名古屋地方裁判所 平成11年(ワ)228号 判決 2000年4月26日
原告
榊原愼吾
被告
家田小夜子
ほか一名
主文
一 被告らは、各自原告に対し金一〇九万五七四五円及び内金九九万五七四五円に対する平成八年一月二六日から、内金一〇万円に対する平成一一年二月四日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、これを四〇分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。
四 この判決は第一項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告らは、各自原告に対し金四〇七一万二六〇三円及び内金二一八万三四二六円に対する平成八年一月二六日から、内金三五五二万九一七七円に対する平成九年一二月一日から、内金三〇〇万円に対する平成一一年二月四日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、原告が普通乗用自動車を運転中、被告家田和彦(以下「被告和彦」という。)運転の普通乗用自動車に衝突され、傷害を負ったとして、原告が被告家田小夜子(以下「被告小夜子」という。)に対しては自賠法三条に基づき、同和彦に対しては民法七〇九条に基づき、それぞれ損害賠償(損害金及びこれに対する傷害分については事故日の翌日から、後遺障害分については症状固定日の翌日から、弁護士費用については訴状送達日の翌日からの各遅延損害金)を請求した事案である。
一 争いのない事実
1 左記交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
記
(一) 日時 平成八年一月二五日午後八時五八分ころ
(二) 場所 愛知県半田市宮本町三丁目一二七番地先路線上
(三) 第一車両 普通乗用自動車(尾張小牧五七み八六四六)
運転者 被告和彦
保有者 被告小夜子
(四) 第二車両 普通乗用自動車(名古屋五〇せ九八五〇)
運転者 原告
(五) 事故の態様 本件事故現場は東西方向の道路(以下「本件東西道路」という。)と南北方向の道路(以下「本件南北道路」という。)との交差点(以下「本件交差点」という。)であるが、本件東西道路を東から本件交差点に進入し、本件交差点で右折北進しようとした第二車両と本件東西道路を西から本件交差点に進入し、東に直進しようとした第一車両とが本件交差点内において衝突した。
2 原告は、本件事故により頭蓋骨陥没骨折、脳挫傷等の傷害を負い、平成九年一一月三〇日症状固定となり、自動車保険料率算定会のいわゆる事前認定の手続において自賠法施行令別表第五級二号(神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの)該当の後遺障害との認定がされた。
3 原告は前記傷害の治療のため次のとおり入通院を要した。
記
(一) 半田市半田病院(脳神経外科)
平成八年一月二五日から同年二月二六日まで三三日間入院
(二) 半田市半田病院(耳鼻咽喉科)
平成八年一月三〇日から同年二月二七日通院(実日数一日、ただし他に入院中の院内通院一日)
(三) 杉石病院
平成八年三月二日から同年六月一日まで九二日間入院同年六月二日から平成九年一一月三〇日まで通院(実通院日数一七七日)
4 被告小夜子は本件事故当時第一車両を運行の用に供していたものである。
5 既払金
本件事故につき被告ら側から自賠責保険金等として合計一六五一万二五四〇円が支払われたほか、労災保険からの給付があった。
二 争点
1 本件事故発生についての原告、被告和彦の過失の有無、内容、過失相殺についての過失割合
2 原告の損害額、特に後遺障害の程度
(被告らの主張)
原告の後遺障害はせいぜいその労働能力を将来にわたって三五パーセントの割合で喪失させたにすぎない。
3 既払金
第三争点に対する判断
一 争点1について
前記争いのない事実及び証拠(甲八、一一、一二、乙一、二、五、六、原告、被告家田和彦各本人)を総合すると、以下の事実が認められる。
1 本件交差点は、本件東西道路と本件南北道路との交差点で、信号機が設置され、これにより交通整理がされており、また、その形状の概要は別紙のとおりである。
本件東西道路はそれぞれ別紙のとおり本件交差点に入る側は片側三車線であるが、出る側は片側二車線となっていた。
また本件東西道路は最高速度が毎時五〇キロメートルに規制されていた。
2 原告(当時五〇歳)は、勤務していた会社からの帰宅途中で第二車両を運転し、本件東西道路を東から西に進行し、本件交差点で右折北進するところであった。
そして本件交差点に青色で入り、別紙<ア>'付近で停止し対向車の通過を待っていた。その際、対向する西側後方から本件交差点方面に走行してくる第一車両の存在に気が付いていた。
