名古屋地方裁判所 平成10年(ワ)1607号 判決 1999年1月27日
原告
安野和夫
ほか一名
被告
高川明
ほか一名
反訴原告
株式会社油研
反訴被告
安野和夫
ほか一名
主文
一 被告らは、各自原告ら各自に対し、金一六〇万九七五八円及びこれに対する平成九年六月一九日から完済まで年五分の割合による金員を各支払え。
二 原告らは、各自被告会社に対し、金五二万九七〇六円及びこれに対する平成九年六月一九日から完済まで年五分の割合による金員を各支払え。
三 原告らのその余の請求、被告会社のその余の反訴請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、本訴反訴を通じてこれを一〇分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告らの負担とする。
五 この判決は第一、二項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
(本訴)
被告らは、各自原告ら各自に対し、金二〇〇〇万円及びこれに対する平成九年六月一九日から完済まで年五分の割合による金員を各支払え。
(反訴)
原告らは、各自被告会社に対し、金五七万七八六一円及びこれに対する平成九年六月一九日から完済まで年五分の割合による金員を各支払え。
第二事案の概要
本件は訴外亡安野和仁(以下「亡和仁」という。)運転車両と被告高川運転車両との間の交通事故によって亡和仁、被告会社が被った損害につき亡和仁の相続人である原告らが民法七〇九条、七一五条に基づき(ただし内金請求)(本訴)、被告会社が民法七〇九条に基づき(反訴)それぞれ相手方に対し損害賠償請求をした事案である。
一 争いのない事実
1 事故(以下「本件事故」という。)の発生
(一) 発生日時 平成九年六月一九日午後三時一〇分ころ
(二) 発生場所 名古屋市南区丹後通四丁目二五番地先路線上(国道二三号線)
(三) 第一車両 大型貨物自動車(岐阜一一け七二〇一号)
運転者 被告高川
(四) 第二車両 普通乗用自動車(名古屋七七ゆ四一九二号)
運転者 亡和仁
(五) 事故の態様 南北方向の道路とほぼ東西方向の道路との交差する信号機の設置された交差点(以下「本件交差点」という。)において南方から北方に進行してきた第一車両と北方から西方に右折進行してきた第二車両とが衝突した。
2 被告高川の過失、事故の経緯
本件交差点は道路標識によりその最高速度が五〇キロメートル毎時と指定されていたのであるから、右最高速度を遵守するはもとより前方左右を注視し進路の安全を確認しながら進行すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、前方及び右方の注視不十分のまま漫然時速約九〇キロメートルの速度で第一車両を進行させたため、折から対向右折してきた第二車両を前方約二三・七メートルの地点に迫って初めて発見し、急制動及び左転把の措置を講じたが及ばず第一車両前部を第二車両左側面に衝突させて第二車両を北方に押して進行した。
3 被告らの責任
被告高川は前記過失があったから民法七〇九条に基づき責任を負い、被告会社は、その事業の執行につき従業員である被告高川が第一車両を運転したことにより本件事故を生じさせたのであるから民法七一五条に基づく責任を負う。
4 亡和仁の傷害、死亡
亡和仁は本件事故により頭部打撲の傷害を負い、平成九年六月二〇日午後〇時二三分ころ右傷害による急性脳腫脹により死亡した。
5 原告らの相続
原告和夫は亡和仁の父、原告朝子は亡和仁の母で、亡和仁の相続人はその両親である原告らであり、相続分は各二分の一である。
6 治療費等
亡和仁の治療費等として合計六九万八一五〇円を要し、右は全額原告ら側が支払った。
7 既払金
本件につき自賠責保険金が三〇六九万八一五〇円支払われ、原告らは各二分の一を取得した。
二 争点
1 事故の態様及び亡和仁の過失の有無、程度、過失相殺
2 損害額
第三争点に対する判断
一 争点1について
前記争いのない事実及び証拠(甲一の2、乙一ないし三、原告安野和夫本人)によると、以下の事実が認められる。
1 本件交差点の南北方向道路は片側四車線で、信号機が設置されており、本件事故当時は南北方向道路側が青色信号となっていた。そして、その信号サイクルは、青色の次に黄色をはさんで右折矢印となり、再度黄色をはさんで赤色となるというものであった。
また南北方向道路の制限速度は五〇キロメートル毎時であった。
2 亡和仁は、南北方向道路を南に進行してきたが、本件交差点で右折するため最も中央分離帯よりの右折車線で第二車両を停止させた。そして対向する北進車線の車両がとぎれるのを待っていたが、一旦とぎれた状態となったことから、右折できるものと判断して右折を開始した。
3 被告高川は、南北方向道路を北進中、前車、後車がいなかったこと、本件交差点の信号が青色信号となっていたこと等から、時速約九〇キロメートルの速度で第一車両を進行させた。そして本件交差点直前で、前方約二三・七メートルの地点に対向右折している第二車両を発見し、直ちに急制動及び左転把の措置を講じたが回避できず、第一車両前部を第二車両左側面に衝突させ、第二車両を約二七・三メートル北方に押して進行した。
以上のとおり認められる。
