名古屋地方裁判所 平成18年(ワ)5246号 判決 2009年7月29日
甲事件原告
X1
乙事件原告
甲山X2 他1名
甲・乙事件被告
Y1 他1名
主文
一 被告Y1は、原告X1に対し、二五九三万二四〇〇円及びこれに対する平成一八年五月六日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告Y2火災保険株式会社は、原告X1に対し、二六五〇万八六九二円及び内金一〇一四万三〇六六円に対する平成一九年一月一六日から、内金一六三六万五六二六円に対する平成一九年二月一四日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告Y1は、原告甲山X2に対し、二五四七万一七四五円、原告甲山X3に対し、二五四七万一七四五円及びこれらに対する平成一八年五月六日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告Y2火災保険株式会社は、原告甲山X2に対し、二五九四万七八四一円、原告甲山X3に対し、二五九四万七八四一円及び各内金九九二万八四六七円に対する平成一九年三月二三日から、各内金一六〇一万九三七四円に対する平成一九年四月二一日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
五 被告Y2火災保険株式会社は、原告甲山X2に対し、五〇〇万円、原告甲山X3に対し、五〇〇万円及びこれらに対する平成一九年四月二一日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。
六 原告らのその余の請求を棄却する。
七 訴訟費用は、これを三分し、その一を原告らの、その余を被告らの各負担とする。
事実及び理由
第一請求
(甲事件)
一 被告らは、原告X1に対し、各自四二五二万一三六〇円及びこれに対する平成一八年五月六日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告らの負担とする。
三 仮執行宣言
(乙事件)
一 被告らは、各自原告甲山X2に対し、四〇〇〇万円、原告甲山X3に対し、四〇〇〇万円及びこれらに対する平成一八年五月六日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告Y2火災保険株式会社(以下「保険会社」という。)は、原告甲山X2に対し、五〇〇万円、原告甲山X3に対し、五〇〇万円及びこれらに対する平成一九年三月二三日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。
三 訴訟費用は被告らの負担とする。
四 仮執行宣言
第二事案の概要
本件は、本件事故により死亡した甲山A(以下「A」という。)と内縁であったと主張する原告X1が、被告Y1(以下「Y1」という。)に対し、自賠法三条に基づき損害賠償の請求をなし、被告保険会社に対しては、三〇〇〇万円については自賠法一六条に基づき、三〇〇〇万円を超える部分については保険契約に基づき人身傷害保険金もしくは無保険車傷害保険金の請求をなし(甲事件)、他方、亡Aの法定相続人である原告甲山X2及び原告甲山X3(以下「甲山両名」という。)が、被告Y1に対しては、自賠法三条に基づき、被告保険会社に対しては、三〇〇〇万円については自賠法一六条に基づき、三〇〇〇万円を超える部分については保険契約に基づき人身傷害保険金もしくは無保険車傷害保険金の請求をなし(ただし、各四〇〇〇万円の内金請求)、さらに保険契約に基づき各五〇〇万円の搭乗者傷害保険金の請求(乙事件)をなした事案である。
一 当事者間に争いのない事実等(証拠を挙げていない事実は争いがない。)
(1) 本件事故の発生
ア 日時 平成一八年五月六日午前二時三五分ころ
イ 場所 愛知県岩倉市大市場町郷廻三七一番地先路線上
ウ 被告車 被告Y1運転の普通乗用自動車
エ 原告車 A運転の軽四輪自動車
オ 態様 原告車と被告車とが出会い頭に衝突した。
(2) 被告Y1は、被告車を所有していた。そして、被告Y1は、被告車につき被告保険会社の自動車損害賠償保険に加入していた。
(3) Aは、平成一八年五月六日死亡した。Aの法定相続人は、子供の原告甲山両名であり、二分の一ずつ相続した。
