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名古屋地方裁判所 平成19年(ワ)3050号 判決 2008年12月19日

主文

1  被告は,原告に対し,2802万9950円及びこれに対する平成19年7月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用はこれを5分し,その1を原告の負担とし,その余は被告の負担とする。

4  この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。

事実

第1当事者の求めた裁判

1  請求の趣旨

(1)  第1次的請求

ア 被告は,原告に対し,3323万1552円及びこれに対する平成19年7月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

イ 被告は,原告に対し,386万0907円及びこれに対する平成20年6月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)  上記(1)イについての第2次的請求

被告は,原告に対し,389万0999円及びこれに対する平成20年6月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(3)  上記(1)イについての第3次的請求

被告は,原告に対し,74万5711円及びこれに対する平成20年6月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(4)  訴訟費用は被告の負担とする。

(5)  (1)ないし(3)につき仮執行宣言

2  請求の趣旨に対する答弁

(1)  原告の請求をいずれも棄却する。

(2)  訴訟費用は原告の負担とする。

第2当事者の主張

1  請求原因

(1)  預貯金

ア 原告は,平成19年3月30日当時,被告に対し,別紙預金目録記載のとおりの預貯金(以下「本件預貯金」という。)合計3323万1552円を有していた。

イ(ア) 原告は,平成19年3月30日,被告に対し,被告X支店において,本件預貯金について解約の意思表示をした。

(イ) そうでないとしても,原告は,平成19年7月12日到達の本件訴状によって,被告に対し,本件預貯金について解約の意思表示をした。

(ウ) そうでないとしても,原告は,平成20年1月17日到達の同日付け準備書面によって,被告に対し,本件預貯金について解約の意思表示をした。

(2)  ワールド・ソブリンインカムマザーファンド(本件投資信託1)

ア(ア) 原告は,平成15年3月28日,被告から,証券投資信託(証券投資信託及び証券投資法人に関する法律2条1項)であるワールド・ソブリンインカムマザーファンド(以下「本件投資信託1」という。)にかかる受益証券等(以下「本件受益証券等1」という。)463万7023口を購入した。

(イ) 本件投資信託1は,投資信託委託業者であるAを委託者,信託会社であるBを受託者として,両者の間で締結された信託契約(以下「本件信託契約1」という。)に基づき設定されたものである。被告は,本件受益証券等1について,Aから委託を受けた販売会社であり,原告は受益者である。

(ウ) 本件投資信託1にかかる投資信託約款(以下「本件約款1」という。)には,本件受益証券等1の換金方法について,次のとおりの定めがある。

a 受益者は,当該受益証券について,Aに対して本件信託契約1の一部解約の実行の請求(以下「解約実行請求」という。)をすることができ,解約実行請求は,販売会社に対して,振替受益権又は受益証券をもって行う(第38条1項,2項)。

b Aは,受益者から解約実行請求があったときは,本件信託契約の一部を解約する(第38条3項)。

c 一部解約の価額は,当該解約実行請求日の翌営業日の基準価額から,当該基準価額に0.1%の率を乗じて得た信託財産保留額を控除した価額とする(第38条4項)。

d 一部解約にかかる解約金は,解約実行請求を受け付けた日から起算して,原則として5営業日目から,販売会社の営業所等において受益者に支払う(第36条4項,5項)。

(エ) Aは,被告との間で,「投資信託受益権の取扱い等に関する契約」をもって委託契約(以下「本件委託契約1」という。)を締結して,被告に対し,受益者の募集の取扱い,本件受益証券等1の販売,解約請求の受付,解約金の支払事務等を委託している。

本件委託契約1において,被告は,受益者から解約実行請求を受け付け,当該一部解約金をAより受け入れて,これを受益者に支払うことなどが予定されている。

(オ) 被告からの募集に応じて投資信託にかかる受益証券等の購入を申し込んだ者は,被告との間で投資信託取引約款や投資信託受益権振替決済口座管理約款等に従って取引を行う旨を合意している。

投資信託取引約款は,投資信託にかかる受益証券等の購入,解約等の申込みは販売店等において受け付けること(第2条,第6条),解約金は受益者の指定預金口座に入金すること(第15条)などを定めている。

(カ) 上記(イ)ないし(オ)により,被告から本件受益証券等1を購入した受益者が被告に対して当該受益証券等についての解約実行請求を行ったときは,被告は,解約実行請求があったことをAに通知する義務があり,この通知に従い一部解約を実行したAから一部解約金の交付を受けたときは,受益者に一部解約金を支払う義務があることから,受益者は,Aから一部解約金が支払われることを条件として,被告に対し,一部解約金支払請求権を有する。

イ 一部解約金支払請求権に基づく請求

(ア)a 原告は,平成19年3月30日,被告X支店において,被告に対し,「全部下ろしてください。」と解約実行請求の意思表示をした。

b そうでないとしても,原告は,平成19年7月12日到達の本件訴状によって,被告に対し,解約実行請求の意思表示をした。

c そうでないとしても,原告は,平成20年1月17日到達の同日付け準備書面によって,被告に対し,解約実行請求の意思表示をした。

(イ) 被告は,上記ア(カ)の条件の成就により,信託報酬が得られなくなる不利益を受ける者であるところ,Aに対して上記(ア)aないしcについて解約実行請求の通知をしなければAから被告に一部解約金が支払われることがないことを認識しながら,通知を行わなかった。

