大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 平成13年(ワ)903号 判決 2001年11月16日

原告

堀井正樹

被告

橋本興こと徐甲福

主文

一  原告の被告に対する別紙事故目録記載の交通事故による損害賠償債務は金三、三三八、〇〇〇円及びこれに対する平成一三年二月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を超えて存在しないことを確認する。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その九を被告の、その余を原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

原告の被告に対する別紙事故目録記載の交通事故による損害賠償債務は金三、〇五八、〇〇〇円を超えて存在しないことを確認する。

第二事案の概要

本件は、別紙事故目録記載の交通事故の発生に関して、原告が被告に対する損害賠償債務が一定額を超えて存在しないことの確認を求め、被告がこれを超える債務の存在を主張する事案である。

一  争いのない事実等(弁論の全趣旨)

(一)  交通事故(以下「本件事故]という。)

別紙事故目録記載のとおり。

(二)  原告の責任原因

原告には前方注視義務違反という過失による民法七〇九条の不法行為責任がある。

二  争点

(一)  被告の損害

(被告の主張)

本件事故による被告の損害は以下のとおりである。

ア 車両損害

車両本体価格 三、八〇〇、〇〇〇円

諸経費 二七五、〇〇〇円

エアロパーツ代金 二、一四四、一〇〇円

イ カーナビゲーションシステム代金 一四六、〇〇〇円及び消費税

ウ レッカー費用 八、〇〇〇円

エ 弁護士相談費用 五、二五〇円

オ 代車費用 二、六八〇、〇〇〇円

(原告の認否)

ア 車両損害

車両本体価格三、〇〇〇、〇〇〇円。

なお、被害車両の所有権は訴外株式会社中京商運にあるから、被告に車両本体価格相当の損害はない。また、エアロパーツ代金は、被告が被害車両にAMG仕様を施したと認めることができないから損害には当たらない。

イ カーナビゲーションシステム代金 五〇、〇〇〇円

事故時の時価額は上記の額を超えない。

ウ レッカー費用

認める。

エ 弁護士相談費用

本件事故と相当因果関係の範囲内にある損害とはいえない。

オ 代車費用

上記のように被告は被害車両の所有者ではないから、被告に代車費用の損害は発生していない。

第三争点に対する判断

(成立に争いのない書証、弁論の全趣旨により成立を認める書証については、その旨記載することを省略する。)

一  車両損害 三、〇〇〇、〇〇〇円

(一)  原告は、被告には被害車両の所有権がないから車両損害は被告に帰属しないと主張し、証拠(甲一、九の<1>、<2>)によれば、被害車両の登録名義が訴外株式会社中京商運であること、本件事故直後に訴外株式会社中京商運の代理人弁護士から被告に対して被害車両を含め三台の車両の返還を求める文書が送付されたことが認められるが、他方、証拠(甲二、乙三の二、被告本人)によれば、上記の文書が送付された後、訴外株式会社中京商運から原告の契約先保険会社に対して、本件事故に基づく保険金を被告が受領をすることにつき異議を述べない旨の承諾書(甲二)が提出されていること、被告自身、上記の三台の車両を貸付金の担保として取って被害車両を使用していたこと、被害車両以外の二台を返還する代わりに被害車両の損害賠償請求権の受領権限を譲り受けたことを認めていること(被告本人四七項)に照らすと、上記の登録名義に関わらず、被害車両の車両損害に基づく損害賠償請求権は訴外株式会社中京商運から被告に移転していたものと見るのが相当である。

(二)  証拠(甲一、四、五)によれば、被害車両の修理費用見積もりは五、一〇三、三四七円であること、これに対して被害車両は平成二年一月初度登録のメルセデスベンツ五〇〇SL、AMG仕様、走行距離約七二、〇〇〇キロであり、同年初度登録の同車種、AMG仕様の中古車市場価格は、三、四八〇、〇〇〇円(走行距離四五、〇〇〇キロ)、二、七八〇、〇〇〇円(走行距離六八、〇〇〇キロ)であることに照らすと、本件事故当時の被害車両の時価は三、〇〇〇、〇〇〇円を超えるものとは認められず、したがって、被害車両は本件事故により経済的全損となり、その損害は三、〇〇〇、〇〇〇円を超えないものと認められる。

