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名古屋地方裁判所 平成19年(ワ)3839号 判決 2008年10月29日

岐阜県<以下省略>

原告

同訴訟代理人弁護士

浅井岩根

深見早惠

東京都中央区<以下省略>

被告

アスカフューチャーズ株式会社

同代表者代表取締役

主文

1  被告は,原告に対し,1113万0620円及びこれに対する平成14年8月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

主文と同旨

第2事案の概要

1  本件は,原告が,被告に対し,被告に委託して商品先物取引を行ったが,被告には不法行為ないし債務不履行があるとして,損害賠償等を求めている事案である。

2  前提事実(争いのない事実並びに証拠(甲1ないし3,甲5)及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)

(1)被告は,商品先物取引の受託業務等を目的とする株式会社で,商品取引所の商品取引員である。

(2)原告(昭和26年○月○日生)は,岐阜県●●●の町立中学校を卒業後,高等学校へは進学せずに就職し,父母と同居して,自宅近くの木工所,岐阜県内の抵抗器の製造会社等で工員として働いていたが,平成13年9月20日に,15年勤務した会社を退職して以降は無職である。

(3)原告は,結婚したことがなく,平成12年1月に母が死亡して以降は,父(大正11年○月○日生)と2人暮らしである。

(4)原告は,平成14年2月26日から同年8月14日まで,被告を通じて,別紙建玉分析表記載のとおり商品先物取引を行った(以下「本件取引」という。)。

(5)原告は,本件取引について,別紙預託金・返戻金一覧表記載のとおり金員を預託し,返戻を受けた。

(6)原告は,本件取引により,合計1013万0620円の損失を被った。

(7)原告は,被告に対し,平成19年8月10日,本件訴えを提起した。

3  原告は,被告に対し,以下のとおり主張して,本件取引による損失額1013万0620円,慰謝料100万円及び弁護士費用100万円(合計1213万0620円)の内1113万0620円の損害賠償及びこれに対する本件取引が終了した平成14年8月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている。

また,原告は,被告の後記4の時効の主張に対して,原告は,当初,被告の行為によって先物取引被害を被ったとの認識すらなく,平成18年10月ころ,義兄に話したことがきっかけで,その後,平成19年5月,弁護士に相談して損害賠償請求権があることを知ったもので,原告の被告に対する不法行為による損害賠償請求権は時効消滅していないとして,争っている。

(1)原告の経歴等は,別紙経歴書記載のとおりであり,原告は,中学校を休みがちで,成績も芳しくなかったし,町工場の一工員として働き,証券や商品先物などの取引経験や知識が全くないばかりか,新聞も読まず,経済的知識に疎く,無職,無収入で,将来の収入の道もほとんどなく,合計約2400万円の預貯金及び簡易保険を有していただけであった。

(2)このように,原告は,商品先物取引についての適合性を有していなかったにもかかわらず,被告は,商品先物取引についての理解ができない原告を勧誘して,別紙建玉分析表記載のとおり,新規委託者保護義務に違反し,いわゆる特定売買を多数含んだ過当な本件取引を行わせ,当時原告が有していた約2400万円の資産の半分近くを失わせたたもので,これは組織体としての被告の行為によるものであるし,被告の担当者には故意又は重大な過失があり,被告は,原告に対し,不法行為又は債務不履行による損害賠償義務がある。

4  これに対し,被告は,原告の前記3の主張を争うとともに,本件取引は,平成14年8月14日に終了し,同月20日に精算も完了しているので,それから3年の経過により,原告の被告に対する不法行為による損害賠償請求権は,時効消滅したと主張している。

第3当裁判所の判断

1  前記前提事実に証拠(甲1ないし6,甲7の1ないし5,甲8の1ないし5,甲9ないし14,甲15の1・2,甲16ないし22,甲29ないし31,乙3ないし7,原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すると,前記第2,3(1)の原告主張の事実が認められるほか,原告は,原告に本件取引の勧誘をした被告の従業員B(以下「B」という。)の商品先物取引に関する説明をほとんど理解できず,その後原告に本件取引を行わせた被告の従業員C(以下「C」という。)及びD(以下「D」という。)の個別の取引の勧誘について,利害得失の判断をすることができなかったこと,Bは,原告が商品先物取引についてほとんど理解できていないことや,原告の収入等の生活実態を知りながら,原告に顧客カード(乙3),理解度アンケート(乙4)及び商品先物取引口座設定申込書(乙5)への虚偽の記載をさせた上,約諾書(乙6)及び超過預託申出書(乙7)を作成,提出させて,本件取引を始めさせたこと,C及びDも,原告が商品先物取引についてほとんど理解できておらず,どのような取引すべきかについての利害得失の判断もできていないことを知りながら,本件取引を行わせていったこと,原告に理解度などの確認を行った本社管理部の太田気勇など原告に接した他の被告の従業員も,原告が商品先物取引について必要な理解ができていないことを知りながら,これを放置して,担当者らが上記各行為を行うに任せていたことが認められる。

これについて,被告は,原告があたかも商品先物取引について理解し,個別の取引の利害得失の判断もできていたかのような主張をしているが,原告本人尋問の結果に照らせば,外形的にはそれに類するやりとりがあったとしても,原告が被告担当者らの説明等を理解して,実質的な判断を行っていたとは到底認められるものではなく,上記被告の主張は,事後的に被告に都合の良いようにつじつまを合わせた作り話を,訴訟代理人(平成20年4月7日辞任)に対して行っていたものであることが明らかである。

2  以上のとおり,原告には,商品先物取引についての適合性が全くなく,被告は,本件取引に関し,原告と接触したほとんど全ての従業員において,原告が商品先物取引についての適合性を有していないことを知りながら,自分たちの言いなりになる原告を誘導して,本件取引を行わせたもので,組織的ともいえる違法行為であり,非常に悪質であって,原告に対し,故意による不法行為責任及び債務不履行責任を負うものである。

なお,被告は,本件取引は平成14年8月14日終了し,同月20日精算が完了し,それから3年の経過により,不法行為による損害賠償請求権は時効消滅した旨主張する。

しかし,前記1の証拠によれば,原告は,本件取引が多大な損失を出して終了しても,被告の行為によって先物取引被害を被ったとの認識を持つことさえできなかったもので,原告が本件取引による損害及び被告の不法行為を知ったのは,平成18年10月ころ,義兄に本件取引についての話をした以降であると認められ,被告の上記主張は理由がない。

また,被告の行為は,前記1のとおり原告に対する債務不履行にも該当するもので,これに基づく損害賠償責任は,3年の経過によって時効消滅するものではないから,これが重なる範囲では,原告の認識にかかわらず責任を免れないものである。

3  以上によれば,原告は,被告の不法行為及び債務不履行に該当する行為によって,前記第2,2(6)の1013万0620円の損害を被ったこと,また,被告の同行為によって,財産の相当部分を失い,多大な精神的苦痛を被ったことが認められ,相当と認められる慰謝料は,原告主張の100万円を下るものではなく,本件の弁護士費用としては100万円が相当と認められる(以上合計1213万0620円)。

4  よって,上記3の範囲内の1113万0620円の損害賠償及びこれに対する本件取引が終了した平成14年8月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の請求は理由があり,主文のとおり判決する。

(裁判官 長谷川恭弘)

<以下省略>

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