名古屋地方裁判所 平成19年(ワ)5493号 判決 2010年6月04日
原告
X1 他7名
被告
Y1 他2名
主文
一 被告Y1及び被告Y2は、連帯して、原告X1に対し、二八九六万三〇九六円及びこれに対する平成一七年一一月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告Y1及び被告Y2は、連帯して、原告X2に対し、二八九六万三〇九六円及びこれに対する平成一七年一一月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告Y1及び被告Y2は、連帯して、原告X3に対し、五二万二五〇〇円及びこれに対する平成一七年一一月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告Y1及び被告Y2は、連帯して、原告X4、同X5及び同X6に対し、それぞれ三一万三五〇〇円及びこれに対する平成一七年一一月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
五 被告Y1及び被告Y2は、連帯して、原告X7及び同X8に対し、それぞれ三一万三五〇〇円及びこれに対する平成一七年一一月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
六 被告東京海上日動火災保険株式会社は、原告X1の被告Y1及び同Y2に対する判決のいずれかが確定したときは、原告X1に対し二八九六万三〇九六円及びこれに対する平成一七年一一月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
七 被告東京海上日動火災保険株式会社は、原告X2の被告Y1及び同Y2に対する判決のいずれかが確定したときは、原告X2に対し二八九六万三〇九六円及びこれに対する平成一七年一一月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
八 被告東京海上日動火災保険株式会社は、原告X3の被告Y1及び同Y2に対する判決のいずれかが確定したときは、原告X3に対し五二万五〇〇〇円及びこれに対する平成一七年一一月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
九 被告東京海上日動火災保険株式会社は、原告X4、同X5及び同X6の被告Y1及び同Y2に対する判決のいずれかが確定したときは、原告X4、同X5及び同X6に対し、それぞれ三一万三五〇〇円及びこれに対する平成一七年一一月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
一〇 被告東京海上日動火災保険株式会社は、原告X7及び同X8の被告Y1及び同Y2に対する判決のいずれかが確定したときは、原告X7及び同X8に対し、それぞれ三一万三五〇〇円及びこれに対する平成一七年一一月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
一一 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
一二 訴訟費用はこれを二分し、その一を原告らの、その余を被告らの負担とする。
一三 この判決は第一項ないし第一〇項に限り仮に執行することができる。ただし、被告Y1及び同Y2が、連帯して、原告X1に対し二〇〇〇万円の担保を供するときは主文第一項の、原告X2に対し二〇〇〇万円の担保を供するときは主文第二項の、原告X3に対し三七万円の担保を供するときは主文第三項の、原告X4、同X5及び同X6に対しそれぞれ二二万円の担保を供するときは主文第四項の各原告らの、原告X7及び同X8に対しそれぞれ二二万円の担保を供するときは主文第五項の各原告らの仮執行を免れることができ、被告東京海上日動火災保険株式会社が原告X1に対し二〇〇〇万円の担保を供するときは主文第六項の、原告X2に対し二〇〇〇万円の担保を供するときは主文第七項の、原告X3に対し三七万円の担保を供するときは主文第八項の、原告X4、同X5及び同X6に対しそれぞれ二二万円の担保を供するときは主文第九項の各原告らの、原告X7及び同X8に対しそれぞれ二二万円の担保を供するときは主文第一〇項の各原告らの仮執行を免れることができる。
事実及び理由
第一請求
(主位的請求)
一 被告Y1及び被告Y2は、連帯して、原告X1に対し、一八三〇万三七七五円及びこれに対する平成一七年一一月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告Y1及び被告Y2は、連帯して、原告X2に対し、一八三〇万三七七五円及びこれに対する平成一七年一一月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。(訴状に「平成一一年一一月一一日」とあるのは明白な誤記であると解する。)
三 被告Y1及び被告Y2は、連帯して、原告X1に対し、平成二九年から平成四四年まで毎年一一月一一日限り一五一万八八二五円を支払え。
四 被告Y1及び被告Y2は、連帯して、原告X2に対し、平成二九年から平成四四年まで毎年一一月一一日限り一五一万八八二五円を支払え。