(4) 原告X1は、被告保険会社との間で、原告車につき、自動車損害賠償保険契約をなしていた。本件保険契約には概略、以下の特約があった。
ア 人身傷害補償保険
契約車両に乗車中の人が自動車事故により死傷したときに、過失割合にかかわらず、実際の損害額を補償する保険。原告X1は一名につき五〇〇〇万円の限度で保険契約を締結していた。
イ 無保険車傷害危険担保特約
契約車両に乗車中の人が自動車事故により死亡するなどしたときに、加害者が無保険であったり、又は自賠責保険等で補償されない損害分を補償する特約。原告X1は一名につき二億円の限度で特約に加入していた。
ウ 搭乗者傷害保険
自動車事故により契約車両に乗車中の者が死傷した場合、契約金額に基づく一定額を補償する。
死亡保険金の受取人は、いずれも被保険者の法定相続人。
死亡保険金の金額は、一名につき一〇〇〇万円。
二 争点
(1) 原告X1とAは内縁と認められるか。
(原告X1の主張)
原告X1とAとは、平成一三年一月ころから愛知県西春日井郡豊山町内で同居して生活を営んでいた内縁の夫婦で、平成一八年六月ころ入籍する予定であった。
(原告甲山両名の主張)
原告X1は、Aと内縁の妻ではない。内縁の妻というには、婚姻の意思と夫婦共同生活との存在を要するところ、Aの父母は入籍の話を聞いていない。
(被告らの主張)
原告X1が内縁であった点は知らない。
(2) 内縁の妻の自賠法一六条、本件保険契約に基づく人身傷害保険金もしくは無保険車傷害保険金の保険金請求権の有無
(原告甲山両名)
仮に、原告X1が内縁であったとしても、本件保険契約の約款に照らし、原告X1は、逸失利益及びAの死亡の慰謝料を請求できず、固有の慰謝料の請求をなしえるのみである。
(原告X1)
内縁の妻は、人身傷害補償条項一条に、「配偶者(内縁を含みます。)」との記載があり、また、無保険車事故傷害特約二条の中にも同様の記載があり、人身傷害保険及び無保険車事故傷害保険の請求をできる。
(3) 事故態様(信号の色)、自賠法三条但書きの事由の有無
(原告らの主張)
Aは、原告車を運転して、西から東へ進行し、信号機のある本件交差点を青信号に従って直進しようと本件交差点に進入した。被告Y1は、北から南に向かって進行し、赤信号を無視して本件交差点に進入した。
(被告Y1の主張)
本件事故は、被告Y1が青信号に従って本件交差点に進入したところ、Aが赤信号を無視して本件交差点に進入してきたため、発生したものである。そもそも、信号機の表示する信号により、交通整理の行われている場合には、同所を通過する者は互いにその信号に従わなければならないのであるから、交差点を直進する車両の運転手は、特別の事情のない限り、信号を無視して交差点に進入してくる車両のありうることまでも予想して、交差点の手前で停止できるように減速し、左右の安全を確認すべき注意義務は負わない。したがって、被告Y1は無過失であり、被告車には構造上の欠陥又は機能障害もなかった。
(4) A、原告X1の損害額
(5) 自賠責保険金三〇〇〇万円の請求の当否
(被告保険会社)
遅延損害金の起算日は被告保険会社が自賠責保険の請求を受けた訴状送達の日の翌日からとすべきである。
(原告X1)
事故日から遅延損害金が付されるべきである。
(6) 人身傷害保険、無保険車保険請求の当否
(被告保険会社)
無保険車保険につき、保険約款の一般条項二一条一項によれば、「当会社は、被保険者または保険金請求権者が前条第二項の手続をした日からその日を含めて三〇日以内に保険金を支払います。」と規定するところ、本件において前記二〇条二項に定められた要件を具備した書面が被告保険会社に提出されたと評価できるのは、どんなに早くても本件訴訟の第一回口頭弁論期日であると解するのが相当であり、そうすると、遅延損害金は、遅くとも第一回口頭弁論期日である平成一九年二月九日から三〇日を経過した時点である。
(原告ら)
無保険車保険金請求の遅延損害金の起算日は不法行為時である。
(7) 搭乗者傷害保険請求の当否
(原告甲山両名)
本件保険契約には、搭乗者傷害条項がついており、被告保険会社は死亡保険金一〇〇〇万円を支払う義務があり、原告甲山両名は各五〇〇万円の保険金請求権を有している。
(被告保険会社)
本件保険契約は認めるが、原告甲山両名の請求は争う。
第三当裁判所の判断
一 争点(1)(原告X1とAは内縁と認められるか。)
(1) 証拠(甲イ三ないし一九<枝番を含む。以下同じ>、二三ないし三九、甲ロ一ないし三、七ないし二〇、二二ないし二五、原告X1、原告甲山X3法定代理人甲山B)によれば、以下の事実が認められる。
