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名古屋地方裁判所 平成21年(ワ)45号 判決 2009年12月02日

原告

X1 他3名

被告

主文

一  被告は、原告X1に対し、一七六三万〇四九八円及びこれに対する平成一七年七月一七日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告X2に対し、一七六四万六〇八八円及びこれに対する平成一七年七月一七日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は、原告X3に対し、五〇万円及びこれに対する平成一七年七月一七日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告は、原告X4に対し、五〇万円及びこれに対する平成一七年七月一七日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

五  原告らのその余の請求を棄却する。

六  訴訟費用は、これを三分し、その二を原告らの、その余を被告の各負担とする。

七  この判決は、原告ら勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告X1(以下「X1」という。)に対し、四九九九万四〇一九円及びこれに対する平成一七年七月一七日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告X2(以下「X2」という。)に対し、四七五一万四四四七円及びこれに対する平成一七年七月一七日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は、原告X3(以下「X3」という。)に対し、五〇〇万円及びこれに対する平成一七年七月一七日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告は、原告X4(以下「X4」という。)に対し、五〇〇万円及びこれに対する平成一七年七月一七日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

五  訴訟費用は被告の負担とする。

六  仮執行宣言

第二事案の概要

本件は、後記交通事故(本件事故)により死亡したA(以下「A」という。)の両親、姉妹である原告らが、被告に対して、民法七〇九条に基づき損害賠償請求をなした事案である。

一  当事者間に争いのない事実等(証拠を挙げていない事実は争いがない。)

(1)  本件事故の発生

ア 日時 平成一七年七月一七日午前七時五分ころ

イ 場所 名古屋市名東区丁田町八七番地先路線上(三〇二号)

ウ 被告車 被告運転の普通乗用自動車

エ B車 B(以下「B」という。)運転の普通乗用自動車

オ 態様 被告は前方の信号が赤信号であることを見落とし、交差点に進入したことから、当該自動車の右方向から走行してきたB車と衝突した。その衝撃によりB車が横断歩道付近の歩道にはじき飛ばされ、同歩道にいたAが多発外傷によって死亡した。

(2)  本件事故は被告の過失により生じた事故であり、被告は、民法七〇九条に基づきA及び原告らに生じた損害を賠償する義務がある。

(3)  Aの相続人は両親である原告X1、原告X2であり、同原告らは二分の一ずつを相続した。また、原告X3及び原告X4はAの姉妹である。

(4)  既払い

自賠責保険から三〇〇七万二七五〇円が支払われている(甲二九)。

二  争点は損害額である(特に逸失利益の基礎収入、葬儀費用、休業損害及び治療費の因果関係、各慰謝料額)。

第三当裁判所の判断

一  争点(損害額)について

(1)  A

ア 治療費(請求・認容額六万〇七五〇円)

Aが治療を受け、治療費六万〇七五〇円が支出されたことは当事者間に争いがない。

イ 逸失利益(請求四六四三万五九七八円) 三六三五万〇八九六円

Aは、本件事故当時一二歳の女児であり、本件事故当時の平成一七年産業計・企業規模計・全労働者平均賃金の四八七万四八〇〇円を基礎として、生活費控除は四五パーセントとするのが相当である。そうすると、逸失利益は以下の計算式により、三六三五万〇八九六円となる。

487万4800円×(1-0.45)×13.558

(原告らの請求 489万3200円<平成18年産業計男女計賃金センサス>×<1-0.3>×<18.633-5.076>)

ウ 死亡慰謝料(請求二五〇〇万円) 二二〇〇万円

(ア) 証拠(甲二ないし五、三〇、三二ないし四〇、乙一、二、四ないし一一、原告X1、原告X2)によれば、以下の事実が認められる。

Aは、本件事故当時一二歳であった。

被告は前方の信号が赤信号であることを見落とし、交差点に進入したことから、当該自動車の右方向から走行してきたB車と衝突した。その衝撃によりB車が横断歩道付近の歩道にはじき飛ばされ、同歩道で信号待ちをしていたA及びCに衝突し、Aが多発外傷によって死亡した。本件事故後、被告はAを介抱することはなかった。なお、甲三六のメールには、携帯電話をかけている女性らしき姿とあるが、この女性が被告か否かは明確ではない。

Aの仮通夜等に、被告は父親と共に出席していた。

原告X1が、平成一七年一一月、被告の方が赤信号でなかったか尋ねたが、被告の方は青信号と主張していた。

被告は、平成一七年一二月一七日、原告ら方に、自分が赤信号で本件交差点に進入したことを認める電話をした。

被告は、本件事故による刑事事件で執行猶予の判決を得ている。

被告は、原告らに手紙を出したり、現場に花を供えたりしているが、原告らは、被告から直接謝罪を受けたとは思っていない。

本件事故後、被告と一緒にすぎやま病院へ行ったBは、被告が警察官に対し、常用している薬があると言ったことを聞いた(甲三九、四〇)が、被告はこれを否定している。また、被告は本件事故当時休職中であったが、拒食症である点も被告はこれを否定している。原告らは本件事故の原因として薬の影響を疑っているが、刑事事件でも問題となっておらず、可能性としては小さいものと考えられる。

(イ) 以上のとおりであり、本件事故は、Aには何らの落ち度はなく、被告の一方的な過失による事故であり、原告らは、被告から直接謝罪を受けたとは思っておらず、被告は後に自分が赤信号であることを認めたものの、当初青信号を主張し、原告らを混乱させ、また、Bにも苦痛を与えたこと、その他、原告らに固有の慰謝料請求を認めること及び本件で現れた諸事情を考慮すると、Aの精神的慰謝料額として二二〇〇万円と認める。

