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名古屋地方裁判所 平成2年(行ウ)14号 判決 1991年11月29日

原告

藪亀淳夫

右訴訟代理人弁護士

野呂汎

佐脇敦子

被告

千種税務署長

板倉道俊

右指定代理人

大圓玲子

外三名

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

原告の昭和六二年分所得税について、被告が昭和六三年七月二〇日付でした更正及び過少申告加算税賦課決定(ただし、昭和六三年一二月五日付の異議決定により一部取り消され、更に平成元年一一月一五日付の再更正及び過少申告加算税の賦課変更決定により一部減額された後のもの。以下、右更正を「本件更正」、右賦課決定を「本件決定」といい、両者を合わせて「本件課税処分」という。)を取り消す。

第二事案の概要

本件は、課税処分の取消訴訟において、①租税特別措置法(昭和六三年法律第四号による改正前のもの。以下「措置法」という。)三六条の二第一項による居住用財産の買換えの場合の長期譲渡所得の課税の特例(以下「買換特例」という。)の適用の有無、②本件決定手続の適法性が争われた事案である。

一争いのない事実等

1  本件課税処分の経緯、内容等

① 原告の昭和六二年分所得税の確定申告、本件課税処分、異議申立て、異議決定、審査請求、再更正及び変更決定並びに審査裁決の各年月日、税額等は、別表一記載のとおりである。

② 原告の昭和六二年分の課税総所得金額は、総所得金額九七六万〇二七八円(給与所得の金額)から所得控除額一八二万一二二一円を控除した七九三万九〇〇〇円(国税通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数は切捨て)であり、これに対する税額は一六〇万九二〇〇円である。

原告の同年分の分離課税の短期譲渡所得金額は、措置法三二条の規定(短期譲渡所得の課税の特例)を適用して、別表二記載のとおりマイナス一一四万九五〇二円となり、算出税額から控除すべき源泉徴収税額は一三〇万八三八七円である。

2  事実経過等

① 原告は、昭和三〇年一一月から昭和五〇年二月中旬ころまで、名古屋市所在の愛知用水公団(昭和四三年一〇月以降水資源開発公団に合併され、以後は水資源開発公団中部支社。以下「公団」ともいう。)に勤務し、右期間中は妻子と共に名古屋市内の公団宿舎に居住し、その後、昭和五五年一〇月末まで、岐阜県恵那市所在の水資源開発公団阿木川ダム調査所(昭和五一年一〇月一日以降は阿木川ダム建設所)に勤務し、右期間中は同市内の公団宿舎に妻子と共に居住し、昭和五五年一一月初めから昭和五六年一月末まで、東京都所在の水資源開発公団(昭和五五年一二月三一日まで)及び農林水産省本省(昭和五六年一月一日から)に勤務し、右期間中は妻子を恵那市の右公団宿舎に居住させたまま、自らは神奈川県川崎市内の公団宿舎に単身で居住していた。

② 原告は、同年二月一日に農林水産省を辞職し、同年三月から名古屋市所在の名工建設株式会社に入社し、取締役営業部長として勤務するようになり(<書証番号略>)、同月から昭和五七年四月下旬までの間は、妻子と共に名古屋市名東区所在の賃貸マンション(ハイライフメイコー三〇三号室)に居住していたが、同年三月二三日に同区高間町二六〇番地所在のスカイマンション三〇二号室(以下「スカイマンション」という。)を購入して、同年四月下旬、妻子と共に転居し、同月二五日、住民票を同所に移した。

③ 原告は、引き続き、スカイマンションから名工建設に通勤していたが、昭和六一年二月一七日、妻と共に、住民票をスカイマンションから別紙物件目録一1記載の土地(以下「本件土地」という。)及び同目録一2記載の建物(以下「本件家屋」といい、本件土地と合わせて「本件資産」という。)の所在地である西宮市分銅町三番一一号に移転したが、昭和六二年一月八日、住民票をスカイマンション所在地に戻した。

④ 原告は、昭和六一年九月、別紙物件目録二1記載の土地を購入し、昭和六二年四月、同所に同目録二2記載の建物を建築して、同月一八日から妻及び母と共にこれに居住し、現在に至っている(以下、右土地及び建物を「本件買換資産」という。)。