A(昭和○年生)は、平成四年一二月、離婚した後、子供の原告甲山両名の親権者となり、Aの両親の甲山B、甲山Cと同居して生活していた。甲山Bはa塗装を営んでおり、Aもそこで働いていた。Aは母の甲山Cと折り合いが悪かった。甲山B、甲山Cは原告甲山両名と養子縁組している。原告甲山X2は病気である。
原告X1(昭和○年生)は独身である。平成一四年から□□保育園に勤務している。
原告X1は、平成一二年ころAと知り合った。
平成一三年一月ころから原告X1の住所で、Aが入り込む形で同居生活が始まった。各自の車を保有していたが、それぞれが他方の保有する車を運転して使用することもあった。
Aは、原告X1のアパートから仕事に行っていた。Aは、実家へも週一回程度行っていた。原告X1のアパートと実家は車で五分程度の距離である。
Aの郵便物のうち、重要なものは原告X1方に届くようにしていた。Aは、印鑑登録手帳、資格証は原告X1方に置いていた。また、給与明細書も置いていた。
Aの住民票上の住所は実家の住所のままにしていた。
Aは、名古屋地方裁判所で、平成一四年一二月二七日破産宣告、同時廃止の決定を受け(甲イ三八)、さらに平成一五年三月二八日免責決定を受けている(甲イ三九)。
その後は、Aの収入は原告X1が管理するようになった。
Bは、Aが先に現場から帰ってきた際、原告X1と顔を合わせたことがある。
原告X1は、平成一八年三月末日をもって勤めていた□□保育園を辞めた。
平成一八年五月六日、本件事故が起こった。
原告X1は、両親と共にAの告別式に出席した。
ところで、原告X1は、平成一八年六月に婚姻の予定であった旨供述、陳述(甲イ三七)し、これに沿う甲イ一六、二四、三一(陳述書あるいは証明書)を提出しているが、前記書証の作成者は原告X1及びA双方と親しい人とは認められず、また、原告甲山X3法定代理人養父のBはそのような話を聞いておらず、前記証拠から直ちに平成一八年六月に婚姻予定であったと認めることはできない。
(2) 以上のとおり、原告X1とAとの同居生活は五年に渡っており、生計も同じにしていた者であって、内縁の妻と推認される。両者の住民票上の住所が異なっており、また、婚姻予定の関係が必ずしも明確ではないことは、同居期間の長さに照らすと、前記結論を左右するものではない。
二 争点(2)(内縁の妻の自賠法一六条、本件保険契約に基づく人身傷害保険金もしくは無保険車傷害保険金の保険金請求権の有無)
自賠法一六条は「被害者」とのみ規定し、内縁を含むか否か明記していないが、内縁が夫婦と同様の保護を与えられていることを考えると、内縁を含むものと解するのが相当である。
そして、被告保険会社の保険約款の規定(人身傷害補償条項一条、無保険車事故傷害特約二条<甲ロ五、丙一>の「配偶者(内縁を含みます。)」との記載)に照らして、内縁の妻につき、前記請求権があることは明らかである。
内縁と法定相続人との調整については、民法の一般原則により分配された損害金につき、割合的に請求権を有すると解するのが相当である。
三 争点(3)(事故態様<信号の色>、自賠法三条但書きの事由の有無)
(1) 証拠(甲ロ二一、乙一ないし三、丙二、証人D、同E、被告Y1)によれば、以下の事実が認められる。
本件交差点は、東西道路と南北道路が十字に交わる信号機により交通整理の行われている交差点である。南北道路(外側線内の道幅五・四メートル)は片側一車線であり、東西道路(外側線内の道幅九・五メートル)は片側一車線で、本件交差点手前で、進行方向道路が二車線になっている。
本件交差点南西角に△△石油ガソリンスタンド(以下「△△石油」という。)があり、同事務所は南北道路西端から約四七・三メートルのところにある。
信号サイクルは、本件事故当時、東西道路の車灯は青二九秒、黄三秒、赤二八秒、南北道路の車灯は赤三五秒、青一九秒、黄三秒、赤三秒(全赤)である。
Aは、原告車を運転して、東西道路を東進してきた。
被告Y1は、血液一ミリリットルに〇・三ミリグラム以上のアルコールを身体に保有する状態で、被告車を運転して(助手席にDが、後部座席に被告Y1の妹のFが同乗していた。)、南北道路を南進してきた。
本件交差点内で、被告車に原告車が衝突し、被告車は本件交差点南東側の信号機の設置されている電柱に衝突して停止した。原告車は仰向けになって停止した。
