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千葉家庭裁判所 昭和61年(少)1439号 決定 1986年5月09日

少年 C(昭○.○.○生)

主文

この事件を千葉県△△児童相談所長に送致する。

この少年に対し、昭和61年5月9日から向う1年間に60日間を限度として、強制的措置をとることができる。

理由

(申請の要旨)

少年は小学生時より車上荒し、恐喝、窃盗を働き度々補導されて来た。母親は監護力に欠けるため、中学校に入学してから家出、無断外泊を繰返し、非行は一層進み家庭における指導は困難な状況にある。他方一時保護中の無断外出も多く教護院生実学校での教護指導も困難であるので、少年に対し180日間を限度として強制的措置をとることの許可を求める。

(当裁判所の判断)

本件申請添付の児童記録の写し及び少年に対する当庁昭和61年少第1792号非現住建造物等放火未遂、窃盗保護事件記録、調査及び審判の結果によると次の事実が認められる。

1.少年の行動の経過

(1)  少年は現在四街道市立○○中学校3年に在学するものであるが、中学校2年時から欠席が多くなり、同学年2学期以降殆んど登校していない。

少年の非行発現はかなり早く、小学校3年の昭和55年5月には兄達と一緒に万引、車上盗を行い千葉県○○児童相談所に係属し、昭和56年9月20日には同じく、兄Aと共に車上盗んで昭和56年12月21日同相談所に通告、昭和57年7月にはやはり兄Aと共に賽銭盗などを繰返し、同年12月1日同相談所に通告され、その都度指導を受けている。

その後現住居へ転居、転校後は特に問題なく中学2年に至つたが同学年1学期ころから怠学が始まり、夏休みには夜遊び、シンナー、自動二輪車の無免許運転を行い、昭和60年9月6日少年が単独で車上盗現金1万8000円を得たのを初めとして、同月15日にはやはり単独で車上盗により現金50万円を得ていずれもこれを費消し、他に友人らとの共犯で車上盗、忍込、オートバイ盗など、9月中だけで計9件の窃盗により○○警察署から同年10月31日上記児童相談所に通告され、同所で指導が開始され、教護院入所の準備中であつた。

(2)  そうした中で、少年は不登校、無断外泊を続けるうち交遊関係にあつた○△中学3年生2名、2年生2名が同校教員の指導に不服をいうのを聞き、少年も同校教員に殴られたことがあつたのを恨みに思つていたところから少年が同中学校に放火をすることを示唆し、その方法としてガソリンを盗んでこれをまいて放火することを提案し、これに同調した他4名と共に昭和61年2月6日午後11時ころ酒店から1.8リットル入り空きびん5本を窃取し、これに駐車中の普通乗用自動車内からガソリンを窃取して入れ、ガソリン入りびん5本を○△中学校に持参し、先づ少年が、校舎廊下にガソリンをまき、他の者も追随してそれぞれガソリンをまき、少年が持参した紙片にライターで点火して、これを放ち、現に人の居住しない○△中学校北校舎を焼燬しようとしたが間もなく通行人に発見され、消防署員により消火されたためその目的を遂げなかつたものである。

少年は上記非行に際し指紋の残ることをおそれて、軍手を使用したり、放火後共犯者に対し、靴跡が残つているから靴の底を削るように申向け、結局焼却させ自己の靴は担任に貰つたものであるところから友人方下駄箱内に置いていたものである。

上記火災により同中学校は廊下床面等約80平方メートルを焦焼し、修理費だけで150万8405円の損害を蒙つている。

(3)  その後少年は同年2月16日午後6時25分には、友人と2人で普通乗用自動車1台を窃取し、2人で交替して乗り廻すうち、被害者らに発見されて捕まつた。

上記児童相談所は同年3月13日少年を一時保護所に入所させたが、同月16日には無断外出し、同月24日○○警察署員に発見されて帰所、しかし翌日無断外出して同月27日、元○○学校生であつたものに付添われて戻つたが同月29日には三度無断外出し、同年4月17日警察官に補導されるまでの間、車上盗などを数回に亘つて行つていた。

2.家庭の保護状況

少年の実父母は実父が○○組等暴力団幹部で昭和52年に殺人未遂、銃砲刀剣類所持等取締法違反により実刑判決を受け服役したことにより昭和54年3月23日協議離婚し、少年及びその兄B(16歳)同A(15歳)とも実母の単独親権となりその監護下にある。実母は昭和55年6月からスナツクを経営し、昭和59年ころ一時これを他人に貸与し、家賃で生活したこともあつたが、昭和60年11月から千葉市内に別のスナツク店を経営し初め現在深夜まで稼働している状況で、母方祖母が同居し、少年らの身の廻りの世話を手伝つているが、家庭の保護能力は稀薄である。

3.資質上の問題点

上記児童相談所の心理判定記録、鑑別結果通知書等を総合すると、少年は資質的には知能準普通級(IQ=82新田中3B式)動作性能力は優れているが言語表現力や推理、判断などの抽象的思考能力は劣つていること、性格的特性は意志欠如性を中核とし、自分の能力や行動に自信が持てず、仲間集団に依存して刺激的で興味本位の生活を求め、その場の雰囲気や仲間の思惑に流され易いなどの問題点が認められる。

以上認定の各事実によると、少年は家庭環境に恵まれず、幼時から基本的躾教育も十分になされないまま、非行学習のみは兄達を通じて早期から体験し、非行抵抗力の乏しい人格が形成されたと考えられる。長ずるに及んで非行内容は悪質化する一方で、テレビなどの影響もあると思われるが、学校放火を容易に企図し、その手段方法、事後の隠蔽工作などは大人も及ばぬ知恵を働かせるところがある一方、結果に対する見通しを欠いた行動を単純な動機で短絡的に行うなど現状では社会的な危険性が窺われる。しかしこの傾向は他の共犯者の存在によつて助長されたところがあり、少年の年齢的、性格的な未熟さによるところも大きく、加齢と適切な教育により除去し得ないものではない。

その資質、年齢、行動傾向に鑑みるとその教育には相当長期を要すると認められるが、今回は教護院において教育するのが相当である。しかし少年の現状では開放施設に直ちに適応することは困離であると考えられるので、落着くまでの間強制的措置をとることが必要であると認める。

その期間については、審判後1年間に60日間を限度とすることとし、これを超えて強制措置を必要とする場合は、その段階で再度申請をし又は犯罪性が尚強度の場合には家庭裁判所に対する虞犯通告等により少年院収容などの司法的措置に委ねるのが相当であると思料する。

よつて少年法23条1項、18条2項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 土井博子)

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