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名古屋地方裁判所 平成13年(ワ)1713号 判決 2002年11月11日

原告

坂井めぐみ

ほか二名

被告

石田卓司

主文

一  被告は、原告坂井めぐみに対し、金一億一六二六万六三五二円及びこれに対する平成一〇年三月八日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告坂井めぐみに対し、金四〇四万五〇八一円を支払え。

三  被告は、原告坂井宏次に対し、金一九八万円及びこれに対する平成一〇年三月八日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告は、原告坂井順子に対し、金一九八万円及びこれに対する平成一〇年三月八日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

五  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

六  訴訟費用はこれを二分し、その一を被告の負担とし、その余を原告らの負担とする。

七  この判決は、原告ら勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告坂井めぐみに対し、金二億八四六七万八一七八円及びこれに対する平成一〇年三月八日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告坂井めぐみに対し、金三〇〇〇万円に対する平成一〇年三月八日から平成一二年一一月一七日まで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は、原告坂井宏次に対し、金三三〇万円及びこれに対する平成一〇年三月八日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告は、原告坂井順子に対し、金三三〇万円及びこれに対する平成一〇年三月八日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告らが被告に対し、民法七〇九条、七一〇条(なお、原告宏次、同順子は、固有の慰謝料の請求につき七一一条類推適用を根拠として主張している。)、自賠法三条に基づき、被告が運転する自動車(以下「被告車」という。)の交通事故(以下「本件事故」という。)により、被告車に同乗していた原告坂井めぐみ(以下「原告めぐみ」という。)及びその両親である原告らが被った損害及びその遅延損害金の賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実等(証拠を示した部分以外は争いがない。)

(1)  当事者

原告坂井宏次(以下「原告宏次」という。)は、原告めぐみの父であり、原告坂井順子(以下「原告順子」という。)は、原告めぐみの母である。

(2)  本件事故

以下の交通事故が発生した(甲一、一四の<1>)。

ア 日時 平成一〇年三月八日午前五時三〇分ころ

イ 場所 名古屋市北区荻野通二丁目一〇番地先路線上(以下この場所を「本件事故現場」、この道路を「本件道路」という。)

ウ 被告車 普通乗用自動車(尾張小牧八八す五三六七)

エ 同運転者 被告

オ 同同乗者 原告めぐみ

カ 事故態様 被告は、被告車を運転し毎時約五〇キロメートルの速度で走行していたところ、仮睡状態に陥り、被告車を中央分離帯上の街路灯に正面衝突させた。

(3)  原告めぐみの受傷

原告めぐみは、本件事故により第五頸椎脱臼骨折、外傷性頸髄損傷の傷害を負った。

(4)  原告めぐみの後遺障害

原告めぐみは、上記傷害により四肢の運動障害及び知覚障害並びに排尿及び排便障害が残存して、平成一一年一〇月二二日に症状固定したこれらの後遺障害は、自賠法施行令(平成一三年一二月二一日付政令第四一九号による改正前のもの。以下単に「自賠法施行令」という。)二条別表一級三号記載の後遺障害(神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの)に該当する。

(5)  損害のてん補

原告めぐみは、平成一二年一一月二一日、被告の付保する自賠責保険から三〇〇〇万円を受領した(甲一三)。

二  争点

(1)  好意同乗による減額

(被告の主張)

本件においては、原告めぐみと被告との関係、原告めぐみから深夜に被告が呼び出されたこと(運行の一部支配性)、原告めぐみが被告とともに本件事故前に徹夜で行動していたこと、危険な運転状態(居眠り)の容認、知情等が認められ、これらの事実からすると、原告めぐみの損害につき好意同乗による減額を認めるべきである。

すなわち、原告めぐみと被告は、本件事故の数か月前に知り合い、携帯電話で連絡する関係にあった。そして、被告は、平成一〇年三月八日午前〇時ころ、原告めぐみに新岐阜駅付近まで迎えにくるよう携帯電話で指示され、名古屋市から新岐阜駅まで原告めぐみを迎えに行き、その後、原告めぐみ及び友人らと名古屋市内において遊び、同日午前五時ころ、犬山市にある被告の友人宅に向かう道中に本件事故を起こした。また、被告は、原告めぐみ及び同乗者に対し、自分が前日の朝から起きていて眠気を有していることを伝えていた。このように、原告めぐみは、被告の疲労、睡眠不足状態を認識しており、被告の居眠り運転という危険な状態を作り出したことに関与しているといえる。にもかかわらず、原告めぐみは、本件事故時、被告に対し話しかける等していない。

以上のとおり、原告めぐみは、単なる無償同乗者ではなく、運行の一部支配性、関与性、あるいは、被告の危険な運転状態の関与・認容・予見があるから、その損害につき相当の減額がなされるべきである。

(原告らの認否及び反論)

そもそも好意同乗による減額は、自動車の保有が大衆に広く浸透した現代においては限定的に適用されるべきであり、例えば危険を承知しての同乗や、危険作出への加担など、同乗者側に帰責事由がなければ減額は認められない。ところで、原告めぐみは、本件事故当時一六歳の高校生であり、原動機付自転車の免許も有しておらず、被告の運転に関する具体的な危険を予知することは困難である。むしろ、被告の方が原告めぐみより年長者であり、運転免許証を有していることからすれば、原告めぐみが被告の運転を信用して同乗していたにすぎない。また、原告めぐみが被告に新岐阜駅まで迎えにきてもらったことをもって好意同乗減額が肯定される帰責事由とはならない。さらに、原告めぐみの同乗はせいぜい共通の目的地が存在したに過ぎないのであり、具体的な運行において支配的な立場になかったことは明白である。このように、被告の好意同乗減額の主張は現在の実務にそぐわない極めて形骸的な主張である。

(2)  シートベルト未装着による減額

(被告の主張)

原告めぐみは、自ら被告車の助手席に乗車した後、シートベルトを装着せずドアに寄り掛かり寝ていた。そして、本件事故においては、原告めぐみがシートベルトを装着していなかったことが、原告めぐみの重大な傷害、後遺障害の発生原因となっている。

すなわち、本件事故は、被告車前部中央部分が中破した事故であり、運転席等の被告車の室内に大きな損壊はなかった。また、被告車には、原告めぐみのほか同乗者が三名いたが、いずれの同乗者も負傷していない。さらに、原告めぐみは本件事故の勢いによりダッシュボードに頭を二、三回打ったことにより頸椎脱臼骨折という傷害を負っており、シートベルトを装着していたら上記傷害を受けなかったといえる。

以上のとおり、原告めぐみのシートベルト不装着について、信義則、損害の公平分担、公平の原則又は過失相殺の類推適用により、原告らの損害について相応の減額がなされるべきである。

(原告らの認否及び反論)

シートベルトの装着義務は、自動車の運転者に課せられているものであり、同乗者に課せられているものではない。また、原告めぐみは、本件事故当時一六歳と若く、むしろ運転者である被告が原告めぐみにシートベルト装着の指導をすべきであったといえ、被告はこれを怠っているのであるから、原告めぐみのシートベルト不装着を非難する立場にない。

さらに被告自身本件事故当時シートベルトを装着していなかったのであるから、原告めぐみがシートベルトを装着しなかったことを原告めぐみの過失であるかのように主張することは、禁反言の法理に反し失当である。

(3)  原告めぐみの損害

(原告らの主張)

ア 治療費 三三七万五五七四円

原告めぐみは、本件事故により第五頸椎脱臼骨折、頸髄損傷などの傷害を負った。原告めぐみは、上記傷害の治療のため平成一〇年三月八日から一〇七日間小牧市民病院に入院し、同年六月二二日から合計三四三日間中部労災病院に入院し、それぞれの病院において治療を受けた。

イ 付添費 七一一万二〇〇〇円

原告めぐみは、本件事故により第六頸髄支配領域以下の完全麻痺の症状があり、本件事故後八八九日間(ただし症状固定日までの日数は五九四日間である。)にわたり、常時原告宏次、同順子による付添を必要とした。

