名古屋地方裁判所 平成12年(ワ)1128号 判決 2001年9月14日
本訴原告・反訴被告
杉山浩二
ほか一名
本訴被告・反訴原告
鈴木みち子
主文
一 被告は、原告有限会社泉土木に対し、金三〇〇、四二六円及びこれに対する平成一一年六月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告有限会社泉土木のその余の請求を棄却する。
三 原告杉山浩二の請求を棄却する。
四 原告有限会社泉土木及び原告杉山浩二は、被告に対し、連帯して、金六五、〇〇〇円及びこれに対する平成一一年六月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
五 被告のその余の請求を棄却する。
六 訴訟費用はこれを一〇分し、その四を被告の、その余を原告らの負担とする。
七 この判決は、第一、第四項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
(本訴)
被告は、原告杉山浩二に対し、金四八四、九八〇円、原告有限会社泉土木に対し、金三三三、八〇七円及びこれらに対する平成一一年六月一五日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(反訴)
原告らは、被告に対し、連帯して金九二七、二一〇円及びこれに対する平成一一年六月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、下記一(1)の交通事故の発生を理由に原告らが被告に対し民法七〇九条に基づき損害賠償を求め、被告が原告らに対して自賠法三条及び民法七〇九、七一五条により損害賠償を求める事案である。
一 争いのない事実等
(1) 交通事故(以下「本件事故」という。)
ア 日時 平成一一年六月一五日午後五時四五分ころ
イ 場所 名古屋市中川区高畑二丁目一五六番地先路線上
ウ 甲車 被告運転の普通乗用自動車
エ 乙車 原告杉山浩二(以下「原告杉山」という。)運転、原告有限会社泉土木(以下「原告会社」という。)所有の普通貨物自動車
オ 丙車 訴外寄川純一(以下「訴外寄川」という。)運転の普通乗用自動車
カ 態様 交差点付近で甲車と乙車が衝突し(第一事故)、その後、甲車と丙車が衝突した(第二事故)。
(2) 責任原因
原告会社は原告杉山の使用者であり、本件事故は原告会社の事業の執行につき発生したものである。
二 争点
(1) 事故態様、原告杉山と被告の過失の有無及びその割合
(原告ら)
ア 被告は甲車を運転し、南行き車線の第一車線(左側車線)を走行していたが、前方左から交差点に進入しかけた丙車の動静に気を取られたのか、何らの合図もなく漫然と第二車線に進入したため、折から同車線を走行していた乙車の進行を妨害した。乙車は中央分離帯に乗り上げる状態になるまで右側に可能な限り回避したものの、結局その左後部が甲車の右後部と衝突し、さらに甲車は丙車に衝突した。
イ 被告は、甲車を運転して片側二車線道路の第一車線を走行中、他の車線(右側車線)に進入するに際しては、当該車線を走行する車両の進路を妨害しないように車両の動行に十分注意し車線進入する義務があるのに、何らの合図もなく漫然と第二車線に進入して乙車の進路を妨害した過失がある。第一、第二事故とも被告の一方的な過失に基づく事故である。
(被告)
ア 甲車は本件事故現場手前では南行き車線の第一車線から第二車線へややはみ出して走行し、乙車はその後方第二車線を走行していた。被告は交差点手前で左方の道路から交差点に進入しようとしている丙車を発見してブレーキ操作をして丙車の手前四メートル位の地点で停止する寸前であったところへ、甲車の右後方を走行してきていた乙車はその車体の殆ど大部分を甲車の右側にまで出させて走行しつつあったのであるが、何故か突然ハンドルを左に切り、その左後方側面部を甲車の右後部端にひっかけて第一事故を発生させた。このことにより、甲車に左回りの回転力を与え、甲車を左前方に押し出し、甲車の左前部を丙車と衝突させた(第二事故)。
イ 原告杉山がハンドルを右に切ったのであれば、甲車の右後部端に左方に向けた力が加わるので、甲車を右回りに回転させ、甲車を右前方に向かわせるから、第二事故の事故態様と一致しない。
ウ 更に、被告は時速約三〇キロメートルで走行していたところ、本件事故前にブレーキを踏んで速度を落としているのに対して、直前の信号の通過状況からして原告杉山はかなりの速度で走行していたことが明らかである。