五 被告Y1及び被告Y2は、連帯して、原告X1に対し、平成四五年一一月一一日限り二六一一万三〇〇六円を支払え。
六 被告Y1及び被告Y2は、連帯して、原告X2に対し、平成四五年一一月一一日限り二六一一万三〇〇六円を支払え。(訴状に「平成四五年一一月一日」とあるのは明白な誤記であると解する。)
七 被告Y1及び被告Y2は、連帯して、原告X3に対し、三〇〇万円及びこれに対する平成一七年一一月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
八 被告Y1及び被告Y2は、連帯して、原告X4、同X5及び同X6に対し、それぞれ一〇〇万円及びこれに対する平成一七年一一月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
九 被告Y1及び被告Y2は、連帯して、原告X7及び同X8に対し、それぞれ一〇〇万円及びこれに対する平成一七年一一月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
一〇 被告東京海上日動火災保険株式会社は、原告X1の被告Y1及び同Y2に対する判決のいずれかが確定したときは、原告X1に対し一八三〇万三七七五円及びこれに対する平成一七年一一月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
一一 被告東京海上日動火災保険株式会社は、原告X2の被告Y1及び同Y2に対する判決のいずれかが確定したときは、原告X2に対し一八三〇万三七七五円及びこれに対する平成一七年一一月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
一二 被告東京海上日動火災保険株式会社は、原告X1の被告Y1及び同Y2に対する判決のいずれかが確定したときは、原告X1に対し平成二九年から平成四四年まで毎年一一月一一日限り一五一万八八二五円を支払え。
一三 被告東京海上日動火災保険株式会社は、原告X2の被告Y1及び同Y2に対する判決のいずれかが確定したときは、原告X2に対し平成二九年から平成四四年まで毎年一一月一一日限り一五一万八八二五円を支払え。
一四 被告東京海上日動火災保険株式会社は、原告X1の被告Y1及び同Y2に対する判決のいずれかが確定したときは、原告X1に対し平成四五年一一月一一日限り二六一一万三〇〇六円を支払え。
一五 被告東京海上日動火災保険株式会社は、原告X2の被告Y1及び同Y2に対する判決のいずれかが確定したときは、原告X2に対し平成四五年一一月一一日限り二六一一万三〇〇六円を支払え。
一六 被告東京海上日動火災保険株式会社は、原告X3の被告Y1及び同Y2に対する判決のいずれかが確定したときは、原告X3に対し三〇〇万円及びこれに対する平成一七年一一月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
一七 被告東京海上日動火災保険株式会社は、原告X4、同X5及び同X6の被告Y1及び同Y2に対する判決のいずれかが確定したときは、原告X4、同X5及び同X6に対し、それぞれ一〇〇万円及びこれに対する平成一七年一一月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
一八 被告東京海上日動火災保険株式会社は、原告X7及び同X8の被告Y1及び同Y2に対する判決のいずれかが確定したときは、原告X7及び同X8に対し、それぞれ一〇〇万円及びこれに対する平成一七年一一月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(一項ないし九項については、訴状には「被告Y1及び被告Y2は」ではなく、「被告らは」となっているが、一〇項ないし一八項との関係から、明白な誤記であると解する。)
(原告X1及び同X2の予備的請求)
一 被告Y1及び被告Y2は、連帯して、原告X1に対し、五三五七万九八〇二円及びこれに対する平成一七年一一月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告Y1及び被告Y2は、連帯して、原告X2に対し、五三五七万九八〇二円及びこれに対する平成一七年一一月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告東京海上日動火災保険株式会社は、原告X1の被告Y1及び同Y2に対する判決のいずれかが確定したときは、原告X1に対し五三五七万九八〇二円及びこれに対する平成一七年一一月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告東京海上日動火災保険株式会社は、原告X2の被告Y1及び同Y2に対する判決のいずれかが確定したときは、原告X2に対し五三五七万九八〇二円及びこれに対する平成一七年一一月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(原告らの平成二一年六月五日付けの準備書面七には、一、二項につき「被告Y1及び被告Y2」ではなく、「被告らは」となっているが、主位的請求に照らして明白な誤記であり、被告東京海上日動火災保険株式会社に対する予備的請求は三、四項のとおりであると解する。)