(ウ) 被告が通知を行わなかったことについては法的な拒否事由はなく,原告の親族間の紛争に巻き込まれることを恐れて拒否したに過ぎず,被告の行為は信義則に反する。

(エ) 原告は,平成20年6月23日到達の同日付け準備書面によって,被告に対し,上記ア(カ)の条件が成就したものとみなす旨の意思表示をした。

ウ 債務不履行責任

(ア) 被告は,平成19年3月30日,同年7月12日又は平成20年1月17日,原告からの解約実行請求の意思表示により,Aへの通知義務を負ったが,これを果たさなかった。

(イ) 被告は,原告から解約実行請求の意思表示を受けた場合には,原告に対し,所定の「投資信託解約・買取申込書」及び「投資信託ご注文受付票」に記入して手続をとることを説明して書類を交付・受領する義務があるにもかかわらず,これを説明せず,これらの書類を交付・受領しなかった。

(ウ)a 原告は,平成20年5月26日,被告に対し,解約実行請求の意思表示をし,被告は,翌日,Aに解約実行請求の通知をした。

b 原告は,被告から,上記aによる精算金額が498万3872円(463.7023口×1万0748円)であるとの通知を受けた。

c 原告が受け取ることができる解約価額は,bの精算金額全額ではなく,解約請求日の受付日の翌営業日の基準価額から当該基準価額に0.1%の率を乗じて得た額を信託財産保留額として控除した価額であり(本件約款1第38条4項),原告は,被告から,平成20年6月4日,一部解約金として497万8888円(463.723口×1万0748円×0.999)を受領した。

(エ) 原告は,被告の上記(ア)の通知義務違反又は上記(イ)の説明・交付・受領義務違反により,平成19年3月30日(予備的主張として平成19年7月12日又は平成20年1月17日)の翌営業日の基準価額から当該基準価額に0.10%の率を乗じて得た額を信託財産保留額として控除した価額と原告が実際に受領した解約金497万8888円との差額について,損害を受けた。損害となる差額は次のとおりである。

a 平成19年3月30日(ただし,解約請求日の受付日の翌営業日は,同月31日である。)の基準価額(1万1167円)により計算すると517万2985円であり,損害となる差額は19万4097円

b 平成19年7月13日の基準価額(1万1456円)により計算すると530万6861円であり,損害となる差額は32万7973円

c 平成20年1月17日(ただし,解約請求日の受付日の翌営業日は,同月18日である。)の基準価額(1万0968円)により計算すると508万0800円であり,損害となる差額は10万1912円

エ 不法行為責任

上記ウ(ア)(ウ)(エ)に同じ。

被告は,故意又は過失により,Aに対し,通知を行わなかった。

(3)  三重県応援ファンド(本件投資信託2)

ア(ア) 原告は,平成18年11月10日,被告から,証券投資信託(証券投資信託及び証券投資法人に関する法律2条1項)である三重県応援ファンド(以下「本件投資信託2」という。)にかかる受益証券等(以下「本件受益証券等2」という。)94万9431口を購入した。

(イ) 本件投資信託2は,Aを委託者,信託会社であるCを受託者として,両者の間で締結された信託契約(以下「本件信託契約2」という。)に基づき設定されたものである。被告は,本件受益証券等2について,Aから委託を受けた販売会社であり,原告は受益者である。

(ウ) 本件投資信託2にかかる投資信託約款(以下「本件約款2」という。)には,本件受益証券等2の換金方法について,次のとおりの定めがある。

a 受益者は,当該受益証券について,Aに対して本件信託契約2の解約実行請求をすることができ,解約実行請求は,販売会社に対して,振替受益権又は受益証券をもって行う(第39条1項,4項)。

b Aは,受益者から解約実行請求があったときは,本件信託契約の一部を解約する(第39条2項)。

c 一部解約の価額は,当該解約実行請求日の翌営業日の基準価額から,当該基準価額に0.1%の率を乗じて得た信託財産保留額を控除した価額とする(第39条3項)。

d 一部解約にかかる解約金は,解約実行請求を受け付けた日から起算して,原則として5営業日目から,販売会社の営業所等において受益者に支払う(第37条4項,5項)。

(エ) Aは,被告との間で,「投資信託受益権の取扱い等に関する契約」をもって委託契約(以下「本件委託契約2」という。)を締結して,被告に対し,受益者の募集の取扱い,受益証券等2の販売,解約請求の受付,解約金の支払事務等を委託している。

本件委託契約2において,被告は,受益者から解約実行請求を受け付け,当該一部解約金をAより受け入れて,これを受益者に支払うことなどが合意されている。

(オ) 被告からの募集に応じて投資信託にかかる受益証券等の購入を申し込んだ者は,被告との間で投資信託取引約款や投資信託受益権振替決済口座管理約款等に従って取引を行う旨を合意している。

