名古屋地方裁判所 平成21年(ワ)4345号 判決 2011年4月27日
主文
1 被告は,原告に対し,7万1931円及びうち7万円に対する平成20年12月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は,原告に対し,25万3675円及びこれに対する平成21年8月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
4 被告の請求を棄却する。
5 訴訟費用は,本訴及び反訴を通じ,3分の1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。
6 この判決は,第1項及び第2項に限り仮に執行することができる。ただし,被告が30万円の担保を供するときは,第1項及び第2項の仮執行を免れることができる。
事実及び理由
第1請求
1 本訴
(1) 被告は,原告に対し,10万5028円及びうち10万円に対する平成21年7月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被告は,原告に対し,125万3725円及びこれに対する平成21年8月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 反訴
原告は,被告に対し,16万0861円及びこれに対する平成21年10月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1 本件は,借家人の債務の保証委託契約に関して,借家人である原告が,保証会社である被告に対し,不当利得の返還(本訴請求1),不法行為に基づく損害賠償(本訴請求2)及び債務不履行に基づく損害賠償(本訴請求3)を求め,被告が,原告に対し,保証人の求償権に基づく債務の履行(反訴請求)を求めるなどした事案である。
2 前提事実(争いのない事実並びに証拠(甲1ないし3,6,11)及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)
(1) 原告は,昭和56年6月26日生の女性であり,平成17年3月18日生の子(A)がいる。
(2) 被告は,平成11年3月5日会社成立,資本金3億3200万円の賃貸住宅,店舗及びオフィス等の入居者の保証人受託業務等を目的とする株式会社であり,平成19年11月12日の変更より前には,信用保証,金銭債権買取,金融業,質屋業等を目的としていた。
(3) 原告は,株式会社Bから,平成19年11月7日,以下の約定等で,名古屋市(以下略)所在の△△○階○号室(以下「本件建物」という。)を賃借し(甲1。以下「本件賃貸借契約」という。),本件建物の引渡しを受けた。
① 期間 平成19年11月7日から平成21年11月6日まで
② 賃料及び共益費(以下「賃料等」という。)
1か月7万8000円(賃料7万円,共益費8000円)
支払期日 毎月末日限り翌月分を支払う。
③ 原告が賃料等の一部でも支払を遅延した場合,原告は遅延した金額とこれに支払日の翌日から支払をなした日まで年14%(1年を365日とした日割計算)の割合による遅延損害金を付してBに支払う。
(4) B,原告及び被告は,平成19年11月7日,以下の約定を含む「住み替えかんたんシステム」の契約(甲3。以下,この契約全体を「本件住み替えかんたん契約」という。)を締結して,原告は,被告に対し,本件賃貸借契約に基づく原告のBに対する債務の連帯保証を委託し(以下「本件保証委託契約」という。),被告は,Bに対し,同日,本件賃貸借契約に基づく原告のBに対する債務を連帯保証した(以下「本件連帯保証契約」という。)。
① 期間 平成19年11月7日から平成20年11月6日まで
② 初回保証委託料 4万0500円
③ 原告は,被告に対し,本件保証委託契約締結後1年経過ごとに,1万円の更新保証委託料(以下「経過更新料」という。)を支払う。
④ 原告が賃料の支払を1回でも滞納した場合,本件保証委託契約は,B及び原告の承諾の有無にかかわらず無催告で自動的に債務不履行解除された上で,自動的に同一条件で更新される(以下「解除更新特約」といい,この更新を「解除更新」という。)。
⑤ 解除更新の場合,原告は,被告に対し,その都度1万円の更新保証委託料(以下「解除更新料」という。)を支払う(以下「解除更新料特約」という。)。
