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名古屋地方裁判所 平成10年(ワ)172号 判決 2000年1月19日

本訴=原告

丸正クレーン作業株式会社

被告

西濃運輸株式会社

ほか一名

反訴=原告

西濃運輸株式会社

ほか一名

被告

丸正クレーン作業株式会社

ほか一名

主文

一  本訴原告・反訴被告会社の請求を棄却する。

二  本訴原告・反訴被告会社及び反訴被告鈴木は、本訴被告・反訴原告会社に対し、各自金三二八万八二五三円及び内金三〇三万八二五三円に対する平成九年六月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  本訴原告・反訴被告会社及び反訴被告鈴木は、反訴原告引地に対し、各自金二六万八九一五円及び内金二一万八九一五円に対する平成九年六月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  本訴被告・反訴原告会社及び反訴原告引地のその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は、本訴原告・反訴被告会社及び反訴被告鈴木の負担とする。

六  この判決は、第二項及び第三項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  本訴

本訴被告両名は、本訴原告に対し、各自八二万一一九五円及びこれに対する平成九年六月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴

1  反訴被告両名は、反訴原告会社に対し、各自金五五五万二二七八円及び内金五三〇万二二七八円に対する平成九年六月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  反訴被告両名は、反訴原告引地に対し、各自金四一万八六五六円及び内金三六万八六五六円に対する平成九年六月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、反訴被告鈴木(以下「鈴木」という。)と本訴被告本郷(以下「本郷」という。)との間の交通事故について、本訴原告・反訴被告会社(以下「原告会社」という。)が、本郷に対しては民法七〇九条に基づいて、また、本訴被告・反訴原告会社(以下「被告会社」という。)に対しては民法七一五条に基づいて、それぞれ損害の賠償を請求した事案(本訴)と、被告会社及び反訴原告引地(以下「引地」という。)が、鈴木に対しては民法七〇九条に基づいて、また、原告会社に対しては民法七一五条に基づいて、それぞれ損害の賠償を請求した事案(反訴)である。

一  争いのない事実又は括弧内の証拠等により容易に認定することができる事実

1  本件事故の発生

平成九年六月二〇日午後八時五五分ころ、愛知県小牧市中新町三三番地先の信号機により交通整理の行われていない丁字形交差点(以下「本件交差点」という。)において、鈴木が運転する大型特殊自動車(以下「原告車」という。)と、本郷が運転し引地が同乗する大型貨物自動車(以下「被告車」という。)とが衝突した(争いがない。)。

2  原告会社

原告会社は、原告車の所有者である。鈴木は、本件事故当時、原告会社の従業員として、原告会社の業務を執行中であった(争いがない。)。

3  被告会社

被告会社は、被告車の所有者である。本郷は、本件事故当時、被告会社の従業員として、被告会社の業務を執行中であった(争いがない。)。

4  本件事故による引地の受傷と受けた治療

引地は、本件事故により、頭部挫傷、右膝挫傷、頸部捻挫、右膝擦過傷の傷害を負い、平成九年六月二〇日小牧市民病院において救急治療(一日)、同月二一日から同年七月七日まで大原総合病院附属大原医療センターにおいて通院治療(実通院日数五日)を受けた(乙九号証の一、弁論の全趣旨)。

二  争点

1  本件事故の態様と、鈴木及び本郷について過失の有無、過失相殺

2  損害額

(原告会社の主張)

原告会社は、本件事故により、原告車の修理代として八二万一一九五円の損害を被った。

(被告会社及び引地の主張)

被告会社及び引地は、本件事故により、以下のとおりの損害を被った。

(一) 被告会社の損害

(1) 修理費用 二三四万二七九八円(争いがない。)

