名古屋地方裁判所 平成元年(ワ)3043号 判決 1990年12月26日
原告
林昭子
ほか一名
被告
草深久雄
ほか一名
主文
一 被告らは、原告林昭子に対し、連帯して、金三四二万五八六七円及びこれに対する昭和六三年一一月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告らは、原告林米次郎破産管財人岩崎光記に対し、連帯して、金三一二万五八六七円及びこれに対する昭和六三年一一月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、これを三分し、その一を被告らの、その余を原告らの負担とする。
五 この判決は、第一、第二項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 被告らは、原告林昭子に対し、連帯して、金九七二万七六二〇円及びこれに対する昭和六三年一一月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告らは、原告林米次郎破産管財人岩崎光記に対し、連帯して、金八七二万七六二〇円及びこれに対する昭和六三年一一月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、原告らが、左記一1の交通事故(以下「本件事故」という。)の発生を理由に、被告草深久雄(以下「被告草深」という。)に対し民法七〇九条により、被告有限会社永和運輸(以下「被告会社」という。)に対し、自賠法三条及び民法七一五条により、損害賠償請求をする事案である。
一 争いのない事実
1 交通事故
(一) 日時 昭和六三年一一月一五日午後九時三九分ころ
(二) 場所 一宮市丹陽町九日市場字六反農四四九番地先路上のT字路交差点(以下「本件交差点」という。別紙図面参照)
(三) 加害車 被告草深運転の大型貨物自動車
(四) 被害車 亡林直樹(以下「亡直樹」という。)運転の原動機付自転車
(五) 態様 被告草深が加害車を運転して本件交差点を稲沢市方面から一宮インターチエンジ方面へ左折中、国道二二号線を丹陽町伝法寺方面から一宮インターチエンジ方面へ向けて直進してきた亡直樹運転の被害車が転倒し、そのはずみで路上に投げ出された亡直樹が滑走後右加害車の後輪で轢過された。
(六) 結果 本件事故により、亡直樹は、翌一六日出血性シヨツク等により死亡した。
2 責任原因
被告草深は、本件交差点内を自動車運転者として左折する場合、右方より接近して来る車両の有無を確認して事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるにもかかわらず、これを怠つた過失により、本件事故を発生させ、亡直樹を死亡に至らしめたるものであるから、民法七〇九条により損害賠償責任がある。
被告会社は、加害車を自己のために運行の用に供するものであり、また本件事故は、被告会社の被用者である被告草深が同会社の業務の執行中に発生させたものであるから、被告会社は民法七一五条により損害賠償責任を負う。
3 権利の承継
原告林昭子、訴外林米次郎は、亡直樹の両親であつて、右両名のみが同人の相続人であり、同人の被告らに対する損害賠償請求権を、それぞれ二分の一ずつ相続した。
なお、訴外林米次郎については、昭和六三年一一月二二日に名古屋地方裁判所一宮支部において破産宣告がなされ、同日弁護士岩崎光記が破産管財人に選任された。
二 争点
被告は、本件事故による損害額を争う(特に原告ら主張の、アルバイト収入による逸失利益、大学卒業を前提とする過失利益を争う。)ほか、原告にも制限速度遵守義務違反及び前方注視義務違反の過失があるとして、過失相殺の抗弁を主張している。
第三争点に対する判断(成立に争いのない書証、弁論の全趣旨により成立を認める書証については、その旨記載することを省略する。)
一 損害額
1 修理代(請求も同額) 五万円
甲四によれば、右金額を認めることができる。
2 治療費(請求も同額) 一七万二七七〇円
甲三によれば、右金額を認めることができる。
3 葬儀費用(請求も同額) 九〇万円
弁論の全趣旨により、本件事故と相当因果関係にある葬儀費用としては、右金額をもつて相当と認める。
4 逸失利益(請求二九〇三万二八八九円) 二二七八万二三〇三円
(一) 甲五、乙一〇及び原告林昭子本人によれば、亡直樹は、事故当時一六歳で、名城大学付属高校(以下「名城高校」という。)機械科に在学中であつたことが認められる。
ところが、原告らは、亡直樹の逸失利益について、亡直樹は大学へ進学する予定であつたから、大卒男子の賃金センサスをもとにこれを算出すべきである旨主張する。
しかしながら、希望する者がすべて大学へ進学するとは限らない現状に鑑み、被害者が加害者に対し、大学へ進学することを前提に損害賠償請求をなしうるためには、大学進学への相当程度の蓋然性を必要とするものと解すべきところ、乙一五の一ないし三、原告林昭子本人及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。
亡直樹の父訴外林米次郎及び母原告林昭子としては、亡直樹を大学に進学させたいとの希望を持ち、同人の将来を期待しており、亡直樹は将来エンジニアとなつてホンダ技研に就労することを夢見ていた。ところが、亡直樹が死亡するまで通学していた名城高校機械科から大学への進学状況は、昭和六三年には四年制の昼間の大学には三名が、夜間大学には五名が(昼間、夜間、大学・短大不明が三名)、平成元年には四年制の昼間の大学には六名が、夜間大学には九名が(昼間、夜間、大学・短大不明が二名)、平成二年には四年制の昼間の大学には二名が、夜間大学には五名、短期大学には一名が進学しているにすぎない(なお、亡直樹の高校一年一学期の成績は、一一一人中二二番ないし三八番であつた。)。