(2) 被告Y1の供述及びDの証言
被告Y1は、本件交差点北側停止線手前(北側)四八・三メートルで、対面信号が青信号であるのを確認して進行し、本件交差点内に入り、衝突直前に原告車を見つけたものの、衝突した(乙一)。
被告車の同乗者のDも、本件交差点の対面信号は青信号であった旨証言している。
(3) 証人E
Eは、本件事故当日、△△石油の事務所で勤務していたところ、タイヤのスリップする音がして、同時にドーンと音がして前を見たら、白い煙が上がった。その時、(原告車の対面信号機が)青信号であるのを認めた。
(4) そして、Eは、利害関係のない第三者であって、その証言は信用でき、衝突した瞬間は見ていないものの、音がしてから、信号を見るまでそれほど時間が経過しておらず、そうすると、被告Y1は、赤信号で本件交差点に進入し、Aは青信号で本件交差点に進入したものであって、本件事故は被告Y1の一方的な過失によるものであると認められる。
四 争点(4)(A、原告X1の損害額)
(1) 原告甲山両名
ア 治療費・諸雑費(請求・認容額四万三一七〇円)
弁論の全趣旨によれば、小牧市民病院での治療費三万八五二〇円を要し、入院一日の雑費及び文書料として四六五〇円を要したことが認められる。
イ 逸失利益(請求六一六二万三七三五円) 二七六七万〇三二〇円
Aは、本件事故前年の平成一七年当時、勤務先から月平均三〇万八〇〇〇円の収入を得ていたこと(甲イ一八の一ないし四、一九、甲ロ一七の一ないし三)、そのほかに月数万円のアルバイト料があったことが認められ(甲ロ一七の四・五、原告X1)、少なくとも年四〇〇万円の収入があったものと認められる。原告甲山両名は平均賃金を基礎収入とすることを主張するが、前記認定のとおり、Aの収入は平均賃金額を下回っており、Aの三七歳の年齢を考慮すると、平均賃金まで上昇する可能性は少なく、そうすると、基礎収入は四〇〇万円として算定するのが相当である。
そして、Aは、本件事故当時三七歳であり、六七歳まで三〇年間仕事ができるものとして、生活費控除を三割として、逸失利益を算定するのが相当であり、そうすると、以下の計算式により四三〇四万二七二〇円となる。そして、後記原告X1の扶養利益の侵害分を控除すると、二七六七万〇三二〇円となる。
400万円×(1-0.3)×15.3724
(原告甲山両名の請求 平成一六年の年齢別・産業計・企業規模計・男子労働者平均賃金572万6900円×<1-0.3>×15.372<30年のライプニッツ係数>)
ウ 慰謝料(請求三〇〇〇万円) 一九〇〇万円
Aは、本件事故により死亡したものであり、本件事故が被告Y1の一方的過失によるものであることなど、本件で現れた他の事情を考慮すると、慰謝料として二八〇〇万円が相当である。そして、後記原告X1の慰謝料分九〇〇万円を控除すると、一九〇〇万円となる。
エ 葬儀費用(請求・認容額一〇〇万円)
弁論の全趣旨によれば、葬儀費用として一〇〇万円の相当因果関係を認める。
オ 以上合計 四七七一万三四九〇円
カ 弁護士費用(請求五〇〇万円) 三二三万円
本件訴訟の経緯等を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては、三二三万円が相当である。
キ 以上合計 五〇九四万三四九〇円
原告甲山両名は各二分の一の二五四七万一七四五円を相続した。
(2) 原告X1
ア 扶養利益の侵害(請求四三〇四万二七二〇円) 一五三七万二四〇〇円
前記認定のとおり、平成一七年当時、Aは年四〇〇万円を下らない収入があり、また、原告X1は、□□保育園に勤務し、退職した後、現在復職している。原告X1の収入は月一四万円くらいで(平成一八年一月から三月で五〇万円余り)、Aの半分以下である。そして、生活費の三分の二はAが出していた(甲イ二九、三七、原告X1)。Aの子の原告甲山両名はAの両親の養子になっているが、Aの両親はいずれも高齢であり、また、原告甲山X2は病気であり、原告甲山X3は未成年者である。原告X1はAの逸失利益の半分を扶養利益の侵害として主張し、生活保持義務があるところ、生前の収入、生計の維持に充てる部分、被扶養者につき扶養利益として認められる比率割合、扶養を要する状態が存続する期間等を考慮して決めるべきであり、半額をもって直ちに扶養利益の侵害額とすることはできない。
