千葉家庭裁判所松戸支部 平成22年(少)731号 決定 2010年9月01日
主文
少年を医療少年院に送致する。
理由
(非行事実)
少年は,
第1 普通自動二輪車を運転し,平成22年4月16日午後1時00分ころ,信号機による交通整理の行われている千葉県a市b番地c先路上交差点を前車に追従して進行中,前車を追い越すために対向車線に気を取られ,前車の動静注視を怠ったまま,前車を追い越そうと道路右側部分にはみ出した過失により,右折を開始した前車に気付かずに,自車を前車に接触,転倒させ,自車後部に乗車していたAに加療約15日間を要する腰部捻挫等の傷害を負わせた
第2 前記Aと共謀の上,Bから車両を脅し取ろうと企て,同年6月17日午前1時15分ころ,同市d番地e駅ロータリー内において,同人に対し,短刀様のものを突き付けながら,「お前刺し殺すぞ」などと語気鋭く言って脅迫した上,同人が運転する普通乗用自動車に同乗して,同市f丁目g番地h前路上に移動し,同日午前2時15分ころ,同所において,同人に対し,「Cという仲間のことは殺さないでやるから車貸せ」などと語気鋭く言って車両の交付を要求し,この要求に応じなければ,前記Bらの生命,身体等にいかなる危害をも加えかねない気勢を示して同人を怖がらせ,よって,そのころ,同所において,同人から普通乗用自動車1台(時価約75万円相当)の交付を受けてこれを脅し取った
ものである。
(法令の適用)
第1について 刑法211条2項本文
第2について 刑法60条,249条1項
(処遇の理由)
1 本件は,自動二輪車を運転中,不注意な運転をして前車と衝突事故を起こし,自車の同乗者に傷害を負わせたという自動車運転過失傷害1件(判示第1),遊び仲間の共犯少年と共謀して,高校の同級生だった被害者から普通乗用自動車を脅し取ったという恐喝1件(判示第2)の事案である。
2 少年は,平成22年1月ころから,友人らと夜遊びを始め,遊興費や飲食代,ブランド品欲しさから同居していた母方祖母の財布から金銭を盗むようになった。さらに,知人の暴力団員の舎弟を装って祖母に電話をかけ,少年の窮地を訴える話をし,少年の認める限りで合計約2000万円程度の金銭を祖母から騙し取り,素行不良の友人らと共に,キャバクラ(週に5回くらい,1回当たり約10万円程度費消)やデリバリーヘルス(週に3回くらい,1回当たり約2万円費消)などの夜遊びに興じていた。
このような派手な夜遊びを通じていわゆる「大人の世界」を知り,「昔の自分とは違う」と強気な自分を意識していたところ,ふとしたきっかけから,高校生の頃に自分を使い走りにしていた被害者に仕返しをしたいという気持ちが高じた。被害者に電話をかけて脅したところ,被害者の友人から「1人で来て解決しろ。タイマンをはれ」と言われたため,不安を覚え,体格の良い共犯少年を連れて行けば被害者らを威圧できると考えた。そこで,共犯少年に相談し,同人に暴力団のような格好をしてもらい,被害者を呼び出し,判示第2の非行に及んだものである。このような動機及び経緯に何らの酌量の余地はなく,むしろ,自己中心的な少年の性格や,自分を強く見せるために他人を利用する少年の行動傾向が窺えるのであり,情状は悪い。恐喝の態様は,共犯少年をして,短刀様の凶器を被害者に突き付け,さらに,友人のことは殺さないから車を貸せなどと脅迫し,普通乗用自動車を脅し取るというもので,危険かつ粗暴で,悪質である。被害者は,普段から使用していた自動車を脅し取られたのみならず,暴力団風の共犯少年から短刀様のものを突き付けられた際の恐怖感は相当大きいものであり,被害結果は重大である。少年らは,脅し取った自動車でドライブした挙げ句に自損事故を起こし,暴力団からぶつけられた旨嘘を言って,修理することなく被害者に返還しており,行為後の情状も悪い。被害者を脅していたのは主に共犯少年であるものの,少年は,高校生の頃に自分をいじめていた被害者を威圧するために体格の良い共犯少年を利用して本件非行に及んでおり,主犯的な役割を果たしていたのであって,責任は重大である。