また、原告めぐみの入院期間中の付添費用は一日当たり八〇〇〇円が相当である。

たとえ、上記各病院が完全看護あるいは基準看護病院であったとしても、これらは建前に過ぎず、原告めぐみの入院期間中の家族介護の必要性が否定されることにはならない。家族による入院付添は治療中の者を勇気付けることはもちろん、病状が重篤な場合には身の回りの世話等に不可欠なものである。

計算式 8,000×889=7,112,000

ウ 入院雑費 六七万五〇〇〇円

一日当たり一五〇〇円の範囲で上記入院期間四五〇日間

計算式 1,500×450=675,000

エ 通院交通費 三万五五六〇円

オ 将来の付添介護料 一億〇八八六万五九三八円

(ア) 常時介護の必要性

原告めぐみは、第五頸椎脱臼骨折、外傷性頸髄損傷の傷害を受け、四肢麻痺、第六頸髄節以下知覚脱出、両上肢腱反射、両下肢腱反射亢進、バビンスキー徴候陽性の所見が認められ、両上肢下肢に運動障害が残存している。原告めぐみは、上記後遺障害のため、食事、排便、入浴、洗顔、洗髪、車椅子への移乗、着替え、体位交換等日常生活動作の全般にわたり他人による介護が必要であることからすれば、原告めぐみには、常時介護が必要であり、体位交換は夜間も午前〇時、午前三時の二回必要となることからも二四時間の介護が必要である。

(イ) 原告順子が六七歳になるまでの一二年間 四四八〇万一七〇三円

一年当たり、職業介護分(16,895×240=4,054,800)及び家族介護分(8,000×125=1,000,000)の合計五〇五万四八〇〇円が必要である。

なお、原告めぐみの介護には膀胱洗浄等が含まれており、これらの作業は通常の職業介護人では処置を行うことが制限されており、専門の資格を有する介護人による介護が必要となる。そして、専門の資格を有する介護人の介護料は通常の職業介護人の一・三倍であり、一日当たり一万六八九五円が必要となる。

計算式 5,054,800×8.8632=44,801,703

(ウ) 原告順子が六七歳以降原告めぐみの平均余命までの五四年間 六四〇六万四二三五円

職業介護人分として、平日一万六八九五円が必要であり、休日はさらに同金額が二割増しになる。

すると、一年あたりの介護料は平日分(16,895×356=6,014,620)及び休日分(16,895×1.2×9=182,466)の合計六一九万七〇八六円必要となる。

計算式 6,197,086×(19.201-8.8632)=64,064,235

(エ) 中間利息控除の基準時

本件事故から原告めぐみの症状固定時までの中間利息の控除は、本件のように事故から症状固定までが一年足らずの被害者において考慮する必要はない。

(オ) 中間利息控除割合

なお、被告は、昨今の低金利を理由に民事法定利率による遅延損害金の請求を年二分を限度に認容すべき旨主張している。そうであるならば、中間利息の控除割合についても年五分ではなく年二分にて算出すべきである。そこで、原告らは、被告が上記主張を維持する限度において、原告らが使用する年五分ライプニッツ係数を年二分のライプニッツ係数にして計算すべき旨主張する。

カ 将来の雑費(将来の治療費) 二〇〇四万五八四四円

原告めぐみは、症状固定後、現状を維持するため電気療法やリハビリ等を中心とした治療を継続する必要がある。また、原告めぐみは、本件事故による後遺障害のため、排尿、排便障害が残存し、平均余命までおむつの使用が必要となる。

これらの雑費及び将来の治療費をあわせると少なくとも月額八万七〇〇〇円は下らない。

計算式 87,000×12×19.201=20,045,844

キ 車両改造費 四三七万六六四八円

原告めぐみは、本件事故による後遺障害のため、特殊な車両が必要であり、原告めぐみの平均余命までの間、改造車両と通常車両の差額である一台当たり一一四万五〇〇〇円が法定耐用年数である六年ごとに必要となる。

計算式 1,145,000×(1+0.7462+0.5568+0.4155+0.3100+0.2313+0.1726+0.1288+0.0961+0.0717+0.0535+0.0399)=4,376,648

ク 介護ベッド代(現在及び将来) 一一六万一六二四円

原告めぐみは、将来にわたって介護ベッド及びマットレスが必要となる。その単価はベッド及びマットレスを合計すると二六万〇〇四〇円である。原告は既にこの介護ベッドを購入した。この介護ベッドの耐用年数は五年程度である。

計算式 260,040×(1+0.7835+0.6139+0.481+0.3768+0.2953+0.2313+0.1812+0.142+0.1112+0.0872+0.0683+0.0535+0.0419)=1,161,624

ケ 車椅子代(現在及び将来) 七四万二九四五円

原告めぐみは、将来にわたり車椅子の使用が不可欠である。そして、その単価は一台当たり一六万六三一五円である。この車椅子の耐用年数は五年程度である。なお、原告は車椅子(普通型)を購入しており、屋内用として使用している。

計算式 166,315×(1+0.7835+0.6139+0.481+0.3768+0.2953+0.2313+0.1812+0.142+0.1112+0.0872+0.0683+0.0535+0.0419)=742,945

コ 水回り用車椅子 四〇万二〇三九円

原告めぐみはトイレ、シャワー等を使用するために上記車椅子のほか水回り用の車椅子が必要であり、その単価は一台当たり九万円である。この水回り用車椅子の耐用年数は五年程度である。

計算式 90,000×(1+0.7835+0.6139+0.481+0.3768+0.2953+0.2313+0.1812+0.142+0.1112+0.0872+0.0683+0.0535+0.0419)=402,039

サ リクライニング車椅子 七〇万五八〇一円

原告めぐみは、起立性低血圧があり、車椅子の継続利用により脳貧血が発生する。そして、原告めぐみは、脳貧血が発生した時、直ちに頭を下げる必要があり、このためには、車椅子の背もたれが後方に倒れるリクライニング車椅子が必要である。

そして、上記リクライニング車椅子は屋外で使用され、一台一五万八〇〇〇円でその耐用年数は五年程度である。

計算式 158,000×(1+0.7835+0.6139+0.481+0.3768+0.2953+0.2313+0.1812+0.142+0.1112+0.0872+0.0683+0.0535+0.0419)=705,801

シ 床走行式電動介護リフター 一五八万五八二〇円

原告めぐみは、本件事故による後遺障害のため肩の一部を除いて自らの意思で動かすことができないため、車椅子への移乗、移動等につき電動介護リフターを必要とする。

このような電動介護リフターは一台三五万五〇〇〇円であり、その耐用年数は五年程度である。

計算式 355,000×(0.7835+0.6139+0.481+0.3768+0.2953+0.2313+0.1812+0.142+0.1112+0.0872+0.0683+0.0535+0.0419)=1,585,820

ス リハビリ用足漕ぎ訓練機 一九〇万六九〇五円

原告めぐみは、下肢を動かすことができないため、廃用性萎縮、筋肉拘縮、骨粗鬆症、血行障害を防ぐため、下肢のリハビリを行う必要があり、そのためには上記訓練機が必要である。

上記訓練機は一台あたり五五万円であり、その耐用年数は五年程度である。

計算式 550,000×(0.7835+0.6139+0.481+0.3768+0.2953+0.2313+0.1812+0.142+0.1112+0.0872+0.0683+0.0535+0.0419)=1,906,905

セ 自宅改造費 一二〇六万六六〇〇円

原告めぐみは、本件事故による後遺障害のため、自宅で療養生活を送るにあたり、住宅を必要な仕様に改造する必要が生じた。

なお、原告めぐみは、平成一三年九月当時、洗面台等について改造を行い、その費用として一一六万五五〇〇円を支出しているが、さらに昇降機工事として二〇二万六五〇〇円、和室改修工事として二八四万二三五〇円、浴室出入口改修工事として一〇一万三二五〇円、浴室内改修工事として五〇一万九〇〇〇円の合計一二〇六万六六〇〇円が家屋改造費として必要となる。