エ 以上の状況からすれば、被告と原告杉山の過失割合は、被告二に対して原告杉山八をもって相当とすべきである。
(2) 原告らの損害額
(原告ら)
ア 原告杉山の損害
原告杉山は、本件事故により右肘挫傷・尺骨神経麻痺の傷害を受け、次のとおり通院治療を受けた。
<1> 平成一一年六月一六日から同月二八日まで(実通院日数二日)
田中外科
<2> 同月二一日から同年一〇月二二日まで(実通院日数七日)
協立総合病院
(ア) 治療費 七五、九六八円
<1> 田中外科関係 二五、一九八円
<2> 協立総合病院関係 五〇、七七〇円
(イ) 休業損害 六九一、九四四円
基礎収入 一〇、四八四円
休業期間平成一一年六月一六日から同年八月二〇日まで六六日
(ウ) 慰謝料 二五〇、〇〇〇円
(エ) 弁護士費用 一〇〇、〇〇〇円
(オ) 損益相殺
以上合計一、一一七、九一二円から既払いの自賠責保険金六三二、九三二円を控除した残額四八四、九八〇円を請求する。
イ 原告会社
(ア) 車両損害(乙車修理費) 三〇三、八〇七円
(イ) 弁護士費用 三〇、〇〇〇円
(被告)
ア 原告杉山の損害
(ア) 原告杉山の傷害、通院の状況及び治療費は不知。
(イ) 休業損害及び慰謝料は否認する。
(ウ) 弁護士費用を争う。
イ 原告会社
(ア) 車両損害は不知。
(イ) 弁護士費用を争う。
(3) 被告の損害額
(被告)
ア 人的損害
被告は、本件事故により頭部・頸部・腰部・左肩・骨盤挫傷の傷害を負い、平成一一年六月一五日から平成一二年二月七日まで名古屋第一赤十字病院に通院して治療した(通院実日数一九日)。
(ア) 治療費・文書料 三四、一八五円
(イ) 通院交通費 三二、三二〇円
(ウ) 休業損害 四七八、七九三円
本件事故により平成一一年六月一八日から同年七月一一日までのうち一八日間休職し、合計四三五、四九五円の給与を得ることができず、また同年一二月に支給された賞与も四三、二九八円減額された。
(エ) 慰謝料 五五〇、〇〇〇円
イ 物的損害(車両損害・全損) 五九〇、〇〇〇円
ウ 損益相殺
原告らはア及びイの合計一、六八五、二九八円のうち被告が自認する被告の過失割合二割を控除した一、三四八、二三八円を支払うべき責任があるところ、このうち五〇一、〇二八円は自賠責保険から支払われたから、残額は八四七、二一〇円となる。
エ 弁護士費用 八〇、〇〇〇円
(原告ら)
ア 人的損害
(ア) 治療費・文書料
認める。
(イ) 通院交通費
否認。被告の勤務場所における治療であり別途必要ない。
(ウ) 休業損害
欠勤期間中の四三五、四九五円の減収は認める。
賞与減額分は争う。
(エ) 慰謝料
三〇〇、〇〇〇円を限度として認める。
イ 物的損害
認める。
ウ 自賠責保険からの支払額は認める。
第三争点に対する判断
(成立に争いのない書証、弁論の全趣旨により成立を認める書証については、その旨記載することを省略する。)
一 争点(1)(事故態様、原告杉山と被告の過失の有無及びその割合)について
(1) 前掲の争いのない事実等、証拠(甲一、二、七ないし一〇、原告杉山浩二及び被告鈴木みち子本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。
ア 本件事故現場は、ほぼ南北に通じる片側二車線の中央分離帯で区分された道路(以下「本件道路」という。)の南行き車線に、東からほぼ直角に道路が合流する交差点(以下「本件交差点」という。)付近である。南行き車線は、本件交差点よりも北側で車道幅員が約一〇・三メートルあり、二車線のうち歩道側の第一車線の幅が広く取られ、その歩道側端にはバスの駐車帯が設けられている部分がある。しかし、交差点の南側では車道幅員は約六メートルとなるため、交差点手前北側から第一車線の幅が徐々に減り、中央分離帯及び第二車線が左側(第一車線側)に寄る形でカーブしており、第一、第二の各車線を区分する線も左側に曲がっている。したがって、第一車線の右寄りをそのまま直進すると、この部分で第二車線にはみだしてしまうことになる。本件道路の制限速度は時速五〇キロメートルである。本件事故当時は雨天であった。
