名古屋地方裁判所 平成2年(ワ)1382号 判決 1991年3月26日
原告
黒川薫
ほか一名
被告
大東京火災海上保険株式会社
主文
一 被告は、原告黒川薫及び同黒川カズ子に対し、それぞれ金三二四万〇九六三円及び右各金員に対する平成元年九月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用はこれを二分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。
四 この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告黒川薫及び同黒川カズ子に対し、それぞれ金一〇〇〇万円及び右各金員に対する平成元年九月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、訴外黒川浩二(以下「訴外浩二」という)の両親である原告らが左記一1の交通事故(以下「本件事故」という)の発生を理由に、被告に対し損害保険金の直接請求をする事案である。
一 争いのない事実
1 交通事故
(一) 日時 平成元年九月三日午前二時三〇分ころ
(二) 場所 愛知県半田市宮本町三丁目一二四番地先
(三) 加害車両 訴外牧野雅平(以下「訴外牧野」という)運転の普通乗用自動車
(四) 被害者 加害車両助手席に同乗の訴外浩二
(五) 態様 加害車両が右現場付近の神戸川沿いの県道を走行中、ガードレールにぶつかつた後、前夜来の降雨のため水深約二メートルに増水していた神戸川に転落し、もつて訴外浩二が死亡した。
2 保険契約の締結
本件事故当時、加害車両の所有者である訴外牧野金吾は、加害車両につき被告との間で自家用自動車保険契約(対人賠償保険を含む)を締結していた。
3 原告らは、訴外牧野の両親であり法定相続人である訴外牧野金吾及び訴外牧野朋子に対し、損害賠償請求権を行使しないことを書面で承諾したので、被告に対する直接請求権を取得した。
4 自賠責保険よりの支払 二五〇〇万円
5 原告らの身分関係
原告黒川薫及び同黒川カズ子は、訴外浩二(昭和四四年七月一六日生)の両親であり、両名のみが訴外浩二の法定相続人である。
二 争点
被告は、損害額を争うほか、訴外牧野は、訴外浩二及び訴外梅田宏之(以下「訴外梅田」という)と共に飲酒した後加害車両内で共にシンナーを吸引していたが、酒及びシンナーの影響から加害車両を暴走させたため本件事故が発生したものであり、これを容認していた訴外浩二の損害について七割の過失相殺をすべきであると主張している。
第三争点に対する判断
一 損害額について
1 葬儀費用(請求も同額) 一〇〇万円
弁論の全趣旨により、本件事故により葬儀費用として右金額を要したものと認められる。
2 逸失利益(請求も同額) 三〇八一万八三五〇円
前記争いのない原告らの身分関係、甲一及び弁論の全趣旨によれば、訴外浩二は、本件事故当時二〇歳の独身男子であり、学歴は高校中退で、本件事故当時自衛官として勤務していたことが認められるので、原告ら主張の賃金センサス第一巻第一表中卒男子二〇歳の年収二五八万六三〇〇円を基礎とし、生活費として五割を控除し、新ホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して、就労可能な六七歳までの逸失利益の死亡時の現価を算定すると、次の計算式のとおり三〇八一万八三五〇円となる。
2,586,300×(1-0.5)×23.832=30,818,350
3 慰謝料(請求一七五〇万円) 一六〇〇万円
本件事故態様、結果、訴外浩二の年齢、職業等を考慮すると、右金額が相当と認める。
4 以上合計 四七八一万八三五〇円
二 過失相殺について
1 甲八ないし一一によれば、前記神戸川に転落した加害車両の車内には、後部座席左側に一リツトル缶(ロツクペイント記名)が一缶あつたこと、前部座席車床に透明用ナイロン袋(野菜ゴミ入用)が散乱しており、訴外牧野はビニール袋を握りしめて倒れていたこと、愛知県警察本部科学捜査研究所で鑑定を行つた結果、加害車両の車内にあつたビニール袋に入つた液体及び一八リツトル缶より分取した液体にはいずれもトルエンが含有されていたこと、訴外牧野、訴外浩二、訴外梅田の血液中には、いずれもトルエン及びアルコールが含有されており、アルコールの血中濃度は、血液一ミリリツトルあたり、訴外牧野が一・一七ミリグラム、訴外浩二が〇・一八ミリグラム、訴外梅田が〇・八六ミリグラムであつたことが認められる。
右認定事実及び前記事故態様に照らすと、訴外牧野は、酒及びシンナーの影響から加害車両を暴走させたため本件事故が発生したことが推認できる。
2 なお、訴外浩二については、訴外牧野及び訴外梅田と比較するとアルコールの血中濃度は低いこと、シンナーをビニール袋に入れて吸引していた可能性もあるものの転落時の衝撃で一八リツトル缶から車内に飛散したペイントを吸引した可能性もあり、いずれとも断定はできないこと等の事情がある。
しかし、他方、前記1の認定の事実及び前記事故態様に照らすと、訴外浩二は訴外牧野の好意で同乗させてもらつていたこと、訴外牧野及び訴外梅田と共に飲酒した後、加害車両でドライブを楽しんでいたこと、訴外牧野が相当多量に飲酒したうえ、ビニール袋を手に持つてシンナーを吸引しながら加害車両を運転しているのに、助手席にいた訴外浩二はこれを黙認していたことが推認できる。
3 以上の各事実を総合考慮すると、好意同乗ないし過失相殺の法理により、訴外浩二の損害につき三割五分を減額するのが相当である。
三 賠償額
1 前記損害額合計四七八一万八三五〇円から三割五分を減額すると、残額は三一〇八万一九二七円となる。
2 右金額から前記自賠責保険よりの支払二五〇〇万円を控除すると、残額は六〇八万一九二七円となる。
3 弁論の全趣旨によれば、本件事故と相当因果関係ある損害として賠償を求めうる弁護士費用は、四〇万円が相当と認められる(以上合計六四八万一九二七円)。
4 相続
前記身分関係によれば、原告らは、訴外浩二の有する損害賠償債権につき、それぞれ二分の一にあたる三二四万〇九六三円(円未満切捨)を法定相続したことが認められる。
四 結論
以上の次第で、原告らの請求は、保険契約による直接請求権に基づき、被告に対し、それぞれ右三二四万〇九六三円及びこれに対する本件事故の日である平成元年九月三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
(裁判官 芝田俊文)