名古屋地方裁判所 平成18年(ワ)2737号 判決 2009年3月10日
原告
X1 他2名
被告
Y1 他1名
主文
一 被告らは、原告X1に対し、各自六六四八万一二三四円及びこれに対する平成一五年一一月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告らは、原告X2に対し、各自二五八万三八五八円及びこれに対する平成一五年一一月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告らは、原告X3に対し、各自二四八万八〇〇〇円及びこれに対する平成一五年一一月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
五 訴訟費用は、これを五分し、その一を被告らの負担とし、その余は原告らの負担とする。
六 この判決は、第一項ないし第三項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 被告らは、原告X1(以下「原告X1」という。)に対し、各自二億六三三二万〇二六七円及びこれに対する平成一五年一一月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告らは、原告X2(以下「原告X2」という。)に対し、各自三六二〇万二六一五円及びこれに対する平成一五年一一月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告らは、原告X3(以下「原告X3」という。)に対し、各自三五一二万円及びこれに対する平成一五年一一月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、信号機による交通整理の行われていない交差点において、被告Y2(以下「被告Y2」という。)が所有し、被告Y1(以下「被告Y1」という。)が運転する自動車(以下「被告車」という。)が直進進行しようとしたところ、交差道路の右方から直進進行してきた原告X1運転の自転車(以下「原告車」という。)と衝突した交通事故によって、原告X1が高次脳機能障害、四肢運動障害等の後遺障害が残る傷害を負ったとして、原告らが被告Y2に対しては自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、被告Y1に対しては民法七〇九条に基づき、損害賠償の支払いを求めた事案である。
一 争いのない事実
(1) 身分関係
ア 原告X1は、原告X2と原告X3の次男である。原告X1は、平成○年○月○日生まれで、本件事故当時、六歳であった。
イ 被告Y1は被告Y2の子である。
(2) 本件事故の発生
ア 日時 平成一五年一一月一三日午後三時二五分ころ
イ 場所 愛知県知立市弘栄三丁目一一番地一先路線上
ウ 原告車 原告X1運転の自転車
エ 被告車 被告Y2所有、被告Y1運転の普通貨物自動車
オ 事故状況 被告Y1は、被告車を運転し、本件事故現場付近道路を弘法町方面から新地町方面に向けて進行中、約二七・九メートル以上前方の交通整理の行われていない交差点を児童の運転する自転車が横断することを認めながら、被告車を減速させず、前方及び左右の注視や進路の安全確認を怠り、そのまま被告車を漫然と進行させた過失により、同交差点入口の右前方約七・二メートルの中央付近を右方から左方に横断する原告車の左側部に衝突し、原告X1を一二・一メートル先路上に跳ね飛ばし転倒させて、重大な傷害を負わせた。
(3) 責任原因
ア 被告Y2は、被告車の保有者であり、被告車の運行供用者として、自賠法三条に基づいて、原告らに生じた損害を賠償する責任がある。
イ 被告Y1は、前方の交通整理の行われていない交差点を児童の運転する自転車が横断することを認めながら、被告車を減速させず、前方及び左右の注視や進路の安全確認を怠り、そのまま被告車を漫然と進行させた過失があるから、民法七〇九条に基づいて、原告らに生じた損害を賠償する責任がある。
ウ 被告らは、上記各責任により、原告らに生じた損害を連帯して賠償する責任がある。
(4) 原告X1の傷害
原告X1は、本件事故により、頭部外傷、脳挫傷による重度高次脳機能障害、嚥下障害、四肢運動障害、左下腿骨折、肺挫傷、左鎖骨骨折等の傷害を負った。
(5) 治療経過
ア 原告X1は、平成一五年一一月一三日から平成一六年三月二七日までの一三六日間、刈谷総合病院に入院した。
イ 原告X1は、平成一六年三月二七日に刈谷総合病院から木沢記念病院(中部療護センター)(以下「木沢記念病院」という。)に転院し、同年一一月三〇日に症状固定の診断を受けた。
(6) 既払金 四六九五万七五八三円
ア 自賠責保険 四〇〇〇万円
イ 治療費 四五八万八一三六円
ウ 付添人交通費 二七万〇六七〇円
エ 装具代 九万八七七七円
オ その他 二〇〇万円
カ 合計 四六九五万七五八三円
二 争点
(1) 事故態様及び過失割合
(2) 損害額
第三争点に関する当事者の主張
一 争点(1)(事故態様及び過失割合)
(1) 原告らの主張
被告Y1は、原告車を衝突地点から七・二メートル手前の地点で発見しているが、前方を注視していれば衝突地点の二六メートル手前の地点で発見可能であったので、前方不注視の重大な過失がある。また、被告車の急ブレーキをかける前の速度は、時速五八キロメートルから六一・六キロメートルであり、制限時速(時速四〇キロメートル)を大幅に越えるスピードで運転していたので著しい過失がある。
