名古屋地方裁判所 平成14年(わ)2054号 判決 2003年8月19日
主文
被告人を無期懲役に処する。
未決勾留日数のうち260日を刑に算入する。
理由
(犯罪事実)
被告人は,
第1平成14年7月9日午前2時45分ころ,名古屋市a区b町c番地Aクラブにおいて,B(当時17歳)に対し,所携の十徳ナイフ(刃体の長さ約6.3センチメートル)でその背部を1回突き刺し,よって,同人に加療約1か月間を要する背部刺創,後腹膜血腫の傷害を負わせた。
第2分離前相被告人Cと共謀の上,同月10日ころ,愛知県春日井市d町e丁目f番地D駐車場において,同所に駐車中のE所有又は管理にかかるゴルフ道具1式ほか1点積載の普通乗用自動車1台(時価合計約450万円相当)を窃取した。
第3F(当時22歳)を殺害しようと企て,いずれも傷害の意思を持った前記C,分離前相被告人G,H,I,J及びLと共謀の上,同月14日午後10時20分ころ,名古屋市a区gh丁目i番地居酒屋Lj店駐車場において,上記Fに対し,被告人が,三徳包丁(刃体の長さ約15.5センチメートル)でその左腹部を1回突き刺し,上記Cが,催涙スプレーをその顔面に噴射し,鉄筋棒(長さ約60センチメートル)でその頭部を殴打し,右手拳でその顔面を殴打するなどの暴行を加えて,同人に全治約1か月間を要する腹部刺傷,顔面打撲の傷害を負わせたが,被告人において,上記F殺害の目的を遂げなかった。
第4M(当時28歳)を殺害の上金品を強取しようと企て,同人から金品強取の故意を持った前記C,同G,同H,同I,同J及び同Lと共謀の上,第3記載の日時ころ,第3記載の居酒屋Lj店駐車場及び付近駐車場において,上記Mに対し,被告人が,第3記載の三徳包丁でその右背部を1回突き刺し,上記Jが,左手拳で上記Mの顔面を殴打し,上記Iが,上記Mをその場に引き倒す等の暴行を加え,その反抗を抑圧した上,上記Mから,同人所有または管理にかかる現金約23万6000円及びクレジットカード3枚ほか1点在中の財布1個(時価合計約3万円相当)を強取し,さらに,被告人が,転倒した上記Mの頭部を足蹴にするなどの暴行を加え,上記H,同I,同Jが,上記Cの運転する普通乗用自動車後部座席に上記Mを押し込み,上記I,同Jが,上記Mの両側に,被告人,上記Hが,同車助手席に各乗車し,上記Cが,同車を疾走させた上,同区内を走行中の同車内において,上記Mから,同人所有又は管理にかかる同人の自宅の鍵1個等在中のキーケース1個ほか1点(時価合計約1万5000円相当)を強取し,引き続き,上記Mを上記自動車から,上記Gが運転し,上記Lが乗車する普通乗用自動車に移乗させて,同月15日午前零時30分ころ,上記Mを同車で同区kl丁目m番地Nn号上記M方居室付近まで連行し,同居室内から,上記M所有の手提げバッグほか約11点(時価合計約11万3500円相当)を強取した上,この機会に,上記犯行の発覚を防ぐなどのために,上記Mを殺害する意思を持った上記C,同G,同H,同I,同J及び同Lと共謀の上,同日午前1時45分ころから同日午前3時ころまでの間,愛知県犬山市op番地内の雑木林付近において,被告人ら7名が同所に掘った穴の中に上記Mを引きずり入れた上,同人に対し,被告人が,所携のナイフでその背部を数回突き刺し,上記G,同C,被告人が,こもごもゴルフクラブでその頭部を多数回殴打し,被告人ら7名が,上記穴に土砂をかぶせるなどして上記Mを土中に埋没させ,土砂を足で踏み固めるなどして生き埋めにし,よって,そのころ,同所において,同人を窒息死させて殺害した。
第5前記Cと共謀の上
1 同月19日ころ,名古屋市g区r町s丁目t番地O方駐車場において,同所に駐車中の同人管理にかかる普通乗用自動車1台(時価約250万円相当)を窃取した。
2 同年8月1日ころ,同市u区vw番x号P駐車場において,同所に駐車中のQ所有のナイロン製パーカー1着ほか3点積載の普通乗用自動車1台(時価合計約253万6000円相当)を窃取した。
