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名古屋地方裁判所 平成2年(行ウ)18号 判決 1992年3月30日

原告

水谷五郎

被告

愛知県人事委員会

右代表者委員長

高須宏夫

右訴訟代理人弁護士

山田靖典

右訴訟復代理人弁護士

林克行

右指定代理人

志賀孝夫

外五名

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が平成二年三月二六日付けでした、原告の昭和六三年九月一日付け要求にかかる勤務条件に関する措置の要求のうち、要求事項(1)、(2)の中段及び後段並びに(3)の後段についてはいずれもこれを取り上げることができない、同(2)、(3)の各前段及び(4)についてはいずれもこれを認めることができないとの判定は、これを取り消す。

2  被告が平成二年三月二六日付けでした、原告の昭和六三年九月三〇日付け要求にかかる勤務条件に関する措置の要求のうち、要求事項(1)、(2)、(4)ないし(6)についてはいずれもこれを取り上げることができない、同(3)についてはこれを認めることができないとの判定は、これを取り消す。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和六三年四月一日から愛知県立旭野高等学校(以下「旭野高校」という。)に理科担当の教諭として勤務するものである。

2  原告は、被告に対し、地方公務員法(以下「地公法」という。)四六条に基づき、昭和六三年九月一日付けで、次の内容の措置要求をした。

(一) 要求事項(1)(以下「本件措置要求①」という。)について

(1) 内容

旭野高校長山北堯垤(以下「山北校長」という。)は、旭野高校職員が議決して意思表示できる職員会議を毎週開くこと。

(2) 右措置要求を求めた理由の要旨

旭野高校では、昭和六三年四月以降原告の知り得る限りでも二二名以上の生徒が家庭謹慎等の特別指導を受けたが、その指導に関する職員会議は一度も開かれなかった。生徒の特別指導をするためには、全教員が一堂に集まり、事実経過を聞き、全教員が意見を述べることのできる場をつくり審議の結果を表明できる職員会議が開かれるべきものである。すなわち、今日の公教育は学校を単位とした集団で生徒たちの学習権を実現するもので教育基本法一〇条一項により学校教師集団の教育権が保障されるべきものであるところ、生徒への特別指導の決定は全校的教育活動の一環であり教育条理上当然職員会議が決定機関であるべきだからである。

(二) 要求事項(2)(以下「本件措置要求②」という。)について

(1) 内容

山北校長は、時間外勤務をせざるを得ないオリエンテーション合宿をやめること、又、オリエンテーション合宿、修学旅行に際し、旭野高校生徒の用便をグループで行かせることは人権を無視した指導であり、このような指導をやめること、また、昭和六三年のオリエンテーション合宿で右のような指導が行われたことに関し参加生徒、教諭に陳謝すること。

(2) 右措置要求を求めた理由の要旨

旭野高校では、昭和六三年四月七日から九日まで、一年生を対象にオリエンテーション合宿が実施されたが、この合宿に参加した生徒は、一列縦隊、用便は、班全員で行く等の班行動が強要された。また、就寝点呼は午後一〇時と指示しておきながら教員に挨拶がない、室内の整頓がしていない等の細かい注意をして午後一二時近くまで指導という名目で寝させない場合もあった。しかも、教員に課せられる勤務は深夜まで及ぶ時間外勤務である。

(三) 要求事項(3)(以下「本件措置要求③」という。)について

(1) 内容

山北校長は、中学校訪問にかかる時間外勤務及び生徒の成績を公開することを直ちにやめること。

(2) 右措置要求を求めた理由の要旨

旭野高校では、教員数名ずつで一年生の出身中学校に出向き担任等と面接する中学校訪問を行っている。原告は昭和六三年五月二四日及び同月三〇日に中学校訪問を行ったが、それが終ったのはいずれも午後五時をはるかに越えていた。また、この訪問では、生徒の出身中学校での素行、家庭環境、成績等を収集する見返りとして、当該出身中学校の生徒の旭野高校での成績等を知らせることにしているが、これは生徒のプライバシーの侵害である。

(四) 要求事項(4)(以下「本件措置要求④」という。)について

(1) 内容

山北校長は、時間外勤務を強制する月曜日の生徒朝礼をやめること。

(2) 右措置要求を求めた理由の要旨

旭野高校では、昭和六三年四月から毎週月曜日に、午前八時二五分前から運動場等で全校生徒を対象とした朝礼を行っているが、同校教員の勤務時間の開始は午前八時三〇分である。定例行事を時間外に行わないようにするのは校長の職務である。

3  原告は、被告に対し、地公法四六条に基づき、昭和六三年九月三〇日付けで、次の内容の措置要求をした。

(一) 要求事項(1)(以下「本件措置要求⑤」という。)について

(1) 内容

愛知県教育委員会(以下「県教委」という。)は、旭野高校の勤務時間中の有料補習の実状を調査し、補習をやめさせること。

(2) 右措置要求を求めた理由の要旨

勤務時間にかかる補習は無料でするのが本来の正常な教育である。しかるに、旭野高校で行われている補習は職員が多大な補習料金を徴収している。しかも、その会計は一切公表されておらず、不明瞭かつ異常な勤務実態であり、公教育にあるまじき事態である。

