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名古屋地方裁判所 平成12年(ワ)1273号 判決 2002年1月23日

主文

1  被告甲は,原告に対し,金3117万3869円及びこれに対する平成12年5月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  原告の被告有限会社乙及び被告丙に対する請求並びに被告甲に対するその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は,原告と被告甲との間においては,原告に生じた費用の4分の1を被告甲の負担とし,その余は各自の負担とし,原告と被告有限会社乙及び被告丙との間においては,全部原告の負担とする。

4  この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

被告らは,原告に対し,連帯して金3717万3869円及びこれに対する平成12年4月4日(訴状送達の日の翌日,但し被告甲につき同年5月28日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は,原告から被告らに対し,被告有限会社乙(以下「被告会社」という)に対する貸金につき,被告丙及び被告甲が連帯保証したとして,その支払を求めた事案である。

被告会社及び被告丙は,本件貸金の一部を認めたが,一部を否認した。

被告甲は,公示送達による呼出しを受けたが,本件口頭弁論期日に出頭しない。

一  請求原因

1  原告は,次のとおり,被告会社に金員を貸し付け,被告丙及び被告甲が連帯保証した。

なお,貸金GないしIを除き,被告会社及び被告丙につき,被告甲が代理(署名代理権も含む)したものである。

また,貸金J及び貸金Lを除き,記載金額の金員を貸し渡した。

貸金J及び貸金Lについては,平成7年7月30日ころ,原告と被告ら(被告会社及び被告丙につき被告甲が代理した)との間で,今後原告が第三者からの借入金をもって被告会社に貸付をする場合は第三者に対する利息も原告からの借入金とする旨約し,同約定(以下「みなし約定」という)に基づき,それぞれ第三者に対する利息分を付加して貸付金額としたものである。

a 平成7年7月30日金80万円(同額面の被告会社振出の約束手形[甲5の1]を担保として受領した)(以下「貸金A」という)

b 同年8月29日金100万円(同額面の被告会社振出の小切手[甲5の2]を担保として受領した)(以下「貸金B」という)

c 同年11月6日金140万円(同額面の被告会社振出の約束手形[甲5の3]を担保として受領した)(以下「貸金C」という)

d 同年12月1日金100万円(同額面の被告会社振出の小切手[甲5の4]を担保として受領した)(以下「貸金D」という)

e 平成10年5月1日金100万円(以下「貸金E」という)

f 同年6月20日金20万円(同額面の被告会社振出の小切手[甲5の5]を担保として受領した)(以下「貸金F」という)

g 同年7月6日金500万円(以下「貸金G」という)

h 同月24日金500万円(以下「貸金H」という)

i 同年8月10日金500万円(以下「貸金I」という)

j 平成11年1月4日金153万3375円(但し貸し渡した金員は145万円)(以下「貸金J」という)

貸金Jの原資は,原告が住友生命保険相互会社から自己の生命保険契約を担保として借り入れたものであり,1年分の利息が8万3375円で,これを付加した金額である。

k 同年4月27日金210万円(同額面の被告会社振出の小切手[甲5の6]を担保として受領した)(以下「貸金K」という)

l 同年8月3日金1494万0494円(但し準消費貸借であるとともに,貸し渡したとされる金員は合計1288万円)(以下「貸金L」という)

貸金Lの旧債権は次のとおりであり,原告所有の株券を担保として各質店に差し入れた。

① 平成10年12月7日金140万円(春日井市の丁質店から原告が借り入れし,被告会社代理人被告甲に貸し渡した)

② 同月10日金440万円(津島市の戊商店から原告が借り入れし,被告会社代理人被告甲に貸し渡した)

③ 平成11年1月6日金140万円(名古屋市s区の己質店から原告が借り入れし,被告会社代理人被告甲に貸し渡した)

④ 同月29日金183万円(津島市の戊商店から原告が借り入れし,被告会社代理人被告甲に貸し渡した)

そして,同年8月3日,被告会社代理人被告甲は,さらに借り入れを求めたので,原告は上記①ないし④を,上記戊商店からの借り入れに一本化してさらに借り入れをし,戊商店から合計1288万円の借入金とし,借入金約380万円(原告は具体的な手続を被告甲に委ねていたので,具体的な金額は不明)を被告会社代理人被告甲に交付した。その後平成12年3月3日までに,原告は戊商店からの借入金を弁済したが,支払った利息は206万0494円であった。したがって,同利息額を付加するものである。

