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名古屋地方裁判所 平成10年(ワ)2354号 判決 1999年4月28日

原告

山田柾子

被告

竹田明光

主文

一  被告は、原告に対し、金八七九万六二二〇円及びこれに対する平成八年一一月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その四を被告の負担とし、その余は原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金一〇二五万八〇一一円及びこれに対する平成八年一一月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告と被告との間の交通事故につき、原告が、被告に対し、自動車損害賠償保障法三条又は民法七〇九条に基づいて、損害の賠償を請求した事件である。

一  争いのない事実

1  本件事故の発生

平成八年一一月二六日午後零時五〇分ころ、愛知県津島市東柳原町二丁目五一番地先の信号機により交通整理の行われている交差点(以下「本件交差点」という。)において、北方(東柳原町五丁目方面)から南進してきて本件交差点に進入し、西方(西柳原町一丁目方面)に向かって右折進行しようとした被告運転の普通乗用自動車(以下「被告車」という。)と、南方(橘町三丁目方面)から北方に向かって本件交差点を直進しようとした原告運転の原動機付自転車(以下「原告車」という。)とが衝突した。

2  被告の責任

被告は、被告車を所有し、自己のため運行の用に供していた。

3  原告の受傷と受けた治療の経過

原告は、本件事故により、右下腿骨骨折の傷害を負い、津島市民病院において、平成八年一一月二六日から平成九年二月一七日までの八四日間及び平成九年一一月二六日から同年一二月八日までの一三日間入院治療を受け(合計入院日数九七日)、平成九年二月一八日から同年一二月一五日までの間、通院治療を受けた(通院実日数一五日)。

4  原告の後遺症

本件事故による傷害のため、原告には右下肢の神経症状の後遺一症が残り、自賠責後遺障害等級一二級一二号に該当する旨の認定を受けた。

5  原告の損害(争いのない分)

(一) 治療費 一七〇万七六六一円

(二) 通院交通費 四五〇〇円

津島市民病院通院実日数一五日につき一日当たり三〇〇円

(三) 入院雑費 一一万六四〇〇円

入院九七日間について一日あたり一二〇〇円。

6  既払金

原告は、被告から、合計二五三万〇二九四円の支払いを受けた。

二  争点

1  本件事故の態様(本件事故発生時の信号の表示)と過失相殺

(一) 原告の主張

原告は、原告車を運転し、時速約三〇キロメートルで本件交差点に向かって北進していたところ、本件交差点の約二〇メートル手前で対面する本件交差点の信号機の表示が青色に変わったので、そのままの速度で本件交差点に進入した。本件事故は、右原告車が、折から本件交差点の対面する信号機が青色を表示しているのに従って対向車線から右折しようとした被告車と衝突して発生したものである。

したがって、本件事故における原告の過失割合は二割とするのが相当である。

(二) 被告の主張

被告は、被告車を運転し、対面する信号機の青色表示に従って本件交差点に進入し、被告同様に本件交差点を右折しようとする先行車に後続して停止して右折の機会を待っていたところ、右信号機の表示が黄邑に変わったことから右先行車に続いて右折進行したのである。本件事故は、右被告車が、対面する信号機が黄色又は赤色を表示しているにもかかわらず本件交差点に進入した原告車と衝突して発生したものである。

したがって、本件事故における原告の過失割合は六割とするのが相当である。

2  原告の損害額

(一) 原告の主張

(1) 休業損害 三三〇万四〇四二円

賃金センサス産業計・企業規模計・女子労働者・学歴計による一日あたり九九八二円の三三一日間分

(2) 後遺障害による逸失利益 四九四万〇八六四円

(3) 入通院慰謝料 二一四万九〇〇〇円

(4) 後遺症慰謝料 二二四万円

第三争点に対する判断

一  争点1について

1  証拠(甲七号証、乙一号証の一から八まで)によれば、前記争いのない事実に加えて、以下の事実を認めることができる。

本件交差点は、東西に通ずる、歩車道の区別があり、全幅員約八メートルの片側一車線の道路と、南北に通ずる、歩車道の区別があり、全幅約五・八メートルの片側一車線の道路(以下「本件道路」という。)とがほぼ垂直に交わる交差点であり、原告及び被告が走行していた本件道路の本件交差点の手前にはいずれも横断歩道が設置されている。本件道路の最高速度は時速四〇キロメートルに制限されており(ただし、原告車の最高速度は法定の時速三〇キロメートル)、本件事故当時路面は乾燥した状態であった。

原告及び被告が走行していた本件道路の本件交差点の対面信号機は、本件事故当時、青色三〇秒、黄色三秒、赤色三三秒の順(一サイクル六六秒)に表示するよう制御されていた。右信号機は、隣接する他の信号機と関連していないいわゆる単独信号機である。

