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名古屋地方裁判所 平成2年(行ウ)11号 判決 1992年2月28日

名古屋市天白区中坪町33番地

原告

有限会社東海綜合企画

右代表者清算人

後藤良男

右訴訟代理人弁護士

竹下重人

名古屋市瑞穂区瑞穂町西藤塚1番地4

被告

昭和税務署長 手嶋英夫

右指定代理人

大圖玲子

山下純

谷口好旦

吉野満

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告の昭和56年3月1日から昭和57年2月28日まで,同年3月1日から昭和58年2月28日まで,同年3月1日から昭和59年2月29日まで,同年3月1日から昭和60年2月28日まで,同年3月1日から昭和61年2月28日まで,同年3月1日から昭和62年2月28日まで,及び同年3月1日から昭和63年2月29日までの各事業年度(以下それぞれ「57年2月期」,「58年2月期」,「59年2月期」,「60年2月期」,「61年2月期」,「62年2月期」及び「63年2月期」といい,合わせて「本件各係争年度」という。)の法人税につき昭和63年7月29日付でした重加算税賦課決定処分(ただし,59年2月期以外の各事業年度については,平成2年2月16日付の裁決により一部取り消された後のもの。以下「本件各処分」という。)をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は,原告に対し,本件各係争年度の法人税につき,昭和63年7月29日付で,別表(課税の経緯表)の1ないし7の各「重加算税賦課決定」欄記載のとおり本件各処分をした。

2  本件各処分に対して原告がした異議申立て及び審査請求並びにこれらに対する異議決定及び審査裁決の内容はそれぞれ別表の1ないし7の各該当欄記載のとおりである。

3  しかし,本件各処分は,いずれも違法であるので,その取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1,2の事実は認め,同3は争う。

三  被告の主張

1  原告は,本件各係争年度の法人税につき,別表の1ないし7の各「確定申告」欄記載のとおりの確定申告をした。

2  原告は,昭和63年7月11日,本件各事業年度の法人税につき,別表の1ないし7の各「修正申告(昭和63・7・11)」欄記載のとおりの各修正申告(以下「本件各修正申告」という。)をした。

3  本件各修正申告は,昭和63年6月27日に開始した原告に対する法人税調査(以下「本件調査」という。)の結果判明した不正経理につき,被告係官の勧奨を受けて行ったものであるから,修正申告書の提出が調査があったことにより法人税の更正があるべきことを予知してされたものでないとき(国税通則法65条5項参照)に当たらないことは明らかである。また,本件各修正申告の内容は,いずれも本件各係争年度の不正経理に関する別口金銭出納帳等のいわゆる裏帳簿のみに記載され,正規の帳簿書類には記載されていなかったのであるから,原告は,裏帳簿の作成,売上除外という典型的な不正行為を行い,法人税の課税標準等又は税額等の基礎となるべき事実の一部を隠ぺいしたものというべきである。

四  被告の主張に対する認否等

1  被告の主張1の事実は認める。

2  同2について,原告が被告主張の内容を記載した修正申告書(以下「本件各修正申告書」という。)に代表者印を押捺して被告に提出したことは認めるが,その余は否認する。

3  同3について,原告の取締役伊藤幸夫は,原告の経理担当者であるため,経理関係の帳簿書類を自分の自動車に積み込み,自宅に持ち帰って整理することとしていただけであって,帳簿書類を隠匿していたものではない。

五  原告の主張

1  本件修正申告書は被告係官が一方的に作成したもので,原告の代表取締役であった後藤良男(以下「原告代表者」という。)といわれるままにそれに記名押印をしただけであって,その内容の説明を受けておらず,これを理解してもいないのであるから,本件各修正申告書の提出は原告の意思に基づくものではない。

なお,原告代表者,伊藤幸夫及び原告の取締役であった片岡信夫(以下合わせて「後藤ら」という。)の作成名義の申立書,嘆願書及び返済計画書は,いずれも本件調査を担当した被告係官の発意に基づき,同係官が起案しそのまま書くことを要求した文面を浄書したにすぎないものであり,作成名義人の真意に基づくものではない。