その後、本件交差点の信号が黄色表示となったことから、直ちに右折を開始したところ、第一車両が第二車両左側部に衝突した。原告は、右折を開始するに際し、右のとおり信号の色が変わったことは確認したが、その際の第一車両の位置には全く注意を払わなかった。
3 他方、被告和彦は、毎時約七〇キロメートルの速度で第一車両を運転し、本件東西道路を西から東に進行していた。本件東西道路の東進車線は前記のとおり本件交差点直前で片側三車線となっていたが、被告和彦は第二車線を走行していた。そして本件交差点付近に至ったとき、前方約三二・七メートルの地点に右折中の第二車両を発見し、直ちに急ブレーキをかけたが回避できず第二車両と衝突した。
以上のとおり認められる。
これに対し原告は、第一車両の本件事故直前の速度が毎時一〇〇キロメートル以上であった旨を主張するが、これを認めるに足りる証拠はなく、かえって証拠(乙七(大慈彌雅弘作成の鑑定書))に照らし採用できない。
他方被告らは、第一車両は前方の信号が青色表示のときに本件交差点に進入したこと、そして第二車両はまだ前方の信号が黄色表示に変わらないうちに右折を開始した旨を主張し、被告和彦はこれに沿う供述をし、また被告和彦は、第二車両は本件事故直前別紙<ア>'の位置で停止した後、同<×>の位置で再度停止し、そこへ第一車両が衝突した旨を供述する。しかし、まず右のとおり二度にわたり、しかも本件東西道路の東進車線の第二車線の延長上で停止するというのは特段の事情のない限り合理性を欠くものといわねばならず採用できない。また、前方の信号が青色表示であったというのも、原告本人の供述に照らし採用できない。
そして右認定事実によれば、本件事故は、原告が本件交差点を右折するに際し、対向直進する第一車両があることを事前に確認していながら、前方の信号が黄色表示に変わったことを確認したのみで、第一車両の動向に注意を払うことなく右折を開始、継続したことによるもので、そもそも対面する信号機が青色表示から黄色表示に変わっても、交差点直前の停止位置に近接しているため安全に停止することができない場合にはそのまま交差点を通過すべきであるとされていることも考慮すると、第一車両の動向に注意を払うことなく右折を開始、継続した原告の過失は大きいといわねばならない。
しかし他方、被告和彦においても、最高制限速度毎時五〇キロメートルの本件道路を運転するに際し、これを著しく超える毎時約七〇キロメートルもの高速で本件道路を運転したというもので、右高速運転が、前記のような信号の変化に対応できなくさせ、したがって本件事故を回避し得なくさせたと認めることができ、被告和彦の過失も大きいといわねばならない。
そうすると、これら信号機の色、各車両の位置、速度等本件事故の態様を総合して考慮すると、本件事故発生については、原告にも少なくとも五割の過失があったものと認め、後記原告の損害についても右割合の過失相殺をするのが相当である。
二 争点2について
1 治療費(請求額同じ) 四三九万三五九三円
証拠(甲一の1ないし5)によってこれを認める。
2 入院雑費(請求額一六万二五〇〇円) 一五万円
弁論の全趣旨によると、前記各病院への入院(合計一二五日間)につき一日当たり一二〇〇円の入院雑費を要したことが認められ、その合計は頭書金額となる。
3 その他雑費(請求額六万六八八〇円) 〇円
原告は前記金額を請求するが、これを認めるに足りる証拠はない。
4 入通院交通費(請求額一三万一〇〇〇円) 七万九六四〇円
原告は、前記杉石病院への通院交通費として七万七八八〇円を、原告が入院中の妻の交通費として五万三一二〇円を請求する。
前記のとおり杉石病院への実通院日数は一七七日というものであり、証拠(甲四)及び弁論の全趣旨によると、前段の交通費はこれを認めることができる。
次に後段の交通費については、証拠(甲五)及び弁論の全趣旨によると、原告の半田病院、杉石病院への入院期間中の妻の四回にわたる交通費であること、右についてはタクシーを使用したことが認められる。右についても少なくとも公共交通機関使用料相当分は本件事故と相当因果関係ある損害と認めるべきところ、証拠(甲四)及び弁論の全趣旨によると、一回当たり少なくとも往復四四〇円を要したことが認められ、その合計は一七六〇円となる。
したがって以上の総計は頭書金額となる。
5 休業損害(請求額四四二万六六五〇円) 三九三万四七四〇円
証拠(甲二、一二、原告本人)及び弁論の全趣旨によると、原告は平成七年から国際警備保障株式会社に警備員等として勤務しており、本件事故直前の一か月平均の収入は一九万六七三七円であったこと、本件事故により事故翌日の平成八年一月二六日から症状固定となった平成九年一一月三〇日まで同社を休職したことが認められる。