イ 原告杉山は乙車を運転して南行き車線の第二車線を南に向かって走行し、被告は甲車を運転して乙車よりも前方の第一車線を走行していた。本件交差点の北側には第一車線左端に駐車車両が連なっていたことから、被告は第一車線の右側端に沿って走行していた。その後、本件交差点手前の南行き車線の第一車線の幅員が狭くなった先の第二車線内で、乙車の左側後部と甲車の右側後部が衝突し(第一事故)、甲車は左前方に向きを変えて走行して左前部を丙車の右前部に衝突させて停止した(第二事故)。乙車は、右側を中央分離帯に乗り上げて停止した。
ウ 訴外寄川純一は、丙車を運転して本件交差点で左折して南行き車線に合流しようとして、東から合流する道路の横断歩道を越えて、自車の先頭が駐車車両の幅半分ほど南行き車線に入った位置で停止して北を見たところ、甲車が第一車線を進行してくるのが見えたため、そのまま停止して通過を待っていた。すると、甲車が右(東側)に進路を変えてやや右に走行して第二車線を走行してきた乙車と衝突し、今度は丙車側に向かって来て丙車の右前部に衝突するのを目撃した。
エ 原告杉山は、乙車を運転して時速約四〇キロメートルで走行していたところ、左前方の第一車線左側端の区分線ぎりぎりの部分を走っていた甲車が車線変更の合図をすることなく右に向きを変えて車線変更を始めたことから、乙車との衝突の危険を感じてハンドルを右に切った、しかし回避できずに甲車と乙車が衝突したと述べる。
オ 被告は、本件事故以前には第二車線に入り込んでいたか否かについてははっきりとは覚えていない、第一事故前にハンドルを右に切った覚えはないと述べる。そして、同人は、本件事故後の実況見分の際には、第一事故の衝突時の甲車の位置よりも約一二・二メートル手前(実況見分調書<1>)で丙車を発見して危険を感じてブレーキを掛けた、そこから約五・二メートル進んで右バックミラーを見た、その後、第二車線内に車両右側をはみ出させた位置で乙車と衝突したと警察官に指示説明し、また、保険会社が依頼した調査員に対しても、本件交差点手前で、急に出てきた丙車を見て急ブレーキを踏んだ、ブレーキを踏んだ時点で右サイドミラーで右側第二車線走行車両の有無を見たところ甲車が見えたので右へのハンドル回避はせずにそのまま真っ直ぐに前進をして止まり掛けた、自車が止まったか止まらないかに乙車に追突されたと述べ、一貫して右にハンドルは切っていないと述べる。
(2) 以上の事実、特に本件道路の状況、第一事故の衝突位置に照らすと、被告は丙車が東から合流する道から左折進入しようとしていることに気づき、これに気を取られて道なりに左に向かわずに直進したために、第二車線に甲車の右側をはみ出させ、第二車線を後続してきた乙車と衝突したものと見るのが相当である。
そして、被告は、第二事故に至る状況に照らし、原告杉山がハンドルを左に切ったと主張するが、同人が左側に甲車があるにもかかわらずハンドルを左に切る行動に出る動機は何ら認められない。そして、被告が主張する甲車が第一事故後に左前方に走行して第二事故に至った経緯は、右にハンドルを切った乙車の左後方が甲車の右後方に衝突した場合には生じ得ないとまでは断言することはできず、その入力の位置、方向、被告のハンドル操作の状況によっては生じうる余地がないとはいえないから、原告杉山の右にハンドルを切ったとの供述を不自然ということはできない。また、被告は原告杉山はかなりの速度で走行していたと主張するが、原告杉山が認める時速約四〇キロメートルを超えた速度で走行していたことを認めるに足る証拠はない。
(3) 以上によれば、被告には進路変更の合図なしに第二車線に入って乙車の進行を妨げた点で本件事故について主要な過失があるが、他方、原告杉山についても第一車線右端を走行していた甲車の存在に気づいていたのであるから、甲車が第二車線に進路変更するかもしれないことを予測して十分な車間距離を取り、その動静を注視すべき義務がないとはいえず、これらの過失の内容、第一事故の発生した位置、事故態様に照らすと、原告杉山と被告との過失割合は一対九と見るのが相当である。
二 争点(2)(原告らの損害額)について
(1) 原告杉山の損害
ア 治療費 七五、九六八円
証拠(甲三の<1>、<2>、四の<1>ないし<5>、原告杉山浩二本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告杉山は、本件事故により右肘挫傷(尺骨神経麻痺)の傷害を受け、本件事故日から平成一一年一〇月二二日までの約四か月弱の間に合計九日間通院治療を受け、上記の治療費を支払ったことが認められるから、これを本件事故による損害と認めるのが相当である。
イ 休業損害 一〇二、五六〇円