2(表見代理-予備的に)

原告は,各貸金(貸金GないしIを除く)の際,被告甲に被告会社及び被告丙の代理権があると信じた。

被告甲は,当初の貸金の際から,原告に対し「被告会社は娘婿の被告丙が代表者をしている。被告会社は一般貨物自動車運送事業等を目的としている。被告丙は若いこともあって,代表者といっても運送業務に専念し,資金のやり繰りを含め経理面及び陸運局に対する諸手続等の事務面は,全て被告甲が担当している。」旨説明した。そして,被告甲は,原告に運転させて,何度となく陸運局や税理士事務所に行った。また,貸金AないしD,F,Kの際には,被告甲が被告会社振出の約束手形や小切手を持参し原告に交付した。

よって,原告が被告甲に代理権があると信ずるについて正当の理由がある。また,商法42条,43条の類推適用が成立する。

3(求償金-貸金Lにつき予備的に)

a 平成7年7月30日ころ,被告甲及び被告丙は,原告に対し,今後原告が第三者からの借入金をもって被告会社に貸付をする場合に,被告会社が原告に対し負担する債務につき連帯保証する旨約した。

b 被告会社は,平成10年12月から平成11年1月にかけて,次のとおり,原告所有の株券を担保(質入れ)として,被告甲名義で,各質店から金銭を借り入れた。

① 平成10年12月7日春日井市の丁質店から金140万円

② 同月10日津島市の戊商店から金440万円

③ 平成11年1月6日名古屋市s区tの己質店から金140万円

④ 同月29日津島市の戊商店から金183万円

c 同年8月3日,被告会社は,更なる借入をするため,上記4口の借入を一本化し,上記戊商店に,原告所有の株券30通(一部は前記株券を流用)を質入れして,被告甲名義で,利息月額38万6400円の約定により金1288万円を借り換えた。

d その後被告らは戊商店に対する返済ができず,原告は,同年12月22日から平成12年3月3日の間に,合計6回にわたり,上記借換債務元金1288万円及び利息206万0494円,合計1494万0494円を戊商店に弁済し,上記株券30通を取り戻した。

e 原告の戊商店に対する上記弁済は,物上保証人的地位に基づくものであるから,民法351条の類推適用により,原告は被告会社に対する求償権を有する(形式的には物上保証人ではないとしても同様の地位にある)。

なお,同求償権も,被告会社の資金調達に由来するものであり,前記連帯保証の範囲に含まれるものである。

4(使用貸借の返還債務不履行に基づく損害賠償請求権ー貸金Lにつき予備的に)

a 前項記載のとおり,原告は,質入れすることを了解して,被告会社に株券30通を貸与した。

しかし,被告会社は,流質期限までに株券30通を取り戻す資金を準備できず,原告において自ら戊商店に弁済しなければならなかった。

したがって,原告は,使用貸借契約における被告会社の目的物返還債務不履行に基づく損害賠償請求として,前記1494万0494円の支払を求める。

b なお,同損害賠償請求権も,被告会社の資金調達に由来するものであり,前記連帯保証の範囲に含まれるものである。

5 よって,原告は,被告らに対し,本件金銭消費貸借契約(予備的に求償請求権ないし損害賠償請求権)及び連帯保証契約に基づき,連帯して金3717万3869円(一部弁済後)及びこれに対する弁済期後であり本件訴状送達の日の翌日である平成12年4月4日(但し被告甲につき同年5月28日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否(被告会社及び被告丙)

1  請求原因1のうち,貸金GないしIにつき認める。

請求原因1のその余の貸金は,被告甲が勝手にしたものであり,被告会社の借入,被告丙の連帯保証を否認する。被告会社及び被告丙は被告甲に代理権を授与していない。

但し,貸金AないしD,F,Kにつき被告会社は追認し,被告丙はその分につき連帯保証した。

なお,みなし約定の事実を否認する。被告会社,被告丙の被告甲への代理権授与も否認する。

2  請求原因2の主張は争う。

被告会社の経理面,陸運局の手続は被告丙がしていた。その余の事務を被告甲がしていたとしても,事実的な事務面を代表者がすべてしている会社はなく,事実上事務作業をしているからといって,会社の代理権があるとか,商法42条,43条の類推適用があるとか言えるものではない。