ソ 逸失利益 九〇八一万九八八〇円

(ア) 基礎収入

原告めぐみは、症状固定時、一八歳の学生(未就労)であり、その基礎収入については、将来の男女賃金格差の解消が合理的に期待できるため、平成一〇年賃金センサス産業計・企業規模計・全労働者学歴計全年齢平均賃金四九九万八七〇〇円とするべきである。

男女平等の理念に、近年、賃金の男女間格差が解消傾向にあること、女性の就業実態が大きく変化し、雇用の男女間格差に関する法制度の整備が進んでいること等を併せ考慮すると、女子未就労者の逸失利益の基礎収入については、男女を通じた全労働者平均賃金を採用すべきである。

(イ) そして、原告めぐみは、本件事故によりその労働能力を失ったのであるから、原告めぐみの症状固定時(一八歳)から六七歳までの四九年間労働が可能であったから、原告めぐみの後遺障害による逸失利益は以下のとおりとなる。

計算式 4,998,700×18.1687=90,819,880

タ 傷害慰謝料 五〇〇万円

原告めぐみの本件事故による治療経過、事故態様に照らせば、原告めぐみの傷害慰謝料は、上記金額を下らない。

チ 後遺障害慰謝料 三〇〇〇万円

原告めぐみの本件事故による後遺障害、事故態様、事故後の訴訟の進行状況等に照らせば、原告めぐみの後遺障害慰謝料は上記金額が相当である。

なお、原告めぐみは、搭乗者傷害保険金の保険料として二一〇〇万円を受領している。そして、搭乗者傷害保険金を加害者自身が支払っている場合には、見舞金として被害者の精神的苦痛を償おうとする謝罪の趣旨を含むと評価して慰謝料の算定に当たり斟酌する余地はある、しかし、本件では保険料は被告が支払っているものではなく、また、原告めぐみが本件事故により被った傷害が悲惨であることからすれば、原告めぐみの上記搭乗者傷害保険金の受領を慰謝料への斟酌事由とすべき余地はない。

ツ 弁護士費用 二五八〇万円

テ 小計 三億一四六七万八一七八円

ト 損害のてん補 △三〇〇〇万円

ナ 合計 二億八四六七万八一七八円

(被告の認否及び反論)

ア 治療費

不知

イ 付添費

否認する。原告めぐみは、症状固定までの期間のうち、小牧市民病院に一〇七日間、中部労災病院に三四三日間入院しているが、これらの病院は、完全看護病院であるから、上記期間は付添を要しない。また、それ以外の期間の付添費につき、日額八〇〇〇円の主張は高額である。

ウ 入院雑費

不知

エ 通院交通費

不知

オ 将来の付添介護料

原告めぐみが平成一一年一〇月二二日、症状固定となり、自賠法施行令二条別表記載の一級三号の後遺障害に該当するとのいわゆる事前認定を受けたことは認める。しかし、原告めぐみが若年であることからすると、原告めぐみの症状は将来回復する可能性があると思料する。

そして、原告めぐみは、車椅子で自力移動が可能であり、また、会話等も可能であること、原告らの介護内容、原告めぐみの自宅は改造がなされバリアフリー化されること、その他器具等につき別途請求していること等からすると、原告めぐみには、常時介護の必要はなく、随時介護で足りる。

なお、原告らは、付添の単価を計算するに当たり、職業介護人が必要である旨主張するが、その必要性及びその費用につき争う。特に、原告順子は、いずれ教員として再就職することを希望しているにすぎず、原告順子の再就職を前提とした職業介護人による介護料の請求は、事実に反する過剰な請求である。

カ 将来の雑費(将来の治療費)

争う。実費が不詳である。

キ 車両改造費

争う。耐用年数が税務上の減価償却年数となっており、耐用年数はより長期である。

ク 介護ベッド代(現在及び将来)

不知

ケ 車椅子代(現在及び将来)

後掲サのリクライニング車椅子と重複している。

コ 水回り用車椅子

必要性、損害金額、耐用年数について争う。

サ リクライニング車椅子

上記ケの車椅子と重複していることからすると、上記ケかリクライニング車椅子かどちらか一台のみ必要性が認められる。

仮に通常の車椅子とリクライニング車椅子の双方が必要であるとするならば、双方の耐用年数を判断する場合これを考慮する必要がある。

シ 床走行式電動介護リフター

不知

ス リハビリ用足漕ぎ訓練機

不知

セ 自宅改造費

原告らが主張する自宅改造費には、浴室テレビ、循環器等その必要性に疑問があるものがあること、玄関の段差昇降機はその価額が高額であること、和室から洋室への変更や自宅のバリアフリー化は原告めぐみの家族等同居者の便宜に資するものであることからすると、相当程度減額すべきである。

ソ 逸失利益

原告めぐみの逸失利益の算定における基礎収入は、女子労働者の平均賃金とすべきである。現実として男女の平均賃金格差は未だ大きく、これが近い将来に解消するとは言い難い状況にあるといわざるを得ず、現に存在する統計資料の数値差は大きいのである。

また、原告めぐみは、幼児、低学年者ではなく、義務教育を終えた高校生であるところ、同年代の若年者で既に就業し、労働市場において評価を受けている者が存在しており、原告めぐみが未就労であることのみを理由に全労働者の賃金センサスを得られたとするのでは、既に就業している者との間で不均衡が生じる。

タ 傷害慰謝料

争う。

チ 後遺障害慰謝料

争う。

本件においては、原告めぐみは、本件事故を契機として加害者側加入の搭乗者傷害保険金二一〇〇万円を受領している。したがって、後掲の損害のてん補において上記搭乗者傷害保険金の損益相殺が認められなかった場合、同金員を受領したことは慰謝料算定に当たって斟酌すべきである。

また、原告めぐみは、被告を深夜に呼び出したこと、シートベルト不装着、親権者の不知情等の事情も慰謝料を減額させる事情として斟酌すべきである。

ツ 弁護士費用

不知

テ 損害のてん補

原告らは、自賠責保険金三〇〇〇万円のほかに搭乗者傷害保険金として二一〇〇万円を受領しているほか、東京火災海上より一〇〇万円の保険金を受領している。したがって、これらの金員も損益相殺されるべきである。

(4)  原告宏次、同順子の損害

(原告らの主張)

ア 固有の慰謝料 各三〇〇万円

原告宏次、同順子は、娘である原告めぐみの本件事故による後遺障害により死亡にも比肩すべき精神的苦痛を受けた。また、原告宏次、同順子は、今後原告めぐみの介護にあたらねばならず、その精神的苦痛は相当なものである。したがって、原告宏次、同順子に固有の慰謝料が認められるべきであり、その金額は各三〇〇万円を下らない。

イ 弁護士費用 各三〇万円

原告宏次、同順子は、本件訴訟提起に際して、原告ら代理人に対し各三〇万円の弁護士費用を支払う旨約した。

(被告の認否及び反論)

ア 固有の慰謝料

原告めぐみに重大な後遺障害が残存したこと、そのため原告宏次、同順子に重大な精神的苦痛が発生したことは察するに余りあるが、同人らの慰謝料算定についても、本件事故の発生に原告めぐみの行動等が発端となった事情を斟酌すべきである。

イ 弁護士費用

不知

(5)  遅延損害金の利率

(被告の主張)

当事者間の賠償責任判断における社会情勢を加味すると、本件遅延損害金の利率として年五分は高きに失するものであり、年二分程度の利率により計算するのが相当である。

(原告ら認否及び反論)

被告の主張は民法の規定に反しており失当である。

第三争点に対する判断

一  争点(1)(好意同乗による減額)

(1)  本件事故に至る経緯

前記争いのない事実等並びに証拠(甲一、一四の<1>ないし<3>、<5>、<7>ないし<10>、<15>ないし<25>、二六、三五、乙一)及び弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められる。

ア 原告めぐみは、大垣日本大学高等学校(以下「大垣日大高校」という。)に通う高校生(昭和五六年九月二四日生)であり、平成一〇年二月ころ、友人の紹介で被告と知り合った。原告めぐみは、本件事故当時、被告と二、三回会ったほか、たびたび電話をする交際関係にあった。

