訴外土田雪江(当時三六歳)が訴外土田伸(当時五歳)を抱いて乗車し、後部座席には右から左に原告甲野春子(当時八才、小学三年生)、訴外土田美穂子(当時八才、小学三年生)、訴外土田由香子(当時一一才、小学五年生)、原告甲野花子(当時三五才)、原告甲野一郎(当時一〇才、小学五年生)の順で乗車したこと、同日午後三時三〇分頃、本件事故現場の交差点に差しかかった際、被告浅野は会社との無線連絡に熱中しその方に気を奪われていて、前方注視を怠ったため、赤信号を見落してタクシーを漫然時速約四〇キロメートルで交差点に進入させてしまった結果、同交差点を青信号に従い時速約四〇キロメートルで前進してきた普通貨物自動車が危険を感じて急ブレーキをかけたが間に合わず、同車の右前部バンパーにタクシー右側ドア付近を衝突させたこと、そのため原告らが後記各傷害及び物的損害を受けた外、同乗者であった前記土田親子ら四名も、各々約一週間から一か月前後の加療或いは入院を要する傷害を受けたことを各々認めることができる。

以上の各事実によると、被告浅野は民法七〇九条に基づき、被告会社は民法七一五条及び自賠法三条に基づき、各自、本件事故による原告らの損害を賠償する責任がある。

二  原告甲野花子関係の損害

《証拠省略》によれば、本件事故により、原告甲野花子は請求原因3項(一)(1)記載のとおりの傷病名で、同(2)記載のとおり入通院した事実が認められるので、以下損害額を算定する。

1  治療費

《証拠省略》によれば、同原告は、本件事故による治療費として請求原因3項(二)(1)記載のとおり合計金六五万五五〇〇円を支払った事実が認められるから、右同額の損害を被ったものと認める。

2  付添費

《証拠省略》によれば、原告甲野花子の入院中及び退院直後の付添費として請求原因3項(二)(2)記載のとおり合計金九万三〇〇〇円を親族らに対して支出した事実が認められるが、同原告は柏整形外科病院入院後約一週間で自力でベッドから起きることが可能となったこと、その他同原告の受傷の程度、年令等より付添の必要度を考慮すると、同原告はその内の金五万円を被告らに対し損害として請求できるものと認める。

3  諸雑費

《証拠省略》によれば、原告甲野花子は入院中の諸雑費として請求原因3項(二)(3)記載のとおり合計金二万四九七〇円を支払った事実が認められるが、同原告の年令、傷害の程度等を考慮してこれらは入院諸雑費として一日当り金六〇〇円の限度で損害と認めるのが相当であり(柏整形外科病院における医師・看護婦への謝礼は入院雑費とは別に認容するまでの必要性の立証はないから、入院諸雑費の中に含ませるのが相当である。)、同原告は三〇日間入院したから、前記金額のうち次のとおり金一万八〇〇〇円を被告らに対し損害として請求できるものと認める。

六〇〇円×三〇日=一万八〇〇〇円

4  通院費

《証拠省略》によれば、原告甲野花子の通院費及び同原告入院中の親族の通院費として請求原因3項(二)(4)記載のとおりの金員を支出した事実が認められるから、同原告はその内の金五万円を被告らに対し損害として請求できるものと認める。

5  慰謝料

前記のとおりの本件事故の態様、原告甲野花子の傷害の部位程度、入通院による治療の経過、後遺障害の有無程度、その他後記のとおりの諸般の事情を考慮すると、同原告の本件事故による慰謝料額は金四五万円を相当と認める。

6  物的損害

《証拠省略》によれば、原告甲野花子は、本件事故により請求原因3項(二)(6)記載のとおり物的損害を受けた事実が認められるが、同項記載の各金額は購入時の価格であることや使用期間の長短などを考慮すると、同原告は右合計金六万八三〇〇円のうち金五万円を被告らに対して損害として請求できるものと認める。

7  以上は合計して金一二七万三五〇〇円となるところ、同原告は被告らから金六七万二五九〇円の弁済を受けたことは当事者間に争いがないから残余は金六〇万〇九一〇円である。

8  《証拠省略》によると、原告ら三名は昭和五四年七月一日に原告ら訴訟代理人との間で、着手金二四万円、成功報酬は原告らの受ける経済的利益の一割とする旨の弁護士報酬支払契約を締結した事実が認められるところ、本件事案の内容、審理経過、認容額、その他の事情を考慮すると、原告甲野花子が被告らに対して損害賠償として求め得る弁護士費用相当額は金六万〇〇九〇円を相当とする。

