名古屋地方裁判所 平成13年(ワ)5305号 判決 2003年7月02日
反訴原告
X1
ほか二名
反訴被告
富士火災海上保険株式会社
主文
一 反訴被告は、反訴原告X1に対し、金一一四万円及びこれに対する平成一三年一二月二一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
二 反訴被告は、反訴原告X2に対し、金一〇五万円及びこれに対する平成一三年一二月二一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
三 反訴原告X2のその余の反訴請求を棄却する。
四 反訴原告X3の反訴請求を棄却する。
五 訴訟費用は、反訴原告X1及び反訴原告X2に生じた全費用並びに反訴被告に生じた費用の一〇分の九を反訴被告の負担とし、反訴被告に生じたその余の費用及び反訴原告X3に生じた費用を反訴原告X3の負担とする。
六 この判決の第一、二項は仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 反訴原告ら
1 反訴被告は、反訴原告X1に対し、金一一四万円及びこれに対する平成一三年一二月二一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
2 反訴被告は、反訴原告X2に対し、金一〇六万円及びこれに対する平成一三年一二月二一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
3 反訴被告は、反訴原告X3に対し、金一三万円及びこれに対する平成一三年一二月二一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は反訴被告の負担とする。
との判決並びに仮執行の宣言。
二 反訴被告
1 反訴原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は反訴原告らの負担とする。
との判決。
第二 基礎的事件関係
次の各事実は、当事者間に争いがなく、本件の基礎となる事実関係である。
一 保険契約
反訴原告X1は、反訴被告との間で次の保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結していた。
(一) 保険契約締結日 平成一一年六月四日
(二) 保険の種類 自動車保険
(三) 搭乗者傷害保険金 金一〇〇〇万円
(四) 保険期間 平成一一年六月八日から平成一二年六月八日まで
(五) 証券番号 <省略>
二 搭乗者傷害条項
本件保険の約款の搭乗者傷害条項第八条第一項には、「被保険者が第一条の傷害を被り、その直接の効果として、生活機能または業務能力の喪失または減少をきたし、かつ、医師の治療をしたときは、平常の生活または業務に従事することができる程度になおった日までの治療日数に対し、治療日数一日につき保険金額の一〇〇〇分の一(ただし、一万円を限度)を支払う。」と規定している。また、同条二項には、上記保険金の支払は一八〇日が限度と規定されている。
三 交通事故の発生と原告らの受傷
原告らは、次の交通事故(以下「本件事故」という。)により、傷害を負った(以下、本件事故による原告らの傷害を「本件各傷害」という。)。
(一) 発生日時 平成一一年一二月三〇日午前〇時三〇分ころ
(二) 発生場所 久居市元町一八五七番地三先路線上
(三) 加害車両 自家用普通乗用自動車(三重<省略>)
同運転者 訴外A
(四) 被害車両 自家用普通乗用自動車(尾張小牧<省略>)
同運転者 反訴原告X1
同同乗者 反訴原告X2
同同乗者 反訴原告X3
(五) 事故態様 加害車両が反対車線に飛び出して被害車両と正面衝突したもの。
第三 当事者の主張
一 反訴原告らの反訴請求原因
反訴原告らは、上記事実関係を基礎に、反訴請求原因として次のとおり主張した。
1 反訴原告X1の症状・治療・生活状況
(一) 反訴原告X1は、本件事故により、本件事故発生日(平成一一年一二月三〇日)から本件事故発生後一八〇日目である平成一二年六月二六日までの間(以下「本件治療期間」という。)に、稲沢市民病院に一一四日通院して治療を受けた。
(二) その間の症状及び生活状況は次のとおりであった。