なお、スカイマンションについては、同年三月二一日、訴外斎藤牧との間で、代金二二四〇万円で売却する契約を締結し、同年四月三〇日に残代金の支払を受けた。

⑤ 本件資産は、昭和三一年ころ、原告の父藪亀義明が購入し、原告の両親が居住していたが、昭和四〇年九月二三日、義明が死亡したため原告が相続し、それ以降は、原告の母藪亀幸子が引き続き単身で居住していた。

原告は、昭和六一年八月二三日、訴外山本栄造との間で、本件資産を代金六九五〇万円で売却する契約を結び、昭和六二年一月八日、所有権移転登記手続をした。

二争点に関する当事者の主張

1  原告が所有していた本件資産が措置法三六条の二第一項の「当該個人がその居住の用に供している家屋」に該当しないとして、その売却につき、同項の規定による買換特例の適用はないとしたことの適否(争点1)。

(一) 原告

① 昭和六〇年一二月までの状況

原告は、勤務の都合上、前記一2のとおり各地を転勤していたが、いずれは、本件資産の所在地である西宮市に戻り、長男として母幸子の面倒を見るために本件資産を相続したものである。

公団を退職して再就職した際も、大阪支店への配属を希望したが、名古屋市所在の本社に配属となったために、名古屋市名東区の賃貸マンションに仮住いとして入居し、さらに、原告の二男恭明が当時大学浪人中であったため、静かな環境を得るためにスカイマンションを購入したもので、これも、勤務の都合がついて本件家屋に居住できるようになるまでの仮住いであった。

もともと、本件家屋に居住していた原告の母は、原告の扶養親族であり、原告が生活費一切の面倒をみてきたが、昭和五八年四、五月ころ、原告の妹藪亀京子が糖尿病悪化のため本件家屋において原告の母と同居するようになって以降、原告及び妻は、妹の看病と母の世話のため頻繁に本件家屋に寝泊りするようになった。

② 昭和六〇年一二月以降の状況

昭和六〇年一二月三〇日、妹京子が糖尿昏睡で倒れ入院してからは、原告の妻が本件家屋に住居を移し、妹の看病と母の世話に専念するようになった。原告も、週末には必ず本件家屋に寝泊りし、また、名工建設が兵庫県加古川西部地区の工事を受注した際は、一週間から一〇日間続けて本件家屋から加古川に通勤したこともあり、勤務先のある名古屋市に単身赴任しているのと同様の状態となった。

そこで、原告及び妻は、生活の本拠を本件家屋に移す決心をし、昭和六一年二月一七日、住民票を本件家屋の住所地に移転し、以後、昭和六二年一月まで、本件家屋を生活の本拠として利用した。

③ 本件資産の売却の経緯

右のとおり、原告らは、本件家屋を生活の本拠として利用していたが、本件土地が幹線道路の建設予定地となり、東へ二〇〇メートルの付近までは買収が終わっており、本件土地の買収も間近いと考えられたこと、妹京子の糖尿病治療の専門病院として名古屋市の国立名古屋病院の紹介を受けたこと、原告は週末は本件家屋に帰り、週日は単身赴任先の名古屋市へ赴くという生活を続けており、体力的にも経済的にも限界に来ていたこと、以上のような理由から、名古屋市に生活の本拠を移すことを決意し、本件資産を売却して本件買換資産を購入したものである。そして、昭和六二年一月から同年四月までの間、原告及び妻は、スカイマンションに住居を移したが、これは同年一月に本件資産を売却して買主に引き渡した後に、本件買換資産の建築期間中一時的に住居を移していたものであり、その後、同年四月から本件買換資産に原告、妻及び母が入居したのである。なお、母は足が不自由で、エレベーターのないスカイマンション(居室は三階にあった。)に居住することができなかったため、同年一月から四月までの間は、大分市在住の原告の妹川瀬俊江のもとに身を寄せていた。

④ 本件家屋が原告の居住の用に供している家屋に当たることについて

右のとおり、本件資産を譲渡した昭和六二年一月の時点において、原告自身、本件家屋を居住の用に供していたものである。仮に、原告が現に本件家屋を居住の用に供していたとはいえないとしても、本件家屋が措置法三六条の二第一項一号にいう「当該個人がその居住の用に供している家屋」に当たるか否かの判断に当たっては、社会通念上所有者と同居することが通常であると認められる配偶者その他の者の日常生活の状況、本件家屋への入居目的、本件家屋の構造及び設備の状況等を勘案すべきものである。そして、本件においては、右①及び②のような事情から、原告の母及び妹も社会通念上原告と同居することが通常であると認められる者というべきであり、そうすると、本件家屋には、原告の妻を始め、母及び妹が居住し、原告は勤務の都合上単身で名古屋市に赴任していたが、その事情が解消した後には本件家屋で配偶者等と起居を共にすることになっていたとみるべきであるから、本件家屋が、「当該個人がその居住の用に供している家屋」に当たることは明らかである。