(2) 休車損害 二八八万九〇二五円

本件事故の直近三か月から算出した一日あたりの利益(売上-人件費・燃料費等の経費)一一万五五六一円の実修理日数二五日分

(3) レッカー代 七万〇四五五円

被告車の修理をした岐阜日野安八総合センターまで、被告会社小牧支店から被告車をレッカー牽引するのに要した。

(二) 引地の損害

(1) 治療費 五万七九一五円

(2) 通院交通費 二〇〇〇円

大原総合病院附属大原医療センターへの通院五日につき、片道二〇〇円として算出。

(3) 休業損害 一四万八七四一円

引地は、本件事故による受傷とその治療のため、やむなく年次有給休暇九日を使用したので、本件事故の直近三か月間の給与合計一四八万七四二〇円を基礎として算出。

(4) 慰謝料 一六万円

第三争点に対する判断

一  争点1について

1  証拠(甲一号証から三号証まで、四号証の一から三まで、五号証から七号証まで、乙一号証の一から五まで、三号証から五号証まで、一二号証の一から一七まで、反訴被告鈴木正明本人、本訴被告本郷武本人)によれば、前記争いのない事実等に加えて、以下の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

本件交差点は、東西に延びる国道一五五号線に、北方(村中方面)から南方に延びる道路(以下「本件脇道」という。)がほぼ垂直に交わる丁字形交差点である。国道一五五号線の東進方向車道は、第一車線の幅員約三・〇メートル、第二車線の幅員約四・七メートルの二車線であり、車道の北側には幅員約二・〇メートルの歩道が設けられており、歩道から約〇・七メートルの地点に車道外側線が引かれている。国道一五五号線の最高速度は、五〇キロメートル毎時に制限されており、駐車禁止、転回禁止の規制がなされている。国道一五五号線の東進車線から本件脇道の見通しは不良である。本件脇道は、歩車道の区別のされていない中心線の引かれていない道路であり、両側にそれぞれ幅員約〇・五メートルの路側帯が設けられている。本件脇道から国道一五五号線に進入するに際しては一時停止の規制がなされている。本件脇道から国道一五五号線の東進車線の見通しは不良である。本件交差点は、市街地に位置しているが、街路灯はなく暗い状況である。

原告車は、幅約三・〇〇メートル、高さ約三・七八メートル、長さ約一二・六一メートル、車両総重量約三七・六一〇トン、最大軸重約一八・七六〇トンの大型特殊自動車である。原告車のような特殊車両については、道路の保全と共に交通の危険の防止を確保するために道路の通行が制限されており、道路を通行する場合には、道路管理者による許可を得ることが必要であるが、原告車は、本件事故当時、何らの通行許可も得ていなかった。なお、原告車は、本件事故のころ、平成八年四月三日(同年一〇月九日更新)、平成九年七月八日の二回通行許可を得ているが、いずれの許可も午後九時から午前六時までのもので本件事故の発生した午後八時五五分ころを含むものではないし、許可区間について本件脇道を含むものでもない。また、右いずれの許可の場合も、交差点の通行にあたっては、誘導車又は誘導員による誘導及び前方、後方の確認という誘導措置をとることが通行の条件となっている。

さらに、原告車は最前端部に側方から確認できる側方灯又は側方反射器を備えることとされているところ、先端部に取り付けられているフックを所定の位置である内側に収納していなければならないのに、本件事故当時、鈴木はフックを収納しておらず、原告車のブームの先端付近に付けられた赤ランプはもはや最前端部を示すものではなく、かえって原告車の最前端部の位置を誤って認識させる可能性がある状態であった。

鈴木は、右のような状態の原告車を運転し、無許可の上誘導措置をとることもなく本件脇道から左折して国道一五五号線に進入しようと考え、本件交差点の手前で一時停止して国道一五五号線の交通が途切れるのを待っていた。

その後、国道一五五号線を東進する乗用車の流れが途切れたことから、少し前進して、ブームの先端を国道一五五号線の東進方向車道の内側に約一・〇六メートル進入させた状態で停止していたところ、被告車がブレーキをかけることもなくその前部助手席側を原告車のブーム先端付近部分に衝突させて、本件事故が発生した。

他方、本郷は、本件事故当時、引地を助手席に同乗させて、国道一五五号線の東進方向第一車線を西方(西之島方面)から東方(小牧一丁目方面)に向かって時速約四〇ないし五〇キロメートルの速度で被告車を走行させていた。前照灯はロービームの状態であり、車道外側線の内側約三〇センチメートルの地点を走行していたところ、道路から約二・五メートルの高さにあった原告車のブームに気がつくことなく、本件事故が発生した。