イ 被告は、本件事故当時、型枠大工として就労していた者(昭和五五年一月一八日生)で、平成八年一月に原動機付自転車の運転免許を、平成一〇年二月二〇日に普通自動車運転免許をそれぞれ取得していた。

被告は、普通自動車運転免許を取得後に被告車を購入し運転していたが、被告車が購入後一週間足らずで故障し、愛知県小牧市にある自動車修理業者に預けられたため、自動車運転経験が殆どなかった。

被告は、平成一〇年三月七日午前六時ころ、起床し、その後同日午後六時ころまで型枠大工の仕事に従事していた。被告は、同日午後六時三〇分ころ、友人らとともに、上記自動車修理業者に預けられていた被告車を受け取りに行った。被告は、被告車を受け取ると、その友人らと名古屋市中区周辺に行き、同日午後八時ころから同所で遊んでいた。

ウ 原告めぐみは、平成一〇年三月七日昼ころから、岐阜市にある友人の家に泊まる予定で遊んでいた。原告めぐみは、同友人の家に、友人の男友達が来たことから泊りづらくなり、また、自宅に帰るつもりもなかったことから、翌八日午前〇時ころ、被告の携帯電話に架電して被告に対し、新岐阜駅周辺のコンビニエンスストアまで自分を迎えに来るように依頼した。被告は、これに応じ、同日午前一時ころ、新岐阜駅周辺のコンビニエンスストアに原告めぐみを迎えに向かった。被告は、同日午前三時ころ、道に迷い遅れながらも新岐阜駅周辺のコンビニエンスストアに到着し、同所で原告めぐみを被告車に乗せ、同日午前四時半ころ、再び名古屋市中区周辺に戻り、その場にいた被告の友人らと雑談するなどして過ごした。

なお、被告は、原告めぐみに対し、被告車を運転中、自分が朝早くから仕事があり、眠気があることを伝えていた。

エ 被告は、平成一〇年三月八日午前五時二〇分ころ、愛知県犬山市にある被告の友人宅に泊まるため、原告めぐみを助手席に、友人三名を後部座席にそれぞれ同乗させ、名古屋市中区から愛知県犬山市に向け出発させた。この時、被告、原告めぐみ及び被告の友人三名はいずれもシートベルトを装着していなかった。

被告は、前日の朝早くから一睡もしていなかったため、被告車を出発させてから約一・二キロメートル走行した辺りで、眠気を感じた。

しかし、被告は、同乗していた原告めぐみを含む四名がいずれも眠っていたため、窓を開けたり、音楽の音量を上げることをせず、また、いち早く愛知県犬山市にある友人宅に向かおうと考え、無理をしつつ運転を続け、そのまま毎時約五〇キロメートルの速度で約三・九キロメートル走行し、本件事故現場に差し掛かった。

オ 本件道路は、南から北に向かう片側三車線の、中央分離帯が設けられ、コンクリート舖装された幅約四〇・六メートルの道路であり、制限速度は毎時六〇キロメートルである。

本件道路は、本件事故現場付近で西から東に向かう幅約七メートルの道路と交差して交差点を形成している(以下「本件交差点」という。)。本件道路の中央分離帯は、幅が約五メートルあり、車道との間を高い段差により区切られたものであったが、本件交差点内の南北に設けられた東西方向に横断するための横断歩道の間は中央分離帯が設けられておらず、南北のそれぞれの中央分離帯端部分東西角には一つずつ街路灯が設けられている。

被告は、本件道路北進車線の第三車線を走行していたが、本件事故現場の手前約四二・四メートルの地点で居眠りをした。このため、被告車は、そのまま進路をはずれ、本件交差点北側の中央分離帯の西角部分に乗り上げ、被告車中央部分が上記中央分離帯西角部分に設けられた街路灯の支柱に衝突して停止した(本件事故)。

カ 原告めぐみは、本件事故時、被告車の助手席に座っていたが、上記のとおりシートベルトを装着せず、また、助手席側(被告車は左ハンドル車なので進行方向右側。)のドアーに寄りかかり眠っていた。

そして、原告めぐみは、本件事故の衝撃により、身体が前のめりに倒れ、頭部が被告車助手席前方のダッシュボード部分に二、三回ぶつかった。その後、原告めぐみは、被告車から脱出しようとしたが、その時既に手足を自由に動かすことができなくなっていた。

被告及び後部座席に同乗していた被告の友人三名は、いずれも本件事故により大きな傷害は負わなかった。

以上のとおり認められる。

(2)  好意同乗減額について

上記認定事実によると、原告めぐみは本件事故当時、友人の紹介で被告と会ったり、たびたび携帯電話で会話する交際関係にあったこと、原告めぐみが、被告車に同乗するに至ったのは、原告めぐみが被告を呼びだしたことに基づくこと、また、本件事故は、被告が原告めぐみ及び被告の友人らと、朝まで遊んだ後、眠るために被告の友人の家に向かう道中の事故であったことが認められるのであり、これに原告めぐみと被告の年齢も併せ考えると、本件事故に至る運行が専ら被告の利益のための運行であったと認めることはできない。

としても、被告らが向かったのはあくまでも被告の友人宅であり、被告自身も同所に泊る予定であったこと、原告めぐみは、普通乗用自動車の運転免許を取得しておらず被告車の運転を行うことができなかったことからすれば、被告車の本件事故に至る運行は主に被告の利益のための運行であったというべきである。

これに対し、被告は、被告が普通自動車運転免許を取得して間もなかったことや被告車の運転に慣れていなかったことを原告めぐみ自身知っており、さらに原告めぐみは被告が眠気があったことを知っていたにもかかわらず、被告に話しかける等眠気を解消させる方策を行わず、被告車で寝ていたことをもって、被告の居眠り運転という危険な運転状態の作出に関与、認容、予見していた旨主張する。

しかし、上記のとおり、被告が原告めぐみより約二歳年上であったこと、被告車には、被告の友人三名が後部座席に同乗していたこと、原告めぐみは、自動車の運転をすることができなかったこと、さらに、原告めぐみは被告から本件事故の数時間前から眠気があることを伝えられていたが、被告はその後友人らと雑談等を行って、さらに名古屋市中区を出発したのであり、原告めぐみは被告の居眠り運転の危険を具体的に予見していたとはいえないことからすれば、原告めぐみが被告の居眠り運転という危険な運転状態の作出に関与、認容、予見していたと認めることはできない。

これらの事情からすれば、原告めぐみが本件において同乗していたことをもって過失相殺又はこれに準じて賠償すべき損害額の全体から減額を認める事由とするのは相当ではなく、後掲の原告めぐみの後遺障害慰謝料算定における一要素として考慮するにとどめるのが相当である。

二  争点(2)(シートベルト未装着による減額)

(1)  上記認定事実並びに証拠(甲二の<1>、<2>、<3>の(1)ないし(9)、三の<1>、<2>、四の<1>、<2>の(1)ないし(5)、五の<1>ないし<8>、六、七、一四の<10>ないし<16>、三一、三五、乙一)及び弁論の全趣旨によると、原告めぐみは、本件事故時、シートベルトを装着しておらず、被告車の窓に寄りかかるような姿勢で眠っていたこと、原告めぐみは、本件事故の衝撃により、身体が前のめりにたおれ、助手席の前方のダッシュボードに頭部が二、三回衝突したこと、原告めぐみは、本件事故により、第五頸椎脱臼骨折、外傷性頸髄損傷の傷害を負い、同傷害により四肢の運動障害及び知覚障害並びに排尿及び排便障害等の後遺障害が残存したこと、被告車は本件事故により前方中央部分が衝突した電柱の形に大きく凹む損傷を受けているが、運転席、助手席等には大きな損傷がないこと、一般にシートベルトを装着していれば、座席に身体が固定されていることから、頭部のみが前屈するのに対し、シートベルト不装着の場合、頭部が身体と一体となって前方に飛び出すことからより重大な傷害を引き起こす危険があること、被告車運転席、後部座席に乗車していた被告とその友人三名は、いずれもその頭部等を被告車にぶつけることによる傷害を負っていないことが認められる。