本件事故は、被告Y1のこれらの過失によって発生したもので、原告X1に何らの落ち度はなく過失はない。
(2) 被告らの主張
被告Y1が被告車を運転し、時速約四〇キロメートルで本件交差点付近に至ったところ、原告車が一時停止標識があるのに一時停止をしないまま走行車線上に飛び出してきたので、急制動の措置をとったが間に合わず衝突した。
被告車の走行車線には、中央線が設けられていることから優先道路であり、原告X1が児童であることを考慮しても、原告X1の過失割合は四〇パーセントである。
二 争点(2)(損害額)
(1) 原告らの主張
ア 原告X1の損害
(ア) 治療費 四五八万八一三六円
(イ) 入院付添費 三〇七万二〇〇〇円
原告X3は、原告X1の入院中付き添っていた。日額八〇〇〇円、入院期間三八四日とすると、以下のとおり三〇七万二〇〇〇円となる。
八、〇〇〇×三八四=三、〇七二、〇〇〇
(ウ) 入院雑費 五七万六〇〇〇円
日額一五〇〇円、入院期間三八四日とすると、以下のとおり五七万六〇〇〇円となる。
一、五〇〇×三八四=五七六、〇〇〇
(エ) 医師への謝礼 二〇万円
医師への謝礼として二〇万円を支出した。
(オ) 将来介護費 一億四一五八万三五〇〇円
日額二万円として、平均余命七一・七歳までの中間利息をライプニッツ係数で控除すると、以下のとおり一億四一五八万三五〇〇円となる。
20,000×365×{19.374+(19.404-19.374)×0.7}=141,583,500
(カ) 将来の雑費 七〇七万九一七五円
一日の雑費代(紙おむつ、ティッシュ代)を一〇〇〇円として、七一・七歳までの中間利息をライプニッツ係数で控除すると、以下のとおり七〇七万九一七五円となる。
1,000×365×{19.374+(19.404-19.374)×0.7}=7,079,175
(キ) 自宅改造費 五三〇万五〇〇〇円
原告X1が階段の上り下りができなくなったので、事故前に二階にあった家族の寝室を一階に移した。また、玄関が狭く段差があったので車椅子が出入りできるように庭に自家用車を停車できるようにした。その庭から玄関までスロープをつけてそのまま自宅に入れるようにした。
(ク) 将来の自宅改造費 二〇〇〇万円
原告X1が終生自宅で生活するためには、その成長や治療内容等に対応し、今後家屋改造費として少なくとも二〇〇〇万円が必要である。
(ケ) 装具、器具費(現在購入費) 五六万七九四二円
a 車椅子購入代 一八万八三八七円
b 座位保持装置代 三七万九五五五円
c 計 五六万七九四二円
(コ) 装具、器具費(将来購入分) 一二〇一万三〇一五円
a 車椅子等代金 一九四万五三一五円
一回の購入代金五六万七九四二円で、耐用年数を五年とすると平均余命七一・七歳まで一二回買い換えることになる。
567,942×(0.7835+0.6139+0.4810+0.3768+0.2953+0.2313+0.1812+0.1420+0.1112+0.0872+0.0683+0.0535)=1,945,315
b 介護ベッド代 一七一万二六〇〇円
一回の購入代金五〇万円で、耐用年数を五年とすると平均余命七一・七歳まで一二回買い換えることになる。
500,000×(0.7835+0.6139+0.4810+0.3768+0.2953+0.2313+0.1812+0.1420+0.1112+0.0872+0.0683+0.0535)=1,712,600
c 介護浴槽代 一五〇万四七〇〇円
一回の購入代金一〇〇万円で、耐用年数を一〇年とすると平均余命七一・七歳まで六回買い換えることになる。
1,000,000×(0.6139+0.3768+0.2313+0.1420+0.0872+0.0535)=1,504,700
d 自動車改造費 六八五万〇四〇〇円
一回の購入代金二〇〇万円で、耐用年数を五年とすると平均余命七一・七歳まで一二回買い換えることになる。
2,000,000×(0.7835+0.6139+0.4810+0.3768+0.2953+0.2313+0.1812+0.1420+0.1112+0.0872+0.0683+0.0535)=6,850,400
e 計 一二〇一万三〇一五円
(サ) 逸失利益 五七六四万九九三五円
基礎収入を五四二万七〇〇〇円(賃金センサス男子労働者学歴計平均)、労働能力喪失率を一〇〇パーセント、労働期間を一八歳から六七歳までとして、中間利息をライプニッツ係数で控除すると、以下のとおり五七六四万九九三五円となる。
5,427,000×1.00×(18.9292-8.3064)=57,649,935
(シ) 入院慰謝料 三二八万円
(ス) 後遺障害慰謝料 二八〇〇万円
(セ) 小計 二億八三九〇万八四〇三円
(ソ) 既払金 四四五八万八一三六円
自賠責保険四〇〇〇万円及び治療費四五八万八一三六円。
(タ) 既払金控除後の金額 二億三九三二万〇二六七円
(チ) 弁護士費用 二四〇〇万円
(ツ) 合計 二億六三三二万〇二六七円
イ 原告X2の損害
(ア) 交通費 三八万〇三四五円
(イ) 休業損害 二五二万二二七〇円
平成一五年は、年収七三七万二六〇五円で、休業日数二八日、平成一六年は、年収七一四万一九五六円で、休業日数一〇〇日とすると、以下のとおり二五二万二六〇五円となる。