投資信託取引約款は,投資信託にかかる受益証券等の購入,解約等の申込みは販売店等において受け付けること(第2条,第6条),解約金は受益者の指定預金口座に入金すること(第15条)などを定めている。

(カ) 上記(イ)ないし(オ)により,被告から本件受益証券等2を購入した受益者が被告に対して当該受益証券等についての解約実行請求を行ったときは,被告は,解約実行請求があったことをAに通知する義務があり,また,この通知に従い一部解約を実行したAから一部解約金の交付を受けたときは,受益者に一部解約金を支払う義務がある。

受益者は,Aから一部解約金が支払われることを条件として,被告に対し,一部解約金支払請求権を有する。

イ 一部解約金支払請求権に基づく請求

(ア)a 原告は,平成19年3月30日,被告X支店において,被告に対し,「全部下ろしてください。」と解約実行請求の意思表示をした。

b そうでないとしても,原告は,平成19年7月12日到達の本件訴状によって,被告に対し,解約実行請求の意思表示をした。

c そうでないとしても,原告は,平成20年1月17日到達の同日付け準備書面によって,被告に対し,解約実行請求の意思表示をした。

(イ) 被告は,上記ア(カ)の条件の成就により,信託報酬が得られなくなる不利益を受ける者であるところ,Aに対して上記(ア)aないしcについて解約実行請求の通知をしなければAから被告に一部解約金が支払われることがないことを認識しながら,通知を行わなかった。

(ウ) 被告が通知を行わなかったことについては法的な拒否事由はなく,原告の親族間の紛争に巻き込まれることを恐れて拒否したに過ぎず,被告の行為は信義則に反する。

(エ) 原告は,平成20年6月23日到達の同日付け準備書面によって,被告に対し,上記ア(カ)の条件が成就したものとみなす旨の意思表示をした。

ウ 債務不履行責任

(ア) 被告は,平成19年3月30日,同年7月12日又は平成20年1月17日,原告からの解約実行請求の意思表示により,Aへの通知義務を負ったが,これを果たさなかった。

(イ) 被告は,原告から解約実行請求の意思表示を受けた場合には,原告に対し,所定の「投資信託解約・買取申込書」及び「投資信託ご注文受付票」に記入して手続をとることを説明し,書面を交付・受領する義務があるにもかかわらず,これを説明せず,これらの書類を交付・受領しなかった。

(ウ)a 原告は,平成20年5月26日,被告に対し,解約実行請求の意思表示を行い,被告は,翌日,Aに解約実行請求の通知をした。

b 原告は,被告から,上記aによる精算金額が85万5342円(94.9431口×9009円)であるとの通知を受けた。

c 原告が受け取ることができる解約価額は,bの精算金額全額ではなく,解約請求日の受付日の翌営業日の基準価額から当該基準価額に0.10%の率を乗じて得た額を信託財産保留額として控除した価額であり(本件約款2第38条4項),原告は,被告から,平成20年6月4日,一部解約金として85万4486円(94.9431口×9009円×0.999)を受領した。

(エ) 原告は,被告の上記(ア)の通知義務違反又は上記(イ)の説明・交付・受領義務違反により,平成19年3月30日(予備的主張として平成19年7月12日又は平成20年1月17日)の翌営業日の基準価額から当該基準価額に0.10%の率を乗じて得た額を信託財産保留額として控除した価額と原告が実際に受領した解約金85万4486円との差額について,損害を受けた。損害となる差額は次のとおりである

a 平成19年3月30日(ただし,解約請求日の受付日の翌営業日は,同月31日である。)の基準価額(1万0653円)により計算すると101万0417円であり,損害となる差額は15万5931円

b 平成19年7月13日の基準価額(1万0775円)により計算すると102万1988円であり,損害となる差額は16万7502円

c 平成20年1月17日(ただし,解約請求日の受付日の翌営業日は,同月18日である。)の基準価額(1万0968円)により計算すると104万0294円であり,損害となる差額は18万5808円

エ 不法行為責任

上記ウ(ア)(ウ)(エ)に同じ。

被告は,故意又は過失により,Aに対し,通知を行わなかった。

(4)  財産3分法ファンド(本件投資信託3)

ア(ア) 原告は,平成16年ころ,被告から,証券投資信託(証券投資信託及び証券投資法人に関する法律2条1項)である財産3分法ファンド(以下「本件投資信託3」という。)にかかる受益証券等(以下「本件受益証券等3」という。)1145万5571口を購入した。

(イ) 本件投資信託3は,投資信託委託業者であるDを委託者,信託会社であるEを受託者として,両者の間で締結された信託契約(以下「本件信託契約3」という。)に基づき設定されたものである。被告は,本件受益証券等3について,Dから委託を受けた販売会社であり,原告は受益者である。