被告は、平成一三年一月に車両本体価格三、八〇〇、〇〇〇円、諸経費消費税込み四、〇七五、〇〇〇円で購入し、これにAMG仕様とするためにエアロパーツ部品を装着してその費用に二、一四四、一〇〇円を要したから合計六、二一九、一〇〇円が損害であると主張し、その購入費用及び部品装着費用の領収証等を提出する(乙一、二、三の<1>、<2>、四)。しかし、上記の中古車市場価格は既にAMG仕様とされたメルセデスベンツ五〇〇SLのものであること、証拠(甲六ないし八)によれば、被害車両は被告が入手した際に既にAMG仕様となっていたものと認められ、したがって被告がエアロパーツ部品を被害車両に装着したこと自体疑わしいこと、上記のとおり被告は貸付金の担保としていた車両三台のうち二台を返還する代わりに被害車両の損害賠償請求権を譲り受けたというのであるから訴外株式会社中京商運との間の見積書、領収書等はいずれも信用性がないことに照らすと、被告の主張は信用することができない。また被告は、AMG仕様となっていない同年初度登録、同種の中古車について三、九八〇、〇〇〇円の中古車市場価格を書証として提出するが(乙八)、この車両は走行距離三四、〇〇〇キロであって被害車両の半分以下であることに照らすと、この価格を直ちに被害車両の時価の資料とすることはできない。

二  カーナビゲーションシステム代金 五〇、〇〇〇円

証拠(甲一六、一七、乙一二、被告本人)及び弁論の全趣旨によれば、被害車両にはカーナビゲーションシステムが搭載されていたこと、本件事故によりこれが損傷したこと、同種のカーナビゲーションシステムの新規購入価格は一四二、八〇〇円(消費税込み)と見積もられているものの、中古品としての価格は五〇、〇〇〇円を超えないことが認められる。

三  レッカー費用 八、〇〇〇円

当事者間に争いがない。

四  弁護士相談費用 〇円

被告は弁護士名義の相談料五、二五〇円の領収証(乙六)を提出するが、本件訴訟手続を弁護士に委任したものではなく単に弁護士に相談したことに基づく費用は、未だ本件事故と相当因果関係のある損害として原告に請求し得るものとは認めることができない。

五  代車費用 二八〇、〇〇〇円

被告は、本件事故後、被害車両の代車としてベンツを一日五〇、〇〇〇円で一二日間合計六〇〇、〇〇〇円、キャデラックを一日四〇、〇〇〇円で五二日間以上使用していると主張し、これに沿う書証(乙七、一一、一三)を提出する。しかし、前記認定の各事実、証拠(被告本人)、公知の事実及び弁論の全趣旨によれば、被害車両は経済的全損であるから買替えを相当とし、したがって代車は買替えに通常要する期間を超えて使用する必要性は認められないところ、買替え相当期間は二週間を超えるものとは認められないこと、被告は被害車両を使用して金融業を行っていたところ、金融業を行うために使用する代車の費用としては被告の主張するような高額の代車を使用する必要性は認められず、代車費用は一日当たり二〇、〇〇〇円をもって相当と認められる。したがって、代車費用は、二八〇、〇〇〇円をもって相当と認める。

二〇、〇〇〇×一四=二八〇、〇〇〇

六  その他の損害

被告はこの他、被害車両に積載されていた物品として合計三八、八五〇円の見積書(乙九)を提出し、また、被害車両を駐車していた駐車場の賃料に関する文書(乙一〇)、駐車場から被害車両を処分するために訴外株式会社中京商運へ運搬するためのレッカー費用として六五、〇〇〇円を要したとする文書(乙一三)を提出する。しかし、上記の物品が被害車両に積載されていたことを認めるに足る証拠はない。上記認定のとおり被害車両は全損である以上その保管に要した費用があるとしてもこれは本件事故と相当因果関係は認められない。また、処分車両の運搬であることに照らしレッカー費用の必要性も認められない。したがって、これらをもってしても、上記以外に被告について本件事故に基づく損害があったものとは認めることができない。

七  結論

以上によれば、本件事故による被告の損害は、三、三三八、〇〇〇円及びこれに対する本件事故の日である平成一三年二月二三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を超えては存在しないものと認められる。

(裁判官 堀内照美)

事故目録

日時 平成一三年二月二三日午前一時二五分ころ

場所 愛知県春日井市鳥居松町四丁目一四六番地先路線上

加害車両 原告運転の普通乗用自動車

被害車両 被告が駐車中の普通乗用自動車

事故態様 駐車中の被害車両に加害車両が衝突したもの。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例