(二) 要求事項(2)(以下「本件措置要求⑥」という。)について

(1) 内容

県教委は、旭野高校の理科Ⅰの地学、物理部門カットをやめさせ、正常に理科Ⅰを教えられる勤務条件にすること。

(2) 右措置要求を求めた理由の要旨

理科Ⅰでは物理、化学、生物、地学の各分野を学習すべきことは指導要領により明らかである。しかるに、旭野高校では大学受験科目に照準を合わせて、化学、生物分野のみを学習させるカリキュラム編成をしている。原告は、地学で就職試験を受け、二四年間地学の教育に専念していたにもかかわらず旭野高校に転任した昭和六三年四月以来、与えられた授業は専門外の化学と地学、物理のない理科Ⅰである。

右編成では、在学中に物理、地学分野を全く学習しない生徒が多数出ることになり、また、教員にとっても異常な勤務実態で生徒に及ぼす損害は計り知れない。

(三) 要求事項(3)(以下「本件措置要求⑦」という。)について

(1) 内容

山北校長は、旭野高校教諭に違法な勤務時間外での交通安全指導勤務を強制しないこと。

(2) 右措置要求を求めた理由の要旨

旭野高校では、一年間に三期、延べ二二日間の交通安全指導日が計画され違法な時間外勤務を要求される。原告は、昭和六三年四月二〇日午前八時一五分から同八時三五分まで旭前の交差点で右安全指導を行うよう命じられ、一旦は断ったものの、執拗な再度の命令により仕方なくこれを実行した。

(四) 要求事項(4)(以下「本件措置要求⑧」という。)について

(1) 内容

山北校長は、旭野高校保護者会の会場に理科実験準備室を使わせないこと。

(2) 右措置要求を求めた理由の要旨

旭野高校では、年間四回の保護者会が開催されるが、昭和六三年六月一〇日から七日間にわたって開催された保護者会は授業時間帯に開かれたため理科実験準備室が会場として使われた。右準備室は、理科教員が実験のために色々な薬品、器具等を授業の前に用意しなければならない重要な拠点であり、職務を果たす上でも、また、理科実験教育を進める上でも著しい障害となる。

(五) 要求事項(5)(以下「本件措置要求⑨」という。)について

(1) 内容

山北校長は、旭野高校教諭に研究授業を強制しないこと。

(2) 右措置要求を求めた理由の要旨

旭野高校では、全教員に研究授業が課されているが、原告が専門とする地学、物理部門が同校の理科Ⅰの内容から外されている等の理由から、今回は見送りたいと思い断ったところ、執拗なる命令でその期日が指定された。教育公務員特例法一九条、二〇条によれば、教員の研究と修養は、教員たる資格を具備するための必要不可欠の要件ではあるが、その自由と自主性は尊重させるべきであるから、研究授業は本人の意思に反して強制されることではない。

(六) 要求事項(6)(以下「本件措置要求⑩」という。)について

(1) 内容

山北校長は、旭野高校生徒に業者テストを正規授業中に受けさせることをやめるか、教員に業者テストの監督業務を命じないこと。

(2) 右措置要求を求めた理由の要旨

旭野高校では、昭和六三年八月二六日の一、二年生の出校日の授業時間中に業者テストを全員に実施した。業者テストは、昭和五一年九月七日文部省の各都道府県教育委員会あての通達「学校における業者テストの取扱い等について」によって望ましくないとされており、生徒の学習の評価は旭野高校の教師自身により適切に行いたいものであり、これが正常な学校である。原告は右業者テストの監督を命じられたため、不本意ではあったがこれを実行した。

4  被告は、平成二年三月二六日付けで、本件措置要求①、②の中段及び後段並びに③の後段についてはいずれもこれを取り上げることができない、同②、③の各前段及び④についてはいずれもこれを認めることができない旨の判定(以下「本件(一)判定」という。)をした。

被告は、平成二年三月二六日付けで、本件措置要求⑤、⑥、⑧ないし⑩についてはいずれもこれを取り上げることができない、同⑦についてはこれを認めることができない旨の判定(以下「本件(二)判定」という。)をした。

5  しかし、本件(一)(二)判定のうち、本件措置要求を取り上げなかった部分は地公法四六条の解釈を誤った違法が、本件措置要求を認めなかった部分は山北校長の一方的な供述を信用して事実誤認し、審理不尽のもとで判定を行った違法がそれぞれある。

6  よって、原告は被告に対し、本件(一)(二)判定の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1ないし4の事実はいずれも認める。