7,372,605÷365×28+7,141,956÷365×100=2,522,270
(ウ) 固有の慰謝料 三〇〇〇万円
(エ) 小計 三二九〇万二六一五円
(オ) 弁護士費用 三三〇万円
(カ) 合計 三六二〇万二六一五円
ウ 原告X3の損害
(ア) 入院付添の宿泊費 一九二万円
原告X3は、原告X1の入院中継続して宿泊して付き添った。日額五〇〇〇円で付添日数を三八四日間とすると、以下のとおり一九二万円となる。
5,000×384=1,920,000
(イ) 固有の慰謝料 三〇〇〇万円
(ウ) 小計 三一九二万円
(エ) 弁護士費用 三二〇万円
(オ) 合計 三五一二万円
(2) 被告らの認否及び主張
ア 原告X1の損害
(ア) 治療費 四五八万八一三六円
認める。
(イ) 入院付添費 六二万一〇〇〇円
木沢記念病院での平成一六年三月二七日から同年一一月三〇日までの期間の入院中は付き添いは不要である。付き添いが必要なのは、刈谷総合病院での入院期間一三八日間である。刈谷総合病院での看護は完全看護制であり、入院付添費用としては一日当たり四五〇〇円が相当である。
4,500×138=621,000
(ウ) 入院雑費 三八万四〇〇〇円
入院雑費としては、一日当たり一〇〇〇円が相当である。
1,000×384=384,000
(エ) 医師への謝礼 〇円
否認する。
(オ) 将来介護費 三一八二万一七九五円
原告X1のADLの状況からすれば、原告X1は常時看護は必要とされていない。したがって、介護費用は一日当たり四五〇〇円が相当である。七歳の平均余命年数七一年(ライプニッツ係数一九・三七四)として中間利息を控除すると、以下のとおり三一八二万一七九五円となる。
4,500×365×19.374=31,821,795
(カ) 将来の雑費 〇円
否認する。
(キ) 自宅改造費 三〇七万九六四九円
車庫増設工事のうち、植栽工事代金五万一四四〇円(消費税含む)は本件事故と相当因果関係は認められない。
自宅内装改修工事のうち、以下の工事は本件事故と相当因果関係は認められない。
a 温水床暖房工事費 一三五万二三一二円
b 浴室暖房工事代 五一万五八〇七円
c キッチン天井クロス替え費 一万〇三九五円
d LDK壁クロス張替え 七万二七六五円
e 洗面所天壁クロス張替え 三万六三八二円
(いずれも消費税含む)
したがって、本件事故と相当因果関係が認められる自宅改造費は以下のとおり三〇七万九六四九円である。
5,118,750-(51,440+1,352,312+515,807+10,395+72,765+36,382)=3,079,649
(ク) 将来の自宅改造費 〇円
否認する。
(ケ) 装具、器具費(現在購入費) 〇円
車椅子、座位保持装置の自己負担は〇円である。
(コ) 装具、器具費(将来購入分)
車椅子の将来購入費は二台で四万二一二七円である。介護ベッド、介護浴槽の必要性は認められない。自動車改造費は認められない。
(サ) 逸失利益 五七六四万九九三五円
認める。
(シ) 入院慰謝料 二五〇万円
二五〇万円が相当である。
(ス) 後遺障害慰謝料 二六〇〇万円
二六〇〇万円が相当である。
(セ) 弁護士費用 〇円
否認する。
イ 原告X2の損害
(ア) 交通費
否認する。ガソリン代としては、一キロメートル当たり一五円で計算するのが相当である。
(イ) 休業損害 〇円
休業の必要は認められない。
(ウ) 固有の慰謝料 〇円
否認する。
(エ) 弁護士費用 〇円
否認する。
ウ 原告X3の損害
(ア) 入院付添の宿泊費 〇円
否認する。
(イ) 固有の慰謝料 〇円
否認する。
(ウ) 弁護士費用 〇円
否認する。
第四当裁判所の判断
一 争点(1)(事故態様及び過失割合)について
(1) 上記争いのない事実、証拠(甲一、二、二三、乙一、被告Y1本人)及び弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められる。ただし、これらの証拠のうち認定した事実に反する部分は採用しない。
ア 本件事故現場は、南北に延びる道路(以下「南北道路」という。)と東西に延びる道路(以下「東西道路」という。)とが交差する、信号機による交通整理の行われていない交差点(以下「本件交差点」という。)である。南北道路は、中央線が引かれた片側一車線道路で、車線の幅員は約六メートルであり、東西には幅員約一・五メートルの歩道が設けられ、外側線と歩道の間は約〇・八メートルである。最高速度は時速四〇キロメートルに規制されている。東西道路の東側道路は、中央線が引かれていない幅員約五・二メートルの道路で、本件交差点の入口では一時停止の交通規制がなされている。東西道路に対し、南北道路が優先道路となっている。交差点南東角には家屋が建っており、南側道路と東側道路は相互に見通しは良くない。本件事故当時、路面は乾燥していた。
イ 原告X1は、習字の塾に行くために自宅から自転車に乗り、東西道路を西進して本件交差点に差し掛かった。原告X1の前方には、児童が運転する二、三台の自転車が先行して本件交差点を横断しており、原告X1はこれらの自転車に続くように本件交差点を直進横断しようとして、交差点手前で一時停止をすることなく交差点内に進入した。