次に,判示第1の非行についてみると,前記共犯少年を後ろに乗せて自動二輪車を運転中,前車の速度が遅かったため,エンジンを吹かしてあおっていたが,それでも前車が加速しなかったので,追越し禁止車線にもかかわらず追い越そうと思い,道路の右側部分にはみ出したところ,右折を開始した前車に衝突し,事故を起こしたものである。前車をあおるような運転態度や前車の動静に注意を払わない運転態様は悪質で,交通法規遵守に対する意識が希薄といわざるを得ない。
このような本件各非行内容及びその背景にある少年の生活態度によれば,少年の非行性は相当進んでいるといわざるを得ない。
3 少年は,大地主で暴力団員とのつながりもみられる家系の初孫として,母方祖父などから過度に甘やかされて育っており,甘えや依存心が強く,自己中心的である一方,自分一人では何もできない小心で気弱な性格である。そのため,金銭や他者の力を利用して,自分の手を汚さずに物事を解決しようとする傾向にある。判示第2の非行や母方祖母から多額の金銭を騙し取って遊興費に充てたことは,まさに前記性格,行動傾向の顕れといえる。
少年は,本件で観護措置を取られたことを通じて,このような自分の性格や行動傾向の問題点を意識しつつある。しかし,かかる性格,行動傾向は少年のこれまでの養育環境や生活歴を背景にしたものであり,その更生は容易でない。現に少年は,母方祖母に対する詐欺で伯父に警察署に連行され,公的機関の関与を受けた後も,母方祖母に金を無心して100万円から200万円もの金銭を遊興費に充てたとのことであり,その問題性は相当根深いといわざるを得ない。
4 養育環境についてみると,少年の実母は平成21年1月に死去し,実父は同年8月ころ失踪して親権喪失宣告がなされ,少年は,その後,母方祖母,母方伯父夫婦の監護を受けていた。ところが,少年は,同人らの指導に口答えをして反発したり,母方祖母に対して「くそババア」などと悪態を付くことが多く,さらに,前記のとおり,母方祖母から少年の認める限りで約2000万円を騙し取ったり(なお,母方伯父によれば,より多額の金銭を騙し取っているとのことである),その後も100万円ないし200万円を無心し,遊興費に充てていた。そのため,母方祖母,母方伯父夫婦ともに,少年に裏切られた思いが強く,少年に対して悪感情を有しており,引受けを拒否している状況にある。また,未成年後見人も,適切な社会資源は見当たらないと述べている。このように,現時点では少年を指導,監護する社会的基盤はないが,かかる状況に陥ったのは少年に原因がある。
5 少年にはこれまで非行歴がなく,また,判示第2については被害弁償として100万円を送金するなどの慰謝の措置を講じている。しかし,前記のとおり,少年の非行性は進んでいること,少年の性格,行動傾向上の問題点がこれまでの養育環境や生育歴に根ざしたものであって,その更生は容易でないこと,少年の親族はいずれも引受けを拒否しており,十分な監護環境がないことを考慮すると,社会内処遇は適当ではなく,少年を少年院に収容し,規律ある枠組みの下で,本件非行の重大性を改めて認識させるとともに,本件非行の背景にある少年の性格,行動傾向の問題点を真摯に振り返らせ,更生させる必要がある。
そして,少年の前記問題性は根深いものであること,嘘を付いたりごまかしたりする傾向が強く,表面的な弁解や責任逃れをするばかりで内省が深まりにくいことからすれば,その矯正教育には長期間を要するものと思料される。
なお,少年は現在,左足首を脱臼骨折しており,早急に手術を行う必要があるため,医療少年院に送致し,医療措置終了後に中等少年院に移送するのが相当である。
よって,少年法24条1項3号,少年審判規則37条1項を適用して少年を中等少年院に送致することとし,主文のとおり決定する。なお,訴訟費用は,少年法45条の3第1項,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して,少年に負担させないこととする。
再抗告審(最高(三小) 平22(し)493号 平22.11.15決定 棄却)