⑥ 被告は,原告が2か月分以上賃料の支払を滞納したとき又は原告が2か月以上更新保証委託料の支払を滞納した場合は,B及び原告の意向にかかわらず,被告単独にて本件賃貸借契約を解除することができる(以下「単独解除特約」という。)。
⑦ B及び原告は,前記⑥の場合,被告がB及び原告の意向にかかわらず本件賃貸借契約についての契約解除権を行使することに異議を述べない。
⑧ 原告が本件賃貸借契約に基づき負担する債務の履行の全部又は一部を遅滞したため,被告がBから本件連帯保証契約に基づく債務(以下「本件連帯保証債務」という。)の履行を求められたときは,被告は原告に対して民法所定の事前の通知をすることなく,本件連帯保証債務の履行(代位弁済)をすることができる。
⑨ 被告が本件連帯保証債務の履行をしたときは,原告は,被告に対し,その弁済額,弁済に要した費用その他被告が負担した費用の全額を速やかに償還する。
⑩ 被告は,本件賃貸借契約が解除その他の事情によって消滅・終了したときは,Bに対し,被告の費用負担をもって速やかに原告を本件建物から退去させて建物を明け渡させるように努力する。
⑪ 原告は,被告に対し,被告が前記⑩等に基づき本件建物の明渡し手続をとるために必要な限度において,ドア施錠の解除及び取替並びに本件建物内への入室・家財道具等の動産類の搬出・保管を行うことを予め許諾する。
⑫ 契約期間満了1か月前までに,B又は被告からの書面による解約の申出がない場合には,本件住み替えかんたん契約は当然に1年間更新され,それ以降も同様とする。
(5) 原告は,Bないし仲介業者に対し,平成19年11月2日ころまでに,本件賃貸借契約について11月分の賃料5万6000円及び共益費6400円,家財保険料2万1000円,室内殺菌消毒・消臭セット代2万1000円,安心入居サポート代1万5750円,事務手数料3万1500円,本件保証委託契約の初回保証委託料4万0500円(Bないし仲介業者を通じて,被告に支払われたものと認められる。)の合計19万2150円を支払った。
(6) 原告は,Bに対し,平成21年6月ころ,本件建物を明け渡した。
(7) 原告は,名古屋市○区社会福祉事務所長から,平成21年5月20日,就労収入の喪失により,保護開始の決定を受け,同年6月1日,児童手当を認定された。
3 本訴請求1について
(1) 原告
原告は,被告に対し,以下のアないしウ(「原告主張ア」などという。以下同様。)のとおり主張して,10万5028円及びうち10万円に対する平成21年7月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による利息の支払を求めており,後記(2)エ及びオの被告の相殺の抗弁に対して,以下のエ及びオのとおり認否するなどして争っている。
ア 原告は,被告に対し,平成20年中に,以下のとおり解除更新料合計10万円を支払った。
① 1月22日 1万円
② 2月29日 1万円
③ 3月28日 1万円
④ 5月27日 1万円
⑤ 7月11日 1万円
⑥ 8月26日 1万円
⑦ 10月 6日 1万円
⑧ 10月30日 1万円
⑨ 12月 1日 1万円
⑩ 12月26日 1万円
イ 解除更新料は,実質的に委託を受けた連帯保証人(被告)に対する損害賠償の予定ないし違約金で,解除更新による平均的損害は存在しないから,その全部が平均的損害の額を超えるし,解除更新特約は,貸主(B)に対する賃料支払義務を,連帯保証人(被告)に対する義務にもするとともに,解除更新料特約は,上記のとおり連帯保証人(被告)に対する損害賠償の予定等を定めるもので,義務を加重しているし,解除更新特約は,賃借人(原告)の債務不履行により自動的に解除されるものとして,相当期間を定めた催告及び解除の意思表示を不要とし,賃借人の解除から免れる機会を喪失させて権利の制限をしており,当事者相互の信頼関係を基礎とする継続的契約についての信頼関係破壊の法理にも反しているし,さらに,被告は,原告に,初回保証委託料(4万0500円),経過更新料(1年ごとに1万円)及び求償の際の年14.6%の割合による遅延損害金を支払わせるのに加え,解除更新料(毎回1万円)を支払わせるなど,解除更新特約及び解除更新料特約は,消費者契約法9条1号及び10条に反するもので,公序良俗(民法90条)にも反しており,無効である。