第二事案の概要
本件は、A(以下「A」という。)と被告Y1(以下「被告Y1」という。)との間の交通事故(以下「本件事故」という。)につき、原告らが、被告Y1及び被告Y2(以下「被告Y2」という。)に対しては自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条及び民法七〇九条に基づき、被告東京海上日動火災保険株式会社(以下「被告東京海上」という。)に対しては同被告と被告Y2との間の家庭用総合自動車保険契約(以下「本件契約」という。)約款一条に基づき、損害賠償請求をする事案である。
一 前提事実(争いのない事実及び弁論の全趣旨により認められる事実)
(1) 原告X1、同X2は、本件事故の被害者であるA(平成一一年○月○日生、事故当時六歳)の両親であり、原告X3はAの父方の祖母(Aと同居)、原告X4、同X5はAの兄、原告X6はAの弟であり、原告X7、同X8はAの母方の祖父母である。
(2) 被告Y1は本件事故の加害者であり、被告Y2はその夫であり、本件事故の加害車両(以下「被告車」という。)の所有者である。
(3) 被告東京海上は、被告Y2がその所有する被告車につき家庭用総合自動車保険(TAP)を締結した保険会社である。
被告東京海上は、同保険契約の約定により、本件事故により生じた原告らの損害につき、原告らの被告Y1及び被告Y2に対する判決のいずれかが確定したときは、原告らに対し、当該被告と連帯して当該被告に対する判決の認容額と同額の支払いをすべき義務が生じる(弁論の全趣旨。原告らは、同保険契約の約定を明示的には示していないが、被告東京海上が被告Y2と保険契約を締結した旨の主張をした上で被告東京海上に対する前記のとおりの請求をしていることから、黙示的にこのような主張をしていると認めることができる。そして、被告東京海上においても、Y2との保険契約締結の事実を認めた上で、同契約上、被告東京海上の原告らに対する責任が発生することがない旨の主張をせず、そのような責任が生じることを当然の前提として訴訟追行しているものと解されるので、弁論の全趣旨によりこの事実が認められる。)。
(4) 本件事故の日時、場所は次のとおりである。
ア 日時 平成一七年一一月一一日午後三時三〇分ころ
イ 場所 愛知県海部郡佐織町大字北河田郷前(愛西市北河田町郷前四四〇番地)先路線上(その他町道)
本件事故現場は、東西道路と南北道路が交差する十字交差点(以下「本件交差点」という。)あたりであり、南北道路を自転車(以下「本件自転車」という。)で北進してきたAと東西道路を西進してきた被告Y1運転の被告車とが本件交差点ないしその付近で衝突した。
ウ 結果
Aは、本件事故により上位頚髄損傷等の傷害を負い、それが原因で、本件事故日の午後五時三〇分に救急車で搬送された津島市民病院で死亡した。
(5) 被告Y1には、本件交差点に進入するにあたり、左方道路(南北道路)から同交差点に進入しようとしている自転車等の有無及びその進行状況を確認し、事故の発生を未然に防止すべき注意義務があったにもかかわらず、これを怠った結果、本件事故を発生させたという過失がある。
(6) 被告車の所有者は被告Y2であり、被告Y1は夫である被告Y2から被告車の無償使用を許諾された保有者であるから、被告Y1及び被告Y2は、自賠法三条の運行供用者として責任を負う。
(7) Aの損害賠償請求権については、Aの死亡により、原告X1と原告X2とが二分の一ずつ法定相続した。
二 争点
(1) 過失相殺
ア 被告らの主張
被告Y1は、被告車を時速約四〇kmで走行させ、本件交差点付近で時速約三五kmに減速したところ、左方道路(南北道路)から本件交差点に向けて進行してきたA運転の本件自転車を左方約一二mの地点に発見し、急制動の措置を講じたが間に合わず、本件自転車の右側部に被告車を衝突させたものである。被告車と本件自転車の衝突地点は本件交差点の中央部であり、Aは横断歩道を渡ってはいなかった。
本件事故は、南北道路を北進して本件交差点を斜めに横断しようとしたAの自転車と、東西道路を西進してきた被告車が衝突したものであり、南北道路の方が狭路、東西道路が広路であることから、基本過失相殺率は四〇%である。本件交差点の南東角には民家があり、見通しが著しく悪かったところ、Aが上記のような走行方法であったために被告Y1から発見が困難になったものであり、Aには著しい過失があったといえ、Aの過失割合を一〇%加算すべきである。他方、Aの年齢を考慮して同人の過失割合を一〇%減算し、結局、過失相殺率は四〇%とするのが相当である。
イ 原告らの主張
Aは、南北道路を本件自転車に乗って北進し、左右を確認した上、本件交差点の東側に設置された横断歩道(以下「本件横断歩道」という。)を、自転車の左側に立って本件自転車を押しながら歩いて横断しようとしたところ、東方から何ら減速・徐行することなく、前方不注視のまま、時速五〇kmくらいで走行してきた被告車が本件自転車の前輪に衝突したものである。