反訴原告X1は、本件事故により、頸部挫傷、腰部挫傷、右股関節挫傷、左肩挫傷等の傷害を負い、これらを原因として、頭部の鈍痛、頸部痛、腰部痛、右股関節痛、両手第一関節から先の痺れ、両足裏の違和感等の症状が発現した。
そのため、正常に立つことや座ること等ができなくなり、歩行に困難をきたし、体を前かがみにすることが困難になる等した。また同じ姿勢を数分保つことすらできなくなり、正常な生活に従事することができず、また、反訴原告X2に対する介護を十分行うことができなかった。そのような状態は、本件治療期間中継続しており、稲沢市民病院による治療によってはさしたる改善がなかった。
したがって、反訴原告X1は、本件治療期間中、正常な生活に従事することができなかった。
2 反訴原告X2の症状・治療・生活状況
(一) 反訴原告X2は、本件事故により、平成一一年一二月三〇日から平成一二年六月二六日までの間(以下「本件治療期間」という。)に、稲沢市民病院に一〇六日通院して治療を受けた。
(二) その間の症状及び生活状況は次のとおりであった。
反訴原告X2は、本件事故により、頸部挫傷、腰部挫傷、右肘挫傷、右手挫傷、嘔吐感等の傷害を受け、顔面に違和感を生じ、特に、右下肢のひざ下の感覚麻痺等の症状が発現した。
そのため、反訴原告X2は、家事や日常生活の起居に困難をきたし、しばしば転倒したりし、正常に歩行することができなかった。そこで、平成一二年一月一九日から、稲沢市民病院の指導により松葉杖を使用せざるを得なくなり、現在でも、歩行する際には、杖をついて補助している。
したがって、反訴原告X2は、本件治療期間中、正常な生活に従事することができなかった。
3 反訴原告X3の症状・治療・生活状況
(一) 反訴原告X3は、本件事故により、平成一一年一二月三〇日から平成一二年六月二六日までの間(以下「本件治療期間」という。)までの間に、稲沢市民病院に一三日通院して治療を受けた。
(二) その間の症状及び生活状況は次のとおりであった。
反訴原告X3は、本件事故により、右足首挫傷、右眼瞼挫傷、頸部挫傷、腰部挫傷等の傷害を受け、その後、特に、右足首に痛みが残存し、その結果、長時間の歩行に困難をきたし、また、転倒しやすくなった。そのため、保育園ないし小学校における運動に支障をきたし、現在でもその状態が続いている。
したがって、反訴原告X3は、本件治療期間中、正常な生活に従事することができなかった。
4 よって、本件保険契約に基づき、反訴被告は、反訴原告X1に対し一一四万円の、反訴原告X2に対し一〇六万円の、反訴原告X3に対し一三万円の、各保険金支払義務がある。
二 反訴請求原因に対する反訴被告の認否・反論
反訴被告は、上記反訴請求原因に対する認否・反論として、次のとおり述べた。
1 反訴請求原因1中、反訴原告X1が本件事故により頸部挫傷、腰部挫傷、右股関節挫傷、左肩挫傷の傷害を負い、頭痛、頸部痛、腰部痛、右股関節痛を訴えていたことは認めるが、その余は争う。
稲沢市民病院の診療録及び同病院からの回答によれば、反訴原告X1が平常の生活または業務に従事することができる程度になおった日は遅くとも受傷後二週間後であり、その間の通院実日数は六日である。
したがって、反訴原告X1に支払うべき搭乗者傷害保険金は六万円である。
なお、反訴原告X1は、本件事故後の平成一二年一月二七日にも交通事故により、頸部・腰部・骨盤挫傷の傷害を負っている。
2 反訴請求原因2中、反訴原告X2が本件事故により頸部挫傷、腰部挫傷、右肘挫傷、右手挫傷の傷害を受けたことは認めるが、その余は争う。
稲沢市民病院の診療録及び同病院からの回答によれば反訴原告X2が平常の生活または業務に従事することができる程度になおった日は遅くとも受傷後二週間であり、その間の通院実日数は五日である。
したがって、反訴原告X2に支払うべき搭乗者傷害保険金は五万円である。
なお、反訴原告X2は、本件事故後の平成一二年一月二七日にも交通事故により左足関節挫傷の傷害を負い、左下肢の痛みを訴え、そのために歩行不能となっている。
3 反訴請求原因3中、反訴原告X3が本件事故により右足関節挫傷、右眼瞼挫傷の傷害を受けたことは認めるが、その余は争う。