ウ 被告は,前記アの解除更新料(合計10万円)を不当利得しており,本件住み替えかんたん契約締結の時点で,解除更新特約及び解除更新料特約が無効であることを認識していたから,悪意の受益者であって,利息を計算すると別紙更新保証委託料計算書記載のとおりとなる。
エ 後記(2)エは,否認ないし争う。
オ 後記(2)オは,争う。
(2) 被告
これに対し,被告は,以下のアないしウ(「被告主張ア」などという。以下同様。)のとおり認否するなどし,エ及びオのとおり相殺の抗弁を主張して争っている。
ア 原告主張アのうち,原告から被告に①ないし⑥,⑧及び⑩の合計8万円の支払があったこと,①ないし⑥及び⑩の合計7万円の支払が解除更新料の支払であったことは認めるが,その余は否認する。原告主張ア⑧の1万円の支払は経過更新料の支払であった。
イ 原告主張イのうち,被告が原告から,初回保証委託料(4万0500円),経過更新料(1年ごとに1万円),解除更新料(毎回1万円)及び求償の際に年14.6%の割合による遅延損害金の支払を受けたことは認めるが,その余は否認ないし争う。
遅延損害金の請求は,被告内部のシステム変更等による混乱により,原告との間では合意がないのに,誤って行われたものである。被告は,解除更新料特約を,賃料の滞納事故を繰り返す入居者に対して自らより安い賃料の物件への転居を促す目的で導入したが,システム上の問題なども相まって所期の目的とは異なる効果や問題が生じたため,平成20年12月以降廃止し,それまでの約1年間に受領した解除更新料は,順次返還又は相殺して処理している(前記アで認めた解除更新料(7万円)についても,後記オのとおり相殺する。)。
ウ 原告主張ウは,否認ないし争う。
エ 被告は,原告が支払を遅滞した本件賃貸借契約の平成21年4月分ないし6月分の賃料等について,各月とも28日に7万8000円ずつ(合計23万4000円)をBに支払い,各月とも振込手数料210円(合計630円)を要したので,原告に対し,合計23万4630円の求償金債権を有している。
オ 被告は,前記アで認めた7万円の解除更新料の返還債務と前記エの求償金債権とを対当額で相殺する。
4 本訴請求2について
(1) 原告
原告は,被告に対し,以下のとおり主張して,合計125万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成21年8月20日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている。
カ 被告は,原告に対し,原告の無知及び窮迫に乗じ,法律上の原因がないことを知りながら,解除更新料等の徴収に根拠があるかのように装い,また,被告が正当に原告に退去を求めることができるかのように装って,原告に解除更新料10万円等の理由のない支払をさせ,さらに,毎月の支払期日前後に,約5分間に10回以上の不在着信を残すなどの原告への執拗な請求や退去の勧告等を何度も行った。
キ 原告は,被告の前記カの行為により,被告の請求や退去の勧告等が正当なものだと誤信して,幼い子をかかえながら,罪の意識に苛まれ,経済的に苦しい中で,根拠のない部分を含め精一杯の支払をし,被告の攻撃的な電話による督促等に悩まされ,睡眠障害やうつ病に陥り,その結果,生活保護を受けざるを得なくなるなど,多大な精神的苦痛を被った。
ク 前記カ及びキの被告の原告に対する不法行為による慰謝料としては110万円が相当であり,弁護士費用としては15万円が相当である。
(2) 被告
これに対し,被告は,以下のとおり認否するなどして争っている。
カ 原告主張カは,被告が原告から被告主張アの限度で支払を受けたこと,被告が原告に求償金の請求をしたり,賃料が安い物件への転居を促したことは認めるが,執拗なものではなかったし,保証会社である被告としては,解除権の定めは必須なものであり,本件住み替えかんたん契約では,賃貸人から解除の意思表示がされ,信頼関係破壊の法理によりそれが有効と判断されるであろう場合にのみ限定して解除権を定めているもので,被告が,単独解除特約に基づき,本件賃貸借契約の解除を主張して退去を求めたのは,正当な権利行使である。
キ 原告主張キは,不知ないし否認する。
ク 原告主張クは,争う。
5 本訴請求3について
(1) 原告