被告Y1が進行してきた経路(本件交差点より少し東方の丁字路)には通学路の標識とカーブミラーがあり、本件交差点の東側手前には横断歩道があり、その横断歩道の手前には白線(停止線)が設置されている。被告Y1は、本件事故現場を週に一、二回通行しており、本件交差点の南方には小学校があるところ、本件事故時は下校時間帯であり、小学生らの横断者が出現することが十分予想されたのであるから、横断歩道手前の白線の位置でいつでも停止できる速度に減速して徐行するとともに、本件交差点北西角のカーブミラーで左方から出現するかもしれない小学生らの歩行者の有無を十分確認しつつ本件交差点に接近すべき注意義務があった。それにもかかわらず、被告Y1は、減速・徐行もせず、カーブミラーで左方を確認することもなく、脇見などにより前方不注視の状態で漫然と時速五〇kmくらいで本件交差点を通過しようとして本件事故を発生させた。以上のような事情からすれば、本件事故については、被告Y1に一〇〇%の責任があるというべきである。
(2) 損害
ア 原告らの主張
(ア) A本人の死亡慰謝料 二五〇〇万円
(イ) 入通院慰謝料 一〇万円
(ウ) 逸失利益
一八歳から六七歳まで平成一七年賃金センサス全年齢学歴計男子平均年収五五二万三〇〇〇円を得られたのであるから、生活費控除率を四五%としてその逸失利益を算定すると次のとおりとなる。
(主位的請求原因)
a 平成二九年から平成四四年まで(各年分)
552万3000円×(1-0.45)=303万7650円
(原告X1、同X2の相続により、請求額は両原告につき各一五一万八八二五円となる。)
b 平成四五年に支払われるべき同年以降の分の合計額
303万7650円+303万7650円×16.1929=5222万6012円
(原告X1、同X2の相続により、請求額は両原告につき各二六一一万三〇〇六円となる。)
(予備的請求原因)
新ホフマン係数18.3866(27.6017-9.2151)により、逸失利益は、552万3000円×(1-0.45)×18.3866=5585万2055円となる。
(エ) カルテ等開示費用 七五五〇円
津島市民病院のカルテ・X線写真の開示費用として七五五〇円を要した。
(オ) 葬儀費用 一五〇万円
(カ) 原告X1・同X2の固有の慰謝料 各五〇〇万円
(キ) 原告X3の固有の慰謝料 三〇〇万円
(ク) 原告X4、同X5、同X6の固有の慰謝料 各一〇〇万円
(ケ) 原告X7、同X8の固有の慰謝料 各一〇〇万円
(コ) 弁護士費用 一三〇〇万円
以上のうち、(ア)ないし(オ)については原告X1、同X2が二分の一ずつ相続する。
イ 被告らの主張
(ア) A本人の死亡慰謝料はその金額を争う。
(イ) 入院慰謝料は争う。このような損害は、(ア)の死亡慰謝料に包含されている。
(ウ) 逸失利益は争う。定期金賠償を認めるべきではない。逸失利益の算定にあたっては、平成一七年賃金センサスの全年齢学歴計平均年収を基礎にすることは争わないが、生活費控除率は五〇%とされるべきである。
(エ) カルテ等開示費用は争う。このような訴訟準備のための費用は、そもそも損害賠償の対象にならない。
(オ) 葬儀費用の一五〇万円については争うことを明らかにしない。
(カ) 原告X1、同X2の固有の慰謝料についてはその金額を争う。
(キ) 原告X4、同X5、同X6の固有の慰謝料は争う。損害賠償としては、両親の固有の慰謝料のみで十分であり、仮に、兄弟に固有の慰謝料が認められるとしても、全体損害額の中で調整されるべきである。
(ク) 原告X7、同X8の固有の慰謝料は争う。損害賠償としては、両親の固有の慰謝料のみで十分であり、仮に、祖父母に固有の慰謝料が認められるとしても、全体損害額の中で調整されるべきである。
(ケ) 弁護士費用は争う。
第三当裁判所の判断
一 争点(1)(過失相殺)について
(1) 前記前提事実に加え、証拠(甲五、七、一一、一八、五七、六九~七五、乙一~五〔枝番のあるものは枝番を含む。〕、被告Y1本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
ア 本件事故現場付近の状況は、おおむね別紙交通事故現場見取図(以下「別紙見取図」という。)のとおりである。東西道路は、幅員が四・二mであり、南北道路は、本件交差点の南側においては幅員三・五m、北側においては幅員二・〇mである。南北道路は、平坦なアスファルト舗装された道路であり、本件事故当時乾燥していた(甲七、乙一)。
イ 被害者であるAの自宅は、東西道路の本件交差点よりも一つ東側にある丁字交差点(東西道路に突き当たる道路が北に向かって延びている。)を少し北に進んだ所にある(乙一)。被告Y1は、このあたりをよく車で通っており、小学生が通ることもあることを見ており、近くに小学校があることを認識していた(乙一)。
ウ 被告車と本件自転車が衝突した位置(以下「本件衝突地点」という。)は、本件交差点の中央よりやや南で、南北道路の北側(幅員二・〇mの道路)の西端の延長線上あたりである(乙一)。
エ 東西道路を西進する車両から本件交差点の左方の見通しは悪い。本件交差点の北西角にはカーブミラー(以下「本件カーブミラー」という。)が設置してある(乙一)。
