千葉家庭裁判所松戸支部 事件番号不詳 判決
本籍 茨城県石岡市宮下四五三番地
住居 東葛飾郡我孫子町我孫子四三七番地
飮食店営業 堤千代 大正十二年六月二十三日生
主文
被告人を罰金一万円に処する。
被告人において右罰金を完納することができないときは、金二百円を一日に折算した期間労役場に留置する。
訴訟費用は全部被告人の負担とする。
理由
被告人は昭和二十五年五月三十一日から東葛飾郡我孫子町我孫子四三七番地において飮食店千代の家を経営しているものであるが、同店の女中○谷○美○が昭和十四年六月四日生で満十八歳に満たない児童であることを過失により知らないで、同女をして昭和二十九年十二月十六日から昭和三十年五月十二日までの間毎日のように、前記千代の家の店舖二階四畳半の部屋で、氏名不詳の男を相手に四百数十回に亘り淫行をさせる行為をなしたものである。
(証拠の標目)
一、司法警察員作成の昭和三十年五月一日附及び同月十八日附各児童福祉法違反被疑事件についてと題する書面
一、証人○谷○美○の当公判廷における証言及び同人の検察官に対する供述調書
一、○谷○之○の司法警察員に対する供述調書
一、山本松子の司法警察員に対する供述調書
一、押収に係る従業者名簿(昭和三十年領第一号の1)
接客婦歩合帳(同領号の2)従業員手帳(同領号の3)雜記帳(同領号の8)衞生サツク(同領号の7)の存在
一、被告人の当公判廷における供述及び同人の司法警察員に対する昭和三十年五月十六日附同月十九日附並びに検察官に対する同月二十五日附同月三十日附各供述調書
被告人は当公判廷において○谷○美○を雇入れる際、本人が年令は満二十歳で数え年二十一歳であると云つたのでそれを信じていた旨弁解し、従業員名簿にも同人の生年月日を昭和十一年六月二十四日生と記載しているが、被告人の検察官に対する供述調書によれば、○谷○美○が雇つてくれと申込んだ際、私が年令を聞いたところ、昭和十一年生れと答えました。私は本人が左様に申したとき自分の知識や経験から見て、昭和十一年生というのは嘘で、実際はそれよりも年が少く商売をしたいために本当の年をかくして居るのではないかと思つておりました。年令についてはハツキリしたことを知らない儘で雇入れ、客をとらしていたのです。斯様な商売をするところで働く人は、普通の場合年を取つた人は実際よりも年を少く申し、年の少い人は実際よりも多く申します。○谷の様子から昭和十一年生れと云うのは嘘で、実際は昭和十二年生ではないかと思つておりました旨の供述記載がある。このように年令に疑問を生ずるような場合には、宜しく本籍地の市町村役場に問い合せるか、戸籍謄本を取寄せて年令を確かむべきであるにかかわらず、これ等の措置をとらず単に○谷の言を信じていたことは真実の年令を知らなかつたことにつき、被告人に過失があるものといわなければならぬ。
次に被告人は、○谷○美○をして淫行を強要したことはなく、同人が自由意思で客をとつたものである旨主張するが、児童福祉法第三十四条第一項第六号は単に児童に淫行をさせる行為と規定しているのみであるから、児童をして淫行をさせる行為をすれば淫行を強要しなくて、全く児童の任意の意思に基いて淫行したものであつても、同条に該当することは同条の文理解釈上明かであり、又このように解することが同条立法の精神にも合するものと考える。被告人は○谷○美○が淫行をするにあたり部屋寝具を提供し、同女が相手の男性から受取る淫行の代償金を一時預つておき、後日同女との間に協定した五割または六割の割合によつて自己の取得とし、また衞生サツクを常備しておき、同女等の要求によつて売つていたことは被告人の当公判廷において自供するところであり、また証人○谷○美○の当公判廷における証言及び同人の検察官に対する供述調書によつて明かであつて、被告人のそれ等の行為は淫行をさせる行為であると謂わなければならない。
法令の適用
被告人の所為は児童福祉法第三十四条第一項第六号第六十条第一項第三項に該当するから、所定刑中罰金刑を選択し、その金額範囲内で罰金一万円に処すべく、罰金不完納の場合の換刑処分につき同法第十八条第一項第四項を訴訟費用の負担につき刑事訴訟法第百八十一条第一項本文を適用して主文のように判決する。
(裁判官 居森義知)