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名古屋地方裁判所 平成15年(わ)2079号 判決 2004年1月29日

主文

被告人Aを懲役2年4月に,被告人Bを懲役3年に処する。

被告人両名に対し,未決勾留日数中各50日を,それぞれその刑に算入する。

被告人Bに対し,この判決が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。

押収してある携帯電話サービス契約申込書2通(平成15年押第209号の1及び2)の各偽造部分を没収する。

被告人Bから,押収してある住民票様のもの2通(平成15年押第209号の3,23),国民健康保険被保険者証様のもの2通(平成15年押第209号の4,5),雇用保険印紙様のもの5580枚(平成15年押第209号の6ないし22)を没収する。

理由

(犯罪事実)

第1被告人両名は,C(以下「C」という。)と共謀の上,国民健康保険被保険者証及び住民票を偽造し,これらを身分を証明するものとして使用して,携帯電話機販売店から携帯電話機を詐取しようと企て

1  被告人B(以下「被告人B」という。)が,平成15年6月10日ころ,名古屋市中村区a町b丁目c番地dビルe階有限会社D事務所において,行使の目的をもって,ほしいままに,かねて同事務所のパーソナルコンピューター及びスキャナーを用いて,同コンピューターのハードディスク内に保存していた名古屋市作成名義の国民健康保険被保険者証の様式を同コンピューターの画面に表示させ,同様式の被保険者証氏名欄に「E」,生年月日欄に「昭和F年G月H日」,資格取得年月日欄に「平成I年J月K日」などと入力し,この画像を,かねて印刷しておいた,保険者欄に「名古屋市」,その名下に「名古屋市」と刻した角印の印影がある国民健康保険被保険者証様の用紙に印字し,もってEを被保険者とする同市作成名義の国民健康保険被保険者証1通(平成15年押第209号の5)を偽造した

2  被告人Bが,平成15年6月10日ころ,同所において,行使の目的をもって,ほしいままに,上記同様,上記コンピューターのハードディスク内に保存していた名古屋市中村区長作成名義の住民票の様式及び「名古屋市区長」と刻した角印の印影等を同コンピューターの画面に表示させ,同様式の氏名欄に「E」,生年月日欄に「昭和F年G月H日」,現住所欄に「名古屋市中村区f町gh-i」などと入力し,この画像を,かねて印刷しておいた住民票様の用紙に印字し,もってEを名古屋市中村区の住民とする同区長作成名義の住民票1通(平成15年押第209号の23)を偽造した

3  Cが,平成15年6月20日午後2時ころ,同市中川区j町大字k字lm番地株式会社Ln店において,上記偽造にかかるEを被保険者とする国民健康保険被保険者証1通及びEを名古屋市中村区の住民とする住民票1通をあたかも真正に成立したもののように装って一括して提出行使し,さらに,行使の目的をもって,ほしいままに,ボールペンを使用して,同店備付けの株式会社Mあての携帯電話サービス契約申込書用紙2枚の各ご住所欄に「名古屋市中村区f町gh-i」,各生年月日欄に「F」「G」「H」などと各記載した上,各ご契約者名欄に「E」,フリガナ欄に「E」,各ご署名欄に「E」などと各冒書し,ご契約者名欄右側の各印欄に「E」と刻した丸形印鑑をそれぞれ冒捺し,もってE作成名義の株式会社Mあての携帯電話サービス契約申込書2通を偽造した上,同店店員Nに対し,上記偽造にかかるE作成名義の申込書2通をあたかも真正に成立したもののように装って一括して提出行使し,Cが上記E本人であり,交付を受けた携帯電話機の通話使用料を上記E名義の預金口座から自動引き落としの方法により支払うように装って,株式会社Mによる電気通信役務の提供を受け得る携帯電話機2台(販売価格合計7万6400円)の交付方を申し込み,上記Nから携帯電話機2台を詐取しようとしたが,同人らに上記国民健康保険被保険者証及び住民票が偽造にかかるものであることを看破されたため,その目的を遂げなかった