オ 本件衝突地点から東に一七・五mの地点から、本件カーブミラーにより南北道路の南側五〇mまでが見とおし可能である(乙一)。
カ 被告車は、車長四四四cm、車幅一七六cm、車高一六七cmの自家用普通乗用自動車(ステーションワゴン)である。ボンネットの高さは約九八cm、車体の最底部の高さは約一七cm、フロントバンパーの底辺の高さは約三〇cmである(甲一一、一八、二八、乙一)。本件自転車は、長さ一五五cm、幅五五cm、高さ一〇五cmの二二インチのウイリーマウンテンである(乙一)。Aの平成一七年九月測定の身長は一一七・四cmであり、同年一一月測定の体重は二二・四kgであった(甲二三)。
キ 被告Y1は、別紙見取図②の地点でエンジンブレーキをかけ、時速三五kmくらいに減速し、同見取図③の地点で同file_6.jpgの地点を自転車を運転して進行するAを見つけ、危険を感じてブレーキを掛けたが間に合わず、同見取図④の位置でfile_7.jpgの位置にある本件自転車の前輪に被告車の左前部を衝突させた(衝突位置は同見取図file_8.jpgの地点)(乙一)。
ク 本件事故後、被告車は別紙見取図の⑤の位置に停止し、本件自転車は同見取図のfile_9.jpgの位置に前輪を北に向け、左側面を下にした状態で転倒し、Aは同見取図のfile_10.jpgの地点で転倒した(乙一)。本件交差点の西側出口手前あたりには長さ約〇・七mの擦過痕が、被告車の停止位置の下には三本の擦過痕がそれぞれ残されていた(乙一)。
ケ 別紙見取図の②と③の距離は一二・五m、③と④の距離は八・五m、④とfile_11.jpgの距離は二・〇m、④と⑤の距離は五・五m、⑤とfile_12.jpgの距離は二・〇m、file_13.jpgとfile_14.jpgの距離は一一・二m、③とfile_15.jpgの距離は一二・〇m、file_16.jpgからfile_17.jpgの距離は二・六mである(乙一)。
(2) これに対し、原告らは、Aは別紙見取図file_18.jpgからfile_19.jpgまで自転車を運転して進行したのではなく、本件自転車から降り、本件自転車の左側に立ち、本件自転車を押しながら本件横断歩道上を南から北に横断しようとしたところ、被告車の左前部が本件自転車の前輪に衝突したものであると主張する。
原告らは、Aの右上肢、右腰部、右下腿に外傷が生じていないのは自転車の車体が防波堤になったからであるとし、Aは本件事故時、本件自転車を運転していたのではなく、本件自転車の左側に立って本件自転車を押して歩いていたものであると主張する(原告らの平成二〇年一月二五日付け準備書面一の三頁)。しかし、被告車の左前部と本件自転車の前輪が衝突したことからすれば、Aが本件自転車に乗って走行していたとしても、Aの身体の右側に外傷が生じないことと整合性が失われることはない(自転車に乗車した状態で、身体のほとんどが本件自転車の前輪よりも後ろにある状態になっていることについては、甲第一八号証の①の写真等が参考になる。)。したがって、Aの身体の右側に外傷がないことを根拠(なお、右膝蓋部、右下腿部には擦過傷が認められた〔甲七六〕。)に、Aが本件事故時に歩行していたとする原告らの上記主張は、それだけの理由で採用することはできない。
そして、仮に、原告らが主張するようにAが横断歩道を自転車を押して歩いて横断しようとしたとすれば、被告車の左前部が本件自転車の前輪に衝突していることからして、Aが横断歩道を横断しようとして少し進んですぐに本件事故が発生したということになる。そうであるとすれば、Aは、被告車が目前に迫っているにもかかわらず(しかも、原告らは、被告車が速度を緩めていなかった旨主張している。)、横断を開始したということになり、不自然であるといわざるを得ない(原告らの平成二〇年一一月二〇日付け準備書面四の一四頁は、Aが右方から被告車が接近してくるのに気づいて静止していた際の事故であると説明するのが合理的である旨主張するが、被告車の接近を知りながら、被告車の進路上に自転車を前進させて静止するというような行動が合理的であるとは考え難い。また、そのような状態で静止して本件自転車の左で、前輪より後ろの位置に立っていたAが、本件自転車の前輪部分にのみ衝突されたことにより、別紙見取図file_20.jpgの地点まで飛ばされることになるとも考えにくい。なお、原告らは、本件事故後の自転車の転倒位置やAの転倒位置について、別紙見取図記載の位置は、被告Y1が本件事故後に移動させた位置であるかのような推測をする〔平成二一年七月二四日付け準備書面八の一七~二〇頁、同年九月八日付け準備書面一一の一二、一三頁〕が、何ら証拠に基づかない推測であり、採用できない。)。
そもそも、本件事故後、路面には前記(1)クのとおりの擦過痕が残されたが、これらは、本件事故により転倒した本件自転車により付けられたものと推認される。そして、その擦過痕の位置からしても、被告車が本件自転車に衝突した位置が、本件横断歩道上ではなく、これらの擦過痕の少し手前である本件交差点の中央付近にある別紙見取図のfile_21.jpgの位置あたりであると認めるのが相当であるというべきである。