稲沢市民病院の診療録及び同病院からの回答、及び反訴原告X3は当初から通院日以外は幼稚園に通園していたことからすれば、反訴原告X3については、本件事故により平常の生活ができなくなったという状態は当初から存在しない。
したがって、反訴原告X3には搭乗者傷害保険金の請求権はない。
第四 当裁判所の判断
一 本件においては、反訴原告らが、本件保険約款の搭乗者傷害条項第八条第一項にいう「生活機能または業務能力の喪失または減少」をきたしたか否か、及び、「平常の生活または業務に従事することができる程度になおった日」はいつであるかが争点であるから、以下、その観点から検討する。
二 反訴原告X1に関して
1 本件事故の状況
乙第一~八号証及び弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められる。
(一) 反訴原告X1は、本件事故当時、被害車両を運転して、本件事故現場において、前方の交差点の信号機が赤信号を表示していたので低速で走行していた。反訴原告X2は上記車両の助手席に同乗し、反訴原告X3は後部座席で横になってうとうととしていた。
(二) その時、対向して進行してきた加害車両が、はみ出し通行禁止の黄色実線中央線を越えて(車体が中央線を跨いで)まっすぐ進行してきたので、反訴原告X1は被害車両を道路左端に停止させたが、加害車両はそのまま直進し、ブレーキはかけたものの、被害車両に突っ込み、加害車両の右前部が被害車両の右前部に衝突し、被害車両は後方に移動させられた。
(三) 被害車両は、本件事故により、前輪の車軸の折損、フェンダーから天井の変形歪み、扉の歪み等の損傷が生じ、走行不能となり、修理費の見積は八三万円であった。
2 受傷内容、症状・治療経過及び生活状況
甲第二号証の一、二、第六、一一、一二号証、乙第五、八、九、一七号証、証人Bの証言、反訴原告X1本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の各事実が認められる。
(一) 反訴原告X1は、本件事故後、警察の事情聴取・被害自動車のレッカー移動手配等を済ませた上で、同日(平成一一年一二月三〇日)午前二時三〇分ころ、代車を運転して、反訴原告X2及び反訴原告X3を同乗させて、稲沢市の自宅に向かった。途中伊勢自動車道路を経由して、通常では約一時間三〇分かかる道のりを、休憩を取りながら約三時間かけて稲沢市に戻った。
(二) 稲沢市に戻って、まず、同日午前五時二〇分ころ稲沢市民病院に行って診察を受けた。頭痛、頸部痛、腰部痛を訴え、頸部、腰部のレントゲン検査を受け、頸部挫傷、腰部挫傷と診断され、湿布薬を処方された。骨折やひびはなく、四肢関節の可動は良好で、感覚障害はなく、経過観察とされ、正月明け(一月四日)に再度受診するように指示された。
(三) 反訴原告X1は、その後、平成一二年一月二日、四日、五日、七日と同病院に通院して、診察治療を受けた。腰痛、頭痛、項部痛、左肘の痛み、右股関節痛、両手指先のしびれ等を訴え、痛みのため関節可動域が制限されている、右大腿部に感覚過敏ありと診断され、上記(二)のレントゲン写真や股関節のレントゲン検査上は、変形性頸椎症が見られるだけで、著変なしと判断され、鎮痛剤、湿布薬を処方された。この間、一月五日に右股関節挫傷の傷病名が追加されている。
上記一月二日以降の診察を担当したC医師は、同月七日付けで、「頸部、腰部挫傷。平成一一年一二月三〇日から一週間の安静加療を必要とする。」旨の診断書を発行した。
(四) 反訴原告X1は、その後も、一月一二日以降六月二六日までの間に、一月に一二日間、二月に一九日間、三月に二一日間、四月に二〇日間、五月に二〇日間、六月に一七日間通院し、概ね頭痛、項部痛、腰痛、右股関節痛、肩甲部痛等の症状を訴え、鎮痛薬・湿布薬の処方を受け、一月一七日からホットパック・電気療法・低周波のリハビリを受けてきた。この間、一月一四日に頭部CT検査を行ったが、異常は見られなかった。なお、三月一日に左肩挫傷の傷病名が追加されている。
反訴原告X1は、その後も、平成一三年六月六日まで稲沢市民病院に通院したが、この間、反訴原告らと稲沢市民病院殊にC医師との間には、診断内容等に関して確執が生じていた。
(五) この間、反訴原告X1は、平成一二年一月二七日、自動車を運転していて追突され、頸部・腰部・骨盤挫傷の傷害を負い、同月二八日、稲沢市民病院を受診し、項部痛、腰痛等を訴え、以後、上記(四)と併せて診療を受けてきた。