三  被告の主張

1  地公法四六条の勤務条件

地公法で定める措置要求制度は、同法が職員に対して労働組合法の適用を排除するなど、その労働基本権を制限したことの代償措置として設けられた制度である。すなわち、地方公務員の勤務条件は議会の議決による条例で決定されることを基本としながら、一つには職員団体との交渉によって職員の意見を十分に聞くこととし、いま一つには勤務条件に関する措置要求制度を設けることによって、その経済条件の安定と保障を図っている。したがって、地公法四六条でいう「勤務条件」は、同法五五条でいう団体交渉の対象となる「勤務条件」と同義で、労働関係法令にいう「労働条件」と同旨のものと考えられ、具体的には、職員の労働組合の団体交渉事項として規定されている地方公営企業労働関係法(以下「地公労法」という。)七条各号掲記の事項が「勤労条件」に相当するものと考えられる。そして、職員団体は構成員の経済的利益の維持改善を目的として組織される団体であることから、その交渉事項は当該目的に沿ったものに限られるべきであり、措置要求においても右と同様に、その対象となる勤務条件は、職員の経済的利益の維持改善に関する事項に限られるものと解すべきである。

更に、地公法五五条三項及び地公労法七条ただし書によれば、管理及び運営に関する事項(以下「管理運営事項」という。)は交渉の対象とすることができないと規定されており、前記措置要求制度の趣旨からすれば、このことは措置要求制度においても同様であり、その対象とならないものである。すなわち、管理運営事項とは、一般的には地方公共団体の機関が、その職務権限として行う地方公共団体の事務の処理に関する事項であって、法令、条例、規則その他の規程及び議会の議決に基づき、自らの判断と責任において処理すべき事項であるから、管理運営事項についての最終的な判断は、権限ある機関が自ら行うべきものであり、他の機関の指示や勧告等によって影響を受けるべきではないので、管理運営事項は措置要求の対象とはならないものである。なお、管理運営事項と密接に関連する事項が勤務条件である場合においても、その勤務条件のみが措置要求の対象となるのであって、管理運営事項自体が措置要求の対象となることはない。

2  県教委及び校長の管理運営事項について

地方教育行政の組織及び運営に関する法律(以下「地方教育行政法」という。)三三条には、施設、設備、組織編成、教育課程、教材の取扱、その他の管理運営の基本的事項については、教育委員会規則の定めによるものとされ、県教委は、同法の規定に基づき、愛知県立学校管理規則(以下「管理規則」という。)を定めた。

管理規則では、管理運営の基本的事項のうち、教育課程の編成、学校行事の企画及び実施、所属職員の現職教育に関する計画、学校の施設及び設備の管理等が校長の権限に属するものと定めた。また、これらの基本的事項の他に一般に広く学校の管理運営上に必要な事項は、校務として定められている。すなわち、校長は校務をつかさどり(学校教育法五一条、二八条三項)、校務分掌に関する組織を定め、所属職員に分掌を命じ、校務を処理することとされており(管理規則一三条一項)、校務の内容については愛知県立学校処務規程(以下「処務規程」という。)四条に列記されていることから、これら学校の管理運営上に必要な事項も校長の権限に属するものとされている。

そして、本件判定でいう「校長の権限と責任において決定すべき事項」とは原告の要求事項が管理運営事項に当たるものであることを述べたものである。

3  本件(一)判定について

(一) 本件措置要求①、②の中段、後段及び③の後段

本件措置要求①の職員会議を毎週開くことは処理規程四条一項の教務部の二四号に規定された職員会議に関することであり、同②中段のオリエンテーション合宿及び修学旅行に際し生徒の用便をグループで行かせるような指導をやめることは管理規則四条一項及び処務規程四条一項の教務部の二〇号に規定された修学旅行その他の学校行事に関することであり、いずれも学校の運営上及び生徒の指導上、教育機関の責任者として高度の専門的知識を有する校長の権限に委ねられている事項で、いずれも管理運営事項に該当する。

本件措置要求②後段の校長が参加生徒、教諭に陳謝すること並びに同③後段の生徒の成績を公開することをやめることは、いずれも職員の経済的利益の維持改善に関する事項ではない。

したがって、これらの要求はいずれも措置要求の対象とならないから、被告はこれを取り上げることができない旨の判定をしたものである。

(二) 本件措置要求②の前段

原告は、時間外勤務をせざるを得ないオリエンテーション合宿をやめるよう求めているが、本件合宿は一年生を対象に愛知青少年公園において一泊二日の日程で行われたもので、入学後の一時期に行われた一時的な学校行事である。

義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置条例(以下「給特条例」という。)七条二項によれば、臨時の学校行事に関する業務に従事する場合には時間外勤務を命ずることができると規定されているが、本件合宿は一時的、臨時の学校行事であるので、当該時間外勤務は、右規定に基づき適正に行われたものである。