(ウ) 本件投資信託にかかる投資信託約款(以下「本件約款3」という。)には,本件受益証券等3の換金方法について,次のとおりの定めがある。

a 受益者は,当該受益証券について,Dに対して本件信託契約3の解約実行請求をすることができ,解約実行請求は,販売会社に対して,振替受益権又は受益証券をもって行う(第42条1項,2項)。

b Dは,受益者から解約実行請求があったときは,本件信託契約の一部を解約する(第42条4項)。

c 一部解約の価額は,当該解約実行請求日の翌営業日の基準価額から,当該基準価額に0.3%の率を乗じて得た信託財産保留額を控除した価額とする(第42条5項)。

d 一部解約にかかる解約金は,解約実行請求を受け付けた日から起算して,原則として5営業日目から,販売会社の営業所等において受益者に支払う(第39条4項,5項)。

(エ) Dは,被告との間で,「募集の取扱いなどに関する契約」をもって委託契約(以下「本件委託契約3」という。)を締結して,被告に対し,募集の取扱い,受益証券等3の販売,解約請求の受付,解約金の支払事務等を委託している。

本件委託契約3において,被告は,受益者から解約実行請求を受け付け,当該一部解約金をDより受け入れて,これを受益者に支払うことなどが合意されている。

(オ) 被告からの募集に応じて投資信託にかかる受益証券等の購入を申し込んだ者は,被告との間で投資信託取引約款や投資信託受益権振替決済口座管理約款等に従って取引を行う旨を合意している。

投資信託取引約款は,投資信託にかかる受益証券等の購入,解約等の申込みは販売店等において受け付けること(同約款第2条,第6条),解約金は受益者の指定預金口座に入金すること(同約款第15条)などを定めている。

(カ) 上記(イ)ないし(オ)により,被告から本件受益証券等3を購入した受益者が被告に対して当該受益証券等についての解約実行請求を行ったときは,被告は,解約実行請求があったことをDに通知する義務があり,また,この通知に従い一部解約を実行したDから一部解約金の交付を受けたときは,受益者に一部解約金を支払う義務がある。

受益者は,Dから一部解約金が支払われることを条件として,被告に対し,一部解約金支払請求権を有する。

イ 一部解約金支払請求権に基づく請求

(ア)a 原告は,平成19年3月30日,被告X支店において,被告に対し,「全部下ろしてください。」と解約実行請求の意思表示をした。

b そうでないとしても,原告は,平成19年7月12日到達の本件訴状によって,被告に対し,解約実行請求の意思表示をした。

c そうでないとしても,原告は,平成20年1月17日到達の同日付け準備書面によって,被告に対し,解約実行請求の意思表示をした。

(イ) 被告は,上記ア(カ)の条件の成就により,信託報酬が得られなくなる不利益を受ける者であるところ,Dに対して上記(ア)aないしcについて解約実行請求の通知をしなければDから被告に一部解約金が支払われることがないことを認識しながら,通知を行わなかった。

(ウ) 被告が通知を行わなかったことについては法的な拒否事由はなく,原告の親族間の紛争に巻き込まれることを恐れて拒否したに過ぎず,被告の行為は信義則に反する。

(エ) 原告は,平成20年6月23日到達の同日付け準備書面によって,被告に対し,上記ア(カ)の条件が成就したものとみなす旨の意思表示をした。

ウ 債務不履行責任

(ア) 被告は,平成19年3月30日,同年7月12日又は平成20年1月17日,原告からの解約実行請求の意思表示により,Dへの通知義務を負ったが,これを果たさなかった。

(イ) 被告は,原告から解約実行請求の意思表示を受けた場合には,原告に対し,所定の「投資信託解約・買取申込書」及び「投資信託ご注文受付票」に記入して手続をとることを説明し,書面を交付・受領する義務があるにもかかわらず,これを説明せず,これらの書類を交付・受領しなかった。

(ウ)a 原告は,平成20年5月26日,被告に対し,解約実行請求の意思表示をし,被告は,翌日,Dに解約実行請求の通知をした。

b 原告は,被告から,上記aによる精算金額が1198万4818円(1145.5571口×1万0462円)であるとの通知を受けた。

c 原告が受け取ることができる解約価額は,bの精算金額全額ではなく,解約請求日の受付日の翌営業日の基準価額から当該基準価額に0.3%の率を乗じて得た額を信託財産保留額として控除した価額であり(本件約款3第38条4項),原告は,被告から,平成20年6月4日,一部解約金として1194万8863円(1145.5571口×1万0462円×0.997)を受領した。

(エ) 原告は,被告の上記(ア)の通知義務違反又は上記(イ)の説明・交付・受領義務違反により,平成19年3月30日(予備的主張として平成19年7月12日又は平成20年1月17日)の翌営業日の基準価額から当該基準価額に0.30%の率を乗じて得た額を信託財産保留額として控除した価額と原告が実際に受領した解約金1194万8863円との差額について,損害を受けた。損害となる差額は次のとおりである。

a 平成19年3月30日(ただし,解約請求日の受付日の翌営業日は,同月31日である。)の基準価額(1万3536円)により計算すると1545万9742円であり,損害となる差額は351万0879円

b 平成19年7月13日の基準価額(1万3435円)により計算すると1534万4387円であり,損害となる差額は339万5524円

c 平成20年1月17日(ただし,解約請求日の受付日の翌営業日は,同月18日である。)の基準価額(1万0863円)により計算すると1240万6854円であり,損害となる差額は45万7991円

