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名古屋地方裁判所 平成2年(ワ)2510号 判決 1991年9月27日

原告

寺本美鈴

被告

小川桜里恵

主文

一  被告は原告に対し、金四万九〇二九円及びこれに対する平成元年六月一五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用のうち参加によつて生じた以外の部分はこれを二〇分し、その一九を原告の、その余を被告の負担とし、参加によつて生じた部分はこれを二〇分し、その一九を原告の、その余を補助参加人の負担とする。

四  この判決第一項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は原告に対し、九六万二七三三円及びこれに対する平成元年六月一五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が左記一1の交通事故の発生を理由に、被告に対し自賠法三条及び民法七〇九条に基づき損害賠償を請求する事案である。

一  争いのない事実

1  本件事故

(一) 日時 平成元年六月一五日午前八時三〇分ころ

(二) 場所 愛知県海部郡蟹江町本町八丁目八番地の一付近

(三) 第一車両 被告運転の軽四貨物自動車

(四) 第二車両 原告運転の原動機付自転車

(五) 結果 右折しようとした第一車両と第二車両とが衝突し、原告が頭部外傷、右上肢挫創、顔面・腰部擦過挫傷、頚部・右肩・左膝挫傷の傷害を負つた。

2  運行供用者

被告は、第一車両を自己のために運行の用に供する者である。

3  原告の醜状障害

本件事故の結果原告には、顔面右眼下に八×三ミリメートル、右肘に七×三ミリメートル、二〇×四ミリメートル及び一〇×四ミリメートルの各醜状障害が残つた。

4  損害(本訴請求にかかる以外の分)

(一) 治療費 二一万四八二〇円

(二) 通院費 一万七六二〇円

(三) 文書料 一四〇〇円

(四) 休業損害 六万六〇〇〇円

5  損害の填補

原告は、自賠責保険から本件事故の右4の損害の填補及び通院慰謝料として合計三九万三四四〇円の支払を受けた。

二  争点(被告の過失の有無、過失割合、損害額)

1  原告の主張

(一) 被告には右折合図義務違反・非常な大回り右折・右後方の安全不確認の過失があつた。

(二) 被告の左記2(二)の主張は争う。

2  被告の主張

(一) 右1(一)の主張は争う。本件事故は原告の車間距離不保持等による追突事故であるから、被告は無過失であり、また自賠法三条但書により責任がない。

仮にそうでないとしても九割の過失相殺をすべきである。

(二) 通院慰謝料、後遺障害慰謝料及び第二車両の修理代金の額は争う。

原告の醜状障害は、自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表一二級一四号又は一四級四号に該当しないから、慰謝料の対象となる後遺障害に当たらない(この点については、補助参加人にも同趣旨の主張がある)。

第三争点に対する判断

一  本件事故の態様

1  本件事故現場

前示争いのない事実、甲二によれば、本件事故現場の状況は、別紙図面記載のとおりで、両側にそれぞれ幅約一・六メートルずつの路側帯をもつ幅約四・二メートルの北行き一方通行の車道(以下本件道路という)に、幅約三メートルの東行き車道が接続するT字路(以下本件T字路という)付近であり、本件道路の最高制限速度は時速三〇キロメートルで、東行き車道に対する優先道路の指定はないことが認められる。

2  本件事故の態様について原告と被告の供述が相反するので、まずその信用性につき検討する。

原告は、「第二車両を運転して、時速約三五ないし四〇キロメートルで本件道路を北進する第一車両の後方を同一方向に進行していたところ、同車が本件T字路の手前で急に減速し、その左車輪が左側路側帯にかかるまで左側に寄つたが、ウインカーも出ていなかつたので、右側に出て追い抜こうとしたときに第一車両が急に右折してきたので、その右ドア付近に第二車両の前部が衝突した」旨供述する。

しかしながら、<1>原告本人、被告本人によれば、本件T字路の前示東行き車道の入口付近には駐車車両等第一車両の右折の障害になるようなものは格別存在しなかつたことが認められるのであるから、被告が原告供述のような非常な大回り右折をしなければならない必要性に乏しいこと、<2>また甲二、被告本人によれば、第一車両の右ドアには擦過痕はあるが、ここに第二車両が衝突したとすれば当然生じるはずの凹損がなく、一方第一車両の右後部アンダースカートには明確な損傷が認められるから、同部分に第二車両が衝突したことは明らかであることなどに照らすと、原告が本件事故直前に第一車両の進行状況や動静を性格に注視していたか疑問があるといわねばならず、結局原告の右供述部分は信用することができないし、これと同趣旨に出た甲三の一ないし六の指示説明の内容も採用することができない。