これらの事実によると、原告めぐみが、本件事故当時、助手席に同乗していたにもかかわらずシートベルトを装着していなかったことが原告めぐみと上記ダッシュボードとの衝突を引き起こしたこと、本件事故においては、原告めぐみが被告車のダッシュボードへ衝突したことにより、原告めぐみにのみ重大な傷害が生じたものと言わざるをえず、原告めぐみのシートベルトの不装着が原告めぐみの上記重大な傷害、そして後遺障害の残存という結果に少なからず影響を及ぼしたものとして、過失相殺における減額事由とするのが相当である。

(2)  そして、上記原告めぐみのシートベルト不装着につき、上記認定事実及び弁論の全趣旨によると、被告は、被告車を運転中自らもシートベルトを装着していなかったほか、原告めぐみがシートベルト不装着であることを知りながら、同人に対し、シートベルトの装着を促す等の行動をしていないこと、道路交通法上、運転者は、助手席にシートベルトを装着しない者を乗車させて運転をしてはいけない義務を負っていること、被告は原告めぐみより年長者であったこと、原告めぐみは、自動車免許等を取得していなかったこと、原告めぐみは若年であったこと等の事情が認められることからすれば、上記のとおり原告めぐみがシートベルト不装着であったことは、本件において、過失相殺の事由として考慮すべきであり、その損害の一割を減ずるのが相当である。

(3)  これに対し、原告らは、助手席の同乗者がシートベルトを装着する義務は運転者に対して課せられている義務であること、原告めぐみはシートベルト装着義務について知らなかったのであるから、そもそも原告めぐみのシートベルト不装着により原告めぐみに何らかの帰責性を認めることはできず、また、仮にシートベルトを装着していても損害の軽減は図れなかった旨主張する。

しかし、上記認定事実及び弁論の全趣旨によると、道路交通法上シートベルト装着義務が運転者に課せられた趣旨は、交通事故においてシートベルトを装着していれば相当程度に被害が軽減された者が少なくないにもかかわらず、その装着率が低かったことから、シートベルト装着率の向上を図るために、運転者の自助努力を推進する必要からであり、助手席の同乗者自身にもシートベルトの装着が求められていることが否定されるものではないこと、原告めぐみは、本件事故時一六歳の女子高生であり、少なくともシートベルトを装着することにより自己の身体の安全確保に資するとの認識は有していたと推認されること、自動車の助手席に同乗する者には、自己の身体の安全確保のため一定の措置を採ることが期待されることからすれば、原告めぐみは、被告車に同乗する際、自己の身体の安全確保のため、被告車のシートベルトを装着すべきであり、これを怠り、損害を発生、拡大させた場合、その安全確保を行わなかったことを過失相殺の一要素として考慮することが損害の公平な分担の理念に合致するものといえる。

そして、上記のとおり、原告めぐみの受傷経緯、受傷部位、傷害の程度、その後遺障害、被告車の本件事故による損傷の程度、被告及び被告の友人三名の受傷程度等からすると、原告めぐみが本件事故においてシートベルトを装着していれば、相当程度に被害が軽減したものと推認される。

なお、原告らは、いわゆるむち打ち損傷においてシートベルト装着の有無により結果の発生に影響がないとの証拠(甲三一)を根拠に上記因果関係を否定するが、上記証拠(甲三一)が前提とする傷害は、原告めぐみの本件事故による受傷状況と比べて内容、程度ともに大きく異なるため、同証拠から上記因果関係を否定することはできず、他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。

したがって、原告らの上記主張は採用できない。

三  争点(3)(原告めぐみの損害)

(1)  治療費 三三四万七三三九円

前記認定事実並びに証拠(甲二の<1>、<2>、<3>の(1)ないし(9)、三の<1>、<2>、四の<1>、<2>の(1)ないし(5)、五の<1>ないし<8>、六、一四の<11>ないし<17>)及び弁論の全趣旨によると、原告めぐみは、本件事故による傷害(外傷性頸髄損傷、第五頸椎脱臼骨折)の治療のため、平成一〇年三月八日から同年六月二二日まで、小牧市民病院に入院し、同日から平成一一年一月四日まで中部労災病院に入院、同日から同年三月二九日まで名古屋市総合リハビリテーションセンター付属病院に入院、その後再度中部労災病院に同日から同年八月二一日まで入院し、また、同日から症状固定日である同年一〇月二二日まで及び上記入院期間中にかけ上記各病院を通院していたこと、原告は、同日、症状固定となったこと、原告めぐみの上記治療費は、少なくとも合計三三四万七三三九円であることが認められる。

これらの事実によると、原告めぐみの本件事故による治療費として三三四万七三三九円を認めるのが相当である。

(2)  付添費 一〇六万一〇〇〇円

ア 原告めぐみの入院時の付添費

上記認定事実並びに証拠(甲一四の<16>、<17>、二六、原告坂井順子本人)及び弁論の全趣旨によると、原告めぐみは、本件事故後症状固定時までの五九四日間のうち、五三二日間上記各病院において入院治療を受け、その後中部労災病院において通院治療を受けていたこと、原告めぐみは、本件事故の後、小牧市民病院に搬送され、同病院において緊急手術を受けたこと、しかし、同手術によっても原告めぐみは頸髄損傷による後遺障害(首から下の麻痺。ただし、左肩から肘にかけて、右肩から肘にかけては知覚がある。)が残存し、平成一〇年六月二二日、中部労災病院にリハビリ治療を受けるために転院したこと、そして、平成一一年一月四日、リハビリ治療を継続して受けるために名古屋市総合リハビリテーションセンター付属病院に転院し、同年三月二九日、再度中部労災病院でリハビリ治療を受け、同年八月二一日に退院し、同日以降は自宅療養を行っていたこと、原告順子は、同年三月ころから、病院の看護婦らとともに原告めぐみの付添介護を行っていたこと、上記各病院はいずれも完全看護を標榜する病院であることが認められる。

これらの事実によると、原告めぐみは本件事故による後遺障害のため、本件事故後症状固定までの間、他人による介護が必要であり、原告順子は、原告めぐみの介護を行っていたが、原告めぐみは、本件事故後五三二日間は完全介護を標榜する病院に入院し、その病院の看護婦らの介護も受けていたといえ、原告めぐみの上記入院期間の全てにおいて近親者による付添までも必要であったと認めることはできない。しかし他方、原告めぐみの上記重大な傷害内容からすれば、原告めぐみが小牧市民病院における入院期間である一〇七日間については、原告順子ら近親者による付添が原告めぐみにとって必要であったと推認でき、これを覆すに足りる証拠はない。

そして、原告めぐみの入院期間中の近親者の付添費は、原告めぐみの障害の程度、小牧市民病院が完全看護を標榜する病院であること等を考慮して一日あたり五五〇〇円とするのが相当である。

イ 原告めぐみの退院後症状固定までの付添費

そして、上記認定事実並びに証拠(甲六、七、三六、原告坂井順子本人)及び弁論の全趣旨によると、原告めぐみの症状固定時の症状は、第六頸髄以下知覚脱失(ただし、仙髄部に固有知覚残存。)、両上肢腱反射正常、減弱、両下肢亢進、バビンスキー徴候陽性のほか、両手指屈伸・両手関節掌屈・両肘伸展筋力消失、体幹から両下肢筋力消失(ただし、両肩の屈曲、伸展、外転及び両肘の屈曲は自動運動が可能。)となり、そのほか、神経因性膀胱、直腸肛門麻痺が残存していたこと、原告順子は、原告めぐみが平成一一年八月二一日に退院後症状固定までの間、自宅において原告めぐみの介護を行ったこと、平成一三年八月ころの原告順子の介護内容は、原告めぐみの食事、排泄、入浴、洗顔、洗髪、車椅子への移乗、衣服の着脱、体位交換等日常生活全般に及び、具体的には、週に一回の膀胱洗浄、週に二回の排便管理(摘便)、シャワーチェアーに移乗させてシャワー入浴、頻繁な体位交換、摂食に必要な自助具にスプーン、フォーク等の取付、摂食の介助及び生理の処理のほか、週一、二回のリハビリ治療を受けるため通院時の移動等にまで及んでいることが認められ、これらの事実によると、原告めぐみの退院後症状固定までの間、原告順子ら近親者は少なくとも同程度の介護を行う必要があったことが認められる。