9  以上によれば、原告甲野花子が本件事故により被った損害残額は前記7及び8の合計金六六万一〇〇〇円となる。従って同原告の被告らに対する本訴請求は、右金六六万一〇〇〇円と、その内弁護士費用を除く金六〇万〇九一〇円に対する本件事故発生日である昭和五二年七月二七日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余は理由がない。

三  原告甲野一郎関係の損害

《証拠省略》によれば、本件事故により原告甲野一郎は請求原因4項(一)(1)記載のとおりの傷病名で、同(2)記載のとおり通院した事実が認められるので、以下損害額を算定する。

1  治療費

《証拠省略》によれば、同原告は、請求原因4項(二)(1)記載のとおり本件事故による治療費として合計金五万二二四〇円を支払った事実が認められるから、右同額の損害を被ったものと認める。

2  通院交通費

《証拠省略》によれば、原告甲野一郎及びその付添人の通院交通費として請求原因4項(二)(2)記載のとおり金二万二六二〇円を支出した事実が認められるから、同原告は右同額の損害を被ったものと認める。

3  慰謝料

本件事故の態様、原告甲野一郎の傷害の部位程度、治療の経過、その他後記のとおりの諸般の事情を考慮すると、同原告の本件事故による慰謝料額は金一五万円を相当と認める。

4  物的損害

《証拠省略》によれば、原告甲野一郎は、本件事故により請求原因4項(二)(4)記載のとおり物的損害を受けた事実が認められるが、同項記載の各金額は購入時の価格であることや使用期間の長短などを考慮すると、同原告は右合計金一万九三〇〇円のうち金一万四〇〇〇円を被告らに対して損害として請求できるものと認める。

5  以上は合計して金二三万八八六〇円となるところ、同原告は被告らから金七万二九四〇円の弁済を受けたことは当事者間に争いがないから残余は金一六万五九二〇円である。

6  前記のとおり弁護士報酬支払契約締結の事実及び本件事案の内容、審理経過、認容額、その他の事情を考慮すると、同原告が被告らに対して損害賠償として求め得る弁護士費用相当額は金一万六五九〇円を相当とする。

7  以上によれば、原告甲野一郎が本件事故により被った損害残額は前記5及び6の合計金一八万二五一〇円となる。従って同原告の被告らに対する本訴請求は、右金一八万二五一〇円と、その内弁護士費用を除く金一六万五九二〇円に対する本件事故発生日である昭和五二年七月二七日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余は理由がない。

四  原告甲野春子関係の損害

《証拠省略》によれば、本件事故により原告甲野春子は請求原因5項(一)(1)記載のとおりの傷病名で、同(2)記載のとおり入通院し、同(3)(イ)(ロ)記載のとおりの内容の後遺症がある事実が認められるので、以下損害額を算定する。

1  治療費

《証拠省略》によれば、同原告は、請求原因5項(二)(1)記載のとおり本件事故による治療費として合計金一三七万三一二〇円を支払った事実が認められるから、右同額の損害を被ったものと認める。

2  付添費

《証拠省略》によれば、原告甲野春子入院中の付添費として請求原因5項(二)(2)記載のとおり合計金三五万五二三〇円を支出した事実が認められるから、同原告は右同額の損害を被ったものと認める。

3  諸雑費

《証拠省略》によれば、原告甲野春子の入院中の諸雑費として請求原因5項(二)(3)記載のとおり合計金一八万六三四三円を支出した事実が認められるが、右のうち昭和大学病院関係の医師への謝礼を除いては、同原告の年令、傷害の程度等を考慮して、これらを入院諸雑費として一日当り金一〇〇〇円の限度で損害と認めるのが相当であり、同原告は合計五〇日間入院したから、その合計額は金五万円となり、また昭和大学病院関係の医師への謝礼については、原告ら法定代理人甲野太郎本人尋問(第二回)の結果によれば、同人は原告春子の顔面瘢痕の治療のため形成外科学の権威者である前記医師への紹介を受けて特に受診した事実が認められるから、前記医師への謝礼に要した約金八万円のうち金二万円を損害と認めるのが相当であり、従って、同原告は前記金額のうち次のとおり金七万円を被告らに対し損害として請求できるものと認める。

一〇〇〇円×五〇日+二万円=七万円

4  通院交通費

《証拠省略》によれば、原告甲野春子及びその付添人の通院交通費として請求原因5項(二)(4)記載のとおり合計金七万四七七〇円を支出した事実が認められるから、同原告は右同額の損害を被ったものと認める。