被告会社においては,車両購入費用,多額の修理費以外は,約束手形を振り出してはおらず,また,支払は銀行振り込みによりしているので,被告甲が約束手形や小切手を振り出す権限も必要性もなかった。

また,仮に原告が代理権があると信じたにしても,重大な過失が存した。すなわち,原告は,被告甲に約3000万円の貸付をしており,その返済はほとんどされていなかった。被告甲個人の借入の使途につき合理的な事情はなく,同被告が派手な浪費生活をしていたことは明らかな状況であって,被告会社の資金繰りといった説明も非常に疑わしいことが原告において容易に判明する状態であったものである。

3  請求原因3のうち,被告会社及び被告丙の行為を否認し,主張は争う。

4  請求原因4のうち,被告会社及び被告丙の行為を否認し,主張は争う。

三  抗弁(弁済及び和解契約)(被告会社及び被告丙)

1  平成11年9月30日,被告丙は,原告から緊急に200万円を返してほしいとの申し出により,200万円を返済した。

2  同年10月17日ころ,もしくは同年11月末ころまでの間に,被告会社及び被告丙と原告との間で,次の内容の和解契約が成立した。

a 被告会社及び被告丙は原告に対し,総額2150万円を,平成11年11月から毎月末日限り30万円宛て分割して支払う。

b 原告は被告会社及び被告丙に対し,その余の請求を放棄する。

3  被告会社及び被告丙は,同和解に基づき,平成11年11月から平成13年12月までの間に,原告に対し,各30万円ずつ合計780万円を返済した。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実を認めるが,本訴請求債権に対する弁済ではない(再抗弁記載のとおり)。

2  抗弁2の事実を否認する。

3  抗弁3の事実を認める。

五  再抗弁

平成11年5月21日,原告は,被告会社代理人被告甲に対し,200万円を貸し渡した。被告甲の説明では,銀行から融資を受けるために被告会社の帳簿をきれいにする必要があるとのことであり,原告は実姉庚から融資を受けて被告会社に貸したものである。

同年9月中旬に,被告甲が出奔したので,原告は被告丙に上記貸金を説明し,早急に庚に返済の必要がある旨求め,返済を受けたものである。

六  再抗弁に対する認否(被告会社及び被告丙)

再抗弁のうち,被告会社が200万円を借り受けたことを否認する。被告甲が借り受けたかどうかは知らない。

本訴請求債権の一部として被告丙が返済したものである。

第3当裁判所の判断

一  まず,被告甲に対する請求について判断する。

被告甲は,公示送達による呼出しを受けたが,本件口頭弁論期日に出頭しない。

本件全証拠によれば,被告甲は,本訴請求貸金債権すべてにつき,連帯保証人ないし本人として,債務を負担したことを認めることができる。

そして,弁論の全趣旨によれば,減縮された本訴請求額から被告丙ないし被告会社から600万円が弁済されたことを認めるから,被告甲に対する請求は,金3117万3869円及びこれに対する平成12年5月28日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由がある。

二  次いで,被告会社及び被告丙に対する請求について判断する。

請求原因1について検討する。

請求原因1のうち,貸金GないしIについては,当事者間に争いがない。また,貸金AないしD,F,Kについては,その後被告会社が同貸金を追認し,被告丙は連帯保証した旨を同被告らは自認する。

請求原因1のその余の点につき判断するに,証拠(甲1,2,3の1ないし30,6,7の1ないし6,22,原告)によれば,被告甲から,被告会社の借入であり,被告甲及び被告丙が連帯保証するからと言われて,原告が被告甲に貸金E,J,及びLを貸したこと,時期は別にして,被告甲は原告にみなし約定を約したことを認めることができる。

しかしながら,本件全証拠を精査しても,その際,被告甲が被告会社及び被告丙から代理権を与えられていたことを認めるに足りる証拠はない。

三  請求原因2(表見代理)について判断する。

当事者間に争いのない事実に証拠(甲1,2,3の1ないし30,4,5の1ないし6,6,7の1ないし6,8の1・2,9,10,11の1ないし3,12,22,23,乙3,5,証人戊,原告,被告丙)を総合すれば,次の事実が認められる。