そして、生前の双方の収入の合計は月四七万円余りであったこと、その差は約一九万円であること、原告X1は、今後現在と同程度の収入を得る可能性があること、生活費の三分の二はAが出していたこと、その他本件で現れた事情を考慮すると、扶養料としては月八万円程度で、一年で一〇〇万円が相当であり、三〇年間で一五三七万二四〇〇円となる。
(原告X1の請求 400万円×<1-0.3>×15.3724÷2)
イ 慰謝料(請求一八〇〇万円) 九〇〇万円
前記認定のAと原告X1との関係に照らすと、固有の慰謝料は九〇〇万円と認める。
ウ 以上合計 二四三七万二四〇〇円
エ 弁護士費用(請求三〇〇万円) 一五六万円
本件訴訟の経緯等を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は一五六万円と認める。
オ 以上合計 二五九三万二四〇〇円
五 争点(5)(自賠責保険金三〇〇〇万円の請求の当否)
(1) 自賠責保険につき死亡につき三〇〇四万三一七〇円が支払われる。なお、原告らは自賠責として三〇〇〇万円を請求しており、この限度で判断する。
そして、原告甲山両名と原告X1との内訳は、前項(1)オと(2)ウの比率により一九八五万六九三四円(一円調整)と一〇一四万三〇六六円とするのが相当である。
(2) 自賠責保険金請求の遅延損害金の起算日
原告らの自賠責保険金請求は自賠法一六条一項に基づく請求であるところ、右自賠責保険金の請求は期限の定めのない債務であり、請求により遅滞に陥るものであって訴状送達をもって遅滞に陥るものといえる。
そうすると、原告甲山両名については、乙事件訴状送達の日の翌日の平成一九年三月二三日から、原告X1については甲事件訴訟送達の日の翌日の平成一九年一月一六日から遅延損害金を付すことになる。
六 争点(6)(人身傷害保険、無保険車傷害保険請求の当否)
(1) 人身傷害保険金額は以下のとおりとなる(以下、被告保険会社平成二一年四月二三日付け準備書面参照)。
治療費等 五万一五七〇円
逸失利益 五七三九万五九七四円
慰謝料 二〇〇〇万円
葬儀費用 一〇〇万円
以上合計七八四四万七五四四円(ただし、臨時費用を除く。)となる。
そして、自賠責保険金額三〇〇四万三一七〇円を控除すると、四八四〇万四三七四円となる(さらに、保険金以外に臨時費用一五万円がある。―この分については請求がなされていないものと認められる。)。
(2) 無保険車傷害保険金額は以下のとおりとなる。
治療費 五万一五七〇円
逸失利益 四三〇四万二七二〇円
慰謝料 二八〇〇万円
葬儀費用 一五〇万円
Aに過失なし
以上合計七二五九万四二九〇円となる。
(3) 以上のとおり、人身傷害保険金額の方が多くなり、人身傷害保険金四八四〇万四三七四円の請求が認められる。そして、内訳は前記四(1)オと(2)ウの比率に従い、原告甲山両名が三二〇三万八七四八円(一円調整)、原告X1が一六三六万五六二六円となる。
(4) ところで、人身傷害保険は、保険契約に基づく請求であり、保険約款一般条項二一条一項に従い、請求した三〇日後から遅延損害金が付されるものとするのが、相当である。そうすると、本件訴状送達の日から三〇日を経過した日を起算日とするのが相当である(原告甲山両名につき平成一九年四月二一日、原告X1につき平成一九年二月一四日)。本件保険約款につき、遅延損害金につき損害賠償責任の額に含むとの規定はなく、また、原告X1は充当との関連を主張するが、自賭責保険金を未だ受領しておらず、充当を根拠に起算日を主張することは採用できない。
七 争点(7)(搭乗者傷害保険金請求の当否)
本件保険契約には、搭乗者傷害保険の条項がついており、被告保険会社は死亡保険金一〇〇〇万円を支払う義務があり、Aの相続人である原告X2及び原告X3(相続分各二分の一)は各五〇〇万円の保険金請求権を有している。したがって、原告甲山両名の搭乗者傷害保険金の請求は理由がある。なお、原告X1は搭乗者傷害保険を請求していない。
遅延損害金については、保険約款の一般条項に従い、請求である訴状送達の日(平成一九年三月二二日であることは明らかである。)から三〇日後の平成一九年四月二一日からとするのが相当である。
八 結論
よって、原告らの本件請求は、主文の限度で理由がある。なお、本件は、原告X1と原告甲山両名との間で対立のある事件であり、また、原告らが人身傷害保険金を受け取れば被告保険会社が被告Y1に対する損害賠償請求権を保険代位することになり、仮執行宣言は相当でないので却下する。
(裁判官 德永幸藏)