2  1に認定した事実によれば、本件事故は、交通法規等を無視し、ことさら交通の危険を発生させた鈴木の無謀な運転方法にその原因があると評価することができる。

なるほど、本郷が、前方の注視を更に十分に行っていたならば、被告車の前方に存在した原告車のブームに気づくことができた可能性が全くないとはいえないが、通常車両を走行させる運転者の注意は道路上の障害物の存否にまず注がれるものであり、前述の原告車のようにその最前端部の発見が困難な特殊車両が誘導措置をとることなく走行している可能性があることを予測してまで前方に注意を払って被告車を走行させるべき注意義務が本郷にあったということはできない。

右によれば、原告会社及び鈴木には被告会社及び引地に生じた損害を賠償すべき責任があり、他方被告会社及び本郷に原告会社の損害を賠償すべき責任はないことになる。

したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告会社の本訴請求については理由がない。

二  争点2について

1  被告会社の損害

(一) 修理費用 二三四万二七九八円

当事者間に争いがない。

(二) 休車損害 六二万五〇〇〇円

証拠(乙七号証、一三号証の一、二、一八号証、証人中村嘉宏)によれば、被告会社に被告車に替わる遊休車・予備車が存在せず、本件事故により被告車が使用できなくなったことにより被告会社に休車損害が発生したこと、被告車の実修理日数として二五日間を要したこと、の各事実が認められる。

なるほど、右証拠のほか、証拠(乙一四号証の一から三まで、一五号証の一から四まで、一六号証の一から四まで、一七号証の一から三まで)は、被告車の一日あたりの利益(売上-人件費・燃料費等の経費)が一一万五五六一円であるとの被告会社の主張に沿うものである。

しかしながら、右経費の売上に占める割合は約三割であり、これは通常の運送事業に従事する貨物自動車に比較して著しく低いものであるが、その原因は被告の一日あたりの売上が非常に高いことにあるところ、被告会社がこのように高い売上を上げられる理由としては運行管理システムやそれらに従事する補助スタッフ等の必要な経費が引地の人件費・燃料費等の他にもあると考えるのが合理的である。

また、本件事故が六月に発生したもので、その直近として被告会社が主張する四月から六月までの時期はいわゆる異動の時期で運送会社の売上が通常以上に高いものとなる可能性が高いことも明らかであるから、右期間の売上を基礎として被告車の一日あたりの休業損害を算定することは相当ではない。

結局、被告車の一日あたりの休業損害としては、被告会社が通常被告車のような車両について一日あたり二万五〇〇〇円前後として示談している(乙一八号証、証人中村嘉宏)ことからすると、前記経費以外の経費を考慮した一日あたりの休業損害は右金額程度であると推認することができる。

右金額(一日あたり二万五〇〇〇円)を基礎として二五日分を算出すると、六二万五〇〇〇円となる。

(三) レッカー代 七万〇四五五円

証拠(乙八号証)により認められる。

(四) 合計 三〇三万八二五三円

2  引地の損害

(一) 治療費 五万七九一五円

証拠(乙九号証の二)により認められる。

(二) 通院交通費 一〇〇〇円

弁論の全趣旨によれば、引地は大原総合病院附属大原医療センターへの通院五日(片道約一〇キロメートル)について、自家用車を使用しているから、ガソリン代を一リットルあたり一〇〇円、燃費を一リットルあたり一〇キロメートルとして、引地の通院交通費を算出すると、合計一〇〇〇円となる。

(三) 休業損害 零円

引地は本件事故による受傷とその治療のため年次有給休暇を使用したのであり、現実に休業損害が発生したことを認めるに足りる証拠はない。有給休暇の使用については慰謝料で考慮するのが相当である。

(四) 慰謝料 一六万円

引地の前記受傷等に対する慰謝料としては一六万円が相当である。

(五) 合計 二一万八九一五円

三  被告会社及び引地は、本件訴訟追行のための弁護士費用として、それぞれ二五万円、五万円を請求するが、以上によれば右金額はいずれも本件事故による損害として相当である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 榊原信次)

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