そして右によると、被告高川は、制限速度を四〇キロメートルも超える高速で第一車両を運転し、前方の注視も怠ったというものであるから、その過失は明らかといわねばならない。しかし、亡和仁も本件交差点で右折を試みたもので、その際には、対向直進する北進車両の有無、動静に十分な注意を払い、その進路を妨害してはならないことは当然であり、また、前記のとおり本件交差点には右折矢印信号も設置されており、亡和仁としては場合によっては右折矢印信号が表示されるまで待機することも可能であった。そして本件のような事故が発生したことからすると、亡和仁において、第二車両を発見しなかったのか、発見していてもその速度を誤認して右折を開始、継続したものと認められ、この点に過失があったというべきである。
そして右のような双方の過失の内容のほか、衝突部位等からすると第二車両はいわゆる既右折状態に近い状態にあったと評価することも可能な状態にあったこと等を考慮すると、本件事故については被告高川に四五パーセント、亡和仁に五五パーセントの過失があったものと認め、後記原告ら、被告会社の各損害について、右割合の過失相殺がされるのが相当である。なお原告らは、被告らの契約する保険会社が本訴提起前の示談交渉の段階で双方の過失を五〇パーセントであるとしたこと(甲九)をもって、本件での過失相殺は右割合によるべき旨を主張するが、前記認定の事実に照らし採用できない。
二 争点2について(原告ら分)
1 治療費(請求額同じ) 六九万八一五〇円
前記のとおり、亡和仁の治療費として頭書金額を要し、右は全額原告ら側が支払ったことは当事者間に争いがない。
2 葬儀費(請求額同じ) 一二〇万円
証拠(甲三の1ないし11)及び弁論の全趣旨によると、原告らは亡和仁の葬儀費として頭書金額を超える金額を支出したこと、原告らはそれぞれその二分の一を負担したことが認められるが、うち被告らが負担すべき金額は頭書金額をもって相当とする。
3 逸失利益(請求額七二二五万〇八八七円) 五一六〇万七七七六円
証拠(甲四、五の1ないし17、六、七、八の1、2、原告安野和夫本人)及び弁論の全趣旨によると、原告らは離婚し、亡和仁は母である原告朝子及び弟と同居していたこと、亡和仁は本件事故当時二三歳で株式会社豊田自動織機製作所に勤務しており、事故前年の平成八年の年収は四四〇万〇一六七円であったこと、ところで同社においては、平成八年、平成九年にそれぞれ賃上げがあり、これによると平成九年の亡和仁の年収は少なくとも四五〇万二七〇七円となることが認められる。
そこで右金額を基本とし、生活費として五〇パーセントを控除し(原告らは生活費控除率を三〇パーセントとすべきである旨を主張するが、採用できない。)、六七歳までの四四年間につき年五分の新ホフマン式係数を用いて算出すると頭書金額となる。
4,502,707×(1-0.5)×22.9230=51,607,776
4 死亡慰謝料(請求額二五〇〇万円) 二一〇〇万円
本件事故に基づく亡和仁、原告ら遺族の苦痛を慰謝するには頭書金額をもって相当とする。
5 物損(請求額同じ) 二〇万円
証拠(乙一)及び弁論の全趣旨によると、本件事故により第二車両は全損となり、その損害額は頭書金額となったことが認められる。
6 合計(請求額九九三四万九〇三七円) 七四七〇万五九二六円
以上の合計は頭書金額となり、原告らはその各二分の一を相続した。
7 過失相殺
前記のとおり原告らの損害については五五パーセントの過失相殺がされるべきである。
74,705,926×(1-0.55)=33,617,666
8 弁護士費用(請求額三〇〇万円) 三〇万円
本件事案の内容、認容額等考慮すると、これに対する弁護士費用は頭書金額をもって相当とし、原告らはその各二分の一を負担する。
9 既払金(被告ら主張額同じ) 三〇六九万八一五〇円
前記のとおり本件につき頭書金額の自賠責保険金が支払われ、原告らが各二分の一を取得したことは当事者間に争いがない。
10 総合計(請求額原告ら各自につき二〇〇〇万円(内金請求))
原告ら各自につき一六〇万九七五八円
以上の総合計は頭書金額となる。
三 争点2について(被告会社分)
1 第一車両修理費(請求額同じ) 一八二万二二五六円
証拠(乙四)及び弁論の全趣旨によると、本件事故による第一車両の修理費は頭書金額を要したことが認められる。
2 レッカー代(請求額同じ) 一〇万三九五〇円
証拠(乙四)及び弁論の全趣旨によると、本件事故による第一車両のレッカー代は頭書金額を要したことが認められる。
3 合計(請求額同じ) 一九二万六二〇六円
以上の合計は頭書金額となり、原告らはその各二分の一を相続した。
4 過失相殺
前記のとおり被告会社の損害については四五パーセントの過失相殺がされるべきである。
1,926,206×(1-0.45)=1,059,413
第四結論
よって、原告らの本訴請求は被告ら各自に対し、原告ら各自につき損害金一六〇万九七五八円及びこれに対する本件事故日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、被告会社の反訴請求は原告ら各自に対し、損害金五二万九七〇六円及びこれに対する本件事故日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度でそれぞれ理由があるからこれを認容し、その余の本訴、反訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条、六四条、六五条を、仮執行の宣言につき同法二五九条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 北澤章功)