(六) 前記C医師は、平成一二年八月二二日付けで、反訴被告宛に、「通院治療期間:平成一一年一二月三〇日~平成一二年六月三〇日、業務・日常生活に支障があると思われる期間:平成一一年一二月三〇日~平成一二年六月三〇日、就業が全く不可能な期間:平成一一年一二月三〇日~平成一二年六月三〇日」と記載した診断書を発行した。
(七) その後、平成一三年四月二〇日、C医師は、反訴被告の照会に対し、「事故後七~一四日間程度、就労は完全に不能と見込まれる。」、「(六か月間完全に就業不能との上記診断書について)就労一~二週間と書いても、痛みがあって仕事のできないということで通院が長期になれば、おかしくなるのでは」「就労不能は他覚的客観的に判断して約一~二週間と考える。患者の主張に沿う形で六か月と記入した。」旨回答した。
(八) 他方、稲沢市民病院の整形外科部長のB医師は、D弁護士の申し出による弁護士会の照会に対し、反訴原告X1に係る診療録を検討して、平成一三年二月五日、「レントゲン写真上加齢的変化があるのみで、異常はない。神経学的検査及び筋力検査の記載はない。就労の可能性は疼痛の程度による。傷病程度から判断すると、就労不可能期間は受傷後約一~二週間程度と考えられる。」旨回答し、本訴における証人尋問でも同旨の証言をしている。
(九) 反訴原告X1は、昭和○年○月○日生まれで、平成一一年九月三〇日に高岳製作所を定年退職して、本件事故当時は無職であった(その後、平成一二年一二月に再就職している。)。また、本件事故前は、ボランティアで小学生スポーツ少年団でバドミントンのコーチ等をしていた。
反訴原告X1は、前記のとおり、本件事故後代車を運転して稲沢市に戻り、その後も、自動車を運転し、かつ、反訴原告X2や反訴原告X3を同乗させて、稲沢市民病院に通院してきており、平成一二年三月末までは、毎日、自動車で反訴原告X3の幼稚園への送り迎えをしていた。また、妻の反訴原告X2が後記のような状態であったので、自動車を運転して日常の買い物をし、食事の用意その他の家事も行ってきた。
しかし、反訴原告X1は、前記のとおりの各疼痛、しびれ等が続いていたため、少なくとも平成一二年六月末ころまでは、自動車の運転や家事等は長時間は続けられず、休憩を取りながらせざるを得ず、時には皿を落としたり、水をこぼしたり等の失敗もあったし、また、バドミントンのコーチ等は差し控えざるを得なかった。
3 上記2に認定した事実関係によれば、反訴原告X1は、本件事故による傷害の結果生活機能に減少をきたし、少なくとも、本件事故後一八〇日を経過する日(平成一二年六月二六日)までの間に、一一四日間通院して治療を受けてきたことが認められ、かつ、少なくとも、上記の期間は、家事、自動車運転、スポーツ等の平常の生活を行うについては相当の苦痛、差し支えが生じ、苦痛等を我慢しあるいは休みを取りつつ家事、自動車運転等を行ってきたものと認められ、したがって、反訴原告X1は、平成一二年六月二六日までは、就労・家事作業等が全く不可能であったわけでもなく、大きく制限される状態が継続していたわけでもなかったものの、日常生活に相当の支障を生じており、「平常の生活または業務に従事することができる程度に治った」となし得るには至っていなかったものと認めるのが相当である。
4 なお、前記のとおり、反訴原告X1は上記期間中の平成一二年一月二七日に再度交通事故で負傷しているのであるが、その事故の態様・程度、傷害の内容・程度及び前記治療経過に照らすと、上記の再度の事故による受傷の事実は、その後の反訴原告X1の症状・治療及び日常生活支障と、本件傷害との因果関係を肯認する妨げとはならないものというべきである。
5 してみれば、反訴被告は、反訴原告X1に対し、本件保険契約に基づく搭乗者傷害保険金として、上記期間の通院に対応する一一四万円を支払うべき義務があるものというべきであり、その支払を求める反訴原告X1の反訴請求は理由があるものというべきである。
三 反訴原告X2に関して
1 本件事故の状況
上記二の1に判示したとおりである。
2 受傷内容、症状・治療経過及び生活状況
