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名古屋地方裁判所 平成2年(わ)1962号 判決 1991年4月18日

本店の所在地

愛知県豊橋市牛川薬師町七九番地の一

名豊観光株式会社

右代表者代表取締役

藤野智洋

本店の所在地

愛知県豊橋市築地町一七番地

松栄観光株式会社

右代表者代表取締役

藤野隆弘

国籍

韓国(慶尚南道梁山郡下北面白鹿里三二五番地)

住居

愛知県豊橋市牛川薬師町七九番地の一

無職

松田洋始こと朴斗鎬

一九三〇年一〇月八日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官稲川龍也出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人名豊観光株式会社を罰金五六〇〇万円に、同松栄観光株式会社を罰金六〇〇〇万円に、同松田洋始こと朴斗鎬を懲役一年一〇月にそれぞれ処する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人名豊観光株式会社(以下被告名豊観光という)は、愛知県豊橋市牛川薬師町七九番地の一に本店を置き、被告人松栄観光株式会社(以下被告松栄観光という)は、同市築地町一七番地に本店を置く、いずれもパチンコ店を経営する資本金各五〇〇万円の株式会社であり、被告人松田洋始こと朴斗鎬は右両会社(以下被告両会社ともいう)の実質的経営者としてその業務全般を統括していたものであるが、被告人松田洋始こと朴斗鎬は

第一  被告名豊観光の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空修繕費を計上するなどの方法により、所得の一部を秘匿した上

一  昭和六一年四月一日から同六二年三月三一日までの事業年度における被告名豊観光の実際の所得金額が、二億一一五八万七四六二円であり、これに対する法人税額が八九五九万〇二〇〇円であるのに、同年六月一日、愛知県豊橋市前田町一丁目九番地四所在の所轄豊橋税務署において、同税務署長に対し、所得金額が四七四六万四三一二円であり、これに対する法人税額が一八五二万四九〇〇円である旨の虚偽過少の法人税確定申告書を提出し、正規の法人税額との差額七一〇六万五三〇〇円を免れ

二  昭和六二年四月一日から同六三年三月三一日までの事業年度における被告名豊観光の実際の所得金額が、四億〇一一五万七一二一円であり、これに対する法人税額が一億六四二六万二一〇〇円であるのに、同年五月三一日、前記豊橋税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二一六四万五一一五円であり、これに対する法人税額が四八六万七一〇〇円である旨の虚偽過少の法人税確定申告書を提出し、正規の法人税額との差額一億五九三九万五〇〇〇円を免れ

第二  被告松栄観光の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空修繕費を計上するなどの方法により、所得の一部を秘匿した上

一  昭和六〇年九月一日から同六一年八月三一日までの事業年度における被告松栄観光の実際の所得金額が、一億三一〇一万九五五五円であり、これに対する法人税額が五七八八万四六〇〇円であるのに、同年一〇月三一日、前記所轄豊橋税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二〇七万五四一三円であり、これに対する法人税額が六四万三二〇〇円である旨の虚偽過少の法人税確定申告書を提出し、正規の法人税額との差額五七二四万一四〇〇円を免れ

二  昭和六一年九月一日から同六二年八月三一日までの事業年度における被告松栄観光の実際の所得金額が、二億一四〇〇万七〇二二円であり、これに対する法人税額が八八九二万二九〇〇円であるのに、同年一〇月三一日、前記豊橋税務署において、同税務署長に対し、所得金額が三七九万六六二二円であり、これに対する法人税額が一一三万八八〇〇円である旨の虚偽過少の法人税確定申告書を提出し、正規の法人税額との差額八七七八万四一〇〇円を免れ

三  昭和六二年九月一日から同六三年八月三一日までの事業年度における被告松栄観光の実際の所得金額が、二億五〇四七万一二三一円であり、これに対する法人税額が一億〇四二三万七八〇〇円であるのに、同年一〇月三一日、前記豊橋税務署において、同税務署長に対し、所得金額が六七一万八二三七円であり、これに対する法人税額が二〇一万五四〇〇円である旨の虚偽過少の法人税確定申告書を提出し、正規の法人税額との差額一億〇二二二万二四〇〇円を免れ

もつて、いずれも不正の行為により、被告両会社の法人税を免れたものである。

(証拠の標目)

判示各事実

一  被告人松田洋始こと朴斗鎬の当公判廷における供述

一  同被告人(以下被告人朴という)の検察官に対する供述調書

一  高橋康一、彦坂武志の検察官に対する各供述調書

判示冒頭の事実中被告名豊観光に関する部分

一  藤野智洋の検察官に対する供述調書

一  登記官作成の各商業登記簿謄本(検乙4乃至11号)