原告杉山は、運転手として稼働しているところ、運送先で行う土木工事ができないから本件事故後平成一一年八月二〇日までの六六日間を休業したとして休業損害証明書(甲五)を提出する。しかし、この休業損害証明書の作成者は原告会社であって、本件事故に関して第三者ではないから直ちに信用することはできず、証拠(甲三の<1>、<2>、四の<1>ないし<5>)によれば、右の休業したと称する期間の原告杉山の通院実日数は六月中に三回、七月中に一日と一五日の二回、八月は二〇日近くなって続けて二回と当初から極端に間遠な通院であること、当初の田中外科では右肘挫傷(尺骨神経麻痺)の診断であり右第四、五指しびれ感の訴えがあるものの事故から六日後の六月二一日から通院した協立総合病院では単に右肘挫傷の診断となり、右肘痛の訴えがあるのみであることに照らすと、二か月以上の休業は信用することができない。そこで、事故の翌日から協立総合病院受診の前日である六月二〇日までの五日間及びその後の実通院日数五日間の合計一〇日間について、証拠(甲五)により認められる本件事故直前三か月の一日当たりの収入一〇、二五六円(九四三、六〇〇÷九二)を休業損害として認めることで足ると認められる。
10,256×10=102,560
ウ 慰謝料 二〇〇、〇〇〇円
上記の通院日数とその間隔に照らし、慰謝料は上記の額をもって相当と認める。
エ 損益相殺
以上合計三七八、五二八円から原告杉山の過失割合一割を控除した残額は三四〇、六七五円となるところ、これから既払いの自賠責保険金六三二、九三二円(甲一一)を控除すると被告が負担すべき残額はない。
オ 弁護士費用 〇円
したがって、弁護士費用のうち被告が負担すべき部分も認められない。
(2) 原告会社
ア 車両損害(乙車修理費) 三〇三、八〇七円
証拠(甲七)によれば、本件事故による乙車の損害は上記の額と認められる。
イ 弁護士費用 二七、〇〇〇円
上記の損害額から原告会社と同視すべき原告杉山の過失割合一割を控除した残額は二七三、四二六円であるところ、これに照らすと、被告が負担すべき弁護士費用は上記の額をもって相当と認める。
三 争点(3)(被告の損害額)について
(1) 人的損害
ア 治療費・文書料 三四、一八五円
当事者間に争いがない。
イ 通院交通費 一九、〇〇〇円
証拠(乙一の<2>、<3>、二、三、被告本人)によれば、被告の受診先は被告の勤務先である名古屋第一赤十字病院であること、被告は本件事故当日から七月一一日までは休業していたものの、その後は同病院に通勤しており、以後の通院は勤務の際に受診していることが認められ、したがって、六月一五日ないし七月五日までの五日間について上記の額の通院交通費のみを本件事故の損害として認めるのが相当である。
ウ 休業損害 四七八、七九三円
欠勤期間中の給与の減額分四三五、四九五円は当事者間に争いがない。証拠(乙四)によれば、平成一一年一二月に支給された賞与も本件事故により四三、二九八円減額されたことが認められる。したがって、上記の額を本件事故に基づく休業損害として認めるのが相当である。
エ 慰謝料 四五〇、〇〇〇円
証拠(乙一の<1>ないし<3>)により認められる通院状況(実通院日数一九日)に照らし、上記の額を本件事故による慰謝料として認めるのが相当である。
(2) 物的損害(車両損害・全損) 五九〇、〇〇〇円
当事者間に争いがない。
(3) 損益相殺
以上によれば、被告の損害は、人的損害合計九八一、九七八円、物的損害五九〇、〇〇〇円であるところ、このうち被告の過失割合九割を控除した残額は人的損害九八、一九七円、物的損害五九、〇〇〇円となる。このうち人的損害については五〇一、〇二八円が自賠責保険から支払われたことについて当事者間に争いがないから、残額はない。
(4) 弁護士費用 六、〇〇〇円
上記の損害残額に照らし、本件事故と相当因果関係に立つ弁護士費用は上記の額と見るのが相当である。
四 結論
以上によれば、原告有限会社泉土木の請求は三〇〇、四二六円及び不法行為時であることの明らかな平成一一年六月一五日から支払済みまで民法所定の年五分の遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるが、原告杉山の請求は理由がない。被告の請求は、六五、〇〇〇円及び不法行為時であることの明らかな平成一一年六月一五日から支払済みまで民法所定の年五分の遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。
(裁判官 堀内照美)