原告は,被告に対し,以下のとおり主張して,合計3725円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成21年8月20日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている。
ケ 原告は,被告に対し,平成21年4月ころ,本件保証委託契約に関する原告から被告への入金履歴の開示を請求したところ,本件保証委託契約には開示手数料の規定はないのに,被告は,開示手数料2100円を支払わなければ開示しないとして開示を拒絶した。さらに,原告は,被告に対し,同年5月30日到達の内容証明郵便で入金履歴の開示を請求したが,被告が同様の理由で開示を拒絶したため,2150円(50円は過振込)を振り込んで開示を請求した。
コ 前記ケの被告の拒絶行為は,本件保証委託契約の受任者の義務に反するものであり,原告は,これにより,前記ケの内容証明郵便の代金1470円並びに振込金2150円及びその手数料105円(合計3725円)の損害を被った。
(2) 被告
これに対し,被告は,以下のとおり認否するなどして,争っている。
ケ 原告主張ケは,認める。
コ 原告主張コは,争う。
6 反訴請求について
(1) 被告
被告は,原告に対し,前記3(2)の被告主張エのとおり主張して,被告主張オで相殺後の残金16万0861円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である平成21年10月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている。
(2) 原告
これに対し,原告は,前記3(1)の原告主張エのとおり認否するなどして争っている。
第3当裁判所の判断
1 本訴請求1について
(1) 原告から被告に原告主張ア①ないし⑥,⑧及び⑩の合計8万円の支払があったことは,当事者間に争いがないが,原告主張ア⑦及び⑨の支払については,これを認めるに足りる証拠がない。
また,原告主張ア①ないし⑥及び⑩の合計7万円の支払が解除更新料の支払であったことは争いがないが,原告主張ア⑧の支払については,本件保証委託契約締結から約1年後の支払であり,その時期からすると経過更新料の支払であった可能性もあり,解除更新料の支払であったと認めるに足りる証拠はない。
(2) 前記前提事実のとおり,解除更新特約は,原告が賃料の支払を1回でも滞納した場合,本件保証委託契約が,B及び原告の承諾の有無にかかわらず無催告で自動的に債務不履行解除された上で,自動的に同一条件で更新されるというものである。
しかし,前記前提事実及び証拠(甲3)によれば,本件保証委託契約については,「お家賃の引き落としが間に合わなかった場合にオーナー様へお家賃をお立て替えするサービスです。」とされ,初回保証委託料が4万0500円とされ(前記前提事実のとおり,原告は被告にこれを支払っている。),契約締結後1年経過ごとに,1万円の経過更新料を支払うこととされているもので,継続的契約である本件賃貸借契約の借主(原告)の債務を保証するものである。それにもかかわらず,上記のように,原告が賃料の支払を1回滞納しただけで,B及び原告の承諾の有無にかかわらず無催告で自動的に債務不履行解除されるというのは,原告(委託者)が初回保証委託料4万0500円を支払って,被告(受託者)に対する債務を履行しているのに,被告が自ら受託した保証債務を履行する前に,自動的に債務不履行解除されることになるのであって,明らかに契約の趣旨に反するものであり(また,この時点において,被告との関係で「債務不履行」というのも虚偽の論理である。),その場合自動的に同一条件で更新されるとされてはいるが,原告はその都度1万円の解除更新料を支払わなければならないとされているものであるから,解除更新特約及び解除更新料特約は,消費者の権利を制限しかつ消費者の義務を加重するものであるし,信義誠実の原則(民法1条2項)に反して消費者の利益を一方的に害するものであって,消費者契約法10条により,無効というべきである。