2  本件各修正申告は,次のとおり,いずれも錯誤によってされたものである。

(一) 本件各修正申告は,本件各係争年度において,収入金額の計上漏れ(売上除外)があり,簿外収入から簿外経費を差し引いた金額(以下「本件簿外利益」という。)を後藤らに対して貸し付けていたとしてされたものである。

(二) しかしながら,原告における業務は後藤ら3名だけで執行されており,その業務負担が過重であるため,本件簿外利益の相当部分を役員報酬として支給していたものである。

右支給に係る金員(以下「本件金員」という。)が役員賞与でなく役員報酬であることは,定時に定額の支払がされていること,株主総会で決議された役員報酬の範囲内で支給していたことなどから明らかである。

(三) 被告係官は,本件調査の際,本件金員が定時に定額で支給されている事実を認めたにもかかわらず,原告に対し,本件金員の支出は簿外支出であるから役員報酬の支給として損金算入することはできず,役員賞与として損金不算入となる結果,原告に対しては源泉所得税の追徴,また,後藤らに対しては所得税の追徴がされることになる旨誤った見解を述べた上,本件金員を貸付金として申告すれば認定利息の利率を年5.5%にしてやる旨述べ,本件各修正申告をすることを強く勧奨した。そのため,原告代表者は,右の誤った見解による指導を信じ,被告係官の用意した本件各修正申告書に記名・押印したものである。

3  原告代表者の右の錯誤は,原告の課税所得の計算に重大な影響を及ぼすものであり,これを放置されることにより原告が被る不利益は極めて大きい。

4  本件においては,本件調査を担当し,原告代表者に対して誤った見解を述べ,かつ,事実と相違する課税処理を指導した被告係官が,自ら指導した内容を本件各修正申告書に記載し,何らの説明もしないで原告代表者に記名押印させてその提出を受けたのであるから,本件各修正申告書を提出する者と受理する者との間では錯誤の存在が明らかであったというべきである。また,このような場合には,修正申告の無効の主張を許しても,それ以外の法律関係を混乱させたり,第三者の利益を害する等のおそれはないのであるから,右主張は許されるべきである。

六  原告の主張に対する認否

1  原告の主張1の事実は否認する。

2  同2について,(一)の事実は認め,(二)及び(三)の事実は否認する。

3  同3の事実は否認する。

4  同4は争う。

七  原告の主張に対する被告の反論

1  後藤らは,不正経理について自認し,貸付けを受けた金員を原告に返済する旨等を記載した申立書,嘆願書及び返済計画書に署名押印して被告に対して提出しており,また,原告代表者は,関与税理士と共に被告税務署を訪れ,同税理士において本件各修正申告書の内容を確認した上,原告代表者が自ら代表者印を押捺し,同税理士も署名押印してこれを被告に提出したものであるから,本件各修正申告が原告代表者の意思に基づいてされたものであることは明らかである。

2  本件各修正申告に当たっては,次のとおり,原告主張のような誤った指導も錯誤も存在しない。

(一) 本件金員の交付は,後藤らが本件調査の段階において主張し,その旨の嘆願書を提出していたとおり,原告から後藤らに対する貸付けであり,被告係官の誤った指導は存在しない。

(二) 仮に,本件金員の交付が貸付けでなく給与の支給であるとしても,原告から後藤らに対しては正規の帳簿から毎月規則的に給与が支給され,それが確定した決算において承認されているのであるから,この定期の給与のほかに簿外から支給されている給与は臨時的給与すなわち役員賞与というべきであり,原告に錯誤はない。

3  仮に,本件金員が役員報酬であり,本件各修正申告に当たり原告に錯誤があったとしても,次の理由により原告が本件各修正申告が無効である旨の主張をすることは許されない。

(一) 原告主張の錯誤は本件各修正申告書の記載自体から明白に看取されるものではないし,本件金員が役員報酬であることが一見して客観的に明白であるとか誰の目にも明らかであるといえないことは,本件処分に係る裁決においてそれが役員賞与と認定されていることからも明らかである。

(二) 原告代表者は,申立書,嘆願書及び返済計画書を作成することによって本件各修正申告の内容を熟知し,それについて十分検討する機会もあり,申告の際には税理士も同道していたのであるから,錯誤の主張を許さないならば原告の利益を著しく害すると認められる特段の事情があるとはいえない。