ウ 被告Y1は、被告車を運転して安城市内から知立市内まで車の部品を配送するところであり、本件交差点の手前の消防署北交差点を右折して南北道路に入り、南北道路を北進して本件交差点に差し掛かった。被告Y1は、本件交差点の約二七・九メートル手前の地点で、本件交差点を東から西に横切る児童が運転する自転車二、三台を目にしたが、さらに自転車が進行してくることはないものと判断して、前方遠くに視線を向けて進行した。被告Y1は本件交差点入口の直近に至って、右前方約七・二メートルの交差点中央付近を東から西に横断する原告X1が運転する自転車を発見し、急ブレーキをかけたが間に合わず、被告車の右前部を原告車の左側面に衝突させた。衝突時、被告車の速度は時速五〇から六〇キロメートルであった。
(2) ところで、衝突時の被告車の速度について、原告らは私鑑定の結果(甲二三)を提出し、時速五八キロメートルから六一・六キロメートルであったと主張し、被告らは被告Y1の供述(乙一、被告Y1本人)に基づき、時速四〇キロメートルであったと主張する。
原告提出の鑑定書(甲二三)は、被告車の速度を被告車の停止距離と原告X1が跳ね飛ばされた距離から算出するが、被告車の停止距離からの算出については、計算に用いられる摩擦係数や空走距離は条件の違いから幅のある数値であるのに、その設定の幅が限定され過ぎていること、原告X1が跳ね飛ばされた距離からの算出については、原告車が本件交差点を斜めに進行しているのにその速度成分を適切に評価していないこと、また仮定的条件が大きいことから、これをそのまま採用することはできない。もっとも、被告車は、急ブレーキをかけてから停止するまで約二八・一メートル進行していると認められるところ(乙一)、その停止距離からすると、被告車は衝突時に時速四〇キロメートルであったとは考えられず、時速五〇から六〇キロメートルで進行していたと認めるのが相当である。この点、被告Y1は、停止した地点より一〇メートル程度手前で停止できたが、住宅の玄関の前に停止するのを避けるためアクセルを踏んで少し先に停止した旨供述する(乙一、被告Y1本人)。しかし、自転車を運転する児童を跳ね飛ばし急ブレーキをかけた車の運転手が、車の止まる場所が住宅の玄関の前であるとしてアクセルまで踏んで前進して停止するという行動をとることは、その心理状況からすれば通常考えがたく、本件住宅の前には歩道があり玄関の目前に停止することにはならないことをも考慮すると、被告Y1の供述はにわかに信用できない。
(3) 以上の事実によれば、被告Y1は、前方に交差点を横断する児童運転の自転車を発見したのであるから、これに続いて進行してくる自転車があることを予測してその方向の安全を確認し適切な速度で進行すべき義務があるところ、自転車は進行してこないものと軽信しその方向の注視を怠り、また、制限速度を超過して進行していたにもかかわらず減速することなくそのまま進行したのであって過失が認められる。他方、原告X1は、優先道路を横断するのであるから、左右の安全を十分確認する必要があったというべきであるが、一時停止することなく左右の安全確認も行わずに横断した過失があると認められる。そうすると、被告Y1、原告X1の双方に過失が認められるが、被告Y1は速度超過であったこと、原告X1はまだ六歳の児童であったことなどを考慮すると、その過失割合は、原告X1三割、被告Y1七割と認めるのが相当である。
ところで、原告らは、被告Y1には前方不注視及び制限速度違反の重大な過失があり、本件事故は被告Y1のこれらの過失によって発生したものであるから、原告X1には過失はない旨主張する。しかし、被告Y1の過失は軽微とはいえないものの、原告X1にも上記のとおり左右の安全確認を怠った過失があり、本件事故は双方のこれらの過失によって発生したものと認められるから原告らの主張は採用できない。
二 争点(2)(損害額)について
(1) 原告X1の損害
ア 治療費 四五八万八一三六円
当事者間に争いなし。
イ 入院付添費 二四一万九二〇〇円
(ア) 争いのない事実等、証拠(原告X3本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
a 原告X1は、本件事故により、頭部外傷、左下腿骨折、肺挫傷、左鎖骨骨折等の傷害を負い、平成一五年一一月一三日から平成一六年三月二七日まで刈谷総合病院に入院し、同日木沢記念病院に転院し、同年一一月三〇日に症状固定の診断を受けるまで合計三八四日間入院した。
b 原告X1には、脳挫傷による重度高次脳機能障害、嚥下障害、四肢運動障害の症状があった。
c 原告X3は、原告X1の入院期間中、原告X1に付き添って看病した。
(イ) 以上のように、原告X1は本件事故により重大な傷害を負い、嚥下障害や四肢麻痺等の重い後遺障害があったことが認められるところ、原告X1が本件事故当時六歳と幼かったことも考慮すると、原告X1の入院期間中、原告X3が付き添って看護をする必要性があったと認められる。
この点、被告らは、木沢記念病院での入院中は付き添いは不要であると主張し、また、付き添いを不要とする弁護士会照会に対する同病院の回答書(乙九の二)もあるが、入院治療に際し病院が付き添いを不要とする場合であっても、被害者の受傷の程度や年齢によっては近親者が付き添う必要性が認められるべきであり、本件では上記のように原告X1は六歳とまだ幼く、重大な傷害を負って重い後遺障害もあったのであるから、その入院期間中に原告X1の母である原告X3が付き添う必要性は認められる。