5  逸失利益

《証拠省略》によれば、原告甲野春子は、本件事故により生じた多発性の顔面瘢痕拘縮を治療するため、昭和大学病院形成外科に昭和五二年一二月一九日初診し、昭和五三年三月三日から同月一三日まで入院して同月四日には第一回目の形成外科手術を全身麻酔下で受け、その後、同年八月二二日、昭和五五年四月一四日、同年七月二一日にはいずれも入院せず外来にて第二ないし第四回目の形成外科手術を受けたが、右各手術後の昭和五五年八月一八日付の同病院の診断書によると、同原告の顔面瘢痕の内容は、額の右側の前髪の生え際に横五センチメートル、額の中央に五センチメートルと三センチメートル、額から右の眉毛にかけて三センチメートル、額から左眉毛の下に二センチメートル、左頬に七ミリメートルと五ミリメートル、右頬に三センチメートル二か所など合計二五・二センチメートルの長さの瘢痕であり、また昭和五七年一二月当時の右顔面瘢痕の内容及びその改善の可能性は、前記のとおり、請求原因5項(一)(3)(イ)(ロ)記載のとおりであり、右各瘢痕の長さの合計は二〇・九センチメートルであること、右各瘢痕の表情への影響として著明なひきつれ、神経麻痺はなく、外見上特に目立つのは、右頬部の前記⑥の長さ三センチメートルと⑦の長さ三・五センチメートルの各赤色瘢痕であり、⑦は笑うと陥没すること、その余の瘢痕のうち①の四センチメートルの褐色瘢痕と②の二センチメートルの白色痕坦はいずれも前額部にあり、また⑨の長さ五センチメートルの褐色瘢痕は前髪の生え際に沿った傷であるので、これらはいずれも前髪を下げることにより一応隠すことが可能であり、また③④⑤⑧の各瘢痕はいずれも長さ一センチメートル以下であり、これらは外見上余り目立たぬこと、症状が固定した後である昭和五六年二月の後遺症認定において、右各瘢痕は、自動車損害賠償法施行令別表第七級一二号の「女子の外貌に著しい醜状を残すもの」に該当するとされ、同月二七日に自賠責保険金として金六二七万円が同原告に支払われたこと、右後遺症認定時である昭和五六年二月頃、桃色をしていた瘢痕部分の色彩は、その後半年位を経てかなり元に戻ったがなお完全ではなく、その後は余り変化がないこと、特に右頬の前記⑥⑦の二条の瘢痕は夏に日焼けしたときは余り目立たなくなるが、色が白くなると現在でも紫っぽい赤色になり目立ち、また、前額部の前記①の瘢痕は表面が凸凹した傷で光を当てるとよくわかること、現在に至るも、右瘢痕付近から数度にわたってガラスの破片がニキビのように出てきていること、同原告は小学校入学以来、明るく積極的な性格で元気に通学していたが、小学三年生の夏休み中に本件事故に遭った後は、交友関係が少なくなり、余り人と接触したがらなくなったこと、しかしながら、同原告は本件事故後も、事故による顔面瘢痕を理由に通学を嫌がることなく事故前と同様に通学しており、小学校における成績はおおむね平均以上で、中学校に進学した現在の成績も一クラス四〇数人中一〇番前後であること、中学生である同原告は現在においても友人との交際関係が狭く集団的な生活を嫌う傾向が増えつつあること、同原告の父甲野太郎は会社員であり、両親は同原告を少なくとも短大までは進学させて会社に就職させたいと考えていて、同原告が将来モデル等の女子の美貌を必要とする職業に進む可能性はないこと、を各々認めることができ、他に右認定を左右するに足りる立証はない。

以上の事実によれば、本件事故により、同原告が被った後遺障害である前記顔面瘢痕は、女子の外貌に著しい醜状を残すものであると認めることができ、右顔面醜状が原因で同原告のこれまでの学業成績や運動能力が低下したものとは認められないが、本件事故以来、中学生の現在に至るまで同原告に現われてきた友人との交際関係が狭く、集団的な生活を嫌う傾向は、主に同原告の内向的性格と、小学生後半、中学生という時期的な要因によるものだが、右性格形成に関しては、前記後遺障害が一部影響しているものと認めることができる。

以上を前提に、原告春子が右顔面醜状により労働能力を喪失したものと認めることができるか否かにつき検討するに、一般に女子の外貌醜状が直ちに労働能力喪失に結びつかないとしても、幼児・学生の場合には、成長した後、女子の美貌を必要とする職種への就職が不可能になるばかりか、一般の就職・婚姻等の社会生活において事実上不利益を受ける蓋然性が高いことも否定できず、特に後遺障害である外貌醜状により将来の就職の可能性が障害がない場合と比較して客観的に低下していると認められる場合には、未婚既婚を区別することなく、その程度に応じて一定の割合で労働能力が喪失したものと認め、右労働能力喪失自体を金銭的に評価して後遺障害による逸失利益を算定することが相当である。女児の外貌醜状による将来の労働能力喪失率及び喪失期間の認定が困難であるからといって逸失利益の算定をあきらめ、慰謝料の補完性に多くを期待するのは相当ではなく、労働能力喪失率及び喪失期間の認定にあたり、蓋然性に疑いがもたれる時は、被害者側にとって控え目な数値を採用して、より客観性のある逸失利益額を算出すべきである。