(証拠)(省略)
(法令の適用)
罰条
第1 刑法204条
第2及び第5の1,2 いずれも刑法60条,235条
第3 刑法60条,203条,199条
第4 刑法60条,240条後段
刑種の選択
第1 懲役刑
第3 有期懲役刑
第4 無期懲役刑
併合罪の処理 刑法45条前段,46条2項本文(第4の罪につき無期懲役刑を選択したので他の刑を科さない。)
未決勾留日数の算入 刑法21条
訴訟費用 刑事訴訟法181条1項ただし書(負担させない。)
(量刑の理由)
第1本件事案の概要
本件は,被告人が,C,J及びHとカラオケ店にいた際,Jが暴走族とトラブルになり暴力を受けたことから,その報復のため,所持していた十徳ナイフを被害者の背中に突き刺して傷害を負わせ(第1),その後,Cとともに自動車を盗み(第2),さらに,C,H,I,J(以下,H,I,Jを合わせて「Hら3名」という。),G及びL(以上7名を合わせて,「被告人ら7名」という。)と,M及びFらに対し焼き入れをし(ただし,被告人は当初から両名を殺害しようと意図していた),かつMからは金品を強取しようと共謀し,CがFを飲みに誘い出し,駐車場で自動車を降りたFに対し,被告人が殺意を持って三徳包丁で左腹部を突き刺し,Cが顔面に催涙スプレーを噴射し,鉄筋棒で頭部を殴打するなどして傷害を負わせ(第3),また,Fとともに自動車を降りたMに対し,被告人が殺意を持って三徳包丁で背部を突き刺し,J及びIが暴行を加えた上,Mから現金等入りの財布を強取し,さらに同人をC運転の普通乗用自動車内に押し込み,同車を発進させ,同車内においてMからキーケースなどを強取し,さらに同人方居室において,手提げバッグなどを強取した後,罪証隠滅などのため,愛知県犬山市内の雑木林まで同人を連行し,同所に掘った穴の中に同人を引きずり入れた上,被告人がMの背部をナイフで突き刺したり,G,C及び被告人がゴルフクラブでMの頭部を多数回殴打するなどした後,被告人ら7名が,穴に土砂をかぶせるなどしてMを生き埋めにして窒息死させ(第4),その後にCとともに自動車盗2件を犯した(第5)という事案である。
第2被告人の身上,本件強盗殺人及び殺人未遂の各犯行に至る経緯,その犯行状況及び犯行後の状況等
1 被告人の身上経歴及び被告人ら7名の関係
(1) 被告人は,昭和××年××月××日名古屋市で出生したが,その約1年後に両親が離婚し,父親と祖父と3人で暮らすようになった。しかし,その後父親が覚せい剤使用で逮捕され,さらに,祖父が無免許運転で逮捕され,懲役刑に服することとなったことから,養護施設に預けられた。その後,被告人は,幼稚園児のときに父親に引き取られたが,その1年ほど後からは祖父に育てられ,中学2年生のころ,教護院(現在の児童自立支援施設)「R」に入園し,ここで前年に入園していたCと知り合った。被告人は,平成7年12月ころ,Rを脱走した後,同級生を脅迫したことなどにより,平成8年3月,初等少年院送致の処分を受け,S少年院に入院した。仮退院後,Cと親しく付き合うようになり,Cと共に,大学生を木の棒等で殴打するなどして金員を奪ったという強盗傷人事件により,平成9年12月,中等少年院送致の処分を受け,T少年院に入院した。平成10年12月に仮退院した後,再びCと付き合い,Cと共にひったくりや大学生に対して暴行を加えて金品を奪うなどの窃盗,強盗傷人事件を起こし,平成11年8月,特別少年院送致の処分を受け,U少年院に入院し,平成13年7月に仮退院した。その後,被告人は,父親の紹介で溶接工として稼働していたが,平成14年4月に自動車学校に入校してから仕事をしなくなった。そして,自動車教習所を出てからは,Cの彼女のマンションで居候するなどしてCと行動を共にするようになり,自動車盗や車上荒らしをするなどして生活していた。