なお、原告らは、被告車(中央から左側、特にバンパー左端の損傷が著しいこと)と本件自転車の損傷状況(前輪はゆがんでいるが、後輪はゆがんでいないこと、前輪には路面と擦過した痕跡が著しくみられるが、後輪には余りみられないこと)から、被告車の下敷きになったのは本件自転車の前輪だけであるとする(原告らの平成二〇年一月二五日付け準備書面一の一頁)。この推認は正しいと思われるが、そうであるとすれば、原告らの主張するような衝突の態様では、被告車がAの身体に与えた力は余り強いとは認め難いから、本件事故後に、Aが前記(1)クのとおりfile_22.jpgの位置まで飛ばされて転倒するということも考えにくい。Aの転倒位置からしても、Aが本件自転車に乗車していたからこそ、被告車の本件自転車(前輪)に与えた衝撃がストレートにAに伝わり、Aも本件事故により遠くに飛ばされる結果になったものとみるのが合理的である。また、被告車のエンジンロアカバー左端突部には穴あき損傷があり、その上部には亀裂があるが、これらの損傷があることが前記認定の事故態様と矛盾するものとは認められない。
また、原告らは、被告車が本件横断歩道手前の白線のあたりで急ブレーキをかけたとすれば、衝突までに時間的余裕が生じ、その間に本件自転車は前に進行するから、本件自転車の前輪ではなく、後輪が衝突するはずであるとして、被告Y1が別紙見取図③の位置で急ブレーキを掛けたとは認められない旨主張する(原告らの平成二〇年一月二五日付け準備書面一の一、二頁)。しかし、被告Y1が急ブレーキを掛けたとする別紙見取図③の位置から本件自転車と衝突した時の被告車の位置である同見取図④までの距離は前記のとおり八・五mであるところ、これは、被告車が被告Y1主張のとおり時速三五kmで走行していたとすれば、約〇・八七秒で進行する距離である。空走時間には個人差があるが、これは通常考えられる空走時間(〇・七秒~一・〇秒くらい)の範囲内であり、被告Y1が上記③の位置で危険を感じて急ブレーキを掛けても衝突までに速度が落ちることがないか、ほとんど落ちることがなかったものと認められる。したがって、同位置で急ブレーキを掛けたら、時間的余裕が生じることを前提とする原告らの上記主張は失当である。そして、前記認定のとおり、被告Y1が別紙見取図③でfile_23.jpgの本件自転車を見て、file_24.jpgで衝突したとすれば、被告車が③から④まで八・五m進行する(そして、その間、ほとんど減速しなかったと考えられるから、ほぼ時速三五kmくらいのままである。)間に、本件自転車はfile_25.jpgからfile_26.jpgまで二・六m弱(file_27.jpgからfile_28.jpgまでの距離が二・六mであり、file_29.jpgは運転者であるAの位置、file_30.jpgは衝突した前輪の位置であると考えられるから、本件自転車の進行距離は二・六mより若干短いことになる。)ということになる。そうすると、本件自転車の時速は、被告車の時速の二・六/八・五より若干遅い速度、すなわち、35km×2.6/8.5=10.7kmより若干遅い速度であったと推計することができるが、この推計速度は、自転車の速度として自然であるといえるのであり、これに沿う被告Y1の実況見分調書における指示説明の内容(乙一)は信用性が高いというべきである(なお、本件事故時に、本件自転車がこのような速度で北に向かって前進していたことは、Aの転倒位置が、衝突位置よりも北であることとも整合しているとみることができる。また、被告車の停止位置が別紙見取図⑤の位置であり、それが被告Y1が急ブレーキを掛けたとする同③の位置から一四・〇m〔③④間の八・五m+④⑤間の五・五m〕であることも、時速三五kmからの空走距離、制動距離の合計として矛盾のない数値であるといえる。)。したがって、被告Y1が別紙見取図③の位置でAを発見して急ブレーキを掛けたとは認められないとする原告らの上記主張は採用できない。
原告らは、実験車を使用して時速三五km走行時の急制動による停止距離を測定したところ七m七cmで停止した(甲三七)とする(原告らの平成二〇年九月一六日付け準備書面三の三頁)。しかし、路上の〇m地点に運転者からよく見えるように二重線で目立つように引いた白線を引き、そこで急制動をかけるようにした実験であるということであるから、運転者はあらかじめそこで急制動をかけるという心づもりをして急制動をかけることになり、何の心づもりもなく突然に危険を感じて急制動をかけるという実際の事故の場合よりも運転者の反応時間が短くなり、〇m地点からの空走距離が極端に短くなってしまう実験であると考えられる。時速三五kmの場合、空走距離は、空走時間が〇・七秒で約六・八m、空走時間が〇・七五秒で約七・三mになるのに対し、実験結果の停止距離が七m七cmであることからしても、この実験がほとんど空走距離を考慮に入れていないものであることが明らかである。したがって、この実験結果を根拠に、被告Y1が急ブレーキをかけていないと認定することは到底できない(なお、原告らは、平成二一年一月二八日付けの準備書面六で甲五五に言及しているが、甲五五の停止距離も、ブレーキペダルに足が接触してから停止するまでの距離のことであるから、危険を感じて急ブレーキをかけようとして足をブレーキペダルにのせるまでの空走距離がこれとは別に存在することとなるのであり、原告らの主張はこの点を考慮していないといわざるを得ない。)。