そこで、前記入通院日数、実通院日数等も考慮し、前記事故前収入を基礎とし、事故後一年間はその全額、その後一〇か月間はその八割相当を休業損害と認めるのが相当である。
これによると頭書金額となる。
196,737×(12+10×0.8)=3,934,740
6 傷害慰謝料(請求額三〇〇万円) 二五〇万円
本件事故の態様、前記入通院期間その他本件記録に現れた諸般の事情を考慮すると、原告の傷害による慰謝料は頭書金額をもって相当とする。
7 後遺障害による逸失利益(請求額六〇二四万一六八一円) 一八四三万六九三〇円
前記争いのない事実及び認定の事実並びに証拠(甲一三、乙四)によると、原告は本件事故当時五〇歳で、平成七年から国際警備保障株式会社に警備員等として勤務しており、本件事故直前の一か月平均の収入は一九万六七三七円であったこと、本件事故により頭蓋骨陥没骨折、脳挫傷等の傷害を負ったが、平成九年一一月三〇日(原告五二歳)症状固定となったこと、しかしなお脳損傷による見当識障害、記銘力低下、言語障害等の後遺障害が残り、右につき自動車保険料率算定会のいわゆる事前認定の手続において自賠法施行令別表第五級二号該当の後遺障害との認定がされたことが認められる。
右のような原告の従前の職務内容、後遺障害の内容、程度等の事実に照らすと、前記一か月平均の収入を基礎とし、症状固定日である平成九年一一月三〇日(本件事故後一年余経過)から六七歳まで一五年間について七九パーセントの割合の逸失利益を認めるのが相当である。
そこで年五分の割合のライプニッツ係数によって現価を算出すると頭書金額となる。
196,737×12×0.79×(10.8377-0.9523)=18,436,930
なお原告は、本件事故日当時の賃金センサス(平成八年賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・学歴計・当該年齢男子労働者平均七三二万五九〇〇円)を基礎とした逸失利益を算定すべきである旨を主張するが、原告が本件事故当時右程度の収入を取得することが可能であったとの事実を認めるに足りる証拠はないので採用できない。
他方被告らは、原告の労働能力喪失割合は三五パーセントである旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。なお前記のとおり休業損害を算定する基礎となる収入は賃金センサス記載の金額よりも低額であり、労働能力喪失割合を将来にわたり段階的に低率化して判断するのは相当とはいえない。
8 後遺障害慰謝料(請求額一三〇〇万円) 一四〇〇万円
前記後遺障害の内容、程度等を考慮すると、原告の後遺障害による慰謝料は頭書金額をもって相当とする。
9 小計(請求額八五四二万二三〇四円) 四三四九万四九〇三円
以上の合計は頭書金額となる。
三 過失相殺
前記のとおり本件については五割の過失相殺をするのが相当であり、これによると二一七四万七四五一円となる。
43,494,903×(1-0.5)=21,747,451
四 弁護士費用(請求額三〇〇万円) 一〇万円
本件事案の内容、認容額等を考慮すると、本件に係る弁護士費用は頭書金額が相当である。
五 争点3について
本件事故につき被告ら側から自賠責保険金等として合計一六五一万二五四〇円が支払われたことは当事者間に争いがない。そして証拠(甲二、六の1、2)及び弁論の全趣旨によると、本件事故につき労災保険から療養補償給付として四二八万九九八一円、休業補償給付として二六四万七七二三円の給付があったことが認められる。
六 総合計 一〇九万五七四五円
前記療養補償給付は前記原告の損害中治療費及び入院雑費(その合計の過失相殺後の金額二二七万一七九六円)を、休業補償給付は休業損害(過失相殺後の金額一九六万七三七〇円)をそれぞれてん補するものと認められる。
そうするとその余の入通院交通費、傷害慰謝料、後遺障害による逸失利益、後遺障害慰謝料(その合計の過失相殺後の金額一七五〇万八二八五円)及び弁護士費用の合計は一七六〇万八二八五円であるから、前記被告ら側支払分を控除すると頭書金額となる。
第四結論
よって、原告の本訴請求は被告ら各自に対し、損害金一〇九万五七四五円及び内弁護士費用を除く九九万五七四五円に対する本件事故日の翌日である平成八年一月二六日から(原告は遅延損害金の起算日を傷害分と後遺障害分とを分けて請求するが、以上のとおり分けて算出することはできず、またいずれも本件事故日以降は遅滞となっていると認められる。)、内弁護士費用分一〇万円に対する本件訴状送達日の翌日であることが本件記録上明らかな平成一一年二月四日から各完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余はいずれも理由がないからこれを棄却して、主文のとおり判決する。
(裁判官 北澤章功)
交通事故現場見取図