(2) 平成14年2月ころ,被告人は,Cの紹介でGと知り合い,以後共に飲食するなどして親しく付き合っていた。その後,同年4月,被告人が自動車学校に入校した際,I及びJと知り合い,両名を介して,Hと知り合った。被告人がHら3名と付き合うようになったことから,被告人と行動を共にしていたCとHら3名も知り合った。そして,被告人及びCが先輩,Hら3名が後輩という関係で飲食するなどして付き合っていた。同年7月9日,被告人が,C,H,Jらとカラオケ店にいたとき,Jが暴走族にからまれて暴力を受けたので,その報復のため,持っていた十徳ナイフで暴走族の一人の背中を突き刺し,判示第1の犯行に及んだ。その際,Cが使用していた自動車が壊れたため,翌日,被告人とCは,自分たちの足を確保するために判示第2の犯行に及び,普通乗用自動車V(以下「V」という。)を手に入れた。
(3) GとLは,Gが先輩という立場で,それぞれの交際相手と4人で飲食するなどして親しく付き合っていた。被告人は,Lとは本件で初めて知り合った。
2 被害者らとの関係
(1) 被告人は,MともFともほとんど面識がなかったのに対し,Cは,Fと中学生の時に知り合い,Fを介してMとも知り合ったが,本件当時はMともFとも交友関係はなかった。また,Gは,知人を介してMやFと知り合い,交友関係があった。
(2) Hら3名は,M及びFと面識がなく,Lも,Mとはほとんど面識がなかったが,Fの中学の後輩であった。
3 GがMらから追い込みをかけられるに至った経緯等
(1) Gは,生活費に困っていたことなどから,平成14年5月ころ,Mから10万円を借金し,利息3万円を付けて同年6月末に全額返済することを約束したが,他への借金の返済に回した後借金の存在を忘れてしまい,期限までに返済しなかった。また,Gは,Fからカーオーディオを2万円で購入したが,支払いを待ってもらっていた。
(2) Gは,WやFの双子の兄であるXを殴ったことがあり,さらに,C及びLとともにW所有の普通乗用自動車Y(以下「Y」という。)のガラスを割るなどしたことがあった。その後,Gは,路上で偶然出会ったWを殴ったこともあった。
(3) Mは,Gが借金の返済をしない上携帯電話もつながらなかったことから,同年7月上旬ころ,Mは,Gを捜し出して脅してでも返済させようと考え,Fにその計画を持ちかけたところ,Fもカーオーディオ代金を支払ってもらっていなかったこともありこれを承諾した。Fは,Gから殴られたりしたことのあったWやXを仲間に引き入れ,さらにGに追い込みをかけることについて知人の元暴力団員であるZからアドバイスを受けた。
(4) 同月13日,M,F,W及びXの4名は,YでGを捜すため,甲を呼び出して,Gの彼女の家に向かっていたところ,G運転の普通乗用自動車乙(以下「乙」という。)に遭遇し,Gを捕まえようとしたが,これに気付いたGは逃走した。
(5) そのため,Mらは,Gと行動をともにしているLにGと連絡を取らせようと考え,Lを呼び出してY内に連れ込んだ。そして,Lを取り囲み,Zが,Gが借金を返さないこと,Wらを殴ったことなどを伝え,入れ墨を見せながら,Gと連絡を取らないと名古屋にいることができなくなるなどと申し向け,これに呼応したMらが,Gをマグロ漁船に乗せるとか殺すなどと言って,Lを脅迫した。
(6) 解放されたLは,Gに対し,知らないヤクザと一緒に来たMらに監禁され,Gを殺すと言われたことなどを伝えた。
(7) この話を聞いたGは,自分がMに借金を返済していないことから追い込みをかけられていることに気付き,東京に逃げようと考えた。しかし,その前にCから借りていた乙を返さなければならないと思い,Cに電話をかけた。すると,Cは,追い込みが本当であれば友達であるGを助けなければならないと考え,被告人とともにGの話を聞くために,愛知県小牧市内のコンビニエンスストアで待ち合わせた。
4 犯行に至る経緯及び共謀状況等
(1) 被告人,C及びGの共謀状況