そして、付添費は日額六三〇〇円と認めるのが相当であり、症状固定までの入院期間は三八四日間であるから、付添看護費は以下のとおり二四一万九二〇〇円となる。
6,300×384=2,419,200
ウ 入院雑費 四九万九二〇〇円
入院雑費は日額一三〇〇円と認めるのが相当である。症状固定までの入院日数は三八四日間であるから、入院雑費は以下のとおり四九万九二〇〇円となる。
1,300×384=499,200
エ 医師への謝礼 二〇万円
原告X3本人の供述によれば、原告らは、刈谷総合病院の医師に対し、原告X1の治療の謝礼として二〇万円を交付したことが認められる。原告X1の傷害が重大であり、同病院での入院期間が一三六日間と比較的長期にわたっていたことを考慮すると、医師への謝礼は相当と認められる。
オ 将来介護費 四九五〇万〇五七〇円
(ア) 争いのない事実、証拠(各項末尾に掲記)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
a 原告X1は、症状固定時である平成一六年一二月一日、後遺障害として次のような症状があると診断された(甲三)。
(a) 重度高次脳機能障害
呼びかけに対する応答は可能。言語理解はある程度可能であるが、発語は極めて障害されており言語による意思疎通は図れない。注意力、認知力、記銘力の低下あり。
(b) 嚥下障害
口腔、咽頭の感覚低下、筋力低下、失調により、液体の誤嚥あり。
(c) 四肢運動障害
四肢(特に右側)の痙性麻痺、失調あり。起立歩行は自力では不能。
(d) 以上より、自力での移動、食事摂取、排泄は不能で、終日介助要状態にある。
b 木沢記念病院のリハビリテーション退院時サマリーには、次のような記載がある(乙四・一七、一八頁)。
(a) 構音障害:重度。明瞭度、全部わからない。知的能力:やや低下。精神状態:問題なし。記憶能力:やや低下。失語症:軽度。失行:重度。口部顔面失行。嚥下機能障害:軽度。特別に嚥下しにくい食品を除き、三食とも経口摂取可能。コミュニケーション:家族との意思の疎通も困難。基本動作能力:座位保持、独力。起立、監視。排泄機能障害:尿意あり。便意なし。
(b) 食事:部分介助。移乗:最小限の介助。整容:部分介助または不可能。トイレ:部分介助。入浴:部分介助または不可能。移動:車椅子使用。階段昇降:部分介助。更衣:部分介助。排便自制:部分介助。排尿自制:部分介助。
(c) 入院時、重度の四肢痙性麻痺(共同運動のみ出現)の状態でしたが、PTでは四肢の過度な努力による筋収縮を抑制し、抗重力筋の随意性及び体幹の支持性・軸回旋を促し、現在、左側に比べ右側の随意性は劣るものの寝返り・起座・四つ這い・座位保持・起立(椅座からは自立・床からは一〇cm程の台使用し可能要監視)までは自立、立位保持・車椅子等への移乗、歩行器歩行は要監視状態です。
(d) 上肢機能に関して右上肢は振戦を認め、簡単な物品操作は可能ですが、利き手として鉛筆や箸・スプーン操作は難しい状態です。そのため、利き手交換し、左上肢でスプーン・箸操作の練習を行ってきました。現在はスプーン回内、回外位での摂食が可能、箸はばね付箸で何とか可能なレベルとなりました。書字はなぞり書き、線を書くことは可能ですが筆圧が弱く字を書くまでは至っておりません。ADLにおいて立位、移乗を伴う動作に関しては支えがあればズボンの上げ下ろし等の動作は可能になります。排泄動作は後始末に介助を要します。更衣は監視レベルで可能となっています。
c 刈谷豊田総合病院(平成一八年に刈谷総合病院が改称)の診療録には、原告X1の運動能力及び生活状況について次のような記載がある(乙七、八)。
(a) 平成一八年一月二三日。学校のトイレは遠位監視であることが多い。学校で食事の時使っている車椅子用テーブルを普通型にした。
(b) 平成一八年三月一八日。(引き継ぎサマリー)<運動面>腹部lowtone(右>左)で支持性に弱く、坐位・立位とも姿勢崩れるときあり(バランスを崩すほどではない)。ADL動作は可能。立位では足関節のアライメントの崩れ++。左手を利き手とし、書字・箸・はさみ操作など可能であるが拙劣。両手とも失調見られ、動作時緊張を高める傾向あり、なめらかな動作・粗大動作困難。肩・肩甲帯周囲の緊張高まってきている。<高次脳面>以前より注意面改善し、課題の集中・持続性向上。しかし、時に抑制きかず、注意散漫(特に視覚優位)でおちつかずふざけることもあり。精神的にもやや幼い印象。自分の状態把握、危険予測、状況判断に乏しい。ADL:浴槽移乗監視をのぞき、自立。学校:長時間の放課、教室移動(階段)のみ母親が手伝いに行く。その他は友人・教師がつきそって移動・トイレへ行く(遠位監視)。
(c) 平成一八年六月三日。発話明瞭度は四~五(ほぼ全てわかる)、自然度四(顕著に不自然)なレベル。
(d) 平成一八年六月七日。坐位バランスにおいては、骨盤帯が起きてきにくいことが著明で、背景には体幹前面筋群の筋緊張低下著明でぐらぐら状態であり一時的にも収縮が得られにくい。
(e) 平成一九年一月二五日。平成一八年三月一八日と同内容の記載。
(f) 平成一九年七月二六日。平成一八年三月一八日と同内容の記載に加え、ADLに独歩可能。バランス不十分との記載。
(g) 平成一九年八月八日。同年七月二六日と同内容の記載。