したがって、原告の要求は理由がないので、被告はこれを認めることができない旨の判定をしたものである。

(三) 本件措置要求③の前段

原告は、昭和六三年五月二四日及び三〇日に、一年生の出身中学校を訪問した際、勤務が時間外に及んだとの事実を挙げ、中学校訪問にかかる時間外勤務をやめるよう求めているが、右両日の訪問はいずれも勤務時間内に終了しており、勤務が時間外に及んだとの事実はない。

したがって、原告の要求は理由がないので、被告はこれを認めることができない旨の判定をしたものである。

(四) 本件措置要求④

原告は、月曜日に行われる生徒朝礼が勤務時間開始前から始まるとして、このような時間外勤務を強制する月曜日の生徒朝礼の廃止を求めているが、平成元年度の旭野高校の月曜日の勤務時間は八時二五分に始まるよう割り振られ、生徒朝礼は勤務開始後の八時三〇分から始まることとされている。

したがって、原告の要求は理由がないので、被告はこれを認めることができない旨の判定をしたものである。

4  本件(二)判定について

(一) 本件措置要求⑤、⑥、⑧ないし⑩

本件措置要求⑤の勤務時間中の補習授業に関することは地方教育行政法二三条五号及び処務規程四条一項の教務部の一二号に規定された生徒の学習指導に関することであり、同⑥の理科Ⅰの地学及び物理部門を教えるようにすることは地方教育行政法二三条五号及び管理規則二条並びに処務規程四条一項の教務部の一号に規定された教育課程に関することであり、同⑧の保護者会の会場に理科準備室を使わせないことは地方教育行政法二三条七号及び管理規則二〇ないし二四条並びに処務規程四条一項の教務部の六号に規定された学校の施設管理に関することであり、同⑨の研究授業に関することは地方公務員特例法一九条、二〇条及び地方教育行政法二三条八号並びに管理規則一五条、処務規程四条の教務部の一〇号に規定された教員の研修に関することであり、同⑩の生徒に業者テストを正規授業中に受けさせることをやめるか、教員に業者テストの監督業務を命じないことは右⑤、⑥で述べた生徒の学習指導及び教育課程に関することであって、いずれも校長の権限と責任において決定すべき事項である。

したがって、これらの要求は管理運営事項に関するものとして措置要求の対象とならないから、被告はこれを取り上げることができない旨の判定をしたものである。

(二) 本件措置要求⑦

原告は、違法な勤務時間外での交通安全指導業務を強制しないことを求めているが、原告は昭和六三年四月二〇日午前八時一五分から登校時における交通安全指導を行っているものの、この日の原告の勤務時間の割り振りは勤務の開始及び終了の時間がそれぞれ一五分ずつ早められており、本件交通安全指導業務は勤務時間内に行われている。

したがって、原告の要求は理由がないので、被告はこれを認めることができない旨の判定をしたものである。

四  被告の主張に対する反論

1  被告は、職員の経済的利益の維持改善に関する事項でないもの及び管理運営事項は措置要求の対象とならないと主張するが、右主張は失当である。

(一) 「経済的利益の維持改善に関する事項」という概念自体相対的なものであり、また、措置要求の対象を右事項に限定する根拠はなく独善的な主張である。

(二) 管理運営事項は、民間でいう経営生産事項にあたるものといわれているが、経営生産事項が労働条件に影響を及ぼす場合には当然団体交渉の対象となるとされている。この理は管理運営事項でも同じであり、したがって、管理運営事項であっても、それが勤務条件に関する事項である場合あるいは勤務条件に影響を及ぼすと認められる場合には措置要求の対象となるというべきである。

(三) 被告は、校長の権限と責任において決すべき事項は管理運営事項として措置要求の対象とならないと主張するが、校長の権限と責任において決すべき事項であることは、かえって、措置要求の対象であることを根拠づけるものである。すなわち、地公法四六条でいう勤務条件は同法五五条一項の勤務条件と同義といわれているが、校長はその権限と責任において決すべき事項については、同項にいう「地方公共団体の当局」として団体交渉の当事者能力を有するものである。したがって、校長がその権限と責任において決すべき勤務条件につき、地公法四六条に基づいて、被告に対し、地方公共団体の当局である校長により適当な措置が執られるべきことを要求することができるのは当然の理である。換言すれば、被告が総合的な人事行政機関であること及び地公法八条に定める被告の権限から考えると、校長が被告に対し、管理運営事項であることを理由としてその介入を阻止、排除する根拠はないのであって、被告は校長の管理運営事項であったとしても、右のような場合には勤務条件に関する措置として適当な措置が執られるべきことを要求することができるものといわなければならない。地公法五五条三項は、管理運営事項は地方公共団体の専権に属するものとして被用者の団体たる職員組合との団体交渉事項とならないと定めているだけであって、被告の権限行使を制約する根拠とはならない。

2  本件(一)判定について

(一) 本件措置要求①、②の中段、後段及び③の後段は、いずれも原告の勤務条件にかかわるもので、被告主張のように不適法として取り上げないとされるべき性質のものではないから、右に関する判定は違法なものである。

