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名古屋地方裁判所 平成21年(ワ)4873号 判決 2010年6月10日

原告

X1 他1名

被告

主文

一  被告は、原告X1に対し、三一五二万四〇八七円及びこれに対する平成二〇年四月二一日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告X2に対し、二九三一万六七〇七円及びこれに対する平成二〇年四月二一日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを五分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

五  この判決は、一項及び二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告X1に対し、四一〇六万八四九四円及びこれに対する平成二〇年四月二一日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告X2に対し、三六八三万一六九九円及びこれに対する平成二〇年四月二一日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  仮執行宣言

第二事案の概要等

本件は、原告らの長男が横断歩道上を横断中、被告が運転し保有する自動車に衝突され死亡した事故につき、原告らが被告に対し、自動車損害賠償保障法三条ないし民法七〇九条に基づき損害賠償を請求している事案である。

一  争いのない事実及び容易に認定できる事実

(1)  本件交通事故の発生(甲二ないし七、二一ないし二四)

被告は、平成二〇年四月二一日午後二時五〇分ころ、自己が所有する自家用普通乗用自動車(〔ナンバー省略〕)(以下「被告車」という。)を運転し、愛知県豊田市矢並町法沢七一四番地先道路(県道則定豊田線)を時速約四〇キロメートルで直進するにあたり、横断歩道上を横断中のA(平成一二年○月○日生、当時七歳、以下「被害者」という。)及びその友人であるB(当時七歳)に、その前方約一一・五メートル地点まで気付かず、被告車前部に被害者及びBを衝突させ、被害者については、被告車の車底部で引きずり、同日、外傷性ショックにより、被害者を死亡させた。

(2)  原告X1(昭和四七年○月○日生、以下「原告X1」という。)は被害者の父、原告X2(昭和四九年○月○日生、以下「原告X2」という。)は被害者の母であり(甲一)、原告らは、被害者の損害賠償請求権を各二分の一の割合で相続した。

(3)  被告は、前方を注視せず、横断歩道中の歩行者に留意しなかった過失があり、かつ、被告車の運行供用者である。他方、被害者には特段の不注意はなかった。

二  損害及びその額

(1)  治療費 原告X1につき七三八〇円

原告X1において、上記支出をしたことに争いはない(甲八)。

(2)  葬儀費用、墓地使用料、墓石建立費等 原告X1につき合計二一〇万円(原告X1請求:合計四〇二万九四一五円)

証拠(甲九ないし一四、二七、二八)によれば、原告X1は、本件事故の後、被害者の葬儀費用として二〇八万一四一五円、墓園使用料として一六万円、墓石建立費として一三九万円、仏壇・仏具等購入費として三九万八〇〇〇円の合計四〇二万九四一五円を負担したことが認められる。

被告は、このうち一五〇万円が通常、葬儀関係費用として認められており、これを超える出捐は本件事故と相当因果関係がない旨主張しているところ、被害者の年齢などのほか、葬儀の参列者数、原告ら夫婦の年齢や家族構成等の諸事情に鑑みれば、上記費用のうち、本件事故と相当因果関係のある損害としては、二一〇万円とみるのが相当である。

(3)  逸失利益 二九二三万三四一四円(原告ら請求:二九四六万三三九八円)

被害者の逸失利益について、本件事故当時の現価を求めるには、死亡時(七歳)である平成二〇年賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・男子労働者・学歴計・全年齢平均賃金である年額五五〇万三九〇〇円をもって、被害者が得られた蓋然性のある基礎収入額とし、就労可能期間である一八歳から六七歳までについて、生活費控除割合を五〇パーセントとし、ライプニッツ方式(六七歳まで六〇年間に対応するライプニッツ係数一八・九二九二から一八歳まで一一年間に対応する同係数八・三〇六四を控除した同係数一〇・六二二八)により中間利息を控除するのが相当である。

なお、上記平均賃金について、被告は、日本の財政赤字や高齢化の状況からすれば将来的に賃金が低下していくことは疑いの余地がないとして、口頭弁論終結時において利用可能な最新の統計である平成二一年度のものを基準とすべきである旨主張しているが、現時点において、将来顕著に労働賃金が下落する蓋然性が高いとまで認めるには足りない。他方、原告は、本件事故の前年度である平成一九年度のものを基準とすべきである旨主張しているが、死亡による逸失利益は、死亡の時点で具体化するものであるところ、これより前の時点を基準とすべき特段の事情は窺われない。

したがって、被害者の死亡による逸失利益は、二九二三万三四一四円である。

(算式)

550万3900円×(1-0.5)×10.6228

(4)  慰謝料 被害者につき一八〇〇万円、原告ら固有につき各四〇〇万円(原告ら請求:被害者につき二八〇〇万円、原告ら固有につき各六〇〇万円)

ア 前記一で認定した事実、証拠(甲二〇、二九ないし三二、原告X1本人、原告X2本人)及び弁論の全趣旨によれば、被害者は、公園内を縦断する県道に設置された横断歩道上を、同級生とともに渡っていたに過ぎないのに、被告車に衝突され、幼くして尊い命を失ったこと、被告は、見通しのよい同道路を直進するにあたり、容易に本件事故を回避できたにもかかわらず、衝突直前まで、被害者に全く気付かなかったものであって、その前方不注視の程度は極めて重いこと、被害者は、被告車が停止するまで約三〇メートル、車底部で引きずられるなどしたこと等が認められる。そのような本件の事故態様に加えて、被害者の年齢、生活状況など、本件の諸事情を総合考慮すれば、被害者の死亡慰謝料は一八〇〇万円とするのが相当である。

イ 前記一で認定した事実、上記アに掲げた証拠及び弁論の全趣旨によれば、原告X2は、本件事故直後から次第に衰弱していく様子の被害者を見守らざるを得なかったことを含め、本件事故により多大な精神的苦痛を受け、事故後精神的に不安定な状態が続いたこと、原告X1は、病院で被害者が胸を開かれ、心臓を直接医師の手でマッサージされている様子を目の当たりにしたことを含め、本件事故により多大な精神的苦痛を被ったこと、その後、原告らの受けた深い悲しみや憤りは癒えることなく、却って、刑事裁判での被告側の態度等をめぐって、その被害感情はより一層深まっていることなどが認められる。かかる事情や原告らの家族関係、上記アの状況など、一切の事情を総合考慮すると、原告らの固有慰謝料としては、原告それぞれにつき四〇〇万円とするのが相当である。

(5)  弁護士費用 原告X1につき一八〇万円、原告X2につき一七〇万円(原告ら請求:各二二〇万円)

本件事案の内容、本件訴訟の審理経過、認容額など、諸般の事情を考慮すれば、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当額は、上記金額と認めるのが相当である。

(6)  以上によれば、原告らは、それぞれ上記(3)の逸失利益の半額である一四六一万六七〇七円及び(4)のうち被害者の慰謝料の半額である九〇〇万円を相続するとともに、原告X1は、上記(1)の治療費、(2)の葬儀費用等、(4)のうち固有の慰謝料及び(5)の弁護士費用の損害賠償請求権を有し、原告X2は、上記(4)のうち固有の慰謝料及び(5)の弁護士費用の損害賠償請求権を有し、その合計は、原告X1につき三一五二万四〇八七円、原告X2につき二九三一万六七〇七円である。

三  したがって、原告らの被告に対する請求は、それぞれ上記合計額及びこれらに対する本件事故発生日である平成二〇年四月二一日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を求める限度でいずれも理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却する。

(裁判官 佐藤克則)

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