エ 不法行為責任

上記ウ(ア)(ウ)(エ)に同じ。

被告は,故意又は過失により,Dに対し,通知を行わなかった。

(5)  よって,原告は,被告に対し,預金契約の終了に基づき,3323万1552円及びこれに対する解約の意思表示の日である平成19年3月30日の後であり,訴状送達の日の翌日である平成19年7月13日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,投資信託一部解約金支払請求権,債務不履行又は不法行為に基づき,386万0907円(第2次的に389万0999円,第3次的に74万5711円)及びこれに対する投資信託一部解約金支払請求権の条件成就の日であり,債務不履行又は不法行為の日の後である平成20年6月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  請求原因に対する認否及び被告の主張

(1)  請求原因(1)アは否認する。本件預貯金の平成19年3月30日時点における残高は2802万9950円である。

同(1)イ(ア)は,否認する。原告は,平成19年3月30日,被告X支店において,同行した原告代理人から「今日は何のために来たのですか。」と質問され,被告X支店支店長に対し,「全額…下ろしてください。」と下を向き小声で言った。支店長が原告に対し,原告代理人への委任状について質問したところ,原告は,委任状については何が書いてあるか分からず署名した覚えもない旨答えた。支店長は,①原告の預金額が当時5000万円以上と多額であったこと,②原告の預金を巡り,原告の親族間で争いがあったところ,原告代理人が,以前は親族の代理人として行動していたこと,③以前に原告の親族らが原告と来店し,原告の預金払戻請求等がされたりしたものの,原告からは一度も預金の払戻しの意思が示されたことがなかったことから,同日も,その払戻しに慎重を期し,原告に払戻しの意思を確認したが,原告は終始うつむいたまま沈黙していた。以上から,原告の払戻請求の意思表示が明示されたとはいえない。また,当時,原告代理人による払戻請求もなされていない。

同(1)イ(イ),(ウ)は争う。預金等についての解約の意思表示は,通常,預金者が銀行の窓口において所定の解約手続をとることによってなされるものである。

(2)  請求原因(2)ア(ア)ないし(オ)は認め,同ア(カ)は否認ないし争う。

同(2)イ(ア)aは否認する。原告は,平成19年3月30日に,本件投資信託1の解約について何ら意思表示をしていない。原告代理人への委任状にも投資信託について記載されていない。

同(2)イ(ア)b及びcは否認する。本件投資信託1の換金方法には解約と買取の二つの方法があり,換金しようとする者はいずれの方法によるか明示して行わなければならないが,原告は,訴状又は準備書面においていずれの方法によるか示していない。

同(2)イ(イ)及び(ウ)は否認ないし争う。

同(2)ウ(ア)及び(イ)は否認ないし争う。

同(2)ウ(ウ)aは否認する。原告が平成20年5月26日に被告に対して行ったのは買取請求であり,被告は,同日,Aにその旨を通知した。

同(2)ウ(ウ)bは認める。

同(2)ウ(ウ)cは否認する。原告が受領した額は,498万3872円である。これは,被告が提示している「1万口当たりの単価」がすでに基準価額から信託財産留保額(基準価格×0.1%)を控除した価格を示したものであることによる。なお,原告は,被告から,平成20年5月30日に583万9111円,同年6月2日に103円の合計583万9214円の支払を受けているが,これは本件投資信託1の換金額498万3872円,本件投資信託2の換金額85万5342円を合計した額である。

同(2)ウ(エ)は否認ないし争う。原告が受領した額は,498万3872円である。

同(2)エは否認ないし争う。

(3)  請求原因(3)ア(ア)ないし(オ)は認め,同ア(カ)は否認ないし争う。

同(3)イ(ア)aは否認する。原告は,平成19年3月30日に,本件投資信託2の解約について何ら意思表示をしていない。原告代理人への委任状にも投資信託について記載されていない。

同(3)イ(ア)b及びcは争う。本件投資信託2の換金方法には解約と買取の二つの方法があり,換金しようとする者はいずれの方法によるか明示して行わなければならないが,原告は,訴状又は準備書面においていずれの方法によるか示していない。

同(3)イ(イ)及び(ウ)は否認ないし争う。

同(3)ウ(ア)及び(イ)は否認ないし争う。

同(3)ウ(ウ)aは否認する。原告が平成20年5月26日に被告に対して行ったのは買取請求であり,被告は,同日,Aにその旨を通知した。

同(3)ウ(ウ)bは認める。

同(3)ウ(ウ)cは否認する。原告が受領した額は,85万5342円である。これは,被告が提示している「1万口当たりの単価」がすでに基準価額から信託財産留保額(基準価格×0.1%)を控除した価格を示したものであることによる。なお,原告は,被告から,平成20年5月30日に583万9111円,同年6月2日に103円の合計583万9214円の支払を受けているが,これは本件投資信託1の換金額498万3872円,本件投資信託2の換金額85万5342円を合計した額である。