原告らは、被告Y1は、本件自転車に全く気づかずに衝突したことは確実である旨主張する(原告らの平成二〇年一一月二〇日付け準備書面四の九頁)。しかし、衝突地点から五・五m(原告らの主張する本件横断歩道上の衝突であるとしても一〇m程度と考えられる。)で被告車が別紙見取図の⑤の位置で停止していることからすれば、被告Y1が全く本件自転車に気づかずに衝突したとは考えられない。
また、原告らは、本件事故現場にブレーキ痕がなかったことをもって、被告Y1が急ブレーキをかけていない旨主張するが、急ブレーキをかけた場合に必ずブレーキ痕がつくとは限らないのであり、原告らの実験で時速三五kmでブレーキ痕がついたことをもって、本件事故の際も急ブレーキをかけたのならブレーキ痕がついたはずであるとまではいえない。かえって、被告車が別紙見取図の⑤の位置で停止できていることからしても、被告Y1が急ブレーキをかけた結果であると認めるのが相当である(そうでない場合は、被告車は、時速三五kmよりも相当低い速度で走行していたと考えるしかないということになるというべきである。)。
(3) 他方、被告らは、Aは、本件交差点を斜めに横断しようとした旨主張する。
しかし、被告Y1の指示説明に基づいて作成された実況見分調書においても、本件自転車の進行は別紙見取図file_31.jpgからfile_32.jpgへと進行しているのであり、本件交差点を斜めに横断しようとしている動きであるとはいえない。確かに、file_33.jpgからfile_34.jpgにかけて本件自転車が若干右に寄っているようではあるが、これは、南北道路が本件交差点の南側よりも北側において細くなっており、南北道路の左端が右にずれることになるために、南北道路の左端を走行するという走行方法を取った場合にも不可避的に生じる結果にすぎないのであり、Aが本件交差点を斜め横断しようとしたと認めるには足りない(被告本人も、まっすぐ出てきたのか右折しようとしたのかは分からない、事故当時はまっすぐ飛び出したように見えた旨述べている〔被告本人一三頁〕のであり、直進していたと認めるのが相当である。)。被告らの上記主張は採用できない。
他に、前記(1)の認定を覆すに足りる証拠はない。
(4) 以上の事実を前提に、過失相殺について検討する。
前記のとおりの認定によれば、本件事故は、本件交差点における直進車同士(自転車と普通乗用自動車)の出合い頭の衝突事故であるということになる。
車両等は、交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、当該交差点の状況に応じ、交差道路を通行する車両等に特に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない(道路交通法三六条四項)。車両等は、左右の見とおしがきかない交差点に入ろうとするときは徐行しなければならない(同法四二条一号)。
被告Y1は、被告車を運転して本件交差点を通行しようとしていたが、被告車からは本件交差点の左方の見とおしが悪かったにもかかわらず、徐行することなく、漫然と時速約三五kmで進行した結果、本件自転車を発見して停止が間に合わずに本件事故を発生させたのであるから、被告Y1には徐行義務違反の過失がある。また、本件カーブミラーにより左方五〇mの見とおしがきくにもかかわらず、それを見ずに本件交差点を通行しようとして本件事故を発生させているのであるから、安全な方法で進行すべき義務(道路交通法三六条四項)違反の過失も認められる。
他方、Aも、本件交差点に被告車が迫っているのに、漫然と本件交差点に進入したものであり、安全な速度と方法で進行すべき義務に違反した過失がある。
被告らは、被告車が進行していた東西道路は、本件自転車が進行していた南北道路と比べて幅員が明らかに広い旨主張する(その場合は、幅員が明らかに狭い道路を進行して交差点に入ろうとする車両等には道路交通法三六条三項の徐行義務がある。)。しかし、道路交通法三六条三項にいう「幅員が明らかに広いもの」とは、交差点をはさむ前後を通じて、交差点をはさむ左右の交差道路のいずれと比較しても明らかに幅員の広い道路をいい、その一方のみと比較して明らかに幅員の広い道路は含まないものと解すべきである。そして、前記認定のとおり、東西道路の幅員は四・二mであるところ、これは、南北道路の本件交差点の北側(幅員二・〇m)と比べれば明らかに広いといえるが、南北道路の本件交差点の南側(幅員三・五m)と比べると約二割広いにすぎず、明らかに広い道路であるとはいえない(被告本人も、どちらかというと東西道路の方が少し広かった、と述べるにとどまる〔乙一、被告本人一二頁〕。)。被告らの上記主張は採用できない。
以上のとおり、本件事故は、幅員の差の明らかでない交差点における自転車と普通乗用自動車との出合い頭の衝突で、自動車側に徐行義務違反(本件事故時の被告車の時速三五kmくらいという速度は、徐行といえる速度を少なくとも時速一五km以上は上回っているといえる。)やカーブミラーにより安全を確認すべきなのにそれを怠ったという過失が重なっていること、自転車の運転者が六歳と幼いことを考慮するならば、本件事故における過失相殺率は五%とするのが相当である。