甲第三号証の一、二、第七、一一、一三号証、乙第五、八、一〇、一六、一八号証、証人Bの証言、反訴原告X2本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の各事実が認められる。
(1) 本件事故後、警察の事情聴取等を済ませた上で、同日(平成一一年一二月三〇日)午前二時三〇分ころ、反訴原告X1の運転する自動車(代車)で稲沢市に戻ることとし、途中休憩を取りながら約三時間かけて稲沢市に戻ったが、反訴原告X2は、その間、二度嘔吐した。
(2) 反訴原告X2は、稲沢市に戻って、まず、同日午前五時二〇分ころ稲沢市民病院に行って診察を受けた頸部痛、腰部痛、右上肢、下肢のしびれを訴え、頸部、腰部、胸部のレントゲン検査を受け、頸部挫傷、腰部挫傷、右肘挫傷と診断されたが、喘息の持病があるため、内服薬、外用薬とも処方は拒否した。レントゲン写真上、骨折やひびはなく、L五/Siに狭窄が疑われた。経過観察とされ、正月明け(一月四日)に再度受診するように指示された。
(3) 反訴原告X2は、その後、平成一二年一月二日、四日、七日と同病院に通院して、診察治療を受けた。頭痛、頸部痛、腰痛、右肘の痛み、右下腿のしびれ、悪心等を訴え、鎮痛剤、湿布薬を処方された。一月二日には、歩行可と診断され、また、一月四日には「症状が強い、次第に増悪してくる」と診断されたが、四肢の腱反射は正常であった。
上記一月二日以降の診察を担当したC医師は、同月七日付けで、「頸部、腰部挫傷、右肘挫傷。平成一一年一二月三〇日から一週間の安静加療を必要とする。」旨の診断書を発行した。
一月五日には頭部のCT検査を行ったが、異常は見られなかった。また、神経学的にも異常なしのようであると判断された。
(4) 反訴原告X2は、その後も、一月一二日以降六月二六日までの間に、一月に七日間、二月に一七日間、三月に二〇日間、四月に二〇日間、五月に二〇日間、六月に一七日間、上記病院に通院し、概ね頭痛、項部痛、肩甲部痛、腰痛、大腿部痛、右下腿のしびれ、右肘の痛み、悪心等の症状を訴え、鎮痛薬・湿布薬の処方を受け、一月一九日からホットパック・電気療法・低周波のリハビリを受けてきた。また、一月一九日、歩行が危なっかしかったので、これを補助する趣旨で、同病院から松葉杖の貸出しを受けた。なお、一月一二日には右手挫傷の傷病名が追加されている。
反訴原告X2は、その後も、平成一三年六月六日まで稲沢市民病院に通院したが、この間、反訴原告らと稲沢市民病院殊にC医師との間には、診断内容等に関して確執が生じていた。
(5) ところで、反訴原告X2は、本件事故以前の平成八年六月三日、反訴原告X1の運転する自動車に同乗していた際に追突され、腰部挫傷、外傷性腰椎椎間板障害、頸部挫傷等の傷害を負い、もりや整形外科で腰痛と頸部痛を訴えて診療を受けたが、腰痛が増悪し、大腿部痛が発現し、右下肢のしびれ・筋力低下も出現して、理学療法等によっても改善が見られなかったため、平成九年三月一三日稲沢市民病院に転院して治療を受けたが、平成一一年五月ころには示談が成立し、格別後遺障害は認められず、その認定も受けていなかった。
(6) また、反訴原告X2は、上記(四)の通院中の平成一二年一月二七日、反訴原告X1運転の自動車の助手席に同乗していて追突され、同月二八日、稲沢市民病院を受診した。初診時に左大腿部痛、左足関節痛を訴え、「左足関節部挫傷:一週間の安静加療を必要と認める」との診断を受けた。以後、上記(四)と同様稲沢市民病院に通院して診療を受け、二月二四日から左足関節のリハビリ(マイクロ、ホットパック)を受けてきた。
(7) 前記C医師は、平成一二年八月二五日付けで、反訴被告宛に、「通院治療期間:平成一一年一二月三〇日~平成一二年六月三〇日、業務・日常生活に支障があると思われる期間:平成一一年一二月三〇日~平成一二年六月三〇日、就業が全く不可能な期間:平成一一年一二月三〇日~平成一二年六月三〇日」と記載した診断書を発行した。
(8) その後、平成一三年四月二〇日、C医師は、反訴被告の照会に対し、「完全就労不能期間は他覚的客観的に判断して約一~二週間と考えるが、患者の主張に沿う形で六か月と記入した。」旨回答した。