そして、上記原告めぐみに必要な介護内容、その期間、原告めぐみには上記期間中医療品等の雑費など特別の支出が必要であったと推測できること等を考慮すると、上記期間の近親者による介護費は一日あたり七五〇〇円とするのが相当である。

ウ 以上から、原告めぐみの症状固定までの介護費を求めると、以下のとおり一〇六万一〇〇〇円となる。

計算式 5,500×107=588,500

7,500×63=472,500

588,500+472,500=1,061,000

(3)  入院雑費 六三万八四〇〇円

上記認定事実及び弁論の全趣旨によると、原告めぐみは、本件事故による治療のため、小牧市民病院等の各病院において合計五三二日間入院する必要があったと認められるところ、原告めぐみの入院期間は長期であること、前記の治療内容等を考慮すると、原告めぐみの入院雑費として上記期間において一日当たり一二〇〇円の範囲で認めるのが相当である。

計算式 1,200×532=638,400

(4)  通院交通費 〇円

上記認定事実及び弁論の全趣旨によると、原告めぐみは、本件事故により、通院治療を行う必要があったことが認められるも、その具体的な交通費負担の内容、金額等を認めるに足りる証拠はなく、原告らの主張する上記通院交通費を認めることはできない。そして、これらは傷害慰謝料の考慮要素とするのが相当である。

(5)  将来の付添介護料 六一六〇万九五一八円

ア 上記認定事実並びに証拠(甲一一、一二の<1>の(1)ないし(3)、<2>の(1)ないし(3)、二六、三〇、三六、原告坂井順子本人)及び弁論の全趣旨によると、原告めぐみは、症状固定後平均余命までの間、日常生活を送るにあたり常に他人による介護を受ける必要があること、原告めぐみの介護は、症状固定以降、主に原告順子が行っていること、原告めぐみは、平成一三年一月二七日から同年二月三日までの間、原告順子の都合が悪かったことから職業介護人を雇い、その介護料等として合計八万四六六九円を支払ったこと、将来において、原告めぐみの介護に当たる職業介護人は、その介護内容に制限があるため、週に数回程度有資格(看護婦(士))の職業介護人による介護が必要となること、有資格職業介護人の介護料は通常の職業介護人の約三割増であることが認められる。

なお、被告は、原告めぐみの症状につき、将来一定の回復可能性があることから、常時介護の必要性がない旨主張するが、上記原告めぐみの後遺障害の程度、症状等からすれば、原告めぐみには常時介護の必要性があると認めるのが相当である。

そしてこれらの事実によると、原告めぐみの症状固定後の介護については、原告順子が六七歳になる平成二三年三月までは原告順子、同宏次らによる近親者による介護により、平成二三年から原告めぐみの平均余命までの間は、職業介護人による介護が行われるものとし、その介護料は近親者による介護料が一日あたり六〇〇〇円、職業介護人による介護を一日当たり一万二〇〇〇円とするのが相当である。

これに対し原告らは、原告順子は将来就職する必要があること、原告宏次の健康上の問題(拡張型心筋症)を根拠として、症状固定後から職業介護人による介護が必要である旨主張する。

しかし、証拠(甲四六の<1>ないし<3>、原告坂井順子本人)及び弁論の全趣旨によると、原告順子は、平成一四年六月当時、具体的な就職活動を行っていなかったこと、国立名古屋病院の医師による原告宏次の平成一四年五月七日当時の症状は、自分の身の回りの対処は可能であるとの所見であること、後掲のとおり、原告めぐみの住居等の改造が行われ、介護人の負担も軽減すると推測されることからすれば、原告めぐみの介護につき、症状固定後平成二三年までの間も全て職業介護人による介護が必要であると認めることはできず、原告らの上記主張を採用することはできない。

以上の事実を前提として、原告めぐみの症状固定後の付添介護料を計算すると以下のとおり六一六〇万九五一八円となる。

計算式 6,000×365×(9.3935-0.9523)=18,486,228

12,000×365×(19.2390-9.3935)=43,123,290

18,486,228+43,123,290=61,609,518

イ 中間利息控除の基準時

これに対し、原告らは、中間利息控除の基準時につき症状固定時を基準とすべきである旨主張する。しかし、不法行為に基づく損害は、不法行為時に一定の内容で発生しているものと考えられること、本件では事故から症状固定までは約一年半の期間があること、原告らは、本件事故による損害の遅延損害金につき、本件事故時から請求しているほか、自賠責保険金につき、本件事故後保険金支払時までの遅延損害金を別途請求していること等からすれば、むしろ、中間利息控除の基準時を症状固定時とすることは原告めぐみに過度に利得を与える結果となるというべきであり、中間利息控除の基準時もまた不法行為時を基準とするのが相当であり、原告らの上記主張は採用できない。

ウ 中間利息控除割合

原告らは、中間利息控除割合につき、年二分のライプニッツ係数を用いて計算すべきである旨主張するが、本件においては長期間の中間利息控除が問題となっていることからすれば、年五分の割合によるライプニッツ係数を用いることが不相当であるとはいえない。

(6)  将来の雑費(将来の治療費) 三二九万一六〇六円

上記認定事実並びに証拠(甲二五)及び弁論の全趣旨によると、原告めぐみは、本件事故による後遺障害のため、ガーゼ、紙おむつ、体拭き、カテーテル、生理食塩水、尿器等の医療品等が必要となることが認められ、その費用としては、一か月当たり一万五〇〇〇円が相当である。

これに対し、原告らは、雑費として一か月当たり八万七〇〇〇円必要であり、その根拠として消耗品等に関わる費用明細(甲二五)によって、平成一四年五月ころ、原告めぐみの雑費として約五万七〇〇〇円必要であったことを主張する。しかし、上記費用明細の消耗品は、内容、量等の必要性が明らかではなく、健常人の日常生活において使用される消耗品や、健常人が使用する消耗品との差額のみが損害となると考えられる消耗品も含まれており、上記費用明細から上記金額の消耗品が必要であることを認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

なお、原告らは、上記雑費の算定において、原告めぐみが症状固定後に必要となる治療費を考慮する旨主張する。しかし、原告めぐみが症状固定後の治療としていかなる治療を受け、どの程度の治療費の負担が必要となるかについては、これを認めるに足りる証拠はないので、この点については、後掲の後遺障害慰謝料において考慮することとする。

以上の事実を前提として、原告めぐみの将来の雑費の事故時の現価につき、ライプニッツ方式により年五分の割合の中間利息を控除すると以下のとおり三二九万一六〇六円となる。

15,000×12×(19.2390-0.9523)=3,291,606

(7)  車両改造費 二七三万一〇五四円

上記認定事実並びに証拠(甲一〇、原告坂井順子本人)及び弁論の全趣旨によると、原告めぐみは本件事故による後遺障害のため、その移動には車椅子が必要であるところ、原告めぐみの長距離の移動には当該車椅子を運ぶことができる改造車両を購入する必要があること、原告らは、平成一一年一一月ころ、車椅子を運ぶことができる改造車両(ニッサンセレナ パーソナルチェアキャブ スロープタイプ 電動ウインチ付)を代金三五六万五〇〇〇円(支払総額)で購入したこと、当該車両と同種の通常車両の車両本体価格と改造車両の車両本体価格の差額は一一四万五〇〇〇円であることが認められる。

これらの事実によると、原告めぐみは、上記平成一一年一一月ころから平均余命までの間、車椅子を運ぶことのできる改造車両が必要であり、その通常車両との差額であると認められる一一四万五〇〇〇円の支出を車両改造費として認めるのが相当である。

そして、上記車両は一〇年に一度の割合で買換えが必要であるとするのが相当である(なお、原告らは、上記車両の耐用年数を六年とし、その根拠として乗用車の減価償却資産の耐用年数が六年であることを主張するが、減価償却資産における耐用年数は、通常の使用状態において当該車両が、修理不能となり、買換えが必要となるまでの予想年数を示したものではなくこれを採用することはできない。)。