エ 葬儀費用(請求四一九万二四一〇円)、仏壇仏具代金(請求一五万円) 一五〇万円

葬儀費用等として合計四一九万二四一〇円を要したこと(甲七ないし一四)、仏壇仏具を一五万円で購入したこと(甲一八)が認められ、一五〇万円の限度で相当因果関係を認める。

オ 診断書取得費用(請求・認容額二万一〇〇〇円)

証拠(甲一五、一六)によれば、名古屋第二赤十字病院で、文書料として、平成一七年九月三〇日五二五〇円、同年一〇月三日一万五七五〇円、合計二万一〇〇〇円を要したこと及びその必要性が認められる。

カ 交通費(請求一五〇〇円) 一一〇〇円

証拠(甲一七の一・二)によれば、遺体の搬送に、霊柩車の交通費として一一〇〇円を要したことが認められる。

キ 以上合計

五九九三万三七四六円

ク 既払い

自賠責保険からの三〇〇七万二七五〇円を控除すると、二九八六万〇九九六円となる。

ケ 弁護士費用(請求七五八万六一六三円) 〇円

原告らは、Aの損害分につき弁護士費用を請求しているが、原告X1、原告X2はAの損害額を相続しており、各原告の損害額との合計の損害額につき弁護士費用を算定することとする。

(2)  原告X1

ア 休業損害(請求二五〇万円) 〇円

原告X1、原告X2は、本件事故当時、有限会社aとして、インド風料理○○という屋号で営業していたところ、原告X2が心労から倒れ、一か月半営業ができなかったことが認められるが(甲一九の一ないし三、三二、原告X1)、損害を受けるのは前記有限会社であり、原告X1ではなく、また、他に従業員を雇って営業をすることは可能であり、したがって、休業損害があったとしても、本件事故との間に相当因果関係を認めることは難しく、他にこれを認めるに足る証拠はない。

イ 治療費(請求一万八二九〇円) 〇円

原告X1は、平成一七年七月から九月まで、b接骨院で腰痛の治療を受けているものの(甲二〇の一ないし三、原告X1)、本件事故と治療との間に相当因果関係を認めることは難しく、他にこれを認めるに足る証拠はない。

ウ 慰謝料(請求五〇〇万円) 一五〇万円

原告X1は、Aの父であって、本件事故により三姉妹の二番目の娘を突然失ったものであり、被告の刑事事件で意見陳述をなしていること(原告X1)、本件事故の態様、被告の態度、その他本件に現れた諸事情を総合すれば、慰謝料額は一五〇万円と認める。

エ 相続分

Aの損害額二九八六万〇九九六円の二分の一の一四九三万〇四九八円を相続した。

オ 以上合計

一六四三万〇四九八円

カ 弁護士費用(請求七五万一八二九円) 一二〇万円

本件訴訟の経緯等に照らし、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は一二〇万円と認める。

キ 以上合計

一七六三万〇四九八円

(3)  原告X2

ア 治療費(請求二六万四一三四円) 一万五五九〇円

原告X2は、本件事故後、心療内科の一社メンタルクリニック、藤ヶ丘メンタルクリニック、渡辺クリニック、平松クリニックを受診し、また、視力低下により愛知医科大学病院で診察を受け、ぎっくり腰でb接骨院で整体を受け、治療費として、合計二六万四一三四円を要しているところ(甲二一の一・二、二二ないし二五、二六の一ないし二四、二七の一・二、原告X2)、心療内科については、本件事故との間に相当因果関係が認められるが、視力低下及び整体の治療については相当因果関係を認めることは難しく、他にこれを認めるに足る証拠はない。原告X2の供述中に、医師からAの死亡が原因している可能性が大きいと言われた部分があるが、それから直ちに相当因果関係を認めることは難しい。

イ 慰謝料(請求五〇〇万円) 一五〇万円

原告X2は、Aの母であって、本件事故により三姉妹の二番目の娘を突然失ったものであり、その心労により心療内科を受診するようになっており、被告の刑事事件で意見陳述をなしていること(原告X2)、本件事故の態様、被告の態度、その他本件に現れた諸事情を総合すると、精神的慰謝料額は一五〇万円と認める。

ウ 相続分

Aの損害額二九八六万〇九九六円の二分の一の一四九三万〇四九八円を相続した。

エ 以上合計

一六四四万六〇八八円

オ 弁護士費用(請求五二万六四一三円) 一二〇万円

本件訴訟の経緯等に照らし、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は一二〇万円と認める。

カ 以上合計

一七六四万六〇八八円

(4)  原告X3

慰謝料(請求五〇〇万円) 五〇万円

原告X3は、Aの姉であり、その死亡によって精神的苦痛を受けたものであり(甲三四)、固有の慰謝料請求を認めるのが相当であり、本件事故の態様、被告の態度、その他本件に現れた諸事情を総合すれば、慰謝料額は五〇万円と認める。

(5)  原告X4

慰謝料(請求五〇〇万円) 五〇万円

原告X4は、Aの一歳下の妹(平成六年○月生)であり、本件事故時一一歳であったとはいえ、その死亡によって精神的苦痛を受けたものであり(甲三五、原告X4)、固有の慰謝料請求を認めるのが相当であり、本件事故の態様、被告の態度、その他本件に現れた諸事情を総合すれば、慰謝料額は五〇万円と認める。

二  結論

よって、原告らの本件請求は、主文の限度で理由がある。

(裁判官 德永幸藏)

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