これに対し、被告の供述は、右のような現場の状況及び第一車両の損傷部位等とも合致し信用することができる。

3  結局右認定の事実、甲二、原告本人、被告本人によれば、本件事故の経過・態様は、大略別紙図面記載のとおりであり、時速約三五キロメートルで第一車両を運転して本件道路の中央付近やや右側よりを北進していた被告が、本件T字路を東に右折しようとして、時速一五ないし二〇キロメートルに減速して同図面記載<2>の点で右折のウインカーを出したのに対し、第二車両を運転してその後方を同方向に進行していた原告が、これを右側から追い越そうと、第一車両の約一〇メートル後方から右側に進路を変更して本件道路の車道右端付近を時速約三〇キロメートルで進行したところ、第一車両が同図面記載<3>の点から時速約一〇キロメートルで右折を開始したため、第二車両の前部が第一車両の右後部アンダースカート付近に衝突したというものであり、この間被告は、ウインカーを出した後ドアミラー等で後方を確認したものの衝突まで第二車両の存在に気付かなかつたこと、被告が右折のウインカーを出したのは、前示東行き車道の始まる約八メートル手前であり、右折開始直前には第一車両の車体右端から右側路側帯までに約一メートルの間隔があつたこと(いずれも甲二添付の交通事故現場見取図上の表示から関係距離を読み取つて認定)が、それぞれ認められる。

二  被告の過失の有無及び過失相殺

1  右のとおり、被告が右折のための減速を開始したころには、第二車両は後方約一〇メートルを時速約三〇キロメートルで追従していたのであるが、右認定の事実によれば、このような状況では、その後第二車両が右側に進路を変更した点については、被告の右折の合図の遅れや、第一車両の車体が本件道路の右端に充分寄つていなかつたことも一因となつていると評価することができる。

したがつて、このような場合被告は、自車の右折により第二車両の進路を塞がないか否かを充分確認してから右折を開始すべきであるのに、これを怠つたもので、本件事故の発生について過失があり、その免責の主張には理由がないといわなければならない。

2  一方原告にも、第一車両が充分本件道路の右端によつていなかつたとはいえ、本件T字路前で減速して右折ウインカーを出していたのにこれを注視せず、また第一車両の車体右端から右側路側帯までの間隔が約一メートルとかなり狭かつたにもかかわらず、これを追越が禁止されている交差点内で強引に追い越そうとした点で過失があるから、これらを総合すると、本件事故発生についての原告と被告の過失割合は、原告が六割、被告が四割と認めるのが相当である。

三  損害

1  通院慰謝料(請求四〇万円) 一五万円

原告が本件事故により頭部外傷、顔面・腰部擦過挫傷、右上肢挫創、頚部・右肩・左膝挫傷の傷害を負つたことは当事者間に争いがなく、甲五、甲六、乙二、原告本人によれば、原告は、その治療のため平成元年六月一五日から同月二六日まで海部中央病院に通院し(通院実日数一二日間)、同年一一月二二日症状固定し、この間同年六月一五日から同年七月八日まで勤務先を欠勤していることが認められるから、これらの事情によれば、原告の症状固定までの慰謝料としては右金額が相当と認められる。

2  後遺障害慰謝料(請求も同額) 五〇万円

本件事故の結果原告には、顔面右眼下に八×三ミリメートル、右肘に七×三ミリメートル、二〇×四ミリメートル及び一〇×四ミリメートルの各醜状障害が残つたことは当事者間に争いがない。そして、顔面の醜状は一〇円銅貨大以下ないし長さ三センチメートル以下の大きさであるから自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表一二級一四号の「女子の外貌に醜状を残すもの」には該当せず、肘部の醜状はいずれも手のひら大以下の大きさであるから同等級表一四級四号の「上肢の露出面に手のひらの大きさの醜いあとを残すもの」に該当しないものと考えるべきである。

しかしながら、甲九の一によれば、顔面の醜状障害は目につきやすい箇所にあり、その大きさ・外見からすると化粧や髪型を工夫しても完全に隠すのは困難であると推認される。したがつて、同醜状障害については、原告が未婚の女性であること(弁論の全趣旨により認定)も考慮すると、慰謝料の必要性を完全に否定するのは相当ではなく、その金額は五〇万円が相当と認められる。

3  車両修理代金(請求も同額) 一五万六三三三円

甲一、原告本人によれば右金額が認められる。

四  損害の填補

1  右各損害の合計額は七〇万六三三三円であり、そのほかに、原告が本件事故により治療費二一万四八二〇円、通院費一万七六二〇円、文書料一四〇〇円、休業損害六万六〇〇〇円の合計二九万九八四〇円の損害を被つたことは当事者間に争いがないから、結局本件事故による原告の総損害は合計一一〇万六一七三円となる。

2  そこで、これから前示過失割合にしたがつて六割を減ずると四四万二四六九円になるが、すでに原告が本件事故の損害につき自賠責保険から合計三九万三四四〇円の支払を受けていることは当事者間に争いがないから、これを控除すると残額は四万九〇二九円となる。

五  結論

以上の次第で、原告の請求は、被告に対し四万九〇二九円及びこれに対する本件事故の日である平成元年六月一五日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 夏目明德)

別紙 <省略>

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