判示冒頭の事実中被告松栄観光に関する部分

一  藤野隆弘の検察官に対する供述調書

一  登記官作成の各商業登記簿謄本(検乙12乃至16号)

判示第一の各事実

一  倉知憲司の検察官に対する供述調書

一  大蔵事務官作成の平成二年三月二六日付脱税額計算書説明資料

一  大蔵事務官作成の各査察官調査書(検甲7、8、9、11乃至14号)

同 第一の一の事実

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(検甲2号)、同査察官調査書(同10号)及び同証明書(同17号)

同 第一の二の事実

一  検察官作成の捜査報告書

一  検察事務官作成の捜査報告書

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(検甲3号)、同各査察官調査書(同15、16号)及び同証明書(同18号)

同 第二の各事実

一  大蔵事務官作成の平成二年四月六日付脱税額計算書説明資料

一  大蔵事務官作成の各査察官調査書(検甲26乃至34号)

同 第二の一の事実

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(検甲22号)及び同各証明書(同35、36号)

同 第二の二の事実

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(検甲23号)及び同各証明書(同37、38号)

同 第二の三の事実

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(検甲24号)及び同各証明書(同39、40号)

(法令の適用)

罰条 法人税法一六四条一項、一五九条

刑種の選択 被告人朴につき 懲役刑

併合罪の処理 被告人朴につき 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条

(犯情の最も重い判示第一の二の罪の刑に法定加重)

被告両会社につき 同法四五条前段、四八条二項

(被告人朴の量刑について)

本件は、パチンコ店経営を業としている被告両会社の実質的経営者であつた被告人朴が、被告両会社の業務に関し、法人税のほ脱を図り、被告名豊観光に関しては昭和六一年四月一日以降の二事業年度にわたつて計二億三〇四六万〇三〇〇円の法人税を、被告松栄観光に関しては同六〇年九月一日以降の三事業年度にわたつて計二億四七二四万七九〇〇円の法人税をそれぞれ免れたもので、そのほ脱率は被告名豊観光につき通算九〇パーセントを越え、被告松栄観光につき通算九八パーセントを越えており、そのほ脱額の巨額であること、ほ脱率の極めて高率であることのみからしても犯情甚だ重いものといえるが、被告人朴は被告両会社の実質的経営者としてその経理面を会社代表者である長男、次男に一切関与させず、すべて自ら取り仕切り独断専行していたもので、本件脱税に関しても、被告両会社の加入しているパチンコ組合からの余剰金の還付金、建築、修繕業者から受け取る賛助金、自動販売機設置業者から受け取る販売協力費等の雑収入を公表計上することなく、自己の手元に留保し、各期の決算期には税理士等に指示して巨額の架空修繕費を計上させ、或いは巨額の架空債権の貸倒れ損失を計上させるなどし、しかも右架空計上に当たつては、虚偽の領収書、借用書を作成するなどその手段・態様は大胆かつ計画的で悪質なものといわねばならない。而して、本件は、被告人朴が、自ら実質的経営者として営む他の五社の経営が振るわず、被告両会社と併せた企業グループ七社全体の損益をならしてみればその利益がさほどでないのに、被告両会社の収益が突出していてその収めるべき法人税が多額になるため、これを不満として右被告両会社の法人税のほ脱を企てるに至つたものであるが、右五社はそもそも被告人朴が自己の自由に使用できる会社交際費については税法上一社当りの枠があるため、会社の数を増やすことによりこれを増額させようと近年になつて設立(三社)、事業再開或いは買収したものであつて、殊に新設会社について当初は設備資金に見合う収益を期待できないことは通常のことであり、かかる事情からみても、右被告人朴の本件ほ脱の動機なるもの自体身勝手なものというべきで、斟酌すべき限りでなく、同被告人の刑事責任は誠に重大といわざるを得ない。加えて同被告人は、国税当局の査察がはいるや、右架空修繕費の計上分について、名目はともかく実質的な支出のあつた体裁を整えようと、知人に依頼して預り証を作成させるなど罪証湮滅工作をも敢行しており、これらに同被告人が過去において長期間暴力組織に加入していた事跡があり、多数回にわたる懲役・罰金の前科を有するものであること等を考慮すると、本件発覚後被告両会社において修正申告により本税が完納されているほか付帯税も完納され、右両会社とも機構を改善するなどして再犯防止に努めていること、被告人朴は正式に被告両会社から退職して反省の態度を示しており、また同被告人には脊椎ヘルニヤ、両膝関節炎等の持病があるなど同被告人のために有利乃至考慮すべき事情を最大限に斟酌しても、なお被告人朴に対して刑の執行を猶予するのは相当でなく、同被告人に対する主文掲記の量刑は止むを得ないところである。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 金田智行)

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