第三証拠

証拠関係は,本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから,これらをここに引用する。

理由

一  請求原因1(本件各処分),同2(不服申立手続),被告の主張1(確定申告),及び同2(本件各修正申告)のうち原告が本件各修正申告書に代表者印を押捺して被告に提出したことは,当事者間に争いがない。

二  原告は,本件各修正申告書の提出は原告の意思に基づかないものである旨主張するので,まず,この点について検討するに,証拠(乙第1号証ないし第6号証,第8号証の1ないし4,証人石川滋樹,同伊藤幸夫,原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。

1  本件各修正申告書は本件金員が原告から後藤らに対する貸付金であるということを内容とするものであるが,このような貸付金経理がされたのは,本件調査後の昭和63年7月4日,石川滋樹上席国税調査官が,原告の経理担当者の伊藤幸夫と面会した際,本件金員を役員報酬として処理すると法人税のほかに源泉所得税も納付しなければならなくなって税負担が重くなることから,税負担を軽減する方策として貸付金経理をすることを提案し,これを聞いた伊藤がそのように処理することを懇請したためであった。そして,後藤らは,そのような貸付金経理を嘆願する内容の後藤ら3名作成名義の同日及び同月7日付の各嘆願書(乙第2号証及び第3号証)並びに本件金員についての後藤ら作成名義の同月8日付の各返済計画書(乙第4号証ないし第6号証)を作成して被告に提出した。右各書面の内容は石川調査官の下書きに基づくものであったが,後藤らはそれぞれ自らこれを浄書して署名押印した。

2  石川調査官が同月8日夕方頃原告の関与税理士の原田税理士に修正申告書の提出を勧める電話をしたところ,翌9日午前中に同税理士と原告代表者が被告税務署を訪れ,石川調査官が予め内容を記入していた本件各修正申告書にそれぞれ自ら押印した上,これを被告に提出した。なお,同調査官が本件各修正申告書の内容を予め記入していたのは,前日の電話の際,石川調査官と同税理士との間で同税理士に時間的余裕がないのでそのように同調査官の側で用意することを合意したためであった。また,原告代表者及び同税理士が本件各修正申告書に押印する際,同人らに対し,同調査官らは,修正結果を書いた一覧表を示し,本件各修正申告書の記載内容に関し,貸付金経理をして貸付金利を5.5%としたこと,旅費は嘆願書どおりの金額を認容してあること等の説明をした。

3  原告代表者は,本件各修正申告を行う以前にも,被告が原告に対して昭和54年8月及び56年10月に行った法人税調査の結果により判明した簿外利益の後藤らへの支給につき,貸付金経理をするなどしてそれぞれ53年2月期及び54年2月期並びに53年2月期ないし56年2月期ののべ6期分の修正申告を行っている。

以上の事実によれば,原告代表者は,修正申告がどのような法律効果を生じる行為であるかを十分認識した上で,原告の税負担を軽くするために本件金員につき貸付金経理をすることを意図し,その旨の内容が記入されている本件各修正申告書につき,関与税理士と共に石川調査官らから内容の説明を受けた上,自らこれに代表者印を押捺して被告に提出したのであるから,本件各修正申告は,原告の意思に基づき,任意にされたものというべきものであり,この点に関する原告の主張は到底採用できない。

三  次に,原告は,本件各修正申告は,本件金員が本来は役員報酬として損金に算入できるものであったにもかかわらず,被告係官の誤った指導により錯誤に陥ってされたものであるから無効である旨主張する。

1  被告は,まず,本件金員の交付は,原告から後藤らに対する貸付けである旨主張するところ,乙第2号証ないし第6号証には右主張に沿う記載があるが,これらが作成された経緯は前記二に認定したとおりであり,これによって被告の右主張事実を認めることはできず,他に右事実を認めるに足りる証拠はない。かえって,原告代表者尋問の結果によれば,本件金員は,貸付けられたものではなく,返済を予定しないで後藤らに支給されたものであると認められる。

