千葉家庭裁判所木更津支部 平成20年(少ハ)2号 決定 2009年1月05日
少年
A (平成○.○.○生)
主文
少年を中等少年院に送致する。
理由
(申請の概要)
少年は,平成19年11月5日,当庁において千葉保護観察所の保護観察に付する旨の決定を受け,一般遵守事項の遵守を指示されたほか,「毎月2回程度担当保護司を訪問すること。保護観察官又は保護司の呼出し又は訪問を受けたときは,これに応じ,面接を受けること。」との特別遵守事項の設定を受けたが,その後,無断で放課後の高校に侵入したり,自宅である県営住宅の部屋の窓や壁を壊したりした上,毎月定期的に保護司を訪問しなかったため,平成20年5月16日,千葉保護観察所長から「善行を保持すること。」との一般遵守事項及び前記特別遵守事項について警告を受けた。しかし,少年は,その後もなお警告に係る遵守事項をいずれも遵守せず,その程度は重く,保護観察によっては少年の改善更生を図ることができないと認められるため,少年を中等少年院に送致することが相当である。
(当裁判所の判断)
1(1) 一件記録によれば,本件申請に至る経緯等について,少年は,1歳の時に父母が離婚し,その後,乳児院,児童養護施設,少年の母方祖父母宅等を転々とするなどその成育環境が不安定であったうえ,小学校のころから,学校内での問題行動や家財の持ち出しなどについて,千葉県○○児童相談所による関与を何度も経てきたこと,少年は,平成19年1月30日,清涼飲料水自動販売機をこじ開けて清涼飲料水等を窃取するなどし,同年5月29日,家裁送致されたが(当裁判所平成19年(少)第206号窃盗,窃盗未遂保護事件),同年9月8日,少年が家出するなどしたため,同月26日,千葉県○○児童相談所長から一時保護を加えられ,さらに,少年が一時保護所から無断外出するなどしたため,観護措置を経た上で,同年11月5日,当庁において,千葉保護観察所の保護観察に付する保護処分を受けたこと,少年は,同保護処分について,一般遵守事項のほか,「毎月2回程度担当保護司を訪問すること。保護観察官又は保護司の呼出し又は訪問を受けたときは,これに応じ,面接を受けること。」などの特別遵守事項の設定を受けて,これら遵守事項を守る旨誓約したこと,少年は,翌年4月ころから,担当保護司の来訪を怠りがちになった上,同年5月7日,少年が通う千葉県立××高校(以下「××高校」という。)の教室に,放課後に通気口から侵入したり,同月16日,少年の母と携帯電話の所持を巡って口論となって,激高して自宅である県営住宅の窓ガラスや壁を壊し,少年の母の通報により駆けつけた○○警察署員に保護されたりしたため,同日,千葉保護観察所長から,「善行を保持すること。」(一般遵守事項)及び前記特別遵守事項について遵守事項を守るよう警告を受け,同日,3か月間の特別観察期間を設定された(なお,同期間は,同年8月15日及び同年11月15日,各3か月間延長された。)こと,少年は,同年5月27日,自宅で同級生らにエーテルを吸わせたところ,そのことが××高校に発覚し,同月28日,停学処分を受けたこと,少年は,同年5月下旬ころから,無断外泊や夜間外出を頻繁にするようになり,担当保護司及び保護観察官らが少年宅を訪問してもベッドから起きず,面接に応じないことが度々あったこと,少年は,同年6月下旬ころ,自宅居室内において,室内に入ってきた蜂を焼き殺そうとして,噴射したスプレーにライターの火を着火させて蜂を追いかけ回すなどして,担当保護観察官から指導を受けたが,その後も室内で蚊取り線香を分解して火を付けるなどの火遊びをしたこと,少年は,同年7月30日,担当保護司及び保護観察官らとの面接を拒否し,生活状況の報告を拒んだ上,夜間外出をするなどしたため,同年8月1日,千葉保護観察所に引致され,同日,更生保護施設○×に委託されて補導援護を実施され,同月9日まで同施設に宿泊したこと,少年は,同日,同施設から帰宅したが,同月10