以上の事実を前提に原告めぐみの車両改造費の事故時の現価につき、ライプニッツ方式により年五分の割合の中間利息を控除すると以下のとおり二七三万一〇五四円となる。

計算式 1,145,000×(0.9523+0.5846+0.3589+0.2203+0.1352+0.0830+0.0509)=2,731,054

(8)  介護ベッド等代(現在及び将来) 七四万三三七六円

上記認定事実並びに証拠(甲八の<1>ないし<4>、原告坂井順子本人)及び弁論の全趣旨によると、原告めぐみは、本件事故による後遺障害のため、療養ベッド上での勉強、食事等を余儀なくされたこと、そのため、原告めぐみは、療養ベッド、マットレス、サイドレール、オーバーベッドテーブル、ベッド用キャスターが必要であること、原告めぐみは、平成一一年七月ころ、上記療養ベッド等を代金合計二六万〇〇四〇円で購入したことが認められる。

これらの事実によると、原告めぐみは、平成一一年七月以降平均余命までの間、上記療養ベッド等が必要であり、上記療養ベッド等の買換費用は合計二六万〇〇四〇円とするのが相当である。

そして、上記療養ベッド等の耐用年数は八年とするのが相当である。

以上の事実を前提に原告めぐみの療養ベッド等代の買換費用の事故時の現価につき、ライプニッツ方式により年五分の割合の中間利息を控除すると以下のとおり七四万三三七六円となる。

計算式 260,040×(0.9523+0.6446+0.4362+0.2953+0.1998+0.1352+0.0915+0.0619+0.0419)=743,376

(9)  車椅子代(現在及び将来) 六二万八〇八〇円

上記認定事実並びに証拠(甲九、二六、三四、原告坂井順子本人)及び弁論の全趣旨によると、原告めぐみは、本件事故による後遺障害のため、その移動に車椅子が必要であること、原告めぐみは、平成一〇年一一月六日、車椅子(普通型)を一六万六三一五円(自己負担額五万一四五〇円)で購入したこと、原告めぐみは、平成一三年一二月当時、上記車椅子(普通型)を屋内用車椅子として使用していることが認められる。

これらの事実によると、原告めぐみには、上記車椅子及びこの車椅子の耐用年数(耐用年数は五年が相当である。)が満了する平成一五年一一月以降平均余命までの間、順次車椅子(普通型)の買換えが必要であり、この買換費用(一台一六万六三一五円)の事故時の現価につき、年五分の割合の中間利息をライプニッツ方式により控除すると以下のとおり六二万八〇八〇円となる。

計算式 51,450+166,315×(0.7835+0.6139+0.4810+0.3768+0.2953+0.2313+0.1812+0.1420+0.1112+0.0872+0.0683+0.0535+0.0419)=628,080

(10)  水回り用車椅子 三八万二八六九円

上記認定事実並びに証拠(甲二六、三三、三四、原告坂井順子本人)及び弁論の全趣旨によると、原告めぐみは、本件事故による後遺障害のため、排便、シャワー入浴の際に水回り用車椅子を使用する必要があること、原告めぐみは、平成一一年末ころ、水回り用車椅子を購入したこと、水回り用車椅子は一台当たり九万円であること、原告めぐみの排便は週に二回、シャワー入浴は毎日行うことが認められ、これらの事実によると、原告めぐみは、平成一一年末ころから平均余命までの間、水回り用車椅子(一台九万円)が必要であり、その耐用年数は、原告めぐみの使用頻度、通常の車椅子の耐用年数等からすれば、五年と認めるのが相当である。

以上の事実を前提として原告めぐみの水回り用車椅子の買換費用の事故時の現価につき、ライプニッツ方式により年五分の割合の中間利息を控除すると以下のとおり三八万二八六九円となる。

計算式 90,000×(0.9523+0.7462+0.5846+0.4581+0.3589+0.2812+0.2203+0.1726+0.1352+0.1059+0.0830+0.0650+0.0509+0.0399)=382,869

(11)  リクライニング車椅子 六七万二一四七円

上記認定事実並びに証拠(甲三四、原告坂井順子本人)及び弁論の全趣旨によると、原告めぐみは、本件事故によって頸髄損傷の傷害を負ったことから、起立性低血圧症状を起こしやすいこと、仮に車椅子によって移動している際に起立性低血圧症状を起こした場合、車椅子にリクライニング機能があれば、同症状を解消することができること、原告めぐみは、既にリクライニング機能を有する車椅子を購入し、前記車椅子(普通型)を屋内で、当該リクライニング車椅子を屋外でそれぞれ使い分けていること、リクライニング機能を有する車椅子(介助型)は一台一五万八〇〇〇円することが認められる。

これらの事実によると、原告めぐみは前記車椅子(普通型)のほか、リクライニング機能を有する車椅子が症状固定後平均余命までの間必要であり、このようなリクライニング機能を有する車椅子は一台一五万八〇〇〇円、その耐用年数は五年とするのが相当である。

以上の事実を前提に、原告めぐみのリクライニング車椅子の買換費用の事故時の現価につき、ライプニッツ方式により年五分の割合の中間利息を控除すると以下のとおり六七万二一四七円となる。

計算式 158,000×(0.9523+0.7462+0.5846+0.4581+0.3589+0.2812+0.2203+0.1726+0.1352+0.1059+0.0830+0.0650+0.0509+0.0399)=672,147

(12)  床走行式電動介護リフター 一〇一万四八三八円

上記認定事実並びに証拠(甲二六、三四、三六、原告坂井順子本人)及び弁論の全趣旨によると、原告めぐみは、本件事故による後遺障害のため、自力で車椅子、シャワーチェアーに移乗することができず、その移乗につき、原告順子ら他人による介護が必要であること、介護人は、床走行式電動介護リフターにより原告めぐみをベッドから吊り上げ、そのまま車椅子を置いている場所へ走行させ、車椅子への移乗等を行うことができること、床走行式電動介護リフターは一台三五万五〇〇〇円であることが認められる。これらの事実によると、原告めぐみは、症状固定後平均余命までの間、床走行式電動介護リフターが必要で、このような床走行式電動介護リフターは、一台あたり三五万五〇〇〇円であり、上記使用態様等からするとその耐用年数は八年とするのが相当である。

以上の事実を前提として原告めぐみの床走行式電動介護リフターの買換費用の事故時の現価につき、ライプニッツ方式により年五分の割合の中間利息を控除すると以下のとおり一〇一万四八三八円となる。

計算式 355,000×(0.9523+0.6446+0.4362+0.2953+0.1998+0.1352+0.0915+0.0619+0.0419)=1,014,838

(13)  リハビリ用足漕ぎ訓練機 〇円

原告らは、原告めぐみのリハビリを自宅で行うため、リハビリ用足漕ぎ訓練機が必要である旨主張するが、証拠(甲三四、原告坂井順子)によると、原告めぐみが自宅においてリハビリ用足漕ぎ訓練機を使用していないことが認められ、他方、原告めぐみが自宅において上記リハビリ用足漕ぎ訓練機を使用してリハビリを行う必要があることを認めるに足りる証拠はない。

(14)  自宅改造費 七二三万九九六〇円

上記認定事実並びに証拠(甲一八ないし二六、二七、三三、原告坂井順子本人)及び弁論の全趣旨によると、原告らは、本件事故後、中部労災病院においてリハビリ治療を継続する必要がある原告めぐみのため、中古マンションを購入し、引越しをしたこと、原告らは、上記中古マンションへの引越しの際、同マンションには、原告めぐみの車椅子等の移動において障害となる段差を解消するためのスロープ、扉の変更、洗面台等の工事を行い、その費用として一一六万五〇〇〇円を支払ったこと、原告らは、さらに和室の洋室への改造、玄関出入口の昇降機設置、ユニットバス出入口の改修工事が必要であり、これらの工事費用はさらに一〇九〇万一一〇〇円の費用が必要となること、他方、上記工事内容には、段差解消工事(昇降機の設置、石工事)、和室改修工事全般、ユニットバス出入口付近の工事及び浴室工事における設備(循環器、浴室テレビ、介護リフト、浴室暖房乾燥機、浴室本体等の仕様)等必要性に疑問があるものや、原告めぐみのみならずその同居者の用にも供すると考えられるものも含まれていることが認められる。