(二) 本件措置要求②の前段

旭野高校で昭和六三年に実施されたオリエンテーション合宿は、参加生徒が五六八名いるにもかかわらず付添い教員は二五名(所定の人数は二九名いなければならない。)であるため、その労働強化はすさまじく、中には常識で考えられない二四時間勤務をせざるを得ない教員が六名おり、特別保護を受けている筈の女子教員にも容赦なく午後一〇時を超えた就寝点呼養護教諭には深夜生徒看護勤務等を命じている。

山北校長は勤務時間等につき労働基準法(以下「労基法」という。)に触れない勤務をさせるべきであるのに、向上の努力どころか労基法以下の勤務をさせたものである。

したがって、被告は、職権でこの酷すぎるオリエンテーション合宿を直ちに中止させるべきであるのにこれを認めなかった本件判定は違法なものである。

(三) 本件措置要求③の前段

旭野高校の昭和六三年五月二四日及び三〇日の勤務終了時刻(拘束勤務時刻)はいずれも午後四時一五分で、原告の中学校訪問は右時間内に終了していない。また、山北校長が中学校訪問を午後五時まで計画していたこと自体、教員の勤務時間に関する休憩、休息時間の認識が欠如していることをしめしているのみならず、給特条例七条によれば時間外勤務が命ぜられる業務の中に中学校訪問は含まれていない。

したがって、被告は、職権で中学校訪問にかかる時間外勤務を直ちにやめさせるべきであるのに、これを認めなかった本件判定は違法なものである。

(四) 本件措置要求④

旭野高校の生徒朝礼の始業は午前八時二五分であるが、教員の生徒集団に対する指導すなわち勤務は右時刻前から始まっており、それが現在も継続している。

したがって、被告は、職権で時間外勤務を強制する月曜日の生徒朝礼をやめさせるべきであるのに、これを認めなかった本件判定は違法なものである。

3  本件(二)判定について

(一) 本件措置要求⑤、⑥、⑧ないし⑩は、いずれも原告の勤務条件にかかわるもので、被告主張ように不適法として取り上げないとされるべき性質のものではないから、右に関する判定は違法なものである。

(二) 本件措置要求⑦

学校職員の勤務時間等に関する規則三条、六条によれば、勤務時間の割り振りとその周知については校長の権限と責任であるところ、昭和四六年一二月二五日に愛知県公立高等学校長協会と愛知県高等学校教職員組合との間に締結された書面協定では「各学校の勤務時間の割り振り及び変更については職員会議にはかる。臨時もしくは緊急に変更の必要が生じた場合には、できるかぎり関係職員の意向をきく」とされながら、山北校長は、被告主張の割り振り変更につき職員会議の議を経ず(地公法五五条一〇項違反)、また、右割り振り変更に伴う教員の休憩時間が一斉に与えられなかった(労基法三四条二項違反)ものであるから、原告の昭和六三年四月二〇日の右勤務時間の割り振り変更は違法であり、それを前提とする被告の主張は失当である。

したがって、被告は、職権で違法な時間外での交通安全指導業務を強制させないようにすべきであるのに、これを認めなかった本件判定は違法なものである。

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因1ないし4の事実は当事者間に争いがない。

二地公法四六条にいう勤務条件の一般的意義について、まず検討する。

1  憲法二八条は、同法二五条に定めるいわゆる生存権の保障を基本理念とし、勤労者に対して人たるに値する生存を保障すべきものとする見地に立ち、経済上劣位に立つ勤労者に対して実質的な自由と平等とを確保するための手段として団結権、団体交渉権及び争議権の労働三権を保障した規定であるが一般職に属する地方公務員すなわち職員については、地公法五五条二項及び三七条により労組法の適用が排除され、団体協約締結権及び争議権が否定されている。地公法四六条の趣旨は、右のとおり、労働基本権を一部制限したことに対応して、職員の勤労条件の適正を確保するため、議会の議決による条例で定めることを基礎としつつ(同法二四条六項)、職員団体との交渉によって職員の意見を十分に聴くこととしてこれを補完する(同法五五条)とともに、職員の勤務条件につき人事委員会等の適法な判定を要求し得べきことを職員の権利ないし法的利益として認めることにより、その保障を強化しているものである。すなわち、人事委員会等に対する措置要求の制度は、職員の労働基本権制限の代償として設けられたものである。

したがって、地公法四六条にいう勤務条件とは、右制度趣旨に鑑み、職員が地方公共団体に対して自己の勤務を提供し、またはその提供を継続するか否かの決心をするに当たり、一般的に当然考慮の対象となるべき利害関係事項を意味するものであり、給与、勤務時間、休暇等職員がその勤務を提供するに際しての諸条件のほか、宿舎、福利厚生に関する事項等勤務の提供に関連した待遇の一切を含むものということができる。

