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千葉家庭裁判所 昭和40年(少)873号 決定 1966年1月22日

少年 S・G(昭二五・二・二六生)

主文

少年を千葉保護観察所の保護観察に付する。

押収してある登山用ナイフ(刃渡り約一一・四糎)一丁(昭和四〇年押第八一号の一)はこれを没取する。

理由

(罪となるべき事実)

少年は千葉県立○○高等学校定時制に一年生として在学していたものであるが、昭和四〇年五月○○日午後五時三〇分頃、同校一年B組教室内において、同級生である千葉県長生郡○○町○○××××番地○川○○二(昭和二四年九月二三日生)が少年が字を書いていた机を押したことから口論となり、次いで両者互に襟首をつかんで押し合つたが授業が始まつたため争いを止めたところ、二時限授業の終つた午後七時頃、○川より「帰りにやるべや」(喧嘩をしようとの意)と告げられ、「今やるべ」と答えて、右教室の廊下において、相互に首を締め合つたが、同校々員に発見制止され、喧嘩を中止して帰宅したものの、○川に対する憤まん抑え難く、翌五月××日午後登校前、○川との喧嘩に備えて茂原市内金物店において、刃渡り約一一・四糎の登山用ナイフ一丁を購入しこれを携帯して登校したところ、同日午後八時五五分頃、授業終了して帰途に就いた際、同市○○×××番地前記学校柔道場西側校庭において、○川と出遇い、同人から「やるべや」と闘争をいどまれたため、ポケット内に隠し持つた右登山用ナイフを取り出し、これにて上半身を突き刺した場合、死に致すことあるを予期しながら○川の左胸部を一回突き刺し、よつて同人に対し全治約六過間を要する左側胸部刺創ならびに同側気血胸の傷害を負わせたが、他人に制止されて殺害の目的を遂げなかつたものである。

(法令の適用)

刑法二〇三条一九九条

(処分の理由)

一  少年は知能は普通級であるが、その割合に学業成績劣悪であり、性格的には自己顕示性著しく、衝動爆発傾向が強い上、気分易変性があつて対人接触に円滑を欠いており、社会適応性に乏しい。

二  本件非行は被害者の桃発に基因することが相当大きいと認められ、少年は近視のため眼鏡を使用していることにより素手の喧嘩を不利と覚り、対抗上携帯していた刃物を使用し、とつさに未必の殺意を生じたものであつて、非行性は未だ深化してはおらず、事件後、被害者に対し、相当の治療費および慰藉料を支払い、示談が成立している。

三  少年は実父と全く親和せず、実母は所在不明で連絡がない。少年の父方の伯父である養父およびその妻である養母は少年の指導、教育に関心を有してはいるが、遠慮勝ちで少年としつくりしないうらみがあつて少年の保護環境は充分ではない。

四  当裁判所は本件につき、昭和四〇年六月一一日、審判を開き、少年を補導委託による試験観察に付し、補導委託施設藤沢不動寮に委託したが、成績は順調であつたので、同年九月一三日、改めて養父母と懇意な間柄であり、少年とも旧知である千葉県山武郡成東町在住の洋傘等製造卸業市原圭に補導を委託し、少年は同家に住み込み右市原方の家業を手伝つていたが、成績概ね良好であり、改悛の情も相当現われて来た。

五  しかしながら本件非行の重大さと少年の性格の偏奇さより見れば、少年に再犯の虞がないとは云い得ないから、今後、他より強大な助言、指導を受けて、始めて大過なき生活を送ることが可能と思われる故、少年を保護観察に付すことが相当である。

よつて少年法二四条一項一号、二四条の二、一項二号、二項少年審判規則三七条一項により主文のとおり決定する。

(裁判官 植田秀夫)

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