日,放置されていた大型自動二輪車を見つけて横領し,不良仲間とともに,無免許で同自動二輪車を乗り回すなどしたこと,少年は,同月11日,停学中に復学に向けた課題に取り組まず,夜間外出を繰り返していたことなどから,××高校を退学処分となったこと,少年は,前記補導援護実施後も,何度か深夜まで帰宅しないなどの夜間外出をし,同年9月下旬ころには,数日間の無断外泊を繰り返したほか,同年10月以降も少年宅を訪れた担当保護観察官との面談においてまともに応答しないなどの態度をとったり,担当保護司宅の訪問を怠ったりしたこと,少年は,同年10月16日,少年の妹の態度が気に入らなかったことなどから,同女の顔を殴ったり足を蹴るなどの暴行を加え,同女に対し,加療1か月程度を要する右足親指の骨折の傷害を負わせたこと,少年は,同月中旬ころから,アルバイトを始めたが,間もなく無断欠勤を繰り返し,同年11月上旬ころには事実上離職したこと,千葉保護観察所は,同月上旬ころ,少年の前記大型自動二輪車の横領が発覚したことなどから,事実関係を確認の上,同年12月11日,本件申請をしたことがそれぞれ認められる。
(2) 鑑別結果通知書等によれば,少年は,①知的能力に制限がある,②被害感情が強く,母親をはじめとする周囲の指導に反発する傾向が強い,③年齢に比して情緒的に未熟で,不快感情を適切に扱う力が不足している,④不快な場面から逃避する傾向が強いなどの資質上の問題を抱えていること,少年の母は,①少年と同様,被害感情が強く,②児童相談所や学校の対応が少年の母の意向に沿わないと一方的に不満をぶつけて感情的な対応をしたり,担当保護司及び保護観察官に対し,少年の問題行動を一方的に訴えて少年を施設収容するよう求めたりするなど,公的機関等に対して自己中心的な要求を繰り返して協調関係を築こうとしない傾向が強い,③少年に対し,過干渉であったり,感情的に暴言を吐いたりして一貫性を欠く対応をすることが多いなど,その監護能力に大きな問題があること,少年の前記資質上の問題の背景には,上記のような少年の母の問題が大きく関与していると考えられることがそれぞれ認められる。
2 以上のことからすると,少年は,前記警告後も保護観察所から再三かつ段階的な指導を受けたにも拘わらず,担当保護司及び保護観察官との面接を拒否する態度等を改めず,かえって更生保護施設での補導援護実施直後に大型自動二輪車の占有離脱物横領をするなど,保護観察所の指導を軽視する姿勢が顕著であるというべきであるし,上記占有離脱物横領のほか,少年の妹に対する傷害といった明らかな犯罪行為を行っているなど,その遵守事項違反の態様も悪質であって,警告に係る遵守事項違反の程度は重いというべきである。
そして,前記のとおり公的機関による指導を軽視する姿勢が顕著であることに加え,少年の母による監護は全く機能していないといわざるをえないし,少年の度重なる問題行動には,前記少年の資質上の問題がいずれも深く関与していると考えられるのであり,そうすると,少年の抱える問題は,社会内処遇の枠組みによる指導での改善を期待できる範囲を超えた根深いものであるとみるべきであって,保護観察を継続することによっては,少年の改善及び更生を図ることはできないと認めるのが相当である。
3 したがって,少年の更生のためには,少年を施設に収容し,少年の能力及び問題点に即した綿密かつ強力な指導教育を施すことで,少年が健全な社会生活を送るうえで必要な能力を身につけさせることが必要であると考える。
よって,少年法26条の4第1項,24条1項3号,26条の4第3項,少年審判規則37条1項を各適用して,少年を中等少年院に送致することとし,主文のとおり決定する。
(裁判官 玉田雅義)
本件の施設送致申請事件に係る保護観察の決定が更生保護法施行(平成20年6月1日)前であったことから,一般遵守事項は旧犯罪者予防更生法34条2項,特別遵守事項は同法38条1項に基づくものとなっている。