(イ) 以上によれば、原告X1の後遺障害は治療やリハビリテーションにより改善がみられ、母親、友人、教師による手伝いを受けながらも学校生活を送っており、日常生活動作は監視が必要なものの常時介助が必要な状態とは認められない。また、高次脳機能障害についても、精神面での発達に障害があり、他者とのコミュニケーションは十分にとることは困難な状態であるが、危険行動や問題行動をとっていることは認められず、常時監視が必要な状態であるとは認められない。そうすると、原告X1の後遺障害に対しては、常時介護が必要とまでは認められず、近親者による介護費用として日額七〇〇〇円を認めるのが相当である。平均余命年数七一年間の中間利息をライプニッツ係数で控除すると、将来介護費は以下のとおり四九五〇万〇五七〇円となる。
7,000×365×19.3740=49,500,570
カ 将来の雑費 〇円
原告らは、将来の雑費として日額一五〇〇円が必要であると主張するが、雑費の内容について具体的な主張をしない。原告X3の陳述書及び供述(甲五〇、原告X3本人)によれば、紙おむつ、ティッシュ等が必要であるとするが、原告X1は、監視が必要なもののトイレでの排泄を行っていると認められ、紙おむつが必要とは認められない。また、原告らは紙おむつの領収書(甲四九)を提出するが、これは原告X1の入院期間中である平成一六年二月二四日のものであり、将来の原告X1に必要な雑費とは認められない。したがって、原告X1に将来必要な雑費の内容が明らかでなく、将来の雑費を認めることはできない。
キ 自宅改造費 四四五万八九八五円
(ア) 証拠(甲一〇ないし一三<枝番含む>)によれば、原告X2の住宅の改造工事にあたって、工事費用は五三五万九六〇〇円と見積もられ、原告らは工事費用として五一一万八七五〇円を支払ったことが認められる。これに対し、被告は、工事費用のうち、植栽工事代、温水床暖房工事費、浴室暖房工事代、キッチン天井クロス替え費、LDK壁クロス張替え費、洗面所天壁クロス張替え費は本件事故と相当因果関係が認められないと主張する。
(イ) そこで検討するに、原告X3本人の供述によれば、植栽工事は、車庫増設工事に伴い、庭をコンクリートで固めてしまったために行われたものと認められるが、庭を車庫に改造するにあたりこの程度(工事代金五万一四四〇円)の植栽工事を行うことは相当であるから、相当な工事代金として認められる。
次に、温水床暖房工事、浴室暖房工事については、居室・浴室の温度管理の必要性は認められるが、これを床暖房及び浴室暖房設備により行うことが必要不可欠とまでは認められないこと、これらの設備は同居の家族が共用できることから、これらの工事代金のうち七割を本件事故と相当因果関係にある損害と認める。
さらに、キッチン天井クロス替え、LDK壁クロス張り替え、トイレ壁クロス張り替え(被告主張は洗面所天壁クロス張り替えであるが、洗面所のクロスの張り替え工事は行われていない。)の各工事については、原告X1の介護との関係が明らかではないので、本件事故と相当因果関係にある損害とは認められない。
(ウ) 証拠(甲一二の二)によれば、温水床暖房工事費は一三五万二三一二円、浴室暖房工事代は五一万五八〇七円、キッチン天井クロス替え費は一万〇三九五円、LDK壁クロス張替え費七万二七六五円、トイレ壁クロス張替え費は一万六一七〇円(いずれも消費税含む)と認められるところ、温水床暖房工事費と浴室暖房工事代はその三割を、その他については全額を原告X2が支払った工事代金五一一万八七五〇円から控除すると、自宅改造費は以下のとおり四四五万八九八五円となる。
5,118,750-{(1,352,312+515,807)×0.3+10,395+72,765+16,170}=4,458,985
ク 将来の自宅改造費 二〇二万六三四八円
原告らは、将来の自宅改造費として少なくとも二〇〇〇万円が必要であると主張するが、工事内容及びその費用の根拠について具体的な主張をしない。また、原告X2の陳述書(甲二九)によれば、原告X1の平均余命(七一・七歳)までの間に寝室や居間は少なくとも五回以上の変更や補修が必要であるとするが、その具体的内容は明らかではない。ところで、被告提出の意見書(乙六の三)によれば、将来の自宅改造については、原告X1の成長により、バリアフリー浴室への全面改造と浴室リフトの設置、洗面所脱衣室を車椅子で使用のしやすい大きさに広げる改造などが必要でその費用として二〇二万六三四八円が必要と見積もられている。将来の自宅改造としては、原告X1の成長に伴う改造が必要と認められるところ、上記の工事内容が将来の改造として相当と認められるから、将来の自宅改造費として二〇二万六三四八円を相当と認める。
ケ 装具、器具費(現在購入費) 〇円
証拠(甲二五)によれば、原告X1には、平成一七年八月一〇日に車椅子普通型(一八万八三八七円)、座位保持装置(三七万九五五五円)、平成一八年一〇月二一日に車椅子普通型(二一万〇六三五円)が納入されている。また、証拠(甲四七)によれば、平成一八年九月七日、原告X1に対し、車椅子(委託報酬予定額二一万〇六三五円)が自己負担額〇円で交付されることが知立市福祉事務所長によって決定されている。さらに、原告X3本人の供述によれば、平成一八年九月までは車椅子、座位保持装置は自己負担額〇円で交付を受けており、同年一〇月以降は自己負担額が一割となっている。そうすると、原告X1に納入された上記車椅子二台、座位保持装置はいずれも自己負担額〇円で交付を受けたものと認められる。
したがって、これら費用については損害とは認められない。