同日午後9時ころ,コンビニエンスストアで,被告人は,CとともにGから,Mらに追い込みをかけられたこと,その中に知らないヤクザもいたこと,また,MらがLのところまで押しかけて行き,Gを殺すと言っていたことなどを聞き,Gが本当にヤクザに追い込みをかけられているものと思い込み,ヤクザであればとことん追いかけてくるから逆にこちらから先制攻撃を仕掛けて殺さなければならないと考えた。そこで,被告人は,CとGに対して,逆に殺してやろうなどと先制攻撃を仕掛ける旨言ったところ,CもGも賛同した。このとき,GがMは大金を持っていると言ったことから,Mから金品を強取するとの話になり,被告人としては,あくまでGを助けるためMらを殺害することが目的であるが,殺すついでに奪えばそれもよいと考え,これに同意した。ここにおいて,被告人,C及びGの間で,Mらに焼き入れをして,Mからは金品を強取することの共謀が成立したが,このときCとGはMらを殺害することまでは考えていなかったため,焼き入れの内容は,被告人においてはMらを殺害すること,C及びGにおいては,暴行を加えることであった。
そこで,被告人は,ヤクザを含めて十数人を相手にするのに3人では少ないと考え,信頼できるHら3名に加勢を頼むため,H及びIに電話をかけて,Gがヤクザに追い込みをかけられていることを告げて,武器を準備して集合するように伝えた。また,GもLに電話して,Mらに追い込みをかけられた仕返しをすると誘い,Lも承諾した。
(2) 被告人ら7名の共謀状況
同日午後10時30分ころ,名古屋市a区のファミリーレストランの駐車場で,被告人ら7名全員がそろった際,Gが,Mらがヤクザをつれて自分に追い込みをかけてきたこと,自分を殺すと言っていたこと,Mが金貸しであり,大金を持っていることなどを話した後,被告人及びCが,Mらに焼き入れをし,Mからは金品を奪うことを伝え,さらに,奪った金品は全員で平等に分けることを提案し,了承された。ここにおいて,被告人ら7名の間で,Mらに焼き入れをして,Mからは金品を強取することの共謀が成立したが,このときも,被告人以外の6名は,Mらを殺害することまでは考えていなかった。そして,Hら3名が用意してきた鉄筋棒などをVに積み込み,ファミリーレストランで飲食した後,翌14日午前零時ころ,Mらを捜しに出かけた。
(3) Mらの捜索状況等
被告人らは,MらがYでGを捜していると聞いていたので,Wの自宅周辺を探し始めたが見つからなかったため,MらがLを呼び出した際にいた朝見を呼び出し,Fに電話をかけさせるなどしたが,結局,Mらを捜し出すことはできず,明け方に解散した。
(4) Fを呼び出すに至った経緯等
解散した後,被告人,C及びGは,Cの彼女の家に泊まり,起きてからMらを捜そうと話し合い,被告人は,Mらを殺すために祖父の家から持ち出した判示第3の三徳包丁(以下「三徳包丁」という。)をバッグに入れて準備して眠った。そして,同日午後9時ころ,Cが面識のあったFに一緒に飲みに行く誘いをしようとして電話をかけた。そのときMがFと一緒にいたことから,MもFと一緒に飲みに行く約束をし,名古屋市y区のファミリーレストランで待ち合わせをした。そこで,被告人及びCがHら3名に集合をかけ,Gは,Lを迎えに向かった。
5 Lにおける犯行状況等
(1) 同日午後10時ころ,ファミリーレストランで,被告人,CとHら3名が集合し,被告人は,C及びHら3名にMらを拉致することなどを話したが,MとFが乗車してきた普通乗用自動車丙(以下「丙」という。)の駐車した場所が道路の真ん中であり,焼き入れするのに適当な場所ではなかったことから,CがLに場所を移すことを提案したところ,Mらもこれに同意した。そこで,被告人らはLに向かうとともに,CがGに場所が変更になったことを伝えた。そして,被告人らは,Lに向かうV内で,LでMらが丙から降りたところを拉致することを確認した。
(2) 同日午後10時20分ころ,被告人らはLの駐車場に到着したが,MとFが丙から降りてそのままLの店に向かったので,被告人とCは,このままでは焼き入れの機会を逃してしまうと考え,この場で決行することを決意した。