1  被告丙は,昭和61年ころから「丙商店」の屋号で運送業を営んでいたが,平成5年6月法人化して被告会社を設立し,代表取締役となった。取締役は妻の辛,監査役を辛の母である被告甲とした。

被告丙は,妻辛と春日井市u町のマンションを賃借して生活していたが,昭和62年10月に被告甲夫婦(辛の父母)が借金のため名古屋市v区の自宅を売却し,被告丙夫婦と同一マンションの他の部屋に引っ越してきた。

その後平成元年5月,被告丙一家は春日井市w町のxマンションに転居したが,その間被告丙夫婦に2人の子供ができたこともあり,被告甲らもxマンションに入りびたるようになった。

被告丙は,運送業の事務的作業を妻の辛にさせていたが,平成元年ころから辛は被告甲に同作業を代わってもらっていた。平成5年に法人化した際,被告会社は被告甲をパート従業員とし,月額8万円の給料を支払う形とした。

2  昭和62,3年ころ,原告は,被告甲と知り合い,一緒に旅行や食事に行くなど親しくなり,平成11年ころまで,原告は被告甲とほとんど毎日のように会ったり電話したりしており,同被告の運転手代わりに用事に付き合っていた。

被告甲は原告に「被告会社は私と被告丙とが中心になってしており,私は経理及び事務全般を担当している。被告丙は若く,運送業務に専念している。」と話しており,被告会社の印鑑を常に所持していた。原告は,時々被告甲を労働基準局,陸運事務所,税理士事務所,銀行等へ運転して連れて行った。

原告は,被告甲に頼まれ,金を貸したり,丸栄の外商カードを貸したりしていた。

3  平成7年7月30日ころ,原告は,被告甲から「被告会社に金を貸してほしい。私と被告丙が連帯保証するので,迷惑はかけない。」と依頼され,80万円を貸し渡した。そのとき,被告甲は,被告会社振出の額面80万円の約束手形を担保として原告に交付した(貸金A)。

4  その後も同様に,同年8月29日に100万円(貸金B),同年11月6日に140万円(貸金C),同年12月1日に100万円(貸金D)を,被告会社振出の同額の約束手形あるいは小切手を担保として,原告は被告甲に貸し渡した。

5  平成10年5月1日,原告は,被告甲から「被告会社は平成11年4月末までに県保証から融資を受けられるので,それまでに返す。」と言われ,100万円を同被告に貸し渡した(貸金E)。

6  同年6月20日,原告は,従前同様に,20万円(貸金F)を,被告会社振出の同額の小切手を担保として受領し,被告甲に貸し渡した。

7  同年4月ころ,被告会社は,4トン車2台を増車することにし,その代金1500万円をディーラーローンで支払う予定としていたが,同年6月ころ,被告甲が被告丙に,原告から借入をしたい,これまで原告に約600万円借りている旨話し,被告丙は,会社として原告から借入をし,これまでの分の金利分も含めて全部で2700万円として,分割で返済しようと思い,その旨を書面(甲10)に記載し,署名押印した。

そして,同年7月初めころ,被告丙と被告甲は,原告方を訪れ,1500万円の借入を依頼し,上記書面(甲10)及び被告会社の印鑑証明書(甲12)を原告に交付した。

上記書面の記載は,被告丙の意図のとおりには読み取れず,「1500万円の分割と2400万円の分割」に読める記載になっていたが,原告は,それまで貸した合計額が540万円にすぎず,今回の1500万円を併せても2040万円にしかならないことを把握していながら,貸金額の確認や同書面の金額の記載(例えば金利なのか等)についても何ら尋ねることなく,記載上窺える合計額3900万円は2040万円よりかなり多いと思いながら,黙ってこれを受領した。

そして,貸金GないしIが行われた。その際は,被告丙が被告甲に同道して原告宅を訪れた。後に被告甲が出奔するまで,原告が被告丙に会ったのはこの3回だけであった。

8  同年8月10日,貸金Iの際,被告丙は,1500万円につき車両を担保として提供する旨の書面(甲4)を原告に交付した。

9  原告は,このころまでに,被告甲個人に対し,合計3000万円程度を貸し渡しており,返済が受けられるかどうか不安であった。

10  同年12月7日ころ,原告は,被告甲から「被告会社のガソリン代等の資金が不足しているので金を貸してほしい。」と言われ,原告所有の株券を春日井市の丁質店に質入れし,被告甲名義で同質店から借り入れて,被告甲に金140万円を交付する形で,被告会社に対し同金員を貸し付けた(貸金Lの旧債権①)。