同(3)ウ(エ)は否認ないし争う。原告が受領した額は,85万5342円である。

同(3)エは否認ないし争う。

(4)  請求原因(4)ア(ア)ないし(オ)は,本件受益証券等3の購入時期を除き認める。

同(4)ア(カ)は否認ないし争う。

同(4)イ(ア)aは否認する。原告は,平成19年3月30日に,本件投資信託3の解約について何ら意思表示をしていない。原告代理人への委任状にも投資信託について記載されていない。

同(4)イ(ア)b及びcは争う。本件投資信託3の換金方法には解約と買取の二つの方法があり,換金しようとする者はいずれの方法によるか明示して行わなければならないが,原告は,訴状又は準備書面においていずれの方法によるか示していない。

同(4)イ(イ)及び(ウ)は否認ないし争う。

同(4)ウ(ア)及び(イ)は否認する。

同(4)ウ(ウ)aは否認する。原告が平成20年5月26日に被告に対して行ったのは買取申込であるが,同日は財産3分法ファンドの取引停止日だったので、翌日付の申込処理となり,被告は,申込日付日に,Dにその旨を通知した。

同(4)ウ(ウ)bは認める。

同(4)ウ(ウ)cは否認する。原告が受領した額は,1198万4818円である。これは,被告が提示している「1万口当たりの単価」がすでに基準価額から信託財産留保額(基準価格×0.3%)を控除した価格を示したものであることによる。

同(4)ウ(エ)は否認ないし争う。原告が受領した額は,1198万4818円である。

同(4)エは否認ないし争う。

3  抗弁

(1)  帰責性の不存在(請求原因(1)のうち遅延損害金請求及び同(2)ないし(4)の債務不履行責任に対して)

ア 平成19年3月30日の来店時

原告は,平成19年3月30日,被告X支店に原告代理人とともに来店したが,①原告の預金を巡り親族間で争いがあったところ,原告代理人として来店した弁護士が以前原告の親族の代理人として行動していたこと,②被告X支店担当者は,来店前日に原告から「(姉によって法律事務所へ連れて行かれて)紙に名前を書いたが何が書かれていたか全く覚えていない。銀行さん助けて下さい。」と言われたこと,③来店当日,原告代理人から提示された委任状について原告は全く覚えていないと答えていること,④原告は,来店時,異常に萎縮した様子であったこと,⑤原告は被告担当者から解約意思の有無を確認された際にうつむいたまま解約意思を示す言葉や態度を何ら示さなかった。

以上によれば,被告が原告の解約意思がないと判断し,解約に応じなかったことについて,何ら帰責性はない。

イ 訴状送達時以降

被告は,上記アの事情からすれば,原告が原告代理人に訴訟委任したことは信じられず,訴訟委任の意思を疑う合理的な理由があったといえることから,解約に応じなかったことについて何ら帰責性はない。

(2)  損益相殺(請求原因(2)ないし(4)の債務不履行責任に対し)

原告は,平成19年3月30日以降,平成20年5月26日(本件投資信託3については,同月27日)までの間,本件投資信託1については22万2040円の,本件投資信託2については2万2787円の,本件投資信託3については115万4776円の,各配当を受けた。

(3)  信義則違反ないし権利濫用(遅延損害金請求に対して)

原告が通常人としてなすべき被告店頭窓口での解約行為を採らず,裁判上の手続をとり,遅延損害金を請求するのは信義誠実の原則に反し,かつ権利の濫用である。

4  抗弁に対する認否

(1)  抗弁(1)アのうち,①は認め,その余は否認ないし争う。

同(1)イは否認ないし争う。

(2)  抗弁(2)の事実は認め,その主張は争う。

(3)  抗弁(3)は,否認ないし争う。

理由

1  請求原因(2)ア(ア)ないし(オ),(2)ウ(ウ)b,(3)ア(ア)ないし(オ),(3)ウ(ウ)b,(4)ア(ア)ないし(オ)(本件受益証券等3の購入時期を除く。),(4)ウ(ウ)b,抗弁(1)ア①,抗弁(2)の事実は,当事者間に争いがない。

2  本件の経緯等

上記争いのない事実に,証拠(甲8,14,17,乙1ないし3,13の1,証人F,原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。

(1)  原告は,平成19年1月15日,原告の姉であるGと共に被告X支店を訪れた。Gは,被告担当者に対し,家族会議により原告の財産を自らが管理することとなった旨を告げ,本件預貯金全額の払戻しや国債や投資信託の換金を求めた。被告担当者は,手続が多岐にわたり当日中での処理が困難であったことから,当日の払戻しには応じなかった(乙1,2,13の1,証人F)。被告担当者は,原告及びGに対し,同月19日に再び来店するよう求め,了解を得た(乙2,13の1,証人F)。

Gは,同月16日朝,被告X支店に対し,電話で「妹がいろいろ言ってきて困る。19日まで待てないので,今日中に解約手続をしてほしい。」と連絡した。被告担当者は,Gに対し,同月16日午後4時に手続を行うことを提案した(乙2,証人F)。