コ 装具、器具費(将来購入分) 四五一万三〇八〇円
(ア) 車椅子等代金 一九八万七七四〇円
証拠(甲二五、四八の一、原告X3本人)によれば、原告X1には、車椅子と座位保持装置を購入する必要性が認められ、これらの購入費用は合計で五六万七九四二円であると認められる。ところで、原告X1は現在これらを自己負担額一割で交付を受けることができるが、将来自己負担額一割で交付を受け続けられるかは明らかではないことから、将来の購入費の算定にあたっては、原価を基準に算出すべきと認められる。
これらの耐用年数を五年とすると、平均余命年数七一年間に一四回買い換えることになるから、中間利息を五年ごとのライプニッツ係数で控除すると、以下のとおり一九八万七七四〇円となる。
567,942×(0.7835+0.6139+0.4810+0.3768+0.2953+0.2313+0.1812+0.1420+0.1112+0.0872+0.0683+0.0535+0.0419+0.0328)=1,987,740
(イ) 介護ベッド代 〇円
上記第四、二、(1)、オで認定した事実によれば、原告X1は、バランスが不十分なものの座位を保つことが可能であり、車椅子を使用して通学していることが認められる。そして、現在まで介護ベッドを使用していないことからすると、将来、原告X1が成長して身体が大きくなったとしても介護ベッドを使用しなければ介護できないとまで認めることはできない。したがって、介護ベッド代は認めることができない。
(ウ) 介護浴槽代 一五三万七五〇〇円
上記第四、二、(1)、オで認定した事実によれば、原告X1は座位を保つことができるが、バランスが不十分であり、浴槽移乗には監視が必要であると認められる。また、原告X3本人の供述によれば、現在、原告X1の入浴は原告X2または原告X3が手伝って行っていると認められる。そうすると、原告X1の入浴には、一定の介助が必要と認められ、将来の原告X1の成長も考慮すれば、浴槽を介助に適したように取り替える必要性が認められる。そして、その費用は一〇〇万円と認めるのが相当である。耐用年数を一〇年とすると、平均余命年数七一年間に七回買い換えることになるから、中間利息を一〇年ごとのライプニッツ係数で控除すると、以下のとおり一五三万七五〇〇円となる。
1,000,000×(0.6139+0.3768+0.2313+0.1420+0.0872+0.0535+0.0328)=1,537,500
(エ) 自動車改造費 九八万七八四〇円
上記第四、二、(1)、オで認定した事実によれば、原告X1は四肢の右側に痙性麻痺があり、車椅子での移動が避けられないと認められるところ、自動車の改造の必要性は認められる。証拠(甲三三)によれば、原告X2は、手動車椅子用収納装置の取り付けに二〇万七〇〇〇円を支払ったことが認められ、証拠(甲四一、四二)によれば、サイドリフトアップシート装着車は同グレードの車両より約一五万円高額であることが認められる。そうすると、自動車改造費としては三五万円と認めるのが相当である。耐用年数を六年とすると、平均余命年数七一年間に一一回買い換えることになるから、中間利息を六年ごとのライプニッツ係数で控除すると以下のとおり九八万七八四〇円となる。
350,000×(0.7462+0.5568+0.4155+0.3100+0.2313+0.1726+0.1288+0.0961+0.0717+0.0535+0.0399)=987,840
(オ) 計 四五一万三〇八〇円
よって、装具、器具費(将来購入分)の合計は、以下のとおり四五一万三〇八〇円となる。
1,987,740+1,537,500+987,840=4,513,080
サ 逸失利益 五七六四万九九三五円
当事者間に争いなし。
シ 慰謝料 三一二〇万円
原告X1は本件事故により、頭部外傷、左下腿骨折、肺挫傷、左鎖骨骨折等の重傷を負い、症状固定まで三八四日間の入院治療を強いられた。長期間の入院治療にもかかわらず、原告X1には脳挫傷による重度高次脳機能障害、嚥下障害、四肢運動障害の後遺症が残り、他者と十分なコミュニケーションをとることが難しく、日常生活動作についても他者の介護を必要とする状態である。原告X1は本件事故当時六歳とまだ幼く、これから楽しい学校生活や未来があったのに、治療のために辛いリハビリテーションを継続しなければならず、明るい未来を描くのが難しくなってしまったことに対する不安や失望、無念さは計り知れない。この原告X1の精神的苦痛に対する慰謝料としては、傷害分として三二〇万円、後遺障害分として二八〇〇万円の合計三一二〇万円と認めるのが相当である。
ス 小計 一億五七〇五万五四五四円
以上の損害額を合計すると、原告X1の損害額は一億五七〇五万五四五四円となる。
セ 過失相殺後の損害額 一億〇九九三万八八一七円
原告X1の損害額から原告X1の過失三割を控除すると、以下のとおり一億〇九九三万八八一七円となる。
157,055,454×0.7=109,938,817
ソ 既払金 四六九五万七五八三円
当事者間に争いなし。
タ 既払金控除後の金額 六二九八万一二三四円
チ 弁護士費用 三五〇万円
本件事案の内容、審理の経過に照らすと、本件事故と相当因果関係にある弁護士費用は、三五〇万円と認めるのが相当である。
ツ 合計 六六四八万一二三四円
(2) 原告X2の損害
ア 交通費 二二万一二六三円