(9) 他方、稲沢市民病院の整形外科部長のB医師は、D弁護士の申し出による弁護士会の照会に対し、反訴原告X2に係る診療録を検討して、平成一三年二月五日、「他覚所見は特にない。レントゲン写真上腰椎に加齢性変化があるが、他に異常はない。一月四日に四肢腱反射は正常、以後経時的記載はない。平成八年六月三日に交通事故にて頸部挫傷・外傷性腰椎椎間板障害の既往あり、それ以来右下肢のしびれ・筋力低下が続いているとのことである。就労の可能性は疼痛、しびれ等の程度による。傷病程度から判断すると、就労不可能期間は受傷後約一~二週間程度と考えられる。」旨回答し、本訴における証人尋問でも同旨の証言をしている。
(10) 反訴原告X2は、昭和○年○月○日生まれで、本件事故前は、反訴原告X1と二人暮らしで、食事の準備、洗濯、日常の買い物その他の家事を一人で行ってきたが、本件事故後約一〇か月の間は、胸のむかつき、右下肢のしびれ、右上肢の痛み、頭痛、腰痛等のため、食事の準備、洗濯、ゴミだしその他の立ってする家事が困難となり、その大半を、たまたま定年退職して無職状態にあった反訴原告X1に委ねてきた。
また、歩行が不安定なため、平成一二年二月に二度、自宅内で階段から落ちて怪我をしたことがあり、そのような歩行困難な状態はその後も続いている。
3 上記2に認定した事実関係によれば、反訴原告X2は、本件事故による傷害の結果生活機能に減少をきたし、少なくとも、本件事故後一八〇日を経過する日(平成一二年六月二六日)までの間に、一〇五日間通院して治療を受けてきたことが認められ、かつ、少なくとも、上記の期間は、胸のむかつき、右下肢のしびれ、右上肢の痛み、頭痛、腰痛等のため、立ってする家事を行うことが困難となり、その大半を夫の反訴原告X1に委ねてきたことが認められ、したがって、反訴原告X2は、平成一二年六月二六日までは、家事作業等がかなり大きく制限され、日常生活に相当の支障が生じる状態が継続していたものというべきであって、「平常の生活または業務に従事することができる程度に治った」状態には到底至っていなかったものと認められる。
4 なお、前記のとおり、反訴原告X2は、本件事故以前の平成八年六月三日の追突事故で、腰部挫傷、外傷性腰椎椎間板障害、頸部挫傷等の傷害を負い、腰痛、大腿部痛、右下肢のしびれ・筋力低下の症状が発現していたのであるけれども、本件事故前はそれによる後遺障害は認められない状態となっており、日常生活に支障を与えていなかったのであるから、上記既往の事故による傷害の事実は、本件事故後の反訴原告X2の症状・治療及び日常生活支障と、本件傷害との因果関係を肯認する妨げとはならないものというべきである。
5 なおまた、前記のとおり、反訴原告X2は上記期間中の平成一二年一月二七日に再度交通事故で負傷しているのであるが、その事故の態様・程度、傷害の部位・内容・程度・症状及び前記治療経過に照らすと、上記の再度の事故による受傷の事実も、その後の反訴原告X2の症状・治療及び日常生活支障と、本件傷害との因果関係を肯認する妨げとはならないものというべきである。
6 してみれば、反訴被告は、反訴原告X2に対し、本件保険契約に基づく搭乗者傷害保険金として、上記期間の通院に対応する一〇五万円を支払うべき義務があるものというべきであり、反訴原告X2の反訴請求は、上記保険金及びこれに対する遅延損害金の請求の限度で理由があるけれども、その余は理由がないものというべきである。
四 反訴原告X3に関して
1 本件事故の状況
上記二の1に判示したとおりである。
2 受傷内容、症状・治療経過及び生活状況
甲第四号証の一、二、第八、一〇、一一号証、乙第六号証、証人Bの証言、反訴原告X1本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の各事実が認められる。
(1) 反訴原告X3も、本件事故後、同日(平成一一年一二月三〇日)午前二時三〇分ころ、反訴原告X1の運転する自動車(代車)で稲沢市に戻ることとなり、途中休憩を取りながら約三時間かけて稲沢市に戻った。
(2) 反訴原告X3も、稲沢市に戻って、まず、同日午前五時二〇分ころ稲沢市民病院に行って診察を受けたが、その結果、意識清明で、症状もなく、四肢関節可動良好で、感覚障害もなかったため、経過観察とされた。
(3) 平成一二年一月四日、稲沢市民病院整形外科を受診し、右眼瞼に腫脹を認め、眼科を受診するよう指示されただけで、その他の治療・処方はなされなかった。なお、前記一二月三〇日あるいは上記一月四日に、右足関節挫傷、右眼瞼挫傷との傷病名が付けられた。