(3) M及びFに対する暴行等
被告人は,MがFより先を歩いており,店の近くに達していたため,まずMを刺さなければならないと考え,Mに近づいたところ,Mが後ろを振り返ったので,殺意を持って,持っていた三徳包丁でMの背中を刺した。すると,Mが逃げ出したので,被告人は,Hら3名に対し,「追いかけろ。」と指示した。この指示を聞き,IとJがMを追いかけ,捕まえたMの顔面を殴打したり,引き倒したりするなどの暴行を加え,Jがそのとき落ちたMの財布を奪った。
同じころ,Cは,後ろからFらに声をかけて,Fが振り向いたところを,持っていた催涙スプレーを同人の顔に向けて2回噴射した。さらに,Hが後から鉄筋棒を使って押さえ込んだFに対し,Cがバタフライナイフを突きつけ,顔面を数回殴打し,さらに鉄筋棒でFを2回殴打した。被告人は,Mを刺した後,CにつかまれていたFに近づき,殺意をもって三徳包丁で同人の左脇腹を1回突き刺した。その後,Cが3回目に鉄筋棒を振り上げたとき,Fが隙をみて逃走し,走行中の自動車に助けを求め,病院に搬送された。この暴行により,Fは,全治約1か月間を要する腹部刺傷,顔面打撲の傷害を負った。
Fを刺した後,被告人は,IとJが捕まえていたMの方に向かい,Mを足蹴にする暴行を加え,この間の暴行により意識が混濁していたMを被告人,I及びJが引きずりながら,C運転のVまで運び込み,被告人らも乗り込んで発進させた。V内で,被告人はCらにMとFを三徳包丁で刺したことを伝えた。Cは,Gと連絡を取り,名古屋市u区の路上で待ち合わせて合流し,同区内の丁公園に向かった。その途中,被告人らは,V内のMからキーケースや携帯電話を奪った。
6 丁公園からM方に至る状況等
(1) 同日午後10時40分ころ,被告人ら7名は,丁公園に到着し,MをVから乙の後部に乗せかえ,GがMを鉄筋棒で鉄筋棒が曲がるほど殴打した後,被告人もMを殴打した。その後,被告人は,CやGらに対し,「殺して埋めるよ。俺1人でも殺して埋める。」と宣言し,被告人が本気でMを殺すつもりであると気付いたCもM殺害を決意した。
(2) その後,Cが,Mから暗証番号を聞き出してMから奪った財布の中にあったキャッシュカードで現金を下ろすことを提案し,同日午後11時10分ころ,Gが愛知県尾張旭市内のコンビニエンスストアに行って,現金を下ろそうとしたが,時間外であったため下ろすことができなかった。しかし,被告人らは時間外であったことに気付かず,再度暗証番号を追及して聞き出し,再びコンビニエンスストアで現金を引き出そうとしたが,失敗に終わった。
(3) Mのキャッシュカードで現金を下ろすことができなかったことから,Gの提案でM方に行って現金やブランドバッグ等を奪うことになり,Mに案内をさせながらM方に向かった。その間,被告人は,乙車内において,Mが「金用意するもんで助けてほしい。」と言ってきたことに対し,Gを殺すと言っておきながら,金持ちのMが金で簡単に解決しようとしていると考えて腹を立て,Mの太ももをナイフで刺したり,「お前絶対殺す。」などと言いながら,Mの腹を殴ったりするなどの暴行を加えた。また,HやLもMにスタンガンを押し当てて放電するなどの暴行を加えた。
(4) そして,翌15日午前零時30分ころ,被告人が先に奪っていたM方の鍵で玄関を開けて,被告人,C,GがM方に入り,バッグなどを奪った。
7 雑木林に至る経緯及び同所での犯行状況等
(1) M方を出てから,被告人らは,Mをどこに埋めるか話し合い,岐阜方面に向かうことになった。このころGは,Mを殺害することを完全に決意し,Hら3名及びLも,被告人らが本気でMを殺害しようとしていることに気付いたが,被告人らから裏切り者として焼き入れされたり,警察に捕まったり,Mの仲間のヤクザに殺されたりしないためには,Mを殺すことになっても仕方がないと考えるに至り,被告人ら7名によるMを殺害することについても共謀が成立した。