2  証拠(甲五号証、原告本人)中には、原告の主張に沿う部分もないではない。

しかしながら、右部分によれば、原告は、対面する信号機が赤色を表示しているにもかかわらず、本件交差点の信号機はいわゆる単独信号機であるのにその表示が間もなく青色に変わるとの思いこみに基づいて、本件交差点の直前に至るまで最高速度である時速三〇キロメートル程度の速度で原告車を運転し続けていたということになるから、右部分は不自然で信用することができない。

3  これに対し、証拠(乙三号証、被告本人)は、前記1の事実と矛盾なく符合しており、十分信用することができるものである。

4  結局証拠(甲七号証、乙一号証の一から八まで、三号証、被告本人)によれば、本件事故の態様について、以下の事実が認められる。

被告は、被告車を運転して本件道路を南進していたところ、本件交差点で右折しようと、対面する信号機が青色を表示しているのに従って、先行する右折車に続いて本件交差点に進入し、対向する直進車をやり過ごすため、右先行車の後ろに停止して、右折進行することができるようになるのを待っていた。

対向する直進車を二台やり過ごすと対面する信号機の表示が青色から黄色に変わり、被告が、先行車に続いて右折進行したところ、対向車線を直進してきた原告車と衝突して本件事故が発生した(したがって、本件交差点の原告及び被告の対面する信号機の黄色表示は三秒間であり、通常二台の車が右折可能であるから、本件事故も右信号機が黄色を表示していろ間に発生したものと推認できる。)。被告は、本件事故当時、本件交差点の北西角から東に向かって横断歩道を渡ろうとした母子に気をとられ、対向車線に対する注意をほとんど払っていなかった。

他方、原告は、対面する信号機が青色を表示していたことから、漫然本件道路を時速三〇キロメートルで北進しており、本件交差点の直前で対面する信号機の表示が青色から黄色に変わったことに気がつかなかった(なお、原告が、本件交差点手前で安全に停止できるような地点にいる時点で、右信号機の表示が黄色に変わったことを認めるに足りる証拠はない。)。

5  4に認定した本件事故の態様によれば、本件事故の発生に関する原告と被告の過失の割合は、二〇対八〇とするのが相当である(したがって、原告の損害については、その過失を二〇パーセント斟酌するのが相当である。)。

二  争点2について

1  休業損害 二九三万九七一七円

証拠(原告本人)によれば、原告(本件事故当時五三歳)は本件事故当時主婦として家事に従事すると共に大河内縫製という会社にパートタイマーとして勤務して月額約八万円の収入を得ていたこと、原告は本件事故による傷害のため本件事故直後の二か月間は歩行することができず、その後も松葉杖の使用を余儀なくされ、約半年間は家事ができなかったこと、本件事故の約一年後には右パートタイムの仕事に復帰したことの各事実が認められる。

したがって、原告の休業損害については、平成八年賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・学歴計・五〇歳ないし五四歳の女子労働者の平均賃金である三五九万三五〇〇円(一日あたり九八四五円)を基礎とし、入院期間九七日間については一〇〇パーセント就労不能、症状固定(平成九年一二月一五日)までのその余の期間(二八八日)については七〇パーセント就労不能として算出するのが相当である。

2  後遺障害による逸失利益 三八八万九八六五円

原告の前記後遺障害による逸失利益については、平成九年賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計・五〇歳ないし五四歳の女子労働者の平均年収である三六三万七七〇〇円を基礎として、労働能力喪失率一四パーセント、労働能力喪失期間一〇年間として算出するのが相当である。

右により、新ホフマン係数七・六三八(八・五九〇(一一年の係数)-〇・九五二(一年の係数))を用いて、原告の逸失利益の本件事故当時の現価を求めると、三八八万九八六五円となる(なお、原告は、公定歩合が低いことを理由に年三分の割合により中間利息を控除すべきであると主張するが、公定歩合が変動するものであることを考慮すると、法定利率(年五分)により中間利息を控除するのが相当である。)。

3  入通院慰謝料 一八〇万円

前記原告の本件事故による入通院の状況からすると、原告の入通院慰謝料としては一八〇万円が相当である。

4  後遺症慰謝料 二七〇万円

原告が本件事故で負った後遺障害に対する慰謝料としては二七〇万円が相当である。

5  以上によれば、原告の本件事故による損害の額は、前記争いのない分も含めて、合計一三一五万八一四三円となる。

三  右原告の損害の額から、前記のとおり、その過失を二〇パーセント斟酌すると、被告が賠償すべき原告の損害は一〇五二万六五一四円である。

右被告の賠償すべき原告の損害から前記争いのない既払金を損益相殺すると七九九万六二二〇円となる。

四  原告は、本件訴訟追行についての弁護士費用として九〇万円を請求するが、以上によれば八〇万円が本件事故と相当因果関係にあると認められる。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 榊原信次)

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