その際,原告と被告甲は,今後原告が第三者からの借入金をもって被告会社に貸付をする場合は第三者に対する利息も原告からの借入金とする旨約し(みなし約定),被告甲と被告丙が連帯保証する旨約した。

11  同月10日ころ,同様にして,原告は,原告所有の株券を津島市の戊商店に質入れし,被告甲名義で同質店から借り入れて,被告甲に金440万円を交付する形で,被告会社に対し同金員を貸し付けた(貸金Lの旧債権②)。

12  同年暮れころ,原告は,被告甲から借入を頼まれ一旦断ったものの,「どうしても被告会社の資金が不足しているので,金がないなら加入している生命保険会社で借りて,被告会社に貸してほしい。」と懇願され,そのころ,住友生命保険相互会社から145万円を借り入れる手続をし,平成11年1月4日,被告甲に金145万円を交付して,被告会社に貸し付けた(貸金J)。なお,その後平成12年4月14日原告が住友生命保険相互会社に利息8万3375円を付加して弁済したので,みなし約定によれば,貸付金額は金153万3375円となる。

13  平成11年1月6日,原告は,原告所有の株券を名古屋市s区の己質店に質入れし,被告甲名義で同質店から借り入れて,被告甲に金140万円を交付する形で,被告会社に対し同金員を貸し付けた(貸金Lの旧債権③)。

14  同月29日,原告は,原告所有の株券を津島市の戊商店に質入れし,被告甲名義で同質店から借り入れて,被告甲に金183万円を交付する形で,被告会社に対し同金員を貸し付けた(貸金Lの旧債権④)。

15  同年2月上旬,被告甲は,原告に「同年4月30日ころ県保証協会から被告会社に融資が実行されるので,貸金K及び貸金Lの旧債権を返済する。」と言って,その旨の書面(甲8の1)を原告に交付した。同書面は,原告の面前で被告甲が作成し,被告会社名義の印鑑は被告甲が所持していた印鑑で押印し,被告丙の名前は被告甲が記載し,押印した。

16  同月19日,被告甲は,原告に前項同様の書面(甲8の2)を交付した。同書面は被告甲の単独名義であった。

17  同年4月27日,原告は,210万円(貸金K)を,被告会社振出の同額の小切手を担保として受領し,被告甲に貸し渡した。

18  同年6月1日ころ,被告甲は,貸金K及び貸金Lの旧債権を返済することができなかったので,原告に対し,被告丙の生命保険証券(甲11の2)を交付し,その場で同証券を担保に預ける旨の書面(甲11の1)を記載して交付した。同書面は,被告会社及び被告丙名義であったが,被告甲が被告丙の名前も記載して押印した。

19  同年8月3日,被告甲は,さらに原告に借り入れを求めた。原告と被告甲は,上記①ないし④を,戊商店からの借入に一本化してさらに同商店から借り入れをすることにした。

被告甲がその手続をし,原告所有の株券30通を戊商店に質入れし,被告甲名義で同質店から借り入れて,被告甲に対する合計1288万円の借入金とする形で,被告会社に対し貸し付けた(貸金L)。なお,その後同年12月22日から平成12年3月3日までに原告が戊商店に利息206万0494円を付加して弁済したので,みなし約定によれば,貸付金額は金1494万0494円となる。

20  同年(平成11年)9月21日,被告甲夫婦,辛,被告丙の2人の子供が出奔し,被告会社の金員約480万円がなくなっており,また,被告丙に無断で協議離婚届が提出されていた。なお,被告会社が原告から借り入れた1500万円(貸金GないしI)は,車両代金に支払われておらず,行方不明である。

被告会社は,同月30日期日の手形を決済することができず,銀行取引停止となり,同年10月4日廃業に至った。

以上の事実が認められる。

同認定事実によれば,貸金Eについては平成10年7月6日ころ被告会社及び被告丙が追認したものと認める(なお,貸金AないしD,F,Kについては被告会社及び被告丙が追認を自認している。)。