(2) 雑木林に向かう乙車内で,Mが「金払うから許して下さい。」などと命乞いするのに対して,被告人は,「もう遅い。お前埋める。」などと言ったり,Mの腹を殴るなどの暴行を加えた。途中,被告人ら7名は,コンビニエンスストアに寄って弁当を食べながら,穴を掘るためにはスコップが必要になるなどの話をした。その後,被告人は,C運転のVに乗り換え,再び出発して山林に入り,その途中でCがVを止めて,被告人とCが穴を掘るための道具となる鍬2本を盗んだ。
(3) 同日午前1時45分ころ,判示の雑木林に到着して,Cがここでいいかと聞いたことに対し,誰も反論しなかったことからMを殺して埋める場所に決まった。まず,被告人とCが鍬で穴を掘り始めたが,鍬が折れたことから,Gがスコップなどの道具を探しに行くなどして穴を掘り続け,1時間ほどで人1人が入れる程度の穴ができた。
(4) そこで,被告人とCが乙の後部まで行き,Mに降りてこいと言うと,Mは許して下さいなどと言っていたが,被告人はMを蹴るなどして引きずり下ろし,穴に向かった。その途中,Mは,「勘弁して下さい。明日金を払いますから。」などと言って,穴とは反対方向に逃げようとしたが,被告人が引き戻し,Mを足蹴にするなどして,その後は,被告人ら7名がMを引っ張り穴に入れた。
(5) 被告人は,Mを殺害するために,心臓の位置を狙ってMの背中を数回ナイフで突き刺したが,心臓には刺さらず,なおもMが動いていたことから,被告人はとどめを刺すためにスコップでMの頭を2回殴りつけた。しかし,音が響いたことから,Cにやめさせられた。
(6) 次に,CがHら3名に指示してゴルフクラブを持ってこさせ,Gに渡し,Gは,野球選手のまねをするなどして,Mの頭目がけてゴルフクラブを振り下ろし,3回目にMの頭に命中した。その際,CはGの動作を実況中継のように解説した。そして,CもゴルフクラブでMの頭を殴打した後,被告人にゴルフクラブを渡した。被告人は,MがLからこの雑木林に至るまで何度も暴行を受け続けながらまだ生きていることから,ここでとどめを刺さなければならないと考え,Mの頭目がけてゴルフクラブを上から下に振り下ろし,10回くらい思いっきり殴りつけた。
(7) これら暴行によりMが動かなくなったことから,CがHら3名を呼びつけるなどして,被告人ら7名が穴の周りを囲んで,スコップや手足でMが入っている穴の中に土をかけていたところ,Mの顔のあたりまで土がかかったとき,Mが土を手で払うような仕草をした。そのため,被告人ら7名は,Mがまだ生きていることに気付き,Mの動いている手を踏みつけるなどして,さらに土をかけてMを土中に埋めた。しかし,Mの右足が,まだ土の上に出ていたため,すぐに死体が埋まっていることが分かってしまうと考えた被告人は,その右足の関節を逆方向に曲げて折り,土の中に入れて,完全にMを埋めた。その後,被告人ら7名は,Mを埋めた後の土の上に乗って土を踏み固め,ペットボトルのお茶などを土の上からかけて,さらに土を踏み固め,倒れていた草を持ち上げるなどして,穴を掘った場所が分からないようにしてから,同日午前3時ころ,現場を立ち去った。
(8) Mは,土中において,窒息死した。
8 犯行後の状況等
(1) Mを埋めた後,被告人ら7名は,愛知県春日井市にある洗車場で,Mから奪った金品を分配した。現金は,平等に3万円ずつ分け,残った現金とバッグ等は,じゃんけんでそれぞれ好きなものを取り,被告人は指輪や小銭入れ等の分配を受けたが,指輪1個以外は後輩に譲り,指輪も逮捕されるまで所持していた。そして,被告人ら7名は,Mの部屋から持ち出したアルバム等を焼いて燃やした。
(2) 解散する際,Cが全員に口止めをし,その後MやFを刺した三徳包丁などを池に投棄したり,Mの血痕などが残っていた乙車内にオイルを散布した上,火を付けて燃やすなどして,罪証隠滅工作をした。