原告X1が頭部外傷、左下腿骨折、肺挫傷、左鎖骨骨折等の重傷を負っていたこと、まだ六歳と幼かったことからすると、父親である原告X2が多数回の見舞いを行う必要があったことが認められる。そして、原告X2は刈谷総合病院に六一回、木沢記念病院に六七回見舞いに行ったと認めることができる(弁論の全趣旨)。刈谷総合病院までは往復一〇キロメートル、木沢記念病院までは往復一三二キロメートル、燃費は一リットル四・七キロメートル、ガソリン代は一リットル当たり一一〇円とすると、ガソリン代は以下のとおり二二万一二六三円となる。なお、タクシー代については、これを認めるに足りる証拠がなく、高速道路代については、高速道路の使用の有無、高速道路代の算出根拠が明らかでなく認めることはできない。
110×{(10÷4.7)×61+(132÷4.7)×67}=221,263
イ 休業損害 一四万一三九二円
証拠(九の一、三一の一)によれば、原告X2は、本件事故直後、有給休暇を使って一六日間会社を休業したこと、原告X2の平成一五年の年収は七三七万二六〇五円であったことが認められる。原告X1には、原告X3が付き添っており、入院付添費も認められることから付き添いのための休業損害は原則として認められないが、本件事故により原告X1が重大な傷害を負ったことに照らすと、父親である原告X2が事故直後に原告X1に付き添う必要性が認められ、事故直後の期間に限って休業損害を認めるのが相当である。そして、その期間は七日間と認めるのが相当である。
よって、休業損害は以下のとおり一四万一三九二円となる。
(7,372,605÷365)×7=141,392
ウ 固有の慰謝料 三〇〇万円
原告X1は本件事故により、頭部外傷、左下腿骨折、肺挫傷、左鎖骨骨折等の重傷を負い、症状固定まで三八四日間の入院治療を強いられた。長期間の入院治療にもかかわらず、原告X1には脳挫傷による重度高次脳機能障害、嚥下障害、四肢運動障害の後遺症が残り、他者と十分なコミュニケーションをとることが難しく、日常生活動作についても他者の介護を必要とする状態である。原告X1は本件事故当時六歳とまだ幼く、これから輝かしい未来が待っていたにもかかわらず、一生他者の介護を必要とする後遺障害を負うことになると知った時の原告X2の衝撃は計り知れず、将来に対する不安や苦悩があることは容易に察することができる。この原告X2の精神的苦痛に対する慰謝料は三〇〇万円と認めるのが相当である。
エ 小計 三三六万二六五五円
以上の損害額を合計すると、原告X2の損害額は三三六万二六五五円となる。
オ 過失相殺後の損害額 二三五万三八五八円
原告X2の損害額から原告X1の過失三割を控除すると、以下のとおり二三五万三八五八円となる。
3,362,655×0.7=2,353,858
カ 弁護士費用 二三万円
本件事案の内容、審理の経過に照らすと、本件事故と相当因果関係にある弁護士費用は、二三万円と認めるのが相当である。
キ 合計 二五八万三八五八円
(3) 原告X3の損害
ア 入院付添の宿泊費 二四万円
証拠(甲五三の三、四、五、六、八、一一、一二、一三、原告X3本人)によれば、原告X3は、原告X1が木沢記念病院に入院している期間、看護師療に宿泊しながら原告X1に付き添ったことが認められ、原告X1が症状固定した平成一六年一一月三〇日までの宿泊費として二四万円支払ったことが認められる。前述のとおり、症状固定までの間、原告X1に対する付添看護の必要性が認められるところ、原告X1の入院が長期になることが見込まれていたこと、同病院が原告らの自宅から近くないことなどを考慮すると、原告X3が原告X1の付添看護のために同病院に宿泊したことは相当と認められる。したがって、同病院に支払った宿泊費二四万円については、本件事故と相当因果関係にある損害と認められる。
イ 固有の慰謝料 三〇〇万円
原告X2に認められるのと同様に、原告X3の慰謝料は三〇〇万円と認めるのが相当である。
ウ 小計 三二四万円
以上の損害額を合計すると、原告X3の損害額は三二四万円となる。
エ 過失相殺後の損害額 二二六万八〇〇〇円
原告X2の損害額から原告X1の過失三割を控除すると、以下のとおり二二六万八〇〇〇円となる。
3,240,000×0.7=2,268,000
オ 弁護士費用 二二万円
本件事案の内容、審理の経過に照らすと、本件事故と相当因果関係にある弁護士費用は、二二万円と認めるのが相当である。
カ 合計 二四八万八〇〇〇円
第五結論
以上によれば、被告らに対し、原告X1の請求は、各六六四八万一二三四円及びこれに対する本件事故の日である平成一五年一一月一三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、原告X2の請求は、各二五八万三八五八円及びこれに対する本件事故の日である平成一五年一一月一三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を求める限度で理由があるからこれを認容し、原告X3の請求は、各二四八万八〇〇〇円及びこれに対する本件事故の日である平成一五年一一月一三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を求める限度で理由があるからこれを認容し、原告らのその余の請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 德永幸藏 尾崎康 小林健留)