また、本件事故当時、亡直樹の父訴外林米次郎が破産宣告を受けており、林家の生活状況はやつと食べていける程度で、かつ、畜えは母原告林昭子が少しもつている程度であり、亡直樹の祖父母等からの経済的援助についての話も、なお具体性に欠けるものであつた。
以上の事実を総合して判断すれば、亡直樹が大学へ進学する相当程度の蓋然性を認めるには不十分であり、むしろ、これを否定的に解さざるを得ない。
(二) そうすると、亡直樹の死亡による逸失利益の算定の基礎は、昭和六三年度賃金センサス第一巻第一表、企業規模計、産業計、新高卒の一八歳ないし一九歳男子労働者の平均賃金(年間一九七万〇六〇〇円)をもつてするのが相当である。
弁論の全趣旨によれは、亡直樹は、本件事故がなければ一八歳から六七歳まで四九年間就労可能であり、同人の生活費は収入の五〇パーセントと推認されるから、新ホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して同人の死亡による逸失利益の現価を算定すると、次の計算式のとおり二二七八万二三〇三円となる。
1,970,600×(1-0.5)×(24.9836-1.8614)=22,782,303
(三) 次に、原告らは、亡直樹は本件事故当時アルバイトをしていたのであるから、在学中のアルバイトで得ることができた収入を逸失利益として算入すべきである旨主張する。
甲二、原告林昭子本人及び弁論の全趣旨によれば、本件事故当時、亡直樹は、本件事故の二〇日前より運輸会社の構内作業員として、夜間のアルバイトに行つており、一日平均三一〇〇円の収入を得ていたことが認められる。
もつとも、右程度の金額であれば、本人が大部分を生活費として費消することも考えられるほか、母である原告林昭子は、亡直樹に対して、アルバイトはやめたほうがよいと言つていたことが認められ、亡直樹が在学期間中アルバイトを継続した蓋然性を認めるに足りる的確な証拠もない。
したがつて、アルバイト収入に関する原告らの前記主張は採用することができない。
5 慰謝料(請求二〇〇〇万円) 一八〇〇万円
本件事故の態様、結果、亡直樹の年齢、親族関係その他諸般の事情を考えあわせると、亡直樹の死亡に対する慰謝料額は一八〇〇万円が相当と認められる。
6 合計 四一九〇万五〇七三円
二 過失相殺
1 甲五、六、九、乙一、三、九、一一、一二、一四及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。
(一) 本件事故現場の状況は、別紙図面に記載のとおりである。
本件事故現場は、東から西に通じる幅員約七ないし八メートルのアスフアルト舗装道路(以下「東西道路」という。)と、南から北に通じる幅員約五・七メートルのアスフアルト舗装道路(以下「南北道路」という。)がT字型に交差する本件交差点内である。東西道路は制限速度が四〇キロメートル毎時に指定され、南北道路の本件交差点南側の端には一時停止の道路標識が設置されており、交通を規制する信号機は設置されていない。また、南北の道路の南側から北側へ向つて右側の見通しは悪い状況にあつた。
(二) 被告は、別紙図面記載のとおり、本件事故当時仕事のため加害車を運転し、南北道路を南から北に向つて進行し、東西道路に左折するため、本件交差点の手前において一時停止したが、その際、東西道路を東から西へと進行してきた自動車一台を通過させたことに気を許し、右側の安全を十分に確認しないまま左折進行した。
他方、亡直樹は、被害車を運転して東西道路を東から西へ時速約五〇キロメートルの速度で、前方を十分注視せずに進行してきたところ、本件交差点直前に至つてようやく本件交差点を左折しつつある加害車の存在に気づき、急ブレーキをかけたため被害車と共に転倒し、転倒後滑走し、加害車の右前輪と後輪の間に転がりこみ、右後輪によつて轢過された。
2 右の事実によれば、被告は、加害車を運転し、南北道路から東西道路に左折するに際し、本件交差点の手前で一時停止をした後、右側の交通の安全を確認すべき注意義務があるのに、東西道路を東から西へ進行してきた自動車一台を通過させたことに気を許して、右側の交通の安全を確認しないまま左折進行した過失が認められ、また、亡直樹は、制限速度を超える速度で被害車を運転し、かつ運転中は絶えず前方を注視し、進路の安全を確認して進行すべき注意義務があるのにこれを怠つた過失が認められる。
3 そして、双方の過失の内容、程度を対比し、加害車が大型貨物自動車であるのに対し、被害車が原動機付自転車であることをも考慮すると、原告らの損害額から過失相殺により二五パーセントを減額するのが相当である。
したがつて、前記損害額合計四一九〇万五〇七三円について二五パーセントを減額すると、残額は、三一四二万八八〇四円となる。
三 損害のてん補 二五一七万七〇七〇円
前項の金額から、原告らが損害の填補として受領した右金員(当事者間に争いがない。)を控除すると、残額は六二五万一七三四円となる。
したがつて、原告らは、それぞれその二分の一にあたる三一二万五八六七円の損害賠償債権を相続により取得したことが認められる。
四 弁護士費用(原告林昭子の請求一〇〇万円) 三〇万円
原告林昭子が被告に対し、本件事故と相当因果関係にある損害として賠償を求め得る弁護士費用は、本件事故時の現価に引き直して三〇万円と認めるのが相当である。
五 結論
1 以上によれば、原告林昭子の請求は、被告らに対し、連帯して三四二万五八六七円及びこれに対する本件事故の日である昭和六三年一一月一五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
2 また、原告林米次郎破産管財人岩崎光記の請求は、被告らに対し、連帯して三一二万五八六七円及びこれに対する右同日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
(裁判官 芝田俊文)