これらの事実からすれば、原告めぐみは、本件事故により、障害者が生活をするのに適した住宅の改造をする必要があり、その工事費用として現実に支出した費用及び見積りの合計が一二〇六万六六〇〇円であるが、上記工事には必要性に疑問があるものや他の同居者の便宜に資すると考えられるものも含まれているといえ、上記金額のうち本件事故と因果関係のある損害はその六割である七二三万九九六〇円とするのが相当である。

(15)  逸失利益 五九七五万七九八二円

ア 基礎収入

上記認定事実並びに証拠(甲五六、六〇、乙六、原告坂井順子本人)及び弁論の全趣旨によると、原告めぐみは、本件事故当時、大垣日大高校に在学している一六歳の女子の高校生であったこと、大垣日大高校は、日本大学の付属高校であり、生徒らの約八〇パーセントが大学等に進学した実績があること、原告めぐみは、大垣日大高校の特別進学コースではなく一般進学コースに在学していたこと、しかし、原告めぐみは、本件事故による後遺障害のため就労をすることができなくなったことが認められる。

そして、これらの原告めぐみの本件事故時における年齢、学歴等を考慮すると、原告めぐみの基礎収入は、症状固定時である平成一一年賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・女子労働者全年齢平均賃金である三四五万三五〇〇円とするのが相当である。

これに対し、原告らは、原告めぐみの基礎収入につき、原告めぐみが高校生の未就労女子であり、近年の賃金男女格差の解消傾向等を根拠として全労働者平均賃金を用いて計算すべきである旨主張する。

しかし、原告めぐみは、義務教育を終了した高校生であり、将来の進路等につき一定程度具体化していること、また、同年代で就労している者が存在し、これらの者の不公平を招くおそれがあることからすれば、義務教育終了以前の者と同様に全労働者平均賃金を用いるべき合理性が高いと認めることはできない。他方、原告めぐみが本件事故に遭わなければ、上記女子労働者全年齢平均賃金を超える収入を得られた蓋然性が高いことを基礎付ける事実を認めるに足りる証拠はない。

したがって、原告らの上記主張は採用できない。

イ 以上により、原告めぐみは、基礎収入三四五万三五〇〇円、症状固定後六七歳になるまでの約四九年間就労が可能であったとして将来得られたであろう逸失利益の事故時の現価につき、年五分の割合の中間利息をライプニッツ方式で控除すると以下のとおり五九七五万七九八二円となる。

計算式 3,453,500×(18.2559-0.9523)=59,757,982

(16)  傷害慰謝料 三四〇万円

上記原告めぐみの本件事故による傷害部位、程度、治療内容、本件事故態様、通院時の交通費等を考慮すると、原告めぐみの傷害慰謝料は三四〇万円と認めるのが相当である。

(17)  後遺障害慰謝料 一〇〇〇万円

上記原告めぐみの後遺障害の内容、程度、本件訴訟の経緯、原告めぐみが将来もリハビリ治療等通院の必要があり、その治療費、通院交通費等特別な支出が余儀なくされること、また、前記原告めぐみが被告車に同乗して本件事故に至った経緯、原告めぐみと被告との関係、年齢差、さらに、原告宏次、同順子に後掲のとおりそれぞれ固有の慰謝料を認めること、そして、原告めぐみは、本件事故後の平成一三年一月三一日、被告の父親が加入している保険会社から搭乗者傷害条項に基づく保険金二一〇〇万円を受領していること等を考慮すると、原告めぐみの後遺障害慰謝料は一〇〇〇万円とするのが相当である。

これに対し、原告らは、原告めぐみが受領した搭乗者障害保険を慰謝料の考慮事由とすべきでない旨主張する。しかし、証拠(甲一四の<18>、五七、乙七)及び弁論の全趣旨によれば、被告車は被告が使用者、被告の父である訴外石田修が所有者として自動車保険契約を締結していること、同保険の搭乗者傷害条項に基づき、原告めぐみに搭乗者傷害保険金二一〇〇万円(後遺障害二〇〇〇万円、重度障害一〇〇万円)が支払われていることが認められる。そして、これらの事実によれば、上記搭乗者傷害条項に基づき支払われた保険金は加害者側がその保険料を負担しているといえ、原告めぐみの精神的苦痛を慰謝する性質を有するとして慰謝料算定における考慮要素とするのが相当である。

(18)  弁護士費用 六〇〇万円

後掲(22)の原告めぐみの損害額及び本件訴訟の経緯等に照らすと、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、六〇〇万円とするのが相当である。

(19)  合計 一億六二五一万八一六九円

(20)  過失相殺 一億四六二六万六三五二円

上記原告めぐみの損害小計を前記過失割合により過失相殺すると上記金額となる。

(21)  損害のてん補 三〇〇〇万円

被告は、上記のとおり、原告めぐみが受領した搭乗者傷害条項に基づく保険金二一〇〇万円につき損益相殺をすべき旨主張するが、上記搭乗者傷害条項に基づく保険金が損害をてん補する性質を有していることを認めるに足りる証拠はなく、また、搭乗者傷害条項は通常保険契約者及びその家族、知人等が被保険自動車に搭乗する機会が多いことにかんがみ、搭乗者に定額の保険金を給付することにより、これらの者を保護することを趣旨としていると考えられることからすれば、上記搭乗者傷害条項に基づき支払われた保険金を上記原告めぐみの損害額から控除することは相当ではない。

また、被告は、原告めぐみがその他にも保険会社から一〇〇万円の保険金を受領したのでこれを損益相殺すべき旨主張するが、原告めぐみが保険会社から別に一〇〇万円の保険金を受領した事実を認めるに足りる証拠はなく、同主張を採用することはできない。

(22)  損害金残金 一億一六二六万六三五二円

四  争点(4)(原告宏次、同順子の損害)

(1)  慰謝料 各二〇〇万円

前記認定事実及び弁論の全趣旨によると、原告めぐみは、本件事故により重大な傷害を負い、重い後遺障害を残存させたこと、原告宏次及び同順子は、同めぐみの両親であり、本件事故により多大な精神的苦痛を被ったこと、原告宏次、同順子は、今後同めぐみの介護を継続する必要があることが認められる。

これらの事情、その他本件にあらわれた諸般の事情を考慮すると、原告宏次、同順子の慰謝料は各二〇〇万円とするのが相当である。

なお、原告めぐみの同乗経緯等の諸事情は既に原告めぐみの後遺障害慰謝料において考慮したので、原告宏次、同順子の慰謝料においてはこれを考慮しない。

(2)  弁護士費用 各二〇万円

後掲の原告宏次、同順子の損害額及び本件訴訟の経緯等に照らすと、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、各二〇万円とするのが相当である。

(3)  損害合計 各二二〇万円

(4)  過失相殺 各一九八万円

上記損害合計から、前記過失割合につき、被害者側の過失として過失相殺をするのが相当である。

五  争点(5)(遅延損害金の利率)

被告は、遅延損害金の利率につき、年二分が相当である旨主張するが、民法四一九条一項、四〇四条に反するので、これを採用することはできない。

第三結論

以上によれば、原告めぐみの請求は、上記損害金一億一六二六万六三五二円及びこれに対する本件事故日である平成一〇年三月八日以降完済まで年五分の割合による遅延損害金並びに本件事故日から前記自賠責保険金三〇〇〇万円が支払われた日より前の日である平成一二年一一月一七日までの上記三〇〇〇万円に対する遅延損害金四〇四万五〇八一円の支払を求める限度で、原告宏次の請求は、上記損害金一九八万円及びこれに対する本件事故日である平成一〇年三月八日以降完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、原告順子の請求は、上記損害金一九八万円及びこれに対する本件事故日である平成一〇年三月八日以降完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度でそれぞれ理由があるので、これを認容し、原告らのその余の請求はいずれも理由がないのでこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 渡辺修明 城内和昭 小島清二)

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