⑤ スカイマンションとの関係について

租税特別措置法施行令(昭和六三年政令第七三号による改正前のもの。以下「施行令」という。)二四条の二第四項、二三条一項は「その者がその居住の用に供している家屋を二以上有する場合には、これらの家屋のうち、その者が主としてその居住の用に供していると認められる一の家屋に限るものとする」と定めているが、その判断に当たっては、その者すなわち家屋の所有者だけでなく配偶者等の家族の生活の状況全体を考慮すべきである。そして、本件家屋には、原告の妻、母及び妹が居住し、原告自身も週末や勤務先の都合のつくときは引き続いて一週間以上も本件家屋に寝泊りしていたこと、本件家屋は一戸建てで自由に増改築できたのに対し、スカイマンションは増築はできず、エレベーターがないため母の同居は考えられなかったこと、及び本件家屋は原告の父祖の地にあるのに対し、スカイマンションはたまたま原告の勤務地で購入した一時的な住居であること等の状況から、スカイマンションではなく本件家屋が「主としてその居住の用に供していると認められる」家屋であったというべきである。

(二) 被告

① 買換特例の適用対象となる譲渡資産については、措置法三六条の二第一項、施行令二四条の二第四項、二三条一項の規定するところであるが、そこにいう「その居住の用に供している家屋」とは、その者が生活の本拠として利用している家屋(一時的な利用を目的とする家屋を除く。)をいい、これに該当するかどうかは、その者及び配偶者等の日常生活の状況、その家屋への入居目的、その家屋の構造及び設備の状況その他の事情を総合勘案して判断されるべきである。

② 本件においては、原告が本件家屋に現に居住した事実はなく、また、原告の妻も、一時的に本件家屋に居住していたにすぎないのであって、原告及びその妻の生活の本拠は、いずれも本件家屋ではなくスカイマンションであったというべきである。

また、原告の扶養親族である母及び妹が本件家屋に居住していたとしても、原告自身は昭和四〇年九月二三日に相続により本件家屋を取得してからその譲渡までの間に一度も生活の本拠として居住したことがなく、他方、原告が生活の本拠として利用していたスカイマンションは当時原告の所有に係るものであったのであるから、本件家屋が措置法三六条の二第一項に規定する「その居住の用に供している家屋」に該当するものとして取り扱うことはできない。

③ なお、施行令二四条の二第四項、二三条一項は「その者がその居住の用に供している家屋を二以上有する場合には、これらの家屋のうち、その者が主としてその居住の用に供していると認められる一の家屋に限」り、買換特例の適用があるものとしているけれども、その適用に当たっては、「その者」自身の現実の居住の状況が最も重要なメルクマールであり、本件においては、原告が「主としてその居住の用に供している家屋」はスカイマンションであったというべきであるから、右規定の適用の有無を検討するまでもない。

2  本件決定は、原告に対する説明及び原告からの弁解の聴取という手続を欠き適性手続の要請に違反するか否か(争点2)。

(一) 原告

被告の職員は、原告が、昭和六二年分の所得税の確定申告をするに当たり、事前に「譲渡資産に関する明細書(兼譲渡所得計算明細書)」を提出して相談を求めたにもかかわらず、相談日の案内をせず、また、原告が自ら進んで申告に赴き都合三回相談をした際にも、何らの指摘もせず、その後、調査をした際にも何らの指摘もしなかった。

したがって、被告は、本件決定に当たって、必要な説明を尽くさず、原告の十分な弁解を聴かなかったもので、適正手続の要請に反して処分をしたものである。

(二) 被告

過少申告加算税の賦課決定処分に当たって、納税義務者に説明し、又はその弁解を聴取すべきであるとする法令の規定はなく、権限ある税務職員の合理的な裁量に委ねられているものであり、原告の主張はそれ自体失当である上、本件決定は、原告に対する質問検査をも含めた適法な調査を経た上でされたものである。

なお、納税相談の担当職員が原告に対して、本件資産の譲渡について買換特例の適用がある旨指導した事実はなく、原告は、自らの判断と責任において本件資産についてこれを適用して確定申告をしたものである。

