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名古屋地方裁判所 平成11年(ワ)3391号 判決

原告 森下美枝

右訴訟代理人弁護士 岩月浩二

被告 プロミス株式会社

右代表者代表取締役 神内博喜

右訴訟代理人弁護士 本渡諒一

同 伊藤孝江

同 木島喜一

同 清水幸雄

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、別紙謝罪文を交付せよ。

2  被告は、原告に対し、金九〇万円及びこれに対する平成一一年九月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、被告の負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、平成一一年四月一二日、名古屋地方裁判所において破産宣告・同時廃止決定(平成一一年(フ)第三九一号)を受け、同年八月五日、同裁判所から免責決定(平成一一年(モ)第五〇七〇九号)を受けた。

被告は原告に対して貸付金債権を有するものであり、右破産・免責手続きにおいて債権者の地位にあった。

2  平成一一年六月一日、被告従業員が、右免責申立事件の代理人であった原告代理人に架電した。

右従業員は、原告代理人に対して、信用情報機関(中部レンダース)の信用情報(以下「本件信用情報」ともいう。)によると、原告は、他の債権者に対して平成一〇年一一月二日付の借入金一〇万円につき、破産申立後の平成一一年三月二五日に完済しているので、免責手続上問題であると述べた。

さらに同従業員は、原告代理人に対し、被告に対する返済を期待していることを示し、免責に対して異議申立てをすることを示唆して、原告の被告に対する債務の返済を迫った。

3  原告代理人は、右従業員に対し、被告に対する債務を返済することはできないことを明確にするとともに、指摘にかかる借入金返済の事実の存否を原告に確認して連絡する旨回答した。同日、原告代理人は、原告に右借入金返済の事実がないことを確認した。

4  平成一一年六月二日、原告代理人は、被告に架電し、右借入金返済の事実がない旨を回答したところ、電話を受けた被告の別の従業員は「コンピユーターの誤入力はよくあること」として、前記2の従業員にその旨を伝えることを約束した。

5  平成一一年六月七日、原告代理人は、被告に指摘された借入金が、原告の株式会社ユニマットライフに対する借入金に相当することがわかったので、同社に架電して、右借入金返済の事実がないこと、同社に信用情報の誤入力(事故扱いによる償却とするべきところ、完済とした)があったことを確認して、同社に対して同旨の証明書の発行を求めた。

同社は、原告代理人の求めに応じ、平成一一年六月八日付証明書を原告に対して発行するとともに、同日、信用情報の誤入力を訂正した。

6  平成一一年六月八日、被告は、原告の免責に対して異議を申し立てた。被告の異議申立書には、「平成一一年三月に他の債権者へ弁済を行ったとの情報がある。この点に付き、現在証拠として提出できない事情があるが、この情報が証拠書面として提出できた暁には、本免責申立事件において仮に免責許可が発せられたとしても、必ずやその後の訴訟提起の中で、これを取り消すべく全力を挙げて取り組む予定であることを念の為申し添える」と記載されていた。

7  右異議申立てにおいて、被告が原告の偏頗弁済を特定して主張していれば、原告は、5項記載の株式会社ユニマットライフによる証明書をもって反証とすることもできた。そこで、原告代理人は、被告に対し、偏頗弁済を特定して主張することを繰り返し求め、特定しないのであれば、直ちに異議申立てを取り下げるよう求め続けたが、被告は偏頗弁済を特定しないまま異議申立てを維持した。

8  免責異議申立期間は平成一一年七月六日までと指定されており、原告と同一期日に免責審尋が行われた免責申立事件は、特段の免責不許可事由が窺われない限り、異議申立期間経過後、速やかに免責決定がなされたが、原告については、被告の異議申立てが存在したことから、免責決定は同年八月五日になされた。

9  被告は、資金需要者の返済能力の調査以外の目的のために信用情報を使用して、被告に対する債務の返済を要求し、免責異議申立てに及んだ。

被告は、本件信用情報が誤入力によるものであることを容易に確認できたのにもかかわらず、確認せずに免責異議申立てに及び、原告代理人が異議申立ての取下げを要求にしたのにもかかわらず異議申立てを維持した。

被告が原告の信用情報を目的外使用して免責異議申立てをしたことによって、原告のプライバシー及び速やかに免責を得る権利が侵害され、甚大な精神的苦痛を被った。

10  よって、原告は、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求として金九〇万円(慰謝料六〇万円と弁護士費用三〇万円の合計額)及びこれに対する本訴状送達の翌日である平成一一年九月一四日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、別紙謝罪文の交付を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2のうち、被告従業員が原告代理人に架電し、原告が平成一〇年一一月二日付の借入金一〇万円について、破産申立後の平成一一年三月二五日に完済しているので、免責手続上問題であると述べたことは認めるが、その余の事実は否認する。

3  同3のうち、原告代理人が、被告に対して返済することはできないことを明確にするとともに、指摘にかかる弁済の事実の存否を原告本人に確認して連絡する旨を回答したことは認めるが、その余の事実は知らない。

4  同4のうち、被告従業員が、原告代理人からの電話を受けたこと、及び原告代理人の回答を当初の従業員に伝えると発言したことは認めるが、その余の事実は否認する。

5  同5の事実は知らない。

6  同6の事実は認める。

7  同7のうち、原告代理人が被告に対して異議申立てを取り下げるように求めたこと、被告が平成一一年六月八日以降も異議申立てを維持したことは認めるが、その余は争う。