そこで,貸金J及び貸金Lにつき,表見代理の成立を検討する。

前記認定事実によれば,被告甲が原告に対し,被告会社は私と被告丙が中心で,私は経理及び事務全般を担当している旨言っていたこと,被告甲が被告会社の印鑑を常に所持していたこと,被告甲は原告とともに陸運事務所,税理士事務所,銀行等へ行っていたこと,貸金GないしIの際,被告丙が被告甲と同道して借入をしたことを認めることができ,原告が被告甲に被告会社及び被告丙の代理権があるものと信じたことを認めることができる。

しかしながら,原告は,昭和62,3年ころから被告甲と知り合いで親しく,ほとんど毎日のように会ったり電話したり,同被告の運転手代わりに用事に付き合っていたこと,平成10年半ばころまでに,原告は被告甲個人に3000万円貸していたが,返済されず,不安に感じていたこと,したがって,貸金J及び貸金L(旧債権も)が被告甲の個人的な借入ではないかと疑うのが相当な状況であったこと,貸金J及び貸金L(旧債権も)は原告の生命保険や株券を担保に入れて原告あるいは被告甲が保険会社や質店から借り入れる形式であり,契約時に原告から被告会社が借り入れる形をとることについて書面も作成されなかったこと,原告は,貸金GないしIの際に被告丙に会っていたのであり,貸金J及び貸金Lの際に,被告丙に対し,容易に意思確認を取ることができたとみられること等の事情を認めることができ,以上の事情に鑑みれば,貸金J及び貸金L(旧債権も)につき,原告が,被告甲に,被告会社及び被告丙の代理権があると信ずるについて正当の理由があるとするには十分でない。

また,被告甲が被告会社の営業主任あるいは支配人に類するような名称を使用していた事実は窺われず,営業に関する委任を受けた事実も認められないから,商法42条,43条類推の主張も採用できない。

四  請求原因3,4について判断するに,いずれも,その前提となる貸金Lにつき,被告甲の被告会社及び被告丙についての代理権あるいは表見代理の事実を認めることができないから,いずれも理由がない。

五  以上によれば,被告会社及び被告丙に対しては,金2250万円及びこれに対する遅延損害金の限度で,請求原因は理由がある。

六  抗弁につき判断する。

抗弁1の事実は当事者間に争いがない。

抗弁2(和解契約)につき検討するに,証拠(乙5,原告,被告丙)によれば,次の事実が認められる。

1  平成11年10月17日ころ,原告,原告の息子,被告丙,壬(被告丙の知人)で話し合いをした。その席で,原告側は,「1500万円,650万円,株券担保の903万円を返す。」ことを求め,被告丙は,「1500万円と650万円について月額20万円の分割で支払う。」旨答えた。原告側は,「株券の903万円を払わないのなら2150万円を一括で払ってほしい。分割なら全額払ってほしい。」と言って,物別れとなった。

2  その後,原告の娘から被告丙に電話があり,2150万円の分割でよいから公正証書を作ってほしい旨の依頼があり,被告丙はこれを承諾した。

3  そして,同年11月17日ころ,名古屋市y区zの公証人役場で会い,公正証書を作成しようとしたところ,原告が被告丙に対し月額30万円払ってほしいと言ったので,同被告は話が違うとして,退席した。

4  同月下旬ころ,原告から被告丙に電話があり,原告が「毎月30万円ずつ払ってもらわないと,やっていけない。」と話をしたので,同被告もこれを了承し,同月末日から月額30万円を払うこととした。

5  その後,被告会社及び被告丙は,平成13年12月まで,原告に対し,月額30万円合計780万円を送金した。

以上の事実を認めることができ,同認定を左右するに足りる証拠はない。

同事実によれば,平成11年11月下旬ころ,原告と被告会社及び被告丙との間で,以下の内容の和解が成立したと認められる。

a 被告会社及び被告丙は原告に対し,総額2150万円を,平成11年11月から毎月末日限り30万円宛て分割して支払う。

b 原告は被告会社及び被告丙に対し,その余の請求を放棄する。

なお,付言するに,同和解に至る経緯の中で,同年9月の被告丙の200万円の支払分については触れられなかったと認めるから,同和解の総額2150万円の中には同200万円は含まれないと解するのが相当である(したがって,再抗弁につき判断する必要がない。)。

抗弁3の事実は当事者間に争いがない。

したがって,抗弁は理由がある。

(裁判官 藤田敏)

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