原告は,同日午前9時半ころ,原告と同居している原告の妹と共に,被告X支店を訪れた。原告の妹は,被告担当者に対し,「家においてあった通帳,印鑑,貸金庫の鍵がなくなっている。何とかしてほしい。」と述べた(乙2,証人F)。

原告及びGは,同日午後4時に被告X支店に来なかった(乙2,証人F)。

原告とその妹は,以後,被告X支店を頻繁に訪れ,「何とかしてほしい。」と通帳の再発行を求めた(乙2,証人F)。

Gは,被告X支店に対し,平成19年3月5日付けで,原告代理人(当時は原告からの受任前である。)をGの代理人として,原告の預金等の払戻しに応じない理由を説明するよう求める旨「通知書」と題する書面を送付した(乙1ないし3,証人F)。被告X支店は,原告代理人に対し,原告の代理人ではないため回答できない旨伝えた。

原告は,同年3月29日,原告の妹と共に被告X支店を訪れた。その際,原告の妹は,被告担当者に対し,原告がGに法律事務所に連れて行かれ,そこで住所と名前を書かされた旨を話し,原告は,被告担当者に対し,「何が書かれていた紙に名前を書いたかは全く覚えていない。銀行さん,助けて下さい。」と述べた(乙2,証人F)。

(2)  原告は,平成19年3月30日,原告代理人及びGと共に,被告X支店を訪れた。

支店長と同支店長代理(当時)Fは,被告X支店応接室において,原告代理人及び原告に対応したところ,原告代理人は,原告の預金を払い戻すよう求め,原告の委任状(甲14)を示した。その際,原告は,支店長らに対し,小声で,「全部,下ろしてください。」と述べた。支店長は,原告に対し,委任状を示し,その委任状にサインをしたのかどうかを尋ねたところ,原告は,「分からない。」と答えた(乙1,2,証人F)。支店長が,再度,原告に対し払戻しの意思を確認したところ,原告は何も答えなかった(証人F)。支店長は,原告代理人に対し,原告の預金の払戻しには応じられない旨を述べた。

本件預貯金の同時点における残高は2802万9950円であった(甲8,弁論の全趣旨)。

(3)  原告は,平成20年2月13日,本人尋問において,被告X支店における原告の預金等を全て解約し,払い戻した上で,他の銀行に分散して預金したい旨の希望を述べた。

3  投資信託の解約等について

本件約款1ないし3によると,本件投資信託1ないし3の受益者である原告は,本件信託契約1ないし3に基づき,委託者(本件投資信託1及び同2においてはA,同3においてはD)に対し,解約実行請求をすることができ,委託者は,解約実行請求があった場合には,原告に対し,一部解約を実行した上で原則として解約実行請求を受け付けた日から起算して5営業日目から販売会社の営業所等において一部解約金を支払う義務を負うこととなる。この義務は,本件信託契約1ないし3の委託者であり,本件受益証券等1ないし3の発行者であるA(本件投資信託1及び同2)又はD(本件投資信託3)が負うものであって,本件信託契約の当事者ではない販売会社である被告の義務ではない。そして,一部解約の効力は,A又はDが一部解約を実行することによって初めて生ずるものであり,受益者による解約実行請求の意思表示によって当然に生ずるものではないと解される。

また,本件委託契約1ないし3は,被告が,本件受益証券等1ないし3にかかる解約実行請求の受付や一部解約金の支払等に関する業務を引き受けることを,A又はDとの間で合意した業務委託契約にすぎないから,これによって被告と原告との間に一部解約金の支払についての権利義務関係が生ずるものではない。

しかし,本件投資信託1ないし3についての各投資信託取引約款は,受益証券等1ないし3の解約の申込みは被告の販売店等において受け付ける,解約金は受益者の指定預金口座に入金すると定め,本件約款1ないし3は,受益者である原告による解約実行請求は委託者又は販売会社である被告に対して行うと定めているから,被告が原告から各投資信託取引約款に基づき本件受益証券等1ないし3について解約実行請求を受けたときは,被告はこれを受け付けて委託者に通知する義務及びこの通知に従って一部解約を実行した委託者から一部解約金の交付を受けたときに原告に一部解約金を支払う義務を負う,すなわち,被告は,受益者に対し,委託者から一部解約金の交付を受けることを条件として一部解約金の支払義務を負い,原告は,被告に対し,上記条件の付された一部解約金支払請求権を有するものと解される。

もっとも,本件投資信託1ないし同3の換金方法には,上記の委託者に対する解約実行請求のほかに販売会社による買取の方法があり(甲19,22,24),いずれの方法によるかで課税上の取扱いが異なり,手続も異なるため,換金しようとする受益者は,販売会社に対して,いずれの方法によるかを示して換金を請求しなければならない(甲20,乙6ないし8)。

4  請求原因(1)について

(1)  同(1)アを認めるに足りる証拠はない。かえって,上記2(2)の認定事実からすると,本件預貯金の平成19年3月30日時点における残高は2802万9950円であったと認められる。

