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千葉家庭裁判所 平成2年(少)4490号 決定 1990年11月16日

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(罪となるべき事実)

少年は、

第1  平成2年7月27日午後1時40分ころ、千葉市○○×丁目×番地○○高等学校南西側遊歩道において、通りかかった女子大生A子(当時19歳)を認めた際、同女に強いてわいせつの行為をしようと考え、後方から駆け足で近づき、いきなり同女の口をハンカチで塞ぎ、その場に引き倒すなどの暴行を加えた上、同女のスカート内に手を入れ、パンツを引き降ろそうとし、もって、強いて同女にわいせつの行為をなし、このときこれらの暴行により同女に対し加療約2週間を要する両側膝関節伸展側部擦過傷の傷害を負わせた、

第2  同年7月31日午後0時35分ころ、同市○○×丁目内国道×××号上り線沿い遊歩道において、自転車で通りかかった女子高生B子(当時16歳)を認めた際、同女に強いてわいせつの行為をしようと考え、後方から自転車で200メートル位追尾し、同遊歩道の千葉市×号街灯付近で、自転車を乗り捨てて同女に追い付き、いきなり同女の背後から同女の口をハンカチで塞ぎ、同女を自転車とともにその場に引き倒すなどの暴行を加えた上、同女の服の上から手で乳房を掴み、そのスカート内に手を入れ、パンツの上から陰部に触り、パンツを引き降ろそうとし、もって、強いて同女にわいせつの行為をなし、このときこれらの暴行により同女に対し加療約1週間を要する右上腕擦過傷、下唇口内炎様潰瘍状創傷及び下顎部擦過傷の傷害を負わせた、

第3  同年8月2日午後1時10分ころ、同市○○×丁目内国道×××号上り線沿い遊歩道の西側入り口付近で、自転車で遊歩道を通っている女子高生C子(当時17歳)を認めた際、強いて同女を姦淫しようと考え、後方から自転車で同遊歩道を暫く追尾し、同遊歩道の途中の千葉市××号街灯付近で、自転車を乗り捨てて同女に追い付き、いきなり同女の背後から同女の口をハンカチで塞ぎ、同女を自転車とともにその場に引き倒して草むらに引きずり込むなどの暴行を加えた上、同女のスカート内に手を入れ、パンツを破って陰部に触れ、強いて同女を姦淫しようとしたが、同女の強い抵抗に会い姦淫の目的を遂げなかったものの、これらの暴行により同女に対し加療約10日間を要する両肘両膝両下腿頭部挫傷の傷害を負わせた、

第4  同年8月2目午後5時20分ころ、同市○○×丁目内国道×××号上り線沿い遊歩道内で、遊歩道西側入り口方向から自転車で同遊歩道に入って来る女子高生D子(当時16歳)を遠くに認め、強いて同女を姦淫しようと考え、同遊歩道の道脇草むらに下半身裸になって隠れ、近づいた同女の前に立ち塞がり、右手で同女の口を塞ぎながら引き倒し、同女の上に跨がり、その着用のベスト及び開襟シャツのボタンを引きちぎってその胸を開け、パンツを引き降ろすなとの暴行を加えた上、乳房及び陰部を弄び、同女に馬乗りとなって自己の陰茎を同女の口に入れるなどして強いて同女を姦淫しようとしたが、同女から懇願されて姦淫を止め、その目的を遂げなかった

ものである。

(法令の適用)

上記第1及び第2の事実について 刑法181条、176条前段

上記第3の事実について 刑法181条、179条、177条前段

上記第4の事実について 刑法179条、177条前段

(処遇の理由)

1  少年は、大手企業の会社員の家庭に成育し、小学校時代から野球に精を出し、昭和63年3月中学卒業時にも野球を続けるため野球名門校に進学し、野球部に入ったものの、怪我が元で1年生の秋に退部し、進路を大学進学に転換し、父の指導で理科系の学級を選び、高い受験目標を掲げつつも、二年生のころには遊び等にも意を用い、女子高生との性交渉を始めたりして楽しく過ごし、必ずしも学業に集中できないでいて、平成2年4月高三に進級してからは真剣さを取り戻し、校外学習にも努めたのに、実力の低迷から抜けられず、自分の学力への失望が深まりながら、両親の期待を先取りした進路志望との格差に悩んでも、誰とも相談することなく、夏休みを迎え、校外講習の日々のなかで、これまで全く非行歴がなかったけれども、暴発的に上記非行の反復に至ったものである。