二 争点(2)(損害)について
(1) 慰謝料
証拠(乙一)によれば、Aは生前、両親である原告X1、同X2、父方の祖母である原告X3、兄弟である原告X4、同X5及び同X6と同居していたことが認められる。
本件事故により慰謝料については、A本人の慰謝料と親族固有の慰謝料とを合わせて、次のとおり総額二八〇〇万円を認めるのが相当である。
ア A本人の慰謝料
死亡までの入院があったことも含めて二二〇〇万円を認めるのが相当である。
原告らは、本件事故後、被告Y1がAの心臓マッサージなどをしなかったのは救護義務違反であり、その救護義務違反と救護をしたとの虚偽が慰謝料増額事由になる旨主張する。しかし、被告Y1本人の供述によれば、同被告は、本件事故後のAの負傷の状態が分からず、心臓マッサージなどをしてよいのかの判断がつかなかったというのであり、医療従事者であるとはいえ医師ではなく、本件事故後の動揺した状態で心臓マッサージをしなかったからといって、救護義務違反になるとは認められない。また、同被告本人の供述によれば、同被告は、Aの脈や呼吸の状態をみるなどの行為には出ていることが認められ、これらの行為を救護と言っていることが認められるのであり、これを虚偽の強弁であるということはできない。慰謝料増額事由になるものとは認められない。
他にも、本件事故後、被告Y1及び同Y2に、慰謝料を増額すべきような不穏当な言動や不謹慎な振る舞いがあったとは認められない。
イ 原告X1・同X2の固有の慰謝料 各二〇〇万円
ウ 原告X3の固有の慰謝料 五〇万円
エ 原告X4、同X5、同X6の固有の慰謝料 各三〇万円
オ 原告X7、同X8の固有の慰謝料 各三〇万円
(2) 逸失利益
Aは死亡当時六歳であるところ、一八歳(死亡の一二年後。ライプニッツ係数は八・八六三三)から六七歳(死亡の六一年後。ライプニッツ係数は一八・九八〇三)までを通じて平均すると平成一七年賃金センサス全年齢学歴計男子平均年収五五二万三〇〇〇円を得られた蓋然性が認められる。そして、生活費控除率は五〇%とするのが相当である。そうすると、Aの死亡による逸失利益は、552万3000円×(1-0.5)×(18.9803-8.8633)=2793万8096円(小数点以下四捨五入。以下同様)ということになる。
なお、死亡による逸失利益は、死亡したA自身に発生するものであるから、その死亡の時に発生し、かつその額も確定して具体化しているものと解するのが相当であり、将来にわたって発生するものとは考えられないから、原告らが主張するような定期金賠償を認めるのは相当ではない。また、逸失利益の算定における中間利息控除は年五%の割合によるライプニッツ係数により行うのが相当であり、ホフマン係数によるべきであるとの原告らの主張は採用しない。
(3) カルテ等開示費用
原告らは、津島市民病院のカルテ・X線写真の開示費用として七五五〇円を要したとするが、これが本件事故と因果関係のある損害であると認めることはできない。
(4) 葬儀費用が一五〇万円であることは、被告らが争うことを明らかにしていない。
(5) 本件事故によるAの損害は(1)ア、(2)、(4)の合計五一四三万八〇九六円であるところ、前記一のとおり過失相殺率が五%であるから、過失相殺後の額は四八八六万六一九一円となる。これを原告X1及び同X2が二分の一ずつの二四四三万三〇九六円ずつ相続する。
(6) 本件事故によるAの死亡による親族の固有の慰謝料は前記(1)イないしオのとおりであるところ、過失相殺後の額は、それぞれイについては各一九〇万円、ウについては四七万五〇〇〇円、エ及びオについては各二八万五〇〇〇円である。
したがって、弁護士費用分以外の各原告の損害賠償請求の認容額は、原告X1及び同X2が各二六三三万三〇九六円、同X3が四七万五〇〇〇円、同X4、同X5、同X6、同X7及び同X8が各二八万五〇〇〇円である。
(7) 弁護士費用
上記(6)の認容額及び本件訴訟の経緯等からすれば、弁護士費用分の損害賠償額としては、原告X1及び同X2について各二六三万円、同X3について四万七五〇〇円、同X4、同X5、同X6、同X7及び同X8について各二万八五〇〇円を認めるのが相当である。
なお、原告らは、訴状において、請求原因の損害の項目としては弁護士費用一三〇〇万円の主張をしているが、それを含まない額の請求しかしていない。しかし、弁護士費用を含む認容額としても、各原告のいずれについても一部認容となり、その請求額を超える認容額にはなっていないし、請求原因としては弁護士費用分の損害を挙げていることから、訴状の上記のような記載にかかわらず、上記のとおり弁護士費用分の損害額を含めた認容判決をすべきである(処分権主義にも弁論主義にも反しない。)と解される。
(8) したがって、各原告の認容額(元本)は、原告X1及び同X2が各二八九六万三〇九六円、同X3が五二万二五〇〇円、同X4、同X5、同X6、同X7及び同X8が各三一万三五〇〇円である。
三 以上によれば、原告らの請求は、主文第一項ないし第一〇項の限度では理由があり、その余の請求は理由がない。
四 よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 寺西和史)
交通事故現場見取図
<以下省略>