第2被告人両名は,上記Cと共謀の上,国民健康保険被保険者証及び住民票を偽造し,これらを身分を証明するものとして使用して,携帯電話機販売店から携帯電話機を詐取しようと企て

1  被告人Bが,平成15年6月10日ころ,上記有限会社D事務所において,行使の目的をもって,ほしいままに,かねて同事務所のパーソナルコンピューター及びスキャナーを用いて,同コンピューターのハードディスク内に保存していた名古屋市作成名義の国民健康保険被保険者証の様式を同コンピューターの画面に表示させ,同様式の被保険者証氏名欄に「O」,生年月日欄に「昭和F年P月Q日」,資格取得年月日欄に「平成I年J月K日」などと入力し,この画像を,かねて印刷しておいた,保険者欄に「名古屋市」,その名下に「名古屋市」と刻した角印の印影がある国民健康保険被保険者証様の用紙に印字し,もってOを被保険者とする同市作成名義の国民健康保険被保険者証1通(平成15年押第209号の4)を偽造した

2  被告人Bが,平成15年6月10日ころ,同所において,行使の目的をもって,ほしいままに,上記同様,上記コンピューターのハードディスク内に保存していた名古屋市中村区長作成名義の住民票の様式及び「名古屋市区長」と刻した角印の印影等を同コンピューターの画面に表示させ,同様式の氏名欄に「O」,生年月日欄に「昭和F年P月Q日生」,現住所欄に「名古屋市中村区o町p番地」などと入力し,この画像を,かねて印刷しておいた住民票様の用紙に印字し,もってOを名古屋市中村区の住民とする同区長作成名義の住民票1通(平成15年押第209号の3)を偽造した

3  被告人A(以下「A」という)が,平成15年6月20日午後2時ころ,上記株式会社Ln店において,上記偽造にかかるOを被保険者とする国民健康保険被保険者証1通及びOを名古屋市中村区の住民とする住民票1通をあたかも真正に成立したもののように装って一括して提出行使し,さらに,行使の目的をもって,ほしいままに,ボールペンを使用して,同店備付けの株式会社Mあての携帯電話サービス契約申込書用紙2枚の各ご住所欄に「名古屋市中村区o町p」,各生年月日欄に「F」「P」「Q」などと各記載した上,各ご契約者名欄に「O」,フリガナ欄に「O」,各ご署名欄に「O」などと各冒書し,ご契約者名欄右側の各印欄に「O」と刻した丸形印鑑をそれぞれ冒捺し,もってO作成名義の株式会社Mあての携帯電話サービス契約申込書2通(平成15年押第209号の1,2)を偽造した上,同店店員Nに対し,上記偽造にかかるO作成名義の申込書2通をあたかも真正に成立したもののように装って一括して提出行使し,被告人Aが上記O本人であり,交付を受けた携帯電話機の通話使用料を上記O名義の預金口座から自動引き落としの方法により支払うように装って,株式会社Mによる電気通信役務の提供を受け得る携帯電話機2台(販売価格合計7万6400円)の交付方を申し込み,上記Nから携帯電話機2台を詐取しようとしたが,同人らに上記国民健康保険被保険者証及び住民票が偽造にかかるものであることを看破されたため,その目的を遂げなかった

第31 被告人Bは,R及び氏名不詳者と共謀の上,平成15年3月中旬ころから同年4月中旬ころまでの間,名古屋市中村区q町r丁目s番地S株式会社t階所在の有限会社D印刷工場において,行使の目的をもって,ほしいままに,かねてCDロムに保存していた額面176円の雇用保険印紙の地紋様及び印紙券面画像を同工場内の4色オフセット印刷機等を用いて紙に印刷し,同紙にコンピューター彫刻機で切り取り用の穴を開け,同紙の裏面に糊を塗布する方法で,政府の発行する雇用保険印紙493枚(平成15年押第209号の6,7)を偽造した

2 被告人両名は,T,C,Rらと共謀の上,平成15年4月16日ころから同年6月6日までの間,上記有限会社D印刷工場において,行使の目的をもって,ほしいままに,上記第3の1と同様の方法で,政府の発行する雇用保険印紙5087枚(平成15年押第209号の8ないし22)を偽造したものである。