2  本件各非行は、いずれも、少年が日中単独で、人通りが閑散とは言え公共の場所で、被害者には全く責められる点がないのに、偶々通りかかった女子大生や女子高生を襲い、わいせつの行為又は姦淫目的の行為を連続して実行した重大なものである上、その態様には、ためらいもなく実行に及んでいる無謀な点、自転車で追尾したり、待ち伏せたりした計画的な点及び自転車運転中の被害者をいきなり引き倒すなどの粗暴で危険な点が見られ、しかも、行為内容も行為毎に悪質さを増していて、非行性の進展を窺わせている(本件第3及び第4の非行の翌日にも、本件現場近くでの同種非行を計画し、陰部を露出して自転車に乗っていて、職務質問を受け、第2の非行により緊急逮補されたものであって、犯行反復のおそれもあった。)。

3  その動機や背景について、付添人は、大学受験に関する悩みによりパニック状態にあったため本件各非行に至ったと主張し、少年も調査・審判の段階でこれに添うような供述をするけれども、その言うところの悩みの存在のために上記内容の本件各非行を正当化したり矮小化したりできるものでないことは当然であるばかりではなく、当時女性と性的交渉を含む親しい交際を継続していながら、被害者に対する侵害程度の高い本件のようないわれなき女性への性的攻撃を反復することにより、自己の鬱積を発散させようとした少年の心理機序には軽視できない屈折が窺われる。

4  少年は、一般的にはむしろ知的能力に恵まれている方であるのに、ほぼ順調な成育歴を経由し、一応恵まれた家庭により保護されて来ていて、精神的な逞しさと主体性に欠け、精神的自立や情緒の開発について人格上の問題があるばかりでなく、少年鑑別所の検査結果によれば、意識下でこれまでと違う自分への脱皮を企図していたと認められ、一旦行動に移ると歯止めをなくし自分を統制できなくなる傾向があり、問題の改善がなければ、将来も葛藤の高まりのなかで、同様に逸脱行動に走るおそれがある。

5  両親は、それぞれ概ね健常であり、事件後には被害者らに対する慰謝に努め、被害者2名の保護者より許しを得たほか、少年の更生に熱意を示しているけれども、これまで必ずしも少年の微妙な心情に十分な理解があったとは言い難い上、現在もやや表面的に高校継続にこだわっている。

6  少年の高校では、担任教師のみ少年の事件を承知しているに止まり、真相を知らされておらず、少年への対応が定まっているとは言えない。

以上の諸点のほか、調査記録にある少年の資質、生活定及び家庭等の環境並びに審判に現れた諸事情を総合して、少年の要保護性を検討するならば、少年にはこれまで全く保護処分歴がなく、保護者にも相応の監護意欲が認められるけれども、精神的自立や情緒の開発について人格上の問題がある少年の矯正には、専門的な処遇を要するところ、社会内処遇では、本件発覚後も、高校当局にはことさら真相を告げずにいて、高校卒業と大学受験を当面の主要目標としていた程の保護者及び少年が大筋で目先の進学等の問題に拘泥した従前の生活を続け、少年にこれまでに似た内的葛藤を再現させる公算を否定し難く、また、重大な非行をしたのに今回も両親に保護されて危機から救助されたとの意識を定着させ、両親からの精神的自立を遅らせるおそれもあり、その矯正に十分な効果を期待することができないのであって、この際、少年には、短期間と言えども、集中的な矯正教育を授け、カウンセリングを含むその専門的な生活指導のなかで、ありのままに自分及び事件を直視させて内省を深めさせ、目先にこだわらず腰を据えて自己改革に努めさせ、もって、主体的に自己の将来を判断でき、対等で円満な人間関係を持てるようにする等の社会適応能力を養わせることが少年の真の健全育成のために必要であると認められるので、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項、少年院法2条3項により少年を中等少年院に送致することとする。

なお、少年には、一般短期の処遇過程が相当であるから、少年審判規則38条2項により別途その旨の処遇勧告(編略)をすることとする。

(裁判官 杉山英巳)

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