名古屋地方裁判所 平成18年(ワ)5486号 判決 2008年2月13日
原告
X
被告
Y
主文
一 被告は、原告に対し、金一二四一万八五四九円及びこれに対する平成一三年四月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを五分し、その二を原告の、その余を被告の各負担とする。
四 この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 被告は、原告に対し、二九二九万七三一一円及びこれに対する平成一三年四月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
三 仮執行宣言
第二事案の概要
本件は、交通事故により受傷した原告が、被告に対し、民法七〇九条に基づき損害賠償を請求した事案である。
一 争いのない事実等(以下証拠を挙げていない事実は争いがない。)
(1) 本件事故
ア 日時 平成一三年四月二五日午前四時〇〇分ころ
イ 場所 名古屋市中区栄四丁目二一番一四号先路線上(堀田高岳線)
ウ 被告車 被告運転の普通乗用自動車
エ A車 訴外A運転の事業用大型貨物自動車
オ 態様 原告は被告運転の被告車に同乗していたところ、直進したA車と右折してきた被告車とが衝突した。
(2) 傷害及び治療
原告は、本件事故により、頭部外傷、外傷性くも膜下出血、顔面・口唇裂傷、左耳介の欠損、左閉瞼障害、左橈・尺骨骨幹部骨折、右示指・中指屈筋腱損傷の傷害を負い、平成一三年四月二五日から同年五月二五日まで及び同年同月三一日から同年六月六日まで名古屋第二赤十字病院(以下「第二赤十字病院」という。)に入院し(合計三八日)、その後平成一五年七月三日まで通院した。その他、原告は、おぜき歯科クリニック、田原整形外科等で通院治療を受け、平成一五年七月三日症状固定した(乙一四ないし二二<枝番を含む>)。
(3) 後遺症の程度及び等級
原告は、併合六級の後遺障害の認定を受けている(甲九)。
その理由は、頭部外傷後の症状につき後遺障害等級九級一〇号に、左顔面瘢痕については後遺障害等級七級一二号に、そしゃく障害、開口障害については後遺障害等級一二級に、味覚障害については後遺障害等級一四級に、流涙障害については後遺障害等級一四級に該当し、これらの後遺障害は併合六級となるというものである。
(4) 既払い
原告に、自賠責保険から合計二五九二万円が、東京海上日動火災保険株式会社から一二七一万一三二八円がそれぞれ支払われている。
二 争点は損害額である。
特に以下の点である。
(被告の主張)
原告は、本件事故時、助手席に乗っていたが、シートベルトをしておらず、また、被告が飲酒していたのにもかかわらず、同乗しており、これらにより損害額が減額されるべきである。また、原告は搭乗者傷害保険を受け取っており、これは控除されるべきである。また、被告には他にも既払い金がある。
第三当裁判所の判断
一 争点について
(1) 治療関係費(請求・認容額四〇四万六二五六円)
治療費関係費は当事者間に争いがない。
(2) 入院諸雑費(請求五万七〇〇〇円) 四万九四〇〇円
原告は、本件事故により第二赤十字病院に合計三八日間入院し、入院雑費は一日あたり一三〇〇円が相当であるから、入院雑費合計額は四万九四〇〇円となる。
(原告の請求 一五〇〇円×三八日)
(3) 入院看護費用(請求・認容額二〇万九〇〇〇円)
原告は、本件事故により第二赤十字病院に合計三八日間入院し、入院看護費用は一日あたり五五〇〇円が相当であるから、入院看護費用合計額は二〇万九〇〇〇円となる。
(原告の請求 五五〇〇円×三八日)
(4) 休業損害(請求・認容額七四二万一二六六円)
休業損害が七四二万一二六六円であることは当事者間に争いがない。
(原告の請求 342万5200円<27歳女性の賃金センサス>÷12×26)
(5) 入通院慰謝料(請求二〇〇万円) 一八〇万円
原告は、本件事故により傷害を負い、平成一五年七月三日まで約二五か月余りの間入通院した(うち入院期間は合計三八日間)ものであり、その他本件で現れた諸事情を考慮すると、精神的慰謝料額は一八〇万円と認める。
なお、証拠(乙一三)によれば、原告は、東京海上日動火災保険株式会社(契約者B)から搭乗者傷害保険金合計六一〇万五〇〇〇円(医療保険金一一〇万五〇〇〇円、後遺障害保険金五〇〇万円)を受け取っている。
