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名古屋地方裁判所 平成2年(ワ)1191号 判決 1991年10月30日

原告

伊藤眞由実

被告

安田火災海上保険株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、各自金一七八五万一三六一円及び内金一六六五万一三六一円に対する昭和六一年一一月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その三を原告の、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項につき仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、各自二四六四万〇二一八円及び内金二二六四万〇二一八円に対する昭和六一年一一月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生

(一) 日時 昭和六一年一一月一八日午前八時五〇分ころ

(二) 場所 愛知郡日進町大字岩崎大廻間一五九番地先道路上

(三) 加害車 被告武田哲欣(以下、「被告武田」という。)運転の自動二輪車

(四) 被害者 原告運転の原動機付自転車

(五) 態様 信号機による交通整理の行われていない十字路交差点内において、加害者と被害者とが出会い頭に衝突した。

2  受傷及び治療の経緯

原告は、本件事故により、左骨盤粉砕骨折等の傷害を負い、次のとおり入通院治療を受けた。

(一) 西崎胃腸科外科 昭和六一年一一月一八日

(二) 保健衛生大学病院 昭和六一年一一月一八日から昭和六二年八月二四日まで入院(二八〇日)

(三) 土岐市立総合病院 昭和六二年八月二四日から昭和六三年二月一〇日まで入院(一七一日)昭和六三年二月一一日から同年八月一日まで通院

(四) 金沢医科大学病院 昭和六三年八月二日から通院

3  責任原因

(一) 被告武田には、加害者の保有者として自賠法三条の責任が、加害者の運転者として民法七〇九条の責任がある。

(二) 被告安田火災海上保険株式会社(以下、「被告会社」という。)は、被告武田との間に次のとおり自動車損害賠償保険(いわゆる任意保険)契約を締結していた。

(1) 締結日 昭和六一年八月一八日

(2) 保険種類 自家用自動車保険(PAP)

(3) 証券番号 六八一九九五〇五六〇〇一

(4) 保険期間 昭和六一年九月七日から昭和六二年九月七日まで

(5) 保険金額 対人無制限

(6) 被保険者 被告武田

(7) 被保険自動車 加害者

(8) 特約 対人事故によつて被保険者(被告武田)の負担する法律上の損害賠償責任が発生したときは、損害賠償請求権者(原告)は、保険会社(被告会社)に対し、直接、保険金額を限度として損害賠償額の支払を請求することができる。

4  損害

(一) 治療費 一一七万九八一〇円

(1) 西崎胃腸科外科分 二万一七五〇円

(2) 保健衛生大学病院分 九八万八四七〇円

(3) 土岐市立総合病院分 一四万四六〇〇円

(4) 金沢医科大学病院分 二万四九九〇円

(二) 入院雑費 三六万円

八〇〇円×四五〇日

(三) 付添看護費 二二五万円

五〇〇〇円×四五〇日

(四) 通院交通費 一〇万円

(五) 休業損害 四八七万五三一〇円

(一七万一四〇〇円×一二+五四万八六〇〇円)×六八三日÷三六五日

(六) 逸失利益 三七九一万五三一七円

(一七万一四〇〇円×一二+五四万八六〇〇円)×〇・七九×一八・四二一

原告の前記傷害は、昭和六三年一一月ころ症状固定の状態となり、自賠法施行令二条別表後遺障害等等級表五級に該当する後遺障害が残つた。

(七) 慰謝料

(1) 入通院分 五〇〇万円

(2) 後遺症分 一一〇〇万円

(八) 小計 六二六八万〇四三七円

(九) 過失相殺後の残高 三一三四万〇二一八円

被告武田は、制限速度を超え、かつ、ブレーキをかけることなく衝突しているから、原告の過失は、五割未満である。なお、過失相殺に当たつて問題とすべきは行為であるから、原告が無免許運転であつたということは、直ちにその過失に結び付くものではない。

(一〇) 既払金 八七〇万円

(一一) 差引残高 二二六四万〇二一八円

(一二) 弁護士費用 二〇〇万円

(一三) 合計 二四六四万〇二一八円

5  よつて、原告は、請求の趣旨に記載のとおりの裁判を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実は知らない。

3  同3(一)は争う。同3(二)の事実は認める。

4  同4の事実は知らない。原告の過失割合と後遺障害等級については争う。

本件事故現場のような信号機による交通整理の行われていない交差点においては、左方から進行してくる車両が優先する(道路交通法三六条一項一号)から、本件のような出会い頭の衝突事故の基本的過失割合は、左方車たる加害車四割、右方車たる被害者六割であるところ、原告には故意に比すべき無免許運転という重大な過失があるから、これを二割の修正要素として双方の過失割合を判定すれば、原告八割、被告武田二割となる。