(法令の適用)

罰 条           第1,第2のいずれについても,国民健康保険被保険者証及び住民票各1通を偽造した点はそれぞれ刑法60条,155条1項に,上記各偽造文書を行使した点はそれぞれ同法60条,158条1項,155条1項に,携帯電話サービス契約申込書各2通を偽造した点はそれぞれ同法60条,159条1項に,偽造の各契約申込書を行使した点はそれぞれ同法60条,161条1項,159条1項に,詐欺未遂の点は同法60条,250条,246条1項に,第3については,被告人Aの2の所為は同法60条,印紙犯罪処罰法1条前段に,被告人Bの1及び2の所為は包括して刑法60条,印紙犯罪処罰法1条前段に該当する科刑上の一罪の処理第1,第2のいずれについても,偽造有印公文書2通の一括行使及び偽造有印私文書2通の一括行使は,いずれも1個の行為が2個の罪名に触れる場合であり,有印公文書の各偽造とその各行使と詐欺未遂との間及び有印私文書の各偽造とその各行使と詐欺未遂との間にはそれぞれ順次手段結果の関係があるから,刑法54条1項前段,後段,10条により,結局以上を1罪として刑及び犯情の最も重い国民健康保険被保険者証にかかる偽造有印公文書行使罪の刑で処断することとする併合罪の処理刑法45条前段,47条本文,10条(刑及び犯情の最も重い第2の罪の刑に法定の加重をする)未決勾留日数の算入刑法21条刑の執行猶予被告人Bにつき,刑法25条1項没収偽造携帯電話サービス契約書2通の各偽造部分,国民健康保険被保険者証様のもの2通,住民票様のもの2通はいずれも刑法19条1項1号,2項本文により,雇用保険印紙様のもの5580枚は同法19条1項3号,2項本文によりそれぞれ没収する

(量刑の理由)

被告人両名は,生活費や借金返済資金欲しさから安易に本件各犯行に及んだもので,その動機に酌量の余地はない。また,本件各犯行で偽造された国民健康保険被保険者証,住民票,雇用保険印紙は,いずれも一見して本物と見分けがつかないほど精巧なもので,その犯行態様は巧妙である。特に,雇用保険印紙の偽造枚数は多く,上記各公文書及び印紙の信用を害するという点においても悪質な事案である。

被告人Bは,自ら機材,原料を購入して上記各偽造を行うなど本件各犯行において中心的役割を果たし,被告人Aも,共犯者Cを伴って各偽造公文書を行使し,あるいは偽造印紙の売却を第三者に依頼するなど重要な役割を果たしている。さらに,被告人両名は,共犯者Cが現行犯逮捕されたことを知るや罪証隠滅行為に及んでおり,犯行後の事情も芳しくない。被告人Aは,平成13年12月11日,廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反の罪により懲役1年及び罰金30万円,3年間執行猶予に処せられ(同月26日確定)ており,執行猶予中の身であるにもかかわらず本件各犯行に及んだもので,とりわけ犯情が悪い。これらの事情を考慮すれば,被告人両名の責任は重い。

しかし,他方,携帯電話機詐取の点は未遂に終わっていること,被告人両名は捜査段階から犯行を自白し公判廷においても反省の態度を示していること,被告人両名とも妻による監督が期待できること,被告人Bについては,業務上過失傷害の罰金前科以外に前科がなく,同被告人の稼働が妻子らの生計維持に不可欠であること等,それぞれに酌むべき事情も認められる。

そこで,これらの事情を総合考慮して,主文のとおりの刑に処し,被告人Bについては,今回に限り刑の執行を猶予することとする。

(求刑-被告人両名につき懲役3年,偽造国民健康保険被保険者証及び偽造住民票各2通,偽造雇用保険印紙5580枚,偽造携帯電話サービス契約申込書2通の偽造部分の没収)

(裁判長裁判官 片山俊雄 裁判官 岩井隆義 裁判官 小松秀大)

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