そして、医療保険金についてはその額は大きな額ではなく、見舞金程度であり、入通院慰謝料の算定ではこれを考慮しないが、後遺障害保険金については、その額は大きく見舞金を越える趣旨があり、後記後遺障害慰謝料の算定では受領金額をそのまま控除することは相当ではないが、一定の限度で考慮するのが相当である。
(6) 逸失利益(請求三九五三万五一一七円) 三五九三万四三八二円
原告は、後遺障害等級併合六扱の認定を受けている。しかし、後遺障害等級のもっとも重い等級である左顔面瘢痕は七級一二号に該当しているが、原告が女性であることを考慮しても、六七歳まで同じ程度に労働能力の喪失が継続するとは考えにくく、一〇年間は六七パーセントの、その後は五六パーセントの労働能力を喪失するものと認めるのが相当である。そうすると、逸失利益は、以下の計算式により、三五九三万四三八二円となる。
349万0300円(平成15年産業計・企業規模計・女子労働者学歴計全年齢賃金センサス)×0.67×7.722+349万0300円×0.56×(16.868-7.722)
(原告の請求 349万8200円<女子全年齢平均賃金センサス)×0.67×16.868<38年のライプニッツ係数>)
(7) 後遺障害慰謝料(請求一二〇〇万円) 一〇五〇万円
原告は、本件事故により後遺障害等級併合六級の後遺症が残り、前記搭乗者傷害保険金(後遺障害保険金)の受領等の事情を考慮すると、後遺障害慰謝料としては、一〇五〇万円と認める。
(8) 以上合計
五九九六万〇三〇四円
(9) 好意同乗減額
ア 証拠(甲一七、一八、乙五ないし八<枝番を含む。以下同じ>、二三、被告)によれば、以下の事実が認められる。
(ア) 原告はホステスをしており、一緒に食事をするために被告を呼び出し、原告、被告、C及びDの四人で中華料理店で食事をした。被告はビール一本を飲んだ。
(イ) その後、被告の車に、原告及びCが乗り、三人でカラオケに行き、そこで、被告は酎ハイを二、三杯飲んだ。
(ウ) そして、カラオケ店を出て、被告が被告車で送っていくことになり、原告を助手席に、Cを後部座席にそれぞれ乗せて、被告車が、本件交差点を右折しようとしたところ、直進してきたA車と衝突した。A車の前部バンパーと被告車の左側ボンネットから助手席ドアが衝突した。
(エ) 原告は、本件事故の衝突により被告車から外にはじき出されることはなかった。
(オ) 被告は、搬送先の病院では、酒臭さは感じられなかった。
イ シートベルトの件
Aからの聞き取りとして、被告と「助手席同乗者にシートベルトの着用はなく」と記載されており(乙七、一一頁)、他方、原告は、本件事故時シートベルトをしていたはずであり、母親から娘さんがシートベルトをしていてよかったねと警察から言われたと聞かされており(甲一七、一八)、被告は、原告がシートベルトをしていたか否か記憶がない旨答えており(被告)、前記Aの聞き取りから直ちに原告がシートベルトをしていなかったものと断定することは難しく、他にこれを認めるに足る証拠はない(仮に、原告がシートベルトをしていなかったとしても、本件事故により原告は車外に飛び出していないことを考慮すると、原告が本件事故時シートベルトをしていなかった点は、原告の傷害及び後遺障害との影響は小さなものと考えられる。)。
ウ 被告の飲酒
本件事故前、原告が飲酒したことを認めるに足る証拠はない。しかし、被告は飲酒しており、原告は被告が飲酒していることを認識し、かかる被告の運転する被告車に同乗しており、また、被告は本件事故への飲酒の影響を否定していない(被告)。
エ 以上の事情を考慮すると、全損害額の一割五分を減額するのが相当であり、一割五分減額すると、五〇九六万六二五八円となる。
(10) 既払い金
原告に、自賠責保険から合計二五九二万円が、東京海上日動火災保険株式会社から一二七一万一三二八円がそれぞれ支払われていることは争いがない。その他、被告から原告に対し、七六万六三八一円が支払われている(乙四、被告)。
これらを控除すると、一一五六万八五四九円となる。
(11) 弁護士費用(請求二六六万円) 八五万円
本件訴訟の経緯、難易度等を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は八五万円と認められる。
(12) 以上合計
一二四一万八五四九円
二 よって、原告の本件請求は、主文の限度で理由がある。なお、仮執行免脱宣言の申立ては相当でないので、却下する。
(裁判官 德永幸藏)