第三争点に対する判断

一争点1について

1 措置法三六条の二は、居住用財産の買換特例について定めるものであり、その概要は、個人が、その年の一月一日において所有期間が一〇年を超える居住用家屋又は家屋及び土地(譲渡資産)を譲渡し、かつ、当該譲渡の日の属する年の前年一月一日から当該譲渡の日の属する年の翌年一二月三一日までの間に、当該個人の居住用家屋又は土地(買換資産)の取得(建設を含む。)をした場合において、当該譲渡の日の属する年の翌年一二月三一日までに買換資産を当該個人の居住の用に供し、又は供する見込であるときは、譲渡資産の収入金額が買換資産の取得金額を下回るときはその譲渡がなかったものとし、譲渡資産の収入金額が買換資産の取得金額を超えるときは譲渡資産のうちその超える金額に相当する部分について譲渡があったものとして、長期譲渡所得の課税を行うというものである。そして、同条一項各号において、このような特例を受ける譲渡資産の要件を定めているところ、同項一号の定める「当該個人がその居住の用に供するための家屋」(以下「居住用家屋」という。)とは、その者が生活の拠点として利用している家屋(一時的な利用を目的とする家屋を除く。)をいい、これに該当するかどうかは、その者及びその配偶者等の社会通念上その者と同居することが通常であると認められる者の日常生活の状況、その家屋への入居目的、その家屋の構造及び設備の状況その他の事情を総合勘案して判断すべきであり、専ら買換特例の適用を受ける目的で入居したと認められる家屋、居住の用に供するための家屋の新築期間中だけの仮住いである家屋その他一時的な目的で入居したと認められる家屋はこれに該当しないが、他方、転勤、転地療養等の事情のため配偶者等と離れ単身で他に起居している場合で、当該事情が解消したときは当該配偶者等と起居を共にすることとなると認められるときは、当該配偶者等が居住の用に供している家屋はその者にとっても居住用家屋に該当するものというべきである(措置法通達三五―二参照)。

なお、弁論の全趣旨によれば、課税実務においては、所有者本人が現実に生活の本拠として利用していない場合であっても、当該所有者が従来その所有者としてその居住の用に供していた家屋であること、当該所有者が当該家屋をその居住の用に供さなくなった日以後引き続きその扶養している親族(所得税法二条一項三四号に規定する扶養親族に限る。)の居住の用に供している家屋であること、当該所有者が、当該家屋をその居住の用に供さなくなった日以後において、既に居住用財産の譲渡所得の特別控除の特例の適用を受けていないこと、及び当該所有者が現にその生活の拠点として利用している家屋は当該所有者の所有する家屋でないことという要件をすべて満たす場合には、これを当該所有者にとって居住用家屋に該当するものとして取り扱うこととされていること(措置法通達三六の二―一六、同三五―三参照)、並びに、右の取扱いは、例えば、従来その扶養親族である両親等と一緒に住んでいた者が、両親等を従来の家屋に残して、妻子だけを連れて転勤し、転勤先においては社宅に居住しているというような場合、その扶養親族である両親の居住する家屋をその後譲渡したときに、右家屋が当該所有者の居住用家屋に当たらないとして買換特例の適用が受けられなくなるとすると、実情にそわない結果を生ずることから、このような事例を救済するための措置としてされているものであることが認められる。したがって、右のような課税実務を前提としても、所有者本人がかつて当該家屋を居住の用に供したことがない場合については、買換特例が適用される余地はないものというべきである。

2 そこで、本件家屋が原告の居住用家屋に該当するかどうかについて検討するに、前記第二の一2記載の事実及び証拠(<書証番号略>、証人藪亀京子、同藪亀昌子、原告本人)を総合すると、次のような事実を認めることができる。

① 本件資産には、昭和四〇年九月二三日に原告の父が亡くなって以来、原告の母幸子(明治三五年生)が一人で居住していたが、幸子は、原告の扶養親族であった。原告の妹京子(昭和七年生)は、前夫と離婚した後、その長男と二人で生活してきたが、昭和五八年五月、持病の糖尿病悪化のため、長男の大学入学を機に本件家屋において原告の母と同居するようになった。幸子は、高齢で足腰が不自由で血圧も高い状態であり、京子は、糖尿病のため視力が衰え、また、歩行も困難な状態であったので、原告の妻昌子が、月に二回程度(昭和六〇年六月ころは月に三、四回程度)、名古屋から本件家屋に手伝いに行き、日常生活の世話をしていた。その後、京子の持病は更に悪化し、昭和六〇年六月にはパートで勤めていた書店も辞め、昭和六一年一月一日からは、原告の扶養親族となった。