また、原告の後遺障害は、骨盤変形(自賠法施行令二条別表後遺障害等級表一二級五号)のほかは、腸骨の欠損による杖歩行が必要な状態や左下肢のしびれ感等を総合的に捉えても、「服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」(同九級一〇号)にとどまるものであり、自動車保険料率算定会で認定されたとおり、併合八級に該当するにすぎない。

第三証拠

記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1(交通事故の発生)及び同3(二)(被告会社の責任原因)の各事実は、当事者間に争いがない。

二  甲二、三、五ないし八(以下、各技番を含む。また、成立又は原本の存在・成立に争いのない書証については、その旨の記載を省略する。)及び原告本人によれば、請求原因2の事実、すなわち、原告が、本件事故により、左骨盤粉砕骨折等の傷害を負い、同(一)ないし(四)のとおり西崎胃腸科外科等で入通院治療を受けたことを認めることができる。

また、請求原因3(一)の事実のうち、被告武田が加害車の運転者であることは、前記のとおりであり、弁論の全趣旨によれば、被告武田は同時に加害者の保有者であることが認められる。

三  原告の損害(請求原因4(一)ないし(八))について

1  治療費 一一七万九八一〇円

甲七、八、一六、一八によれば、原告が請求原因4(一)の(1)ないし(4)のとおり治療費を支払つたことが認められる。

2  入院雑費 三六万円

入院雑費は、四五〇日の入院期間を通じて一日につき八〇〇円と認めるのが相当である。

3  付添看護費 一五七万五〇〇〇円

原告本人及び弁論の全趣旨によれば、原告は四五〇日の入院期間を通じて付添看護を要する状態にあつたものと認められる。しかし、この間職業付添人が付添いを行つたとの事実について立証はないから、近親者付添の場合として一日につき三五〇〇円の付添看護費を認めるのが相当である。

4  通院交通費 九万一〇〇〇円

甲二、八によれば、原告は、後記のとおり症状固定に至るまで、土岐市立総合病院に一日、金沢医科大学病院に少なくとも一八日(昭和六三年九月三〇日まで。以後の通院状況は、証拠上明らかではない。)、通院したことが認められる。通院のために支出した具体的な費用の額について立証はないが、弁論の全趣旨によれば、土岐市立総合病院に通院するには一回一〇〇〇円、金沢医科大学病院に通院するには一回五〇〇〇円をそれぞれ下回らない通院交通費を要したものと認められる。

5  休業損害 四五七万一九四一円

原告本人及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故当時、三六歳(昭和二五年三月一日生まれ)の健康な女性であり、主婦として家事労働に従事していたものと認められるから、昭和六一年賃金センサス第一巻第一表・産業計・企業規模計・学歴計による三五歳から三九歳の女子労働者の平均年収額二六〇万五四〇〇円を基礎に、原告の休業損害を算定するのが相当である。

そして、前記の原告の受傷の部位・程度、入通院状況等を考慮すると、原告は、本件事故当日である昭和六一年一一月一八日から後記の症状固定の日の前日である昭和六三年一〇月三一日までの合計七一四日間のうち、入院四五〇日及び通院一九日については一〇〇パーセントの就労制限を受け、その余の通院期間中については七〇パーセントの就労制限を受けたものと認めるべきである。

260万5400円×469/365=334万7760円(円未満切捨て)

260万5400円×0.7×245/365=122万4181円(〃)

334万7760円+122万4181円=457万1941円

6  逸失利益 三〇六二万四九七一円

甲三、五、九(原告本人により原本の成立を認める。)、一〇、一五、鑑定の結果及び原告本人に弁論の全趣旨を総合すると、原告の前記傷害は、昭和六三年一一月ころ(便宜、一一月一日とする。)症状固定の状態になり、骨盤骨に著しい変形を残すもの(自賠法施行令二条別表後遺障害等級表一二級五号)、及び神経系統の機能に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの(同七級四号)という後遺障害が残つたことが認められる。ところで、このうち後者の神経系統の機能障害については、弁論の全趣旨によれば、自動車保険料率算定会はこれを「服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」(同九級一〇号)に該当するとの認定をし、他方、甲三、一〇によれば、金沢医科大学病院整形外科医師佐々木雅仁及び同大学整形外科医師西島雄一郎はこれを「特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの」(同五級二号)に該当するとの判定をしていることが認められる。しかし、さきに掲記した証拠によれば、原告については、神経系統の機能障害により身体的能力が著しく低下し、殊に、疼痛と可動域制限のため、日常生活に様々な支障が生じているのみならず、一般平均人と比べて労働能力自体が明らかに低下しているものと認められるから、単に「服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」にとどまらないというべきであるが、他面において、原告が、主婦として専ら家事労働に従事するものであり、現に、家族の協力を得ながら炊事、洗濯など主要な家事を遂行していると認められることを考えると、「特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの」に該当するには至らないと判断される(なお、脳及びせき髄に器質的な障害がない場合であつても、同九級以上に該当するとの認定をすることの妨げにはならないものと解される。)。

