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名古屋地方裁判所 平成16年(わ)945号 判決 2005年1月13日

主文

被告人を懲役13年に処する。

未決勾留日数中210日を上記の刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は,分離前相被告人Aと共謀の上,平成11年7月17日午後11時30分ころ,名古屋市a区b町c丁目d番地e所在のスナック「B」において,C(当時44歳)を,催眠作用のある薬物を混入した酒類を飲ませて昏睡させた上,軽四貨物自動車で同区f町g番h号所在のD荘1階の当時の上記A方まで運び,翌18日午前1時30分ころ,同所において,殺意をもって,被告人が上記Cの頸部を先端鋭利な金属製の棒で2回突き刺し,よって,そのころ,同所において,同人を頸部大血管損傷による失血又は出血性ショックにより死亡させて殺害した。

(法令の適用)

1  罰条  平成16年法律第156号による改正前の刑法60条,199条(裁判時においては上記改正後の刑法60条,199条に該当するが,犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから,同法6条,10条により軽い行為時の刑によることとする。)

2  刑種の選択  所定刑中有期懲役刑を選択

3  未決勾留日数の算入  刑法21条

4  訴訟費用  刑事訴訟法181条1項ただし書(負担させない。)

(量刑の理由)

1  犯行に至る経緯

(1) 被告人は,平成二,三年ころ,当時の妻が,被害者が店長をしていた居酒屋で働いていたことから,被害者と知り合った。

平成4年ころ上記居酒屋が閉店した後,被告人と被害者との交友は途絶えていたが,平成10年夏ころ,被害者が知人とともに被告人方を訪れたことから再会した。そして,同年夏過ぎころ,被告人が,判示のD荘付近を歩いていた際に偶然被害者と会い,被害者がD荘の分離前相被告人A方に居住していることを知った。被告人は,被害者を介してAとも知り合い,同人方に酒を飲みに行くようになった。

(2) 被害者は,働こうとせず,Aの収入に依存して生活していただけでなく,平成10年11月ころからは,酒を飲むとAに暴力を振るうようになり,Aの所持金等を取り上げることもあった。被告人は,困ったAから,被害者を何とかして欲しいと頼まれたため,平成11年1月ころ,被害者が仕事をすることを条件に,自宅に被害者を引き取った。ところが,被害者がやはり働こうとしなかったことから,同年五,六月ころ,被告人は被害者を自宅から追い出したところ,被害者はA方に舞い戻り,酒を飲んではAに暴力を振るうなどしていた。

(3) 平成11年7月12日ころ,被告人は,被害者から,同年6月中旬ころ被告人が包丁で被害者を負傷させた件に関して,既に被告人が治療費として被害者に支払った金銭とは別に金50万円の支払いを求められた。被告人は,以前からAに暴力を振るったり,被告人に金銭等を要求する被害者の態度に腹を立てていたことに加え,被害者を自宅に住まわせたり,金を貸したりして面倒をみてきたにもかかわらず,既に謝罪して治療費として金も渡した件で,さらに多額の金を要求してきた被害者に憤激して,同人を殺害しようと決意し,Aに対しても,被害者を殺害しようと誘いかけるなどしていた(なお,被告人は公判廷になって,同年6月二十五,六日ころ,被害者が被告人方でAに灯油をかけて火をつけたことを契機として,被害者の殺害を決意したと述べるが,そのような事実の存在については捜査段階で全く供述していないだけでなく,供述しなかった理由について,取調官に被告人がAに火をつけたと受け取られるかもしれないと思ったからなどという不自然かつ不合理な説明をしていること,Aの公判供述でも火を付けられた事実は否定されていること等に照らして,到底信用できない。)。

被告人は,被害者を眠らせてから殺害しようと考え,知人からもらっていた催眠作用のある薬物のほか,殺害後に死体を遺棄するためのドラム缶等を用意し,さらに,金属製の棒も入手してその先端を削って尖らせるなど被害者殺害の準備を進めた。

そして,同年7月15日ころ,被告人は,Aに対して,被害者を殺害する準備ができたことや近いうちに被害者に睡眠薬を飲ませて眠らせた上で殺害することを伝えた。

(4) 同年7月17日,被告人は,A方に行き,被害者とともに酒を飲んでいたAを家から連れ出して,その日に被害者を殺害することを伝えた上で,A方に戻って,被害者を誘い,被告人運転の軽四貨物自動車で判示のスナックに行った。

2  量刑上特に考慮した事情

(1) 本件は,被告人と共犯者が共謀の上,薬物を飲ませて眠らせた被害者の頸部に先端鋭利な金属製の棒を突き刺して殺害したという殺人の事案である。

犯行に至る経緯は上記のとおりであり,本件犯行は用意周到に計画されたものである上,火であぶった先端鋭利な金属製の棒を2度にわたって,昏睡している被害者の頸部に突き刺し,目を覚まして暴れる被害者の体を2人で押さえつけるという殺害方法は非常に残酷で,態様悪質である。さらに,被告人らは,本件の発覚を防ぐため,被害者の遺体をドラム缶に入れて海に投棄するなどしており,犯行後の情状も良くない。

被害者が,働きもせずAの収入で生活しながら,同人に暴力を振るうなどしていたことや被告人からも生活の援助を受けていたにもかかわらず,被告人に負傷させられたことを理由に現金を要求していた事実は認められるものの,それが殺害されるほどの落ち度になるとは認められない。被告人は,被害者の暴行等について派出所に相談に行った際,警察署に行くよう助言を受けたのに,その後適切な対応をとることなく犯行に及んだというのであって,動機は安易かつ短絡的というべきで酌量の余地に乏しい。結果の重大さはいうまでもなく,44歳という年齢で,その生命を奪われることになった被害者の無念さは察するに余りある。近親者らが受けた精神的苦痛も大きく,その処罰感情が厳しいのも当然であるのに,被害弁償等の慰謝の措置は全くとられていない。

そして,被告人は,被害者の殺害を計画し,薬物や凶器等を準備した上,自ら実行行為の全部を行っただけでなく,Aに協力を求め,同人に具体的な指示もしているのであるから,被告人が本件犯行を積極的に主導し敢行したものと認められる。

そうすると,被告人の刑事責任は,共犯者のAに比して,一層重いといわなければならない。

(2) 他方で,被告人及びAが,被害者を寝泊まりさせて,生活の面倒もみていたにもかかわらず,被害者は被告人らに対して暴行や金銭の要求等を繰り返していたのであって,犯行に至る経緯には同情の余地があること,被告人は,事実を認めて反省する態度を示していること,前科がないこと,元の妻がその更生に助力する旨述べていること等の酌むべき事情も認められる。

(3) そこで,以上の諸情状を総合考慮し,主文の刑に処することが相当であると判断した。

(求刑-懲役15年)

(裁判長裁判官 伊藤新一郎 裁判官 後藤眞知子 裁判官 鈴木清志)

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