2  ところで、被告は、地公法五五条三項にいう「地方公共団体の事務の管理及び運営に関する事項」(いわゆる管理運営事項)は措置要求の対象から除かれると主張する。

同項は、地方公共団体の当局と職員団体との交渉において、管理運営事項は交渉の対象とすることができないと規定するが、右規定は、管理運営事項は法令に基づき権限を有する地方公共団体の機関が自らの責任で処理すべきものであり、これを私的利益のための団体である職員団体と交渉して決めるようなことがあれば、法治主義に基づく行政の本質に反するとの趣旨から出たものと解される。他方、人事委員会等は、給与、勤務時間その他の勤務条件、福利厚生制度その他職員に関する制度について研究を行い、その成果を地方公共団体の議会等に提出すること(地公法八条一項二号)、職員に関する条例の制定等に関し地方公共団体の議会等に意見を申し出ること(同三号)、人事行政の運営に関し任命権者に勧告すること(同四号)等の権限を有するものであり、人事委員会等は、措置の要求があったときはその判定の結果に基づいて当該事項に関し権限を有する地方公共団体の機関に対し必要な勧告をするものとされている(同法四七条)のであるから、人事委員会等が関与する地公法四六条の措置の要求においては、同法五五条三項にいう管理運営事項であるからといって、その一事により一切対象事項とすることができないと解する必然性はなく、管理運営事項に該当する場合であっても、同時に職員の勤務条件に関する事項として措置要求の対象とすることができる場合があると解すべきである。

3  この点につき更に考察するに、一般の労働者の場合、従事する労務の内容そのものが労働条件に当たると考えて特に問題はないが、地方公務員が職務に従事する場合、その職務は地方公共団体の事務の執行としての性格を有すると同時に、当該公務員にとっては勤務条件としての側面を有するという関係にあり、この二つの側面をどのように調和させるかが問題である。すなわち、地方公共団体の事務の執行は法令に基づいて管理運営されるべきものであるところ、この面のみを強調し得ないことは前記のとおりであるが、他方、広く事務執行のあり方自体を当該公務員にとっての勤務条件として捉え、これを措置要求の対象とすることも、法令に基づく権限と責任を有する機関の行為につき、人事委員会等が無限定的に干渉する道を開くことになるから相当でなく、この観点からみて、地公法四六条にいう勤務条件は、同条が例示するところの給与、勤務時間のほか、勤務環境、休暇等を含む広い意味での職員の待遇に関する事項に限られると解すべきである。そして、この意味での勤務条件に関するものである以上、それが管理運営事項を直接問題にするものであっても措置要求の対象とすることを妨げないと解される。

三そこで、本件(一)判定の当否について判断する。

1  本件措置要求①について

校長は、学校運営について最終的な意思決定を行い、その責任を負うもの(学校教育法五一条、二八条三項)である。ただ、学校運営の実際において校長が意思決定をするに当たって、事項によっては教職員の意思を徴しそれを参考にした方がより適切な場合もあり、また、学校運営を教職員全員の協力のもとに行うためには、教育方針や行事内容について周知徹底を図ったり、情報や意見を交換することが必要な場合もあり、職員会議は、このような観点から学校に設けられた内部的機関であって、校長の校務を補助するためのものである。したがって、校務遂行等に当たって職員会議を開くかどうかはその回数を含めて専ら校長の判断に委ねられている。

ところで、本件措置要求①は、原告が右要求を求めた理由によれば、生徒の家庭謹慎等の特別指導につき職員会議がその決定をすべきであるとして、その開催を求めているが、それは職員会議のあり方についての批判であって、職員会議が判示のような性格である以上、右要求は原告自身の勤務条件に関する措置を求めたものということはできず、これを取り上げることができないとした本件判定に違法はない。

2  本件措置要求②前段について

(一)<書証番号略>、<証人山北堯垤の>証言、原告本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。

(1) 旭野高校では、毎年度新入学一年生を対象に、新入生オリエンテーション合宿を実施しており、その合宿の目的は新入生の学校生活への適応を図るため集団生活を通じて、教師と生徒間及び生徒相互間の融和を深め、協力する心、連帯感を養うことにより、高校生に必要な基本的生活習慣を身につけさせることにあった。

(2) 昭和六三年度においても、同年四月七日(木)から同月九日(土)にかけて、右オリエンテーション合宿が一泊二日の日程で愛知青少年公園で実施された。

右合宿には新一年生五六八名(二班に分散)、引率教員として校長、教頭、生徒指導主事、一年担当の主任、ホームルーム担任、補助担任、養護教諭の合計二五名が参加した。

原告が参加した先発班の引率教員の日程は、四月七日が午前八時三〇分勤務開始、午後一〇時勤務終了、同月八日が午前六時三〇分勤務開始、帰校後午後五時勤務終了の予定であった。なお、四月七日の午後九時四〇分から同一〇時までは、合宿先において、引率教員による生徒の就寝点呼が予定され、点呼の内容として、入退室時の挨拶、人員点呼、室内の整理整頓、スリッパの整理、シーツの敷き方等の九項目の指導が予定されていた。