本件の場合、原告春子は八才の時点で前記のとおりの後遺障害を受けたこと、右各瘢痕は、前額部、右頬部、左頬部に九か所にわたって存し、各々の長さは五センチメートルないし〇・六センチメートルでその合計は二〇・九センチメートルに及び、左頬部の瘢痕は目立たぬが、その他の部分の瘢痕は目に付き、特に右頬部の長さ三センチメートルと三・五センチメートルの瘢痕が外見上目立つこと、その他、右後遺障害の将来の改善の可能性、同原告の本件事故後現在に至るまでの学業成績、交友関係を含む広い意味での人格形成状況、家庭環境等を総合考慮すると、同原告は前記外貌醜状により、障害がない場合と比較して将来の就職の可能性が客観的に低下していて、その労働能力の一部を喪失したものと認めることができ、以上の認定に反する被告らの主張は採用することができない。そして同原告の右後遺障害による労働能力喪失率は、前記事実によれば、五パーセントであると認めることが相当で、その喪失期間は、右障害の程度と女児の外貌醜状の特性を考慮すると、同原告の就労可能年令の一八才から四〇才までの二二年間と認めることが相当である。

《証拠省略》によれば、同原告の後遺症状固定時である昭和五六年の賃金センサスによる女子高卒者(パートタイム労働者を除く。)の年間平均給与額は同原告主張どおり金二〇〇万五五〇〇円であると認めることができるから、同原告の前記後遺障害による逸失利益の本件事故発生時の現価は、ホフマン式計算法により中間利息を控除して算定すると次のとおり金一〇八万九〇八六円(円未満切捨)となる。

二〇〇万五五〇〇円×(一八・八〇六→八~四〇才までの三二年間に対応するホフマン係数-七・九四五→八~一八才までの一〇年間に対応するホフマン係数)×〇・〇五=一〇八万九〇八六円

6  慰謝料

本件事故の態様、特に本件事故は本来旅客の運送の安全確保が第一であるべきタクシーの運行に際し、職業運転手である被告浅野の交差点における信号見落しという初歩的かつ重大なる過失により発生したものであること、原告春子の年令、前記のとおりの傷害の部位程度、治療の経過、後遺障害の程度、その他、本件事故当時、前部座席には大人と幼児各一名が乗車したが、後部座席には原告ら三名を含む大人一名と小学生四名の多数の人員が乗車しており、後部最右側の座席に位置していた原告春子が本件事故により一番重大な被害を受けたこと、及び、旅客運送業者である被告らは、乗客である原告らの本件事故による損害賠償請求についての示談交渉につき、解決に向かって積極的な態度で応じたものとは認められないことなど、一切の諸般の事情を総合考慮すると、本件事故により原告春子が被った精神的損害は、入・通院によるもの金一二〇万円、後遺障害によるもの金八三〇万円と認めるのが相当である。

7  物的損害

《証拠省略》によれば、原告甲野春子は、本件事故により請求原因5項(二)(7)記載のとおり物的損害を受けた事実が認められるが、同項記載の各金額は購入時の価格であることや、使用期間の長短などを考慮すると、同原告は右合計金九六〇〇円のうち金七〇〇〇円を被告らに対して損害として請求できるものと認める。

8  以上は合計して金一二四六万九二〇六円となるところ、同原告は被告らから金七八一万一九〇〇円の弁済を受けたことは当事者間に争いがないから残余は金四六五万七三〇六円である。

9  前記のとおりの弁護士報酬支払契約締結の事実及び本件事案の内容、審理経過、認容額、その他の事情を考慮すると、同原告が被告らに対して損害賠償として求め得る弁護士費用相当額は金四六万五七三〇円を相当とする。

10  以上によれば、原告甲野春子が本件事故により被った損害残額は前記8及び9の合計金五一二万三〇三六円となる。従って同原告の被告らに対する本訴請求は、右金五一二万三〇三六円と、その内弁護士費用を除く金四六五万七三〇六円に対する本件事故発生日である昭和五二年七月二七日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余は請求がない。

五  結論

以上のとおりであるから、原告ら三名の被告ら両名に対する本訴各請求は、それぞれ主文第一項記載の限度で正当であるから認容し、その余はいずれも失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 水谷正俊)

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