② 京子は、糖尿病悪化のため、昭和六〇年一二月三〇日から昭和六一年五月二八日まで入院してその治療を受けた。この間、昌子は、本件家屋に起居して、京子の看護及び幸子の日常生活の世話をするようになった。原告は、従来と同様、スカイマンションから名工建設に通勤していたが、週末等は頻繁に本件家屋に寝泊りするようになり、また、一週間あるいは一〇日間本件家屋に寝泊りして、そこから、受注工事の関係で兵庫県加古川市に通うこともあった。そして、京子が入院した直後ころには、名工建設の大阪支店に転勤できるよう、転勤の希望願いを出し、また、同年二月一七日、原告、昌子及び東京に下宿している二男の住民票を本件家屋の所在地に移転した。しかし、本件家屋には、原告らの家財道具等をスカイマンションから移転したことはなく、原告の妻の身の回りの品を運んだだけであった。また、原告の転勤の話も、具体的なものとはならなかった。

③ なお、京子は、退院後も、視力に障害があり、排尿や歩行が困難なため引き続き通院加療を受けており、昌子が本件家屋に泊り込んで、ほとんどの家事をしていた。

④ 原告は、昭和六一年四月二三日、野村不動産株式会社との間で、本件資産について、不動産一般媒介契約を締結してその売却の検討を始めた。

⑤ 原告は、同年七月ころ、京子に糖尿病の専門の治療を受けさせる必要があると判断し、原告の母幸子ともども名古屋に移らせて国立名古屋病院で治療を受けさせることを考えた。

そして、原告は、同年八月一四日、阪神地所との間で不動産一般媒介契約を締結し、同月二三日、その仲介で本件資産の売買契約を締結した。

⑥ 昭和六二年一月、本件家屋は買主に引き渡されたが、幸子は、エレベーターのないスカイマンションに住むことができなかったため、同年四月に本件買換資産が完成するまで、大分県の原告の妹のもとで生活し、昌子は同年一月以降、スカイマンションに戻った。そして、同年四月以降は、原告夫婦のほか幸子も本件買換資産に居住している。

⑦ 一方、京子は、同年一月、名古屋市名東区にマンションを借りて名古屋市内の会社に就職した長男と同居し、糖尿病の治療のため、国立名古屋病院に通院するようになった。

3  右認定の事実及び前記第二の一2の事実を前提として、本件家屋が原告の居住用家屋に当たるか否かについて判断するに、原告は、本件家屋を取得して以来、名古屋市、恵那市等所在の勤務先の宿舎に居住し、昭和五六年三月以降は、名古屋市内の建設会社に取締役営業部長として勤務し、自己の所有するスカイマンションに居住してそこから通勤していたものであり、他方、本件家屋には、原告の母が昭和四〇年以来単身で居住し、昭和五八年五月以降は、原告の妹もこれに同居し、昭和六二年一月にこれを売却したというのであるから、右売却当時の原告の生活の本拠は本件家屋ではなく、スカイマンションであったというべきである。

確かに、昭和六〇年一二月以降、原告の妻が本件家屋に起居して原告の扶養親族となっている母及び妹の看護や世話をし、原告自身も週末には頻繁に本件家屋に寝泊りし、昭和六一年二月には原告夫婦の住民票を本件家屋に移転し、また、原告が大阪支店への転勤の希望を出していたという事情はあるけれども、原告の妻は、原告の妹の糖尿病の悪化及び入院という事態を機に、母及び妹の世話をするために本件家屋に起居するようになったもので、原告ら夫婦の家財道具はスカイマンションに残してあったこと、また、原告の大阪支店への転勤は、原告の勤務先における地位や経歴からして必ずしも実現可能性の高いものではなかったと窺われること、さらに、原告は、昭和六一年四月二三日には、本件資産について不動産会社との間で不動産一般媒介契約を結び、本件資産の売却を検討していたこと、そして、同年八月には、本件資産について売買契約を結び、その後間もなく名古屋市に本件買換資産のうちの土地を購入していること等の客観的な事実に照らすと、前記事情の存在をもってしても、原告が本件家屋を生活の本拠としていたものではないとする前記認定を覆すには足りないというべきである。