2  そこで,次に,本件金員が役員報酬と役員賞与のいずれに該当するかについて検討する。

(一)  一般に,役員報酬が役員の通常の業務執行の対価であって事業経営上の経費から支給されるものであるのに対し,役員賞与は利益獲得の功労に対する賞あって利益金から与えられるものであり,それゆえに法人の所得の計算上,役員報酬は原則として損金に算入されるが,役員賞与については損金算入が認められていない(法人税法(以下「法」という。)34条1項,35条1項)。役員報酬と役員賞与は,本来右のような性質の違いによって区別されるべきものであるが,法34条2項は,役員報酬とは役員に対する給与のうち法35条4項に規定する賞与及び退職給与以外のものをいうと規定し,同項は,賞与とは,役員又は使用人に対する臨時的な給与のうち,他に定期の給与を受けていない者に対し継続して毎年所定の時期に定額(利益に一定の割合を乗ずる方法により算定されることとなっているものを除く。)を支給する旨の定めに基づいて支給されるもの及び退職給与以外のものをいうと規定し,臨時的な給与か否かによって役員報酬と役員賞与を区別している。これは,現実に役員に支給される給与が業務執行の対価か,それとも利益獲得の功労に対する賞かを判別することが必ずしも容易ではないため,本来役員賞与の性質を有する給与を役員報酬として支給して不当な損金算入が図られる場合があること,また,業務執行の対価である役員報酬が利益の有無ないし多寡に関わりなく定期的に支給されるべきものであるのに対し,利益処分である役員賞与は利益の多寡に応じて臨時的に支給されるのが通常であることなどから,法は,役員報酬と役員賞与の本来的な性質上の相違が前記のようなものであることを当然の前提としつつも,税務執行の便宜と租税負担の公平を図るため,臨時的な給与か否かというある意味で定型的な基準によって役員報酬と役員賞与を区別することとしたものと解することができる。したがって,役員に対する給与が役員報酬と役員賞与のいずれに該当するかの判断に当たっては,基本的にはその支給形態が臨時的なものか否かによってこれを決するべきものである。

もっとも,「臨時的な給与」の意義について法に格別の定義はなく,法35条4項が臨時的な給与のうち「他に定期の給与を受けていない者に対し継続して毎年所定の時期に定額(利益に一定の割合を乗ずる方法により算定されることとなっているものを除く。)を支給する旨の定めに基づいて支給されるもの」を役員賞与からわざわざ除外していることに照らすと,法は,「継続して毎年所定の時期に定額を支給する旨の定めに基づいて支給される給与」であっても「臨時的な給与」に含まれ得ることを前提にしているものと解されるのであるから,給与が定時に定額が支給されているからといって直ちに「臨時的な給与」でないということはできず,そのような定時に定額が支給される給与が「臨時的な給与」であるか否かは,結局は,前記の役員報酬と役員賞与の本来的な性質の違いを踏まえつつ,当該給与の支給の趣旨,形態等を他に支給されている定期的な給与のそれらと比べてみて,それが経常性のない例外的なものというべきであるかどうかによって判断されるべきものである。

(二)  これを本件についてみるに,証拠(甲第2号証,乙第9号証の1及び2,第10号証ないし第15号証)並びに弁論の全趣旨によれば,本件金員は,大体定時(毎月25日頃。ただし,年末には同額程度の金員が付加して支払われていた。)に定額(400,000円ないし500,000円程度)が支給されていたこと,本件金員とは別に原告から後藤らに定期的に支払われていた前記役員報酬は,毎月700,000円程度(ただし,57年2月期は650,000円,58年2月期は1,000,000円,63年2月期は800,000円程度)であること,昭和56年10月31日に開催された原告の社員総会で定められた原告の役員報酬額は1年当たり50,000,000円以内というものであり,定期的に支払われる前記役員報酬と本件金員を合計しても大体右の決議された役員報酬金額の範囲内にあることを認めることができる。