(2)  同(1)イ(ア)の事実を認めるに足りる証拠はない。上記認定事実2(2)によれば,原告代理人が平成19年3月30日に原告の委任状を示し,原告の預金を払い戻すよう求めたこと,原告が「全部,下ろしてください。」と述べていたことは認められるが,支店長が原告に対し委任状を示し,サインをしたのかどうかを尋ねたところ,原告が「分からない。」と答えたこと,原告の「全部,下ろしてください。」との発言が小声であり,支店長の再度の確認に何ら回答しなかったこと,原告がそれまで原告の妹と共に頻繁に被告X支店を訪れ,原告の妹が通帳の再発行を求めるなどし,親族間における原告の預貯金を巡るトラブルの発生を窺わせる状況があったことからすると,原告が平成19年3月30日に被告に対し本件預貯金について解約の意思表示をしたとは認められない。

(3)  同(1)イ(イ)につき検討する。

本件訴状には,訴状でもって本件預貯金を解約すると明示はされてはいないものの,原告が本件預貯金の全ての払戻しを求める趣旨は明らかであり,これをもって原告の被告に対する本件預貯金の解約の意思表示であると解することができる。

被告は,本件預貯金の解約は被告の窓口において意思表示をなすべきである旨主張するが,同主張は,被告に独自の見解であって採用できない。

5  請求原因(2)ないし(4)について

(1)  投資信託一部解約金支払請求権について(請求原因(2)イ,(3)イ,(4)イ)

請求原因(2)イ(ア),(3)イ(ア),(4)イ(ア)の事実を認めるに足りる証拠はない。

平成19年3月30日の時点では,そもそも原告が被告に対し本件投資信託1ないし3の換金の申出をしたとは認められない。

平成19年7月12日及び平成20年1月17日の時点では,原告は被告に対し本件投資信託1ないし3の払戻しを求めており,その換金を申し出たことは窺える。しかし,上記3で説示のとおり,投資信託の換金については,委託者に対する解約実行請求のほかに販売会社による買取の方法があるところ,原告はこのいずれによるかを指示していないから,結局,原告が解約実行請求の意思表示をしたものとは認められない。

そうとすると,原告に投資信託一部解約金支払請求権は発生していないというべきである。

(2)  債務不履行責任について(請求原因(2)ウ,同(3)ウ,同(4)ウ)

ア  通知義務違反(請求原因(2)ウ(ア),同(3)ウ(ア),同(4)ウ(ア))

上記(1)の認定のとおり,平成19年3月30日,同年7月12日及び平成20年1月17日のいずれの時点においても,原告が本件投資信託1ないし3の解約実行請求の意思表示をしたとは認められないから,被告に原告主張にかかる通知義務は発生していないというべきである。

したがって,被告に上記通知義務違反を原因とする債務不履行責任はない。

イ  説明・交付・受領義務違反(請求原因(2)ウ(イ),同(3)ウ(イ),同(4)ウ(イ))

上記(1)の認定のとおり,平成19年3月30日,同年7月12日及び平成20年1月17日のいずれの時点においても,原告が本件投資信託1ないし3の解約実行請求の意思表示をしたとは認められないから,同意思表示の存在を前提とする原告の説明・交付・受領義務違反の主張は失当である。

もっとも,投資信託の換金方法として,委託者に対する解約実行請求と販売会社による買取の二つの方法があるときに,販売会社が受益者から換金の意向を聞き,その換金の手続の教示を求められた場合には,販売会社として,それらの説明をし,手続書面等を交付すべき義務はあるというべきである。

しかし,受益者がそれらの手続の教示を求めていない場合にまで,販売会社にその説明義務等があるとは解されず,受益者である原告が平成19年3月30日,同年7月12日及び平成20年1月17日のいずれの時点においても販売会社である被告にその手続の教示を求めていない本件においては,販売会社である被告にその説明義務等はなかったというべきである。

したがって,被告に上記説明・交付・受領義務違反を原因とする債務不履行責任はない。

(3)  不法行為責任について(請求原因(2)エ,同(3)エ,同(4)エ)

上記(1)の認定のとおり,平成19年3月30日,同年7月12日及び平成20年1月17日のいずれの時点においても,原告が本件投資信託1ないし3の解約実行請求の意思表示をしたとは認められないから,販売会社である被告が委託者に対して解約請求について通知しなかったことは何ら不法行為を構成しない。

6  抗弁(1)(帰責性の不存在)について(請求原因(1)の遅延損害金に対して)

金銭債務の履行遅滞の損害賠償については不可抗力をもって抗弁とすることができないから,被告の同主張は失当である。

7  抗弁(3)(信義則違反ないし権利濫用)

原告が被告の店頭窓口での解約行為を採らず,裁判上の手続をとり遅延損害金を請求したからといって,何ら信義誠実の原則に反するものではなく,また権利の濫用ともいえないから,被告の同主張は失当である。

8  以上によれば,原告の請求は,2802万9950円及びこれに対する平成19年7月13日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は棄却すべきである。

よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 内田計一 裁判官 清藤健一 裁判官 飯田理子)

別紙預金目録

1

普通預金H

1万2845円

2

普通預金I

1001万3007円

3

貯蓄預金J

1505円

4

定期預金K

2119万8269円

5

定期預金L

200万5926円

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