(3) 山北校長は、右オリエンテーション合宿に先立つ昭和六三年四月三日に、近藤謙二教頭を通じて、引率職員との打ち合わせの際、時間外勤務についての回復措置の話をした。そして、実際にも同月一一日(月)に参加職員の一名について回復措置がとられた。

以上の事実が認められる。

(二)  原告は、オリエンテーション合宿における自らの役割・仕事について、平成元年三月二八日に行われた被告職員の事情聴取に対し、「オリエンテーション合宿が円滑にいくような潤活油的な仕事をしたこと、原告は生徒の就寝点呼をしたが、点呼の内容が多岐にわたるため午後一二時近くまでかかった」旨供述(<書証番号略>)し、また、本人尋問において「すべては覚えてはいないが、細かい仕事の内容は職員必携(<書証番号略>)のとおりで、特に記憶しているのは夜一〇時以降生徒が寝るときの指導というのが一番焼き付いている」旨供述している。

原告の右供述によれば、原告は予定された日程に比し、就寝点呼にかなりの時間を要したことになるが、点呼の内容に批判的な立場にあった原告が右に供述するような時間を要したとするには疑問があり、点呼の開始時刻が遅れたとする証拠もないから、就寝点呼は予定時刻ないしはそれに近い時刻に終えたとみるのが相当である。そして、本件オリエンテーション合宿は給特条例七条二項に規定する学校行事に該当(<書証番号略>参照)し、かつ、正規の勤務時間のみでは、その目的を達成することが困難な一時的業務であって、時間外勤務を命じることは同項の「臨時の必要があるとき」に該当するというべきであり、また、校長において、時間外勤務にかかわる回復措置についての説明も事前にしていることからみて、本件措置要求②前段の要求を認めなかった本件判定には裁量権を逸脱した違法はない。なお、原告は、オリエンテーション合宿に参加した他教職員の勤務時間が労基法以下の劣悪な勤務条件であることも右措置要求を求めた理由として挙げるが、措置要求の制度は要求者の個別的具体的な勤務条件の改善等を目的とするものであるから、原告の右主張は採用できない。

3  本件措置要求②の中段及び後段について

本件措置要求②の中段の要求は、学校行事であるオリエンテーション合宿における校長の教育指導に対する批判に基づくものであって、原告自身の待遇に関する問題ではなく、また、同後段の要求は、そもそも求める要求自体から原告の勤務条件に関するものでないことは明らかであるから、これらをいずれも取り上げることができないとした本件判定に違法はない。

4  本件措置要求③の前段について

(一)  <書証番号略>、<証人山北堯垤の>証言及び原告本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。

(1) 旭野高校では、生徒の出身中学校との連携を深めるとともに相互の学校における進路指導、生徒指導等の参考にするため新一年生担当教員が中心となって毎年五月中に出身中学校を訪問し、同校教員との懇談、情報交換を行っていた。昭和六〇年度も、同年五月一六日(月)から同月三〇日(月)までの間に、出身中学校二〇校について一校当たり三ないし五名の教員で右中学校訪問を実施した。

(2) 原告は、昭和六三年五月二四日(火)に名古屋市立森孝中学校を秦成男教諭ら三名と訪問した。当日は午後三時三〇分ころ旭野高校を出発し、同三時四〇分ころ右中学校に到着し、同四時三〇分ころ所期の目的を達して現地で解散した。また、原告は、同月三〇日(月)に尾張旭市立西中学校を加藤幸良教諭ら四名と訪問した。同日も午後三時三〇分ころ旭野高校を出発し、同三時四〇分ころ右中学校に到着し、同五時少し前に所期の目的を達して現地で解散した。

(3) 旭野高校の昭和六三年ころの教職員の勤務時間割り振りは、午前八時三〇分から午後〇時三五分までは勤務時間、午後〇時三五分から同〇時五〇分までは休憩時間、同〇時五〇分から同四時一五分までは勤務時間、同四時一五分から同四時四五分までは休憩時間、同四時四五分から同五時までは休息時間とされ(月、火、水、金)、教員は午後四時一五分以降は校外自主研修の名目で退勤できる運用がされていた。

以上の事実が認められる。

(二) 教職員の勤務時間については、その職務の特殊性から、校長がその割り振りを定めているが、右認定事実によれば、確かに旭野高校では午後四時一五分以降は教員の退勤が認められているものの、それはあくまでも事実上の運用であって正規の勤務時間は午後五時までといわざるを得ず、したがって、原告の中学校訪問はその勤務時間内に終了しているものというべきである。そして、原告に命じられた中学校訪問は校長の職務命令であって勤務条件の決定とはみなされないから、本件措置要求③前段の要求を認めなかった本件判定には裁量権を逸脱した違法はない。

