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千葉家庭裁判所松戸支部 平成8年(少)1950号 決定 1997年1月22日

少年 T・N(昭和54.5.8生)

主文

少年を医療少年院に送致する。

理由

(罪となるべき事実)

第1  少年は、平成8年10月4日午後2時ころ、千葉県野田市○○××番地○○ハイツ×××号室A方において、同人の所有する米国ドル約235ドル及びファンヒーター等10点(時価合計約2万7400円相当)を窃取した。

第2  少年は、窃盗の目的で、同年12月20日午後零時ころ、前記A方南側ベランダの手すりを乗り越え、同ベランダ内に侵入した。

(法令の適用)

第1の行為 刑法235条

第2の行為 刑法130条前段

(処遇の理由)

本件は、少年が自分が居住するアパート内の別の部屋で窃盗に及んだ事案及び窃盗目的で侵入したものの居住者に発見され、窃盗に着手するに至らなかった事案である。

少年は、中学校時代及び高校時代に何度も校内盗を行っており、平成8年5月に高校を中退した後も、アパート内やアルバイト先で窃盗を繰り返している。その動機はトラブルの相手方に対する報復であったり、金品自体であったりするが、窃盗を繰り返す少年にはこの種の事犯について常習性が認められ、再非行のおそれが大きいといわざるを得ない。

少年の性格には、自己顕示性や自己中心性の強さ、思考の固さがみられ、これが対人トラブルの原因となっている面がうかがわれる。そして、このような性格面の問題が背景となって少年が窃盗を繰り返していることにかんがみると、少年の抱える問題は相当根深いものがあるといえる。

少年は両親との葛藤が激しく、特に母親に対しては暴力を振るうことがある。現在、父親が三重県に単身赴任していることをも併せ考えると、家庭内で少年の指導をしていくことは期待することができず、少年をいったん家庭から切り離した上で双方の関係を調整していく必要がある。

以上のような諸事情を総合すると、少年が観護措置中に自己の問題点に気づき始めていることを考慮しても、少年の更生のためには、少年を矯正施設に収容し、統制された場所で情緒面の安定を図り、専門家による系統的な教育を受けさせるのが最も適切である。なお、少年には側頭葉てんかんが認められるので、その治療及び経過観察の必要性などから、当面は医療少年院で処遇を行うべきであるが、医療措置を優先させる必要がなくなった後は、適正な対人関係を学習するためにも、すみやかに中等少年院へ移送することが適当である。

よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して少年を医療少年院へ送致することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 地引広)

〔参考1〕処遇勧告書<省略>

〔参考2〕抗告審(東京高 平成9(く)19号 平9.2.7決定)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、少年作成名義の抗告申立書に記載されたとおりであるから、これを引用する。

所論は、要するに、医療少年院送致の原決定の処分は重過ぎて著しく不当であるというのである。

そこで、検討するに、本件は、少年が肩書居住地のアパートの二軒隣りの住人方で米国ドル約235ドル及びファンヒーター1台外9点(時価合計約2万7400円相当)を盗み、また、その約2月半後に再び同人方から物を窃取する目的で同人方ベランダに侵入したという事案である。少年は、本件以前には、原付自転車の占有離脱物横領の非行により審判不開始(保護的措置)とされたことがあるに過ぎないが、本件各非行の態様をみると、右アパートで一人住いを始めて間もなく、寒い季節になってストーブがほしいと思い、大胆にも同じアパートの住人方からファンヒーター等を窃取し、また、自室のベランダで日当ぼっこをしていてにわかに同人方に盗みに入ろうと決意し、指紋を残さないための手袋をした上、ベランダ伝いに同人方に侵入し、たまたま同人が帰宅して発見されたために逃走したというものであり、それ自体、非行が一時的単発的なものではないことを窺わせる。また、これまでの少年の生活史をみても、少年は、中学時以降、対人関係のトラブルからその腹いせに相手の物を取って困らせて自分の気持ちを発散させることを頻繁に繰り返し、最近もアルバイト先において同様のことを続けており、この間、次第に金銭目的又は物品目的の行為が多く出現する状況になっており、著しい盗癖が認められる。また、少年の性格には偏りが窺われ、自己の抱える問題点に対する認識も十分でない。以上の事情に照らすと、少年の要保護性はかなり高いというべきである。ところが、少年の両親は健在であるものの、少年との葛藤が強く、父親が現在単身赴任中で、母親が少年の暴力もあって指導力を失っている状況にある。したがって、両親に少年の適切な監護を期待することはできず、他に有効な社会資源もない。そうすると、少年の要保護性は在宅保護の限界を超えていると認めざるを得ないから、この際、統制された場所で情緒面の安定を図り、専門家による系統的な教育を受けさせる趣旨の下に少年を医療少年院(原決定記載のとおり、少年にてんかんの持病があるために、その治療及び経過観察をする必要性が考慮されたためである)に送致した原決定の処分は、やむを得ないものであり、これが著しく不当であるとはいえない。論旨は、理由がない。

よって、少年法33条1項、少年審判規則50条により本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 香城敏麿 裁判官 坂井満 佐藤公美)

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