(3) 被告は,賃貸住宅,店舗及びオフィス等の入居者の保証人受託業務等を目的とする株式会社であり,上記目的が目的とされた平成19年11月12日より前においても,信用保証,金銭債権買取,金融業,質屋業等を目的としていたのであるから,少なくとも本件住み替えかんたん契約締結の時点では,前記(2)のとおり,それ自体が明らかに本件保証委託契約の趣旨に反している解除更新特約及び解除更新料特約が消費者契約法10条により無効であることを知っていたものと推認され,これを覆すに足りる証拠はない。
それにもかかわらず,被告は,前記(1)のとおり,原告から解除更新料(合計7万円)の支払を受け,これを不当利得していたのであって,悪意の受益者と認められる。
(4) 被告は,原告に対して負担する解除更新料(合計7万円)の返還債務と,原告に対して有する求償金債権とを対当額で相殺するとして,原告が支払を遅滞した本件賃貸借契約の平成21年4月分ないし6月分の賃料等について,各月とも28日に7万8000円ずつ(合計23万4000円)をBに支払い,各月とも振込手数料210円(合計630円)を要したので,被告は,原告に対し,合計23万4630円の求償金債権を有している旨主張し,乙1号証及び2号証を提出する。
しかし,原告はこれを争っており,被告が原告に開示した「ご入金明細書」(甲5)並びにこれと同様のものとして被告が証拠として提出した乙1号証及び2号証は,いずれも相互に異なる部分があり,「預り金」(甲5),「余剰金」(乙1)などという名目で,不明瞭な処理を行っていたのであるし(乙2号証ではこれらの名目はなくなっているが,乙2号証は本件本訴の提起から1年以上経過した第5回弁論準備手続期日(平成22年10月25日)に提出されたものであり,それより前の処理が杜撰であったことを否定できるものではない。),このような状況にありながら,被告は,「集金代行におけるお家賃お振込み明細書」と題する管理会社に対し振り込んだ入居者ごとの金額が記載された振込情報の一覧表等は証拠として提出しないなどとしている(平成22年5月6日付け被告準備書面5)のであって,乙1号証及び2号証や甲5号証の記載は直ちに採用することができず,他に被告の上記主張を認めるに足りる証拠はない。
(5) 以上によれば,別紙(添付省略)判決計算書記載のとおりの利息計算となり,原告の本訴請求1は,7万1931円及びうち不当利得金7万円に対する平成20年12月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による利息の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。
2 本訴請求2について
(1) 前記前提事実及び前記1の認定事実等に証拠(甲5,14ないし16,乙1,2。ただし,原告の陳述書(甲16)については,以下の認定に反する部分を除く。)及び弁論の全趣旨を総合すると,被告は,消費者契約法10条により無効であることを知りながら,原告に,解除更新特約及び解除更新料特約を含んだ本件住み替えかんたん契約を締結させて,解除更新料合計7万円を支払わせ,これに加えて,原告に,年14.6%の割合による遅延損害金を支払わせて自らこれを取得し,さらには,前記1(4)のような不明瞭な処理を行い,Bへの家賃等の振込手数料210円のほかに,「振込手数料」として840円,「その他・別途振込手数料」として3496円(甲15)などと,根拠の明らかでない金銭も含め原告に過分な支払をさせていたこと,原告が何回か支払を遅滞した後は,原告とBとの間の信頼関係が破壊されたと認められる状況には至っていないにもかかわらず,本件建物から出て行くように働きかけていたこと,被告は,資本金3億3200万円の賃貸住宅,店舗及びオフィス等の入居者の保証人受託業務等を目的とする株式会社で,本件住み替えかんたん契約の契約書(甲3)や「ご入金明細書」(甲5)は被告の上記業務についての一連のシステムの中で作成されたものであり,このような不当な請求や退去の勧告を組織的に行っていたことが認められ,社会通念上許容される限度を超えたもので,不法行為に該当するものというべきである。
また,上記証拠等によれば,これらの被告の行為によって,原告は,被告の請求する金額(ただし,上記のとおり,過大ないし根拠の不明確なものを含む。)を支払えないことや,本件建物からの退去の勧告に,精神的に圧力を感じ,心身の不調をきたすなど,少なからぬ精神的苦痛を被ったことが認められる。