(3) その後,同月19日,被告人が使用する自動車を盗むために判示第5の1の犯行に及んだが,その自動車をHに貸していたところ,Hが事故を起こしてしまった。被告人は,当時の彼女(現在の妻)に会いに神奈川県厚木市にCと共に行く予定であったことから,被告人が使用する新しい自動車を盗むために,同年8月1日判示第5の2の犯行に及んだ。
(4) そして,同月2日,被告人は,Cとその彼女の3人で被告人の彼女の所へ行った。同月5日,Cが名古屋に戻り,翌6日殺人未遂でCが逮捕されたことをきっかけに,被告人も厚木市で同月7日逮捕された。
第3量刑についての検討
1 被告人の身上や本件強盗殺人及び殺人未遂の各犯行の経緯は以上のとおりであるところ,Mに対する強盗殺人の犯行は,被告人らが三徳包丁で刺したり,殴打するなどして極度に衰弱させ,抵抗できない状態にしたMを自動車内に押し込み,助けを求めていたMにナイフを突き刺したり,スタンガンを押し当てるなどの暴行を加え続け,深夜人気のない雑木林まで連行した上,殺害されることを察知したMが最後の抵抗をしたり,哀願をしたりするのを無視して,被告人らがMを埋めるために掘った穴に引きずり入れ,さらにナイフで背中を刺したり,ゴルフクラブで頭部を何度も殴打するなどした後,まだ息のあったMに土をかけて踏み固め,生き埋めにして窒息死させたというものであって,殺害の態様が執拗かつ凄惨であり,冷酷,残忍な犯行である。
2 本件強盗殺人及び殺人未遂の各犯行は,GがMに借金を返済しなかったことなどから,MらがGに対して追い込みをかけようとしたことに端を発したものであり,暴力的方法をとったMらの言動に問題があったことは否定できない。しかし,被告人は,ヤクザが多人数で追い込みをかけてきたというGの話を真に受けて,その確認もせずに,Mら全員を殺害することの決意をしたもので,極めて短絡的である。被告人は,何よりも友達が大切であるから,その友達を助けるために殺人未遂及び強盗殺人を犯したと言うが,この考え自体短絡的で自己中心的かつ身勝手な発想である。
3 本件強盗殺人及び殺人未遂の犯行は,あらかじめ凶器を準備した上で焼き入れと称して暴行を加え,Mからは金品を強取したものであって計画的な面が認められる。また,奪ったキャッシュカードで現金を引き出そうとしたり,M方まで行ってバッグ等を強取するなど金品強取の犯意も強い。
4 また,Fに対しても,全治約1か月間を要する腹部刺傷等の傷害を負わせており,一歩間違えば死に至る危険もあったことからすると,この結果も重大であり,多人数でいきなり襲撃した上,無防備の相手に対して凶器を使用している態様も悪質である。
5 被告人は,当初からMらを殺害することを目的として行動しており,M及びFをいきなり三徳包丁で突き刺したり,車内でもMに対し,ナイフを太股に突き刺したり,殴打するなどの暴行を加え,さらに雑木林においてもナイフでMを突き刺したり,ゴルフクラブで頭部をめった打ちにするなど終始積極的に行動し,他の共犯者をリードしてM殺害まで至ったもので,他の共犯者に指示するなどしたCとともに主導的役割を果たした。
6 Mは,昭和××年××月××日に出生し,本件当時は28歳であった。婚姻歴はないが,結婚を約束していた交際相手がいた。作業中の事故で大やけどを負ったため,本件当時は稼働していなかったが,9月には仕事に復帰する予定であった。
Mは,FとともにCらと飲食するつもりであったところを突然襲われ,5時間近くもの長時間にわたり自動車内で暴行を受けるなどして,深夜人気のない雑木林まで連行され,金品を奪われた挙げ句,土中に生き埋めにされて殺害され,さらに,その後約1か月間もの間誰にも知られることなく土中に放置されたのであって,Mの被った肉体的精神的苦痛は極めて大きかったと考えられる。また,Mは,最終目的地に到着するまで,何度も助けを求めて哀願し,穴に入れられる直前にも気力を振り絞って抵抗したり,さらに穴に入れられて土をかけられながら,なおも必死の思いで土を振り払おうとするなどしたのであって,その望みも叶わず,生き埋めにされると分かったときのMの絶望感,恐怖感は計り知れないものであったと考えられる。