したがって、本件家屋は、原告の居住用家屋ではなかったものと認めるのが相当である。

二争点2について

過少申告加算税(国税通則法六五条)は、申告納税制度において正確な申告の確保が必要であることに鑑み、期限内申告書が提出された場合において、修正申告又は更正がなされ、当初の申告税額が結果的に過少となったときは、その差額の一〇パーセントの金額が課されるものであり(同条一項)、過少申告加算税の計算の基礎となった事実のうちに、当初の税額の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合には、過少申告加算税の計算の基礎となる税額から、右の正当な理由があると認められる事実に基づく税金を控除して、過少申告加算税の金額が計算されることとされている(同条四項)。

ところで、過少申告加算税の賦課決定処分に当たって、納税義務者に対して説明をすべきこと又はその者から弁解を聴取すべきことを定めた法令の規定はないから、本件において、被告の職員が本件決定に先立って原告に説明をせず、また、原告の弁解を聴くことなく本件決定をしたとしても、そのことから、本件決定が違法になると解すべき理由はない(なお、証拠(<書証番号略>、原告本人)によれば、本件決定前に被告の係官が本件家屋の居住状況について原告から詳細に事情を聴いたという事実が認められる。)。

なお、本件において、国税通則法六五条四項にいう「正当な理由」が存するか否かについて判断するに、証拠(<書証番号略>、原告本人)によれば、原告は、昭和六一年一一月ないし一二月ころ、被告から譲渡資産に関する照会の書面を受け取り、これに対して「譲渡資産に関する明細書(兼譲渡所得計算明細書)」と題する書面を提出していたこと、確定申告に際し、三回ほど右税務署に相談に行き、買換特例の適用を受けるための申告手続に関しても説明を受けたこと、その際、被告の係官は買換特例の適用の有無については言及しなかったことが認められる。そして、右認定事実によれば、原告は、申告前に被告の係官から、買換特例の適用を受けるための申告手続について説明を受け、その後、自らの責任で申告したものと認めるのが相当であり、本件においては、過少申告加算税の計算の基礎となった事実のうちに、当初の税額の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認めることはできないというべきである。

第四結論

右のとおりであるから、本件資産の譲渡について買換特例の適用はないというべきであり、証拠(<書証番号略>)及び弁論の全趣旨によれば、原告の昭和六二年分の分離課税の長期譲渡所得金額は、別表三記載のとおりの計算により、六三二一万五五〇〇円となることが認められる。

そして、原告の昭和六二年分の課税総所得金額及び分離課税の短期譲渡所得金額は、前記第二の一1②のとおりであり、所得税法三三条三項及び施行令二〇条七項の規定により、課税短期譲渡所得金額は零円であり、課税長期譲渡所得金額は、六二〇六万五〇〇〇円(国税通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数は切捨て)となる。右課税長期譲渡所得金額に対する税額は、措置法三一条一項二号、施行令二〇条一項、所得税法(昭和六三年法律第一〇九号による改正前のもの。以下同じ。)八九条の規定により計算すると、別表四記載のとおり、一三九六万四五五〇円となる。

課税総所得金額に対する税額は、前記第二の一1②のとおり、一六〇万九二〇〇円であるから、算出税額はこれに分離課税の長期譲渡所得の税額一三九六万四五五〇円を加えた合計一五五七万三七五〇円となり、納付すべき税額は、算出税額から源泉徴収税額一三〇万八三八七円を控除した一四二六万五三〇〇円(国税通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数は切捨て)となる。

さらに、弁論の全趣旨によれば、右税額を前提として国税通則法六五条一項の規定により過少申告加算税額を計算すると、二〇五万五〇〇〇円となる。

したがって、右所得税額及び過少申告加算税額と同内容の本件課税処分はいずれも適法であるということができる。

(裁判長裁判官瀬戸正義 裁判官杉原則彦 裁判官後藤博)

別紙物件目録

一1 西宮市分銅町一一番の二

宅地 236.95平方メートル

2 西宮市分銅町一一番

家屋番号 同町二九番

木造瓦葺平屋建居宅

床面積 61.09平方メートル

二1 名古屋市名東区高針台一丁目五一一番

畑 二六四平方メートル

2 名古屋市名東区高針台一丁目五一一番地

家屋番号 五一一番

軽量鉄骨造陸屋根二階建居宅

床面積 一階 93.28平方メートル

二階 47.20平方メートル

別表一、二、三、四<省略>

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