8  同8のうち、原告の免責異議申立期間が、平成一一年七月六日までであったこと、原告の免責決定が同年八月五日になされたことは認めるが、その余は争う。

9  同9、10は争う。

第三証拠関係

証拠関係については、本件記録中の書証目録の記載を引用する。

理由

一  原告の本訴請求は、原告(平成一一年四月一二日破産宣告)の債権者であった被告が原告に関する信用情報を目的外に使用して原告の免責について異議申立てをし、取り下げずに維持したことによって、原告のプライバシー及び速やかに免責を得る権利が侵害され、甚大な精神的苦痛を被ったとして、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償(慰謝料及び弁護士費用)及び名誉回復のための謝罪文の交付を求めるものである。

二  そこで、本件の争点である、被告による原告の信用情報使用行為についての不法行為の成否(違法性の有無)について検討する。

1  原告に関する本件信用情報は、原告の私生活上の事柄であり、一般人を基準として原告の立場に立った場合、公開を欲しない事柄であって、かつ一般の人に未だ知られていない事柄に該当するので、法的に保護された利益としてのプライバシーに属するものといえる(貸金業法三〇条二項は、同条一項によって過剰貸付を防止するために貸金業協会に対し信用情報機関を設けて会員に対して利用を指導すべき等規定されたことを受け、信用情報については資金需要者の返済能力の調査以外の目的で使用してはならないと規定するものであるが、同条項の趣旨は、個人の信用情報すなわちプライバシーを保護することにあると解される。)が、右の個人の信用情報の使用が、プライバシー侵害としての違法性を有するかどうかについては、その使用行為の目的、必要性、使用行為の態様、使用行為によって受けた相手方の不利益の程度、その他諸般の状況を総合考慮して個別具体的に判断するほかはない。

2  原告は、被告が本件において、原告に関する信用情報の真偽を確認することなく異議申立てに及んだこと、及び信用情報が誤情報であったことが明らかになった後も異議申立てを維持し続けたことをもって、被告の行為態様が悪質で違法性がある旨主張する(原告代理人が被告に架電し、被告指摘にかかる偏頗弁済の事実がない旨報告した事実、及び原告が被告に異議申立てを取り下げるよう要求した事実については、当事者間に争いはない)。

しかしながら、破産者の免責申立事件において、破産法に定める免責不許可事由の存否は裁判所の職権調査事項であって、裁判所は債権者からの異議申立ての有無及び異議申立てがなされた場合の異議の事由に束縛されることなく、破産者についての免責不許可事由の有無を判断すべきことになるし、破産債権者による免責異議の申立ての制度は、破産者が免責の決定を受けることによって、破産者に対する債権が法的に無価値になるという重大な不利益を被る債権者の利益を保護するための制度であるから、債権者において破産者についての免責不許可事由の有無に関する情報の正確性について吟味をした上でないと異議の申立てができなくなるような厳格な解釈をすることは相当でない。したがって、債権者である被告において、破産者の免責についての異議申立てをするに当たってそれまでに入手した信用情報の真偽を確認すべき義務や、異議申立て後に原告主張に係る異議事由についての求釈明に応じ、あるいは取下げ要求に応じて右の異議申立てを取り下げるべき義務が生ずるものではないと解するのが相当である。

また、被告は、破産者である原告の債権者として、原告の免責について破産法に定められた異議の申立ての権利を行使する限度において原告に関する信用情報を使用したにすぎないものであり、原告の右信用情報を不特定又は多数人に公開したり、第三者に漏洩したものではないから、その使用行為の目的及び態様に照らしても、これを原告のプライバシーを侵害する違法なものとまで評価することは困難である。

3  また、原告は、被告の免責異議申立てによって免責決定が遅延し、速やかに免責を得て再起を図るべき利益を侵害された旨主張するけれども、前記2の判断に照らしても、被告が平成一一年六月八日にした異議申立て自体を違法とまでいうことができないし、同年八月五日になされた原告の免責決定(異議申立期間である平成一一年七月六日から一か月後)が違法に遅延したということもできない。

4  以上のとおりであるから、本件の事実関係のもとでは、被告による原告についての本件信用情報の使用行為(免責についての異議申立てを含む。)が原告に対する不法行為を構成する違法なものとまでいうことはできない。

したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告の本訴請求はいずれも理由がない。

三  結論

よって、原告の本訴請求をいずれも棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 氣賀澤耕一)

(別紙)

謝罪文

当社は、貸金業法三〇条二項に反して、信用情報を定められた目的以外に利用して貴殿のプライバシーを侵害するとともに、右信用情報に基づいて貴殿の免責申立に対して異議を申し立てて貴殿の免責決定を違法に妨害しました。しかも、当社が免責異議申立に用いた信用情報は誤入力によるものであり、当社はこれを容易に確認することができたにもかかわらず、確認を怠って、貴殿のまったくあずかり知らない事情に基づいて貴殿に不当に負担をかけるとともに、貴殿の免責決定を不当に遅延させ、貴殿の早期に免責を受け得べき地位を違法に侵害しました。

よって、当社は、本書面を貴殿に交付して右不法行為について、深くお詫び申し上げるものです。

平成 年 月 日

プロミス株式会社

名古屋地方裁判所平成一一年(ワ)第 号事件

原告殿

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