しかし,原告は,原告本人尋問の申出をしておきながら,その後,心身の状況による可能性はあるものの,原告訴訟代理人らからも連絡が取れない状態にして放置しているのであって,原告の陳述書(甲16)に記載があるからといって,反対尋問を経ないまま直ちにこれを採用することはできないのであり,その余の原告主張カ及びキの事実については,これを認めるに足りる証拠はない。
(2) 以上によれば,被告の前記(1)の不法行為により,原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料としては,20万円が相当であり,弁護士費用としては,5万円が相当である。
そうすると,原告の本訴請求2は,被告に対し,25万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成21年8月20日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。
3 本訴請求3について
(1) 原告が,被告に対し,平成21年4月ころ,本件保証委託契約に関する原告から被告への入金履歴の開示を請求したこと,本件保証委託契約には開示手数料の規定がないこと,被告は,原告の上記開示請求に対し,開示手数料2100円を支払わなければ開示しないとして拒絶したこと,原告は,被告に対し,同年5月30日到達の内容証明郵便で入金履歴の開示を請求したこと,被告は,上記内容証明郵便による開示請求に対しても,上記と同様の理由で開示を拒絶したこと,その後,原告は,被告に対し,2150円(ただし,50円は過振込)を振り込んで開示を請求したことは当事者間に争いがない。
(2) 被告は,本件保証委託契約の受任者として,委任者である原告から請求があるときは,委任事務の処理の状況を報告する義務があり(民法645条),本件保証委託契約は有償で,原告は初回保証委託料4万0500円を被告に支払っており,種々の詳細な規定をおいている中で,開示に関する手数料については規定していないのであるから,原告の請求が濫用にわたるような特段の事情がある場合を除き,被告は,原告の請求に対し,手数料なしに入金履歴等の開示をする義務があるというべきである。
(3) ところが,被告は,前記(1)のとおり,手数料2100円を要求して原告の請求を拒み,しかも,原告が手数料を振り込んだ後,「ご入金明細書」(甲5)によりこれを開示したものの,前記1(4)のとおり,後に内容を乙1号証,乙2号証と順次変更しているように,その正確性に疑問のある履歴しか開示しなかったのであって,これは,被告の債務不履行であり,そのため,原告は,支出せざるを得なかった内容証明郵便の代金1470円並びに振込金2150円のうち被告が開示手数料として要求した2100円及びその振込手数料105円(合計3675円)の損害を被ったことが認められる。しかし,原告が誤って振り込んだ50円については,不当利得となり得る可能性はあるものの,被告の上記債務不履行と相当因果関係のある損害とは認められない。
(4) 以上によれば,原告の本訴請求3は,被告に対し,3675円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成21年8月20日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。
4 反訴請求について
被告は,原告が支払を遅滞した本件賃貸借契約の平成21年4月分ないし6月分の賃料等について,原告に対し,合計23万4630円の求償金債権を有している旨主張して,その一部である16万0861円及びこれに対する遅延損害金の支払を請求しているが,前記1(4)のとおり,上記被告の主張を認めるに足りる証拠はなく,被告の反訴請求は理由がない。
5 よって,原告の本訴請求は,被告に対し,本訴請求1につき,7万1931円及びうち7万円に対する平成20年12月27日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払,本訴請求2及び3につき,合計25万3675円及びこれに対する平成21年8月20日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があり,その余はいずれも理由がなく,被告の反訴請求は理由がなく,主文のとおり判決する。
(裁判官 長谷川恭弘)