5  本件措置要求③の後段について

原告は、中学校訪問に際し生徒の成績を訪問した中学校に知らせることをやめるよう求めているが、この要求が原告自身の待遇に関する問題でないことは明らかであるから、これを取り上げることができないとした本件判定に違法はない。

6  本件措置要求④について

<書証番号略>、証人山北堯垤の証言、原告本人尋問の結果によれば、旭野高校では月曜日の午前八時三〇分から生徒朝礼が行われていたが、実際には五分前からの整列が励行されており、原告を含めた教員がその指導にあたっていたこと、平成元年一月九日から月曜日の教員の勤務開始時刻が午前八時三〇分から同八時二五分に変更されたことが認められる。

右認定事実によれば、本件判定をした当時、旭野高校では生徒朝礼をするについて原告を含めた教員が時間外勤務をすることがないように配慮されていたものであることが認められるから、本件措置要求④の要求を認めなかった本件判定には裁量権を逸脱した違法はない。

四次に、本件(二)判定の当否について判断する。

1  本件措置要求⑤について

原告は、旭野高校の勤務時間中の有料補習について、県教委が実状を調査し、やめさせるよう求めているが、これは校長の教育実践に対する批判及び金銭処理に対する疑問に基づくものであって、原告自身の待遇に関する要求ではないから、これを取り上げることができないとした本件判定に違法はない。

2  本件措置要求⑥について

原告は、県教委に対し、旭野高校の理科Ⅰの地学、物理部門カットをやめさせ、正常に理科Ⅰを教えられるよう求めているが、右要求は、校長が校務として行ったカリキュラム編成の結果、原告の担当すべき授業内容が限定されたことの変更を求めるもので、原告自らの勤務内容にかかわる面がないではないが、原告本人尋問の結果によれば、これも校長のカリキュラム編成のあり方に対する批判に基づくものであることが認められるから、これを取り上げることができないとした本件判定に違法はない。

3  本件措置要求⑦について

(一)<書証番号略>、証人山北堯垤の証言、原告本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。

(1) 旭野高校では年間数回の交通安全指導期間を設け、登・下校時に学校周辺において交通安全指導を実施している。その指導にあたっては、生徒指導係全員及び各学年のホームルーム担任のうちから必要な人数を割り当ててチームを編成するが、その割り当てにあたっては担当者の自発的意思を尊重したうえで計画を建てている。

(2) 登校時における指導は午前八時一五分から同八時三五分までの間に実施されており、校長は、指導に当たった教員に対しては勤務開始時刻及び勤務終了時刻をそれぞれ一五分ずつ繰り上げる旨を、昭和六三年四月一四日には近藤教頭を通じて、同年九月一六日には大津教頭を通じて、朝の職員連絡会で説明した。なお、下校時における指導は本来の勤務時間内に行われている。

(3) 原告は、昭和六三年四月二〇日、一旦は断ったものの生活指導係の教員の要請に応じて交通安全指導業務を行ったが、右以後はその業務に従事したことはなかった。

(二) 右認定事実によれば、旭野高校における交通安全指導業務は時間外勤務にならないよう配慮されており、また、その業務の割り当てにあたっては、原告が昭和六三年四月二〇日以降右業務をしていないことからみて、同日の業務が強制されたと断ずることはできず、したがって、本件措置要求⑦の要求を認めなかった本件判定に裁量権を逸脱した違法はない。

4  本件措置要求⑧について

保護者会の会場として理科実験準備室が使用されれば、時に理科教員にとって不自由な事態が生ずることが考えられ、理科教員である原告にとって理科実験準備室使用についての不自由さは、広い意味での勤務環境の問題といえないこともないが、右要求は基本的には校長の学校施設管理のあり方に対する批判に基づくものであって、原告自身の待遇の問題ではないといわざるを得ないから、右要求を取り上げることができないとした本件判定に違法はない。

5  本件措置要求⑨について

右要求は原告の労働負担に係わる面を有しなくはないが、その主眼は、旭野高校における理科授業の編成のあり方に対する批判に基づいて研究授業の強制を非難するものであって、原告自身の待遇の問題に還元することのできない問題であるから、右要求を取り上げることができないとした本件判定に違法はない。

6  本件措置要求⑩について

原告は、生徒に業者テストを正規授業中に受けさせることをやめることを求めているが、これは校長の教育実践に対する批判に基づくものであって原告自身の待遇に関する問題ではない。もっとも、原告は業者テストの試験監督を命じないことも求めているから、この限度において勤務条件に関する要求を含むかのようであるが、それは教育実践の面からの業者テストに対する強い批判の表現と解すべきものであって、試験監督に従事することによって勤務時間等の面に不都合が生ずることをいうものではないと認められるから、本件措置要求⑩は勤務条件に関するものということはできず、右要求を取り上げることができないとした本件判定に違法はない。

五以上によれば、本件(一)(二)判定はいずれも適法であり、原告の本訴請求はいずれも理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官清水信之 裁判官遠山和光 裁判官菱田泰信)

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