しかしながら,他方,証拠(甲第1号証,乙第1号証ないし第3号証,証人石川,同伊藤,原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば,原告から後藤らに対して毎月支給されていた役員報酬が原告の正規の帳簿に記載され,決算によって承認されていたものであるのに対し,本件金員は,正規の帳簿には全く記載されず,原告の決算上も現れないもので,いわゆる裏帳簿に記載された売上除外による本件簿外利益の中から秘密裡に支給されていたことを認めることができ,そうであるとすると,本件金員の支給は,たとえ定時に定額を支給するものであっても,そのほかに後藤らに対して定期的に定額が支給されていた役員報酬とは全く異なり,隠れた利益処分の趣旨で支給されていたものであり,支給形態も例外的で異常なものであったというべきである。

また,証拠(乙第8号証の1ないし4,証人石川,原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,昭和54年8月頃,被告による53年2月期及び54年2月期の2期分に係る法人税調査を受けて売上除外が判明した際,除外利益は後藤ら3名が費消したので役員賞与として源泉所得税の課税を受ける旨申し立て,そのように修正申告したこと,更に,昭和56年10月頃,原告が被告による54年2月期から56年2月期までの3期分に係る法人税調査を受け,売上除外による利益を簿外預金に留保してそれを後藤らに年4,5回不定期に,不定額を支給していたことが判明した際,被告係官から不定期の支給であるので役員報酬とは認められないといわれ,54年2月期及び55年2月期の分については役員賞与として取り扱い,56年2月期分については支給された金員を費消していないので後藤ら3名が原告に返済するということで貸付金経理を認めてほしい旨の申立書を被告に提出し,そのような内容の修正申告をしたことを認めることができ,右の事実によれば,原告は,右のような経験に照らし,定時,定額の支給にしておけば万一売上除外による簿外利益の分配が発覚しても役員報酬として取り扱ってもらえるものと考えて,本件各係争年度については本件金員を定時に,定額で支給することとしたものと認められる。すなわち,本件金員が毎月支給されるようになったのは,専ら秘密裡に行われる本件金員の支給が発覚したときに役員報酬として損金算入が認められるようにするためであり,本件金員の性質ないし支給の趣旨は,過去に売上除外による簿外利益から支給されていた金員と実質的に変わりはなかったというべきである。

(三)  以上のような本件金員の性質ないしその支給の趣旨と,その異常な支給形態を,他に原告から後藤らに対して定期的に支給されていた役員報酬と比べつつ総合勘案すると,本件金員は,それが毎月支給されるようになったからといって直ちに臨時的な給与でなくなったとはいえず,法35条4項に定める「臨時的な給与」に当たると解するのが相当である。そして,それは,他に定期の給与を受けていない者に対して支給されたものでも退職給与でもないことは明らかであるから,役員賞与にほかならないというべきである。

3  以上のとおり本件金員は役員賞与であって役員報酬ではないのであるから,これが役員報酬であることを前提として本件各修正申告が錯誤により無効であるとする原告の主張は,その余の点について判断するまでもなく,採用することができない。なお,本件金員の交付は貸付けではないのに貸付金経理がされているが,その経緯は前記二に認定したとおりであって,原告は十分に事情を了解して敢えて真実に反する処理をしたのであるから,その間に原告の錯誤を云々する余地はないというべきである。

四  さらに,原告は法人税の課税標準等又は税額等の基礎となるべき事実を隠ぺいしたことを争うが,前記認定のとおり,後藤らは,被告のした過去二度にわたる法人税調査により売上除外及びそれによる簿外利益の分配が判明して修正申告をしたことがあったにもかかわらず,更に本件各係争年度においても,あえて正規の帳簿のほかにいわゆる裏帳簿を作成して従前同様の売上除外を行い,本件簿外利益の中から本件金員を秘密裡に支給していたものであり,かつ,右の正規の帳簿のみに基づいて本件各係争年度の法人税の申告をしたのであるから,このような行為が法人税の課税標準又は税額等の計算の基礎となるべき事実の一部を隠ぺいし,又は仮装し,その隠ぺいし,又は仮装したところに基づき納税申告書を提出した行為に該当することは明らかであり,重加算税を課する要件(国税通則法68条1項)を充足するものである。

五  よって,本件各処分はいずれも適法というべきであるから,本件請求を棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民訴法89条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 瀬戸正義 裁判官 杉原則彦 裁判官 後藤博)

<以下省略>

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