右の事実によれば、原告は、前記後遺障害等級表併合六級に相当する後遺障害により、前記の症状固定の日から満六七歳に達するまでの二九年間を通じて、その労働能力の六七パーセントを喪失したと認めるのが相当である。そこで、原告が主婦として家事労働に従事していることにかんがみ、症状固定時の昭和六三年賃金センサス第一巻第一表・産業計・企業規模計・学歴計による三五歳から三九歳の女子労働者の平均年収額二七六万〇二〇〇円を基礎に、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して、原告の逸失利益の本件事故当時における現価を算出すると、三〇六二万四九七一円となる。

276万0200円×0.67×(18.4214-1.8614)=3062万4971円(円未満切捨て)

7  慰謝料

(一)  入通院慰謝料 三〇〇万円

前記の原告の受傷の部位・程度、入通院期間等を考慮すると、右金額が相当である。

(二)  後遺症慰謝料 九三〇万円

前記の原告の後遺障害の内容・程度等を考慮すると、右金額が相当である。

8  小計 五〇七〇万二七二二円

以上の1ないし7の損害額を合計すると、右金額となる。

四  過失相殺について

1  甲四(原告本人により成立を認める。)、原告本人及び被告武田本人に弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができる。

(一)  本件事故現場は、いずれも幅員約五メートルの道路(町道)が東西、南北に交わる十字路である(以下、「本件交差点」という。)。

(二)  本件交差点では、信号機等による交通整理は行われておらず、また、いずれの側にも一時停止の道路標識は設けられていなかつた。本件交差点付近では、東西、南北のいずれの道路も最高速度が時速三〇キロメートルに制限されていた。

(三)  原告は、被害車を運転して、東西道路を東方から西方に向けて時速二〇キロメートルないし三〇キロメートルの速度で進行し、本件交差点に差しかかつた。

(なお、原告が本件交差点付近で更に減速したかどうかは、証拠上必ずしも明らかではないが、いずれにせよ、原告が、左方から進行する車両を発見すれば停止して事故の発生を回避し得る程度の速度に減速し、徐行をしていたとは認められない。)

(四)  原告は、本件事故以前にも原動機付自転車を何回か運転したことがあつたが、本件事故当時、その運転免許を有してはいなかつた。

(五)  一方、被告武田は、加害車を運転して、南北道路を南方から北方に向けて時速四〇キロメートルないし五〇キロメートルの速度で進行し、本件交差点に差しかかつた。

(六)  本件交差点の南東角付近は、盛土がされ、かつ、雑草が茂つていたため、原告、被告武田のいずれの側からも見通しが悪かつた。

(七)  原告と被告武田は、いずれも本件交差点の直前ないしこれに進入するまで相手方の車両に気付かず、被害車と加害車は、本件交差点のほぼ中央付近において出会い頭に衝突した。

2  右の事実によれば、本件交差点は、信号機等による交通整理が行われておらず、かつ、左右の見通しがきかない交差点であつたのであるから、本件交差点に入るに当たつては、徐行をし(道路交通法四二条一号)、交差道路を走行する車両の安全を確認して進行すべき注意義務があるのに、原告、被告武田ともこれを怠り、徐行をすることなく本件交差点に進入したため、本件事故が発生するに至つたものである。そして、このような場合には、一般に、交差道路を左方から進行してくる被告武田の側に優先進行権が認められるのであり(同法三六条一項一号)、また、原告には、右のように徐行義務を怠つたことに加えて、無免許運転という非難に値する点があるのであるが、他方において、被告武田が、制限最高速度を時速一〇キロメートルないし二〇キロメートルも上回り、かつ、被害車の速度の倍近い時速四〇キロメートルないし五〇キロメートルの速度で本件交差点に進入していることを考えるならば、被告武田の側にも本件事故の発生につき原告のそれに劣らない過失があるものというべきである。

結局、本件事故の発生についての原告と被告武田の過失割合は同程度と見るのが相当である。したがつて、過失相殺として原告の前記損害額からその五割を減ずると、被告武田が賠償すべき損害額は、二五三五万一三六一円となる。

五  損害の填補について

弁論の全趣旨によれは、原告は自賠責保険金八七〇万円の支払を受けたことが認められるから、右金額を控除すると、被告武田が賠償すべき損害額は、一六六五万一三六一円となる。

六  弁護士費用について

原告が被告武田に対し本件事故と相当因果関係のある損害として賠償を求め得る弁護士費用としては、一二〇万円が相当である。

七  結論

以上によれば、原告の被告武田に対する自賠法三条又は民法七〇九条に基づく損害賠償請求及び被告会社に対する自動車損害賠償保険契約に基づく請求は、一七八五万一三六一円及び内金一六六五万一三六一円に対する本件事故当日である昭和六一年一一月一八日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 河邉義典)

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