Mの遺族は,Mの生存を祈りながらその帰りを待ち望んでいたところ,変わり果てた無惨な姿と対面することになったのであり,その苦痛,悲しみもまた計り知れないものであったと思われる。そして,その被害感情,処罰感情は峻烈であり,被告人らに対する極刑を望んでいる。
7 また,被告人は,第1の犯行においても,被害者の背後からいきなりナイフを突き刺して加療約1か月間を要する背部刺創,後腹膜血腫の傷害を負わせており,この結果も重大である。そして,被告人が,第1の犯行に続き,強盗殺人,殺人未遂の犯行でも刃物を使用していることからすると,被告人には刃物を使用して人を傷つけることの感覚が鈍麻していたといわなければならない。また,第2及び第5の窃盗の動機にも酌むべき事情はなく,被害額も多額に上っている。
8 被告人には,前記のとおり強盗傷人の前歴があり,少年院に3回入院し,その都度更生の機会を与えられながら,本件各犯行に及んだものであり,強盗殺人の犯行に及んだ後もなお窃盗を繰り返したことなどからすると,被告人の規範意識は極めて乏しかったというべきである。
9 以上のような本件強盗殺人及び殺人未遂の経緯,犯行態様,結果等に照らせば,被告人の刑事責任はまことに重大であり,被告人の犯罪傾向なども併せ考えれば,極刑をもって臨むことも考えられないではない。
10 しかしながら,死刑が生命の剥奪を内容とする究極の峻厳な刑であることを考慮すると,その選択は特に慎重にすべきであって,犯行の罪質,動機,態様ことに殺害の手段方法の執よう性・残虐性,結果の重大性ことに殺害された被害者の数,遺族の被害感情,社会的影響,被告人の生育歴,犯行時の年齢,前科,犯行後の情状等諸般の情状を併せ考察し,その罪責がまことに重大であって,刑の均衡の見地からも,一般予防の見地からも,また,同種事案との権衡の見地からも,極刑がやむを得ないと認められる場合にのみ,その選択が許されるものであるから,以下に,被告人にとって酌量すべき事情についても検討することとする。
11 まず,前記のとおり本件強盗殺人及び殺人未遂の犯行についてみると,殺害された者は1名である。そして,被害者側の行動をみてみると,もとより殺害されるまでの落ち度があるとはいえないものの,前記のとおり,MやFらがGに対する貸金の返済を求めるためLに対して脅迫等を加えており,このことが本件強盗殺人及び殺人未遂のきっかけとなったことは否定できない。この点はやはり被告人に対する量刑を検討するに当たって軽視することはできない。また,これらの各犯行には,前述のとおり計画的な面があったとはいえ,被告人と他の共犯者との間で殺意の有無につき統制が取れていなかったり,その犯行場所も場当たり的であるなど,綿密な計画があったとまではいえない。そして,被告人は,M方に自ら押し入ってバッグ等を強取しているが,Gを助けることを第1の目的としており,金品強取については被告人が提案したものではなく,被告人にとっては二次的な目的であったのであり,動機の利欲性は低かったものと認められる。
12 次に,一般情状についてみると,被告人は,すべての罪を認め,Mの遺族に対して謝罪の手紙を書くなど,現在では自分の誤った思い込みから始まった行動によって共犯者を巻き込み,Mを殺害したことの重大性について自覚し,極刑も覚悟している旨供述するなど反省悔悟している様子が認められる。そのほか,被告人は,各犯行時には21歳,現在でも未だ22歳と若年であること,前記のとおりその生育歴には同情すべき点があることなどの事情もある。
13 そこで,以上のような酌量すべき事情も加えて諸事情を総合考慮すると,被告人の刑事責任はまことに重大ではあるものの,極刑をもって臨むしかないとまではいえないと判断されるので,被告人を無期懲役に処することとする。
(求刑-死刑)
(裁判長裁判官 片山俊雄 裁判官 岩井隆義 裁判官 石井寛)