(4) 反訴原告X3は、翌五日、両眼周囲に紫斑が見られたためとして、同病院眼科を受診し、両眼球打撲と診断されたが、前眼部・眼底とも著変なく、視力も正常で、眼瞼の紫斑も軽減していたので、点眼・内服その他の治療も特に行わず、診療は終了した。
(5) 反訴原告X3は、一月七日、同病院整形外科を受診し、右足首の痛みを訴え、レントゲン検査をしたが、異常は見られず、歩行障害もなく、格別の治療・処方はなされなかった。
(6) 反訴原告X3は、その後も稲沢市民病院整形外科を受診し、その診察結果は次のとおりであった。
<1> 一月二四日
項部痛を訴えたが、首の運動制限はなく、様子観察とされ、格別の治療・処方はなされなかった。
<2> 二月二日
変化はなかった。
<3> 二月二一日
項部痛を訴えた。
<4> 三月一日
項部痛を訴えたが、首の運動は自由にできた。モーラステープを処方した。
<5> 三月一五日
右足首の痛みを訴えたが、変化はなかった。
<6> 三月二七日
右足首の痛みを訴えたが、変化はなかった。セルタッチを処方した。
<7> 四月一一日
歩行障害はなかった。
<8> 五月二日、五月三〇日、七月四日
格別の診断・治療はなかった。
<9> 八月二八日
両足首の痛みを訴えたが、視診上著変なく、運動も良い。
(7) 上記一月四日以降の診察を担当した整形外科C医師は、一月七日付けで、「傷病名:右足関節挫傷、右眼瞼挫傷。一二月三〇日から一週間安静加療を必要と認める。」との診断書を発行した。
(8) 上記C医師は、平成一二年八月二三日付けで、反訴被告宛に、「通院治療期間:平成一一年一二月三〇日~平成一二年七月四日、業務・日常生活に支障があると思われる期間:平成一一年一二月三〇日~平成一二年七月四日」と記載した診断書を発行した。
(9) 他方、稲沢市民病院の整形外科部長のB医師は、D弁護士の申し出による弁護士会の照会に対し、反訴原告X3に係る診療録を検討して、平成一三年二月五日、「主訴:右足関節痛、右眼瞼腫脹。他覚所見:右眼瞼腫脹あり。レントゲン検査:右足関節異常なし。初診時神経学的異常なく、以後の経時的所見の記載なし。当初より足関節の可動域に異常はない。治療は張り薬の投薬と経過観察のみである。」旨回答し、本訴における証人尋問でも同旨の証言をしている。
3 上記認定の事実関係に照らすと、反訴原告X3は、本件事故後、日常生活に支障を生じるような症状は発現しなかったものと認めざるを得ないというべきである。
4 もっとも、乙第六、七号証、反訴原告X1本人尋問の結果中には、「本件事故後足首が痛くて遊べなかった」、「跳び箱が跳べなくなった」、「走るのが遅くなった」、「転びやすくなった」等の部分があるけれども、これらの部分は、裏付けとなる客観的な資料もなく(乙第一一号証もその記載内容に照らして客観的な裏付資料となり得るものではない。)、前記診療経過に照らして採用しがたいといわざるを得ない。
また、前記2の診療経過に照らすと、前記2(八)の平成一二年八月二三日付け診断書の記載では、上記3の認定判断は左右されないものというべきである。
そして、本件事故の状況をもっても上記認定判断は左右されず、他に上記認定判断を左右するに足りる証拠はない。
5 してみれば、反訴原告X3については、本件保険約款の搭乗者傷害条項第八条第一項にいう「生活機能…の喪失または減少」をきたしたとは認めがたく、また、「平常の生活」に支障が生じたものとは認めがたいものというべきであり、本件保険契約による搭乗者傷害保険金の請求権は発生していないものといわざるを得ない。
6 してみれば、反訴原告X3の反訴請求は理由がないものというべきである。
第五 以上の次第で、反訴原告X1の反訴請求はすべて認容し、反訴原告X2の反訴請求は上記理由のある限度で認容して、その余を棄却し、反訴原告X3の反訴請求はすべて棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法六一条、六四条、六五条を、仮執行の宣言につき同法二五九条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 渡辺修明)